JP3611656B2 - イオン導電性高分子固体電解質、組成物及び製造方法 - Google Patents

イオン導電性高分子固体電解質、組成物及び製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は特に二次電池、コンデンサー等の電気化学用材料として利用できるイオン導電性高分子固体電解質に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来は二次電池、コンデンサーの電解質は主として水、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフランなどの液体物質が用いられてきた。
【0003】
しかし液体の電解質は液漏れの発生が起こり易く長期の安定性を確保するためには容器の気密性を上げる必要がある。
【0004】
このため液体の電解質を使用した電気、電子素子はその重量が重く、また製造工程が煩雑であるという欠点を有する。
【0005】
一方イオン導電性固体からなる電解質は液漏れの心配がほとんど無く、製造の簡略化、製品の軽量化が達成し易い利点があり、活発に研究されている。
【0006】
イオン導電性固体電解質としては無機系材料と有機系材料とに分けられるが、その重量、成形性、柔軟性の点で有機系イオン導電性固体電解質の方が無機系イオン導電性固体電解質に比べて優れている。
【0007】
有機系イオン導電性固体電解質は、一般にマトリクス高分子と、低分子のイオン導電性金属塩から構成される。
【0008】
特にマトリクス高分子は電解質を固体化する役目とイオン導電性金属塩を溶解する溶媒の役目の両方を担うことから有機系イオン導電性固体電解質に於て最も重要な要素である。
【0009】
1978年にフランス・グルノーブル大学のアルモンドらがポリエチレンオキシドに過塩素酸リチウムが溶解する事を見いだし、この系が10−7S/cmのイオン導電性を有する事を報告して以来、その類縁ポリマーを中心にポリプロピレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリウレタン、ポリエステルなど多岐にわたる高分子物質について類似の研究が行われた。
【0010】
有機系高分子の優れたフィルム成形性や柔軟性、電池として用いた場合の高エネルギー特性などの長所を活かして固体二次電池用の電解質としての応用が進んでいる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
最もよく研究されているポリエチレンオキシドはイオン導電性金属塩を溶解する能力が高いポリマーであるが、半結晶性ポリマーであり、多量の金属塩を溶解させると金属塩が高分子鎖間に擬架橋構造を形成し、ポリマーはさらに結晶化し、そのため導電性は予期した値よりかなり低いものとなる。
【0012】
ポリエチレンオキシドの様な直鎖ポリエーテル系高分子マトリクス中に溶解したイオン導電体は高分子マトリクスのガラス転移温度以上のアモルファス(無定形)領域中を高分子鎖の局所的なセグメント運動に伴って移動する。
【0013】
イオン導電性を担うカチオンは高分子鎖によって強く配位を受け、その移動性は高分子の局所運動の影響を強く受ける。
【0014】
したがってイオン導電性高分子固体電解質のマトリクス高分子として直鎖状高分子を選択することはイオン導電体の移動性の面から得策ではない。
【0015】
今までの報告でもポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンイミンなどの直鎖状高分子のみからなるイオン導電性高分子固体電解質ではその導電性は室温で10−7S/cmか、高くともせいぜい10−6S/cm程度である。
【0016】
一方、室温下で高いイオン導電性を確保するためにはマトリクス高分子内にイオン導電体が移動し易いアモルファス領域を多く存在させることも重要であり、またポリマーのガラス転移温度を低くするような分子設計を行わねばならない。
【0017】
この方法としてポリエチレンオキシドに分枝構造を導入する試みが行われ、高い導電性(室温で約10−4S/cm)を有するポリエチレンオキシド誘導体のイオン導電性高分子固体電解質が合成された(緒方 直哉ら、繊維学会誌 P52―57 1990年)。しかしポリマーの合成方法が煩雑で有るため製品化されていない。
【0018】
また、マトリクス高分子に三次元網目構造をとらせ、結晶構造を阻害させることでイオン導電性を確保する方法も報告されている。
【0019】
この方法の例としてグリセリンのポリオキシアルキレン誘導体をポリイソシアネート化合物で架橋硬化させたイオン導電性高分子固体電解質がある(特開平4―112460,5―36483など)。
【0020】
しかしこの方法では、
○イソシアネートが水分と反応し易くイソシアネートの保存上の管理、反応活
性の管理が困難。
○グリセリンのポリオキシアルキレン誘導体とポリイソシアネート化合物のウレタン化架橋反応がイオン導電性金属塩や補助溶媒成分の影響を受け、著しく反応性が低下したり、あるいは反応が加速されたりする。そのため高分子のマトリクスを先に合成してからイオン導電性金属塩を適当な溶媒と共に含浸させる方法(含浸法)を取る場合が多く、工業的生産性に劣る。
○汎用の芳香族イソシアネートは電気化学的劣化を受け易い。脂肪族イソシアネートは反応性が低い。
○フィルム状に成形する場合、長時間の加熱反応が必要である。
などの課題が未解決のままである。
【0021】
三次元網目構造のポリマーを高分子マトリクスとして用いる別の例として、ポリオキシアルキレン成分を含有するアクリル系モノマーあるいはメタクリル系モノマーを重合させる方法が出願されている(特開平5―25353)が、イオン導電性金属塩のモノマーへの溶解性が低いために、炭酸ビニレン等の第三成分を添加しなければならない点や、得られたポリマーの物理強度が低い等の問題点がある。
【0022】
本発明は、高いイオン導電性を有し、且つ成膜性に優れ、強靭な膜強度を有し、工業的製造時の取り扱い特性の優れたイオン導電性高分子固体電解質を提供することを目的とする。
【0023】
本発明は、(1)ヒドロキシアルキル多糖類もしくはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部と、ポリオキシアルキレン成分を含有するジ(メタ)アクリレート化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノ(メタ)アクリレート化合物10〜500重量部と、イオン導電性金属塩5〜1000重量部とからなり、ジ(メタ)アクリレート化合物/モノ(メタ)アクリレート化合物の重量比が1〜0.2である高分子固体電解質用組成物、(2)ヒドロキシアルキル多糖類もしくはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部と、(化1)で示されるジエステル化合物と(化2)で示されるモノエステル化合物10〜500重量部と、イオン導電性金属塩5〜1000重量部とからなり、前記ジエステル化合物/モノエステル化合物の重量比が1〜0.2である高分子固体電解質用組成物、
【化3】
Figure 0003611656
(化1)(ただしR1,R2,R3はHか炭素数1〜6のアルキル基を示し、X≧1且つY≧0の条件を満足するものか、又はX≧0且つY≧1の条件を満足するもの。)
【化4】
Figure 0003611656
(化2)(ただし、R4,R5,R6はHか炭素数1〜6のアルキル基を示し、A≧1且つB≧0の条件を満足するものか、又はA≧0且つB≧1の条件を満足するもの。)
(3)(1)または(2)に記載のヒドロキシアルキル多糖類誘導体がヒドロキシアルキル多糖類中の水酸基の1部または全てがエステル結合あるいはエーテル結合を介し、置換基を導入したヒドロキシアルキル多糖類誘導体である高分子固体電解質用組成物、(4)イオン導電性金属塩を溶解することが出来る溶媒をさらに含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の高分子固体電解質用組成物、(5)(1)または(2)に記載の高分子固体電解質用組成物に紫外線、電子線、エックス線、ガンマ線、マイクロ波、高周波などを照射することによって、あるいは加熱することによって、ポリオキシアルキレン成分を含有するジ(メタ)アクリレート化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノ(メタ)アクリレート化合物を重合させ、または(化1)で示されるジエステル化合物と(化2)で示されるモノエステル化合物を重合させ、生成した高分子鎖がヒドロキシアルキル多糖類、あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体の分子鎖と相互に絡み合った3次元架橋ネットワーク構造を形成させることを特徴とする高分子固体電解質の製造方法、(6)(5)記載の製造方法によって得られた高分子固体電解質、である。
【0024】
本発明のイオン導電性高分子固体電解質はイオン導電性金属塩を含有するヒドロキシアルキル多糖類、あるいはそのヒドロキシアルキル多糖類誘導体をポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物で三次元網目化することにより合成される。
【0025】
特にポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリメトキシオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物が重合反応して三次元網目構造を形成する際、ヒドロキシアルキル多糖類、あるいはそのヒドロキシアルキル多糖類誘導体の分子鎖と半相互侵入高分子網目(semi―interpenetrating polymer network; semi―IPN)構造を形成する。semi―IPN構造の概念図を図1、2に示す。semi―IPN構造を形成させることは異種高分子を単に混合する場合と異なり、異種高分子鎖間の相溶性の向上や相間結合力の増大等の利点がある。
【0026】
IPN構造を形成させ、膜強度を向上させる試みは古くから行われている。また、最近では長岡技術科学大学の西尾らがセルロース系IPNの総説を報告している(高分子、43,549(1994))。
【0027】
しかし、本発明で示したセルロース系IPNの組成は今までに報告されていないし、セルロース系IPNを電池の分野に応用した例は無い。
【0028】
本発明のヒドロキシアルキル多糖類、あるいはそのヒドロキシアルキル多糖類誘導体の場合においてもsemi―IPN構造を形成させることによりその膜特性が飛躍的に向上する事を発明者らは見いだした。
【0029】
また、発明者らは高分子とイオン導電性金属塩の相互作用の良い組合せを見つける為の研究途上でヒドロキシアルキル多糖類ならびにヒドロキシアルキル多糖類誘導体がイオン導電性金属塩を良好に溶解し、イオン導電性高分子固体電解質として用いるポリマーに必要な条件をすべて満足し、高い導電性を示す材料であることを見いだした。
【0030】
さらにヒドロキシアルキル多糖類ならびにヒドロキシアルキル多糖類誘導体においては、イオン導電性金属塩は主として側鎖に溶解していると考えられる。
【0031】
即ち、導電性を担う金属塩は多糖類主鎖の局所運動の制限を何等受ける事なく移動し得るために、ポリエチレンオキシド等の直鎖状高分子マトリクスの場合に比べ、一桁以上高い導電性を示す事を見いだした。それは実施例1と比較例3を比べれば明らかである。
【0032】
このヒドロキシアルキル多糖類とはセルロース、デンプンなどの天然に産出される多糖類にエチレンオキシドを反応させることによって得られるヒドロキシエチル多糖類、プロピレンオキシドを反応させることによって得られるヒドロキシプロピル多糖類、グリシドールあるいは3―クロロ―1、2―プロパンジオールを反応させることによって得られるジヒドロキシプロピル多糖類の3種のヒドロキシアルキル多糖類をさす。
【0033】
さらにヒドロキシアルキル多糖類誘導体とはこのヒドロキシアルキル多糖類分子中の水酸基の一部あるいは全てがエステル結合、あるいはエーテル結合を介した置換基で封鎖された多糖類誘導体のことをさす。
【0034】
用いることの出来る多糖類はセルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、マンナン、グルコマンナン、アラビナン、キチン、キトサン、アルギン酸、カラゲナン、デキストランなどが例として挙げられ、用いる多糖類の分子量、分岐構造の有無、多糖類の構成糖の種類、配列などの制約は無い。
【0035】
しかし、入手のし易さの点から特にセルロースとデンプンが好ましい。ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプンの4種は種々のモル置換度(MS)の製品が市販されている(モル置換度;多糖類の構成糖1糖当りに何モルの置換基が導入されているかを示す値。)。
【0036】
また、ジヒドロキシプロピルセルロースの合成方法は米国特許4096326(1978)に記載がある。また、その他のジヒドロキシプロピル多糖類の合成は公知の方法を参考として合成可能である(参考文献、佐藤ら、Makromol.Cem.,193,647(1992),あるいはMacromolecules 24,4691(1991))。
【0037】
これらのヒドロキシアルキル多糖類をイオン導電性高分子固体電解質として用いることが出来る。
【0038】
本発明で使用できるヒドロキシアルキル多糖類はモル置換度が2以上のものである。モル置換度が2より小さい場合、イオン導電性金属塩類を溶解する能力が低すぎて使用できない。モル置換度の上限は30、好ましくは20である。モル置換度が30より高いヒドロキシアルキル多糖類を工業的に合成することは、工業的製造コストや合成操作の煩雑さから考えて困難である。無理をして製造し、モル置換度を30より増大させたとしても、モル置換度の増大による導電性の増加はそれほど期待できないと考えられる。
【0039】
さらに、上記のヒドロキシアルキル多糖類の水酸基の一部あるいは全てをエステル結合、あるいはエーテル結合を介した置換基で封鎖したヒドロキシアルキル多糖類誘導体もイオン導電性高分子固体電解質として用いることが出来る。
【0040】
即ち、炭素数が1〜6のアルキル基、芳香族置換基、シアノ基を含む置換基をエステル結合かエーテル結合でヒドロキシアルキル多糖類に導入したヒドロキシアルキル多糖類誘導体もイオン導電性高分子固体電解質として用いることが出来る。
【0041】
例えばメチル基でヒドロキシプロピルセルロースの水酸基をエーテル結合を介して置換した誘導体はヒドロキシプロピルメチルセルロースで、市販されている。
【0042】
また、例えばヒドロキシプロピルセルロースをシアノエチル化したシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースもイオン導電性高分子固体電解質として良好な特性を示す(実施例)。
【0043】
イオン導電性高分子固体電解質中ではイオン導電性金属塩の濃度がかなり高く、低誘電率の高分子マトリクス中ではイオンの会合が生じ易く、イオンの会合による導電性の低下減少が見られる。この場合マトリクスの極性を向上させるとイオンの会合が起こりにくくなる。
【0044】
マトリクス高分子の誘電率を上げるという点でヒドロキシアルキル多糖類の水酸基を極性基でキャップすることに意義がある。
【0045】
これまでに挙げたヒドロキシアルキル多糖類とヒドロキシアルキル多糖類誘導体にイオン導電性金属塩類を溶解して、さらに後記するジエステル化合物及びモノエステル化合物を加え、反応させて、イオン導電性高分子固体電解質とする。
【0046】
本発明において、イオン導電性金属塩としては通常の電気化学素子に用いるものであれば、特に制限はないが、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSbF、LiCFSO、LiCFCOO、NaClO、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF、(CNBF、(CNBF、(CNClO等の1種あるいは2種以上の混合物が挙げられる。配合量はヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部に対して、好ましくは5〜1000重量部、さらに好ましくは50〜300重量部である。
【0047】
5重量部より少ない場合はイオン導電体濃度が希薄で、そのため導電性が実用上、低すぎる結果となる。
【0048】
1000重量部より多くなると多くの場合高分子のマトリクスのイオン導電性金属塩に対する溶解能力を越えてしまい塩類の析出が生じる。
【0049】
一方、イオン導電性高分子固体電解質はフィルム状で電極間に挟み込んで用いる場合が多い。そのため実用上、高度な成膜性と膜の強度が要求される。
【0050】
本発明のヒドロキシアルキル多糖類とヒドロキシアルキル多糖類誘導体にイオン導電性金属塩を溶解させた複合体はそのままではイオン導電性高分子固体電解質としての成膜性、膜強度が不足している。
【0051】
例えば、ある種のモル置換度の高いヒドロキシアルキル多糖類誘導体は室温下で液晶状態を呈し、ワックス状で膜強度が低い。また、多くのモル置換度の高いヒドロキシアルキル多糖類やヒドロキシアルキル多糖類誘導体の外観はワックス状である。
【0052】
そこで発明者らはこの欠点を克服するために鋭意研究を行った結果、ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物をヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体とイオン導電性金属塩の混合物に混合し、この混合物に紫外線、電子線、エックス線、ガンマ線、マイクロ波、高周波などを照射することによって、あるいはイオン導電性電解質を加熱することによって反応させる事によりsemi―IPN構造の3次元架橋ネットワーク構造を形成することで良好な成膜性と膜強度を付与できることを見いだした。
【0053】
本発明で架橋剤として用いることのできる反応性モノマーは、ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物(化1)が
【0054】
【化5】
Figure 0003611656
【0055】
(ただし、R,R,RはHかメチル,エチル,n―プロピル,i―プロピル,n―ブチル,i―ブチル,s−ブチル,t―ブチル,アミノ基異性体,ヘキシル基異性体を示し、X≧1且つY≧0の条件を満足するものか、又はX≧0且つY≧1の条件を満足するものであり、好ましくはR,R,Rはメチル,エチル,n―プロピル,i―プロピル,n―ブチル,i―ブチル,s−ブチル,t―ブチルである。)
であり、ポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物(化2)が
【0056】
【化6】
Figure 0003611656
【0057】
(ただし、R,R,RはHかメチル,エチル,n―プロピル,i―プロピル,n―ブチル,i―ブチル,s−ブチル,t―ブチル,アミノ基異性体,ヘキシル基異性体を示し、A≧1且つB≧0の条件を満足するものか、又はA≧0且つB≧1の条件を満足するものであり、好ましくはR,R,Rはメチル,エチル,n―プロピル,i―プロピル,n―ブチル,i―ブチル,s−ブチル,t―ブチルである。)
である。
【0058】
ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するエステル化合物はヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体とイオン導電性金属塩の混合物中で紫外線、電子線、エックス線、ガンマ線、マイクロ波、高周波などを照射することによって、あるいは混合物を加熱することによって反応させる事により、semi―IPN構造の3次元架橋ネットワーク構造を形成する。
【0059】
ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物が重合反応して三次元網目構造を形成する際、ヒドロキシアルキル多糖類、あるいはそのヒドロキシアルキル多糖類誘導体の分子鎖と半相互侵入高分子網目(semi―interpenetrating polymer network;semi―IPN)構造を形成する。
【0060】
semi―IPN構造を形成させることは異種高分子を単に混合する場合と異なり、異種高分子鎖間の相溶性の向上や相間結合力の増大等の利点がある。
【0061】
本発明のヒドロキシアルキル多糖類、あるいはそのヒドロキシアルキル多糖類誘導体の場合においてもsemi―IPN構造を形成させることによりその膜特性が飛躍的に向上する。
【0062】
semi―IPN構造を形成させる場合、一般にはポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物のみをヒドロキシアルキル多糖類、あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体に添加して重合を行えばよい。
【0063】
しかし、本発明では意図して1官能性モノマーであるポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物も添加している。
【0064】
モノエステル化合物の添加によって三次元網目上にポリオキシアルキレン分岐を導入するためである(図1、2参照)。
【0065】
本発明のイオン導電性高分子固体電解質ではイオン導電性を担う金属塩は主としてヒドロキシアルキル多糖類若しくはヒドロキシアルキル多糖類誘導体の分岐ヒドロキシアルキル基、あるいはポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物が重合してできる三次元網目上の分岐部分のヒドロキシアルキル側鎖部分に強く相互作用していると考えられる。
【0066】
導電性を担う金属塩は多糖類主鎖の局所運動の制限を何等受ける事なく移動し得るために、ポリエチレンオキシド等の直鎖状高分子マトリクスの場合に比べ、一桁以上高い導電性を示す。それは実施例1と比較例3を比べれば明らかである。
【0067】
ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物の添加量は、ヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部に対して、両者合わせて10〜500重量部の範囲が好ましい。
【0068】
10重量部より少ない場合は膜強度が上がらない。500重量部より多くするとマトリクス全体のイオン導電性金属塩溶解能力が低下し、塩が析出したり、できた膜が脆くなるなどの不都合が生じる。
【0069】
ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物の組成比は特に限定されないが、重量比で(ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物)/(ポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物)=1〜0.2の範囲が膜強度の点から好ましい。
【0070】
重合反応を行う時、電子線を用いる場合は重合開始剤を添加する必要はないが、その他の場合は、通常、重合開始剤を添加する。
【0071】
重合開始剤としては特に限定されないが、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2―ヒドロキシ―2―メチルプロピオフェノン、2―ヒドロキシ―2―メチルイソプロピオフェノン、1―ヒドロキシシクロヘキシルケトン、ベンゾインエーテル、2,2―ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタールなどの光重合開始剤を用いる事が出来る。
【0072】
また、熱重合開始剤としては、クメンヒドロペルオキシド、t―ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ―t―ブチルペルオキシドなどの高温開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリルなどの通常の開始剤、過酸化水素・第1鉄塩、過硫酸塩・酸性亜硫酸ナトリウム、クメンヒドロペルオキシド・第1鉄塩、過酸化ベンゾイル・ジメチルアニリンなどの低温開始剤(レドックス開始剤)、過酸化物・有機金属アルキル、トリエチルホウ素、ジエチル亜鉛、酸素・有機金属アルキルなどが使用可能である。
【0073】
これらの重合開始剤を単独、または2種以上混合して用いることができる。重合開始剤はポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物100重量部に対して0.1〜1重量部の範囲で添加される。
【0074】
0.1重量部より少ない場合は重合速度が著しく低下するので好ましくない。1重量部より多くすることは試薬の無駄である。
【0075】
重合反応の条件は特に限定されないが、例えば光重合の場合の反応条件は室温下、空気中で紫外線を1〜50mW/cmの光量で5〜30分以上照射して行う。
【0076】
電子線を使用するときは室温下で150〜300kVの加速電圧でよい。加熱重合の場合は50〜120℃、0.5〜6時間の加熱で反応する。
【0077】
光重合により生成するポリマーはヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体の高分子鎖と相互に絡み合って強固なsemi―IPN三次元網目構造を形成するが、結晶構造は形成せずマトリクスはアモルファスである。
【0078】
重合反応は装置の簡易性、ランニングコストから考えて紫外線照射、あるいは加熱重合が好ましい。
【0079】
ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物の重合反応は、系に混合したイオン導電性金属塩の影響で阻害されることなく進行するため、従来ポリウレタン系の架橋剤の場合に行われる、三次元化をイオン導電性金属塩の無い系で行い、後からイオン導電性金属塩類を溶媒に溶かし、溶媒と共にマトリクス高分子にしみ込ませる方法(含浸法)により導入する2段方式を取る必要は全くない。
【0080】
本発明のイオン導電性高分子固体電解質は通常以下のように製造される。所定量のヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体、所定量のイオン導電性金属塩、所定量のポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物を溶媒適当量に入れて混合する。
【0081】
この混合溶液を減圧下で加熱し、溶媒を所望の濃度になるように蒸発させる。溶媒は混合溶液が電極上にキャストし易い粘度になるまで蒸発させればよい。
【0082】
また、本発明のイオン導電性高分子固体電解質に対してイオン導電性金属塩類の溶解量の増加、溶解した金属イオンの高分子マトリクス内移動性の向上を目的として溶媒を完全に蒸発させてしまわないで、任意の量残留させることも可能である。
【0083】
当該イオン導電性高分子固体電解質は多糖類分子鎖とポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物の共重合高分子鎖が相互に絡み合ったsemi―IPN網目構造を有するためにヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部に対して、1〜8000重量部、好ましくは1〜300重量部の溶媒を残留させても何ら膜強度に支障をきたすことは無い。
【0084】
しかし、8000重量部より高くなると、いかに強固なsemi―IPN網目構造を形成しているとはいえ、膜強度の低下が生じるので好ましくない。また、1重量部より少ない場合は溶媒を残留させる効果が得られない。
【0085】
系中にヒドロキシアルキル多糖類あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体が無い場合、即ち、ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル化合物のみで重合反応を行い、単なる三次元網目構造を形成させると、このマトリクス中に保持できる溶媒量は最大でも250%程度で、実用上100%以上の溶媒を加えたものは自立フィルムとして取り扱うのが難しいのが現状である。余りに多い溶媒は膜の自立性を奪う。この例からもsemi―IPNの効果は明かである。
【0086】
本発明のイオン導電性高分子固体電解質に使用可能な溶媒としては、ジブチルエーテル、1,2―ジメトキシエタン、1,2―エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム等、グリコールエーテル類(エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2―メチルテトラヒドロフラン、1,3―ジオキソラン、4,4―ジメチル―1,3―ジオキサン等の複素環式エーテル、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、δ―バレロラクトン、3―メチル―1,3―オキサゾリジン―2―オン、3―エチル―1,3―オキサゾリジン―2―オン等のブチロラクトン類、そのほか電気化学素子に一般に使用される溶剤である水、アルコール溶剤(メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4―ブタンジオール、グリセリン等)、ポリオキシアルキレンポリオール(エチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレン・オキシプロピレングリコールならびに、これら2種以上の併用)、アミド溶剤(N―メチルホルムアミド、N,N―ジメチルホルムアミド、N―メチルアセトアミド、N―メチルピロジリノン等)、カーボネート溶剤(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート等)、イミダゾリジノン溶剤(1,3―ジメチル―2―イミダゾリジノン等)等が挙げられる。これらの溶媒から2種以上混合して用いることも可能である。
【0087】
混合液を望んだ組成に調整した後、所定量の重合開始剤を混合し、基盤上にナイフコーターを用いて所望の厚さにキャストする。
【0088】
この膜に紫外線、電子線、エックス線、ガンマ線、マイクロ波、高周波などを照射することによって、あるいはイオン導電性電解質を加熱することによって、良好なイオン導電性を有するイオン導電性高分子固体電解質が得られる。
【0089】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、部は重量部を表わす。
【0090】
【実施例】
【0091】
【実施例1】
溶媒としての10部のテトラヒドロフランに1部のヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに0.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0092】
この混合溶液を減圧下40℃に保ち、混合溶液の重量が4.2重量部になるまでテトラヒドロフランを除去した。
【0093】
重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて溶解し、基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。
【0094】
室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0095】
【実施例2】
溶媒を使用しない例として1部のヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)と2部の無水過塩素酸リチウムと2.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と2.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて70℃で攪拌混合した。
【0096】
この混合液に重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて、基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。
【0097】
室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0098】
【実施例3】
10部のテトラヒドロフランと10部のプロピレンカーボネートを混合した溶媒に、1部のヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに1.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0099】
この混合溶液を粘度調整のために減圧下40℃に保ち、混合溶液全体量が15部になるまで溶媒を除去した。重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて溶解し、基盤(テフロン板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。
【0100】
室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0101】
【実施例4】
実施例3の重合開始剤を添加する前の混合溶液を基盤(テフロン板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。ここに加速電圧200kVのエレクトロンビーム照射装置を用い、電子線を照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0102】
【実施例5】
(ヒドロキシプロピルセルロースのシアノエチル化[I]);8gのヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)を400mlのアクリロニトリルに懸濁させ、4wt%の水酸化ナトリウム水溶液1mlを加えて30℃で4時間攪拌した。
【0103】
上記の反応混合液を酢酸を用いて中和した後、大量のメタノールに注加することでシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0104】
不純物を取り除くためにシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースをアセトンに溶解し、透析膜チューブに充填し、イオン交換水を用いて透析精製を行った。
【0105】
透析中に析出するシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを採取し、乾燥後、イオン導電性高分子固体電解質製造に使用した。
【0106】
得られたシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを元素分析に供したところN重量%が7.3%であることが判明した。この値からヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基のシアノエチル基によるキャップ率は94%である。
【0107】
このシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロース1部を用いて実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0108】
【実施例6】
(ヒドロキシプロピルセルロースのシアノエチル化[II]);8gのヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)を400mlのアクリロニトリルに懸濁させ、40wt%の水酸化ナトリウム水溶液1mlを加えて30℃で40分間攪拌した。
【0109】
上記の反応混合液を酢酸を用いて中和した後、大量のメタノールに注加することでシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0110】
不純物を取り除くためにシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースをN,N―ジメチルホルムアミドに溶解し、透析膜チューブに充填し、イオン交換水を用いて透析精製を行った。
【0111】
透析液を凍結乾燥してシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを得、再乾燥後、イオン導電性高分子固体電解質製造に使用した。
【0112】
得られたシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロースを元素分析に供したところN重量%が3.2%であることが判明した。この値からヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基のシアノエチル基によるキャップ率は34%である。
【0113】
このシアノエチル化ヒドロキシプロピルセルロース1部を用いて実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0114】
【実施例7】
(ジヒドロキシプロピルセルロースの合成[I]);ターバックらの方法(A.F.Turbakら、Chem.Abstr.94,123426S(1981))に準じてセルロース濃度が2wt%になる様にレーヨン用パルプを塩化リチウム/ジメチルアセトアミド(LiCl/DMAc)混合溶媒に溶解した。
【0115】
この溶液500mlに粉末化した水酸化ナトリウム10gを加え、50℃で1時間攪拌した。
【0116】
ここに91gのグリシドールを100mlのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を3時間以上かけて少しづつ添加し、その後12時間50℃で攪拌し、反応させた。
【0117】
反応後、反応混合液を大量のアセトンに注加し、ジヒドロキシプロピルセルロースの沈澱を得た。得られたジヒドロキシプロピルセルロースのモル置換度は13C―NMRを用いた分析によりMS=4.1であることが判明した。
【0118】
実施例3で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにジヒドロキシプロピルセルロース(MS=4.1)1部を用いた他は実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0119】
【実施例8】
(ジヒドロキシプロピルセルロースの合成[II]);セルロース濃度が2wt%の塩化リチウム/ジメチルアセトアミド(LiCl/DMAc)混合溶液500mlに粉末化した水酸化ナトリウム10gを加え、50℃で1時間攪拌した。
【0120】
ここに91gのグリシドールを100mlのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を3時間以上かけて少しづつ添加し、その後12時間50℃で攪拌し、反応させた。
【0121】
さらに、91gのグリシドールを100mlのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を3時間以上かけて少しづつ添加し、その後12時間50℃で攪拌、反応させるプロセスを2度くりかえした。
【0122】
反応後、反応混合液を大量のアセトンに注加し、ジヒドロキシプロピルセルロースの沈澱を得た。得られたジヒドロキシプロピルセルロースのモル置換度は13C―NMRを用いた分析によりMS=10.5であることが判明した。
【0123】
実施例3で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにジヒドロキシプロピルセルロース(MS=10.5)1部を用いた他は実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0124】
【実施例9】
(シアノエチル化ジヒドロキシプロピルセルロースの合成);実施例5で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにジヒドロキシプロピルセルロース(MS=4.1)を用いた他は実施例5の[I]の方法でシアノエチル化を行い、シアノエチル化ジヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0125】
得られたシアノエチル化ジヒドロキシプロピルセルロースのN重量%は11.9%で、この値から求めたジヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基のシアノエチル基によるキャップ率は92%である。
【0126】
実施例3で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにシアノエチル化ジヒドロキシプロピルセルロース1部を用いた他は実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0127】
【実施例10】
(アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースの合成);8gのヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)を300mlの酢酸と300mlの塩化メチレンからなる混合溶媒に懸濁させ、70wt%の過塩素酸水溶液4mlと無水酢酸400mlを加えて25℃で1.5時間攪拌した。
【0128】
上記の反応混合液を、大量のエタノールに注加することでアセチル化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0129】
実施例3で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにアセチル化ヒドロキシプロピルセルロース1部を用いた他は実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0130】
【実施例11】
10部の溶媒としての蒸留水に1部のヒドロキシエチルデンプン(ペンフォードプロダクツ社製)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに0.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0131】
重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.01部加えて溶解し、基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。
【0132】
室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0133】
【実施例12】
(ジヒドロキシプロピルデキストランの合成);デキストラン(和光純薬製、分子量60000―90000)5.0gをアセトン150mlに分散、懸濁させた溶液に室温下で、10mlの蒸留水に1.5gの水酸化ナトリウムを溶かした溶液を滴下し、20分攪拌した。
【0134】
さらに、グリシドール12gをアセトン40mlに溶かした溶液を滴下し、50℃で6時間反応させた。
【0135】
反応混合液からガム状物質を取り出し、蒸留水に溶解後、酢酸で中和し、セルロース透析膜チューブに充填して蒸留水で透析した。
【0136】
透析後の溶液を凍結乾燥してジヒドロキシプロピルデキストランを得た。得られたジヒドロキシプロピルデキストランのモル置換度は13C―NMRを用いた分析によりMS=2.5であることが判明した。
【0137】
実施例11で用いたヒドロキシエチルデンプンの代わりにジヒドロキシプロピルデキストラン1部を用いた他は実施例11と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0138】
【実施例13】
(シアノエチル化ヒドロキシエチルデンプンの合成);ヒドロキシエチルデンプン(ペンフォードプロダクツ社製)を用いて、実施例5[I]の方法でシアノエチル化を行い、シアノエチル化ヒドロキシエチルデンプンを合成した。得られたシアノエチル化ヒドロキシエチルデンプンのN重量%は7.1%であった。
【0139】
実施例3で用いたヒドロキシプロピルセルロースの代わりにシアノエチル化ヒドロキシエチルデンプン1部を用いた他は実施例3のイオン導電性高分子固体電解質を作製した時と同様の方法でイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0140】
【実施例14】
溶媒としての10部のテトラヒドロフランに1部のヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに0.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0141】
この混合溶液を減圧下40℃に保ち、混合溶液の重量が4.2重量部になるまでテトラヒドロフランを除去した。
【0142】
重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.05部加えて溶解し、基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。これを105℃のオーブン中に1時間保ち加熱重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0143】
【実施例15】
実施例3において溶媒を25部のプロピレンカーボネートとし、混合溶液中の溶媒を全く除去しない他は実施例3と同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0144】
【実施例16】
実施例3においてポリエチレングリコールジメタクリレートを0.5部とし、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを2.5部とした他は実施例3と同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0145】
【実施例17】
実施例3においてプロピレンカーボネートを3部使用し、ポリエチレングリコールジメタクリレートとメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートをそれぞれ0.1部とし、混合溶液全重量が2.4重量部になるまで溶媒を除去した他は同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0146】
【比較例1】
10部のテトラヒドロフランに1部のヒドロキシプロピルセルロース(モル置換度(MS)=4.65、日本曹達(株)製)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに10部のプロピレンカーボネートを加えて混合した。
【0147】
混合溶液を減圧下、40℃に保ち、混合溶液全体量が12部になるまで溶媒を除去した。基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延し、イオン導電性組成物を得た。
【0148】
得られたイオン導電性組成物は基盤(銅板)を垂直に立てると複合体が流動して変形し、固体とは言えないものであった。
【0149】
【比較例2】
10部のプロピレンカーボネートに1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに0.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0150】
さらに光重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて溶解した。この溶液はドクターナイフアプリケーターを用いて流延する事が出来なかったので、テフロン製シャーレに流し込んで室温下、空気中で紫外線を6mW/cm2の光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0151】
得られたイオン導電性高分子固体電解質は非常に脆く持ち上げることが出来なかった。きわめて弱いものであった。
【0152】
【比較例3】
溶媒としての10部のテトラヒドロフランに1部のポリエチレンオキシド(和光純薬(株)製 分子量2000)と1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに0.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0153】
この混合溶液を減圧下40℃に保ち、混合溶液の重量が4.2重量部になるまでテトラヒドロフランを除去した。
【0154】
重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて溶解し、基盤(銅板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0155】
【比較例4】
10部のテトラヒドロフランに10部のプロピレンカーボネートを混合した溶媒に1部のポリエチレンオキシド(和光純薬(株)製 分子量2000)と、1部の無水過塩素酸リチウムを加えて溶解し、これに1.5部のポリエチレングリコールジメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)と1.5部のメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレンユニット数=9、日本油脂(株)製)を加えて混合した。
【0156】
この混合溶液を粘度調整のために減圧下40℃に保ち、混合溶液全体量が15部になるまで溶媒を除去した。
【0157】
重合開始剤としてベンジルジメチルケタールを0.05部加えて溶解し、基盤(テフロン板)上にドクターナイフアプリケーターを用いて流延した。
【0158】
室温下、空気中で紫外線を6mW/cmの光量で20分間照射して重合反応を行い、イオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0159】
【比較例5】
実施例3においてポリエチレングリコールジメタクリレートを2.5部とし、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを0.5部とした他は実施例3と同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0160】
【比較例6】
実施例3においてヒドロキシプロピルセルロースを45部とし、過塩素酸リチウムを10部とし、混合溶液全体量が68部になるまで溶媒を除去した他は実施例3と同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0161】
【比較例7】
実施例3においてポリエチレングリコールジメタクリレートとメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートをそれぞれ5部とし、過塩素酸リチウムを3部とし、混合溶液全体量が24部になるまで溶媒を除去した他は実施例3と同様にしてイオン導電性高分子固体電解質を得た。
【0162】
実施例1〜17で合成したイオン導電性高分子固体電解質と比較例1で合成したイオン導電性組成物、比較例2〜7で合成したイオン導電性高分子固体電解質のイオン導電度を交流インピーダンス法で測定した。各電解質の外観を比較した。その結果を第1表にまとめた。なお、外観は以下の状態を表わす。
A:膜形状
B:膜形状であるが脆く壊れ易い
C:膜形状にならない
【0163】
【表1】
Figure 0003611656
【0164】
【表2】
Figure 0003611656
【0165】
【表3】
Figure 0003611656
【0166】
【発明の効果】
本発明のイオン導電性高分子固体電解質は高いイオン導電性と良好な保持性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明電解質の架橋反応前のsemi―IPN構造の概念図。
【図2】本発明電解質の架橋反応後の三次元網目が形成されたsemi―IPN構造の概念図。
【符号の説明】
1 ヒドロキシアルキル多糖類又は多糖類誘導体
2 ポリオキシアルキレン成分を含有するジエステル
3 ポリオキシアルキレン成分を含有するモノエステル

Claims (6)

  1. ヒドロキシアルキル多糖類もしくはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部と、ポリオキシアルキレン成分を含有するジ(メタ)アクリレート化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノ(メタ)アクリレート化合物10〜500重量部と、イオン導電性金属塩5〜1000重量部とからなり、ジ(メタ)アクリレート化合物/モノ(メタ)アクリレート化合物の重量比が1〜0.2である高分子固体電解質用組成物。
  2. ヒドロキシアルキル多糖類もしくはヒドロキシアルキル多糖類誘導体100重量部と、(化1)で示されるジエステル化合物と(化2)で示されるモノエステル化合物10〜500重量部と、イオン導電性金属塩5〜1000重量部とからなり、前記ジエステル化合物/モノエステル化合物の重量比が1〜0.2である高分子固体電解質用組成物。
    Figure 0003611656
    Figure 0003611656
    (ただしR1,R2,R3はHか炭素数1〜6のアルキル基を示し、X≧1且つY≧0の条件を満足するものか、又はX≧0且つY≧1の条件を満足するもの。)
    Figure 0003611656
    Figure 0003611656
    (ただし、R4,R5,R6はHか炭素数1〜6のアルキル基を示し、A≧1且つB≧0の条件を満足するものか、又はA≧0且つB≧1の条件を満足するもの。)
  3. 請求項1または2に記載のヒドロキシアルキル多糖類誘導体がヒドロキシアルキル多糖類中の水酸基の1部または全てがエステル結合あるいはエーテル結合を介し、置換基を導入したヒドロキシアルキル多糖類誘導体である高分子固体電解質用組成物。
  4. イオン導電性金属塩を溶解することが出来る溶媒をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子固体電解質用組成物。
  5. 請求項1または2に記載の高分子固体電解質用組成物に紫外線、電子線、エックス線、ガンマ線、マイクロ波、高周波などを照射することによって、あるいは加熱することによって、ポリオキシアルキレン成分を含有するジ(メタ)アクリレート化合物とポリオキシアルキレン成分を含有するモノ(メタ)アクリレート化合物を重合させ、または(化1)で示されるジエステル化合物と(化2)で示されるモノエステル化合物を重合させ、生成した高分子鎖がヒドロキシアルキル多糖類、あるいはヒドロキシアルキル多糖類誘導体の分子鎖と相互に絡み合った3次元架橋ネットワーク構造を形成させることを特徴とする高分子固体電解質の製造方法。
  6. 請求項5記載の製造方法によって得られた高分子固体電解質。
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