JP3608676B2 - 自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法に関するもので、例えばガス供給用等の導管のピグトラッキング、他工事による損傷音の発見、その他、音による故障診断等における音響データの解析や、振動等の各種時系列データの解析等の各種分野に利用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
ガス供給用の埋設管等の管内にピグと呼ばれる物体を移動させて管内の清掃や検査等を行う作業があり、この作業では、ピグの移動に伴って生じる音を導管の適所に配置したマイクロフォンを介して収集して、ピグが導管の内壁の溶接部の盛り上がり部を通過する際に生じる特定の音を識別し、この数をカウントして導管の配置図と照合することによりピグの現在位置を検出する、いわゆるピグトラッキングが行われている。
【0003】
ピグが導管内を移動する際に収集される音のスペクトルや音圧レベルはノイズを含め多種多様であるため、上記のような特定の音をノイズから分離して自動的に識別するのは困難であり、従って、従来は現場の熟練者が音を聴取して識別を行っている。
【0004】
以上のピグトラッキングにおける特定音の識別のように、特定の音をノイズから分離して識別するために、バンドパスフィルタ等のフィルタを利用することは一般的な技術であるが、従来のフィルタは、識別すべき音を予め調べて、この音に対応するように特性を固定的に設定して利用している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように特性を固定的に設定したフィルタでは、測定条件の変化等により、識別すべき音のスペクトル等の性質が変化すると対応しなくなってしまい、所定の機能が発揮出来なくなってしまう。
そこで本発明では、このような課題を解決することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、本発明では、まず、収集した音響又は振動の時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分より自己回帰係数を算出して、この係数をそのままフィルタ係数として用いる。
【0007】
また本発明では、収集した音響又は振動の時系列データを、自己回帰モデルにより構成したフィルタを通して処理する方法において、フィルタは自己回帰係数を設定可能に構成し、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分に対して自己回帰係数を算出して、この係数をフィルタに設定する。
【0008】
そして本発明では、収集した音響又は振動の時系列データを、自己回帰モデルにより構成したフィルタを通して処理する方法において、フィルタは複数構成して、夫々に上記時系列データから求められる自己回帰係数をフィルタ係数として設定可能に構成し、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分に対して自己回帰モデルによるパワースペクトルの算出を行うと共に、算出したパワースペクトルが過去に算出したものと異なる場合には自己回帰係数を算出して、この係数を未設定のフィルタに設定すると共に、パワースペクトルに関する情報を記憶して、以降に算出したパワースペクトルとの比較に供することを提案する。
【0009】
また本発明では、収集した音響又は振動の時系列データを、自己回帰モデルにより構成したフィルタを通して処理する方法において、フィルタは複数構成して、夫々に上記時系列データから求められる自己回帰係数をフィルタ係数として設定可能に構成し、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分に対して自己回帰係数を算出して、この係数を未設定のフィルタに設定するものとし、上記自己回帰係数の算出及びフィルタへの設定は、それまでに自己回帰係数を設定されているフィルタによっては強調されない範囲につき行うことを提案する。
【0010】
そして本発明では、上記の構成において、時系列データ中の、ピークがしきい値を越えている部分を抽出して、有意な信号を含む所望部分として処理すること、そして自己回帰係数は、所望部分のピーク後の所定範囲につき算出することを提案する。
【0011】
また本発明では、上記の構成において、収集した時系列データは、ハイパスフィルタ等の固定フィルタによる前処理を行うことを提案する。
【0012】
更に本発明では上記の構成において、自己回帰係数を最大エントロピー法(MEM)を利用して算出することを提案する。
【0013】
上述したとおり、本発明においては、時系列データを処理するフィルタを自己回帰モデルにより構成し、その自己回帰係数は設定可能に構成する。そして、このフィルタには、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分、例えばピーク値がしきい値を越えている部分から抽出した所定範囲の時系列データに対して算出した自己回帰係数を設定する。
【0014】
これ以降、このフィルタは、所望部分と同様な性質のデータを通過させるフィルタとして動作し、従ってノイズが含まれる時系列データ中から所望部分と同様なスペクトル特性を有するデータを強調することができる。このように本発明では、従来のようなフィルタの設計手順が不要になり、即ち、フィルタを通過させたい時系列データがあれば、そのデータからフィルタを構成することができる。
【0015】
自己回帰係数が設定可能なフィルタを複数構成すれば、複数の異なったスペクトル特性の所望部分に対応するフィルタ群を構成することができ、従ってノイズが含まれる時系列データ中から、有意な信号としての複数の異なった性質のデータ部分を区別して強調することができる。
【0016】
以上に際して、自己回帰係数の算出は、例えば、所望部分のパワースペクトルを比較して、今回のものが、それ以前に所望部分として算出したものと異なる場合にのみ行い、こうして算出した自己回帰係数を未設定のフィルタに対して設定することで、フィルタの特性の重複を防止することができる。
【0017】
また別の方法として、自己回帰係数の算出及びフィルタへの設定を、それまでに自己回帰係数を設定されているフィルタによっては強調されない所望部分につき行うようにすることによってもフィルタの特性の重複を防止することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
まず、自己回帰モデルによりフィルタを構成する方法を説明する。
自己回帰モデルは、1969年に赤池により提案されたものであるが、この方法は、信号処理を必要とする多くの分野で近来注目されている。Burg提案の最大エントロピー法(MEM…Maximum Entropy Method)と同一のスペクトル解析法であることが代表的なアルゴリズムである。
MEMの理論において、最も重要な点は、観測された時系列データ(以降、観測データと記す)に対して自己回帰(AR…Auto Regressive)モデルを仮定するところにある。この自己回帰モデルは図3に概略図として示している。
図3に示すように、観測データx(k)をm次の線形離散値モデルの出力であると考える。また自己回帰モデルは、次式で与えられる確率過程のモデルである。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、時系列データの自己相関関数を
R=E{x(k)x(k−i)} (2)
と表すと、(1)式の両辺にx(k)を掛けて期待値をとることにより、次式が与えられる。
【0021】
【数2】
【0022】
同様に(1)式の両辺に、x(k−1),x(k−2),…, x(k−m)を掛けて期待値をとることにより、次の行列方程式が得られる。
【0023】
【数3】
【0024】
また、Wiener−Khinchineの公式を用いて、次式が得られ、この式により自己回帰モデル{a}とパワースペクトルS(ω)の関係が示される。
【0025】
【数4】
【0026】
観測波形により自己相関関数Rを求め、(5)式に代入することによって自己回帰係数aとPが推定できる。MEMによりスペクトル推定を行うには、
(5)式のm+1元連立方程式を解かなければならない。しかも、自己回帰モデルの次数を決定するために、mを変化させながら夫々の次元の連立方程式を繰り返して解かなければならない。そこで(5)式の自己相関関数を情報エントロピーが増加しないように配慮して計算するのがバーグ(Burg)法である。
【0027】
上記の自己回帰モデルにおける次数mは事前に得られないので、例えば、赤池により提案されたFPE(最終予測誤差:Final Prediction Error)による決定法により決定する。尚、FPEとは、時系列x(k)から次数mで推定した自己回帰係数に対して、次式で定義される統計量Qmであり、このQを最小にする次数mを自己回帰モデルの次数とする。
【0028】
【数5】
【0029】
本発明では、以上の手法により求めた自己回帰係数を用いて、以下に示すようにフィルタを構成する。このフィルタは図4に概略図として示している。
図3の上段に示す自己回帰モデルは、上記(1)と同様に次式で与えられる。
【0030】
【数6】
【0031】
この(8)式から上記最大エントロピー法により、観測データx1(k)の特徴を示す自己回帰係数aを推定し、この自己回帰係数aを用いたフィルタを構成する。このフィルタは次式のように示すことができる。
【0032】
【数7】
【0033】
(9)式に示すフィルタは、(8)式の自己回帰モデルの入出力関係を変更し、(8)式の白色雑音n(k)を、フィルタ処理を施したい観測データx2(k)に、(8)式の観測データx1(k)を、フィルタ処理後のデータy2(k)に置き換えたもので、即ち、観測データx2(k)に対して(9)式に示される演算を行うことにより、フィルタ処理後のデータy2(k)を得ることができる。この演算においては、n番目のフィルタ処理後のデータを求める際に、m個の既に算出したデータが必要になるため、フィルタ処理後のデータの最初の係数の数だけは正確ではないが、一般に、係数の数は、データ長と比較して非常に小さいので実際上の支障はない。
【0034】
図1は以上のフィルタを構成要素とする本発明の時系列データの収集、処理方法実施の形態の例として、音響データの収集、処理において、自己回帰モデルにより構成したフィルタを複数構成する例を模式的に示すものである。
図1において、符号1は音響データ収集手段であり、この音響データ収集手段1は、マイクロフォン、増幅器、A/D変換器等から構成し、採取した音響データをディジタル量に変換する機能を有する構成としている。符号2は複数のフィルタ3から成るフィルタ群であり、各フィルタ3は、ディジタル量に変換された音響データを、所定時間毎に(9)式に示される演算を行ってフィルタ処理を行う構成である。符号4は自己回帰係数算出、設定手段であり、この自己回帰係数算出、設定手段4は、音響データ収集手段1から入力される音響データから対象音を抽出し、自己回帰係数を算出してフィルタ3に設定する構成である。そして符号5はデータ処理手段であり、このデータ処理手段5は、フィルタ群2のフィルタ3により処理された音響データから所定の信号を抽出する処理を行う構成である。
【0035】
図2は自己回帰係数算出、設定手段4における処理の流れの一例を示す流れ図である。この例は、複数のフィルタの特性の重複を防止する第1の方法を適用したものである。
まずステップS1では、音響データ収集手段1により収集し、ディジタル化した音響データを入力する。
次いでステップS2では、入力された音響データから対象音を抽出する。対象音は、例えば音響データ中の波形のピークがしきい値を越えている部分を、有意な信号を含む対象音として抽出する。
次いでステップS3では、抽出された対象音の部分につき、Burg法のアルゴリズムを用い、上記(6)の演算を行うことにより、対象音の部分のパワースペクトルを算出する。
次いでステップS4では、ステップS3で算出したパワースペクトルが新しいものか、否かを判別する。即ち、ステップS4ではステップS3において今回算出したパワースペクトルを、スペクトル関連情報の記憶手段に、それまでに記憶されているスペクトル関連情報と比較して、一致又は類似するか、否かを判定する。記憶手段に記憶するスペクトル関連情報は、算出したパワースペクトル自体でも良いし、1つ又は複数の代表する周波数のみとする等、適宜である。
ステップS4において、今回算出したパワースペクトルがそれまでに記憶されているものと一致又は類似すると判定した場合、即ち、図2において“No”と判定した場合にはステップS1に戻る。
またステップS4において、今回算出したパワースペクトルがそれまでに記憶されているものと異なる新しいものであると判定した場合、即ち、図2において“Yes”と判定した場合にはステップS5において、今回算出したパワースペクトルの関連情報を記憶手段に記憶する。上述したとおり、この関連情報は、2つのパワースペクトルが、一致又は類似するか、否かを判定するのに十分な情報であれば良く、パワースペクトルの全体情報でなく、1つ又は複数の代表周波数についての情報とすることもできる。
次いでステップS6では、対象音の部分につき、上記(8)の演算を行って自己回帰係数を算出し、ステップS7においてフィルタ3に設定する。フィルタ3への自己回帰係数の設定は、既に設定が行われているか否かを判断して、未設定のものに行う。このため自己回帰係数算出、設定手段4には各フィルタ3の設定状況を把握するための手段を構成する。
【0036】
次に、以上の説明を参照して図1の構成の動作を説明する。
音響データ収集手段1により採取され、ディジタル量に変換された音響データは、自己回帰係数算出、設定手段4に入力されると共に、フィルタ群2の各フィルタ3に入力され、各フィルタ3により処理された後にデータ処理手段5に入力されて音響の識別処理等の処理がなされる。この際、各フィルタ3には、上記自己回帰係数が設定されていない場合には、音響データの入力を停止したり、バイパスしたりする手段を設けると良い。
【0037】
入力された音響データ中に、波形のピークが予め設定しているしきい値を越えた部分がある場合には、自己回帰係数算出、設定手段4は、この部分を対象音として上述したステップにより、スペクトル特性が似ていない音響データが入力される毎に、自己回帰係数を算出してフィルタ3に設定する。従って、この後にフィルタ群2に入力された音響データ中に、対象音に類似する音が含まれる場合、この音は、フィルタ3により強調されてデータ処理手段5に入力され、従ってデータ処理手段5における対象音の識別処理が容易となる。データ処理手段5における対象音の識別処理の手法としては、あるレベル以上の振幅が所定時間以上継続した場合に対象音として識別する手法や、波形の時定数を算出し、これが所定時間以内である場合に対象音として識別する等の適宜の手法を適用することができる。
【0038】
【実施例】
次に以上の本発明の実施の形態をピグトラッキングに適用した実施例を説明する。
まず図5は、ピグトラッキングにおいて採取された音響データの一例を模式的に示すもので、このデータの音響は人の耳には“カン”と聞こえる対象音を含むものである。データは8192点でサンプリングした1.64秒間のデータで、図中矢印で示した位置にピークがある。(尚、以降の音響データについても具体的な数値の記載は省略して模式的に表す。)図6の(a),(b),(c),(d),(e)は、図5のデータ中の波形のピークから100点ずつ(0.02秒間)の範囲につき算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。(尚、以降のスペクトル特性のデータについても具体的な数値の記載は省略して模式的に表す。)図5に示す以外の複数の対象音のデータにつき図6と同様に算出したスペクトル特性を検討した結果、自己回帰係数を求める演算は、波形のピークから続く範囲で行うのが良いことがわかった。そして図7の(a),(b),(c),(d),(e)は、図5のデータ中の波形のピークから、100点、200点と、100点ずつデータ数を増やして算出した自己回帰係数のスペクトル特性を示すものであり、上述と同様に、図5に示す以外の複数の対象音のデータにつき図7と同様に算出したスペクトル特性を検討した結果、自己回帰係数のスペクトル特性は、ピークから200点以上で求めたものから安定し始め、変化が少なくなっていくことがわかった。このことと、算出のためのハードウエア、特にメモリの制約や、急峻なフィルタ特性によりフィルタ処理後のデータに悪影響を及ぼすことを防止する点等を考慮して、自己回帰係数を算出するためのデータ範囲は、ピークから200点程度が適当であることがわかった。
【0039】
次に図8の(a),(b),(c),(d),(e)は、図5と同様に、人の耳に“カン”と聞こえる対象音を含む5つのデータの例を示すもので、(a)は図5のデータ(但し、尺度が異なっている。)と同一である。図8のデータの夫々につき自己回帰係数を求め、そのスペクトル特性を図9の(a),(b),(c),(d),(e)に示している。これらのデータは、人の耳には、同様に“カン”と聞こえる対象音を含むにもかかわらず、スペクトルの現れ方はばらばらになっている。
【0040】
そこで図8の時間波形をみると、10Hz以下のノイズの重畳により、本来のピークが現れていないと考えられるため、図8のデータの夫々を50Hzのハイパスフィルタにより前処理を行い、この前処理を行ったデータにつき自己回帰係数を求めた。
【0041】
前処理後のデータは図10の(a),(b),(c),(d),(e)に示しており、このデータについてのスペクトル特性は図11の(a),(b),(c),(d),(e)に示している。図10に示すように前処理によりピークの位置が移動したデータがあり、また図11に示すように、スペクトルのピーク位置は、レベルは異なるものの、夫々がほぼ同じような位置に現れていることがわかる。従って、音響データ収集手段1により採取した音響データを、必要に応じて前処理を行うことが有効であることがわかる。
【0042】
以上と同様にして、人の耳に“ゴン”と聞こえる対象音を含む5つのデータにつき、自己回帰係数を求め、そのスペクトル特性を図12の(a),(b),(c),(d),(e)に示す。尚、これらのデータは、上述と同様に50Hzのハイパスフィルタにより前処理を行っている。図12に示されるように、“ゴン”と聞こえる5つの対象音は、全て同じような位置にスペクトルが現れており、これらはスペクトル特性上類似性を有する。しかしながら、上述した“カン”と聞こえる5つの対象音とは、スペクトルの現れる位置が異なっており、従って、これらのことから、“カン”と聞こえる対象音と、“ゴン”と聞こえる対象音とは、スペクトル特性上区別できることがわかる。
【0043】
更に図13の(a),(b),(c),(d),(e)は、人の耳に“カン”又は“ゴン”と聞こえる対象音以外の対象音を含む5つの音響データにつき、自己回帰係数を求め、そのスペクトル特性を示すもので、人の耳に聞こえる表現を夫々の図中に示している。この図13及びこれまでの図から“ガン”と聞こえる音は“カン”と聞こえる音とスペクトル特性が似ていること、“グォン”と聞こえる音及び“コッコ”と聞こえる音は“ゴン”と聞こえる音とスペクトル特性が似ていること、“バン”と聞こえる音及び“ドン”と聞こえる音は、“カン”と聞こえる音及び“ゴン”と聞こえる音のいずれのスペクトル特性にも似ていないことがわかる。
【0044】
以上のことから、図1の構成において、“カン”と聞こえる対象音のデータにより自己回帰係数を求めてフィルタ3に設定すると、以降にフィルタ3を通過する音響データ中の“カン”と聞こえる音のみが強調され、また“ゴン”と聞こえる音のデータにより自己回帰係数を求めてフィルタ3に設定すると、以降にフィルタ3を通過する音響データ中の“ゴン”と聞こえる音のみが強調されるので、データ処理手段5において、いずれのフィルタ3を通過して強調されたかを判別することにより、その音響データが、“カン”と聞こえる音又は“ゴン”と聞こえる音のいずれを含むかを判別することができる。また、いずれのフィルタ3においても強調されない場合には、それらの音とは種類の異なる音を含むことが判別できる。
【0045】
従って、複数のフィルタの特性の重複を防止するための上述した第1の方法に代え、第2の方法として、例えば音響データ中の波形のピークがしきい値を越える等により判定する、有意な信号を含む対象音に対して、それまでに自己回帰係数が設定されている一つ又は複数のフィルタ3により、強調がなされるか否かをフィルタ3の入力側と出力側の信号の変化により判定し、いずれの設定されているフィルタ3によっても強調がされない場合にのみ、新たに自己回帰係数を算出して、算出した自己回帰係数を未設定のフィルタに対して設定することで、フィルタの特性の重複を防止することができる。
【0046】
次に図14の(a),(b),(c),(d),(e)は、人の耳に“カン”と聞こえる対象音を含む音響データの他の例を示すもので、(a)の対象音につき上述したように自己回帰係数を算出してフィルタに設定して、“カン”に対するフィルタを構成している。以降、このフィルタを“カン”フィルタと称する。図14の(a),(b),(c),(d),(e)のデータを カン”フィルタに通した結果のデータを図15の(a),(b),(c),(d),(e)に示している。図からわかるように、“カン”フィルタは、“カン”と聞こえる対象音を強調しており、このような音が複数続く場合には、(b),(c)に示すように、夫々の音間の切れ目がはっきりして識別が可能となることがわかる。一方、(e)に示すように“カン”と聞こえる対象音以外、この場合は ゴン”と聞こえる音は、強調せず、抑制されていることがわかる。
【0047】
図16(a),(b),(c),(d),(e)は、人の耳に“カン”と聞こえない対象音を含む音響データの例を示すもので、これらの音響データを、上記 カン”フィルタに通した結果のデータを図17の(a),(b),(c),(d),(e)に示している。これらの図から、人の耳に“ゴン”,“バン”,“ドン”と聞こえる対象音は、いずれも カン”フィルタに抑制されているのに対して、“ガン”と聞こえる対象音は強調されている。これは、“ガン”と聞こえる対象音のスペクトル特性と、“カン”と聞こえる対象音のスペクトル特性が類似しているためである。
【0048】
以上の説明では、自己回帰係数を設定可能なフィルタは複数構成して、夫々に異なったスペクトル特性の対象音に対する自己回帰係数を設定する構成としているが、このフィルタは、単数であっても良い。この場合には、例えば音響データ収集手段で収集している音響データの中の最初に現れる有意な対象音に対するフィルタを構成して、以降、この対象音と類似の音の強調、そして識別を行うようにすることができる。
【0049】
以上に説明した本発明の実施形態では、例えば、ピグの移動に伴って生じる音を導管の適所に配置したマイクロフォンを介して収集して、ピグが導管の内壁の溶接部の盛り上がり部を通過する際に生じる特定の音を識別し、この数をカウントして導管の配置図と照合することによりピグの現在位置を検出する、いわゆるピグトラッキングに利用することができる他、導管を伝播する音を監視して、他の工事に際しての掘削刃による導管の損傷を音により検出する方法や、各種設備の音による故障診断等に利用できるものである。
【0050】
しかしながら、本発明において収集、処理し得るデータは、上述した音響データの他、振動等の各種時系列データを含むもので、例えば上述した実施の形態では、音響データ収集手段を、振動データ収集手段等の他の時系列データ収集手段に代えることで適用することができる。
【0051】
【発明の効果】
本発明は、以上のとおりであるので、次のような効果がある。
▲1▼従来のようなフィルタの設計手順が不要になり、時系列データ中にフィルタを通過させたいの所望データ部分があれば、その所望データ部分からフィルタを構成することができる。
▲2▼複数の所望データ部分の夫々に対応するフィルタを構成して、以降の同様なデータ部分の識別に供することができる。
例えば、本発明を、音響データの収集、処理に適用した場合には、▲1▼収集した音響データに基づきフィルタを構成するので、未知の音に対しても、又条件が変化した場合にも、夫々に対応するフィルタを構成して、以降の同一音の識別に供することができる。▲2▼複数の未知の音の夫々に対してフィルタを構成して、夫々に類似する音の識別に供することができる。というような効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を適用する構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る自己回帰係数算出、設定手段における処理の流れの一例を示す流れ図である。
【図3】自己回帰モデルの説明図である。
【図4】自己回帰モデルと本発明に係るフィルタとの対応関係を示す説明図である。
【図5】ピグトラッキングにおいて採取された音響の時系列データの一例を模式的に示すものである。
【図6】図5のデータにおいて演算位置を替えて算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図7】図5のデータにおいて演算点数を替えて算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図8】人の耳に“カン”と聞こえる対象音を含む5つの時系列データの例を模式的に示すものである。
【図9】図8のデータ中の対象音につき算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図10】図8のデータをハイパスフィルタ処理した時系列データを模式的に示すものである。
【図11】図10のデータ中の対象音につき算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図12】人の耳に“ゴン”と聞こえる対象音を含む5つの時系列データにつき算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図13】人の耳に“カン”又は“ゴン”と聞こえる対象音以外の対象音を含む5つの時系列データにつき算出した自己回帰係数のスペクトル特性を模式的に示すものである。
【図14】人の耳に“カン”と聞こえる対象音を含む音響データの他の例を模式的に示すものである。
【図15】図14の(a)のデータに基づき構成したフィルタにより、図14のデータを処理した結果を模式的に示すものである。
【図16】人の耳に“カン”と聞こえない対象音を含む音響データの例を模式的に示すものである。
【図17】図14の(a)のデータに基づき構成したフィルタにより、図16のデータを処理した結果を模式的に示すものである。
【符号の説明】
1 音響データ収集手段
2 フィルタ群
3 フィルタ
4 自己回帰係数算出、設定手段
5 データ処理手段
Claims (4)
- 収集した音響又は振動の時系列データを、自己回帰モデルにより構成したフィルタを通して処理する方法において、フィルタは複数構成して、夫々に上記時系列データから求められる自己回帰係数をフィルタ係数として設定可能に構成し、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分に対して自己回帰モデルによるパワースペクトルの算出を行うと共に、算出したパワースペクトルが過去に算出したものと異なる場合には自己回帰係数を算出して、この係数を未設定のフィルタに設定すると共に、パワースペクトルに関する情報を記憶して、以降に算出するパワースペクトルとの比較に供することを特徴とする自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法
- 収集した音響又は振動の時系列データを、自己回帰モデルにより構成したフィルタを通して処理する方法において、フィルタは複数構成して、夫々に上記時系列データから求められる自己回帰係数をフィルタ係数として設定可能に構成し、収集した時系列データ中の、有意な信号を含む所望部分に対して自己回帰係数を算出して、この係数を未設定のフィルタに設定するものとし、上記自己回帰係数の算出及びフィルタへの設定は、それまでに自己回帰係数を設定されているフィルタによっては強調されない所望部分につき行うことを特徴とする自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法
- 時系列データ中の、ピークがしきい値を越えている部分を抽出して、有意な信号を含む所望部分として処理することを特徴とする請求項1記載の自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法
- 自己回帰係数は、時系列データ中の、ピークがしきい値を越えている部分のピーク後の所定範囲につき算出することを特徴とする請求項1記載の自己回帰モデルを利用した時系列データの収集、処理方法
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