JP3606808B2 - 食品殺菌方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品殺菌方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、食品に超高圧を加えて殺菌する方法(超高圧殺菌方法)は公知である。例えば、国際公開公報WO97/21361号には、低酸性食品を缶詰にし、80〜99℃に加熱した後、50000〜150000psi(約340MPa〜約1020MPa)の超高圧で加熱する方法が記載されている。また、特開2000−83633号には、pH4.5以上の低酸性食品を約70℃に予備加熱し、処理圧力容器内で約300MPa以上の超高圧で加圧する方法が開示されている。これらの方法によれば、超高圧を加えることにより瞬間的に殺菌を行うので、食品の微細な香気や食感の変化を著しく抑制できる。
【0003】
しかしながら、これらの食品殺菌方法は、耐圧性の弱い芽胞菌、例えば、Clostridium sporogenesや、Bacillus cereus等の殺菌には有効であるが、食品中に普遍的に存在し、食品の腐敗に大きく関与する、耐圧性の強い芽胞菌、例えば、Bacillus subtilisを、常温流通でも食品の腐敗を起こさないレベルまで殺菌するのは非常に困難である。また、処理圧力容器内で、場所によって殺菌の効果にむら(殺菌むら)が生じる場合もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、前記従来技術の課題に鑑みなされたもので、食品中に普遍的に存在する耐圧性の強い芽胞菌、例えばBacillus subtilisを、常温流通下で食品の腐敗が起こらないレベルまで殺菌できる食品殺菌方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究した結果、下記の手段により前記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、食品5を50℃以上の温度に加熱する予備加熱工程と、予備加熱された食品5を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程とを含み、加圧槽(2)の内部に断熱容器(4)を収容し且つ前記食品(5)を該断熱容器(4)に収納した状態で前記加圧槽(2)により加圧を行う食品殺菌方法を提供する。
また、本発明は、食品5を50℃以上の温度に加熱する予備加熱工程と、予備加熱された食品5を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程と、該加圧を緩める休止工程と、更に300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程とを含み、加圧槽(2)の内部に断熱容器(4)を収容し且つ前記食品(5)を該断熱容器(4)に収納した状態で前記加圧槽(2)により加圧を行う食品殺菌方法を提供する。
更に、本発明は、食品5を加圧する際の、加圧槽2の内部及び断熱容器4の内部の圧媒6が油である食品殺菌方法を提供する。
【0006】
そして、本発明にかかる食品殺菌方法においては、予備加熱工程と加圧工程とを含み、かつ該食品5を断熱容器4に収納した状態で加圧を行うので、殺菌力が飛躍的に高まり、Bacillus subtilisなどの耐圧性の強い芽胞菌を、長期間にわたる常温流通下でも、食品を腐敗させることがないレベルまで殺菌することができる。
また、本発明にかかる食品殺菌方法においては、加圧工程の間に、加圧を緩める休止工程とを含み、かつ該食品5を断熱容器4に収納した状態で加圧を行うので、殺菌装置1内部での位置による殺菌むらをより減少させることができる。
更に、本発明にかかる食品殺菌方法においては、加圧槽2の内部及び断熱容器4の内部の圧媒6が油であるので、予備加熱温度を下げることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参酌しつつ説明する。
・第一実施形態
第一実施形態は、食品5を50℃以上の温度に加熱する予備加熱工程と、予備加熱された食品5を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程とを含み、かつ該食品5を断熱容器4に収納した状態で加圧を行うことを特徴とするものである。
【0008】
本発明にかかる食品殺菌方法に用いられる殺菌装置1は、図1に示すように、上面部分が開口した箱型形状を有する金属製の加圧槽2と、加圧槽2の開口部分をふさぎ、かつ加圧槽2の内部方向に押し込むことが可能な金属製の加圧用ピストン3とを備える。そして、加圧の際には、殺菌する食品5と圧媒6とで満たされた断熱容器4を加圧槽2の内部に入れ、更に、加圧槽2の内部を圧媒6で満たした状態で用いられる。以下、食品殺菌方法の工程順に説明する。
【0009】
(予備加熱工程)
殺菌する食品5は、加圧殺菌される前に加熱される。
食品5を加熱する温度(予備加熱温度)は50℃以上であれば特には限定されず、適宜選択できるが、殺菌終了後の食品を常温流通させる場合には、食品の品質、食品の商業的な殺菌等の観点から、70℃以上が好ましく、なかでも70〜100℃が特に好ましい。また、食品をチルド流通させる場合には、通常50℃以上であるが、常温流通の場合と同様の観点から、60℃以上が好ましく、60℃〜100℃が特に好ましい。なお、加熱時間は、熱伝達を測定して決定することが好ましい。
加熱する方法は、特には限定されないが、食品5を予備加熱温度と同等又はそれ以上の温度に加熱された環境下に置くこと、例えば加熱されたウォーターバスの内部に置くことなどの方法が用いられる。
【0010】
また、熱(エネルギー)を効率良く利用して殺菌に要する費用の低減が可能となるとの観点から、低減断熱容器4を用いて予備加熱を行う方法、つまり食品5を断熱容器4の内部に入れ、更に、断熱容器4の内部を圧媒6で満たした状態で断熱容器4を閉じ、断熱容器4の全体を予備加熱温度まで加熱する方法を用いることもできる。かかる断熱容器4は、断熱性を有する樹脂などによって食品5が収容可能な形状に形成されているものである。
具体的には、かかる樹脂などは、断熱性を有するものであれば特には限定されないが、例えばポリエチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、テフロン樹脂、フッ素樹脂などが用いられる。
また、かかる樹脂の熱伝導度は、1W/m・℃以下が好ましく、更に断熱容器4の肉厚(断熱容器4を形成する樹脂の厚み)を薄くでき、より多くの食品5を短時間で加圧殺菌することが可能となるという観点から、0.5W/m・℃以下がより好ましい。
更に、断熱性を有する複数の樹脂をブレンドしたり、断熱性を有する複数の樹脂を積層したり、断熱性を有する樹脂と、金属やその他の断熱性を有しない樹脂とを積層したりして、断熱容器4の断熱特性と、成形加工の容易さや、形状の安定性などとを両立させることもできる。
また、断熱容器4の形状は、開封/閉封が可能で、かつ、食品5を収容することが可能な袋状/筒状/容器状などの形状、つまり食品5を一般のパウチ袋などに収められた状態で断熱容器4の内部に収め、更に封又は蓋ができるような形状に形成されている。
更に、断熱容器4の形状は、生産性の向上のため、加圧槽2の内部の形状と略相似の形状とすることが望ましい。
また、圧媒6は、水や油など液体であれば特に限定されないが、例えば予備加熱温度を下げることができるという観点からサラダ油などの油が好適に用いられる。ここで、サラダ油とは食用なたね油、食用大豆油及びそれらの混合品のことをいう。
【0011】
(加圧工程)
つぎに、予備加熱された食品5は超高圧下で加圧され、殺菌される。
具体的には、予備加熱工程において食品5がパウチ袋などに収められたうえで断熱容器4の内部に入れられていない場合は、まず予備加熱された食品5をパウチ袋に収めたうえ断熱容器4の内部に入れ、圧媒6で断熱容器4を満たすとともに、断熱容器4を閉じる。そして、食品5が入れられた断熱容器4を、加圧槽2の内部に入れ、加圧槽2を圧媒6で満たす。そして、ピストン3を加圧槽2の内部方向に押し込んで、加圧槽2の内部の圧力を高めることによって食品5に加圧する。
その際、加圧される圧力は、300MPa以上であれば特に限定されないが、食品の品質、殺菌の観点から、好ましくは700MPa以上1200MPa以下が好ましい。また、加圧の時間は、加圧する圧力や予備加熱の温度などに応じて、食品5が商業的無菌となるに足りる時間とされる。昇圧が終了した瞬間(0秒)以上であれば特に限定されないが、具体的には、食品の品質の観点から1秒以上200分以下、より好ましくは1分〜10分が好ましい。ここで、商業的無菌とは病原菌は認められず、常温下での、例えば、12〜24ヶ月といった適度な保存期間中では劣化が軽度でかつ発酵や微生物の増殖は生じない食品と定義される。
【0012】
前記加圧工程において超高圧下に保持された後、食品5は(加圧槽2の内部は)急激に大気圧まで減圧される。
【0013】
・第二実施形態
第二実施形態は、第一実施形態で得られる殺菌済み食品を、殺菌後の品温を保持したまま又は殺菌後に冷却して常温に戻した後、更に加圧を繰り返すことを特徴とする。
具体的には、第一実施形態における加圧工程終了後、加圧を緩め(休止工程)、再度食品5を加圧槽2の内部で300MPa以上の超高圧下で加圧する。この休止、加圧操作は、必要により、2回以上繰り返し行ってもよい。
ここで、休止工程は、かかる加圧工程で加えられた圧力よりも低い圧力、好ましくは大気圧とすることがよい。また、加圧を緩める時間は、瞬時〜5分又はそれ以上、好ましくは少なくとも1秒〜5分、より好ましくは少なくとも5秒〜1分とすればよい。
【0014】
なお、前記実施形態においては、断熱容器4の内部の圧媒6は、食品5とは別の液体を用いたが、加圧殺菌処理の効率を向上させるという観点から、食品5自体を圧媒6として用いることもできる。
また、本発明にかかる食品殺菌方法で殺菌することができる食品5は、特には限定されないが、該方法は、繊細な香気やテクスチャーを有する食品に対して特に効果的である。かかる食品としては、例えばチーズソース類や野菜類やスープ類やシチュー類やカレー類や、柔らかな牛肉、魚肉、豚肉そのほかの肉類や、乳製品類や、パスタ類や、米飯類や、ポテト製品類や、主食アントレ類や、デザート類や、飲料類や、チョコレートミルク類や、カッテージチーズ類などが挙げられる。更に、本発明にかかる食品殺菌方法では、一般的に常温保存される食品のほかに、例えば、チルド食品などについても用いることが可能である。
【0015】
以下に実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
・試験サンプルの調製
試験用の食品5は、チーズソース(pH5.5)、ホワイトソース(pH6.2)、コーンピューレ(pH7.7)、ソテーオニオン(pH5.4)を水で2倍希釈したものを用いた。これらの食品40gを通常のパウチ袋(ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムを2層にはり合わせた材料からなる袋)に入れ、更に殺菌効果を測定するための菌としてBacillus subtilis芽胞を1×105CFU/gをパウチ袋に入れ、含気のないようにシールし、試験サンプルを作成した。
以下、各試験サンプルの処理条件について順に説明する(表1に処理条件の一部を記載)。
(予備加熱工程)
試験サンプルを80℃の温水中に10分間浸すことによって加熱した。
(加圧工程)
つぎに、予備加熱された試験サンプルを加圧して殺菌した。
殺菌装置1は、株式会社神戸製鋼所製の超高圧プラントを用いた。
また、断熱容器4は、一端に試験サンプル(パウチ袋)が出し入れ可能な蓋を備えた円筒形状のポリブチレンテレフタレート製容器(熱伝導度、0.3W/m・℃)を用いた。
試験サンプルのうち断熱容器4を用いて加圧するものは、予備加熱した試験サンプルを断熱容器4に入れた後、圧媒6として水を加え、断熱容器4を満たした後に断熱容器4の蓋を閉め、この断熱容器4を加圧槽2の内部に入れた後更に、断熱容器4を満たす際に用いたものと同様の圧媒6(水)で、加圧槽2の内部を満たした。
一方、断熱容器4を用いない試験サンプルでは、試験サンプルを直接加圧槽2の内部に入れた後、圧媒6としての水で加圧槽2の内部を満たした。
加圧殺菌の際に加圧した圧力、加圧した時間、及び、用いた圧媒6などは表1にまとめた。
試験サンプルを各々の条件下で加圧殺菌した後、加圧槽2の内部を減圧し、圧力容器から取り出した後、試験サンプルを氷水で急冷した。
(評価方法)
前記処理終了後、各試験サンプルを35℃で4週間保存し、無菌試験を行ない、腐敗数を測定した。
(評価結果)
評価結果を表1に示した。
【表1】
殺菌後のレトルトパウチ食品を1ヶ月間常温で保存したが、断熱容器を用いたサンプルでは腐敗が全く認められなかった。一方、断熱容器を用いなかったサンプルではBacillus subtilisの腐敗が進んでいた。
【0016】
【実施例2】
(予備加熱工程)
実施例1で調製した試験サンプルを80℃の温水中に10分間浸すことによって加熱した。
(加圧工程(最初の加圧工程))
つぎに、予備加熱された試験サンプルを加圧して殺菌した。
殺菌装置1は、株式会社神戸製鋼所製の超高圧プラント(実施例1と同様のもの)を用いた。
また、断熱容器4は、一端に試験サンプル(パウチ袋)が出し入れ可能な蓋を備えた円筒形状のポリブチレンテレフタレート製容器(実施例1と同様のもの)を用いた。
試験サンプルのうち断熱容器4を用いて加圧するものは、予備加熱した試験サンプルを断熱容器4に入れた後、圧媒6として水を加え、断熱容器4を満たした後に断熱容器4の蓋を閉め、この断熱容器4を加圧槽2の内部に入れた後更に、断熱容器4を満たす際に用いたものと同様の圧媒6(水)で、加圧槽2の内部を満たした。
一方、断熱容器4を用いない試験サンプルでは、試験サンプルを直接加圧槽2の内部に入れた後、圧媒6としての水で加圧槽2の内部を満たした。
加圧殺菌の際に加圧した圧力、加圧した時間、及び、用いた圧媒6などは表2にまとめた。
(休止工程)
試験サンプルを各々の条件下で加圧殺菌した後、加圧槽2の内部を大気圧まで減圧した。また、時間は10秒間とした。
(加圧工程(再度の加圧工程))
更に前記加圧工程(最初の加圧工程)と同様に加圧を行った。加圧殺菌の際に加圧した圧力、加圧した時間、及び、用いた圧媒6などは表2にまとめた。
試験サンプルを各々の条件下で加圧殺菌した後、加圧槽2の内部を減圧し、圧力容器から取り出した後、試験サンプルを氷水で急冷した。
(評価方法)
前記処理終了後、各試験サンプルを35℃で4週間保存し、無菌試験を行ない、腐敗数を測定した。
(評価結果)
評価結果を表2に示した。
【表2】
殺菌後のレトルトパウチ食品を1か月間常温で保存したが、断熱容器を用いたサンプルでは腐敗が全く認められなかった。一方、断熱容器を用いなかったサンプルではBacillus subtilisの腐敗が進んでいた。
【0017】
【実施例3】
圧力を300MPa、初温100℃、加圧時間を20minとする以外は実施例1と同様にして、超高圧殺菌を行った。殺菌された食品を1ヶ月間常温で保存したが、腐敗は認められなかった。またその風味及び香りは、殺菌前と同等の良好な状態を維持していた。
【0018】
【実施例4】
圧媒を油(サラダ油)にし、予備加熱工程での温度を80℃から75℃に変更した以外は実施例1と同様にして、超高圧殺菌を行った。
(評価方法)
前記処理終了後、各試験サンプルを35℃で4週間保存し、無菌試験を行ない、腐敗数を測定した。
(評価結果)
評価結果を表3に示した。
【表3】
圧媒をサラダ油にしたサンプルでは、圧媒が水のサンプルに比べ、予備加熱温度を下げても、同様の殺菌効果が得られた。
【0019】
【発明の効果】
本発明にかかる食品殺菌方法においては、予備加熱工程と加圧工程とを含み、かつ該食品5を断熱容器4に収納した状態で加圧を行うので、殺菌力が飛躍的に高まり、Bacillus subtilisなどの耐圧性の強い芽胞菌を、長期間にわたる常温流通下でも、食品を腐敗させることがないレベルまで殺菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる殺菌装置の部分断面図。
【符号の説明】
2…加圧槽、4…断熱容器、5…食品、6…圧媒
Claims (3)
- 食品(5)を50℃以上の温度に加熱する予備加熱工程と、
予備加熱された食品(5)を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程とを含む食品殺菌方法であって、
加圧槽(2)の内部に断熱容器(4)を収容し且つ前記食品(5)を該断熱容器(4)に収納した状態で前記加圧槽(2)により加圧を行うことを特徴とする食品殺菌方法。 - 食品(5)を50℃以上の温度に加熱する予備加熱工程と、
予備加熱された食品(5)を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程と、
該加圧を緩める休止工程と、
更に食品(5)を300MPa以上の圧力で加圧する加圧工程とを含む食品殺菌方法であって、
加圧槽(2)の内部に断熱容器(4)を収容し且つ前記食品(5)を該断熱容器(4)に収納した状態で前記加圧槽(2)により加圧を行うことを特徴とする食品殺菌方法。 - 食品(5)を加圧する際の、加圧槽(2)の内部、及び、断熱容器(4)の内部の圧媒(6)が油である請求項1又は2に記載の食品殺菌方法 。
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