JP3605971B2 - Sus303線材の縮径加工方法 - Google Patents
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Description
本発明は、SUS303線材、具体的には線径が5mm以下のSUS303線材を得る縮径加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
線径が5mm以下のステンレス線材は、通常、次に述べるようにして製造される。すなわち、2ロールスタンドをタンデムに配置した線材圧延機により、熱間圧延して線径が9〜6mmの素線材を得る。次いで、この素線材をダイスピーリング装置またはバイトピーリング装置に通して表面の疵取りを行って5mm前後の線径に荒仕上げする。しかる後、ダイス伸線法により、冷間にて所望の線径の製品線材に仕上げる。
【0003】
上記のダイス伸線法は、孔ダイスに素線材を通して引き抜くことにより、線径を縮径する冷間加工法であり、ステンレス線材に限らず種々材料の細径線材の加工法として広く用いられている。
【0004】
このダイス伸線法は、孔ダイス1枚による加工では、出側の引抜力により線材自体が破断するのを防ぐために、下式で求められる減面率が制限される。
【0005】
減面率(%)={(S0 −S)/S0 }×100
ここで、
S0 :加工前の線材断面積(mm2 )
S :加工後の線材断面積(mm2 )
このため、通常は、連続伸線法を用いることにより、必要なトータル減面率を確保するようにしている。
【0006】
図3は、連続伸線法の一例を示す模式図であり、図に示すように、タンデムに配置された複数枚の孔ダイス31、31、…と、これらの孔ダイス間に配置され巻取釜32、32、…が用いられる。
【0007】
この連続伸線法では、各孔ダイス31の出側に配置された回転駆動せしめられる巻取釜32に線材を数回巻付けた状態で伸線が行われる。そして、各孔ダイス31における引張力は、巻取釜32と線材との摩擦力により付加される。また、各巻取釜32とその下流側の孔ダイス31間の線材張力は、巻取釜32の回転数を制御することにより、線材が緩まない程度に調整される。従って、伸線加工中の線材に作用する張力は、各孔ダイス31における引抜力のみとなり、下流側の孔ダイスで加工中の線材部分に上流側の孔ダイスでの引抜力が重畳作用することがない。この結果、この連続伸線法では、複数枚の孔ダイスでの連続伸線が可能となるのみならず、各孔ダイスでの引抜力が加工中の線材に重畳作用することがないので、トータル減面率を大きくとることが可能になるのである。
【0008】
上記のダイス伸線法とは別に、例えば特開昭63−168202号公報に示されるように、孔型ロールを備えた圧延機により縮径加工する方法もある。
【0009】
図4は、上記特開昭63−168202号公報に示される方法を説明するための図である。すなわち、その方法は、図4に示すように、パスライン回りに配された複数(図示例は4つ)の孔型ロール11で構成される略円形ロール孔型を備え、その圧下方向の位相をパスライン周りに45°相違させたA配置とB配置(図5参照)の複数のロールスタンド12、12、12、…をパスライン方向に交互に配置した連続圧延機を用い、素線材13の外径を順次縮小圧延する方法である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ステンレス鋼、なかでも高強度化のためにC含有量を高くしたSUS201、SUS202、SUS303などの難加工性のオーステナイト系ステンレス鋼は、冷間加工性に劣り、かつ加工に伴う延性低下が大きい。
【0011】
そのため、このような難加工性のオーステナイト系ステンレス鋼製のステンレス線材を上記の連続伸線法で縮径加工すると、孔ダイスの出側、特に下流側の孔ダイス出側での材料破断が発生しやすく、トータル減面率をあまり大きくとれなかった。すなわち、上記難加工性のオーステナイト系ステンレス鋼のうちでも特に難加工性のSUS303では、60%前後のトータル減面率での加工しかできず、それ以上のトータル減面率での加工を行うためには、中間焼鈍処理が必須であった。この結果、中間焼鈍処理に費用が嵩むのみならず、生産性が低下し、製品の製造コストが高くなるという欠点があった。
【0012】
これに対し、上記の連続圧延法による場合は、スタンド間張力を無しにしての加工が可能であるものの、実際にはスタンド間での材料(線材)たるみを防止するために若干の張力をかけ圧延を行うが、連続伸線法に比べ、付与すべき張力を極めて小さく抑えることができる。このため、上流側のロールスタンドで加工を受けて延性の低下した材料が、下流側のロールスタンドで破断することはほとんどない。従って、この連続圧延法では、上記難加工性のステンレス鋼であっても、1パスでのトータル減面率を連続伸線法よりも大きくとることが可能である。
【0013】
しかし、そのとり得るトータル減面率は、SUS304やSUS316などの加工性のよい一般のオーステナイト系ステンレス鋼に比べてかなり小さい。すなわち、例えばSUS304では90%以上のトータル減面率での縮径加工が可能であるのに対し、SUS303では75%前後のトータル減面率での縮径加工しかできなかった。
【0014】
このため、上記難加工性のSUS303線材を、より高いトータル減面率で縮径加工し得る方法の開発が望まれていた。
【0015】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたもので、その課題は、難加工性のステンレス線材であるSUS303線材を、より高いトータル減面率で5mm以下に縮径加工し得る縮径加工方法を提供することにある。
【0016】
本発明の要旨は、次のSUS303線材の縮径加工方法にある。
【0017】
パスライン回りに配された4つの孔型ロールで構成されるロール孔型が略円形である複数の4ロールスタンドをパスライン方向にタンデムに配置した連続圧延機により、SUS303鋼製の素線材の外径を冷間にて5mm以下に縮径加工する際、連続圧延機出側の線材温度が(Md点+50)℃〜(Md点+150)℃になる条件で縮径加工することを特徴とするSUS303線材の縮径加工方法。
【0019】
本発明者らは、数多くの実験を行った結果次のことを知見し、本発明をなすにいたった。
【0020】
すなわち、ステンレス鋼、なかでもオーステナイト系ステンレス鋼は、冷間で塑性変形を加えると、組織のマルテンサイト化が起こって加工硬化し、冷間加工性が失われる。反面、材料温度が上記の冷間加工に伴ってマルテンサイト化の起こる変態温度であるMd点以上の場合には、マルテンサイト化が抑制され、加工に伴う冷間加工性の低下が低く抑えられるという特徴を有している。
【0021】
また、金属材料に冷間加工を施すと、加工熱が発生して材料温度が上昇し、その温度上昇は付与する加工度を大きくすればするほど大きくなる。
【0022】
以上のことから、付与する加工度を大きくし、加工中の材料温度を上記Md点以上に昇温させて加工することが考えられる。
【0023】
しかし、前述の連続伸線法では、加工中の材料温度を上記Md点以上にし得るだけの加工度を付与すると、断線しやすい。また、材料温度がMd点以上になったとしても、孔ダイスの出側に設けられた巻取釜で抜熱され、次段の孔ダイスの入側の材料温度がMd点よりも低くなる。このため、連続伸線法による場合は、材料をMd点以上に加熱するための加熱装置を各孔ダイスの入側に設ける必要があって設備コストが上昇し、現実的ではない。さらに、ダイス伸線法は、孔ダイスと材料との間の滑りが大きく、SUS303鋼のような焼き付きやすい材料では、材料温度が上昇、特にMd点以上に上昇すると、焼き付きが顕著に発生するので、Md点以上での加工は困難である。
【0024】
ところが、上記連続伸線法に代えて連続圧延法を用いる場合には、孔型ロールとの間に滑りがない状態で、材料が加工発熱しながら下流側のロールスタンドへ次々に通線される。このため、連続圧延法では、連続伸線法のように加工発熱により一旦昇温した材料温度が加工途中で下がることがないので、加工発熱した熱が次第に蓄積される。この結果、加工後の材料温度は、連続伸線法によった場合に比べ、連続圧延法によった場合の方が遥かに高くなる。
【0025】
そして、連続圧延機として、円形孔型を構成する4つの孔型ロールがパスライン回りに配された複数のロールスタンドをパスライン方向にタンデムに配置した連続圧延機を用い、この連続圧延機の出側における材料温度が、(Md点+50)℃以上になる条件で連続圧延を行うと、圧延中の材料組織のマルテンサイト化が確実に抑制され、圧延に伴う加工性の低下が抑えられて表面割れなしに加工できる1パスでのトータル減面率を増加させ得ることを知見した。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の縮径加工方法の実施形態を、図1、図2および前述の図4、図5を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施態様の一例を示す模式的側面図であり、図中、符号1は巻戻機、2は入側ガイド、3は連続圧延機、4は巻取機、SWはSUS303鋼製の素線材、WはSUS303線材である。なお、図1においては、SUS303鋼製の素線材を「素線材」、また、SUS303線材を「ステンレス線材」と表記した。
【0028】
連続圧延機3は、パスライン方向にスタンド中心間間隔Mをもってタンデムに配置された複数のロールスタンド3aからなっている。各ロールスタンド3aは、前述の図4および図5に示した従来の連続圧延機と同様に、略円形のロール孔型を構成する4個の孔型ロール11を備えており、その圧下方向が45°位相するように、A配置とB配置とに交互に配置されている。
【0029】
また、図示省略するが、各ロールスタンド3aの入側(図中の左方)には、被圧延材料の素線材SWに対し、例えばソルブル油などの水溶性の圧延潤滑油を塗布するためのノズルが設けられている。
【0030】
さらに、これも図示省略するが、各ロールスタンド3aに組み込まれた4つの孔型ロール11は、相互にギアで連結されていて、4つのうちの1つの孔型ロールのロール軸が連結された駆動源によって同方向に回転駆動できるようになっている。
【0031】
上記各ロールスタンド3aのロール孔型形状は、図2に示すように、ロール隙間G4に材料が噛出さないようにするために溝底径Dmよりも縁部径Dhの方が若干大きな略円形の形状とされている。そして、後段のロールスタンドに向かうに従ってその寸法Dm(Dh)が順次小さくなっており、素線材SWの外径を縮径加工できるようになっている。
【0032】
ここで、ロール孔型の形状としては、上記縁部径Dhと溝底径Dmとの径比(Dh/Dm)が1.02〜1.06の範囲の形状にするのが望ましい。すなわち、その径比(Dh/Dm)が1.06を超えると、縮径加工後の線材Wの真円度が悪化する。逆に、その径比(Dh/Dm)が1.02未満であると、材料噛出しが発生し、圧延可能な1スタンド当たりの減面率が小さくなって所望の減面率を得るの必要なスタンド数が多くなり、連続圧延機の製造コストが高くなるので現実的でないためである。
【0033】
本発明においては、巻戻機1で巻戻され、入側ガイド2を通して連続的に供給されるSUS303鋼製の常温状態にある素線材SWの外径を、上記のように構成された連続圧延機3により、冷間にて連続圧延して縮小し、巻取機4により巻取るが、この時、連続圧延機3の出側における材料温度が(Md点+50)℃〜(Md点+150)℃という条件のもとに圧延する必要がある。
【0034】
その理由は、以下の通りである。すなわち、連続圧延機3の出側における材料温度が(Md点+50)℃未満であると、上流側のロールスタンドでの加工発熱のスタンド間での抜熱が大きく、材料温度がMd点以上にならない温度域での加工スタンド数が多くなる。このため、圧延初期に材料組織のマルテンサイト化が進んで材料の加工性が低下してしまい、後段スタンドでの加工時に表面割れが発生しやすくなり、表面割れなしに加工が可能な後段スタンド数が減少し、この結果として1パスでのトータル減面率を増加させることができなくなる。
【0035】
これに対し、連続圧延機3の出側における材料温度を(Md点+50)℃以上にすると、上流側のロールスタンドでの加工発熱のスタンド間での抜熱が可及的に抑制されて材料温度がMd点以上にならない温度域での加工スタンド数が減少する。このため、圧延初期における材料組織のマルテンサイト化の進行に伴う材料の加工性低下が抑制され、後段スタンドでの加工時に表面割れが発生し難くなるので、表面割れなしに加工が可能な後段スタンド数が増加し、この結果として1パスでのトータル減面率を増加させることが可能になるためである。
【0036】
なお、連続圧延機3の出側における材料温度は、あまり高くなりすぎると、被圧延材であるSUS303と孔型ロールとの間で焼付きが発生するので、その上限は(Md点+150)℃に留める。
【0037】
ところで、連続圧延機3の出側における材料温度を(Md点+50)℃〜(Md点+150)℃にするための圧延条件は、用いる連続圧延機3の仕様および1スタンド当たりで付与する加工度(減面率)により種々ことなるが、連続圧延機3の入側での材料速度を制御することによって確保することができる。
【0038】
例えば、27スタンドからなり、1〜19スタンドまではロール径とスタンド中心間間隔Mがいずれも100mmであり、20〜27スタンドまではロール径とスタンド中心間間隔Mがいずれも70mmである連続圧延機を用い、仕上げスタンドとしての27スタンドを除く各スタンドでの減面率を9.5%に設定して連続圧延を行う場合では、連続圧延機3の入側での材料速度を30m/min以上にすることで、連続圧延機3出側の材料温度を(Md点+50)℃以上にすることができる。
【0039】
また、この場合、連続圧延機3の入側での材料速度を400m/min未満にすることで出側の材料温度を(Md点+150)℃以下にすることができる。
【0040】
さらに、1スタンド当たりで付与する減面率は、特に限定されないが、5〜15%にするのが好ましい。ただし、上記の例のように、圧延後の製品であるSUS303線材Wの断面形状を整えるための最終仕上げスタンドを設置した場合、当該最終仕上げスタンドのロール孔型寸法は、その直前段のロールスタンドのロール孔型寸法と同じにするのが好ましい。
【0041】
【実施例】
まず、素線材としては、直径が5.2mmのSUS303製(Md点=40℃)のものを準備した。
【0042】
一方、連続圧延機としては、SKD11製の4つの孔型ロールを備える27基のロールスタンドからなり、孔型ロール径とスタンド中心間間隔M(図1参照)並びに各スタンドのロール孔型の溝底径Dmが表1示す寸法の連続圧延機を準備した。なお、各スタンドのロール孔型形状は、縁部径Dhと溝底径Dmとの径比(Dh/Dm)が1.04の略円形とした。また、この連続圧延機の各スタンドでの減面率は、9.5%である。ただし、最終の27番目のロールスタンドは、仕上げスタンドとして用いるため、その減面率は0(ゼロ)とした。
【0043】
【表1】
【0044】
そして、常温状態の素線材を連続圧延機に供給し、連続圧延機出側での材料温度を種々変化させるべく、各スタンドの孔型ロールの回転数を制御することで、連続圧延機入側での材料速度を10〜1000m/minの範囲で種々変化させる一方、実際に圧下を加えるロールスタンド数を1づつ増やして冷間にて圧延を行い、表面割れ発生なしに圧延が可能なスタンド数、換言すればトータル減面率(表1に併記)を調べた。その結果を、表2に示した。
【0045】
なお、圧延時中の被比圧延材料には、各スタンドの入側に配置したノズルから常温の水溶性潤滑油(ソルブル油)を吹付けた。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示す結果から明らかなように、連続圧延機出側の材料温度が(Md点+50)℃未満の場合には、13スタンドまでは表面割れが発生しないものの、14スタンドの圧延で表面割れが発生し、トータル減面率で72.8%の加工しかできなかった。
【0048】
これに対し、連続圧延機出側の材料温度を(Md点+50)℃以上とした場合には、最小15スタンドまで表面割れが発生せず、最小16スタンドの圧延で表面割れが発生し、トータル減面率で79.9%以上の加工ができた。ただし、連続圧延機出側の材料温度を(Md点+150)℃超にすると、表面割れは発生しないものの、最小13スタンドの圧延で焼き付きが発生した。
【0049】
また、本実施例の場合、連続圧延機入側での材料速度を30m/min超にすると、(Md点+50)℃以上の出側材料温度が確保できることがわかる。
【0050】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、外径5mm以下のSUS303鋼製のステンレス線材を、既存の4ロールスタンドを連設した連続圧延機により、従来にも増してより高いトータル減面率をもって1パスで加工することが可能である。この結果、中間焼鈍を省略することができるので、SUS303線材の製造コスト低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施態様の一例を示す模式的側面図である。
【図2】好ましいロール孔型の形状を説明するための図である。
【図3】従来の連続伸線法を説明するための模式的側面図である。
【図4】従来の連続圧延法を説明するための模式的側面図である。
【図5】ロールスタンドの配置を説明するための模式的正面図である。
【符号の説明】
1:巻戻機、
2:入側ガイド、
3:連続圧延機、
3a、12:ロールスタンド、
4:巻取機、
SW:素線材、
W:ステンレス線材、
11:孔型ロール、
G4:ロール隙間、
Dm:溝底径、
Dm:縁部径。
Claims (1)
- パスライン回りに配された4つの孔型ロールで構成されるロール孔型が略円形である複数の4ロールスタンドをパスライン方向にタンデムに配置した連続圧延機により、SUS303鋼製の素線材の外径を冷間にて5mm以下に縮径加工する際、連続圧延機出側の線材温度が(Md点+50)℃〜(Md点+150)℃になる条件で縮径加工することを特徴とするSUS303線材の縮径加工方法。
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