JP3605422B2 - ガス発生剤 - Google Patents

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【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、例えばエアバッグを膨張させるためのガス発生装置(以下、単にガス発生器という)に利用されるガス発生剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エアバッグは、例えば自動車の車室内のステアリングホイールに装着され、衝突時に膨張して乗員を保護する。このエアバッグを膨らませるために用いられるガス発生剤としては、アジ化ナトリウムと各種酸化剤とを主成分とするものが知られており、これを燃焼させることにより窒素ガスを発生させ、エアバッグを膨張させる。
【0003】
アジ化ナトリウムを主成分とするガス発生剤は、燃焼によりガス成分としては清浄な窒素ガスだけを発生するので、ガス発生剤としては好ましいものである。しかし、アジ化ナトリウムは強い毒性があり、かつ酸や重金属と接触した際には鋭敏な爆発性物質を形成しやすいため、製造時や廃棄時に特段の注意を払う必要がある。また、アジ化ナトリウムを主成分とするガス発生剤は、燃焼後には腐食性のナトリウムやナトリウム化合物を多量に生成するため、廃棄時にこれらの処理まで実施する必要がある。
【0004】
この問題を解決するために、従来よりアジ化ナトリウムを用いないガス発生剤が多方面で研究されている。例えば、特公昭58−20919号公報には、次の(イ)、(ロ)および(ハ)からなるガス発生剤が開示されている。すなわち、そのガス発生剤は(イ)アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩素酸塩または過塩素酸塩である酸化剤78〜92重量%、(ロ)酢酸セルロース7.9〜17.2重量%、(ハ)炭素を含有する燃焼調節剤0.1〜0.8重量%を有する混成火薬からなっている。炭素を含有する燃焼調節剤としては、例えばアセチレンブラック又はグラファイトが使用される。そして、このガス発生剤は実質的に一酸化炭素を生成せず、水、二酸化炭素および酸素からなる生成ガスを、標準状態において、約0.36リットル/g発生する。
【0005】
また、特公昭57−57150公報には、アゾジカルボンアミド(以下、「ADCA」という)とオキソハロゲン酸塩とからなるガス発生剤が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記前者の公報に記載されているガス発生剤は、燃焼温度が非常に高いので、ガス発生器に組み込まれて使用されたとき、エアバッグの焼損などを防ぐために生成ガスを充分に冷却させる必要がある。そのため、ガス発生器の内部に多量の冷却剤を必要とし、このことはガス発生器を小型化する上での障害となる。
【0007】
一方、後者の公報に記載されているガス発生剤は発生ガス量が多いが、熱安定性が低いという問題がある。
一般に、ガス発生器の小型軽量化は、ガス発生剤の単位重量あたりの生成ガス量をより大きくすることによって、ガス発生器1個あたりのガス発生剤の必要量が少なくなるため、より高度に達成される。しかし、このような小型軽量化はいまだ十分に果たされていない。
【0008】
この発明はこのような従来技術の問題に着目してなされたものである。その目的とするところは、アジ化ナトリウムを含有しないガス発生剤であって、有毒な一酸化炭素を実質的に生成せず、かつ生成ガス量を多くすることにより、ガス発生器内のガス発生剤の量を減らすことが可能となり、ガス発生器の小型化を図ることができるガス発生剤を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明のガス発生剤は、主成分として、ヒドラゾジカルボンアミド(以下、「HDCA」という)とオキソハロゲン酸塩とのみを含有し、ヒドラゾジカルボンアミドの含有量が10〜45重量%であり、オキソハロゲン酸塩の含有量が90〜55重量%であるエアバッグ用のものである。
【0010】
以下に、この発明について詳細に説明する。
HDCAは炭素、窒素、水素、酸素からなる化合物であり、酸化剤と配合されて燃焼した際には、多量の二酸化炭素、水、窒素及び酸素を生成する。このHDCAは従来から発泡剤であるアゾジカルボンアミド(以下、「ADCA」という)の原料、あるいは発泡剤の助剤として用いられており、毒性や危険性も低く、取扱いが容易である。また、HDCAは市販品をそのまま使用しても良く、形状、粒径などはガス発生剤の製造に適したものを適宜選択して使用できるが、良好な燃焼を得るためには30μm以下の粒子径のものが好ましい。
【0011】
オキソハロゲン酸塩は一般的に知られているものが使用でき、その中でもハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩などが、単位重量あたりの酸素ガス発生量が多く、熱安定性が高く、しかも入手が容易であるため好ましい。更に、それらのアルカリ金属塩は、燃焼時に発生する残渣が塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)等の毒性の低い塩であるため好ましい。ハロゲン酸塩のアルカリ金属塩としては、例えば、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウムなどが挙げられる。また、過ハロゲン酸塩のアルカリ金属塩としては過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過臭素酸ナトリウム、過臭素酸カリウムなどが挙げられる。
【0012】
この発明では、オキソハロゲン酸塩から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物を酸化剤として使用でき、形状、粒径などはガス発生剤の製造及び要求される燃焼特性に適したものを適宜選択して使用できる。この場合、良好な燃焼を得るためには300μm以下の粒子径のものが好ましい。
【0013】
この発明のガス発生剤におけるHDCAとオキソハロゲン酸塩の組成は、適度な着火性と燃焼速度が得られる範囲で任意に選択することができ、発生ガス量を大きくするためには可能な限りHDCAを多くすることが好ましいが、燃焼時に一酸化炭素が実質的に生成しない量の酸化剤が必要である。
【0014】
ここで、一酸化炭素が実質的に生成しない条件とは、生成ガス中に占める一酸化炭素の濃度が5000ppm 以下であることを意味する。そして、この条件を満たすためのHDCAの含有量の上限は、酸化剤であるオキソハロゲン酸塩により、理論上完全に酸化できる量、すなわち化学量論量より少ない必要があるという点より設定される。但し、その量は使用する酸化剤の種類により変動する。また、HDCAの含有量の下限は、HDCAが少なくなり過ぎると、ガス発生剤の成形が困難になるという点より設定される。
【0015】
このような観点より、HDCAの含有量は10〜45重量%であり、オキソハロゲン酸塩の含有量は90〜55重量%の範囲である。さらに、HDCAの含有量が25〜45重量%であり、オキソハロゲン酸塩の含有量が75〜55重量%であることが好ましい。例えば、過塩素酸カリウムを酸化剤として使用した場合、過塩素酸カリウム60重量%に対し、HDCA40重量%以下が好ましい。加えて、HDCAにより結合材としての効果を得るためには、ガス発生剤中に10重量%以上配合されることが好ましい。
【0016】
また、この発明のガス発生剤は、HDCAとオキソハロゲン酸塩とを主成分として含有する。両成分が主成分とならない場合には、所要のガス発生量が得られず、ガス発生剤としての機能は果たされない。この発明では、ガス発生剤としての基本的性能を損なわない範囲内で、必要により無機物あるいは有機物のバインダーとなる成分を含んでいても良い。ただし、それらバインダー成分が可燃物である場合、それらを完全に酸化するのに必要な酸化剤の増量が必要となる。また、必要により金属粉やカーボンブラック等の燃焼調整剤を配合することができる。
【0017】
次に、この発明のガス発生剤は、目的とする燃焼特性を得るために適した形状に成形される。この成形は通常の成形方法により行われ、造粒薬状、ペレット状、棒状、ディスク状等に成形される。
【0018】
【作用】
この発明のガス発生剤は、主成分として、HDCAとオキソハロゲン酸塩とのみを含有し、HDCA及びオキソハロゲン酸塩の含有量が所定値に設定されている。ここで用いられるHDCAは従来のADCAに比べて生成熱が小さいため、ガス発生剤の燃焼時の温度が低く保持される。また、HDCAの含有量がオキソハロゲン酸塩に対する化学量論量よりも少ないため、毒性のある一酸化炭素の発生が抑えられるとともに、HDCAの燃焼に使用されなかったオキソハロゲン酸塩の燃焼により酸素ガスが発生するため、大量のガスが生成する。さらに、HDCAはガス発生剤が成形される際に、その粒子同士が結着して、バインダーとしての機能を発現する。
【0019】
また、この発明のガス発生剤は、アジ化ナトリウムを含有していないので、取扱いが容易であり、腐食性のナトリウムやナトリウム化合物を生成するおそれはない。そして、このガス発生剤は着火されて燃焼し、一酸化炭素を実質的に生成せず、水、二酸化炭素、酸素および窒素からなる生成ガスを、例えば標準状態において、約0.4〜0.55リットル/g発生する。
【0020】
【実施例】
以下に、実施例および比較例をあげて、この発明を具体的に説明する。
(実施例1)
原材料として、平均粒径9.6μmのHDCA(永和化成工業(株)製)300g、平均粒径17μmの過塩素酸カリウム(日本カーリット(株)製)700gよりなる組成物を用意した。これに水60gとアセトン240gの混合液を添加した後、品川式混和機((株)三栄製作所の商品名)で約20分間混合した。得られた湿った薬剤を32メッシュの絹網を用いて裏ごしして乾燥することにより、ガス発生剤として粒径約0.5mmの造粒薬を得た。なお、このガス発生剤には水とアセトンは実質上含まれていない。
(実施例2〜3および比較例1〜4)
表1に示す組成で実施例1と同様な方法によりガス発生剤を各々製造し、造粒薬を得た。
(比較例5)
原材料として、酢化度が53%の酢酸セルロース(以下、「CA」という)(帝人(株)製)15重量%、可塑剤としてトリアセチン(以下、「TA」という)((株)大八化学工業所製)6重量%、平均粒径が17μmの過塩素酸カリウム(以下、「KP」という)(日本カーリット(株)製)79重量%よりなる組成物を用意した。これにアセトンとメチルアルコールの混合溶剤を適量加えて均一に混合し、薬塊を調製した。
【0021】
次に、この薬塊を圧伸機に装填した。圧伸機には、予め直径4mmのダイスが取り付けられており、薬塊は圧力によってこのダイスに通されることにより押し出され、棒状に成形される。この成形物を2mmの長さに裁断し乾燥することによって、ペレット状のガス発生剤を得た。
【0022】
前述の方法で得られた実施例1〜3及び比較例1〜5のガス発生剤の造粒薬あるいはペレットについて、示差走査熱量計(セイコー電子(株)製)を用いて分解開始温度を測定した。また、JIS−K−4810の「火薬類性能試験方法」に従い、BAM摩擦、落鎚感度試験により衝撃着火感度を測定した。その結果を表1に示す。表1中、実施例1〜3及び比較例1〜4における過塩素酸カリウムを KClO、塩素酸カリウムを KClOで表した。
【0023】
【表1】
Figure 0003605422
【0024】
表1に示したように、この試験において、HDCAを使用したガス発生剤はADCAを使用した従来のガス発生剤よりも分解開始温度が高く、熱安定性に優れていることがわかる。また、HDCAを使用したガス発生剤は、ADCAを使用したガス発生剤や比較例5に示す様な、従来のガス発生剤よりも衝撃感度が鈍く、取扱いが容易である。
【0025】
また、実施例1〜3および比較例1〜4のガス発生剤の造粒薬をロータリー打錠機でプレス成形することによりペレット状のガス発生剤を得ることができる。これらのペレットおよび比較例5のペレット状ガス発生剤を、標準状態における生成ガス量が約30リットルとなるように、図1に示されるガス発生器内に装填した。すなわち、同図において、円筒状に形成されたガス発生器1は、その中心部に配置された点火室2と、その外周に同心円状に形成された燃焼室3と、さらにその外周に同心円状に形成された冷却捕集室4とを備えている。
【0026】
電気点火器5及び点火薬6は点火室2内に配置され、通電されると点火される。ペレット状のガス発生剤7は燃焼室3内に装填され、点火薬6の点火による火炎で燃焼して窒素ガスなどのガスを発生する。冷却捕集材8,9は燃焼室3および冷却捕集室4内に配置され、生成ガスの冷却および固体の燃焼残渣を濾過捕集する。
【0027】
複数の通気孔10,11は点火室2と燃焼室3との隔壁12および燃焼室3と冷却捕集室4との隔壁13にそれぞれ設けられ、点火薬6の点火による火炎の伝播や生成ガスの流通を行う。ガス噴出孔14は冷却捕集室4の周壁15に透設され、冷却捕集室4で冷却されたガスがエアバッグ16内に噴出される。
【0028】
そして、車両の衝突時などにおける信号に基づいて点火器5により点火薬6が着火されると、その炎が通気孔10を介して燃焼室3に伝播され燃焼室3内のガス発生剤7が燃焼してガスを生成する。この生成ガスは冷却捕集材8、通気孔11を介してガス噴出孔14から噴出される。
【0029】
次に、このガス発生器1を60リットルのタンクに取付けて作動させた場合のタンク内温度を、素線径が50μmのアルメルクロメル型熱電対で測定した。これらの結果を表2に示す。なお、表2中の生成ガス量は1gのガス発生剤が燃焼した際に生成する二酸化炭素、水、酸素、および窒素の標準状態における合計容積を示す。
【0030】
【表2】
Figure 0003605422
【0031】
比較例1あるいは比較例4の結果から、化学量論量よりも多くのHDCAあるいはADCAを配合した場合、酸素量が不足するため多量の一酸化炭素が発生し、エアバッグ用ガス発生剤として適さないことがわかる。また、実施例1〜3より、HDCAの含有量が25〜45重量%、オキソハロゲン酸塩の含有量が75〜55重量%の範囲が好ましいことがわかる。
【0032】
さらに、実施例1と比較例2を比較した場合、HDCAを使用したガス発生剤の方が生成ガス量が増大し、かつタンク内ガス温度の低下が見られた。加えて、HDCAを使用したガス発生剤は、比較例5に示す従来のガス発生剤と比較して、生成ガス量が大きく増大し、タンク内ガス温度も低下している。
【0033】
なお、前記実施態様より把握される請求項以外の技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
(1)ヒドラゾジカルボンアミドの含有量が25〜45重量%であり、オキソハロゲン酸塩の含有量が75〜55重量%である請求項1に記載のガス発生剤。この構成によって、ガス発生剤の燃焼により毒性のあるガスを発生させることなく、大量のガスを効果的に発生させることができる。
(2)オキソハロゲン酸塩がハロゲン酸塩又は過ハロゲン酸塩である請求項1に記載のガス発生剤。この構成によって、ガス発生剤は単位重量あたりの酸素ガス発生量が多く、しかも熱安定性が高い。
(3)ハロゲン酸塩又は過ハロゲン酸塩がハロゲン酸又は過ハロゲン酸のアルカリ金属塩である上記(2)に記載のガス発生剤。この構成により、ガス発生剤の燃焼時に発生する残渣が塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの毒性の低い塩となり、取扱いが容易となる。
【0034】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明のガス発生剤によれば、アジ化ナトリウムを含有しないものであり、一酸化炭素を実質的に生成せず、かつ生成ガス量が多く、ガス発生器内のガス発生剤の量を減らすことが可能となり、ガス発生器の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を具体化したガス発生剤を収容するガス発生器の断面図である。
【符号の説明】
1…ガス発生器、7…ガス発生剤。

Claims (1)

  1. 主成分として、ヒドラゾジカルボンアミドとオキソハロゲン酸塩とのみを含有し、ヒドラゾジカルボンアミドの含有量が10〜45重量%であり、オキソハロゲン酸塩の含有量が90〜55重量%であるエアバッグ用のガス発生剤。
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