まず、本実施形態の着火剤が適用される乗員保護装置を構成するプリテンショナー用ガス発生器及びエアバッグ用ガス発生器について説明する。
まず、プリテンショナー用ガス発生器について説明する。
自動車室内の座席の横にはプリテンショナーが配設されている。図3(a)、(b)に示すように、このプリテンショナー10を構成する本体11の上面にはプリテンショナー用ガス発生器12が取付けられている。プリテンショナー用ガス発生器12の後部〔図3(a)の左側〕には略L字状に形成されて内部をガスが流通するシリンダ13が連結されている。本体11後部には回転ドラム14が回転可能に支持され、シートベルト15の一端が巻付けられると共に、ピストンロッド16の下端が接続されている。シリンダ13内に位置するピストンロッド16の中間部にはピストン17が固着され、プリテンショナー用ガス発生器12から発生するガスによって上昇するようになっている。シリンダ13内のピストンロッド16より上方位置には上部ほど縮径された円筒状をなすストッパ18が固定され、ピストン17の上昇を所定位置で規制するようになっている。尚、シリンダ13の上端部には有蓋円筒状のキャップ19が被せられている。
図2に示すように、プリテンショナー用ガス発生器12はそのホルダー20の一端に有蓋円筒状の装填容器21が取付けられて構成されている。ホルダー20の一端の中心位置には点火部としての電気点火具22が支持されている。この電気点火具22の底部にはリード線23が接続され、電気点火具22に通電して点火するようになっている。装填容器21内は燃焼室24となり、その燃焼室24内には円柱状をなすプリテンショナー用のガス発生剤25と、それより小さく形成された円柱状の着火剤26とが混合された状態で装填されている。装填容器21の蓋部中心には放射状に延びる複数の溝27が凹設されている。そして、電気点火具22に点火されると燃焼室24内の着火剤26及びガス発生剤25が着火及び燃焼され、生成したガスが強度の弱い溝27の部分を破ってシリンダ13内に放出され、ピストン17を移動させて回転ドラム14の回転によりシートベルト15を引き込むように構成されている。
次に、エアバッグ用ガス発生器について説明すると、図5に示すように、エアバッグ用ガス発生器30は円筒状に形成され、その中心に設けられた点火部31と、その外周に同心円状に形成された燃焼室32とを備えている。点火部31は、電気点火器34とその上部に配置された点火薬35とで構成され、電気点火器34に通電されると点火薬35が点火されるようになっている。点火部31と燃焼室32との間には隔壁36が設けられ、該隔壁36には複数の通気孔37が透設され、点火薬35の点火による火炎を点火部31から燃焼室32へ導くようになっている。
燃焼室32内には、円柱状をなすガス発生剤38とそれより小さい円柱状の着火剤39とが混合された状態で装填されている。尚、着火剤39を前記点火部31の空隙部28に配置することも可能であるが、前記のように燃焼室32内に装填することが好ましい。更に、燃焼室32内の外周部には同心円状に形成されたフィルター42が配置され、生成ガスの冷却及び固体の燃焼残渣を濾過捕集する。燃焼室32の周壁43には複数のガス噴出孔44が透設され、フィルター42で冷却されたガスがエアバッグ45内に噴出され、エアバッグ45を膨張させるように構成されている。
非アジド系ガス発生剤は、燃焼した際に発生する燃焼ガスによりエアバッグ45を膨張させたり、またプリテンショナー10のピストン17を瞬間的に移動させたりする役割を果たすものであり、ガス発生器内に多量に装填される。そのため、燃焼ガス中に一酸化炭素、窒素酸化物及び塩化水素等の有害なガスが発生すると人体に悪影響を及ぼす可能性があるため、有害なガスが発生しない組成比率にしなければならず、またガス化率を高くすることが望まれるものである。更に、使用する用途により作動時間、すなわち燃焼速度がそれぞれ決められており、その燃焼速度を有するものでなければ使用することはできない。
一方、着火剤26、39は、着火性及び燃焼性の悪い非アジド系ガス発生剤と併用し、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を改善するために使用されるものである。そのため、着火剤26、39は、非アジド系ガス発生剤より着火性に優れたものでなければならず、かつ非アジド系ガス発生剤よりも燃焼性に優れたものでなければならない。また、着火剤26、39は、非アジド系ガス発生剤に比べて使用量が少ないため、ガス化率及び燃焼ガス成分に関してはあまり考慮する必要はない。
前記燃焼速度は、点火部に対する通電開始から燃焼室24、32で発生したガスによる最大圧力までの到達時間によって規定される。そして、着火剤26、39の到達時間が非アジド系ガス発生剤の到達時間より短くなるように設定される。非アジド系ガス発生剤は着火性に乏しいため、そのような非アジド系ガス発生剤と共に着火性及び燃焼性の優れた着火剤26、39を配置させることにより、点火部から発生する火炎が着火剤26、39に瞬時に伝播され、着火剤26、39が着火する。それと同時に、着火剤が燃焼することにより生じた火炎が、非アジド系ガス発生剤を瞬時に燃焼させるため、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性が向上されると考えられる。
また、着火剤26、39は、燃焼方向における最小寸法が0.1〜3.0mm程度の粒状や燃焼方向における最小寸法が0.01〜1mm程度の粉状であることが好ましい。これらの粒状や粉状は、必ずしも球状や円柱状のように定形型に成形されていなくてもよく、表面が凹凸になっていたり、歪んだ形状である不定形型であってもよい。更に、着火剤26、39は乗員保護装置に用いられるものであり、ガス発生剤25、38を装填するガス発生器内に収納できなければならないものである。そのため、装填するガス発生器の寸法により着火剤26、39の形状は限定される。例えば、プリテンショナー10として使用する場合には、着火剤26、39の外径は8mm以下、長さは15mm以下であることが好ましい。
着火剤26、39の前記到達時間は、密閉容器内に着火剤又はガス発生剤を装填密度0.059g/mlとなるように装填したときの燃焼試験で点火部に対する通電開始から密閉容器内で発生したガスによる最大圧力までの到達時間で判断される。具体的な到達時間の測定は、後述する密閉ボンブ燃焼試験によって行われるが、その到達時間は着火剤について5〜20ミリ秒であり、非アジド系ガス発生剤について25〜100ミリ秒であることが好ましく、着火剤について10〜15ミリ秒であり、非アジド系ガス発生剤について30〜65ミリ秒であることがより好ましい。
着火剤26、39の到達時間が5ミリ秒未満ではガス発生速度が速くなり過ぎ、着火剤26、39が瞬時に燃え尽きてしまうため、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させることが困難となる。一方、着火剤26、39の到達時間が20ミリ秒を越える場合には、ガス発生速度が遅くなり過ぎて非アジド系ガス発生剤に近いガス発生速度となるため、ガス発生剤25、38の着火性及び燃焼性を向上させることが困難となる。また、非アジド系ガス発生剤の到達時間が25ミリ秒未満ではガス発生速度が速くなり過ぎる傾向にある。一方、非アジド系ガス発生剤の到達時間が100ミリ秒を越える場合には、ガス発生速度が遅くなり過ぎてプリテンショナー用ガス発生器12やエアバッグ用ガス発生器30に適用することが困難となる。
次に、着火剤26、39の形状について説明する。着火剤26、39の燃焼方向における最小寸法は非アジド系ガス発生剤の燃焼方向における最小寸法より小さくなるように構成される。このように構成することにより、着火剤26、39が非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を高めることができる。更に、着火剤26、39の燃焼方向における最小寸法は0.01〜3.0mm及び非アジド系ガス発生剤の燃焼方向における最小寸法が0.3〜4.0mmの範囲で、着火剤26、39の燃焼方向における最小寸法が非アジド系ガス発生剤の燃焼方向における最小寸法より小さくなるように設定されることが好ましい。
この着火剤26、39の形状は、上記の条件を満たせば特に限定されず、優れた着火性を発揮できるものであればいずれも使用できる。具体的には、例えば、無孔円柱状、有孔円柱状、有孔六角状、有孔異形状等の形状が挙げられる。すなわち、着火剤26、39の形状は図1(a)に示すような円柱体70、図1(b)に示すような軸線方向に延びる貫通孔71を有する円柱体72、又は図1(c)に示すような7個の貫通孔71を有する円柱体73が挙げられる。更に、図1(d)に示すような7個の貫通孔71を有する異形柱体74、図1(e)に示すような7個の貫通孔71を有する六角柱体75が挙げられる。加えて、図1(f)に示すような円板76、図1(g)に示すような貫通孔71を有する円板77等が挙げられる。円柱体70及び円板76は無孔円柱体に相当し、円柱体72、73、異形柱体74、六角柱体75及び円板77は有孔円柱体に相当する。
ここで、着火剤26、39の燃焼方向について説明する。図1(a)に示す円柱体70の場合には、燃焼方向Pは図中の矢印で示すように高さ方向の上端及び下端から上下の中央に向かう方向及び周囲から中心に向かう方向である。図1(b)に示す円柱体72の場合には、燃焼方向Pは図中の矢印で示すように高さ方向の上端及び下端から上下の中央に向かう方向及び外周及び内周から厚みの中央に向かう方向である。
図1(c)〜(e)に示す着火剤26、39では、外周の貫通孔71の中心を結ぶ形状はいずれも正六角形をなし、隣接する3つの貫通孔71の中心を結ぶ形状は全て正三角形をなしている。従って、前記した各3つの貫通孔71間は全て等距離となっている。また、着火剤26、39は、車両等の乗員保護装置に用いられるものであるため、前記の到達時間を5〜20ミリ秒に調整し、また着火性能のばらつきを極力抑制する必要がある。そのためには、着火剤26、39の燃焼方向における最小寸法を0.01〜3mmに調整し、できる限り一定の形状にすることが好ましい。この燃焼方向における最小寸法が0.01mm未満又は燃焼方向における最小寸法が3mmを越える場合には、前記到達時間が5〜20ミリ秒の範囲を満足できなくなるおそれがある。
上記の最小寸法について説明すると、図1(a)に示す円柱体70の場合には、最小寸法Lは円柱の直径を表す。図1(b)に示す円柱体72の場合には、最小寸法Lは円筒の外径と内径との差である厚みを表す。図1(f)に示すような円板76の場合には、最小寸法Lは円板の厚みを表す。図1(g)に示すような貫通孔71を有する円板77の場合には、最小寸法Lは外径と内径との差である厚みを表す。いずれの場合にも、燃焼方向Pは複数存在するため、最小寸法はそれらの燃焼方向Pにおける寸法のうち最も短くなる寸法をいう。このように規定される最小寸法を前記条件に設定することにより、着火剤26、39の前記到達時間を達成することができる。一方、例えば図1(a)及び図1(b)の場合の高さに相当する最大寸法は、前記到達時間の短縮への寄与は少ない。
着火剤26、39の形状が無孔円柱状の場合には、外径0.1〜2mm、長さ0.1〜3mmに調整されていることが好ましい。非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させる効率を考慮すれば、外径0.1〜1mm、長さ0.5〜2mmであることがより好ましい。更に着火剤26、39の機械的特性及びガス発生器内への装填性を考慮すれば、外径0.2〜0.8mm、長さ1〜2mmであることが特に好ましい。外径又は長さが0.1mm未満では着火剤26、39の成形が困難となる傾向にある。外径が2mm又は長さが3mmを越えた場合には、ガス発生器に必要量の着火剤26、39を装填できなくなる場合がある。
着火剤26、39の形状が有孔円柱状ならば、外径0.3〜3mm、内孔径0.1〜1mm、長さ0.1〜3mm、厚さ0.1〜1.5mmに調整されていることが好ましい。非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させる効率を考慮すれば、外径0.3〜2mm、内孔径0.1〜0.8mm、長さ0.5〜2mm、厚さ0.1〜1mmであることがより好ましい。更に着火剤26、39の機械的特性及びガス発生器内への装填性を考慮すれば、外径0.5〜1.6mm、内孔径0.1〜0.5mm、長さ1〜2mm、厚さ0.2〜0.8mmであることが特に好ましい。
ここで、内孔径について説明すると、例えば7孔円柱状の場合には、内孔が7個存在するが、各々の内孔径の大きさを示しており、内孔7個の合計の大きさを示しているものではない。厚さ又は長さが0.1mm未満では成形が困難となる傾向にある。外径が3mm又は長さが3mmを越える場合には、ガス発生器に必要量の着火剤26、39を装填できなくなるおそれがある。更にまた、厚さが1.5mmを超える場合には、着火剤26、39の燃焼時間が長くなり、着火性を十分に発揮できなくなる場合がある。
着火剤26、39の形状が粉状であれば、燃焼方向における最小寸法が0.01〜1mmに調整されていることが好ましい。非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させる効率を考慮すれば、燃焼方向における最小寸法が0.01〜0.5mmであることがより好ましい。更に着火剤26、39の機械的特性及びガス発生器内への装填性を考慮すれば、燃焼方向における最小寸法が0.02〜0.1mmであることが特に好ましい。
次に、着火剤26、39と併用される非アジド系ガス発生剤の形状について説明する。非アジド系ガス発生剤の形状は、特に限定されないが一般に粒状又は粉状であり、着火剤26、39に用いられる形状であってもよい。具体的には、例えば、無孔円柱状、有孔円柱状、有孔六角状、有孔異形状等の形状である。更に、非アジド系ガス発生剤の形状は、ガス発生剤として要求される燃焼速度、ガス発生器内へ装填するための装填性等を考慮して適宜決定される。
非アジド系ガス発生剤の形状が無孔円柱状の場合には、外径0.3〜3mm、長さ0.3〜4.0mmに調整されていることが好ましい。ガス発生器内への装填性及び製造性を考慮すれば、外径0.5〜2.5mm、長さ0.8〜3mmであることがより好ましく、外径0.8〜2mm、長さ1.3〜2.5mmであることが特に好ましい。外径又は長さが0.3mm未満では必要となる量がガス発生器内に装填できないおそれがあり、更にまた、製造性が悪くなる傾向にある。非アジド系ガス発生剤の外径が3mm又は長さが4mmを越える場合には、嵩密度が低くなり、ガス発生器に必要量の非アジド系ガス発生剤を装填できなくなるおそれがある。
非アジド系ガス発生剤の形状が有孔円柱状ならば、外径0.5〜3.5mm、内孔径0.1〜1.5mm、長さ0.5〜3.5mm、厚さ0.2〜2mmに調整されていることが好ましい。ガス発生器内への装填性及び製造性を考慮すれば、外径1〜2.5mm、内孔径0.1〜1.3mm、長さ1〜3mm、厚さ0.3〜1.5mmであることがより好ましく、外径1.3〜2mm、内孔径0.1〜1mm、長さ1.5〜2.5mm、厚さ0.5〜1.3mmであることが特に好ましい。
厚さが0.2mm未満には必要となる量がガス発生器内に装填できない可能性がある。更にまた、燃焼時間が短くなり、非アジド系ガス発生剤としての性能を十分に発揮できなくなるおそれがある。厚さが2mmを超える場合には、燃焼時間が長くなり、非アジド系ガス発生剤としての性能を十分に発揮できなくなる場合がある。外径又は長さが3.5mmを越えた場合には、嵩密度が低くなり、ガス発生器に必要量の非アジド系ガス発生剤を装填できなくなるおそれがある。
次に、着火剤26、39の製造方法について説明する。
着火剤26、39を押出成形法にて粒状に成形する場合には、最初に酸化剤、高分子系結合剤を必須とする燃料及び必要により可塑剤、経時安定剤、スラグ形成剤等を所定量計量する。その後、水又は有機溶剤を加え、捏和機内にて均一な塊状体を調製する。
押出成形法に用いられる有機溶剤としては、高分子系結合剤を溶解又は膨潤させるもの全てが使用可能である。例えば、アセトン、エチルアルコール、酢酸エチル等の有機溶剤が挙げられる。これらの混合溶液も使用可能である。この場合、例えばアセトンとエチルアルコールの混合溶液における配合割合は、質量比でアセトン/エチルアルコール=90/10〜20/80が好ましい。着火剤26、39の成形性を考慮すれば、質量比でアセトン/エチルアルコール=80/20〜40/60が特に好ましい。なぜならば、アセトンのみでは蒸発速度が速いため着火剤26、39の製造が困難となり、逆にエチルアルコールのみでは結合剤を完全に溶解又は膨潤させることが困難となるからである。そして、均一に混合された塊状体を押出装置に装填し、所定の圧力を加え、ダイスの孔を通しながら押し出すことにより所定の形状とし、その後所定の長さに切断し、乾燥させて成形する。
着火剤26、39を造粒成形法にて粒状に成形する場合には、最初に酸化剤、燃料及び必要により可塑剤、経時安定剤、スラグ形成剤等を所定量計量する。その後、水又は有機溶剤を加え、捏和機内にて均一な塊状体を調製する。造粒成形法に用いられる有機溶剤としては、原料成分の混合性、加工性を向上させるもの全てが使用可能である。例えば、アセトン、エチルアルコール等の有機溶剤が挙げられる。
また、水とこれらの有機溶剤の混合溶液も使用可能である。例えば、水とアセトンの混合溶液における配合割合は、質量比で水/アセトン=10/90〜70/30が好ましい。着火剤26、39の混合性、加工性及び成形性を考慮すれば、質量比で水/アセトン=10/90〜50/50が特に好ましい。なぜならば、アセトンのみでは蒸発速度が速いため着火剤26、39の製造が困難となり、逆に水のみでは、造粒物が乾燥しにくいため製造性に問題を生じるからである。
そして、均一に混合された塊状体を造粒装置に装填し、所定の圧力を加え、パンチングメタルの孔を通しながら押し出すことにより所定の形状とし、その後乾燥させて成形する。また、粒状の着火剤26、39中に、アセトン、エチルアルコール、酢酸エチル等の有機溶剤が多く含有されていると燃焼性能の低下がみられるため、有機溶剤をできる限り取り除くことが好ましい。乾燥終了時の有機溶剤分は通常0.5質量%、水分は1.0質量%以下が好ましく、成形後の取扱いを考慮すれば有機溶剤分0.3質量%以下、水分0.5質量%以下が更に好ましい。この乾燥終了時の有機溶剤分は0.1質量%以下、水分は0.2質量%以下が特に好ましい。この有機溶剤分が0.5質量%又は水分が1.0質量%を越える場合、着火剤26、39のガス発生速度や機械的物性が低下する傾向がある。
次に、着火剤26、39と非アジド系ガス発生剤の配合割合について説明する。この配合割合は、非アジド系ガス発生剤が60〜98質量%で着火剤26、39が2〜40質量%であることが好ましい。また、プリテンショナー10に使用する場合には、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させる効率を考慮すれば、非アジド系ガス発生剤が60〜95質量%で、着火剤26、39が5〜40質量%であることがより好ましい。更に、ガス化率及びガス発生器内への装填性を考慮すれば、非アジド系ガス発生剤が80〜95質量%で着火剤26、39が5〜20であることが特に好ましい。エアバッグ45に使用する場合には、非アジド系ガス発生剤が60〜85質量%で、着火剤26、39が15〜40質量%であることがより好ましく、非アジド系ガス発生剤が70〜85質量%で、着火剤26、39が15〜30質量%であることが特に好ましい。
着火剤26、39の割合が2質量%未満では着火性を十分に発揮させることができず、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を向上させることが困難となる。一方、着火剤26、39の割合が40質量%を越える場合には、ガス発生速度が速くなり過ぎて要求値を満足できなくなる傾向にあり、またガス化率が低下する傾向にある。着火剤26、39と非アジド系ガス発生剤を併用する際には、必ず着火剤26、39の燃焼速度の方が非アジド系ガス発生剤の燃焼速度よりも速いものでなければならない。なぜならば、非アジド系ガス発生剤よりも燃焼速度が遅い着火剤26、39を使用しても、非アジド系ガス発生剤の着火性及び燃焼性を改善できないからである。
また、着火剤26、39と非アジド系ガス発生剤の形状は同一のものでもよい。但し、前記のように着火剤26、39の燃焼速度が非アジド系ガス発生剤の燃焼速度よりも速くなければならない。このため、同一形状の着火剤26、39と非アジド系ガス発生剤を併用する場合には、異なる原材料を使用したり、酸化剤と燃料との配合比率を調整したりすることにより、着火剤26、39の燃焼速度を非アジド系ガス発生剤の燃焼速度よりも速くさせる必要がある。
着火剤26、39は、非アジド系ガス発生剤と共に使用される。その形態としては、前記のように両者を混合して用いる形態のほか、着火剤26、39を点火部の近傍位置に配置し、ガス発生剤25、38を点火部から離れた位置に配置する形態等も採用される。また、着火剤26、39の着火性を最も発揮させることができるのは、アンモニウム酸素酸塩を酸化剤とする非アジド系ガス発生剤と併用させる場合である。なぜならば、アンモニウム酸素酸塩を酸化剤として使用する非アジド系ガス発生剤は、ガス化率は非常に高いものの、着火性及び燃焼性が極めて乏しいものであり、ガス発生剤単独では燃焼性能の要求を満足させることができず、着火剤26、39の併用が必須となるからである。
着火剤26、39は、プリテンショナー10用及びエアバッグ45用として使用可能なものである。また、エアバッグ45用に比べて速いガス発生速度が要求され、また通電開始から最大圧力までの燃焼が直進性のある燃焼カーブであることを要求されるプリテンショナー10に使用することがより好ましいものである。
次に、着火剤26、39の組成について説明する。この着火剤26、39は、酸化剤及び燃料のほか、可塑剤、経時安定剤、スラグ形成剤等により構成される。着火剤26、39に使用される酸化剤は特に限定されず、いずれもが使用できる。酸化剤として具体的には、例えば硝酸塩、亜硝酸塩、オキソハロゲン酸塩等が挙げられる。
硝酸塩としては、例えば、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等のアルカリ金属塩、硝酸バリウム、硝酸ストロンチウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。亜硝酸塩としては、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等のアルカリ金属塩、亜硝酸バリウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。オキソハロゲン酸塩としては、例えばハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩等が挙げられる。ハロゲン酸塩の具体例としては、例えば塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム等のアルカリ金属塩、塩素酸バリウム、塩素酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩、塩素酸アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。過ハロゲン酸塩の具体例としては、例えば過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム等のアルカリ金属塩、過塩素酸バリウム、過塩素酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩、過塩素酸アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
着火性及び燃焼性を考慮すれば、カリウム塩、具体的には硝酸カリウム、亜硝酸カリウム、塩素酸カリウム及び過塩素酸カリウムが好ましく、過塩素酸カリウムが特に好ましい。また、燃焼性を考慮すれば、アンモニウム塩、具体的には硝酸アンモニウム、塩素酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウムが好ましく、過塩素酸アンモニウムが特に好ましい。過塩素酸アンモニウムは燃焼時に塩化水素を発生するため、硝酸ナトリウムのような塩素掃去剤を配合して塩化水素の放出を防止することが好ましい。
酸化剤の形状は、混合性と燃焼性から粉末であることが望ましい。粉末の平均粒子径は1〜200μmであることが好ましい。この平均粒子径が1μm未満の場合、製造が困難となる傾向にある。一方、平均粒子径が200μmを越える場合、製造中に目詰まりを起こして製造できなくなる傾向にあり、また着火性が悪く、燃焼速度が遅くなる傾向にある。
更に着火剤の製造性及び燃焼性を考慮すれば、その平均粒子径は1〜100μmであることがより好ましく、1〜50μmであることが特に好ましい。酸化剤の配合量は、酸化剤と燃料の総質量に対して好ましくは68〜98質量%、より好ましくは78〜96質量%、特に好ましくは82〜95質量%である。酸化剤の配合量が68質量%未満の場合、着火剤26、39の着火性が悪く、また燃焼速度が遅くなる傾向にあるため、着火剤としての機能を果たせない傾向にある。一方、酸化剤の配合量が98質量%を超える場合、着火剤26、39の機械的物性が低下する傾向にある。
次に、燃料について説明する。着火剤26、39に使用される燃料としては、特に限定されず、いずれもが使用できる。具体的には、例えば高分子結合剤、粉末状微結晶炭素、含窒素化合物等が挙げられる。
続いて、高分子結合剤について説明する。高分子結合剤とは、粉体状の構成成分を粒状に賦形する結合剤としての機能と、燃料としての機能とを併せ持つものである。高分子結合剤の中でも、酸化剤や燃料の粉体状の構成成分を賦形する能力の高い酢酸セルロ−ス、酢酸酪酸セルロ−ス又はエチルセルロ−ス等のセルロース系結合剤が好ましい。
次いで、粉末状微結晶炭素について説明する。粉末状微結晶炭素としては、活性炭、木炭、コークス、獣炭、骨炭、瀝青炭等が挙げられる。これらの粉末状微結晶炭素の中でも、酸化剤との反応性の高い活性炭及び木炭が好ましい。粉末状微結晶炭素は混合性と燃焼性から粉末であることが望ましい。その平均粒子径は0.1〜200μmであることが好ましい。0.1μm未満の場合、粒状体の成形が困難となる傾向にある。一方、平均粒子径が200μmを越える場合、着火剤26、39の製造中に目詰まりを起こして製造できなくなる可能性があり、また着火性が悪く、燃焼速度が遅くなる傾向にある。
更に、着火剤26、39の機械的物性及び燃焼性能を考慮すれば、その平均粒子径は1〜100μmであることがより好ましく、1〜50μmであることが特に好ましい。更に、粉末状微結晶炭素の比表面積は、5〜1600m2/gが好ましい。粉末状微結晶炭素の比表面積が5m2/g未満の場合、着火剤26、39の燃焼速度が遅くなる傾向にある。一方、粉末状微結晶炭素の比表面積が1600m2/gを越える場合、粉末状微結晶炭素の製造性が悪くなる傾向にある。しかも、着火剤26、39の機械的物性及び燃焼性を考慮すれば、その比表面積は10〜1500m2/gであることがより好ましく、50〜1300m2/gであることが特に好ましい。
続いて、含窒素化合物について説明する。この含窒素化合物としては、ニトラミン化合物、グアニジン誘導体、テトラゾール誘導体、ビテトラゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ヒドラジン誘導体、トリアジン誘導体、アミノ酸誘導体、酸アミド誘導体等が挙げられる。また、含窒素化合物の平均粒子径は1〜200μmであることが好ましい。この平均粒子径が1μm未満では粒状体の成形が困難となる傾向にある。一方、平均粒子径が200μmを越えると着火剤26、39の製造中に目詰まりを起こして製造できなくなる傾向にあり、また着火性が悪く、燃焼速度が遅くなる傾向にある。更に機械的物性及び燃焼性を考慮すれば、その平均粒子径は1〜100μmであることがより好ましく、1〜30μmであることが特に好ましい。
燃料の配合量は、酸化剤及び燃料の総質量に対して、好ましくは2〜32質量%、より好ましくは4〜22質量%、特に好ましくは5〜18質量%である。燃料の配合量が2質量%未満の場合、機械的特性が低下し、またガス発生量も低下する傾向にある。燃料の配合量が32質量%を超える場合、着火剤26、39の着火性が悪く、また燃焼速度が遅くなる傾向にあるため、着火性が低下する傾向にある。
更に着火剤26、39には可塑性を付与し、成形性を向上させるために可塑剤を配合させることができる。そのような可塑剤としては、結合剤と相溶性の良いものであれば全て使用できる。例えば、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチル等の脂肪酸エステル可塑剤;ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート等のフタル酸ジエステル可塑剤が挙げられる。
可塑剤の配合量は、着火剤26、39中において、15質量%以下が好ましい。可塑剤の配合量が15質量%を越えると可塑剤としての効果は多大となるが、他の成分の配合量が低下するため燃焼性及び着火性が悪くなる傾向にある。更に燃焼性及び着火性を考慮すれば、可塑剤の配合量は1〜12質量%がより好ましく、1〜8質量%が特に好ましい。
更に着火剤26、39には、長期間に渡る安定性を向上させるために経時安定剤を配合させることができる。そのような経時安定剤としては、経時安定性を向上させることが可能であれば全て使用できる。着火剤26、39の経時安定性や燃焼初期の着火性に優れる点で、ジフェニルアミンやジエチルジフェニルウレアが特に好ましい。
経時安定剤の配合量は、着火剤26、39中において、10質量%以下が好ましい。10質量%を越えると安定剤としての効果は多大となるが、他の成分の配合比率が低下するため燃焼性及び着火性が悪くなる傾向にある。着火剤26、39の経時安定性を向上させ、更に燃焼性及び着火性を考慮すれば、0.2〜5質量%がより好ましく、0.2〜3質量%が特に好ましい。
更に着火剤26、39には、酸化剤等の分解により生成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物をミストとしてガス発生器外へ放出することを抑制するため、スラグ形成剤を配合させることができる。スラグ形成剤としては、シリカ、アルミナ及び酸性白土が好ましい。
スラグ形成剤の配合量は、着火剤26、39中において、10質量%以下が好ましい。スラグ形成剤の配合量が10質量%を越えるとスラグ形成剤としての効果は多大となるが、他の成分の配合比率が低下するため燃焼性及び着火性が悪くなる傾向にある。更に燃焼性及び着火性を考慮すれば、配合量は1〜5質量%の範囲がより好ましく、1〜3質量%の範囲が特に好ましい。
前記密閉ボンブ燃焼試験は以下に示す方法により行った。
まず、密閉ボンブ燃焼試験装置について説明する。図4に示すように、ボンブ本体50内には容積が70mlの円柱状をなす燃焼空間51が設けられ、その燃焼空間51にはガス発生剤25、38又は着火剤26、39が装填される。上記燃焼空間51の容積は、直径35mm、深さ75mmの円柱体の容積から栓体52の一部等の容積を差し引いて算出されたものである。ボンブ本体50の一端側には燃焼空間51内にガス発生剤25、38又は着火剤26、39を装填したり、密閉したりするための栓体52が装着され、ボルト53により着脱可能になっている。同じくボンブ本体50の一端側には接続配線54を介して点火装置56が接続されると共に、接続配線55はボンブ本体50に接続されている。
燃焼空間51内における栓体52の内端面には一対の電極57、58が取り付けられて、一方の電極57には前記一方の接続配線54が接続され、他方の電極58はボンブ本体50に接続されている。両電極57,58には接続線を介して点火玉(ボロン硝石0.5g付き)59が取り付けられている。そして、点火装置56を作動させることにより接続配線54,55、電極57,58などを経て点火玉59が点火し、燃焼空間51のガス発生剤25,38又は着火剤26,39を着火させて燃焼させるようになっている。
ボンブ本体50の側面には、ガス抜き用バルブ60が取り付けられており、サンプリング管61を介して燃焼空間51と連通されている。このガス抜き用バルブ60から燃焼空間51内のガスをサンプリングし、その燃焼特性を評価できるようになっている。尚、ボンブ本体50の他端面には圧力変換器62が取り付けられ、連通管63を介して燃焼空間51と連通されている。この圧力変換器62により通電開始から最大圧力までの到達時間を求めることができるようになっている。
そして、栓体52を抜いた状態で燃焼空間51内にガス発生剤25、38又は着火剤26、39を装填する。その際に装填する装填量は、装填密度0.059g/mlとした。次いで、栓体52を閉め、点火装置56にて燃焼空間51のガス発生剤25、38又は着火剤26、39を着火する。そして、燃焼した際の燃焼時間と燃焼圧力との関係を圧力変換器62を介してオシロスコ−プ(図示せず)にて計測し、通電開始から最大圧力までの到達時間を求めた。尚、エアバッグ用ガス発生剤に要求される通電開始から最大圧力までの到達時間は通常50〜65ミリ秒であり、プリテンショナー用ガス発生剤に要求される通電開始から最大圧力までの到達時間は通常15〜30ミリ秒である。
さて、プリテンショナー用ガス発生器12においては、車両の衝突時などにおける信号に基づいて、電気点火具22への通電により燃焼室24内の着火剤26が着火されると共に、非アジド系のガス発生剤25が燃焼され、窒素ガス等の燃焼ガスが生成する。このとき、着火剤26の燃焼方向における最小寸法がガス発生剤25の燃焼方向における最小寸法より小さくなるように設定されていることから、電気点火具22への通電によって着火剤26が着火され、それと同時にその着火剤の炎によりガス発生剤25が速やかに燃焼する。また、着火剤26はガス発生剤25と混合された状態で燃焼室24内に配置されているので、着火剤26の着火に基づくガス発生剤25の燃焼が燃焼室24内の全体に渡って均等に進行する。
燃焼室24内で生成された燃焼ガスは溝27が形成された部分を破ってシリンダ13内へ噴出され、ピストン17をピストンロッド16と共に移動させる。ピストンロッド16の移動によって回転ドラム14が回転され、シートベルト15が引き込まれる。
また、エアバッグ用ガス発生器30においては、車両の衝突時などにおける信号に基づいて、電気点火器34への通電により点火薬35が点火される。その点火による炎が通気孔37を介して燃焼室32に伝播され、燃焼室32内の着火剤39が着火し、非アジド系のガス発生剤38が燃焼して燃焼ガスを生成する。このとき、着火剤39の燃焼方向における最小寸法が非アジド系のガス発生剤38の燃焼方向における最小寸法より小さくなるように設定されていることから、電気点火具22への通電によって着火剤39が着火され、その着火剤の炎によりガス発生剤38が速やかに燃焼する。生成した燃焼ガスはフィルター42を介してガス噴出孔44から噴出され、エアバッグ45を膨張させる。
以上述べた実施形態による効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のガス発生器用の着火剤26、39では、着火剤26,39の燃焼方向における最小寸法が非アジド系のガス発生剤25、38の燃焼方向における最小寸法より小さくなるように構成されている。このため、着火剤26、39がガス発生剤25、38よりも速く着火され、ガス発生剤25、38の燃焼を速やかに立ち上げることができる。従って、高ガス化率を維持しながら、非アジド系のガス発生剤25、38の着火性及び燃焼性を向上させることができる。
・ また、乗員保護装置用ガス発生器が、燃焼室24で発生するガスによりシートベルト15を引き込むように構成されたプリテンショナー用ガス発生器12である場合に、着火剤26は前記の効果を発揮させることができる。
・ 更に、乗員保護装置用ガス発生器が、燃焼室32で発生するガスによりエアバッグ45を膨張させるように構成されたエアバッグ用ガス発生器30である場合に、着火剤39は前記の効果を発揮させることができる。
以下に、実施例、製造例及び比較例を挙げて、前記実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
平均粒径30μmの過塩素酸カリウム79.5質量%、酢酸酪酸セルロ−ス11.5質量%、クエン酸アセチルトリブチル8.0質量%、活性炭1.0質量%の割合になるように混合した混合物に対し、アセトン20質量%、エチルアルコ−ル10質量%の混合溶液を加え、いわゆるウェルナ−混和機で均一に混合した。尚、ウェルナ−混和機は、横方向に延びる回転軸に支持された撹拌羽根により撹拌、混合する装置である。
次いで、この混合物を押出装置に装填した。押出装置には予め孔径0.75mmのダイス及び直径0.25mmのピンが取り付けられている。そして、圧力を加えることにより、このダイスの孔を通りながら押出され1個の貫通孔を有する単孔円柱状に成形される。この成形物を2.0mmの長さに切断し、乾燥することにより粒状の着火剤を得た。得られた着火剤の寸法を表1に示す。また、この着火剤の通電開始から最大圧力までの到達時間が、5〜20ミリ秒であるか否か確認するため、密閉ボンブ燃焼試験を行った。得られた到達時間を表1に示す。
(実施例2〜5)
組成に関しては、実施例1と同じ原料成分及び配合量とした。そして、表1に示した成形治具を用いて、実施例1と同様の方法により着火剤を各々製造し、到達時間を実施例1と同じ方法で評価した。それらの結果を表1に示す。
(実施例6)
平均粒径30μmの過塩素酸カリウム84.2質量%、酢酸酪酸セルロ−ス2.0質量%、クエン酸アセチルトリブチル2.0質量%及び活性炭11.8質量%の割合になるように混合した混合物に対し、アセトン30質量%、水5質量%の混合溶液を加え、ウェルナ−混和機で均一に混合した。
次いで、この混合物を造粒装置に装填した。造粒装置には、予め外径0.3mmのパンチングメタルが取り付けられている。そして、混合物に圧力を加えることにより、このパンチングメタルの孔を通りながら押出され顆粒状の着火剤が得られた。得られた着火剤の寸法を表1に示す。また、この着火剤の通電開始から最大圧力までの到達時間が、5〜20ミリ秒であるか否か確認するため、密閉ボンブ燃焼試験を行った。得られた到達時間を表1に示す。
(実施例7〜8)
組成に関しては、実施例6と同じ原料成分及び配合量とした。そして、表1に示した成形治具を用いて、実施例6と同様の方法により着火剤を各々製造し、到達時間を実施例6と同じ方法で評価した。それらの結果を表1に示す。
(プリテンショナー用ガス発生剤の製造例1)
平均粒径80μmの硝酸アンモニウム90.0質量%、酢酸酪酸セルロ−ス6.0質量%、クエン酸アセチルトリブチル3.0質量%、活性炭1.0質量%の割合になるように混合した混合物に対し、アセトン20質量%、エチルアルコ−ル10質量%の混合溶液を加え、ウェルナ−混和機で均一に混合した。
次いで、この混合物を押出装置に装填した。押出装置には予め孔径1.75mmのダイス及び直径0.25mmのピンが取り付けられている。そして、混合物に圧力を加えることにより、このダイスを通りながら押出され1個の貫通孔を有する単孔円柱状に成形された。この成形物を2.0mmの長さに切断し、乾燥することにより粒状のプリテンショナー用ガス発生剤を得た。得られたガス発生剤の寸法を表2に示す。
(プリテンショナー用ガス発生剤の製造例2)
平均粒径80μmの過塩素酸アンモニウム47.1質量%、平均粒径70μmの硝酸ナトリウム34.9質量%、酢酸酪酸セルロ−ス9.0質量%、クエン酸アセチルトリブチル8.0質量%、活性炭1.0質量%の割合になるように混合した。そして、表2に示した成形治具を用いて、プリテンショナー用ガス発生剤の製造例1と同様の方法によりガス発生剤を製造した。得られたガス発生剤の寸法を表2に示す。
(実施例9)
プリテンショナー用ガス発生剤の製造例1のガス発生剤を91質量%、実施例1の着火剤を9質量%の割合になるように混合し、この混合物を密閉ボンブ装置で燃焼させた。この組成物のガス化率を理論計算(組成物の燃焼生成物のうち気体成分の質量比を%で表記した。)より求め、また通電開始から最大圧力までの到達時間がプリテンショナー用ガス発生剤に要求される15〜30ミリ秒であるか否か確認を行った。得られた到達時間を表3に示す。
(実施例10〜20)
表3に示した質量比となるように組成物を混合し、各々の特性を実施例9と同じ方法で評価した。得られた結果を表3に示す。また、密閉ボンブ燃焼試験により得られた実施例15の燃焼カーブを代表例として図7に示す。
(比較例1〜2)
着火剤を使用せず、プリテンショナー用ガス発生剤のみでの特性を実施例10と同じ方法で評価した。それらの結果を表3に示す。また、密閉ボンブ燃焼試験により得られた比較例2の燃焼カーブを代表例として図6に示す。
表1〜表3、図6及び図7の試験結果より次のようなことがわかった。
すなわち、実施例1〜8に示した着火剤は、通電開始から最大圧力までの到達時間を6〜13ミリ秒に調整することができた。これに対して、着火剤を配合しない比較例1及び2のプリテンショナー用ガス発生剤では、いずれも低着火性、低燃焼性に起因して、到達時間が30ミリ秒以上となり、プリテンショナー用ガス発生剤として使用不可能であることが明らかとなった。一方、粒状の着火剤を配合した実施例9〜20では、着火性及び燃焼性が改善されたため、いずれも到達時間は15〜30ミリ秒の範囲となり、プリテンショナー用ガス発生剤として使用可能であることが明らかとなった。
また、比較例2に示したプリテンショナー用ガス発生剤のみの燃焼パターン(図6)は、燃焼初期(通電開始から約23ミリ秒まで)の燃焼速度が非常に遅く、燃焼中期(約23ミリ秒以降)から急激に燃焼速度が速くなる、いわゆるS字型となっており、燃焼性に問題があることが分かった。それに対して、実施例15に示した着火剤を配合したプリテンショナー用ガス発生剤の燃焼パターン(図7)は、燃焼初期から燃焼速度が速く、いわゆる直線型となっており、燃焼性が大幅に改善されていることが分かった。
更に、比較例2に示したプリテンショナー用ガス発生剤の組成物にて燃焼方向における最小寸法を小さくした試料を作製し、密閉ボンブ燃焼試験を実施した。その結果、燃焼方向における最小寸法を小さくするに従い、着火性は改善される方向にあり、到達時間が速くなることがわかった。しかしながら、燃焼パターンは直線型ではなく、S字型のままであることから、燃焼性に関しては改善が不可能であることが分かった。以上の結果より、着火性及び燃焼性の改善を行うためには、必ず着火剤の併用が必要であることがわかった。
加えて、実施例15の耐熱性及び燃焼後の一酸化炭素濃度について試験を行った結果、共に問題のないことが確認できた。実施例19は、着火剤の質量比が小さいため、プリテンショナー用ガス発生剤として使用可能ではあるものの、到達時間が遅くなる傾向にあることがわかった。更に、実施例20は、着火剤の質量比が大きいため、プリテンショナー用ガス発生剤として使用可能ではあるものの、ガス化率が低下する傾向にあることがわかった。
尚、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 非アジド系のガス発生剤25、38に対する着火剤26、39の含有量を、エアバッグ用ガス発生器30の場合に比べてプリテンショナー用ガス発生器12の場合に高くすることができる。この場合、プリテンショナー用ガス発生器12の燃焼室24内に収容されている非アジド系のガス発生剤25全体を十分に燃焼させることができる。
・ 非アジド系ガス発生剤には、燃焼触媒、耐環境安定剤等を含有させることができる。燃焼触媒としては、酸化銅、酸化鉄、酸化マンガン等が用いられる。耐環境安定剤としては、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミン等が用いられる。
・ 前記プリテンショナー用ガス発生器12の溝27に代えて、薄肉部を形成したり、貫通孔を開けてそこを破裂板で塞ぐように形成したりすることもできる。
・ 前記着火剤26、39を後部座席エアバッグ用ガス発生器、側面衝突エアバッグ用ガス発生器、カーテンエアバッグ用ガス発生器等に使用することもできる。
更に、実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(1) 前記着火剤及び非アジド系ガス発生剤は粒状又は粉状である請求項1又は請求項2に記載のガス発生器用の着火剤。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
2 前記着火剤は粒状であり、その燃焼方向における最小寸法が001〜3mmである請求項1又は請求項2に記載のガス発生器用の着火剤。このように構成した場合、着火剤の着火性及び燃焼性を向上させることができる。
3 前記着火剤は粒状であり、外径01〜2mm、長さ01〜3mmの無孔円柱状又は外径03〜3mm、内孔径01〜1mm、長さ0.1〜3mm、厚さ01〜15mmの有孔円柱状である請求項1又は請求項2に記載のガス発生器用の着火剤。このように構成した場合、着火剤の着火性と燃焼性を向上させることができる。
4 前記非アジド系ガス発生剤は酸化剤及び燃料を含有し、酸化剤がアンモニウム塩であり、着火剤は酸化剤及び燃料を含有し、酸化剤がカリウム塩である請求項1又は請求項2に記載のガス発生器用の着火剤。このように構成した場合、非アジド系ガス発生剤のガス化率を高めることができると共に、着火剤の着火性と燃焼性を向上させることができる。
5 前記非アジド系ガス発生剤は酸化剤及び燃料を含有し、着火剤は酸化剤及び燃料を含有し、着火剤中の酸化剤は硝酸塩、亜硝酸塩又はオキソハロゲン酸塩であり、燃料は高分子結合剤、粉末状微結晶炭素又は含窒素化合物である請求項1又は請求項2に記載のガス発生器用の着火剤。
6 更に、可塑剤、経時安定剤又はスラグ形成剤を含有する上記技術思想5に記載のガス発生器用の着火剤。
7 前記着火剤中の酸化剤の含有量が68〜98質量%及び燃料の含有量が2〜32質量%である前記技術思想5又は6に記載のガス発生器用の着火剤。
12…プリテンショナー用ガス発生器、15…シートベルト、22…点火部としての電気点火具、24、32…燃焼室、25、38…ガス発生剤、26、39…着火剤、30…エアバッグ用ガス発生器、31…点火部、34…点火部を構成する電気点火器、35…点火部を構成する点火薬、45…エアバッグ、P…燃焼方向、L…最小寸法。