JP3603169B2 - エレベータ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、エレベータに係り、特に、長行程・大容量のロープ式エレベータを駆動するのに好適なエレベータ駆動装置のシーブとロープとの組み合わせに関する。
【0002】
【従来の技術】
ロープ式エレベータは、両端に乗りかごと釣合い錘を有するロープがシーブに巻きかけられ、シーブを電動機で回転させたとき、ロープとシーブとの間に生じる摩擦力によってロープを上下方向に移動させ、これにより乗りかごを昇降させるようになっている。
【0003】
ところで、摩擦力によってロープもしくはシーブのどちらかが異常摩耗した場合には、摩耗した部材を交換する必要がある。そのような事態を防ぐために、ロープやシーブを設計する際には、それらの材質の組み合わせには相当の注意が払われている。一般にロープに硬鋼線材2種を素線とするE種ロープ(標準引張り強度=135kg/mm2,ビッカース硬さHv=330〜380)が用いられる場合は、シーブには片状黒鉛鋳鉄(例えばFC250)が用いられる。長行程もしくは大容量のエレベータの場合では、より強度の高い硬鋼線材4種を素線とするA種ロープ(標準引張り強度=165kg/mm2,ビッカース硬さHv=430〜490)が用いられ、この場合は、シーブは耐摩耗性に優れる球状黒鉛鋳鉄(例えばFCD700)が用いられる。
【0004】
シーブにブリネル硬さHB=280〜335、地の組織がパーライトの球状黒鉛鋳鉄を用い、ロープにビッカース硬さHv=400〜460のロープを用いるエレベータ駆動装置が特開昭54−104145号公報に開示されている。
【0005】
また、球状化率=80〜100%、黒鉛粒径20〜100μm、黒鉛粒数70個/mm2〜100個/mm2で、ブリネル硬さHB=260〜320である球状黒鉛鋳鉄を用いたシーブが特開平2−34747号公報に開示されている。
【0006】
さらにシーブに、C:3.3〜3.8%,Si:1.5〜3.0%を有する亜共晶成分からなり、かつ鋳放し時のパーライト面積率が90%以上あるコンパクト・バーミキュラ黒鉛鋳鉄を用い、ロープには引張り強さが165kg/mm2級のA種ロープを用いたエレベータが特開平4−128340号公報に開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
エレベータが長行程化すると、乗りかごと釣合い錘をつなぐロープ長さが長くなり、駆動機が昇降させる全重量中に占めるロープ重量が増加する。また同様にエレベータ乗客の容量が増した場合も、規格上求められる安全率を確保するためロープ本数が増え、ロープ重量が増加する。ロープ重量が増加すると、エレベータ乗客の容量(乗客数)が低下、もしくは駆動機の大型化が必要となり、エレベータシステムとしての効率が低下する。また、ロープ破断時に落下するエレベータ乗りかごを停止させる非常止め装置には、破断した全ロープ重量と乗客・乗りかごを合わせた重量を停止させる能力が求められているため、ロープ重量が増加すると非常止め装置が停止させる重量も増加し、その制動能力の向上が必要となる。非常止め装置の制動力の向上は、新たな技術開発がないかぎり非常止め装置、すなわち乗りかごの重量増加に結びつき、ロープ本数の増加という悪循環を引き起こすことになる。
【0008】
エレベータシステムにおけるロープ本数を低減させる、もしくは細い軽量ロープを用いるためには、ロープ強度(引張り強さ)を増さねばならない。しかし、高強度のロープは表層が硬くなるため、従来のシーブ材質のままではシーブ摺動面の摩耗が進み、摩擦係数の低下を発生させ、シーブの寿命を短くしてしまう。シーブは建家最上階にある機械室の駆動装置内に組み込まれ、且つ比較的に重量部品であるため、その交換には多大の労力と時間を必要とする。したがって、エレベータシステムにおいてロープ重量を低減するには、高強度ロープを用いても摺動面の異常摩耗、摩擦係数の低下を生せず、かつ逆にロープの摩耗を促進しないシーブ材質の開発が不可欠である。
【0009】
今後は、土地の有効利用の点から建築物の高層化、もしくは大深度利用が進められ、エレベータの長行程化、高速化、大容量化が必要となる。したがってエレベータシステムの効率の点から、現在のA種ロープ以上の高強度ロープの利用が必要となる。しかしながら、A種ロープよりも高強度のロープ、すなわちロープの引張り強さが180kg/mm2級、外層線の硬さがHv=約480〜500であるB種以上のロープを利用可能とするシーブは、従来例には見当らない。
【0010】
また、従来はシーブ材料についてその平均硬さ(ブリネル硬さ)と黒鉛形状についてだけ規定してきたが、ロープの外層線とシーブとの接触部に生じる変形は、シーブの平均硬さではなく、組織、析出物の個々の硬さが問題となる。しかしながら、ロープの硬さ変化に対応できるシーブ材料の組織、析出物の個々の硬さ、面積率を詳細に開示した従来例も見当らない。
【0011】
上記の各公知例は、ロープの引張り強さが165kg/mm2級、外層線の硬さがHv=400〜490、具体的にはA種ロープを相手材料として使用できるシーブは開示されているが、B種ロープが使用できるシーブについては何ら開示されていない。すなわち、特開昭54−104145号公報では、ロープ外層線の硬さをHv=400〜460とし、具体的にはA種ロープを使用できるシーブを示しており、B種ロープが使用できるシーブについては示されていない。
【0012】
また、特開平2−34747号公報でも、シーブはブリネル硬さHB260〜320で、A種ロープを使用できるシーブを示している。
さらに、特開平4−128340号公報でも、ロープ外層線の硬さHv=420〜460、引張り強さが165kg/mm2級のA種ロープで使用できるシーブを示しており、B種ロープが使用できるシーブについては示されていない。
また、上記各公報は、シーブ材料については、黒鉛形状と平均硬さだけを規定しており、最適なシーブ材料の組織、組成の詳細については示していない。
【0013】
本発明の目的は、引張り強さが180kg/mm2級、外層線の硬さがHv=約480〜500のB種ロープと、このB種ロープを相手材料としても摺動面の異常摩耗が生ぜずしかも相手となるB種ロープの異常摩耗も引き起こさない材料からなるシーブとを組み合わせて設置したエレベータを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、電動機と、該電動機に減速機を介して結合されたシーブと、該シーブの溝に巻きかけられたロープと、該ロープの一端側に設けられた乗りかごと、前記ロープの他端側に設けられた釣合い錘とを備え、前記電動機で前記シーブを回転駆動し、前記乗りかごを昇降させるエレベータにおいて、重量%でNi:0 . 5〜2 . 0,Cu:0 . 5〜2 . 0を含み、素地のパーライト面積率が90%以上,該パーライト相のビッカース硬さが350〜450のシーブと、外層素線のビッカース硬さが480〜500、強度が180kg/mm 2 以上のロープとを組み合わせたエレベータを提案する。
【0015】
すなわち、外層素線のビッカース硬さが480〜500、強度が180kg/mm 2 以上のB種ロープに対して、摺動面の異常摩耗,摩擦係数の低下を生ぜず、逆にB種ロープの摩耗を促進しない材質のシーブとして、重量%でNi:0 . 5〜2 . 0,Cu:0 . 5〜2 . 0を含み、素地のパーライト面積率が90%以上,該パーライト相のビッカース硬さが350〜450のシーブを組み合わせることを提案する。
【0016】
このようなシーブとB種ロープとの組み合わせにすると、B種ロープを相手材料としても、シーブの摺動面には異常摩耗が生じない。また、相手となるB種ロープの異常摩耗も引き起こさない。
【0017】
【作用】
今までロープを高強度ロープに切り替える際には、ロープ硬さの増加に見合うようにシーブ硬さを増してきた。例えばE種ロープ(Hv=330〜380)からA種ロープ(Hv=400〜460)に切り替える場合、シーブはFC250(HB=200〜220)からFCD700(HB=270〜290)にした。この際、シーブの硬さはブリネル硬さ計で測定する平均硬さだけに注目し、その範囲はブリネル硬さHBで規定されてきた。
【0018】
ロープとシーブの摺動におけるロープの摩耗は粘性摩耗である。すなわち、ロープ側の摩耗は、外層線がシーブとの繰返し接触によって塑性変形し、加工硬化によって断線に至る機構である。シーブ側の摩耗は、ロープとの繰返し接触による変形によって、シーブ組織の黒鉛の先端に応力が集中し、破壊、摩耗に至る機構である。したがって、ロープとシーブの摩耗に影響するシーブの硬さとは、ロープとの接触部分における最高硬さであり、平均硬さではない。すなわち、組織、析出物の個々の硬さが問題となる。
【0019】
発明者らは上記見地に立ち、平均硬さだけではなく、シーブ材質における各組織(析出物を含む)の個々の硬さ、その面積率とロープ摩耗量、シーブ摩耗量を検討した。その結果、B種ロープを相手として適する、ブリネル硬さだけでは規定出来ない組織の硬さ、組成を見出した。添加元素が摩擦特性と組織に及ぼす作用を以下説明する。
【0020】
加えたNiは、硬質相として化合物相を析出することはなく、ほとんどが球状黒鉛鋳鉄のパーライト地に固溶する。パーライト地に固溶したNiは、その硬さを増し、鋳物組織全体を平均的に硬くする。その結果、シーブとロープと接触する部分において、硬さの低いシーブ側の変形を低減させ、シーブの摩耗を抑制する。Ni添加の場合、Pを添加した場合に生じるステダイト相のような必要以上に硬い化合物相を析出することがないため、ロープ側をアタックせず、ロープの摩耗を促進することはない。また、Niには組織を均一にする効果があり、鋳物表面から深さ方向に組織均一性を増し、硬さのバラツキを低減する。その結果、摩耗によるシーブの摩擦特性変化がなく、信頼性を高めることができる。上記効果は、Ni添加量が重量%で0.5%以上で生じる。0.5%以下ではNi添加による著しい効果は認められない。また、2%を超えるとパーライト地の硬さが必要以上に高くなり、B種ロープを相手としても、相手ロープへのアタックが増し、ロープ側摩耗が増大するため適切でない。したがって、Niの適切な添加量範囲は0.5%以上で2%以下である。
【0021】
Cuは、Niと同様にパーライト地の硬さを増し、鋳物組織全体を平均的に硬くする。また、組織を均一にする効果があり、鋳物表面から深さ方向に組織均一性を増し、硬さのバラツキを低減する。その結果、摩耗によるシーブの摩擦特性変化がなく、信頼性を高めることができる。さらに、Cuの添加は鋳物の耐食性を著しく増し、腐食によって生じる摩擦の促進を防ぎ、より信頼性を高めることができる。上記効果は、Cu添加量が重量%で0.5%以上で生じる。0.5%以下ではCu添加による著しい効果は認められない。また、2%を超えるとCuが肉厚部に偏析し、組織の不均一を引き起こす。したがって、Cuの適切な添加量範囲は0.5%以上で2%以下である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図面に従って説明する。
図1は本発明の一実施例であるエレベータの駆動装置及びエレベータを示す概略構成図である。図1において、1は乗客を乗せるための乗りかごである。なお、図では簡略化のために乗りかごのドア開閉機、外枠、非常止め装置等の詳細、及びテールコード、釣合いロープ、張車等は図示していない。乗りかご1は、ロープ2によって建物最上階機械室にある駆動装置3に連結されている。駆動装置3は、電動機4と、減速機5と、減速機5を介して電動機4によって駆動されるシーブ6とからなる。シーブ6のロープ溝(詳細は後述)には、一端側に乗りかご1を吊し、他端側に釣合い錘7を吊るしたロープ2が巻きかけられている。そして、電動機4でシーブ6を回転させることにより、ロープ2とシーブ6との間の摩擦力によってロープ2が上下方向に移動し、これにより乗りかご1が昇降する。なお、図中8は乗りかご1と釣合い錘7が昇降する昇降路である。
【0023】
図2はシーブ6の正面図である。図3はシーブ6の側面図であり、II−II から上半分は図2の I−I 断面を示す断面図である。図3において、6aはロープ2を巻きかけるロープ溝である。図3では半円形状の丸溝シーブを示すが、本発明は丸溝形状に限るものではなく、V形状のV溝、丸溝の底部に切り込みのあるアンダーカット溝であってもよい。
【0024】
次に、シーブ材料について詳細に説明する。
本実施例でのシーブ材料の評価は、まずシーブを模擬したリングとロープを模擬したリングの端面を押し付けながら回転させ、両リングの回転数に差を与えて回転中に滑りを生じさせるリング式要素試験で行った。次に、この要素試験で評価した材料で実機形状のシーブを製作し、エレベータの駆動装置として重要な特性であるシーブとロープ間で滑りの発生する限界値(以後、トラクション特性と表記する)を求めた。
【0025】
まず図4〜8を用いて、リング式要素試験方法とその結果を説明する。図4はリング式要素試験に用いたリング試験片6Rの形状を示す。試験片6Rは外径が40mm、厚さ8mmのリングであり、回り止めのキー溝付き穴で試験機に取り付けられる。
【0026】
図5はリング式要素試験における試験片の摩擦状態を示す概略図である。図5において、6RSはシーブを模擬したリング試験片であり、6RRはロープを模擬したリング試験片である。6RRはロープとほぼ同組成の炭素鋼を用い、焼き入れ、焼き戻しを行い、焼き戻し温度を変えてA種ロープ、B種ロープの外層線の硬さと同じにした。要素試験の試験条件を表1にまとめる。なお、滑り速度は回転数の差から生じる滑りから算出した。
【0027】
【表1】
【0028】
検討したシーブ試験片とロープ試験片の組合せを表2にまとめる。なお、下記組合せグループ ▲1▼〜▲4▼ は1組の試験を意味するのではなく、複数回の試験を意味する。特に試作シーブ材の組合せグループ ▲2▼,▲4▼ は、下記の表3に示す範囲で組成を変えた複数の試験片とA,B種ロープ相当材との組合せを意味する。
【0029】
【表2】
【0030】
試作シーブ材は、球状黒鉛鋳鉄に各種元素を加え、平均硬さ硬さ、析出相の硬さおよび析出相の面積等の組織を制御したものである。試作シーブの組成範囲とFCD700の組成を表3にまとめる。なお、下記の組成表示は重量%であり、以後ことわりの無いかぎり組成表示はすべて重量%である。
【0031】
【表3】
【0032】
2時間ごとに試験片の重量変化(摩耗量)を測定した結果の1例を図6,7,8に示す。なお、図6はシーブ試験片の重量変化を、図7はロープ試験片の重量変化を示す。また、この時の摩擦係数の変化を図8に示す。
【0033】
図6,7,8において、−□−がFCD700(従来材料)とA種ロープ相当材の組合せ(▲1▼グループ)、−△−がFCD700(従来材料)とB種ロープ相当材の組合せ(▲3▼グループ)、−●−が試作シーブ材とA種ロープ相当材の組合せ(▲2▼グループ)、−○−が試作シーブ材とB種ロープ相当材の組合せ(▲4▼グループ)である。
【0034】
なお、図6ではFCD700(従来材料)のA種ロープ相当材の組合せにおけるFCD700の最終摩耗量を0.95として、図7ではFCD700(従来材料)のA種ロープ相当材の組合せにおけるA種ロープ相当材の最終摩耗量を1.0として、各摩耗量を相対値として表示した。図8では、各組合せの最終摩擦係数を1.0として、各摩擦係数を相対値として表示した。
この結果における試作材の組成(定量分析結果)を表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
図6に示すように、試作材は、A種及びB種ロープ相当材のどちらを相手材としても、FCD700(従来材料)の摩耗量の約1/3となり良好な耐摩耗性を示す。さらに図7に示すように、試作材であるA種ロープ相当材とB種ロープ相当材は、FCD700(従来材料)を相手としたA種、B種ロープ相当材の摩耗量より約30から40%も低減しており、試作材は摺動相手のロープ材の摩耗も低減させる。
【0037】
さらに、図8に示すように、試作シーブ材とA種、B種ロープ相当材の組合せは摩擦初期ではあるが、FCD700(従来材料)とA種、B種ロープ相当材との組合せよりも、摩擦係数が約20%高い。シーブとロープ間の摩擦係数が高ければ、回転を乗りかごの上下運動に変換する効率が増し、さらにシーブとロープとの間の滑りが生じにくくなるため、乗りかごの位置制御の精度が増す効果がある。
【0038】
表3に示す範囲で試作シーブ材の組成を変えて上記の要素試験を行い、各種添加元素の効果を確認した。その結果、Pの添加は摩擦係数を増加させるが、A種、およびB種ロープ相当材の著しい摩耗を引き起こす。Pの添加によってシーブ材にFeC3−Fe−FeP3で示される硬質のステダイト相が析出するために、ロープ相当材の摩耗が促進されると考えられる。したがって、シーブ材料にPの添加は望ましくない。
【0039】
Niの添加は図6,7,8に示すように、シーブ材、ロープ材の耐摩耗性と、両者間の摩擦係数を増加させる。これは、上記P添加と異なり、添加したNiは、硬質相を析出せず、ほとんどがパーライト相に固溶し、その硬さを均一的に増して、シーブ材を全体的に硬くするため、ロープを必要以上にアタックすることなく、ロープとに接触によるシーブの変形を抑制するためである。このときの適切な硬さの範囲は、パーライト相の硬さがビッカース硬さでHv350〜450の範囲である。パーライト相のビッカース硬さがHv350以下では、十分な耐摩耗性が得られず、Hv450以下ではロープ側の摩耗が増す。なお、上記効果が表れるには重量%で、0.5%以上のNi添加が必要である。しかし、Ni量を3%まで増すとパーライト相の硬さが増し、切削性が著しく低下し、かつロープ相当材の摩耗量が増加する。これは、必要以上に硬くなったシーブがロープをアタックするためである。したがって、切削性とロープ側の耐摩耗性を考慮するとNi添加量は2%が限度であり、望ましくは1.5%以下である。
【0040】
Crの添加はA種、及びB種ロープ相当材の著しい摩耗を引越す。Crの添加は、Niと異なり、シーブ材にFeC3で示されるビッカース硬さが約1000に達する硬質のセメンタイト相が析出する。その結果、平均的硬さを示すブリネル硬さが等しくとも、著しく硬い相が混在するためにロープ相当材の摩耗が促進されると考えられる。したがって、シーブ材料にCrの添加は望ましくない。
【0041】
Cuの添加は、Niの添加と同様にシーブ材、ロープ材の耐摩耗性を増す。さらに、湿度雰囲気での耐食性を増す。この効果が表れるのは重量%で、0.5%以上の添加が必要である。しかしながら、Cu量が2%を超すと偏析が生じ、部分的に組織変化が生じ耐摩耗性が低下する。したがって、Cu添加量は2%までが限度であり、望ましくは1.5%以下である。
【0042】
組織の点ではフェライトの存在が著しく耐摩耗性を低下させる。パーライトの面積率をパラメーターにすると約90%以上で良好な耐摩耗性を発揮する。組織的には球状黒鉛とパーライトだけでフェライトの無い組織が望ましい。
【0043】
以上の検討結果から、A種、及びB種ロープを相手材として、耐摩耗性に優れ、かつロープの異常摩耗を引き起こさず、高い摩擦係数を示すシーブ材料は、C:3.0〜3.4%、Si:1.5〜2.5%、さらにNi:0.5〜2.0%、Cu:0.5〜2.0%を含んだパーライト相と球状黒鉛からなる組織を有する球状黒鉛鋳鉄である。この材料のパーライト相の硬さはビッカース硬さで350〜450の範囲が望ましく、組織全体の平均硬さはブリネル硬さでHB290〜310の範囲が望ましい。
【0044】
以上の要素試験から決定した組織、組成のシーブを作成し、トラクション特性を評価した。図9は本実施例のシーブとロープのトラクション特性を評価するために用いた試験装置9の正面概略を示す。図9において、6Tはシーブ試験片であり、駆動モータ(図示せず)から減速機10を介して軸(図示せず)で直結されている。シーブ試験片6Tは端面にロープ溝(図示せず)として丸溝が形成されている。このロープ溝に1本のロープ試験片2Tが180度巻きかけられており、その一端にエレベータにおける乗りカゴの重量を模擬した錘11が吊るされ、他端はロープ試験片2Tの張力を測定するロードセル12を介して装置台13に接続されている。
【0045】
この状態でシーブ試験片6Tを図中A方向(ロードセル12側から錘11側)へ回転数を加速しながらさせ回転させ、同時にロードセル12によってロープ試験片2Tの張力の変化を測定し、シーブ試験片6Tとロープ試験片2Tとの間で滑りを生じる摩擦係数を算出した。
【0046】
試験条件を表5に、検討したシーブ試験片とロープ試験片の組合せを表6にまとめる。なお、ロープのビッカース硬さHvはロープ素線の断面で測定した実測値である。錘は1本のロープに許される荷重(規格値)から設定した。また、定量分析によって求めた本実施例のシーブの組成を表7に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
錘11と静止摩擦係数との関係を図10に示す。図中−○−がA種ロープを用いた場合、−●−がBロープを用いた場合の静止摩擦係数である。なお、縦軸の静止摩擦係数は、同様の条件におけるFCD700の静止摩擦係数を1.0とした相対値である。
【0051】
図10に示すように、A種ロープを用いた場合、本実施例シーブの静止摩擦係数はFCD700に比較し約5〜10%高くなり、B種ロープを用いた場合、FCD700の静止摩擦係数とほぼ同等である。すなわち、本実施例のシーブはトラクション性能においても、従来材料FCD700と同等以上の性能を有する。
【0052】
以上のごとく本実施例のシーブでは、ロープの耐摩耗性を低下させることなく、シーブの耐摩耗性を増し、かつエレベータシーブとして不可欠なトラクション性能をも改善することができる。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シーブの耐摩耗性を約3倍向上させることができ、シーブ寿命を大幅に伸ばすことが可能である。
また、上記シーブを用いることによって、従来材料では使用困難であったB種ロープの使用が可能となる。その結果、ロープ強度が約7%増すため、ロープの細径化が可能となり、ロープの軽量化、シーブの小径化が達成でき、コスト低減が達成できる。
さらに、上記シーブを用いた駆動装置を用いることによって、エレベータシステムにおけるロープ重量比率が低減し、エレベータシステムの効率向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエレベータ駆動装置及びエレベータの概略構成図である。
【図2】シーブの正面図である。
【図3】一部断面を含むシーブの側面図である。
【図4】シーブ材料の摩擦特性の評価に用いた試験片の正面図である。
【図5】シーブ材料の摩擦特性を評価するためのリング式要素試験の説明図である。
【図6】本発明のシーブ材料の摩耗試験結果の一例を示した図である。
【図7】本発明のシーブ材料の摩耗試験結果の一例を示した図である。
【図8】本発明のシーブ材料の摩耗試験結果の一例を示した図である。
【図9】シーブ材料のトラクション特性の評価に用いた試験装置の概略図である。
【図10】本発明のシーブ材料とFCD700のトラクション特性を示した図である。
【符号の説明】
1 エレベータ乗りかご
2 ロープ
3 駆動装置
4 電動機
5 減速機
6 シーブ
7 釣合い錘
8 昇降路
9 試験装置
10 減速機
11 錘
12 ロードセル
13 装置台
6a ロープ溝
6R リング試験片
6RR ロープを模擬したリング試験片
6RS シーブを模擬したリング試験片
2T ロープ試験片
6T シーブ試験片
Claims (1)
- 電動機と、該電動機に減速機を介して結合されたシーブと、該シーブの溝に巻きかけられたロープと、該ロープの一端側に設けられた乗りかごと、前記ロープの他端側に設けられた釣合い錘とを備え、前記電動機で前記シーブを回転駆動し、前記乗りかごを昇降させるエレベータにおいて、
重量%でNi:0 . 5〜2 . 0,Cu:0 . 5〜2 . 0を含み、素地のパーライト面積率が90%以上,該パーライト相のビッカース硬さが350〜450のシーブと、外層素線のビッカース硬さが480〜500、強度が180kg/mm 2 以上のロープとを組み合わせたことを特徴とするエレベータ。
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JPH08277082A (ja) | 1996-10-22 |
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