JP3603150B2 - カルボン酸類のエステル類の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カルボン酸類の塩を解塩してカルボン酸類のエステル類を製造する方法に関する。カルボン酸類のエステル類は医薬中間原料、液晶原料、その他合成原料として有用である。合成や精製の過程で、また光学活性カルボン酸の場合においては、ジアステレオマー塩として光学分割すると、カルボン酸類は塩の状態となっている。
【0002】
これらのカルボン酸類の塩は解塩して遊離のカルボン酸類のエステル類とすることが必要である。光学活性カルボン酸類のジアステレオマー塩の場合は、解塩して光学活性カルボン酸を得るだけでなく、分割剤として用いられる塩基を回収することも重要である。
【0003】
【従来の技術】
カルボン酸類の塩の解塩方法としては、水溶液中で酸またはアルカリで処理する方法、イオン交換樹脂を用いる方法などが知られているが、水および有機溶媒のいずれにも溶解するカルボン酸類の塩から収率よく、簡単な操作でカルボン酸類を単離するのは難しい。
【0004】
例えば、テトラヒドロフラン−2−カルボン酸のアルカリ金属塩を1)強酸性カチオン交換樹脂を用いて解塩する方法(特開平4−95083号公報)、2)塩酸水溶液を用いて解塩する方法(特開平2−124881号公報)、また3)光学活性テトラヒドロフラン−2−カルボン酸と光学活性1−(4−クロロフェニル)エチルアミンとの塩を水酸化ナトリウム水溶液を用いて解塩する方法(特開平1−216983号公報)などが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
通常、カルボン酸類の塩は解塩した後、遊離したカルボン酸を高純度で、且つ高収率で単離する必要がある。そのためには、遊離したカルボン酸類は水や有機溶媒で抽出して単離する必要がある。
【0006】
しかし、水や有機溶媒いずれにもよく溶けるカルボン酸類の塩を解塩する場合、水溶液中で解塩するとカルボン酸類の抽出、単離が非常に困難である。
【0007】
例えば、上記1)の方法で解塩したものは水溶液として単離されるが、水溶液中のテトラヒドロフラン−2−カルボン酸の濃度が2.4%と低く、膨大な量の水を濃縮しなければならい。また2)の方法ではメチルイソブチルケトンでカルボン酸を抽出するが、テトラヒドロフラン−2−カルボン酸が水に溶けやすく、メチルイソブチルケトンへの分配係数が低いために何回も抽出しなければ高い単離収率が期待できない。さらに、3)では解塩したカルボン酸ナトリウム水溶液を塩酸酸性にした後、エーテルで抽出しているが、有機アミン塩からアルカリ金属塩に変え、さらに低沸点で引火しやすいエーテルを使用するので操作も多く実用的でない。
【0008】
このように従来の方法では、どれも水や有機溶媒によく溶けるカルボン酸類であるテトラヒドロフランカルボン酸類の塩を水溶液で解塩して単離しようとしたため、操作が繁雑で収率が低かった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らはカルボン酸類の塩を解塩してカルボン酸類のエステル類を高収率かつ高純度で単離する工業的に実施可能な製造法を鋭意検討した結果、実質的に水の存在しない有機溶媒中で、ハロゲン化水素を接触させる方法で行うことにより、上記目的が達成されることを見い出し本発明を完成させた。 即ち、本発明は、カルボン酸類の塩を解塩してカルボン酸類のエステル類を製造する際に、有機溶媒中でハロゲン化水素を接触させることを特徴とするカルボン酸類のエステル類の製造法である。
【0010】
本発明によればカルボン酸類の塩にハロゲン化水素を有機溶媒中で接触させることにより解塩され、遊離のカルボン酸類を高収率、高純度で得ることができる。特にカルボン酸類が水および有機溶媒いずれにも可溶である場合には、水の存在する系で解塩すると有機溶媒による抽出が困難なため、本発明が有効である。中でもジアステレオマー塩分割法で光学活性カルボン酸類を製造する場合には、分割剤を中和塩として定量的に回収できるので分割剤のリサイクルも可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、用いるカルボン酸類の塩とは、1分子中にカルボキシル基を1個以上持つ化合物と塩基との塩である。カルボン酸類はいかなるものでもよいが、水および有機溶媒いずれにも可溶なものに適用すると本発明の効果が大きい。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、3−クロロプロピオン酸、2−クロロプロピオン酸等の脂肪族カルボン酸類、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸類、または脂肪族ヘテロ環カルボン酸類等である。脂肪族ヘテロ環カルボン酸類は脂肪族ヘテロ環がカルボン酸で置換された化合物であり、カルボン酸以外の置換基を有していても良い。特にテトラヒドロフラン−2−カルボン酸、テトラヒドロフラン−3−カルボン酸やテトラヒドロピラン−2−カルボン酸などに適用するのが好ましい。また、上記に挙げたカルボン酸類のそれぞれの光学活性体も当然含まれる。 カルボン酸類と塩を作る塩基はナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属類のイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属類のイオン、またはメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、オクチルアミンなどの脂肪族アミン類、あるいはアニリン、ベンジルアミン、1−フェニルエチルアミン、1−ナフチルエチルアミンなどの芳香環を有するアミン類、およびそれらの光学活性体、アラニンアニリド、アラニンベンジルアミド、フェニルアラニンアミド、フェニルアラニンメチルアミド、フェニルアラニンアニリド、フェニルアラニンベンジルアミド、フェニルグリシンメチルアミド、フェニルグリシンベンジルアミドなどのアミノ酸アミド誘導体、およびそれらの光学活性体などが挙げられる。
【0013】
本発明ではカルボン酸類の塩とハロゲン化水素を接触させる。
【0014】
ハロゲン化水素との接触はアルコール溶媒中、あるいはアルコール類を含むエーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒中で行う。カルボン酸類の塩を有機溶媒中に溶解あるいは懸濁させ、ハロゲン化水素と接触させることにより、塩を形成していた塩基はハロゲン化水素と中和塩を作って析出し、解塩したカルボン酸の一部または全部をカルボン酸のエステルとして単離することができる。このときカルボン酸の塩の他に遊離のカルボン酸類、塩基などが存在していてもよい。
【0015】
エステル生成量はアルコールの使用量に依存し、所望するエステルに応じてアルコールを選択することができる。また、生成したエステル類はそのままカルボン酸エステルとして単離することもできるし、そのエステルを加水分解することにより、カルボン酸として単離することも可能である。
【0016】
ハロゲン化水素は塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素から選ばれるものが使用できる。その量は有機溶媒中に存在する塩基に対して、1.0当量以上が効率的である。1.0当量以下では解塩が不十分で、カルボン酸類の単離収率が低くなる。経済性を考慮すると1.0〜3.0、好ましくは1.0〜1.8当量である。
【0017】
ここで、使用される有機溶媒はアルコール類、またはアルコール類を含む炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、アルコール類が好ましく使用される。具体的にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、オクタノール、ベンジルアルコール等、または、これらを含むベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテルなどの混合溶媒が使用できる。
【0018】
使用する有機溶媒の量は操作性と経済性を考慮してカルボン酸の塩に対して0.5〜20重量倍が好ましく、さらに好ましくは1〜10重量倍である。
【0019】
また、有機溶媒中に少量の水が存在してもよい。共存する水の量が多いと中和塩が溶けやすくなって、中和塩の回収率が低下すると同時に、有機溶媒中の中和塩の残存量が増え、カルボン酸の純度が低下する。このように中和塩の水に対する溶解度によって共存する水の量が異なるが、水の共存量はカルボン酸類に対して100重量%以下、好ましくは、70重量%以下がよい。しかし、解塩後析出した中和塩を固液分離するときには、あらかじめ少量存在する水をトッピングするなどして除去することが好ましい。
【0020】
有機溶媒中でハロゲン化水素と接触させる時の温度は特に規制するものではないが、通常、0℃以上50℃以下の範囲で行うことが好ましい。温度が高いと有機溶媒中に溶解するハロゲン化水素量が低くなるので効率が低下する。
【0021】
添加の順序は任意である。カルボン酸類の塩を有機溶媒中に溶解あるいは懸濁させて、ハロゲン化水素を直接添加してもよいし、ハロゲン化水素を含む有機溶媒を滴下してもよい。あるいは、あらかじめ、ハロゲン化水素を含んだ有機溶媒中にカルボン酸類の塩を添加してもよい。
【0022】
このようにして、カルボン酸類の塩とハロゲン化水素との接触によって析出した塩基のハロゲン化水素塩である中和塩は、必要に応じて、濃縮、トッピングなどにより共存する水を除去した後固液分離することによって、高収率で回収できる。また塩基が光学活性な分割剤の場合には、ラセミ化させることなく回収することができるので、その回収分割剤のハロゲン化水素塩を水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基で遊離状態にした後、ジアステレオマー塩分割工程へリサイクルすることも可能である。有機溶媒中に単離された水、および有機溶媒に可溶なカルボン酸類を濃縮・蒸留あるいは、濃縮・再結晶することにより、容易に高純度のカルボン酸類が高収率で得られる。また、光学活性なカルボン酸であっても、高い光学純度を保持したまま高収率で単離できる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0024】
実施例1
R−THFC・ナトリウム塩50.0g(0.362モル、光学純度99.4%ee)、トルエン160.0gおよびメタノール40.0gを温度計、コンデンサー、攪拌機、ガス吹き込み口を備えた4つ口500mlフラスコに仕込み、このスラリー液に塩化水素13.8g(0.378当量)を15〜25℃で吹き込み、室温で2時間攪拌した。その溶液の上澄み液を分析したところ、R−THFCの96%がエステル化されていた。さらにこの反応液を濃縮して水を除去し、析出した塩化ナトリウムを瀘別したのち、瀘液を濃縮、蒸留して、R−THFCメチルエステル42.4g(83℃/4.0kPa)が単離収率90%、光学純度99.3%eeで得られた。
【0025】
上記R−THFCメチルエステル30.0gに水30.0gを加えてメタノールを留出させながら、95℃で20時間加熱した。反応液を濃縮蒸留してR−THFC21.4g(96℃/600Pa)を得た。収率は80%、光学純度は99.3%eeであった。
【0026】
実施例2
R−THFC・ナトリウム塩20.0g(0.145モル、光学純度99.4%ee)、クロロベンゼン50.0gを温度計、コンデンサー、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口300mlフラスコに仕込み、このスラリー液に塩化水素6.3g(0.173当量)を含むイソプロパノール50.5gを20〜25℃で滴下して、室温で2時間攪拌した。その溶液の上澄み液を分析したところ、R−THFCの92%がエステル化されていた。
【0027】
【発明の効果】
(1)本発明によれば、カルボン酸類の塩からカルボン酸類のエステル類を高純度で且つ高収率で単離できるため、工業的に実施可能である。
【0028】
(2)本発明によれば、ジアステレオマー塩から光学活性な水及び有機溶媒に可溶なカルボン酸類のエステル類を高純度で且つ高収率で単離するとともに、光学活性な分割剤を高収率で回収することができ、実質的にラセミ化しないので、分割剤の再使用が可能である。
Claims (8)
- カルボン酸類の塩を解塩してカルボン酸類のエステル類を製造する際に、アルコール溶媒中、あるいはアルコール類を含むエーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類から選ばれる少なくとも一種の有機溶媒中でハロゲン化水素を接触させることを特徴とするカルボン酸類のエステル類の製造法。
- 有機溶媒中0℃以上50℃以下でハロゲン化水素と接触させることを特徴とする請求項1記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- カルボン酸類が水および有機溶媒に可溶であることを特徴とする請求項1または2記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- カルボン酸類の水に対する溶解度が25℃で、10g/100g以上であり、且つカルボン酸類のハロゲン化水素との接触をその中で行う有機溶媒に対する溶解度が25℃で、5g/100g以上であることを特徴とする請求項3記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- カルボン酸類の塩が光学活性体のジアステレオマー塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- カルボン酸類がテトラヒドロフランカルボン酸またはテトラヒドロピランカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- カルボン酸類の塩がカルボン酸類と有機アミンとの塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
- 有機アミンが少なくとも1つの芳香環を有するアミンであることを特徴とする請求項7記載のカルボン酸類のエステル類の製造法。
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