JP3602971B2 - 磁気光学素子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁性ガーネット単結晶からなる磁気光学素子の製造方法に関し、更に詳しく述べると、矩形板状の磁性ガーネット単結晶チップの1辺に沿って切り込みを形成し、それによって切り出した矩形チップの全六面の方位を完全に特定できるようにした磁気光学素子の製造方法に関するものである。この技術は、特に、偏波スクランブラや光アッテネータなど偏光面の回転角を連続的に可変するファラデー回転子に有用である。
【0002】
【従来の技術】
光アイソレータ、光サーキュレータ、光スイッチ等の光デバイスではファラデー回転子が用いられている。ファラデー回転子は、磁界の印加によって透過光の偏光面を一定角度回転させるファラデー素子(磁気光学素子)を有し、磁気光学素子としては、近年、液相エピタキシャル(以下、「LPE」と略記する)法による磁性ガーネット単結晶膜が多用されている。通常、非磁性ガーネット基板の(111)面上に、LPE法により磁性ガーネット単結晶膜を育成し、正方形に切り出して所定厚さの磁気光学素子を作製している。この場合には、育成した磁性ガーネット単結晶の表面も(111)面となる。
【0003】
光アイソレータや光サーキュレータに組み込むファラデー回転子は、永久磁石の磁界によってファラデー素子が磁気飽和し、偏光面が常に45度回転するような構造とする。ファラデー素子を構成している磁気光学素子は、光が磁性ガーネット単結晶の(111)面にほぼ垂直に入射するように組み込まれる。光アイソレータや光サーキュレータに用いる場合には、(111)面以外の磁性ガーネット単結晶の方位はどちらを向いていても特に問題は生じない。
【0004】
ファラデー回転子を使用する光デバイスとしては、上記の光アイソレータや光サーキュレータの他に、偏波スクランブラや光アッテネータなどが開発されている。光の偏光方向を連続的に且つ周期的に可変する偏波スクランブラ、あるいは光の透過光量を連続的に制御するための光アッテネータでは、ファラデー素子を透過する光線のファラデー回転角を制御するファラデー回転角可変装置を組み込む。ファラデー素子は、偏光面が90度程度回転可能な厚みの単一の磁気光学素子によって構成するか、あるいは全体として偏光面が90度程度回転可能な厚みとなるように複数の磁気光学素子を重ねて構成する。このファラデー素子に2方向以上から磁界を印加して、それらの合成磁界を可変することにより、ファラデー回転角を制御する。
【0005】
ところが最近の研究により、偏波スクランブラや光アッテネータのように、外部磁界の強さを制御して偏光面を連続的に変化させるような使用方法では、ファラデー素子を構成する磁気光学素子の結晶方位と外部磁界印加方向とに相関があり、ある特定方位方向に磁界を印加した時のみ良好な特性が得られることが判明した。逆に言うと、従来技術のように、ウエハーを単に正方形に切り出して磁気光学素子とし、それをファラデー素子としてファラデー回転角可変装置に組み込むと、製造した光デバイスの特性に大きなばらつきが生じるということである。高品質の光デバイスを生産するには、磁気光学素子の結晶方位を特定可能とし、光デバイスに組み込む時に、その磁気光学素子の結晶方位を特定方向に配列できるようにする必要がある。
【0006】
前記のように磁性ガーネット単結晶は、非磁性ガーネット基板の(111)面上にLPE成長させていることから、育成した単結晶膜の表面は(111)面になる。従って、このウエハーから基板を除去し正方形のチップに切り出すと、表裏の区別、及び切り出し面(即ち4側面)の結晶方位は特定できなくなる。たとえX線回折装置によって、ある側面の結晶方位を特定しても、その後取り扱っている途中で結晶方位が分からなくなってしまう。
【0007】
そこで本発明者等は先に、非磁性ガーネット基板の(111)面上にLPE法により作製した磁性ガーネット単結晶を、長辺側の側面が(112)面もしくは(110)面となるように長方形のチップに切断することで、切り出したチップの側面の結晶方位を特定できる磁気光学素子の製造方法を提案した(特願平10−12140号参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のように長方形に切り出したチップでは、磁気光学素子の表裏までは区別できないし、相対向する側面の結晶方位は完全には特定できない。
【0009】
チップの全六面の結晶方位を完全に特定する必要が無いデバイス構造や使用方法の場合には、前記の製造方法で特に問題は生じない。しかし、最近、磁気光学素子の全六面の方位を完全に特定し、規定の向きで配列する必要があるデバイス構造が開発された(特願平10−67753号参照)。その典型的な例は、複数の磁気光学素子でファラデー素子を構成する際、磁気光学素子の磁化方向と光線方向とのなす角をαとした時、角度αの温度依存性によるファラデー回転角の変化量と、ファラデー効果の温度依存性によるファラデー回転角の変化量とが、全体として互いに異符号で且つ絶対値がほぼ等しい方向に外部磁界を印加するファラデー回転子である。磁気光学素子は磁性ガーネット単結晶からなるが、磁気光学素子の全六面の結晶方位を完全に特定する必要があるのは、磁性ガーネット単結晶が(111)面に垂直な方向で見たときに3回回転対称軸を有する結晶構造を有するためである。つまり、相対向する側面同士は等価な面ではないからである。そこで、上記の例では、磁気光学素子の全六面の結晶方位を判別可能とするため、長方形チップの一角を少し削って方位マーカー(目印)としている。
【0010】
しかし、切り出された長方形チップについて、1個ずつX線回折装置で結晶方位を決定し、方位マーカーを付ける作業は、煩雑で時間がかかり、コストアップとなる。
【0011】
本発明の目的は、矩形板状チップの全六面の結晶方位が外観のみで完全に特定できる磁気光学素子を容易に且つ効率よく安価に製造できる方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、磁性ガーネット単結晶を縦横に切断して矩形板状チップに加工する際、一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って切り込みが形成されたチップ形状にする磁気光学素子の製造方法である。切り込みを1辺の側縁に形成して段差構造にするか、あるいは切り込みを1辺の側縁近傍に形成して溝構造にする。チップは長方形でもよいし正方形でもよい。片面から切り込みを入れることでチップの表裏が判別でき、また切り込みによって1辺が特定でき、これらによってチップの全六面の結晶方位が完全に特定できることになる。
【0013】
磁性ガーネット単結晶は、通常、非磁性ガーネット基板上にLPE法により育成する。その磁性ガーネット単結晶を縦横に切断して矩形チップに加工する際、一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って切り込みが形成されたチップ形状にする。
【0014】
磁性ガーネット単結晶は、治具に接着した状態でダイシングソー等によって切断加工する。従って、切断と溝加工はどちらが先でもよい。即ち、予め切断した後、その一方の切断線に沿って片面から溝加工を施してもよいし、予め一方の切断線に沿って片面から溝加工を施し、その後切断してもよい。勿論、溝加工と切断を交互に行ってもよい。切断処理後、治具に接着していた磁性ガーネット単結晶を剥がし、個々の矩形チップとする。
【0015】
【発明の実施の態様】
2つのオリエンテーションフラットにより方位が特定されている非磁性ガーネット基板の(111)面上にLPE法により磁性ガーネット単結晶膜を育成する。その磁性ガーネット単結晶膜付き基板を縦横に切断して矩形板状の中間加工物にする際、切断線は2つのオリエンテーションフラットと特定の角度をなし、その一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って磁性ガーネット単結晶膜に切り込みが形成された長方形状の中間加工物とする。切り出された中間加工物は、切り込みによってその全六面が完全に特定できる。次に、この中間加工物を研磨して仕上げ厚み寸法にした後、更に縦横に切断して矩形チップに加工する際、一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って切り込みが形成されたチップ形状にする。切り出されたチップは、切り込みによってその全六面が完全に特定できる。実際には、切り出した中間加工物を熱処理した後、仕上げ厚み寸法に鏡面研磨し、その表面に反射防止膜を形成し、それを仕上げ寸法に切断することになる。なお、中間加工物及びチップの切断方向には特に制限は無く、最終的に得られる磁気光学素子がファラデー素子として構成し易いような任意の方向に切り出してよい。
【0016】
【実施例】
図1に示す工程で磁気光学素子を作製した。PbO−B2 O3 −Bi2 O3 を融剤とし、LPE法により、格子定数が12.496Å、組成が(CaGd)3 (MgZrGa)5 O12、直径3インチ、厚み1170μmの非磁性ガーネット基板の(111)面上に、Bi置換希土類鉄ガーネット単結晶(LPE膜、組成Tb1.00Y0.65Bi1.35Fe4.05Ga0.95O12、膜厚450μm)を育成した。図1のAに示すように、非磁性ガーネット基板10には予め大小2つのフラット面(オリエンテーションフラット)が付けられており、大きなフラット面は(−110)面、小さなフラット面は(11−2)面に設定されている。LPE膜を符号12で示す。次に、図1のBに示すように、得られたLPE膜を刃厚0.2mmのダイシングソーで縦7.6mm、横5.0mmの間隔で切断する。LPE膜付き基板は、基板側が上になるように治具(図示せず)に接着してあり、刃は基板側から入る。そのままの状態でx方向の切断位置を0.2mmずらし、切断深さを1395μmに設定して切り込みを入れる。図1のBにおいて、点線は切断線(切断位置)を示し、実線は切り込みを示す。図1のCに、切り出した中間加工物14の形状を示す。ここでは、1辺に沿ってLPE膜に達する深さの切り込み段差16を形成している。(なお、結晶の面及び方位の表記法では、負の指数についてはその数値の上に横棒を引いて表すが、本明細書ではそれができないために指数にマイナス符号を付して表記している。)
【0017】
次に、研磨により基板を除去した後、磁性ガーネット単結晶を大気中で1100℃で8時間熱処理した。熱処理したのは、成長誘導による一軸磁気異方性を低減するためである。その後、再研磨して、7.6mm×5.0mm×0.33mm(刃厚0.2mmを含む)の形状に鏡面仕上げし、反射防止膜を蒸着して第2の中間加工物18とした。そして治具に接着し、図1のDに示すように、縦1.0mm、横1.2mmの間隔で刃厚0.2mmのダイシングソーで切断し、最後にx方向に位置を0.2mmずらし、切断深さを50μmにして切り込みを入れた。図1のDにおいて、点線は切断線(切断位置)を示し、実線は切り込みを示す。加工終了後、治具からチップを分離した。最終的に得られた磁気光学素子20の形状及び面を図1のEに示す。1.0mm×1.2mm×0.33mm(刃厚0.2mmを含む)の長方形であり、その短辺側の1辺に切り込み段差22が形成されたチップ形状である。この磁気光学素子は、磁化が光線方向(〈111〉方向)と平行方向を向いたとき、約32度のファラデー回転角を有する。
【0018】
図2に示す測定系を作製し、はじめに直交偏光子法によりファラデー回転角の温度特性を測定した。次に、偏光子と検光子を通過する光の偏光面のなす角度が105度になるように設置して光減衰量の温度特性を測定した。この測定系は、基本的には磁気光学式可変アッテネータと同じ構成である。図2のAに示すように、光ファイバ30から出射した光はレンズ31により平行光となり、偏光子32、ファラデー素子33、検光子34を通過し、レンズ35によって光ファイバ36の入射端に集光する。ここで符号38の部分がファラデー回転子であり、その一例を図2のBに示す。ファラデー素子33には一対の永久磁石40,41によって光軸に平行方向に飽和磁界が印加され、電磁石42により光軸と垂直方向に磁界が印加されて、該電磁石42のコイル電流を変えることでそれらの合成磁界を変化させる。
【0019】
ファラデー素子は、図1の方法で作製した磁気光学素子20を3個組み合わせて図3のように構成した。図3のAのように、一番手前の磁気光学素子20の切り込みを形成した方の(−1−12)面が電磁石のS極側に、後ろの2枚の磁気光学素子20の切り込みを形成した方の(−1−12)面が電磁石のN極側になるように磁気光学素子の方位を変えて配列した。比較のために、図3のBに示すように、全ての磁気光学素子20の切り込みを形成した方の(−1−12)面が電磁石のS極側になるように磁気光学素子の方位を揃えて配列した。なお、これら磁気光学素子と永久磁石との関係では、切り込みのある(111)面が永久磁石のS極側に、反対側の面が永久磁石のN極側となるように配置している。
【0020】
ファラデー回転角の測定結果を図4に、光減衰量の測定結果を図5に示す。いずれも、Aは方位を変えた配列(図3のA)の場合、Bは方位を揃えた配列(図3のB)の場合である。これらの結果から、方位を変えて適切に組み合わせた場合は温度特性が良好であるが、単に方位を揃えた場合は温度特性が悪いことが分かる。このように、温度特性が大きく異なるため、結晶方位に対する磁界印加方向を規定する必要があり、そのためには本発明方法により得られる磁気光学素子の形状は極めて有効である。
【0021】
図6は本発明方法の他の実施例を示している。基本的には前記図1に示す実施例と同様であるため、詳細な説明は省略する。ここで相違点は切断方位である。この実施例の切断方位は、図1に示す実施例の切断方位と24度異なる。そうすることにより、図6のEに示すように、最終的に得られる磁気光学素子の切断面のa面、b面、c面、d面は、次のようになり、それらは(111)面を中心としたステレオ投影図では図7に示すような位置となる。
a面:(−1−12)から(−101)へ24度傾いた面
b面:(−110)から(−12−1)へ24度傾いた面
c面:(11−2)から(10−1)へ24度傾いた面
d面:(1−10)から(1−21)へ24度傾いた面
【0022】
この磁気光学素子を、図3のBのように方位を揃えて配列してファラデー素子とし、図2の測定系に組み込み、ファラデー回転角と光減衰量の温度依存性を測定した。磁気光学素子のa面が電磁石のS極側になるように配置した。なお、永久磁石との関係では、切り込みのある(111)面が永久磁石のS極側に、反対側の面が永久磁石のN極側となるように配置している。
【0023】
ファラデー回転角の測定結果を図7に、光減衰量の測定結果を図8に示す。これらの結果から分かるように、適切な方位に磁界を印加することで良好な温度特性が得られる。
【0024】
印加磁界方向によってファラデー回転角のスペクトルが大きく異なるのは、観測されるファラデー回転角が、ファラデー効果を起源とするものの寄与だけでなく、結晶の異方性を起源とするものも含んでいるためである。そして磁性ガーネット単結晶は、結晶磁気異方性を有しており、それによって〈111〉方位とその対称等価な方位が磁化容易軸であり、〈100〉方位とその対称等価な方位が磁化困難軸である。ガーネット単結晶は立方晶であり、(111)面に垂直な方向では3回回転対称軸をもっているため、切り込みのある側面と、それと反対側の側面とは等価とはならない。これらのことから、切り込みによって側面を区別し、適切な向きで配列することは特性向上の点で極めて有効なのである。なお、結晶磁気異方性の大きさは、低温になるほど大きくなる(P.Hansen等 Thin Solid Films, 114(1984)69−107)。
【0025】
【発明の効果】
本発明は上記のように、磁性ガーネット単結晶を縦横に切断して矩形板状チップに切り出す際、一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って切り込みが形成された矩形板状チップに切り出す磁気光学素子の製造方法であるから、チップの全六面の結晶方位が外観のみで完全に特定できる磁気光学素子を容易に且つ効率よく安価に製造できる。このように外観のみでチップの全六面の結晶方位を判別できる磁気光学素子を用い、それを適切に配列することで、特性が良好でばらつきの少ない光デバイスが構成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における磁気光学素子の製造方法の一実施例を示す説明図。
【図2】本発明で用いる測定系の説明図。
【図3】磁気光学素子の配列状況を示す説明図。
【図4】電磁石の電流値とファラデー回転角の関係を示すグラフ。
【図5】電磁石の電流値と光減衰量の関係を示すグラフ。
【図6】本発明における磁気光学素子の製造方法の他の実施例を示す説明図。
【図7】それによって作製した磁気光学素子の面を示すステレオ投影図。
【図8】電磁石の電流値とファラデー回転角の関係を示すグラフ。
【図9】電磁石の電流値と光減衰量の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
10 非磁性ガーネット基板
12 LPE膜
14 中間加工物
16 切り込み段差
18 第2の中間加工物
20 磁気光学素子
22 切り込み段差
Claims (3)
- 2つのオリエンテーションフラットにより方位が特定されている非磁性ガーネット基板の(111)面上に液相エピタキシャル法により磁性ガーネット単結晶膜を育成し、その磁性ガーネット単結晶膜付き基板を縦横に切断して矩形板状の中間加工物にする際、切断線は2つのオリエンテーションフラットと特定の角度をなし、その一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って磁性ガーネット単結晶膜に切り込みが形成された長方形状の中間加工物とし、次にこの中間加工物を研磨して仕上げ厚み寸法にした後、更に縦横に切断して矩形チップに加工する際、一方の切断線に沿って片面から溝加工を施すことにより、1辺に沿って切り込みが形成されたチップ形状にすることを特徴とする磁気光学素子の製造方法。
- 切り出した中間加工物を熱処理した後、仕上げ厚み寸法に鏡面研磨し、その表面に反射防止膜を形成し、それを仕上げ寸法に切断する請求項1記載の磁気光学素子の製造方法。
- 切り込みが1辺の側縁に形成されて段差となっている請求項1又は2記載の磁気光学素子の製造方法。
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