JP3602327B2 - 射出発泡成形体によるスピーカ振動板 - Google Patents

射出発泡成形体によるスピーカ振動板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出発泡成形体によるスピーカ振動板に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にスピーカ振動板材料は、密度が小さく、ヤング率(剛性)が大きいこと及び、適度な内部損失を有することや、耐環境性能が要求される。
【0003】
従来のスピーカ振動板材料としては、耐環境性(特に、耐水性)が良く、内部損失が大きいものとして熱可塑性樹脂であるPP(ポリプロピレン)の振動板があり、また、高剛性のものでは、液晶ポリマーを振動板材料とするものもある。
【0004】
また、構造的に振動板の軽量,高剛性を求めたものとしては、ハニカム構造としたものや、発泡体を平板のスキン層でサンドイッチした3層構造の振動板も提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来例では、PP振動板では、比重が紙より大きく、ヤング率も低く、また、液晶ポリマー振動板では、比重が大で、内部損失がPPに比べて低いといった具合で、上述した全ての条件を最適に満たした振動板材料は選択しにくい。
【0006】
したがって、密度やヤング率といった物理特性は上述のように構造的に解決して、他の条件を材料選択によって満足することがなされているが、物理特性を構造的に解決しようとすると、例えば3層構造のものはそれぞれの層を接着する必要があるように、製造工程上コストアップを招いてしまう不都合がある。
【0007】
上述の問題に対処するために、本出願人は、先に、特願平7−14782号(特開平8−340594号)として、発泡剤を含む樹脂を射出成形することにより、内部が発泡層、表面が未発泡層の3層構造に形成されたスピーカ振動板を提案している。これは、層の張り合わせを行うことなく、内部が発泡層で表面が未発泡層の3層構造を形成したもので、製造工程上のコストアップを招くことなく構造的に物理特性を改善したもので、軽量、高内部損失、高剛性、耐環境性の向上を達成している。
【0008】
本発明は、上記の提案に更に改良を加えて、樹脂への含有成分に着目し、上述のような内部が発泡層で表面が未発泡層の3層構造に形成された一体成形品における、樹脂への含有成分の影響を考慮したものであって、物理特性の更なる向上と外観特性の改善を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明による射出発泡成形体によるスピーカ振動板は、発泡剤を含む熱可塑性樹脂を射出成形することにより、内部が発泡層、表面が未発泡層の3層構造に形成されたスピーカ振動板において、前記樹脂は、無機物又は有機物フィラーを3〜30wt%含有したものであり、前記発泡層の発泡セルが厚さ方向に対し縦長に配向していることを特徴とする。
【0010】
本発明によると、まず、発泡剤を含む樹脂を射出成形することにより、内部が発泡層、表面が未発泡層の3層構造にしたので、低比重で面厚を厚くすることができることから、軽量且つ高弾性の振動板が得られるばかりか、表面が未発泡層で覆われているため耐環境性にも優れ、しかも、従来のように3層を接着する必要がないので、低コストで製造することが可能になる。しかも、射出成形する樹脂に無機物又は有機物フィラーを3〜30wt%含有させることによって、上述の良好な物理特性を維持しながら、外観特性を改善できる。そして、発泡層の発泡セルが厚さ方向に対し縦長に配向していることにより、発泡層を補強する形になり、ヤング率の低下が緩やかになって、剛性アップ率を高めることができる。ここで、樹脂に含有させる無機物又は有機物フィラーは、少ないと表面の未発泡層が引け易く外観が悪くなり、多すぎると発泡状態に悪影響を及ぼして剛性が損なわれる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の射出発泡成形体によるスピーカ振動板の一実施例を示すものである。同図に示すように、射出発泡成形体によるスピーカ振動板1は、PP(ポリプロピレン)に発泡剤を添加した樹脂混合材を金型内に射出し、直後に金型を後退させて発泡させることにより、内部が発泡して発泡層3が形成され、その表面は樹脂が充填する過程で金型の内面に接触しているため、発泡する前に固化することにより未発泡であるスキン層2が形成された3層構造とされている。ここで、樹脂混合剤には、無機物又は有機物フィラーを3〜30wt%含有させる。この樹脂に含有させる無機物又は有機物フィラーは、少ないと表面の未発泡層が引け易く外観が悪くなり、多すぎると発泡状態に悪影響を及ぼして剛性が損なわれるもので、経験的に最適な含有量を3〜30wt%と特定できた。
【0012】
含有させるフィラーは、無機物フィラーとしては、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイド等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム等の(亜)硫酸塩、タルク、クレー、マイカ(フロゴバイト、バイオタイト、マスコバイト、スゾライト等)、アスベスト、ガラス繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト等のケイ酸塩、或いはシリコンカーバイト単結晶等を挙げることができる。また、有機物フィラーとしては、結晶質セルロース微粉末、尿素樹脂微粉末等を挙げることができる。これらのフィラーは単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。また、樹脂との相互作用を改善するために適当なカップリング材で処理して用いることもできる。
【0013】
また、スピーカ振動板1の厚さは0.17mm〜1.8mmであり、スキン層2の厚さは0.05mm〜0.2mmとされている。これは、スピーカ振動板1の物性のバランスを良好なものとするために必要な寸法であって、その詳細は後述する。
【0014】
図2は、図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板1を製造するための射出成形機を示すものである。また、同図に示す射出成形機は、図4に示す成形特性を有している。
【0015】
同図に示す射出成形機における金型20の可動プラテン24に保持された可動側金型21と固定プラテン25に保持された固定側金型22との締め圧は、金型締め圧制御部30によって制御された型締めシリンダー10によってコントロールされている。
【0016】
固定側金型22の射出口には、PP(ポリプロピレン)に発泡剤を添加した樹脂混合材を射出するための射出装置40の射出口が差し込まれている。射出装置40は、射出プロセス制御部31により制御された射出条件によってコントロールされている。また、射出装置40側からは、成形プロセスの情報が出力されるようになっており、その情報及び可動プラテン24側の距離の情報等に応じて金型締め圧制御部30による金型締め圧制御が行われる。
【0017】
続いて、以上のような構成の射出成形機による振動板の製造方法について説明する。
【0018】
まず、図3(a)に示すように、型締め機構10によって金型20の可動側金型21と固定側金型22とを閉じ、射出装置40から、PP(ポリプロピレン)に発泡剤と無機物又は有機物フィラーとを入れた樹脂混合材を射出する。
【0019】
このとき、樹脂混合材の温度は、シリンダー10内で約230℃に保たれている。また、金型20のキャビティ面の温度は、約90℃に保たれている。更に、金型締め圧制御部30によって制御されている型締めシリンダー10による締め圧は、約100tに保たれている。更にまた、金型20の可動側金型21と固定側金型22とによって形成されるキャビテイの一般厚みは約0.3mm程度とされている。
【0020】
またこのとき、同図(b)に示すように、可動側金型21と固定側金型22との間のキャビティに充填された樹脂混合材は、金型20に接している部分から固化が始まりスキン層2を形成し、溶融部分はスクリューから押し出される圧力と可動側金型21及び固定側金型22による締め圧が掛かるため、分解した発泡剤のガスは圧縮されて発泡が抑制されながら固化が進んでいく。
【0021】
次いで、同図(c)に示すように、樹脂混合材の充填完了直後、溶融部分の発泡剤の発泡圧力がまわりのスキン層(固化部分)2を押し広げるだけの力が残っているうちに、金型締め圧制御部30によって制御されている型締めシリンダー10による締め圧が瞬時に0t近くまで落とされる。これにより、溶融部分の圧縮されていた発泡剤の分解ガスがまわりの樹脂を押し広げながら膨らみ、発泡が開始される。
【0022】
ここで、可動側金型21の型開きタイミングについて説明する。
樹脂の充填が完全に終了する前に型開きを行ってしまうと、樹脂混合材が金型20の可動側金型21及び固定側金型22のキャビティ内部に入り込み過ぎ、製品の重量が重くなってしまい、反対にタイミングが遅いと樹脂の固化が進みすぎ、発泡剤が発泡できないまま完全固化してしまうため、この場合は射出開始から0.3秒〜0.4秒後に型開きを行うことが好ましい。但し、これらの要件は、樹脂混合材の樹脂温度、金型20の温度、製品肉厚、発泡剤の添加量等の条件により変わってくる。
【0023】
上記の金型20を開く量は、約0.1〜1.5mm程度であり、これを0.04〜0.05秒の高速で開く必要があるため、金型20は約0.0020〜0.0375mm/msの速度で開くように、発泡剤、バネの力及び締め圧がコントロールされる。薄型の発泡成形振動板を成型するには、約0.001mm/ms以上の速度で金型を開くようにすれば十分である。
【0024】
更に、金型20の可動側金型21と固定側金型22との間にバネを埋め込み、型締め圧力を下げたときの可動側金型21の開放力を上げてやると、発泡倍率を上げることができる。
【0025】
ここで、この実施例で採用した射出成形機や発泡剤等の具体例について説明すると、PP(ポリプロピレン)としては、MA06三菱化学(株)にカーボンファイバー7%を添加したものを用い、発泡剤としては、EE−205 永和化成工業(株)のものを用い、配合比は発泡剤を0.1重量部とした。射出成形機としては、ウルトラ220 住友重機械工業(株)を用いた。
【0026】
以上のような発泡成形体の成形方法により得られた製品の特性は、図5乃至図8に示す通りである。
【0027】
すなわち、図5は、製品重量を一定にしながら製品の発泡倍率を種々変えたときの比重、ヤング率、内部損失、面厚、剛性率の測定結果を示したものであり、図6は発泡倍率によるヤング率変化、図7は発泡倍率による内部損失変化、図8は発泡倍率による剛性率変化をそれぞれ示したものである。
【0028】
これらの図から解る通り、発泡倍率を上げていくと、ヤング率は低下するが、比重が下がり、面厚が厚くなるため、剛性がヤング率に比例し、厚さの3乗に比例することから発泡倍率が上がるほど剛性は高くなっていく。また、発泡倍率を上げると内部損失も大きくなっていく。
【0029】
発泡倍率が約1.1倍で現行PPコーン(ヤング率が6.4E+9N/m の材料で面厚が0.3mm)と同等の剛性が得られ、内部損失も上がり、更に発泡倍率を増やすことにより、剛性は上がっていく。
【0030】
しかし、発泡倍率が約3.0倍を越えると発泡セルが大きくなりすぎるため、発泡状態にばらつきを生じてしまい、振動板の物性のばらつきが大きくなることから、発泡倍率は1.1倍〜3.0倍程度が適切である。
【0031】
また、発泡倍率を1.5倍以上にすることにより、図1のように、発泡層3の発泡セルが面厚方向に対し縦長に配向し、スキン層2を補強する形となるため、ヤング率の低下が緩やかになり、剛性アップ率が急激に上がる。これは、金型20を高速で後退させて発泡成形で作ることにも起因している。
【0032】
逆に、発泡倍率が2.5倍を越えると、スキン層2を補強する発泡層3の樹脂密度が小さくなりすぎて、ヤング率の低下率が大きくなり、製品の剛性のばらつきも徐々に大きくなってくる。よって、この発泡成形による構造的な剛性アップを効果的に使い、安定した製品を得るためには、1.5倍〜2.5倍の発泡倍率とすることが好ましい。
【0033】
また、スキン層2と発泡層3とのサンドイッチ構造による軽量且つ高剛性の構造体を得るには、スキン層2を強度を保つ範囲内で、できるだけ薄くした方が望ましい。しかし、射出発泡成形の場合、あまり薄いと、金型20を後退させて発泡させるときにスキン層2が変形したり、割れ易くなる等の問題がある。
【0034】
逆に厚くなると、発泡層3を形成する樹脂が少なくなり、効果的な発泡倍率がとれない(言い換えれば発泡倍率が下がる)。このようなことから、最もバランスの良いスキン層2の厚さは発泡前の面厚の約1/3の厚さが良く、振動板として使用される一般的な未発泡のPP振動板の厚さが0.15mm〜0.6mmであることから、スキン層の厚さとしては0.05mm〜0.2mmが好ましい。
【0035】
このように、本実施例では、発泡剤を含む樹脂を射出成形し、発泡層3を未発泡層であるスキン層2によって覆った3層構造としたので、低比重で面厚を厚くすることができることから、軽量且つ高剛性の振動板が得られるばかりか、表面がスキン層2で覆われているために耐環境性にも優れ、しかも従来のように3層を接着する必要がないため、低コストで製造することができる。
【0036】
また、未発泡層であるスキン層2を含めたスピーカ振動板1全体の平均の発泡倍率を略1.1〜3.0倍としたので、発泡による高剛性化、高内部損失化の特徴を生かし、スピーカ振動板1の物性のばらつきを小さくすることができる。すなわち、発泡倍率を1.1倍以上にすると剛性が上がり内部損失を高めることができるが、発泡倍率が3.0倍を越えると発泡セルが大きくなりすぎ、発泡状態のばらつきが大きくなり、スピーカ振動板1の物性のばらつきが大きくなってしまうためである。
【0037】
更に、スキン層2の厚さを略0.05mm〜0.20mmとしたので、スピーカ振動板1の物性のバランスを良好なものとすることができる。すなわち、発泡層3とスキン層2とのサンドイッチ構造によって軽量且つ高剛性の構造体を得ようとすると、強度を保つ範囲内でスキン層2をできるだけ薄くした方が望ましいが、射出発泡成形の場合、スキン層2が薄すぎると、金型20を後退させて発泡させるときにスキン層2が変形したり、割れ易くなる等の問題があり、逆に厚くなると、発泡層3を形成する樹脂が少なくなり、効果的な発泡倍率がとれなくなってしまうためである。
【0038】
更にまた、金型20内に発泡剤を含む発泡樹脂剤を射出した直後に、金型20を高速で後退させるようにしたので、発泡層3の発泡セルが厚さ方向に配向し、スキン層2を補強する形となるため、ヤング率の低下が緩やかになり、剛性アップ率を高めることができる。
【0039】
なお、本実施例では、金型20内にPP(ポリプロピレン)に発泡剤を添加した樹脂混合材を射出した直後に、型開きを行ってスキン層2と発泡層3とのサンドイッチ構造とした得スピーカ振動板1を成形する方法について説明したが、この例に限らず、たとえば未発泡の発泡剤が残るような樹脂温度で射出成形し、その後、加熱プレス型又は真空成形型のような金型で発泡剤の分解温度以上で加熱し、発泡剤を発泡させて成形する方法を用いてもよい。
【0040】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成されるので、発泡剤を含む樹脂を射出成形することにより、内部が発泡層、表面が未発泡層の3層構造にしたので、低比重で面厚を厚くすることができることから、軽量且つ高弾性の振動板が得られるばかりか、表面が未発泡層で覆われているため耐環境性にも優れ、しかも、従来のように3層を接着する必要がないので、低コストで製造することが可能になる。しかも、射出成形する樹脂に無機物又は有機物フィラーを3〜30wt%含有させることによって、上述の良好な物理特性を維持しながら、外観特性を改善できる。そして、発泡層の発泡セルが厚さ方向に対し縦長に配向していることにより、発泡層を補強する形になり、ヤング率の低下が緩やかになって、剛性アップ率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による射出発砲成形体によるスピーカ振動板の一実施例を示す説明図である。
【図2】図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板を製造するための射出成形機を示す説明図である。
【図3】図2の射出成形機によるスピーカ振動板の製造方法を示す説明図である。
【図4】図2の射出成形機の成形特性を示す説明図である。
【図5】図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板の発泡倍率による物性変化を示す説明図である。
【図6】図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板のヤング率変化を示す説明図である。
【図7】図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板の発泡倍率による内部損失変化を示す説明図である。
【図8】図1の射出発泡成形体によるスピーカ振動板の発泡倍率による剛性変化を示す説明図である。
【符号の説明】
10 型締めシリンダ
20 金型
21 可動側金型
22 固定側金型
23 真空成型用金型
24 可動プラテン
25 固定プラテン
30 金型締め圧制御部
31 射出プロセス制御部
40 射出装置

Claims (1)

  1. 発泡剤を含む熱可塑性樹脂を射出成形することにより、内部が発泡層、表面が未発泡層の3層構造に形成されたスピーカ振動板において、前記樹脂は、無機物又は有機物フィラーを3〜30wt%含有したものであり、前記発泡層の発泡セルが厚さ方向に対し縦長に配向していることを特徴とする射出発泡成形体によるスピーカ振動板。
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