JP3601572B2 - 耐久性に優れた連続鋳造用鋳型及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として鋼の連続鋳造に用いられる内面被覆鋳型の改良に関し、特に、鋳型内面の耐久性を高めて寿命延長を図ることのできる技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造用鋳型として現在最も汎用されているのは、熱伝導率が大きく且つ優れた冷却効率の得られるCuあるいはCu合金製の鋳型である。そして連続鋳造に当たっては、溶鋼の酸化を防止すると共に溶鋼材あるいは鋳片が鋳型内面と直接的に接触するのを防止し、更には、鋳型内面と凝固殻との間に潤滑性を持たせるため、一般にはフラックスが使用されている。しかしながら、この鋳型の内表面に形成されるフラックス層の厚みは不連続であり、溶鋼或いは鋳片と鋳型との直接的な接触を完全に回避することはできず、鋳型内面はかなり損傷することが知られている。
【0003】
また最近では、溶鋼原料としてスクラップを使用したときに混入してくる亜鉛に起因する鋳型内面の溶損も、鋳型寿命短縮の大きな原因となることが確認されている。即ち溶鋼中に亜鉛が混入してくると、これが鋳型のメニスカス部分に凝縮されて、溶融亜鉛による侵食を起こすことが報告されている。そこで最近は、CuまたはCu合金鋳型の表面に保護皮膜を形成することによって、上記の様な溶損の軽減を図っている。こうした保護皮膜に求められる要求特性としては、溶鋼と接触する鋳型メニスカス側では溶鋼温度に耐える耐熱性と耐溶融亜鉛性が、また凝固殻と接触する鋳型出側では優れた耐摩耗性が挙げられる。
【0004】
こうした状況のもとで、鋳型表面の保護皮膜について種々の提案がなされている。例えば▲1▼特公平4−2377号公報にはCoまたはCo−Ni合金よりなる保護皮膜、▲2▼特公昭55−40341号公報にはNi(またはCo)/Ni(またはCo)−P(またはB)よりなる2層めっき構造の保護皮膜、▲3▼特公昭54−37562号公報にはNi/Crよりなる2層めっき構造の保護皮膜、▲4▼特公昭52−50734号公報にはNi/Ni(またはCo)−P(またはB)/Crよりなる3層めっき構造の保護皮膜、▲5▼特公平6−26754号公報にはNi−P/Co/Crよりなる3層めっき構造の保護皮膜、などが使用されている。
ところが上記の如き従来の皮膜は、夫々以下の様な不都合を伴っている。
【0005】
まず、上記▲1▼の様なNiやCo等の単体の金属を主たる保護皮膜成分とするものでは、これらの融点がFeの融点よりも低い(鉄の融点は1536℃、Ni,Coの融点は夫々1453℃、1492℃)為、溶鋼が鋳型表面に飛散した際に表面と溶着してしまう。また、上記▲2▼の様にめっき成分中にPやB等を含有するものは融点が一層低くなるため、溶鋼との接触によって保護皮膜が容易に侵食される。更に、溶鋼中にZnが含まれている場合、上記保護皮膜を構成するめっき成分のうちNi、Co、Ni−P、Co−P、Ni−B、Co−B等は溶融亜鉛によって容易に侵食を受けるので、満足のいく溶損防止効果は期待できない。これに対し、上記▲3▼〜▲5▼の如く表層部にCrめっきを形成したものでは、Crの融点が1875℃と非常に高い為、溶鋼温度にも十分に耐え、しかも耐溶融亜鉛性にも優れているところから、優れた溶損抑制効果が期待される。しかしながら、連続鋳造用鋳型を使用する際には、高温の溶鋼との接触による急速加熱と、溶鋼を凝固させる為の氷冷などによる急速冷却という過酷な熱サイクル(熱衝撃)を受けており、Cr系めっきの場合にはめっきまま状態での皮膜に強い引張応力が作用していることから、鋳型表面に形成されたCr系めっき皮膜がこの様な厳しい熱サイクルに曝されると、該めっき皮膜にクラックが容易に発生して皮膜の剥離が生じ、或いは該クラックを通して溶融亜鉛の侵入が起こり侵食されてしまう等の問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な従来技術の問題点に着目してなされたものであって、その目的は、耐摩耗性や耐溶融亜鉛性を高めると共に、厳しい熱サイクルにも十分に耐え得る耐クラック性を与え、鋳型寿命を大幅に延長することのできる連続鋳造用鋳型を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る連続鋳造用鋳型は、鋳型基材の表面にクラックを有するめっき層が存在する連続鋳造用鋳型であって、該クラックの内部を全面的または部分的に金属酸化物で塞いだものであるか、及び/又はめっき層表面を全面的または部分的に金属酸化物で被覆したものであるところに要旨を有する。特に、CuまたはCu合金からなる鋳型基材にCr系めっき層を施したものは、クラックの発生が著しいので、上述の如くクラックの内部やめっき層表面を金属酸化物で塞いだり被覆することは非常に有用である。
【0008】
本発明に用いられる金属酸化物としては、4A族元素,5A族元素,6A族元素、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物が挙げられ、なかでもCr酸化物またはSi酸化物が推奨される。
【0009】
更に、めっき密着性等の改善を目的として、鋳型基材とめっき層の間に下地層を少なくとも1層以上存在させることは本発明の好ましい実施態様である。この下地層は、鋳型基材の熱膨張率とめっき層の熱膨張率の間の熱膨張率を有するもの,或いは4A族元素,5A族元素,6A族元素及び8族元素よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を主成分として含有する金属または該金属を含む合金めっき層であるものが好ましく、なかでも、鉄族元素を主成分とする金属または該金属を含む合金めっき層であるものは、めっき層の損傷や剥離を一段と確実に防止することができるので一層好ましく、特に鉄族元素とPの合金めっき層であるものが推奨される。
【0010】
また、上記課題を解決することのできた本発明の製造方法とは、鋳型基材の表面に、必要に応じて形成される下地層を介してめっき層を施した後、熱処理により該めっき層にクラックを付与した鋳型を、▲1▼金属ゾル溶液中に浸漬するか、若しくは該鋳型表面に上記金属ゾル溶液を塗布してから、100℃超〜500℃の範囲で焼成するか、または▲2▼酸化雰囲気中にて400℃超〜500℃で熱処理するところに要旨を有するものである。このうち▲1▼の方法に用いられる金属ゾル溶液の金属供給形態としては、金属の硝酸塩等といった無機金属化合物、金属アルコキシドや金属の酢酸塩等といった有機金属化合物等が挙げられ、上記めっき層としてはCr系めっき層が好ましい。一方、上記▲2▼の方法は、鋳型基材の表面にCr系めっき層が形成され、Cr酸化物でクラック内部やめっき層表面を塞いだり被覆したりする場合に、特に推奨される方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、クラックの発生に起因する溶融亜鉛の拡散侵入等による弊害防止を目的として鋭意検討した結果、クラックの発生防止を直接的な目的とするのではなく、生成したクラックの内部を、耐溶融亜鉛性に優れる金属酸化物で全面的または部分的にうまく塞ぐか、及び/又はめっき層表面を上記金属酸化物で全面的または部分的にうまく被覆することにより所期の目的が達成できることを見出し、本発明を完成したのである。以下の記載では、鋼の連続鋳造鋳型として最も汎用されているCuあるいはCu合金製の鋳型基材にCr系めっきを施した鋳型を代表的に取り上げて説明していくが、これに限定されるものではなく、クラックの発生が起こる鋳型(即ち、母材の熱膨張率とめっき層の熱膨張率の差が大きい鋳型)の全てに適用される。
【0012】
上述した様に、Cr系めっき自体は耐溶融Zn性に優れるが、使用時の熱サイクルの影響によりクラックが発生し、そのクラックを通して溶融Znが浸透する等して母材が浸食されてしまう。この様なクラック側からの溶融亜鉛の拡散浸透を防ぐ為に、本発明では、クラック内部を、Cr等の金属に比べて自由エネルギーが大きな負の値を有して安定であり、しかも耐溶融Zn性に優れる金属酸化物で塞いだ点に最大の特徴を有する。
【0013】
本発明に用いられる金属酸化物としては、上述した性質を備えたものであり、ゾルゲル法(後記する)に用いられるものであれば特に限定されないが、化学的安定性等を考慮すれば、4A族元素(Zr,Ti等),5A族元素(V,Nb等),6A族元素(Cr等),Si,Al等といった金属の酸化物が好ましい。なかでもCr酸化物やSi酸化物は、Cr系めっき層と良好な密着性を有することから特に望ましい。
【0014】
図1に、上記金属酸化物によってクラックの内部を全面的または部分的に塞いだ代表的な形態を示す。図中(a)は、金属酸化物でクラック全体を充填したものであり、その結果、クラックが完全に塞がれている為、クラックを通して行われる溶融亜鉛の拡散侵入を完全に防止できるので最も有効である。図中(b)は、クラック内壁から母材との界面に至る部分を部分的に金属酸化物で塞いだものであるが、この様に、前記(a)の如くクラック全体を埋め込む形態をとらず一部分を塞いだ形態であっても、溶融亜鉛の拡散侵入を十分防止することができる。これらは、あくまでも代表的な例であり、要するに、クラックの内部に、クラック内部に拡散侵入する溶融亜鉛を遮断する為の金属酸化物からなる保護皮膜が形成されておれば良いのであり、例えば図中(a)においてクラックの半分程度が金属酸化物で塞がれているものであっても構わない。尚、図1は、クラックがCrめっき層を貫通し母材まで達している例を示しているが、クラックが母材まで達していないものにおいても同様の被覆形態をとることができることは言うまでもない。これらのいずれの被覆形態を採用するかについては特に限定されず、クラックの形状[クラックの幅が狭い場合には(a)の様にクラック全体を充填することが可能であり、一方、クラックの幅が広い場合には(b)の様に側面のみに充填する]等の様々な要因に応じて、適宜所望の形態を選択することができる。
【0015】
この様にクラック内部に上記金属酸化物をうまく塞ぐことにより、耐Znアタック性が改善されるが、或いは、めっき層表面を上記金属酸化物でうまく被覆することによっても、溶融亜鉛のクラック内部への拡散侵入を抑制することができ、耐Znアタック性が飛躍的に改善されることが分かった。
【0016】
めっき層表面には金属酸化物が全面的に被覆されていても良いし、或いは部分的に被覆されていても良く、要するに、めっき層を通してクラック内部に拡散侵入する溶融亜鉛を遮断する為の保護皮膜が形成されておれば良い。その際、めっき層表面全体を金属酸化物で被覆し、且つクラック内部を完全に塞いだものは、めっき層表面のみならずクラック内部も完全に被覆されている為、溶融亜鉛が、めっき層表面を通しクラック内部へ拡散侵入するのを完全に防止できるので最も有効である。勿論、クラック内部は、金属酸化物で部分的に塞いだものであっても良く、本発明では種々の態様を包含し得る。
【0017】
尚、めっき層表面に被覆される金属酸化物層の厚さ等については特に限定されず、使用条件や浴湯温度等の様々な要因により適宜所望の形態を選択することができるが、金属酸化物層の厚さは、概ね数千Åとすることが好ましい。
【0018】
この様にめっき層表面を上記金属酸化物でうまく被覆することにより耐Znアタック性が著しく改善される理由は、詳細には不明であるが例えば以下の様に考えられる。一般に、金属酸化物は金属そのものに比べて溶融金属に対する濡れ性が悪い。この様な金属酸化物をめっき層表面に形成させると、溶融金属(本発明では溶融亜鉛)をはじき易くなりので、溶融金属が、めっき層表面を通してクラック内部へ拡散侵入するのを抑制できると考えられる。
【0019】
この様に本発明によれば、通常、Cr系めっきが施されたCu或いはCu合金からなる連続鋳造用鋳型において、クラックの内部、及び/又はめっき層表面に上記金属酸化物を保護皮膜として形成させることによりその目的を達成することができるが、更に密着性や耐摩耗性等を向上させることを目的として、これら鋳型基材とCr系めっき層の間に、下地層を少なくとも1層以上形成したものは好ましい態様である。鋳型基材とCrめっき層の界面は、特に鋳型のメニスカス側では、連続鋳造時における急熱−急冷の繰り返しによる両素材の熱膨張率の差(CuまたはCu合金母材:16×10−6/℃,Crめっき:5〜6×10−6/℃)によって繰り返し剪断応力を受け、めっき剥離を起こす可能性があるが、鋳型基材とCrめっき層の間に上記下地層を介在させておけば、上記熱膨張差が緩和され、熱膨張差に起因するCr系めっき皮膜の剥離も阻止することができるからである。
【0020】
この様な下地層としては、Cu或いはCu合金製鋳造基材とCr系めっき層との密着性が良好で且つCuの熱膨張率とCrの熱膨張率の間の熱膨張率を有しており、しかも溶融亜鉛に対して比較的侵食を受けにくいという要件を満足するものが好ましい。その様な例としては、4A族元素(Ti,Zr等),5A族元素(V,Nb等),6A族元素(Cr,Mo等)及び8族元素(Fe,Co,Ni等)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を主成分として含有する金属または該金属を含む合金めっき層が挙げられる。なかでも、上述した密着性向上効果と耐摩耗性向上効果を有効に発揮し得るものとして好ましいのは、鉄族金属(Fe,Ni,Co)または該鉄族金属を主成分とする合金、例えば熱膨張率が約12×10−6/℃であるNi、Co、Fe、Fe−W,Fe−Co,Fe−P,Ni−P,Ni−W,Ni−B,Co−P,Co/Ni−P,Co−W等であり、最上層のCr系めっき層との密着性やめっき層の硬度等を考慮すると、Fe−P,Co−P,Ni−P等の如く鉄族元素とPとの合金めっき層が一層好ましく、更には、Co/Co−P,Co/Ni−P等の組合わせが推奨される。
次に、本発明の鋳型を製造する方法について説明する。
【0021】
第1の方法は、鋳型基材の表面に、必要に応じて形成される下地層を介してめっき層を施した後、熱処理により該めっき層にクラックを積極的に付与した鋳型を、金属ゾル溶液中に浸漬するか、または該鋳型表面に上記金属ゾル溶液を塗布してから焼成するものであり、なかでも所謂ゾルゲル法によって、クラックの内部若しくはめっき層表面を金属酸化物で被覆するところに最大の特徴を有する。
【0022】
ゾルゲル法とは、含水酸化物ゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを加熱して金属酸化物を被覆する方法である。この含水酸化物ゾルは、金属陽イオンを加水分解するか、或いは金属アルコキシドを有機溶媒中で加水分解して調製される。
【0023】
上記金属陽イオンは、金属の硝酸塩、金属の塩化物、金属の炭酸塩等の無機金属化合物;金属の酢酸塩、脂肪酸塩等の有機金属化合物の形で供給されることが好ましく、金属としては例えば4A族元素(Zr,Ti等),5A族元素(V,Nb等),6A族元素(Cr等),Si,Al等が挙げられる。具体的には、酢酸クロム、塩化チタン、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ニッケル等が挙げられ、好ましいのは酢酸クロムである。
【0024】
また、本発明に使用される金属アルコキシド(M−O−R,式中、Mは金属,Rはアルキルを夫々表す)としては、前述した金属酸化物を与えることのできるものであれば良く、金属(M)としては前記金属陽イオンの説明で挙げた金属を用いることができる。具体的には、アルミニウムイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、ジルコニウム−n−ブトキシドの他、オルトケイ酸メチル、オルトケイ酸エチル(テトラエトキシシラン)等のオルトアルキルケイ酸エステルなどが挙げられる。
【0025】
この様にして得られたゾル溶液をCrめっき層に塗布したり、或いは該ゾル溶液中に浸漬させることによって、クラックの内部や更にはめっき層表面にゾル溶液を充分浸透させることができる。通常、厳しい熱サイクルによってCr系めっき皮膜に発生するクラックの幅は、概ね1μm以内と非常に小さく、この様なクラックを塞ぐ方法としては、例えば本発明とは異なる目的(例えば耐食性向上)でセラミック粒子を分散させたペースト材等を使用することにより該粒子を充填する方法がある。しかしながら、この方法では、クラック中に粒子を充分侵入させることはできず、所望の封孔効果が得られない。これに対して、本発明法の如く金属ゾル溶液を使用する方法では、浸漬或いは塗布(スプレー塗布など)によってクラック中に容易にゾル溶液を浸透させることができるので非常に有用である。尚、浸漬法を採用すれば、一定の金属酸化物を被覆させることができるが浸漬装置を使用する為、作業効率が悪くなる;一方、塗布法を採用すれば、作業が容易で且つ処理し易いが、浸漬法に比べて均一な塗布効果が得られ難い;といった様に、夫々利点・欠点を有しているので、製造する鋳型の用途やサイズ等に応じて、より有用な方法を適宜選択すれば良い。
【0026】
尚、Cr系めっきでは、前述した様にクラックの幅は成膜ままの状態で概ね1μm以下と非常に小さい為、このままでは、たとえゾルゲル法を施したとしても、金属ゾル溶液をクラック内に充分浸透させ難かったり、或いは激しい熱サイクルに曝される場合には、めっき層のCrと母材であるCuの熱膨張率の差や、Crめっき自体の引張応力により、昇温中にクラックが拡大してしまい、やはりゾル溶液を充分浸透でき難い場合がある。そこで、上記ゾル溶液を浸透させる前に、予め熱処理を行って、クラックの幅を充分広げておくことが推奨される。200℃以下では、発生する熱応力が不十分な為にクラックの拡大効果が得られず、一方、500℃以上では母材であるCu若しくはCu合金の機械的特性が著しく劣化することから、200℃超〜500℃未満で熱処理することが望ましい。
【0027】
尚、本発明法を適用するに当たり、めっき層にはクラックが存在することが前提条件になる。クラックを発生させる為の熱処理条件としては、通常、上記連続鋳造用鋳型が使用時に曝される条件であれば特に限定されないが、例えば熱処理温度:300〜500℃,熱処理時間:30〜120分間で処理することが好ましく、この様な熱処理条件で発生させたクラックの内部を上記金属酸化物で塞いでやれば、その後、使用時に過酷な熱サイクルを受けたとしても、クラックの発生を著しく抑えることができ、耐久性を格段に向上させることができる。
【0028】
次に、上記処理を行った後に焼成するが、これにより、緻密な金属酸化物からなる皮膜を得ることができる。但し焼成条件によっては、残留した有機溶媒により皮膜がポーラスになる恐れがあるので、焼成前に、室温で十分に乾燥させておくことが望ましい。焼成温度は、使用する金属アルコキシド化合物等の種類によって異なるが、一般に温度が高い程皮膜の緻密化が促進され強固な皮膜が得られる傾向にある。100℃以下では、焼成が不十分で皮膜の緻密化を充分得ることができず、一方、500℃以上になると母材のCuまたはCu合金の機械的劣化が激しくなることから、焼成温度を100℃超〜500℃の範囲にすることが好ましい。
【0029】
第2の方法は、鋳型基材の表面に、必要に応じて形成される下地層を介してめっき層を施した後、熱処理により該めっき層にクラックを付与した鋳型を、酸化雰囲気中にて400℃超〜500℃で熱処理するものである。上記第2の方法と前記第1の方法を比較すると、両者は、めっき層にクラックを付与した後の処理工程が異なるだけであり(従って、それまでの工程は、前記第1の方法と同様にすれば良い)、第1の方法が、その後、所謂ゾルゲル法によってクラックの内部若しくはめっき層表面を金属酸化物で被覆するのに対し、第2の方法は、酸化雰囲気中にて400℃超〜500℃で熱処理するものである点で相違する。この第2の方法は、Cr酸化物を形成させる場合に特に有効であり、第1の方法に比べて、薬液等が不要である、工程が簡略化される等の利点がある。熱処理時の温度は、400℃超〜500℃の範囲にすることが必要である。400℃以下では、酸化が充分進行せず、形成される酸化物が不均一になったり、酸化物の層が薄くなってしまう。好ましくは450℃以上である。一方、500℃を超えると、母材であるCu合金の機械的特性が著しく劣化してしまう。好ましくは480℃以下である。また、熱処理時間は、処理温度などによっても変化するが、本発明範囲内(400℃超〜500℃)であれば、概ね1〜4時間とすることが推奨される。
【0030】
本発明法は、この様にゾルゲル法(第1の方法)または特定の熱処理(第2の方法)により、クラックの内部若しくはめっき層表面を、所望の金属酸化物で被覆する点に最大の特徴を有するものであり、その他の工程(Crめっき層や下地めっき層の形成)については一切制限がなく、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、湿式めっき法、気相めっき法、電気めっき法等を任意に選択することができる。経済的観点から言えば、湿式めっき法や電気めっき法を使用することが好ましく、なかでも成膜速度の大きさを考慮すれば電気めっき法の採用が推奨される。
【0031】
以下本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0032】
【実施例】
実施例1
本実施例は、本発明の第1の方法によってクラック内部若しくはめっき層表面を種々の金属酸化物で被覆した場合の耐溶融亜鉛性を評価したものである。
まず、脱酸銅よりなる母材の表面に、表1に示す種々のめっき層を施した[No.1〜4,10,13及び16:Cr(20μm),No.5及び11:Cr(20μm)/Ni(40μm),No.6:Cr(20μm)/Co(3μm)/Ni(40μm),No.7〜9,12及び17〜19:Cr(20μm)/Co(3μm)/Ni−P(40μm)]。次に、大気中にて380℃で3時間熱処理することによりCrめっき層にクラックを付与し、更に以下に示す処理1〜5を行った。尚、処理1〜4を施すに当たっては、溶液中での金属アルコキシドの加水分解速度を調節する為に、酢酸や硫酸等の酸を適宜混入させた。
【0033】
[処理1]
アルミニウムイソプロポキシドを含む溶液中に浸漬した後、引上げてから、大気中で表1に示す焼成温度にて加熱することにより、アルミニウム酸化皮膜を形成した。
【0034】
[処理2]
チタニウムイソプロポキシドを含む溶液中に浸漬した後、引上げてから、大気中で表1に示す焼成温度にて加熱することにより、チタニウム酸化皮膜を形成した。
【0035】
[処理3]
ジルコニウム−n−ブトキシドを含む溶液中に浸漬した後、引上げてから、大気中で表1に示す焼成温度にて加熱することにより、ジルコニウム酸化皮膜を形成した。
【0036】
[処理4]
テトラエトキシシランを含む溶液中に浸漬した後、引上げてから、大気中で表1に示す焼成温度にて加熱することにより、シリコン酸化皮膜を形成した。
【0037】
[処理5]
酢酸クロムを含む溶液中に浸漬した後、引上げてから、大気中で表1に示す焼成温度にて加熱することにより、クロム酸化皮膜を形成した。
【0038】
[処理6]
Al2 O3 粉末をエタノールで希釈したものを塗布することにより、Al2 O3 ペーストを形成した。
【0039】
この様にして得られた各試験片について、耐溶融亜鉛性を下記の方法により評価した。
[耐溶融亜鉛性評価]
各試験片を溶融亜鉛浴中に浸漬し、浸漬後のめっき皮膜の減肉量を測定することにより評価した。
温度:450℃
時間:60min
その結果を表1に併記する。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から以下の様に考察することができる。
No.1〜9及び16〜20は、本発明の第1の方法によって製造されたものであるが、クラック内部等を金属酸化物で塞いでいる為、該酸化物で塞がれていないNo.10〜12や21の様に皮膜が消失することもなく、めっき皮膜の減肉量を著しく少なくすることができる。このなかでも、下地層を有するNo.5〜9,17〜20は、下地層を有しないNo.1〜4,16に比べて、耐溶融亜鉛性を著しく改善できることが分かる。また、No.13/No.15は、焼成温度を本発明で規定する温度よりも低く/高くした例であるが、皮膜が消失してしまい、No.15では母材の強度低下が見られた。No.14はゾルゲル法によらない比較例であるが皮膜が消失した。
【0042】
実施例2
本実施例は、本発明の第2の方法によってクラック内部若しくはめっき層表面をクロム酸化物で被覆した場合の耐溶融亜鉛性を評価したものである。
具体的には、表2に示す構成からなる試験片を用い、熱処理温度を種々変化させ、実施例1と同様にして耐溶融亜鉛性を評価した。その結果を表2に併記する。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から以下の様に考察することができる。
No.3は、熱処理温度を本発明の範囲内に設定したものであるが、めっき層を金属酸化物で被覆できる為、めっき皮膜の減肉量を著しく少なくすることができる。
【0045】
これに対してNo.1,2は、熱処理温度が本発明で規定する温度よりも低い為、めっき層を該酸化物で被覆することができず、皮膜が消失した。また、No.4は、熱処理温度が高すぎる為、母材が軟化してしまい、実験に供することができなかった。
【0046】
【発明の効果】
本発明は上記の様に構成されているので、耐溶融亜鉛性を著しく向上させることができ、その結果、鋳型寿命を大幅に延長し得ることになった。
また、鋳型基材とめっき層の間に下地めっき層を形成することにより、めっき層との密着性を高めることができると共に、熱膨張差に起因する層間剥離を抑制し、耐摩耗性を一段と抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】クラックの内部が金属酸化物で全面的または部分的に塞がれた態様を示す説明図。
Claims (15)
- 鋳型基材の表面にクラックを有するめっき層が存在する連続鋳造用鋳型であって、該クラックの内部及び/又は該めっき層表面を全面的または部分的に金属酸化物で被覆したものであることを特徴とする耐久性に優れた連続鋳造用鋳型。
- 前記鋳型基材がCuまたはCu合金からなり、めっき層がCr系めっき層である請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記金属酸化物が、4A族元素,5A族元素,6A族元素、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも1種の元素の酸化物である請求項1または2に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記金属酸化物が、Cr酸化物またはSi酸化物である請求項3に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記鋳型基材とめっき層の間に下地層が少なくとも1層以上存在してなる請求項1〜4のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記下地層は、鋳型基材の熱膨張率とめっき層の熱膨張率の間の熱膨張率を有するものである請求項5に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記下地層が、4A族元素,5A族元素,6A族元素及び8族元素よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を主成分として含有する金属または該金属を含む合金めっき層である請求項5または6に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記下地層が、鉄族元素を主成分とする金属または該金属を含む合金めっき層である請求項7に記載の連続鋳造用鋳型。
- 前記下地層が、鉄族元素とPの合金めっき層である請求項8に記載の連続鋳造用鋳型。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型を製造するに当たり、
鋳型基材の表面に、必要に応じて形成される下地層を介してめっき層を施した後、
熱処理により該めっき層にクラックを付与した鋳型を金属ゾル溶液中に浸漬するか若しくは該鋳型表面に上記金属ゾル溶液を塗布してから、
100℃超〜500℃で焼成することを特徴とする耐久性に優れた連続鋳造用鋳型の製造方法。 - 前記めっき層がCr系めっき層である請求項10に記載の製造方法。
- 前記金属ゾル溶液は、金属アルコキシドを含有する請求項11または12に記載の製造方法。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型を製造するに当たり、鋳型基材の表面に、必要に応じて形成される下地層を介してめっき層を施した後、熱処理により該めっき層にクラックを付与した鋳型を、酸化雰囲気中にて400℃超〜500℃で熱処理することを特徴とする耐久性に優れた連続鋳造用鋳型の製造方法。
- 前記めっき層がCr系めっき層である請求項13に記載の製造方法。
- 前記金属酸化物がCr酸化物である請求項13または14に記載の製造方法。
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