JP3596134B2 - 油脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パーム油含有率の高い油脂組成物に存する。更に詳しくは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜5重量%含有してなる、焼成菓子等に有用な高パーム油含有油脂組成物に存する。
【0002】
【従来の技術】
クッキーやケーキ等の焼成菓子の製造は、通常シュガーバッター法と呼ばれる方法で製造される。この方法はショートニングおよびマーガリンを蔗糖と撹拌させながら均一微細な空気泡を保持させ(クリーミング性と称す)次いで、卵、牛乳、糖液等を十分に抱き込ませ(吸水性と称す)、最後に小麦粉を軽く合わせ、焼成させるというものである。
【0003】
従来、ショートニングおよびマーガリンは各種食用油脂を単独あるいは2種以上混合し、ボテーターまたはコンビネーター等により急冷混練し、さらに熟成して製造されている。近年植物性油脂としてパーム油が注目され、その使用量や用途も拡大しており、ショートニングおよびマーガリンの原料用油脂としても使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、パーム油はアブラヤシの果房から採油される植物性油脂で、融点が31〜35℃の半固形状で、牛脂やラードに似た可塑性油脂である。パーム油は高融点の飽和トリグリセライド成分、特に2飽和1不飽和トリグリセライドである1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(以下、POPと略す。)を多く含有するため、急冷混練による製造時や製品保存中に粗大結晶を生成し、これらの結晶群がショートニングやマーガリンの組織を粗くし、製菓原料として使用した場合、不良製品を生じる原因となっている。
【0005】
また、パーム油またはパーム油を多く含有する油脂は、魚油系等の他の油脂を用いた場合と比較してクリーミング性が著しく低いため、撹拌時間が長くて操作性が低下したり、ケーキの容積が小さくなるなどの問題があった。
これらの問題を解決する為に従来より飽和脂肪酸のエステル化度が50%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル(特開昭59−166562号公報)や飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の混合物からなる多価アルコール脂肪酸エステル(特開昭62−442、特開平5−199838号各公報)を用いて油脂結晶成長の抑制が試みられていた。ポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、PoGEと略すことがある。)は、食品添加物として認可された安全性の高い界面活性剤として知られており、主に食品用乳化剤や可溶化剤として用いられており、更には化粧品、医薬品および洗浄剤への使用も試みられている。しかし、油脂結晶成長抑制効果、クリーミング性および吸水性に優れた物性を併せ持つ油脂組成物は未だ得られていない。
【0006】
本発明は上記実状に鑑み、パーム油を50%以上含有する油脂組成物において油脂結晶の粗大化を抑制し、かつクリーミング性および吸水性を向上する高パーム油含有油脂組成物を開示するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記POPと類似した脂肪酸組成を持つPoGEは、粗大結晶を形成するトリグリセライドを取り込み結晶成長を抑制するのではないかと考え鋭意検討を行った結果、本発明を完成させた。
本発明は、成分(A)パーム油を50重量%以上と、成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜5重量%とを含有する油脂組成物であって、該成分(B)のエステル化率が50%以上、該成分(B)の構成脂肪酸の80重量%以上がオレイン酸とパルミチン酸からなり、オレイン酸とパルミチン酸とのモル比が90:10〜10:90である油脂組成物であり、油脂結晶成長が抑制されていることを特徴とする油脂組成物に存する。また、本発明は、油脂組成物のクリーミング価が145%以上でああることを特徴とする前記の油脂組成物に存する。特にPoGEを製造するにあたり、ポリグリセリンと脂肪酸とを、アルカリ触媒量を脂肪酸に対して0.06〜0.5モル%使用して得られるPoGEを用いることにより、パーム油特有の油脂結晶成長を抑制し、かつクリーミング性を向上することができる。
【0008】
本発明の油脂組成物は、固形ないし流動状の油脂製品、例えばショートニング等の原料油脂に配合して使用され、油脂結晶の粗大化を防止し組織の良好な油脂製品(例えばビスケットやクッキー、ケーキ用の油脂)を得るために重要である。また本発明の油脂組成物は、油脂の吸水性、吸卵性を向上させることが出来、低カロリー化指向、高級化志向に適応した油脂製品を得るために有用である。
【0009】
【発明の実施の態様】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる成分(A)パーム油は、アブラヤシの果房から採油される油脂由来のものであれば特に限定されない。パーム油をさらに精製、分別、エステル交換または水素添加等の処理をしたものでも良く、また多量の遊離脂肪酸を含有する場合もある。
【0010】
本発明の油脂組成物には、油脂組成物中のパーム油の含有量が50重量%以上となる範囲で、パーム油以外のその他の油脂を配合しても良い。パーム油以外のその他の油脂としては、ナタネ油、コーン油、綿実油、大豆油、ココア油等の植物油脂類、牛脂、ラード、魚油、乳脂等の動物油脂類など、通常の加工油脂原料が挙げられる。
【0011】
本発明に用いる成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリン(以下、PoGと略すことがある。)としては、平均重合度4〜25、水酸基価1100〜800のものが好ましい。PoGの重合度を上げると粘度が高くなり反応を進めることが困難となる。食品や医薬品用途への安全性を考慮すると、PoGの平均重合度は4〜18のものが好ましく、特に平均重合度4〜12のものが好ましい。
【0012】
本発明に用いる成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸はその80重量%以上がオレイン酸とパルミチン酸からなり、そのモル比が90〜10:10〜90である。オレイン酸単独で構成されるPoGEを用いた場合はパーム油脂結晶の成長を抑制する効果が低下し、逆にパルミチン酸単独ではクリーミング性および吸水性が十分でない。また、PoGEの構成脂肪酸は、オレイン酸およびパルミチン酸を一分子中に所定モル比で有していても良いし、オレイン酸およびパルミチン酸の脂肪酸純度100%のPoGEを混合して用いても良い。
【0013】
本発明に用いる成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルはエステル化率50%以上のもので、特に60〜80%が好ましい。エステル化率が50%未満になると親油性が低下し、油脂に対する溶解性が著しく悪くなるため、本発明の効果が得られない。ここでいうエステル化率とは、PoGEの水酸基価(以下、OHVと略す。)、鹸化価(以下、SVと略す。)および酸価(以下、AVと略す。)を基準油脂物性試験法(日本油化学協会制定)により測定し、エステル化された水酸基を含む試料中の全水酸基数からエステル化された水酸基数を除した式(1)により算出されるものとした。
【0014】
【数1】
【0015】
本発明の油脂組成物に対するPoGEの含有量は0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%である。0.05重量%未満では十分な効果を発揮することが困難となり、また5重量%を超過して用いても効果が頭打ちとなり使用量の増加に伴う効果を期待しえない。
PoGEの製造方法としては、先ずグリセリンをアルカリ触媒存在下、200℃以上の高温で重縮合後、脱塩、脱色等の精製を行うことによりPoGを得る。次いでPoGと脂肪酸とをエステル化反応させる方法が知られている(特開昭62−45513、特開昭58−185537、特開昭63−23837、特開昭63−68541号等各公報)。この反応はアルカリ触媒の存在下、場合により副生する水を系外から除去しつつ反応させても良い。反応温度は脂肪酸の種類等により異なるが、通常180〜270℃程度である。反応温度が高すぎると副反応や脂肪酸の揮発が生じてしまう。中でも200〜270℃の範囲で1〜5時間反応を行うのが好ましく、特に先ず180〜270℃で反応を行い脂肪酸転化率が70%に達した後、反応温度を更に10〜80℃高めて反応させる方法を取るのが好ましい。
【0016】
PoGEの製造に用いるアルカリ触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類の水酸化物等、任意のものがで使用できるが、取り扱いや入手の容易さから水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ触媒の量は脂肪酸に対して0.06モル〜0.5モル%、特に0.07モル〜0.3モル%とするのが好ましい。0.06モル%未満の触媒量では未反応PoGが反応生成物中に多量に残るために、親水性のPoGと親水性の低い高置換度PoGEとが混在するので系が不均一となることがあり、逆に0.5モル%を超過すると副生成物の脂肪酸アルカリ塩が析出し、PoGEの油脂結晶成長抑制効果が低下することがある。
【0017】
PoGEの添加方法としては、油脂組成物の原料油脂であるパーム油またはその他の油脂のいずれかに予めPoGEを所定量添加しても、油脂組成物製造時に添加しても良い。
また、本発明の油脂組成物は、PoGEの他にその使用目的に応じて適宜他の成分、例えばレシチン、乳製品、香料、着色料、調味料、甘味料、糖類、食塩、乳化安定用糊料等の物質を添加しても良い。
【0018】
以下に実施例を挙げて詳述するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0019】
【実施例】
油脂組成物の評価は、結晶粗大化の防止性能、クリーミング性および吸水性について下記のようにそれぞれ結晶状態、クリーミング価および吸水量指数として示した。
結晶粗大化の防止性能
PoGE1部を精製パーム油(酸価0.10、ヨウ素価51、上昇融点36゜C)100部に添加して加熱溶解し油脂組成物を得た。その1滴を顕微鏡用スライドグラスに取り、カバーグラスをして0゜C迄急冷結晶化させ、引き続き20゜Cで保存した。顕微鏡観察により経時的に結晶の成長、粗大化を観察した。尚、結晶状態は以下の記号で表す。
【0020】
◎ 2μ以下の微細な結晶状態
○ 5μ以下の結晶状態
△ 5〜15μの結晶状態
× 15μ以上の粗大な結晶状態
クリーミング性
油脂組成物200gをKENMIXミキサー(愛工舎製)でホイッパーを使用し撹拌含気させる(回転数167rpm、容器を18゜C循環水で冷却、室温20゜C)。次いで経時的にショートニングの比重を測定し、式(2)によりクリーミング価を算出した。
【0021】
【数2】
【0022】
吸水性
クリーミング操作40分後、水を撹拌含気操作を続けながら、20ml/分の添加速度で加え、水が混和しなくなった状態を終点として式(3)により吸水量指数を算出した。
【0023】
【数3】
【0024】
〈実施例1〜6、比較例1〜7〉
パルミチン酸(日本油脂製純度95%以上)およびオレイン酸(日本油脂製純度80%)とPoG(デカポリグリセリン#750、平均重合度10、水酸基価888mgKOH/g:阪本薬品製)を表1に示すとおり所定量用いて、加熱ジャケットを備えた攪拌型反応器に仕込み、240℃に昇温した後、10wt%水酸化ナトリウム水溶液を表1に示す量で加え、この温度で4時間エステル化反応を行った。この時点での脂肪酸転化率は90%であった。この反応混合物を引き続き260℃に昇温して4時間保持し、脂肪酸転化率を99%以上としてPoGEを得た。得られたPoGEのOHV、SVおよびAVを測定し、式(1)に従い、エステル率を算出した。
【0025】
次に、得られたPoGE1部を精製パーム油(酸価0.10、ヨウ素価51、上昇融点36゜C)100部に添加して加熱溶解し油脂組成物を得た。
得られた油脂組成物70部に大豆硬化油(酸価0.02、ヨウ素価81、上昇融点32゜C)30部を加え、60゜Cにて加熱溶解混合後、アヂホモミキサー(特殊機化工業製)により10分間で3゜Cまで急冷混練してショートニングを得た。25゜Cで3日間の熟成の後クリーミング性および吸水性の評価を行った。その結果を併せて表1に示した。
【0026】
表1より明らかなように、構成脂肪酸としてオレイン酸およびパルミチン酸の含有比率が90:10〜10:90からなり、エステル化率50%以上で、特にそのエステル化反応においてアルカリ触媒量が脂肪酸に対して0.06〜0.5モル%であることを特徴とするポリグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜5重量%含有したパーム油油脂組成物は1月後においても微細な結晶を維持し良好な結果が得られた。
【0027】
【表1】
【0028】
【発明の効果】
本発明によって、油脂結晶成長の抑制された優れたパーム油含有率の高い油脂組成物が提供され、パーム油を原料とする食品分野(ビスケット、ケーキ、バタークリーム等)に寄与するところが大である。
Claims (3)
- 成分(A)パーム油を50重量%以上と、成分(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜5重量%とを含有する油脂組成物であって、該成分(B)のエステル化率が50%以上、該成分(B)の構成脂肪酸の80重量%以上がオレイン酸とパルミチン酸からなり、オレイン酸とパルミチン酸とのモル比が90:10〜10:90である油脂組成物であり、油脂結晶成長が抑制されていることを特徴とする油脂組成物。
- 油脂組成物のクリーミング価が145%以上であることを特徴とする請求項1に記載の油脂組成物。
- ポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリンと脂肪酸とを、脂肪酸に対して0.06〜0.5モル%のアルカリ触媒存在下にてエステル化反応して得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の油脂組成物。
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