JP3595319B2 - プリント配線板用接着剤および接着剤層 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、接着剤および接着剤層に関し、特に、耐熱性、電気絶縁性、および化学的安定性を低下させることなく、靱性に優れる接着剤および接着剤層を提供するための技術について提案する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プリント基板やLSIを実装する配線板は、電子工業の進歩にともない電子機器の小型化あるいは高速化に対応したファインパターンによる高密度化および高い信頼性のものが求められている。
【0003】
このため、最近では、配線板に導体を形成する方法として、接着剤を基板表面に塗布して接着剤層を形成し、この接着剤層の表面を粗化した後、無電解めっきを施して導体を形成するアディティブ法が注目を浴びている。
この方法によれば、レジスト形成後に無電解めっきを施して導体を形成するため、エッチングによりパターン形成を行うエッチドフォイル方法(サブトラクティブ法)よりも、高密度でパターン精度の高い配線を低コストで作製し得る特徴がある。
【0004】
このようなアディティブ法において、導体と接着剤層との密着性(以下、「ピール強度」にて説明する。)を改善する手段として、従来、接着剤層の導体形成面側に、化学的エッチングによる微細な凹凸を設ける方法が知られている。
【0005】
しかしながら、より高密度でパターン精度の高い配線が要求される最近のアディティブ型プリント配線板では、レジストの微小パターンを精度良く形成するために、接着剤層の表面粗化によって形成されるアンカーをさらに小さくすることが必要となる。そのため、アンカーを小さくすると、破壊面積が小さくなる結果、ピール強度が著しく低下するという問題を生じた。
【0006】
一方、自動車・輸送機器関連分野、電機・電子部品、機械関連分野、家庭用品関連分野、土木建築分野、医療分野では、近年、エンジニアリングプラスチックの改良により、金属製の部品が樹脂製のものに置き換わりつつある。
例えば、ポリカーボネートを用いたカメラのハウジングや固定リング、あるいはポリアセタール製のベアリングが挙げられる。さらには、超高分子量ポリエチレン製のギアなども開発されている。
【0007】
ところが、これらの樹脂製部品は、意匠性や耐腐食性、耐摩耗性などの点からその部品の表面を金属膜で被覆することが必要となる場合があった。このような場合に、樹脂表面に金属膜を被覆する手段として、従来、樹脂基体の表面に接着剤層を設け、この接着剤層の表面を粗化した後、金属膜を被覆する方法が提案されている。
例えば、特公昭58−44709 号公報には、絶縁基板の表面に、アクリロニトリルブタジエンゴムとエポキシ樹脂からなる無電解めっき用接着剤を塗布し、次いで接着剤層表面のエポキシ樹脂部分を溶解除去して表面粗化した後、無電解めっきを施して金属膜被覆体を得る方法が開示されている。
また、特開昭61−276875号公報には、基板上に、耐熱性樹脂マトリックス中に耐熱性樹脂微粉末を分散してなる無電解めっき用接着剤を塗布し、次いで耐熱性樹脂微粉末を酸化剤で処理して表面を粗化した後、無電解めっきする方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、接着剤層を介して金属膜を被覆したエンジニアリングプラスチック(基体樹脂)は、ヒートサイクル時に、基体樹脂と接着剤層との熱膨張率差に伴ってクラックが発生したり、応力発生時に、接着剤層自体にクラックが生じたりするという問題が見られた。
【0009】
このような各種問題を解消するには、被覆金属、あるいは接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスの強度を大きくする方法がある。しかるに、発明者らの実験によれば、被覆金属として銅を用い、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスとして熱硬化性樹脂や感光性樹脂を用いる従来技術では、被覆金属を形成する無電解めっき膜の剥離は、耐熱性樹脂マトリックスの破壊によって生じることが判った。すなわち、上記密着強度の低下の原因が、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスの強度不足にあることに気づいたのである。さらに、ヒートサイクル時に生じるクラックや応力発生時に生じるクラックの原因もまた、耐熱性樹脂マトリックス側の強度不足にあることがわかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、従来技術が抱えている上記各種問題を解消するため、この発明の主たる目的は、耐熱性、電気絶縁性、および化学的安定性を低下させることなく、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスを強靱化することにあり、
この発明の他の目的は、被覆金属との密着性に優れる接着剤層を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記目的の実現に向け、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスの強度改善に関し鋭意研究を行った結果、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスとして、官能基の一部が感光基で置換された樹脂を含む未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との混合樹脂を用い、さらにこれを硬化処理してなる樹脂複合体を接着剤層として用いることにより、粗化処理によって形成されるアンカー深さが小さくても、導体金属との接着強度に優れるプリント配線板等の金属膜被着体を提供できることを見出し、この発明に想到した。
【0012】
すなわち、
(1) この発明の接着剤の構成は、未硬化の耐熱性樹脂マトリックス中に、溶解除去可能な粒子状物質を分散してなる接着剤において、前記溶解除去可能な粒子状物質は、シリカまたはアルミナからなる無機粒子であり、前記耐熱性樹脂マトリックスは、官能基の一部が感光基で置換された樹脂を含む未硬化の熱硬化性樹脂(以下、単に「未硬化の熱硬化性樹脂」という)および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物からなり、その樹脂混合物は、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比が、熱可塑性樹脂の含有量で15〜50wt%であり、さらに、その樹脂混合物は、硬化処理により擬似均一相溶構造、共連続構造あるいは球状ドメイン構造のいずれか1つの樹脂構造を有する樹脂複合体を形成するように、その相溶性が調整されてなることを特徴とする。
上記樹脂混合物は、溶媒中に溶解して相溶状態もしくは非相溶状態になることが好ましい。
上記樹脂混合物が相溶状態にある時は、これを硬化する際に、相分離速度と硬化速度を調整することにより、後述する疑似均一相溶構造、共連続構造、球状ドメイン構造を得ることができる。
一方、この樹脂混合物が非相溶状態にある時は、これをそのまま硬化させることにより、球状ドメイン構造を得ることができる。
ここで、上記分解除去可能な粒子状物質としては、懸濁重合させた低架橋度のアミノ樹脂などを用いることが望ましい。
なお、この発明において、「溶解除去」とは、酸やアルカリ、酸化剤、水、有機溶剤などの粗化液を使用して化学的作用により、粒子状物質の溶解、分解を生じせしめるものである。
また、この発明において、「熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物」とは、
(i).硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物、(ii).感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物、あるいは(ii).熱硬化性樹脂と感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物、を意味する。
【0013】
(2) この発明の接着剤層の構成は、基体上に形成された粗化面を有する接着剤層であって、この層は、上記(1)に記載の接着剤を硬化処理して形成されることを特徴とする。
すなわち、溶解除去可能なアルミナまたはシリカからなる無機粒子が、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比が、熱可塑性樹脂の含有量で15〜50wt%であるような、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物を硬化処理して形成した疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体からなる耐熱性樹脂マトリックス中に分散したものである。
【0014】
このような接着剤層において、粗化面は、接着剤層表面に存在するアルミナまたはシリカからなる無機粒子を分解または溶解除去することにより形成される。
なお、上記基体としては、導体回路が形成されたプリント配線板を含む基板や、繊維状、棒状、球状をはじめとして、産業上使用できる各種形状のものを使用することができる。
【0015】
この発明にかかる接着剤層を用いた金属膜被着体の構成は、基体上に、金属を被覆する側が粗化された接着剤層を有し、かつその接着剤層の粗化面上に金属膜を設けてなるものにおいて、この接着剤層は、前記(2)に記載された樹脂複合体から形成されることが望ましい。
すなわち、この接着剤層は、溶解除去可能な粒子状物質としてのアルミナまたはシリカからなる無機粒子を、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物を硬化処理して形成した疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体からなる耐熱性樹脂マトリックス中に分散したものである。
【0016】
この発明にかかる接着剤層を用いた上記の金属膜被着体において、基体として基板を使用し、被覆金属を必要に応じてエッチングしたり、あるいは金属をパターン形状で被覆したものは、プリント配線板となる。
このようなプリント配線板は、例えば、基板上に、アルミナまたはシリカからなる無機粒子を、硬化処理が施された耐熱性樹脂マトリックス中に分散してなる接着剤層が設けられており、この接着剤層の導体形成面には粗化面が形成されており、さらにその粗化面上には導体回路が設けられているプリント配線板であって、前記耐熱性樹脂マトリックスが、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂複合体で構成され、その樹脂混合物は、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比が、熱可塑性樹脂の含有量で15〜50wt%であり、さらに、この樹脂複合体は、疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有して形成されている。
【0017】
【発明の実施の形態】
(1) この発明の接着剤の特徴は、接着剤を構成する樹脂マトリックスが、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物から構成され、その樹脂混合物は、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比が、熱可塑性樹脂の含有量で15〜50wt%であり、さらに、その樹脂混合物は、硬化処理により擬似均一相溶構造、共連続構造あるいは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体を形成するように、その相溶性が調整され、その未硬化の耐熱性樹脂マトリックス中には、溶解除去可能なアルミナまたはシリカからなる無機粒子が分散されている点にある。
特に、この発明の接着剤は、上記樹脂混合物が、相溶状態で均質に混合されていることが望ましい。
これにより、耐熱性、電気絶縁性および化学的安定性を低下させることなく、上記接着剤の樹脂マトリックスを強靱化することができる。
【0018】
ここで、接着剤の耐熱性樹脂マトリックスとして、上述したような相溶状態の樹脂混合物を用いる理由は、硬化によって得られる熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂とからなる樹脂複合体の樹脂構造を、その硬化条件によって容易に制御できるからである。
【0019】
未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂とを、相溶状態で均質に混合分散させるための方法としては、溶媒中に樹脂を溶解させる方法、加熱により熱可塑性樹脂を溶融させたのち、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂を混合する方法などがある。なかでも、溶媒中に樹脂を溶解させる方法が好適に用いられる。この理由は、作業性がよく、低温で樹脂を相溶させることができるからである。
上記溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ノルマルメチルピロリンドン(NMP)、塩化メチレン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DMDG)等がある。
【0020】
この発明の接着剤において、耐熱性樹脂マトリックスは、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比が、熱可塑性樹脂の含有量で15〜50wt%である。
この理由は、熱可塑性樹脂の含有量が15wt%未満では、接着剤層の靱性を向上させることができず、一方、50wt%を超えると、塗布することが困難で、平滑で均一な接着剤層を形成することが困難になるためである。
【0021】
この発明の接着剤の粘度は、25℃の測定で、0.5 〜10Pa・sであることが望ましい。この理由は、10Pa・sを超えると、レベリング性が低下して平滑な接着面を得ることができず、一方、0.5 Pa・s未満では、溶解除去あるいは分解除去可能な粒子状物質の沈降を招き、十分な粗化面を得ることができず、被覆金属との密着性が低下してしまうからである。
【0022】
(2) この発明の接着剤層の特徴は、上記(1)に記載の接着剤を適切な硬化条件のもとで硬化させて形成した樹脂複合体を用いる点にある。これにより、被覆金属との密着性に優れる接着剤層を安定して提供することができる。
【0023】
ここで、接着剤層の耐熱性樹脂マトリックスとして、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂の樹脂複合体を用いる理由は、樹脂複合体にすると、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂が示す特有の物性と、熱可塑性樹脂特有の靱性をともに発現することが可能となる結果、耐熱性、弾性率、電気絶縁性および化学的安定性を低下させることなく、樹脂マトリックス全体の強靱化を図ることができるからである。
【0024】
この発明の接着剤層は、その表面は粗化されているが、その粗化面は、溶解除去可能なアルミナまたはシリカからなる粒子状物質が、溶解除去されてできる、所謂たこ壺状の凹部によって形成されている。それ故に、この凹部は、無電解めっきなどの金属被膜が析出してアンカーとなり、しかもこの凹部を構成する樹脂マトリックスは、靱性が大きく容易に樹脂破壊がおこらないため、金属被膜が接着剤層の粗化面から剥離することなく、密着強度(ピール強度)を高く維持することができる。
また、上記耐熱性樹脂マトリックスは靱性に優れるため、接着剤層自体が変形を受けても破壊されにくく、基体が変形や応力を受ける場合でも使用できる。
【0025】
この発明の接着剤層における樹脂複合体は、疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有して形成されている。ここに、
(a).疑似均一相溶構造とは、いわゆるLCST型(Low Critical Solution Temperature )の相図を示す熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と、熱可塑性樹脂との樹脂複合体において、構成樹脂粒子の粒子径が透過型電子顕微鏡観察による測定値で0.1 μm以下であり、動的粘弾性測定による樹脂のガラス転移温度ピーク値が1つである状態を意味する。この状態は、樹脂の理想的な混合状態に近いものであり、発明者が、独自に考え出した新しい概念である。ここに、この発明における動的粘弾性測定の条件は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分である。
すなわち、この疑似均一相溶構造は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂あるいはアクリル樹脂などの感光性樹脂特有の物性を維持しつつ、ポリエーテルスルホン(PES)などの熱可塑性樹脂特有の物性を越えた導入効果を示す、より均質な構造であり、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と、熱可塑性樹脂との相互作用が極めて強いものである。
かかる樹脂複合体の構造は、それの破面を、熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒を用いてエッチングしても、その表面状態はエッチング前とほとんど変化が無く均質であることから判る。
このような疑似均一相溶構造を形成する樹脂複合体は、それの破壊強度と引張り強度はいずれも、それぞれの構成樹脂単独の場合よりも高い値を示す。
【0026】
このような樹脂複合体の構造による効果は、前記複合体における熱可塑性樹脂(例えば、PES)の含有量が固形分で15〜50wt%である場合に特に顕著となる。この理由は、熱可塑性樹脂の含有量が15wt%未満では、樹脂成分の網目に絡み合う熱可塑性樹脂分子が少ないため強靱化の効果が十分に発揮されず、一方、熱可塑性樹脂の含有量が50wt%を超えると、架橋点の減少によって熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と熱可塑性樹脂間との相互作用が小さくなるからである。
【0027】
このような疑似均一相溶構造は、未硬化の熱硬化性樹脂あるいは未硬化の感光性樹脂と、熱可塑性樹脂を必要に応じて溶剤に溶解して均一に混合し、その後、硬化速度を速くすること、および/または相分離速度を遅くすることにより、構成樹脂粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡観察による測定値で0.1 μm以下にすることにより、形成される。
【0028】
具体的には、第1の方法として、熱硬化性樹脂を用いる場合は、熱硬化性樹脂の硬化温度、硬化剤の種類、および感光性付与の有無のうちから選ばれる1種または2種以上の因子によって決定される擬似均一相形成点を超える硬化速度で、一方、感光性樹脂を用いる場合は、感光性樹脂の光硬化因子,例えば開始剤や増感剤,感光性モノマー,露光条件などによって決定される擬似均一相形成点を超える硬化速度で硬化させる方法がある。ここでの擬似均一相形成点とは、複合体を構成する樹脂粒子の粒径がTEM観察による測定値で0.1 μm以下である疑似均一相溶構造を得ることができる,硬化速度の下限値を意味する。
【0029】
また、第2の方法として、未硬化の熱硬化性樹脂あるいは未硬化の感光性樹脂の1分子中の官能基数または分子量のいずれか1種以上の因子によって決定される擬似均一相形成点を超えない相分離速度で硬化させる方法がある。ここでの擬似均一相形成点とは、複合体を構成する樹脂粒子の粒径がTEM観察による測定値で 0.1μm以下である擬似均一相溶構造を得ることができる,相分離速度の上限値を意味する。
【0030】
さらに、第3の方法として、上記擬似均一相形成点を超える硬化速度で、かつ上記擬似均一相形成点を超えない相分離速度で硬化させる方法がある。これは、硬化速度と相分離速度を決定する因子が相互に影響する場合の方法を意味する。
【0031】
次に、硬化速度または相分離速度を決定する上述した種々の因子の相互関係について説明する。まず、硬化速度を決定する因子については、他の因子条件を一定とすると、
(i)熱硬化性樹脂の硬化温度が高いほど硬化速度は速くなる。
従って、擬似均一相形成点を超える硬化速度を得るのに必要な硬化温度の下限値を超えて熱硬化性樹脂を硬化すると、得られる樹脂複合体の構造は擬似均一相溶構造となる。
(ii)ゲル化時間が短い硬化剤ほど硬化速度は速くなる。
従って、擬似均一相形成点を超える硬化速度を得るのに必要なゲル化時間の上限値を超えないような硬化剤を用いて熱硬化性樹脂を硬化すると、得られる樹脂複合体の構造は擬似均一相溶構造となる。
(iii)感光性を付与するほど硬化速度は速くなる。
従って、他の因子条件が擬似均一相溶構造を形成する組み合わせにおいては、樹脂に感光性を付与することによって、得られる樹脂複合体はより均質な擬似均一相溶構造となる。
なお、感光性を付与する方法としては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂に感光性基を導入する方法、感光性モノマーを配合する方法があり、必要に応じて光開始剤,光増感剤を配合してもよい。
また、アクリル系樹脂などの感光性樹脂を熱硬化性樹脂の代わりに使用することができる。この場合は、感光性樹脂の、例えば開始剤や増感剤、感光性モノマー、露光条件などの光硬化因子によって決定される擬似均一相形成点を超える硬化速度で硬化させる必要がある。
ただし、熱硬化性樹脂に感光性を付与する場合や、現像の解像度を向上させるために、感光性モノマーを付与する場合には、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が低下し、比較的低温でも相分離を起こしてしまう(図10〜12を参照)。そのため、熱硬化性樹脂に感光性を付与する場合や感光性モノマーを付与する場合には、接着剤を低温(30〜60℃)で、必要に応じて真空乾燥させ、これを一度露光硬化させ、次いで熱硬化(80〜200 ℃)を行うことにより、疑似均一相溶構造を得ることができる。
【0032】
このような事実を考慮すると、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と熱可塑性樹脂の複合化に当たって上記変動因子が1種の場合は、擬似均一相形成点に対応するその因子の値が1点決まる。それ故に、上記変動因子が2種以上の場合には、擬似均一相形成点に対応するその因子の値は種々の組み合わせが考えられる。すなわち、構成樹脂粒子の粒径がTEM観察による測定値で 0.1μm以下となるような硬化速度を示す組み合わせを選定することができる。
【0033】
次に、相分離速度を決定する因子については、他の因子条件を一定とすると、
(i)未硬化熱硬化性樹脂あるいは未硬化感光性樹脂の1分子中の官能基数が多いほど相分離は起きにくい(相分離速度は遅くなる)。
従って、擬似均一相形成点を超えない相分離速度を得るのに必要な1分子中の官能基数の下限値を超える1分子中の官能基数を有する未硬化熱硬化性樹脂あるいは未硬化感光性樹脂を用いて硬化すると、得られる樹脂複合体の構造は擬似均一相溶構造となる。
(ii)未硬化熱硬化性樹脂あるいは未硬化感光性樹脂の分子量が大きいほど相分離は起きにくい(相分離速度は遅くなる)。
従って、擬似均一相形成点を超えない相分離速度を得るのに必要な分子量の下限値を超える分子量を有する未硬化熱硬化性樹脂あるいは未硬化感光性樹脂を用いて硬化すると、得られる樹脂複合体の構造は擬似均一相溶構造となる。
【0034】
このような事実を考慮すると、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と熱可塑性樹脂の複合化に当たって上記変動因子が1種の場合は、擬似均一相形成点に対応するその因子の値が1点決まる。それ故に、上記変動因子が2種の場合には、擬似均一相形成点に対応するその因子の値は種々の組み合わせが考えられる。すなわち、構成樹脂粒子の粒径がTEM観察による測定値で 0.1μm以下となるような相分離速度を示す組み合わせを選定することができる。
【0035】
このような樹脂複合体の疑似均一相溶構造では、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いることができるが、このエポキシ樹脂は、エポキシ当量で100 〜1000程度のものを使用することが望ましい。この理由は、エポキシ当量が100 未満のエポキシ樹脂を製造することは難しく、一方、1000を超える場合は、PESなどの熱可塑性樹脂と混合しにくく、しかも、Tg点の低下により、硬化のための加熱の際に相分離を起こし易くなり、疑似均一相溶構造を得にくいからである。
また、このエポキシ樹脂の分子量は、200 〜10000 が望ましい。この理由は、エポキシ樹脂の分子量が200 未満では、充分な反応率が得られず、また硬化させたとしても硬化物が硬くて脆くなりすぎてしまい、一方、10000 を超えると熱可塑性樹脂との相溶性が低下してしまうからである。
また、熱可塑性樹脂としてはPESを用いることができるが、このPESの分子量は、3000〜100000であることが望ましい。この理由は、PESの分子量が3000未満では、疑似均一相溶構造による靱性向上の効果が得られず、一方、100000を超えると、熱硬化性樹脂や感光性樹脂との相溶状態が形成できないからである。
【0036】
以上説明したように疑似均一相溶構造を示す樹脂複合体は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が示す特有の物性あるいはアクリル系樹脂などの感光性樹脂が示す特有の物性を具えると共に、PESなどの熱可塑性樹脂本来の物性よりもさらに高い物性値を示すことができる。すなわち、本発明にかかるPES変性エポキシ樹脂やPES変成アクリル樹脂は、PES単独の樹脂強度よりも高くなり、従来にはないエポキシ樹脂あるいはアクリル樹脂の強靱化効果を有するものである。
【0037】
(b).共連続構造とは、PES等の熱可塑性樹脂リッチのマトリックス中にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂リッチの連結し合った球状粒子が存在している複合構造を意味する(井上たかし等、POLYMER ,30,p662(1989)参照)。
かかる樹脂複合体の構造は、それの破面を、熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒を用いてエッチングすると、熱可塑性樹脂リッチのマトリックス部分が溶けて、連結したエポキシ樹脂等の球状粒子のみが観察されることから判る。
このような共連続構造を形成する樹脂複合体は、靱性に優れた熱可塑性樹脂が連続相として存在するため、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂単独のものよりも強靱な樹脂となる。
【0038】
(c).球状ドメイン構造とは、主として、熱可塑性樹脂の樹脂マトリックス中に、熱硬化性樹脂もしくは感光性樹脂からなる球状ドメインが互いに独立して均一分散している状態の構造を指す。
かかる樹脂複合体の構造は、それの破面を、熱可塑性樹脂を溶解させる溶媒を用いてエッチングすると、熱可塑性樹脂リッチのマトリックス部分が溶けて、独立して均一分散している熱硬化性樹脂の球状粒子のみが観察されることから判る。
このような球状ドメイン構造を形成する樹脂複合体は、熱可塑性樹脂の"海"の中に、熱硬化性樹脂の球状粒子が分散しているため、熱硬化性樹脂単独の場合より靱性のある樹脂となる。
【0039】
このような樹脂複合体の共連続構造や球状ドメイン構造による効果は、前記複合体における熱可塑性樹脂(例えば、PES)の含有量が固形分で15〜50wt%である場合に特に顕著となる。この理由は、熱可塑性樹脂の含有量が15wt%未満では、樹脂成分の網目に絡み合う熱可塑性樹脂分子が少ないため強靱化の効果が十分に発揮されず、一方、熱可塑性樹脂の含有量が50wt%を超えると、架橋点の減少によって熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂と熱可塑性樹脂間との相互作用が小さくなるからである。
【0040】
このような樹脂複合体は、共連続構造もしくは球状ドメイン構造を構成する球状粒子の平均粒径が、それぞれ 0.1μmを超え、5μm以下であることが望ましい。この理由は、前記球状粒子の平均粒径が、 0.1μm以下では、共連続構造や球状ドメイン構造を形成させることが困難であり、一方、5μmを超えると、靱性の改善を図ることができず、しかも感光特性や耐熱性も低下するからである。
【0041】
なお、上述した共連続構造あるいは球状ドメイン構造は、(i)熱硬化性樹脂の熱硬化に関与する官能基と感光基との置換率を制御したり、または(ii)感光性樹脂の種類、分子量を調整したりして、未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と、熱可塑性樹脂とを相溶状態または非相溶状態に混合し、その後、乾燥条件や硬化条件を調整させることにより、構成する球状粒子の平均粒径を、 0.1μmを超え、5μm以下とすることによって形成される。
また、上記樹脂マトリックスとして、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂を用い、互いに連結または独立した球状ドメインを形成する樹脂として熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0042】
以上説明したように、この発明の接着剤層は、疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体から形成されていることが望ましいが、なかでも、疑似均一相溶構造から形成されるほうが、共連続構造もしくは球状ドメイン構造から形成されるよりも、より高い樹脂強度が得られることから、疑似均一相溶構造を形成させることが接着剤層の樹脂マトリックスとしてより好適である。
【0043】
なお、この発明の接着剤層は、その厚みが10〜200 μmであることが望ましい。この理由は、接着剤層の厚みが10μm未満の場合では、密着強度(ピール強度)が低下してしまい、一方、200 μmを超える場合は、接着剤中の溶剤を除去しにくく、乾燥、硬化が困難であるからである。
【0044】
この発明に係る接着剤層を用いた金属膜被着体の特徴は、基体表面に粗化された接着剤層を有し、かつその接着剤層の前記粗化面上に金属膜を設けてなる金属膜被着体において、前記接着剤層が、上記(2)に記載したような樹脂複合体、すなわち、疑似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有して形成される点にある。
【0045】
この発明に係る接着剤層は、その表面は粗化されているが、その粗化面は、溶解可能なアルミナまたはシリカからなる粒子状物質が、溶解除去されてできる、所謂たこ壺状の凹部によって形成されている。それ故に、この凹部は、無電解めっきなどの被膜金属が析出してアンカーとなり、しかもこの凹部を構成する樹脂マトリックスは、靱性が大きく容易に樹脂破壊がおこらないため、金属被膜が接着剤層の粗化面から剥離することなく、密着強度(ピール強度)を高く維持することができる。
【0046】
この発明に係る接着剤層を用いた金属膜被着体において、基体として基板を使用し、被覆金属をパターン状にエッチングしたり、パターン状に被覆することにより、プリント配線板とすることができる。また、このようなプリント配線板を、多層化することもできる。
この場合、前記粗化面は、Rmax=1〜20μmであることが望ましい。この理由は、1μm未満では、被覆金属と接着剤層との密着強度が低下し、20μmを超えると、パターン間隔100 μm以下のファインパターンのプリント配線板を製造することが困難になるからである。
【0047】
このようなプリント配線板によれば、耐熱性、弾性率、化学的安定性および電気絶縁性を低下させることなく、接着剤を構成する耐熱性樹脂マトリックスを強靱化することができるので、より高密度でパターン精度の高い配線においてもピール強度に優れる配線板を安定して提供することができる。
【0048】
以上説明したようなこの発明の接着剤および接着剤層において、耐熱性樹脂マトリックスに用いる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂や尿素樹脂などのアミノ樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変成ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが使用できる。この理由は、これらの樹脂が、熱的、電気的特性に優れているからである。この熱硬化性樹脂は、部分的に熱硬化に寄与する官能基の一部を感光基で置換したものも使用でき、例えば、エポキシ樹脂の5〜70%アクリル化物などが好適である。
【0049】
耐熱性樹脂マトリックスに用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSF)、フェノキシ樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシベンゾエート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアセタール、ポリカーボネートなどが使用できる。この理由は、これらの熱可塑性樹脂は、耐熱性が高く、強靱であり、しかも、溶媒を用いることによって熱硬化性樹脂と相溶することができるからである。
【0050】
なかでも、上述した熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂は、それぞれエポキシ樹脂とポリエーテルスルホン(PES)であることが好適である。
この理由は、メチレンクロライドやジメチルホルムアミド等の溶媒中で樹脂マトリックスの成分であるエポキシ樹脂とPESとを混合分散させ、疑似均一相溶構造や共連続構造、球状ドメイン構造を容易に形成できるからである。
しかも、エポキシ樹脂とPESの混合系を用いる場合、PES変性エポキシ樹脂が擬似均一相溶構造を形成することによって、マトリックスが強靱化され、引張り強度および引張り伸び率はいずれも、エポキシ樹脂単独のものよりも1.5 倍以上に向上することが判った。さらに、この樹脂マトリックスの強靱化により、アンカー深さが同じ場合でも、この発明の接着剤もしくは接着剤層を用いたプリント配線板における無電解めっき膜のピール強度は、樹脂マトリックスとしてエポキシ樹脂のみを用いた場合に比べて、高くなることを発明者らは確認した。
【0051】
この発明においては、上述した熱硬化性樹脂および/または熱可塑性樹脂は、それぞれ感光基を付与した樹脂、または感光性を有する樹脂やモノマーなどを添加した樹脂を用いることができる。
この理由は、疑似均一相溶構造の樹脂複合体の場合、熱硬化性樹脂などに感光基を付与させることで、熱硬化性樹脂を露光により短時間で硬化して相分離が進まないうちに複合化させることができ、ひいては、疑似均一相溶構造を容易に形成することができるからである。一方、共連続構造あるいは球状ドメイン構造の樹脂複合体の場合、共連続構造あるいは球状ドメイン構造にある粒子の形状(粒径等)を制御しやすくなるからである。
【0052】
なお、この発明では、熱硬化性樹脂などに感光基を付与させる代わりに、感光性樹脂を用いることができる。このような感光性樹脂としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基などの不飽和二重結合を分子内に1〜数個持つものが使用でき、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シルコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリスチルエチルメタクリレート、ビニル/アクリルオリゴマー(分岐した酸、酸無水物、ヒドロキシ基、グリシジル基を持ったモノマーとビニル又はアクリルポリマーと共重合させ、次にアクリルモノマーと反応させたもの)、ポリエチレン/チオール(オレフィンとメルカプタンの共重合物)などが好適に用いられる。
【0053】
ここで、この感光性樹脂の光硬化因子として重要である光開始剤としては、ベンゾイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ジエトキシアセトフェノン、アシロキシムエステル、塩素化アセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン等の分子内結合開裂型、
ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ジベンゾスベロン、2−エチルアンスラキノン、イソブチルチオキサンソン等の分子内水素引抜型、
のいずれか1種以上が好適に用いられる。
【0054】
光開始助剤としては、トリエタノールアミン、ミヒラーケトン、4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、重合性3級アミン等のいずれか1種以上が用いられる。
【0055】
増感剤としては、ミヒラーケトンやイルガキュア651 、イソプロピルチオキサンソンなどが好適であり、上記の光開始剤のなかには、増感剤として作用するものもある。
なお、上記光開始剤と増感剤の組成比は、例えば、感光性樹脂100 重量部に対して、
ベンゾフェノン/ミヒラーケトン=5重量部/0.5 重量部
イルガキュア184 /イルガキュア651=5重量部/0.5 重量部
イルガキュア907 /イソプロピルチオキサンソン=5重量部/0.5 重量部
が好適である。
【0056】
感光性樹脂を構成する感光性モノマーあるいは感光性オリゴマーとしては、エポキシアクリレートやエポキシメタクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリスチリルメタクリレートなどが好適に用いられる。
【0057】
また、この発明の樹脂マトリックスの硬化剤としては、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、イミダゾール系硬化剤やジアミン、ポリアミン、ポリアミド、無水有機酸、ビニルフェノールなどが使用できる。一方、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を使用する場合は、周知の硬化剤を使用できる。
【0058】
次に、この発明において使用される溶解除去可能な粒子状物質について説明する。
この溶解除去可能な粒子状物質は、このような物質として、アルミナまたはシリカからなる無機粒子を用いることができる。
このような無機粒子を用いる理由は、耐熱性樹脂マトリックス(樹脂複合体)の熱膨張率を低減する効果があり、耐ヒートサイクル特性を向上させることができるからである。特に、炭化ケイ素や窒化アルミニウムなどのように高熱伝導率の無機粒子を使用すると、接着剤層の熱伝導率を向上させることができる。
なお、上記の無機粒子は、熱硬化性樹脂や感光性樹脂、熱可塑性樹脂を溶解する希釈溶媒に不溶性であるため、この希釈溶媒によって樹脂溶液の粘度を低減させることにより、この樹脂溶液中で均一に分散される。また、疑似均一相溶構造の樹脂複合体を得る場合、熱硬化性樹脂あるいは感光性樹脂を熱可塑性樹脂と相溶状態で混合させるために溶媒を用いるが、このような場合でも、無機粒子は、その溶媒に溶解することがないため、明確なアンカーを形成することができる
【0059】
この発明において、粒子状物質は、球形状、中空形状、解砕片状などの各種形状のものを使用でき、特に(1) 平均粒径10μm以下の粒子、(2) 平均粒径2μm以下の粉末を凝集させて平均粒径2〜10μmの大きさとした凝集粒子、(3) 平均粒径2〜10μmの粉末と平均粒径2μm以下の粉末との混合物、(4) 平均粒径2〜10μmの粉末の表面に平均粒径2μm以下の粉末もしくは平均粒径2μm以下の無機粉末から選ばれる少なくとも1種を付着させてなる擬似粒子から選ばれることが望ましい。この理由は、平均粒径10μmを超えると、アンカーが深くなり、100μm以下の所謂ファインパターンを形成できなくなるからであり、一方上記(2)の凝集粒子、(3)の混合物もしくは(4)の疑似粒子が望ましい理由は、複雑なアンカーを形成でき、ピール強度を向上させることができからである。
この粒子状物質は、凝集を防止するために、その表面にシリカゾルなどによるコーティングがなされていることが望ましい。
この粒子状物質の配合量は、耐熱性樹脂マトリックスの樹脂固形分100 に対して、重量比で5〜100 の割合であることが望ましい。この理由は、重量比で5未満の場合は、アンカーを形成することができず、100を超える場合は、混練が難しくなること、また相対的に耐熱性樹脂マトリックスの量が減り、接着剤層の強度が低下してしまうためである。
【0060】
なお、この発明において、酸や酸化剤などの粗化液に難溶性の耐熱性樹脂マトリックスを構成する熱硬化性樹脂成分としてエポキシ樹脂を使用し、一方で、酸や酸化剤などの粗化液に可溶性の耐熱性樹脂粉末としてエポキシ樹脂粉末を使用することもできる。この点について、酸化剤に対する溶解度を例にとり、以下に説明する。
エポキシ樹脂は、それのプレポリマーの種類(分子量300 〜10000 程度の比較的低分子量のポリマー)、硬化剤の種類、架橋密度を制御することにより、その物性を大きく異ならしめることができる。
この物性の差は、酸化剤に対する溶解度に対しても例外ではなく、(i)モノマーの骨格構造と硬化剤、(ii)架橋構造、(iii)架橋密度を適宜選択することにより、任意の溶解度のものに調整することができる。(i)、(ii)が主因子となり、副次的に(iii)を利用する。
ここで、モノマーの骨格構造については、一般に、脂肪族エポキシが最も溶解度が高く、次いでグリシジルアミン型、グリシジルエーテル型においては溶解度が最も低下する。
架橋構造については、例えば、エポキシドとアミンの反応により得られるヒドロキシエーテル構造は、特に溶解度が高く、エポキシドをイミダゾールを硬化触媒として反応させたエーテル構造では溶解性が特に低下する。
架橋密度については、エポキシ当量が多くなるほど低下し、その結果、溶解度は高くなる。
また、溶解度の低下は、エポキシモノマーを多官能化することにより達成され、フェノールノボラック型においては、モノマーの繰り返し単位nが0から1、2と順次増加するに従い、その溶解度は減少する。
従って、上記酸化剤に対する溶解度差に基づき、例えば、
耐熱性樹脂粉末を構成する「酸化剤に可溶性のエポキシ樹脂」としては、
(A)「エポキシプレポリマーとして脂肪族エポキシを用い、硬化剤として脂肪族アミン硬化剤を用い、エポキシ当量を265 程度として穏やかに架橋したエポキシ樹脂」が用いられる。
これに対して、耐熱性樹脂マトリックスの熱硬化性樹脂成分である「酸化剤に難溶性(不溶性も含む)のエポキシ樹脂」としては、(B)「エポキシプレポリマーとしてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、硬化剤として芳香族ジアミン系硬化剤を用い、エポキシ当量を170 前後としたエポキシ樹脂」や、これよりもさらに溶解度の低い、(C)「エポキシプレポリマーとしてフェノールノボラック型エポキシ樹脂を用い、硬化剤としてイミダゾール硬化剤を用い、エポキシ当量を136 程度としたエポキシ樹脂」が用いられる。
また、前記エポキシ樹脂(B)を、「酸化剤に可溶性のエポキシ樹脂」として用いることもでき、この場合には、前記エポキシ樹脂(C)を「酸化剤に難溶性のエポキシ樹脂」として用いる。
【0061】
以上説明した例から理解されるように、酸や酸化剤などの粗化液に可溶性か難溶性(あるいは不溶性)かということは、酸や酸化剤などの粗化液に対する相対的な溶解速度の差を意味している。つまり、酸や酸化剤などの粗化液に可溶性の樹脂、もしくは不溶性の樹脂粉末としては、溶解度に差があるものを任意に選択すればよい。なお、樹脂に溶解度差をつける手段としては、(i)プレポリマーの種類、(ii)硬化剤の種類、(iii)架橋密度の調整だけに限定されるものではなく、他の手段であってもよい。
表1には、前述の各エポキシ樹脂について、そのプレポリマー、硬化剤、エポキシ当量、溶解度の相対値を列記する。
【0062】
【表1】
【0063】
この発明においては、上述したような各エポキシ樹脂の溶解度差を利用して、一定時間の酸化剤等による粗化処理を施すのである。このような処理を施すことにより、酸化剤等に対する溶解度が最も大きい可溶性のエポキシ樹脂微粉末の溶解が激しく起こり、大きな凹部が形成される。同時に酸化剤等に難溶性の熱可塑性樹脂を含むエポキシ樹脂マトリックスが残存して、図1に示すような粗化面(アンカー)が形成されるのである。
【0064】
なお、この発明では、耐熱性樹脂マトリックスとして、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂にPESなどの熱可塑性樹脂を混合したものを用いており、このように熱可塑性樹脂を含有させることにより、酸や酸化剤等に対する溶解度が低下する傾向が見られた。特に、疑似均一相溶構造の樹脂複合体を耐熱性樹脂マトリックスとして採用した場合、その溶解度の低下は顕著であった。
【0065】
次に、本願の接着剤および接着剤層を用いた金属膜被着体としてのプリント配線板を製造方法について説明する。
(i).まず、基体として基板を用い、この基板上に、この発明の接着剤、いわゆる未硬化の熱硬化性樹脂および/または未硬化の感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物から主として構成されている接着剤を塗布し、あるいは前記接着剤自体を半硬化させてフィルム状にしたものをラミネートし、もしくは基板自体を前記接着剤で形成することにより、接着剤の層を設ける。さらに、この接着剤の層を乾燥硬化して、樹脂マトリックスを構成する樹脂複合体が疑似均一相溶構造,共連続構造あるいは球状ドメイン構造を有する接着剤層を形成する。
【0066】
(ii).次に、前記接着剤層の表面に分散している溶解除去可能なアルミナまたはシリカからなる粒子状物質の少なくとも一部を、酸や酸化剤などの粗化液を用いて溶解除去する。
上記の粗化液を用いる方法としては、前述したものと同様の粗化液を用いて、接着剤層を形成した基板をその溶液中に浸積するか、あるいは基板に粗化液をスプレーするなどの手段によって実施することができ、その結果、接着剤層の表面を粗化することができる。
上記酸化剤としては、クロム酸やクロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾンなどがよく、酸としては、塩酸、硝酸、フッ酸や硫酸、有機酸などが用いられ、無機粒子のうち、シリカ、アルミナに対してはフッ酸が、粗化液として好適である。
【0067】
(iii).次に、基板上の表面粗化された接着剤層に無電解めっきを施す。この無電解めっきとしては、例えば無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、無電解スズめっき、無電解金めっきおよび無電解銀めっきなどを挙げることができ、特に無電解銅めっき、無電解ニッケルめっきおよび無電解金めっきのいずれか少なくとも一種であることが好適である。なお、前記無電解めっきを施した上にさらに異なる種類の無電解めっきあるいは電気めっきを行ったり、ハンダをコートしたりすることもできる。さらに、金属被着層を設けるにあたり、無電解めっきの他に、電解めっきやスパッタなどの方法でもよい。被着させる金属としては、Cu,Ni,Cr,Ti,Mo,Au、これらの合金などがある。
【0068】
なお、無電解めっきの際、めっきレジスト等を形成することにより、めっきによって直接、配線パターンを描くことができる。また、全面に無電解めっきを施し、ついでエッチングして導体回路を描くこともできる。
【0069】
上述のようにして得られるプリント配線板としては、(i)基板上に上記接着剤層を介してめっきレジストおよび導体回路を形成してなる片面プリント配線板、(ii)基板両面の上記接着剤層とスルホールを介してめっきレジストおよび導体回路を形成してなる両面プリント配線板、および(iii)導体層を形成させた基板(スルーホールを有していてもよく、多層でもよい)上に、バイアホールを有する層間絶縁層(前記接着剤層)を介して導体回路を多層形成させてなるビルドアップ多層配線板を挙げることができる。
【0070】
【実施例】
(実施例1)
(1) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬製、商品名;EOCN-103S )70重量部、ポリエーテルスルホン(PES)(ICI製、商品名;Victrex )30重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2PHZ-CN )10重量部およびシリカ球状微粉末(日本触媒工業製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、NMP溶剤を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して接着剤溶液を得た。
(2) この接着剤溶液をローラーコーター(サーマトロニクス貿易製)を使用して銅箔が貼着されていないガラスエポキシ絶縁板(東芝ケミカル製)上に塗布し、その後、80℃で3時間、120 ℃で3時間、150 ℃で5時間、乾燥硬化させて厚さ20μmの接着剤層を形成した。
(3) 接着剤層を形成した上記基板を、フッ酸に70℃で15分間浸漬して接着剤層の表面を粗化し、次いで、中和溶液(シプレイ製)に浸漬したのち水洗した。
(4) 接着剤層の表面を粗化した基板にパラジウム触媒(シプレイ製)を付与して接着剤層の表面を活性化させ、次いで、常法に従いめっきレジストを設け、その後、表2に示す組成のアディティブ用無電解めっき液に11時間浸漬して、めっき膜の厚さが25μmの無電解銅めっきを施し、プリント配線板を製造した。
【0071】
本実施例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを上記条件で熱硬化して得られた硬化物は、実施例1と同様にTEM観察したところ、平均粒径0.05μm以下の樹脂粒子が見られた。
また、上記シリカ微粉末を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった。
従って、本実施例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる。
【0072】
(実施例2)
(1) ガラスエポキシ銅張積層板(東芝ケミカル製)上に感光性ドライフィルム(デュポン製)をラミネートし、所望の導体回路パターンが描画されたマスクフィルムを通して紫外線露光させ画像を焼き付けた。次いで、1,1,1-トリクロロエタンで現像を行い、塩化第二銅エッチング液を用いて非導体部の銅を除去した後、メチレンクロリドでドライフィルムを剥離した。これにより基板上に複数の導体パターンからなる第1層導体回路を有する配線板を作成した。
(2) アルミナ粒子(日本軽金属製、商品名;AX34、平均粒径3.9 μm)200gを、5lのアセトン中に分散させて得たアルミナ粒子懸濁液中へ、ヘンシェルミキサー内で攪拌しながら、アセトン1lに対してエポキシ樹脂(三井石油化学製)を30g の割合で溶解させたアセトン溶液中にアルミナ粉末(日本軽金属製、商品名;AX34、平均粒径0.5 μm)300gを分散させて得た懸濁液を滴下することにより、上記アルミナ粒子表面にアルミナ粉末を付着せしめた後、上記アセトンを除去し、その後、150 ℃に加熱して、アルミナ疑似粒子を作成した。この疑似粒子は、平均粒径が約4.3 μmであり、約75重量%が、平均粒径を中心として±2μmの範囲に存在していた。
(3) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製、エポキシ当量210 、分子量2000)の50%アクリル化物を70重量部、ポリエーテルスルホン(PES)30重量部、ジアリルテレフタレート15重量部、2-メチル-1- [4-(メチルチオ)フェニル]-2- モリフォリノプロパノン-1(チバ・ガイギー製)4重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)4重量部、および前記(2)で作成したアルミナ疑似粒子50重量部を混合した後、ブチルセロソルブを添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度250cpsに調整し、続いて、3本ロールで混練して感光性の接着剤溶液を調製した。
(4) この感光性の接着剤溶液を、前記(1) で作成した配線板上に、ロールコーターを用いて塗布し、水平状態で20分間放置してから、70℃で乾燥させて厚さ約50μmの感光性の接着剤層を形成した。
(5) 前記(4) の処理を施した配線板に、100 μmφの黒円が印刷されたフォトマスクフィルムを密着させ、超高圧水銀灯500mj /cm2 で露光した。これをDMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)溶液で超音波現像処理することにより、配線板上に100 μmφのバイアホールとなる開口を形成した。さらに、前記配線板を超高圧水銀灯により約3000mj/cm2 で露光し、100 ℃で1時間、150℃で5時間の加熱処理することにより、フォトマスクフィルムに相当する寸法精度に優れた開口を有する接着剤層を形成した。
(6) 前記(5) の処理を施した配線板を、フッ酸で処理した後、過マンガン酸カリウム(KMnO4 ,500g/l )に70℃で15分間浸漬して接着剤層の表面を粗化し、次いで、中和溶液(シプレイ製)に浸漬した後水洗した。
(7) 接着剤層の表面を粗化した基板にパラジウム触媒(シプレイ製)を付与して接着剤層の表面を活性化させ、その後、表2に示す組成のアディティブ用無電解めっき液に11時間浸漬して、めっき膜の厚さが25μmの無電解銅めっきを施した。
(8) 前記(4) 〜(7) までの工程を2回繰り返した後に、さらに前記(1) の工程を行うことにより、配線層が4層のビルドアップ多層配線板を製造した(図5参照)。
【0073】
本実施例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを上記条件で硬化して得られた硬化物は、その断面を塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径 0.2〜2μmのエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物の連続構造(共連続構造)が見られた(図6参照)。
また、上記アルミナ疑似粒子を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが2つであった(図7参照)。
従って、本実施例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、共連続構造を呈していると考えられる。
【0074】
(参考例1)
(1) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬製、商品名;EOCN-104S 、エポキシ当量220 、分子量5000)65重量部、ポリエーテルスルホン(PES)(ICI製、商品名;Victrex 、分子量17000 )40重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)5重量部およびゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、NMP(ノルマルメチルピロリドン)を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して接着剤溶液を得た。この時の室温での粘度は、2〜5Pa・s であった。
(2) この接着剤溶液をローラーコーター(サーマトロニクス貿易製)を使用して銅箔が貼着されていないガラスエポキシ絶縁板(東芝ケミカル製)上に塗布し、その後、80℃で2時間、120 ℃で5時間、150 ℃で2時間、乾燥硬化させて厚さ20μmの接着剤層を形成した。
(3) 接着剤層を形成した上記基板を、クロム酸水溶液(CrO3,500g/l)に70℃で15分間浸漬して接着剤層の表面を粗化し、次いで、中和溶液(シプレイ製)に浸漬したのち水洗した。粗化面の粗度は、JIS-B-0601でRmax =10μmであった。
(4) 接着剤層の表面を粗化した基板にパラジウム触媒(シプレイ製)を付与して接着剤層の表面を活性化させ、次いで、常法に従いめっきレジストを設け、その後、表2に示す組成のアディティブ用無電解めっき液に11時間浸積して、めっき膜の厚さが25μmの無電解銅めっきを施し、プリント配線板を製造した(図1参照)。
【0075】
【表2】
【0076】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを上記条件で熱硬化して得られた硬化物は、TEM観察したところ、平均粒径 0.1μm以下の樹脂粒子が見られた。
また、上記ゴム系樹脂微粉末を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった(図2参照)。
従って、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる(図3参照)。
【0077】
(参考例2)
基本的には参考例1と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル製、エピコート828 )65重量部、ポリエーテルスルホン(PES)(ICI製、商品名;Victrex )35重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)5重量部およびゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、ジメチルホルムアミド/ブチルセロソルブ(1/1)混合溶剤を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度100CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た接着剤溶液。
【0078】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを実施例1と同様に硬化して得られた硬化物は、その断面をPESを溶解させる塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径0.2 〜2μmのエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物の連続構造(共連続構造)が見られた。
【0079】
(参考例3)
基本的には参考例1と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル製、エピコート828 )50重量部、ポリエーテルスルホン(PES)(ICI製、商品名;Victrex )50重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)5重量部およびゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、DMF(ジメチルフォルムアミド)を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度100CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た接着剤溶液。
【0080】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを参考例1と同様に硬化して得られた硬化物は、その断面をPESを溶解させる塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径2〜5μm程度のエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物が見られた。
しかも、この樹脂マトリックスは、エポキシリッチの球状物がPESリッチのベースに浮かんだいわゆる海−島構造(球状ドメイン構造)であった(図4参照)。
【0081】
(参考例4)
(1) ガラスエポキシ銅張積層板(東芝ケミカル製)上に感光性ドライフィルム(デュポン製)をラミネートし、所望の導体回路パターンが描画されたマスクフィルムを通して紫外線露光させ画像を焼き付けた。次いで、1,1,1-トリクロロエタンで現像を行い、塩化第二銅エッチング液を用いて非導体部の銅を除去した後、メチレンクロリドでドライフィルムを剥離した。これにより基板上に複数の導体パターンからなる第1層導体回路を有する配線板を作成した。
(2) DMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)に溶解したクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基の25%をアクリル化した感光性付与のエポキシオリゴマー(CNA25、分子量4000)、PES(分子量17000 )、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名:I-907 )を用い、下記組成でNMP溶剤を用いて混合し、さらにこの混合物に対してゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して感光性の接着剤溶液を得た。
樹脂組成:感光化エポキシ/PES /M215 /I-907 /イミダゾール
=75/25/10/5/5/5
(3) この感光性の接着剤溶液を、前記(1) で作成した配線板上に、ロールコーターを用いて塗布し、水平状態で20分間放置してから、60℃で乾燥を行なった。
(4) 前記(3) の処理を施した配線板に、100 μmφの黒円が印刷されたフォトマスクフィルムを密着させ、超高圧水銀灯500mj /cm2 で露光した。これをDMDG溶液で超音波現像処理することにより、配線板上に100 μmφのバイアホールとなる開口を形成した。さらに、前記配線板を超高圧水銀灯により約3000mj/cm2 で露光し、100 ℃で1時間、150 ℃で5時間の加熱処理することにより、フォトマスクフィルムに相当する寸法精度に優れた開口を有する厚さ50μmの接着剤層を形成した。
(5) 前記(4) の処理を施した配線板を、過マンガン酸カリウム(KMnO4 ,500g/l )に70℃で15分間浸漬して接着剤層の表面を粗化し、次いで、中和溶液(シプレイ製)に浸漬した後水洗した。
(6) 接着剤層の表面を粗化した基板にパラジウム触媒(シプレイ製)を付与して接着剤層の表面を活性化させ、その後、表2に示す組成のアディティブ用無電解めっき液に11時間浸漬して、めっき膜の厚さが25μmの無電解銅めっきを施した。
(7) 前記(3) 〜(6) までの工程を2回繰り返した後に、さらに前記(1) の工程を行うことにより、配線層が4層のビルドアップ多層配線板を製造した。
【0082】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを、上記条件で乾燥、UV硬化、熱硬化して得られた硬化物は、参考例1と同様にTEM観察したところ、平均粒径 0.1μm以下の樹脂粒子が見られた。また、上記ゴム系樹脂微粉末を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった。
従って、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる(図3参照)。なお、図8および図9には、それぞれ硬化前と硬化後の接着剤層のSEM断面写真を示した。
【0083】
(参考例5)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基の25%をアクリル化した感光性付与のエポキシオリゴマー(CNA25、分子量4000)、PES(分子量17000 )、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名:I-907 )を用い、下記組成でNMP(ジメチルホルムアミド)を用いて混合し、さらにこの混合物に対してゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た感光性の接着剤溶液。
樹脂組成:感光化エポキシ/PES/M215/I-907 /イミダゾール
=75/25/10/5/5
この接着剤の硬化は、80℃で乾燥を行い、これをUV硬化させた後、熱硬化して行った。
【0084】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを上記条件で乾燥硬化して得られた硬化物は、その断面を塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径0.2 〜2μmのエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物の連続構造(共連続構造)が見られた。
【0085】
(参考例6)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基の25%をアクリル化した感光性付与のエポキシオリゴマー(CNA25、分子量4000)、PES(分子量17000 )、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名;I-907 )を用い、下記組成でNMPを用いて混合し、さらにこの混合物に対してゴム系樹脂微粉末を平均粒径5.5μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た感光性の接着剤溶液。
この接着剤の硬化は、100 ℃で乾燥を行い、これをUV硬化させた後、熱硬化して行った。
【0086】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを上記条件で乾燥硬化して得られた硬化物は、その断面をPESを溶解させる塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径2〜5μm程度のエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物が見られた。
しかも、この樹脂マトリックスは、エポキシリッチの球状物がPSFリッチのベースに浮かんだいわゆる海ー島構造(球状ドメイン構造)であった。
【0087】
上述した参考例4〜6のように、乾燥条件を変えることにより、同じ組成の接着剤から疑似均一相溶解構造、共連続構造、球状ドメイン構造の硬化物が得られることが判った。
この理由は、感光性の接着剤の場合は、乾燥時点で均一構造であれば、光硬化で迅速に硬化が行われるため、その後の熱硬化による相分離が比較的発生しにくいからである。
なお、参考までに相図を図10〜12に示す。これらの相図は、参考例4〜6とは接着剤の作成条件が異なり、感光化エポキシ/PES /TMPTA /I-907 /イミダゾール=75/25/20/5/5で行ったものである。
【0088】
(参考例7)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製)のエポキシ基の 100%アクリル化した感光性エポキシオリゴマー、PES、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名;I-907 )を用い、下記組成でNMPを用いて混合し、さらにこの混合物に対してゴム系樹脂微粉末(日本合成ゴム製)を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た感光性の接着剤溶液。
【0089】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを参考例4と同様に硬化して得られた樹脂は、参考例1と同様にTEM観察したところ、平均粒径0.1 μm以下の樹脂粒子が見られた。
また、上記ゴム系樹脂微粉末を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった。
従って、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる(図3参照)。
【0090】
(参考例8)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製)のエポキシ基の 100%アクリル化した感光性エポキシオリゴマー、フェノキシ樹脂、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名;I-907 )を用い、下記組成でDMFを用いて混合し、さらにこの混合物に対して平均粒径3.5 μmの凝集ゴム系樹脂微粉末(特開平1−301775号公報の実施例1に製造方法が開示されているので参照)を30重量部、混合した後、DMF溶剤を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た感光性の接着剤溶液。
樹脂組成:感光化エポキシ/フェノキシ/M215/I-907/イミダゾール=79/30/10/5/5
【0091】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを参考例4と同様に硬化して得られた硬化物は、その断面をフェノキ樹脂を溶解させる2−ブタノンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径0.2 〜2μmのエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物の連続構造(共連続構造)が見られた。
【0092】
(参考例9)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製)のエポキシ基の 100%アクリル化した感光性エポキシオリゴマー、PSF、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤(チバガイギー製、商品名;I-907 )を用い、下記組成でDMFを用いて混合し、さらにこの混合物に対して平均粒径3.5 μmの凝集ゴム系樹脂微粉末(特開平1−301775号公報の実施例1に製造方法が開示されているので参照)を30重量部、混合した後、DMF溶剤を添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た感光性の接着剤溶液。
【0093】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを参考例4と同様に硬化して得られた硬化物は、その断面をPSFを溶解させる塩化メチレンでエッチングしてSEM観察したところ、平均粒径2〜5μm程度のエポキシ樹脂リッチと考えられる球状物が見られた。しかも、この樹脂マトリックスは、エポキシリッチの球状物がPSFリッチのベースに浮かんだいわゆる海ー島構造(球状ドメイン構造)であった。
【0094】
(参考例10)
基本的には参考例3と同様であり、ゴム系樹脂微粉末をジルコニア(日本触媒化学工業製、商品名;NS−OY−S )とし、粗化液をフッ酸とした。なお、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスの樹脂構造は、球状ドメイン構造であった。
(参考例11)
基本的には参考例5と同様であり、ゴム系樹脂微粉末をマグネシア(岩谷化学工業製、商品名;MTK-30)とし、粗化液を6N塩酸とした。なお、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスの樹脂構造は、共連続構造であった。
(参考例12)
基本的には参考例6と同様であり、ゴム系樹脂微粉末を水酸化アルミニウム(日本軽工業社製、商品名;B103・T )とし、粗化液をアンモニア水溶液とした。なお、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスの樹脂構造は、球状ドメイン構造であった。
【0095】
(参考例13)
(1) クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬製、商品名;EOCN-104S 、エポキシ当量220 、分子量5000)65重量部、ポリエーテルスルホン(PES)(ICI製、商品名;Victrex 、分子量17000 )40重量部、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)5重量部および低架橋度のメラミン樹脂粉末を平均粒径5.5 μmのものを20重量部、平均粒径0.5 μmのものを10重量部を混合した後、NMPを添加しながら、ホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して接着剤溶液を得た。この時の室温での粘度は、2〜5Pa・s であった。
(2) 接着剤溶液をガラスエポキシ基板の両面に塗布して、水平状態で20分間放置してから60℃で乾燥し、100 ℃で1時間、150 ℃で5時間、加熱硬化させて厚さ約50μmの樹脂接着剤層を形成した。
(3) この両面接着剤層を持つ基板を、121 ℃、2気圧、飽和水蒸気中で2時間放置して、接着剤層表面のメラミン樹脂粉末を分解除去させた。この分解除去前後の電子顕微鏡(SEM)写真を、図13、14に示す。これらの写真から明らかなように、分解によって、メラミン樹脂が小さくなっている。
(4) 樹脂絶縁層の表面を粗化した基板にパラジウム触媒(シプレイ社製)を付与して絶縁層の表面を活性化させ、その後、無電解銅めっき液に11時間浸漬し、めっき膜の厚さが25μm無電解銅めっきを施して、両面銅張り積層板を得た。
(5) この両面銅張り積層板に、スルホールを開けた。
(6) パラジウム核(シプレイ社製)付与した後、フォトレジストを貼付、露光、現像してめっきレジストを形成した。
(7) 常法に従い、無電解銅めっきを施し、さらに電解銅めっきを行い、導体回路部分を形成した。
(8) めっきレジストを剥離した後、塩化第二鉄でエッチングして、パターン間の銅膜を除去してプリント配線板を製造した。
【0096】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを、上記条件で熱硬化して得られた硬化物は、参考例1と同様にTEM観察したところ、平均粒径 0.1μm以下の樹脂粒子が見られた。また、上記メラミン樹脂粉末を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった。従って、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる(図3参照)。
【0097】
(参考例14)
基本的には参考例4と同様であり、接着剤溶液として以下のものを用いた。DMDGに溶解したクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基の25%をアクリル化した感光性付与のエポキシオリゴマー(CNA25、分子量4000)、PES(分子量17000 )、イミダゾール系硬化剤(四国化成製、商品名;2E4MZ-CN)、感光性モノマーであるアクリル化イソチオシアネート(東亜合成製、商品名;アロニックスM215 )、光開始剤ベンゾフェノン(BP)(関東化学製)、光増感剤ミヒラーケトン(関東化学製)を用い、さらに酢酸酪酸セルロースの粉末を加え、下記組成でNMPを用いて混合しホモディスパー攪拌機で粘度120CPSに調整し、続いて、3本ロールで混練して得た接着剤溶液。
また、本参考例の粗化条件は、80℃の1M水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、酢酸酪酸セルロースを加水分解することにより行った。
【0098】
本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスに相当する樹脂のみを参考例4と同様に硬化して得られた硬化物は、実施例1と同様にTEM観察したところ、平均粒径 0.1μm以下の樹脂粒子が見られた。また、上記ゴム樹脂を混合しない樹脂組成の混合物を硬化して得られた硬化物は、振動周波数6.28 rad/sec 、昇温速度5℃/分の条件で粘弾性測定試験を行ったところ、ガラス転移温度Tg のピークが1つであった。
従って、本参考例で用いた接着剤の樹脂マトリックスは、擬似均一相溶構造を呈していると考えられる。
【0099】
実施例1、2および参考例1〜14にて製造したプリント配線板における無電解銅めっき膜のピール強度、ならびに層間樹脂絶縁層の絶縁抵抗とガラス転移温度Tg を測定した。さらに、−65℃×30min 〜125 ℃×30min のヒートサイクル試験を行った。その結果を表3に示す。
この表に示す結果から明らかなように、疑似均一相溶解構造、共連続構造、球状ドメイン構造を示す樹脂複合体を樹脂マトリックスとする本発明の接着剤を用いることにより、接着強度、絶縁性、耐熱性およびヒートサイクル特性が従来のものに比べ著しく向上したプリント配線板を製造することができる。
【0100】
【表3】
【0101】
なお、上記ピール強度、絶縁抵抗、ガラス転移温度Tg およびヒートサイクル試験の方法または評価方法を説明する。
(1) ピール強度
JIS−C−6481
(2) 絶縁抵抗
基板に層間絶縁層を形成し、粗化したのち触媒付与を行い、次いで、めっきレジストを形成してレジストパターンを作成した。その後、無電解めっきを施し、パターン間の絶縁抵抗を測定した。なお、パターン間絶縁性は、L/S =75/75μmのくしばパターンにて、80℃/85%/24V,1000時間後の値を測定した。
(3) ガラス転移温度Tg
動的粘弾性測定により測定した。
(4) ヒートサイクル試験
−65℃×30min 〜125 ℃×30min のヒートサイクル試験を行い、クラックの発生と層間絶縁層の剥離の有無を調べ、その耐久サイクル数で評価した。
【0102】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の接着剤は、その耐熱性樹脂マトリックスとして、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と熱可塑性樹脂との樹脂混合物であり、硬化処理により擬似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体を形成するように、その相溶状態が調整されてなるものを用い、かつ、その樹脂混合物に、溶解除去可能なアルミナまたはシリカからなる無機粒子を分散させたものから構成し、そのような接着剤を適切な硬化条件のもとで硬化処理して、海−島構造、擬似均一相溶構造、共連続構造もしくは球状ドメイン構造のいずれかの樹脂構造を有する樹脂複合体を形成することができるので、耐熱性、電気絶縁性および化学的安定性を低下させることなく、樹脂マトリックスを強靱化し、接着剤層と被覆金属との密着性を著しく改善することができると共に、耐ヒートサイクル特性を向上させて、熱膨張率差に伴って発生するクラックを防止することができる。
これにより、より高密度でパターン精度の高い配線においてもピール強度に優れるプリント配線板を安定して提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明にかかるプリント配線板の一実施例を示す製造工程図である。
【図2】発明にかかる擬似均一相溶構造を示す樹脂複合体の動的粘弾性測定結果を示す図である。
【図3】発明にかかる樹脂複合体の擬似均一相溶構造を示す結晶構造のTEM写真である。
【図4】発明にかかる樹脂複合体の球状ドメイン構造を示す結晶構造のSEM写真である。
【図5】発明にかかる樹脂複合体を用いたプリント配線板の一実施例を示す他の製造工程図である。
【図6】発明にかかる樹脂複合体の共連続構造を示す結晶構造のSEM写真である。
【図7】発明にかかる共連続構造を示す樹脂複合体の動的粘弾性測定結果を示す図である。
【図8】乾燥後硬化前の接着剤層断面の結晶構造を示すSEM写真である。
【図9】硬化後の接着剤層断面の結晶構造を示すSEM写真である。
【図10】CNA25/PES/TMPTA系混合物の乾燥温度と硬化後の樹脂複合体の状態との関係を示す相図である。
【図11】CNA25/PES系混合物の乾燥温度と硬化後の樹脂複合体の状態との関係を示す相図である。
【図12】エポキシ/PES系混合物の乾燥温度と硬化後の樹脂複合体の状態との関係を示す相図である。
【図13】分解可能な粒子(低重合度メラミン樹脂)の分解前の状態を示す接着剤層断面の結晶構造を示すSEM写真である。
【図14】分解可能な粒子(低重合度メラミン樹脂)の分解後の状態を示す接着剤層断面の結晶構造を示すSEM写真である。
【符号の説明】
1 基板
2 接着剤層
3 レジスト
31 ドライフィルム
4、6、8、10 導体
5 バイアホール
Claims (5)
- 基体上に、粗化面を有する接着剤層が形成され、その接着剤層の粗化面上に導体回路を設けてなるプリント配線板用接着剤において、
前記接着剤は、熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂と、該熱硬化性樹脂および/または感光性樹脂に対して15〜50wt%の配合比で混合された熱可塑性樹脂との樹脂混合物からなる未硬化の耐熱性樹脂マトリックス中に、シリカまたはアルミナから選ばれる少なくとも1種の溶解除去可能な粒子状物質が分散されてなり、
前記粗化面は、前記接着剤を硬化してなる接着剤層の表面に存在する前記溶解除去可能な粒子状物質を溶解除去することによって形成され、
前記樹脂混合物は、硬化処理によって擬似均一相溶構造、共連続構造あるいは球状ドメイン構造のいずれか1つの樹脂構造体を有する樹脂複合体を形成するように、その相溶性が調整されてなることを特徴とするプリント配線板用接着剤。 - 上記感光性樹脂は、熱硬化性樹脂の官能基の一部を感光基で置換した樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板用接着剤。
- 前記請求項1または2に記載の接着剤を硬化処理して形成したプリント配線板用接着剤層であって、
前記樹脂複合体は、硬化処理によって前記樹脂混合物より相分離した樹脂粒子の粒子径が透過型電子顕微鏡観察による測定値で 0.1 μm以下であり、振動周波数 6.28 rad / sec 、昇温速度5℃/分の条件での動的粘弾性測定による前記樹脂混合物のガラス転移温度ピーク値が1つであるような擬似均一相溶構造であることを特徴とするプリント配線板用接着剤層。 - 前記請求項1または2に記載の接着剤を硬化処理して形成したプリント配線板用接着剤層であって、
前記樹脂複合体は、硬化処理によって熱可塑性樹脂リッチのマトリックス中に熱硬化性樹脂リッチの連結し合った球状粒子が存在し、その球状粒子の平均粒径が0.1μmを超え、5μm以下であるような共連続構造であることを特徴とするプリント配線板用接着剤層。 - 前記請求項1または2に記載の接着剤を硬化処理して形成したプリント配線板用接着剤層であって、
前記樹脂複合体は、硬化処理によって熱可塑性樹脂の樹脂マトリックス中に、熱硬化性樹脂もしくは感光性樹脂からなる平均粒径が0.1μmを超え、5μm以下の球状ドメインが互いに独立して均一分散してなる球状ドメイン構造であることを特徴とするプリント配線板用接着剤層。
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