上記のプラズマ表面処理技術、即ちプラズマ表面処理装置とプラズマ表面処理方法は、LCD,LSI,電子複写機および太陽電池等の産業分野のいずれにおいても、生産性向上に伴う製品コストの低減および大面積壁掛けTVなど性能(仕様)の改善等に関する大面積・均一化および高速処理化のニーズが年々強まっている。
最近では、上記ニーズに対応するため、一つの技術傾向として、産業界のみならず、学会でも特に、プラズマCVD(化学蒸着)技術およびプラズマエッチング技術ともに、低電子温度で高密度のプラズマが生成可能という特徴のあるVHF帯(30MHzないし300MHz)の電源を用いたプラズマCVDの大面積化・高速製膜化およびプラズマエッチングの大面積化・高速化に関する先端的研究開発が盛んになっている。しかしながら、従来技術では、以下に述べるような課題が依然として存在している。
(1)第1の課題は、表面処理の高速化(生産性向上)である。製品の品質の確保を前提にして、プラズマ表面処理技術の高速化を図るには、プラズマ発生の電源周波数を、30MHz〜300MHzのVHF帯域まで高くすることが効果的であるいう考え方が一般的になっている。しかしながら、上記電源周波数をVHF帯域まで増加させると、膜厚分布が著しく悪くなるという問題が発生する。
その理由としては次のことが考えられる。特許文献1,2及び4に指摘されているように、電源高周波数がVHF帯域になると、その電波の波長と電力供給系および電極の伝播路の長さが略等しくなり、波の干渉現象(波の進行波と反射波が干渉する)が発生することから、プラズマ密度の空間的な均一性が確保できなくなると考えられる。また、別の理由として、VHF特有の現象である表皮効果による電力伝播路でのインピーダンスの増大およびその不均一性に起因するものと考えられる。
また、上記従来のVHFプラズマによる大面積化・均一化を前提にした高速処理化の困難性に関する本質的な原因として、上記特許文献1,2及び4での指摘事項に加えて、次に示す電力供給系の構造上の問題が関係していると考えられる。
従来技術では、給電系の出力回路の構成部材の同軸ケーブルと電極との接続部は、互いに異なる構造の線路が接続された形になっている。即ち、従来技術は、その典型例を図15ないし図17に示すように、電極と同軸ケーブルとの接続部において、同軸ケーブルと負荷である電極との伝送特性の違いに起因する漏洩電流が同軸ケーブルの外部導体の端面に発生する。即ち、同軸ケーブルは不平衡型の伝送路であるが、負荷である電極は2本の平行線路(平衡型)に相当する特性を有している。その結果、その接続部では図15ないし図17に、それぞれ、図示しているように漏洩電流が発生する。この漏洩電流は、目的とする一対の電極間に生成のプラズマ以外に、不必要な場所に異常放電を発生させ、電力損失という問題を起こすのみならず、プラズマによる基板表面処理の均一化を阻む要因であり、問題である。この漏洩電流に関する現象は電源周波数がVHF帯域になることにより、RF(13.56MHz)に比べて問題がより一層、顕著になるものである。
無線工学の知見によれば、特許文献6に記載されているように平衡不平衡変換装置を図15ないし図17図示の同軸ケーブルの端部と電極の間に挿入すれば、上記問題要因の漏洩電流を抑制することが可能である。しかしながら、プラズマ表面処理装置の分野では、次に示す理由により応用することが困難であり、これまで成功例は見当たらない。
無線工学の分野で用いられている例えば図18図示のシュペルトップ型及び図19図示の半波長迂回線路型の平衡不平衡変換装置をプラズマ表面処理装置に応用する場合、実用化を拒む困難な問題として次の3つがある。第1の問題は、高周波プラズマ表面処理装置に用いられる電力の周波数が、13.56MHz及び30MHz〜100MHzの領域であるので、半波長で、11m(13.56MHz)及び5m(30MHz)〜1.5m(100MHz)、四分の一波長で、5.5m(13.56MHz)及び2.5m(30MHz)〜0.75m(100MHz)と、波長が著しく長いので、それらの平衡不平衡変換装置を真空容器内に設置することは著しく困難である。強引にそれらの平衡不平衡変換装置を真空容器内に設置するとなると、真空容器の寸法が実用性を無視するほど大きくなるという問題が発生する。第2の問題は、プラズマ表面処理装置に用いられる真空容器内部に設置の同軸ケーブルには、その構成部材の誘電体の材料として真空場での不純物の発生を防止する為に高純度のセラミックスが用いられるので、曲がりにくい特性がある。そのため、長尺ものを曲げることにより、設置場所を小さくするという手段は通用しない。第3の問題は、例えば半波長迂回線路型の平衡不平衡変換装置をプラズマ表面処理装置に応用する場合、図19図示の如く、強烈な異常放電が発生するので、実用性がなく用いられていない。また、LCブリッジ型の平衡不平衡変換装置をプラズマ表面処理装置に応用する場合、図17図示の如く、一対の電極間以外に強烈な異常放電が発生するので、該電極回りにセラミックス絶縁物を充填するなどの対策が必要となり、大面積基板を対象にする表面処理装置への応用では実用性がない。
したがって、従来のプラズマ表面処理装置の応用分野では、シュペルトップ型、半波長迂回線路型及びLCブリッジ型等の平衡不平衡変換装置のプラズマ表面処理装置への応用は、原理的には可能性があるものの、その応用を実現可能とする技術は、まだ開発されていない。
(2)第2の課題は、プラズマ表面処理の大面積・均一化(生産性向上および性能向上)である。一般に、LCD分野では、膜厚分布は再現性を確保して、±5%程度、太陽電池分野では、膜厚分布は再現性を確保して、±10%程度が実用化の一つの指標となっている。しかしながら、従来のVHFプラズマ技術により、例えばa−Si膜を製造する場合、再現性の確保を前提条件にすると、基板面積が50cmx50cm程度に関しては、±10〜15%程度の膜厚分布、100cmx100cm程度に関しては、±15〜20%程度の膜厚分布になっている。
膜厚分布の不均一性の直接的原因としてはプラズマ密度の不均一性があり、プラズマ密度の不均一性の原因には、上記VHF固有の問題である波の干渉現象や表皮効果等に関わる事項及び漏洩電流等に関わる事項に加えて、一対の電極間に設置される基板(太陽電池の場合、厚み4〜6mmのガラス)のプラズマ生成に与える影響が考えられる。すなわち、基板は一般に、誘電体であり、かつ、基板の温度による変形があることから、一対の電極間に生成されるプラズマは基板の影響を受ける。特に、プラズマ生成時の圧力条件が、数100Pa〜数1000Pa(数Torr〜数10Torr)になると、一対の電極間隔は、10〜15mmと狭くなるので、基板の影響は無視できなくなるという問題がある。
(3)更に、第3の課題として、一対の電極間以外で生成されるプラズマが原因の電力損失問題がある。上述のように、従来技術では、目的とする一対の電極間以外にも不必要なプラズマが生成し、それを制御したり、抑制したりすることができないので、不必要の電力を消費している。この電力損失は、単に電力の無駄使いという損失のみならず、プラズマ処理装置の構成部材を過熱して破損させる原因になっている。すなわち、プラズマ処理装置の安定操業を損なう要因になっている。
以上説明したように、従来技術では、量産性向上や低コスト化に必要な大面積基板、例えばサイズ1mx1m級大面積基板を対象にしたVHFプラズマCVDおよびプラズマエッチング等の応用は、依然として困難で、不可能視されている。即ち、大面積・均一・高速化、電力損失防止等の課題に対応する為、一つの技術トレンドとして、VHFプラズマ技術が注目され、その実用化応用の開発研究が実施されているが、技術的困難性のため、まだ、1mx1m級大面積基板を対象にした電力損失のないVHFプラズマ利用の高製膜速度・均一な表面処理方法およびその装置の成功例は発表されていない。
言い換えれば、現在、VHFプラズマ分野が抱える具体的技術課題は、第1に、一対の電極間のみにプラズマを生成させる技術の創出(これが可能となれば、電力損失防止は解決。また、高速・均一化も解決が可能。)、第2に、基板の設置に影響されない技術の創出(これが可能となれば、圧力条件が数100Pa〜数1000Paで電極間隔が基板厚み相当になっても、プラズマ処理が可能。)、第3に、高速化・大面積・均一化技術の創出である。
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、無線工学で利用されている平衡伝送線路の形態を、不平衡伝送線路である同軸ケーブルを用いて実現することにより、従来技術では困難視されている、例えば1mx1m級の大面積基板に対してもVHF帯域(30MHz〜300MHz)の周波数を用いて、一対の電極間のみにプラズマを生成させ、かつ、高速かつ均一性に優れたプラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成する為に、本願の請求項1記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマ生成用の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置に用いられる平衡伝送回路であって、2本の長さが略等しい同軸ケーブルの外部導体同士が少なくともそれぞれの両端部で短絡され、かつ、該2本の同軸ケーブルの一方の端部のそれぞれの芯線を入力部とし、他方の端部のそれぞれの芯線を出力部とするという構成を有することを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項2記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマ生成用の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置に用いられる平衡伝送回路であって、2本の長さが略等しい同軸ケーブルの外部導体同士が少なくともそれぞれの両端部で他の導体により短絡され、かつ、該2本の同軸ケーブルの一方の端部のそれぞれの芯線を入力部とし、他方の端部のそれぞれの芯線を出力部とするという構成を有することを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項3記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマ生成用の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置に用いられる平衡伝送方法であって、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いて、前記平衡不平衡変換装置の出力回路から前記電極に設置の電力供給点へ該平衡不平衡変換装置の出力を伝送することを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項4記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマを生成する第1及び第2の電極からなる一対の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置において、前記一対の電極に複数の開口を設置し、該一対の電極のそれぞれの周縁に電力供給点を配置し、かつ、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いて、前記電力供給系構成部材の平衡不平衡変換装置の出力回路と該一対の電極の電力供給点を接続するという構成を有することを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項5記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマを生成する第1及び第2の電極からなる一対の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置において、前記基板を前記一対の電極間の外に配置し、該第1および第2の電極にそれぞれ複数の開口を設置し、かつ、該第1の電極に複数の貫通孔を等間隔に設置し、複数の該貫通孔のそれぞれの近傍に該第1の電極の電力供給点を設置し、該第2の電極の電力供給点を該それぞれの貫通孔に近接する位置に設置し、かつ、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いて、それぞれの該貫通孔を介して前記電力供給系構成部材の平衡不平衡変換装置の出力回路と該第1および第2の電極の電力供給点を接続するという構成を有することを特徴とする。
なお、開口とはガスあるいはプラズマあるいはラデイカル種等を通過あるいは拡散させる穴で、貫通孔とは同軸ケーブルを通す穴である。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項6記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマを生成する第1及び第2の電極からなる一対の電極と、該一対の電極の電力供給点と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段と、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理装置において、前記電力供給系から前記一対の電極へ電力を供給する電力供給回路の装置構成は、電力の流れの上流側から下流側に沿って、高周波電源、インピーダンス整合器、平衡不平衡変換装置、平衡伝送回路および電力供給点の順序に配置させることを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項7記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマを生成する第1及び第2の電極からなる一対の電極と、該一対の電極の電力供給点と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段と、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理方法において、前記電力供給系から前記一対の電極へ電力を供給する電力供給回路の装置を、電力の流れの上流側から下流側に沿って、高周波電源、インピーダンス整合器、平衡不平衡変換装置、平衡伝送回路および電力供給点の順序に配置させるという構成によりプラズマ表面処理を行うことを特徴とする。
同様に上記目的を達成する為に、本願の請求項8記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、この真空容器内に放電用ガスを供給する放電用ガス供給系と、プラズマを生成する第1及び第2の電極からなる一対の電極と、高周波電源とインピーダンス整合器と平衡不平衡変換装置から成る電力供給系と、プラズマ処理すべき基板を配置する基板保持手段とを具備し、生成したプラズマを利用して基板の表面を処理するプラズマ表面処理方法において、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いて、前記平衡不平衡変換装置の出力回路から前記電極に設置の電力供給点へ該平衡不平衡変換装置の出力を伝送し、プラズマ表面処理を行うことを特徴とする。
請求項1あるいは請求項2の平衡伝送回路によれば、従来の平衡伝送回路と異なり、電磁界を外部に放出しないで同軸ケーブル内部に電磁界を閉じ込めた形で電力を平衡伝送することが可能である。これにより、従来困難視されている平衡伝送回路のプラズマ表面処理分野への応用が可能となり、一対の電極に電圧の位相差が180度異なる電力を供給することが可能となる。すなわち、平衡伝送回路を用いて、電圧の位相差が180度異なる電力を一対の電極に印加させると、該電極の電圧は交互に正負となり、かつ、アース(真空容器内壁及び金属部材など)との電位差よりも2倍大きくなることから、該一対の電極間のみにプラズマを生成することへの応用が可能である。その結果、従来技術で問題である電力給電部での漏洩電流や異常放電等を抑制可能であり、電力損失およびプラズマの均一化・大面積化等の問題を効果的に解決できる。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上および製品コストの低減に関し、貢献度が著しく大きい。
ただし、請求項2に記載の平衡伝送回路は、2本の同軸ケーブルの外部導体同士が少なくともそれぞれの両端部で他の導体により短絡され、かつ、該2本の同軸ケーブルの一方の端部のそれぞれの芯線を入力部とし、他方の端部のそれぞれの芯線を出力部とするという構成を有するので、請求項1に記載の構成を有する平衡伝送回路に比べ、同軸ケーブルの配線構成の設計及び該同軸ケーブルの配線を実行する際に融通が効くというメリットがある。
請求項3の平衡伝送法によれば、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いた平衡伝送方法のプラズマ表面処理分野への応用が可能であり、従来の技術では困難視されている一対の電極間のみにプラズマを生成することへの応用が可能である。その結果、電力損失が防止され、かつ、漏洩電流が抑制されるので実用上の価値は著しく大きい。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上および製品コストの低減に関し、貢献度が著しく大きい。
請求項4のプラズマ表面処理装置によれば、請求項1あるいは2に記載の構成を有する平衡伝送回路を用いて、プラズマ表面処理装置を構成する部材である平衡不平衡変換装置の出力回路から一対の電極に設置の電力供給点へ該平衡不平衡変換装置の出力を伝送することにより、プラズマ表面処理が可能である。これにより、従来困難視されている平衡伝送回路のプラズマ表面処理分野への応用を可能とするものであり、該一対の電極に電圧の位相差が180度異なるVHF領域の周波数の電力を供給することが可能である。すなわち、該平衡伝送回路を用いて電圧の位相差が180度異なる電力を一対の電極に印加することが可能となり、該電極の電圧は交互に正負となり、かつ、アース(真空容器内壁及び金属部材など)との電位差よりも2倍大きくなることから、該一対の電極間のみにプラズマを生成することが可能である。その結果、従来技術では問題である電力給電部での漏洩電流や異常放電等の発生が無く、電力損失およびプラズマの均一化・大面積化等の問題のないプラズマ表面処理装置を実用に供せることが可能である。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上および製品コストの低減に関し、貢献度が著しく大きい。
請求項5のプラズマ表面処理装置によれば、基板を一対の電極間の外に設置し、かつ、一対の電極に電圧の位相差が180度異なる電力を供給することができることから、該一対の電極間のみにプラズマを生成することが可能である。また、基板が該一対の電極間の外に設置されるので該基板に影響を受けないでプラズマを生成することが可能で、かつ、圧力が数100Pa〜数1000Paという高い条件で必須となる狭電極間隔でのプラズマ処理が可能である。さらに、複数の貫通孔を介して該一対の電極の複数の電力供給点に電力を供給できることから、大面積のプラズマの生成への対応が容易に可能である。すなわち、等間隔に設置される貫通孔の個数を増加することで容易に対応可能である。しかも、従来技術では問題である電力給電部での漏洩電流や異常放電等の発生が無く、電力損失のないプラズマ表面処理装置を実用に供せることが可能である。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上および製品コストの低減に関し、貢献度が著しく大きい。
請求項6及び請求項7のプラズマ表面処理装置及びプラズマ表面処理方法によれば、電力供給系構成部材の平衡不平衡変換装置の出力の位相関係を確実に維持し、かつ、電圧の位相差が180度異なる電力を該一対の電極に確実に供給する手段及び方法が応用可能であり、その実用価値は著しく高い。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上に関し、貢献度が著しく大きい。
請求項8のプラズマ表面処理方法によれば、従来困難視されているVHF帯域(30MHz〜300MHz)の電源を用いる高密度プラズマを一対の電極間のみに生成することが可能である。その結果、電力の損失を防止し、かつ、大面積・均一のプラズマ表面処理、即ち製膜速度およびエッチング速度の向上が再現性良く可能である。この効果は、LSI,LCD、複写機用感光体の産業のみならず、太陽電池業界での生産性向上に関し、貢献度が著しく大きい。
以下、本発明の実施の一形態に係わる平衡伝送回路、該平衡伝送回路により構成のプラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、プラズマ表面処理装置およびプラズマ表面処理方法の一例として、太陽電池を製作する際に必要なa―Si薄膜を製作する装置および方法が記載されているが、本願の発明対象が下記の例の装置および方法に限定されるものではない。
(実施例1)
本発明に関する実施例1の平衡伝送回路、該平衡伝送回路により構成のプラズマ表面処理装置(プラズマCVD装置)およびプラズマ表面処理方法(プラズマCVD方法)について、図1ないし図3を参照して、説明する。
図1は実施例1に係わるプラズマ表面処理装置の全体を示す概略図、図2は図1図示のプラズマ表面処理装置の真空容器内部の説明図、図3は本発明に関する同軸ケーブルを用いた平衡伝送回路を示す説明図である。
先ず、装置の構成を説明する。図1及び図2において、符番1は真空容器である。この真空容器1には、後述の放電ガスをプラズマ化する一対の電極、即ち第1の非接地電極2と図示しない基板ヒータ3を内臓した第2の非接地電極4が配置されている。該第1及び第2の非接地電極2、4は、それぞれ、絶縁物支持材5a、5b及び24a、24bを介して真空容器1に固着されている。該第1の非接地電極2には直径2mm〜10mm程度の多数の開口6が開口率40%〜80%で配置されている。前記第1の非接地電極2の周りにはアースシールド7が配置されている。該アースシールド7は、不必要な部分での放電を抑制し、かつ、放電ガス供給管8a、8bより供給されるSiH4等放電ガスを、整流孔9および前記非接地電極2に配置されている多数の開口6を介して、前記一対の電極2と4の間に均一に供給する機能を有している。また、前記アースシールド7は、排気管10および図示しない真空ポンプ11と組み合わせて使用されることのより、プラズマ生成空間でプラズマ化された使用済みの放電ガスを排出する機能を有している。
真空容器1内の圧力は、図示しない圧力計によりモニターされ、図示しない圧力調整弁により自動的に所定の値に調整、設定される。なお、本実施例の場合は、放電ガスが流量500sccm〜1、500sccm程度の場合、圧力0.01Torr〜10Torr(1.33Pa〜1,330Pa)程度に調整できる。真空容器1の真空到達圧力は2〜3E−7Torr(2.66〜3.99E−5Pa)程度である。
符番12は基板で、図示しないゲートバルブ13の開閉操作により、第2の非接地電極4に設置される。そして、図示しない基板ヒータ3により所定の温度に加熱される。
符番14は高周波電源で、周波数30MHz〜300MHz(VHF帯域)の電力、例えば60MHzの電力を発生する。その電力は第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16、第2の同軸ケーブル17、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18、後述の同軸ケーブル19a、19bと真空用接続端子20と同軸ケーブル21a、21bから成る平衡伝送線路及び第1及び第2の給電線22a,22bを介して、一対の電極2,4の電力供給点23a、23bに供給される。
上記平衡伝送回路(ここでは、平衡伝送回路と平衡伝送線路は同じ意味として用いる)は、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と同軸ケーブル19a、19bと真空用接続端子20と同軸ケーブル21a、21bから構成される。この回路の概念を説明するため、該回路の構成を図3に示す。
図3において、電力を伝送するのに用いられる同軸ケーブルの一方の端部の芯線と外部導体をLCブリッジ型平衡不平衡変換装置の入力端子に接続する。なお、該同軸ケーブルの他方の端部の芯線と外部導体はインピーダンス整合器に接続される。そして、該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置の出力端子に外部導体同士が固着され短絡された状態にある2本の同軸ケーブルの一方の端部のそれぞれの芯線を接続し、該2本の同軸ケーブルの他方の端部のそれぞれの芯線を負荷である一対の電極に接続する。この構成により、図3に示すように、不平衡伝送線路である同軸ケーブルから伝送される電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置と外部導体同士が短絡された2本の同軸ケーブルからなる平衡回路を介して、一対の電極へ伝送することができる。ここで、上記外部導体同士が短絡された2本の同軸ケーブルの外部導体の内側を流れる高周波電流は、図3に示すように、該外部導体同士が閉ループ回路を形成しているので、上流側(LCブリッジ型平衡不平衡変換装置の出力端子側)及び下流側(一対の電極側)への電流の漏洩はない。また、該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置の出力端子から出力される電流は同振幅で逆位相となっている。すなわち、上記外部導体同士が短絡された2本の同軸ケーブルは、電界・磁界を外部に放射することなく、それを閉じ込めた形で、かつ平衡伝送回路としての機能を有している。その結果、該一対の電極間に印加される電圧は交互に正負となるので、該電極間に掛かる電圧はアース(真空容器の壁及び金属部材など)との電位差よりも2倍も大きい。したがって、一対の電極間のみにプラズマを優先して生成させることが可能となる。
上記構成において、2本の同軸ケーブルの外部導体同士を短絡する手段としては、かならずしも2本の同軸ケーブルの全長にわたって外部導体同士を接続する必要はなく、該2本の同軸ケーブルの両端部での外部導体同士を短絡することで十分である。その理由は、2本の同軸ケーブルの外部導体の内側を流れる電流が外部へ流出しないように、図3に示すような閉ループの電気回路を形成できる手段であればよいからである。
なお、従来の平衡伝送回路は、レッヘル線と呼ばれる2本の平行線を用いるものであるが、次に述べる理由により、実用価値がなく利用されていない。すなわち、従来の平衡伝送線路は、図20に示すように、2本の平行線を用いてLCブリッジ型平衡不平衡変換装置の出力端子と負荷を接続するという構成の電気回路である。この場合は、不平衡伝送線路である同軸ケーブルからの電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置を介して平衡伝送線路として負荷に電力を伝送できるが、2本の平行線の間に強い電界が発生し、かつ、2本の線路回りに強い磁界が発生して、それが外部へ放射されるので、実用性がなく、プラズマ理工学分野では利用されていない。
次に、上記構成のプラズマ表面処理装置を用いて、a−Si太陽電池用のa−Siを製膜する方法を説明する。図1及び図2において、予め、基板12を第2の非接地電極4の上に設置し、真空ポンプ11を稼動させ、真空容器1内の不純物ガス等を除去した後、放電ガス供給管8a,8bからSiH4ガスを、例えば500sccm、圧力0.5Torr(66.5Pa)で供給しつつ、一対の電極2、4に高周波電力を、例えば周波数60MHzの電力例えば500Wを供給する。なお、基板温度は80〜350℃の範囲、例えば180℃に保持する。
即ち、高周波電源14の出力を例えば60MHzで500Wとし、その出力を第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16、第2の同軸ケーブル17、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18、外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル19a、19b、真空用接続端子20および外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル21a、21b及び第1及び第2の給電線22a、22bを介して、電力給電点23a、23bに供給する。この場合、上記インピーダンス整合器16のLCの調整により、並びに高周波電源14に付属の進行波及び反射波の電力値モニターを組み合わせて用いることにより、インピーダンス整合器16の上流側には上記供給電力の反射波が戻らないようにできる。また、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度に確保できる。その結果、SiH4ガスのプラズマが生成される。
ただし、該インピーダンス整合器16を該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の下流側、すなわち、それを該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と電力給電点23a、23bの間に配置させる場合、該インピーダンス整合器16に内蔵のLC回路は負荷と電源および伝送路のインピーダンス整合のため調整されるので、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度に確保できなくなる。したがって、該インピーダンス整合器16が配置される場所は該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の上流側であることが重要である。すなわち、前記高周波電源14から前記一対の電極の電力給電点23a、23bへの電力供給回路の装置構成は、電力の流れの上流側から下流側に沿って、高周波電源、インピーダンス整合器、平衡不平衡変換装置、平衡伝送回路および電力供給点の順序に配置させることが、電圧の位相差180度を確保するために重要である。
第1及び第2の給電線22a、22bから電力供給点23a、23bへの電力供給において、該外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル21a、21bおよび負荷である一対の電極が同様の平衡伝送路としての電気的特性を有していることから、漏洩電流の発生が抑制される。その結果、異常放電や局部放電などは発生しない。さらに、上記のように、電力供給点23a、23bに印加される電圧の位相差が180度であるので、すなわち、一対の電極に正負の電圧を掛けている状態であるので、電極間以外でのプラズマの発生は皆無となる。したがって、従来技術で問題であった一対の電極周辺のアース構造および配線状況に関係する漏洩電流に起因するプラズマの発生はなく、再現性の良い安定したプラズマの生成が可能である。
上記工程において、SiH4ガスがプラズマ化されると、そのプラズマ中に存在するSiH3、SiH2、SiH等のラジカルが拡散現象により拡散し、基板12表面に吸着されることにより、a−Si膜が堆積する。なお、微結晶Siあるいは薄膜多結晶Si等は、製膜条件の中のSiH4,H2の流量比、圧力および電力を適正化することで製膜できることは公知の技術である。
上記の手順で製膜する場合の具体的条件を以下に説明する。サイズ1200mmx300mm(厚み4mm)程度のガラス基板12に製膜速度1nm/s、膜厚分布±10%のa−Siを製膜することを実施する。
製膜条件は次の通りである。
(製膜条件)
●放電ガス:SiH4
●流量:500sccm
●圧力:0.5Torr(66.5Pa)
●電極間隔:2.5cm
●電源周波数:60MHz
●電力:500W
●基板の温度:180℃
上記製膜条件でプラズマを生成すると、第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16及び第2の同軸ケーブルを通して伝送された高周波電源14からの電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と同軸ケーブル19a、19bと真空用接続端子20と同軸ケーブル21a、21bから成る平衡伝送線路方式で、第1及び第2の給電線22a,22bを介して、一対の電極2,4の電力供給点23a、23bに供給できるので、電力供給系と負荷である一対の電極との接続部での伝送特性が整合され、漏洩電流の発生が抑制される。したがって、生成されるプラズマの密度の空間的分布は、従来に比べて、再現性良く均一になる。その結果、製膜されるa−Siの膜厚分布は従来に比べて、再現性良く均一になる。数値的にはa−Si膜厚分布が±10%以内で製膜が可能となる。なお、平衡伝送回路(あるいは平衡伝送線路)とは、2本の導体から成る電力伝送回路において、両線を往路と帰路として流れる電流の振幅が等しく、位相が180度異なるような伝送形態のことである。従来の技術では、図20図示のような回路で実現されているが、電磁界放射が強いのでプラズマ理工学の分野では用いられていない。
なお、本実施例で用いている上記LCブリッジ型平衡不平衡変換装置は、該装置に入力される不平衡伝送方式の電力伝送を平衡伝送方式に変換する働きをする手段であるので、それに代えて、シュペルトップ型平衡不平衡変換装置及び二分の一波長迂回型平衡不平衡変換装置等を用いることができる。また、電力分配器とフェーズシフターを組み合わせた装置を用いることができる。
また、本実施例では、一対の電極2,4にそれぞれ、給電点を1点(一対)としているので、基板サイズは上記1200mmx300mm程度に制約されるが、給電点数を増加すればサイズの幅は拡大可能であることは当然のことである。
また、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造では、膜厚分布として±10%以内であれば性能上問題はない。上記実施例によれば、60MHzの電源周波数を用いても、従来の装置および方法に比べ著しく良好な膜厚分布を得ることが可能である。このことは、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造分野での生産性向上および低コスト化に係わる工業的価値が著しく大きいことを意味している。
(実施例2)
本発明に関する実施例2の平衡伝送回路、該平衡伝送回路により構成のプラズマ表面処理装置(プラズマCVD装置)およびプラズマ表面処理方法(プラズマCVD方法)について、図4ないし図6を参照しながら説明する。
先ず、装置の構成について説明する。ただし、図1及び図2に示した部材と同じ部材は同符番を付して説明を省略する。図4は実施例2に係わるプラズマ表面処理装置の概念を示す説明図、図5は実施例2に係わるプラズマ表面処理装置の全体を示す概略図、図6は図5図示のプラズマ表面処理装置の真空容器内部の説明図である。
先ず、装置の概念を説明する。装置の構成は、全体的には実施例1での図1及び図2の場合と同じであるが、基板が設置される場所が異なることが特徴である。図4〜図6に示すように、一対の電極に複数の開口を設置することにより、その開口を介して該電極間で発生のプラズマ中のラデイカル種をその外部へ拡散させるのである。この構成の特徴は、基板12の設置場所が一対の電極2、4の間でなく、電極間の外であることである。このことは、プラズマ生成時の製膜条件が基板の厚みと材質に影響されずに選べることが可能であるとの意味をもつ。特に、プラズマ生成時の圧力条件が、数100Pa〜数1、000Pa(数Torr〜数10Torr)と高い場合でも、基板の影響を受けることなく、一対の電極間隔を、10〜15mmと狭く設定できることが可能である。これは、従来技術では出来ない画期的なメリットである。
図5及び図6において、符番25は基板ホルダーで、基板12を保持し、かつ図示しない内臓されている基板ヒータ3で基板の温度を80℃ないし350℃に加熱される。基板12は一対の電極2、4の間ではなく、その外に配置される基板ホルダー25上に設置される。第1及び第2の非接地電極2、4には直径2mm〜10mm程度の多数の開口6が開口率40%〜80%で配置されている。なお、電極間で生成されるラデイカル種の基板12方向へのラデイカル種の電極外への拡散の抵抗を小さくさせることから、第2の非接地電極4の開口率が第1の非接地電極2の開口率より大きい方が好ましい。
次に、上記構成のプラズマ表面処理装置を用いて、a−Si太陽電池用のa−Siを製膜する方法を説明する。図5及び図6において、予め、基板12を基板ホルダー25の上に設置し、真空ポンプ11を稼動させ、真空容器1内の不純物ガス等を除去した後、放電ガス供給管8a、8bからSiH4ガスを、例えば1,000sccm、圧力5.0Torr(666.5Pa)で供給しつつ、一対の電極2、4に高周波電力を、例えば周波数70MHzの電力例えば1、500Wを供給する。なお、電極間隔は1.5cm、基板温度は80〜350℃の範囲、例えば200℃に保持する。
即ち、高周波電源14の出力を例えば70MHzで1、500Wとし、その出力を第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16、第2の同軸ケーブル17、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18、外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル19a、19b、真空用接続端子20および外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル21a、21b及び第1及び第2の給電線22a、22bを介して、電力給電点23a、23bに供給する。この場合、上記インピーダンス整合器16のLCの調整により、並びに高周波電源14に付属の進行波及び反射波の電力値モニターを組み合わせて用いることにより、インピーダンス整合器16の上流側には上記供給電力の反射波が戻らないようにできる。また、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度に確保できる。その結果、SiH4ガスのプラズマが生成される。
ただし、該インピーダンス整合器16を該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の下流側、すなわち、それを該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と電力給電点23a、23bの間に配置させる場合、該インピーダンス整合器16に内蔵のLC回路は負荷と電源および伝送路のインピーダンス整合のため調整されるので、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度が確保できなくなる。したがって、該インピーダンス整合器16が配置される場所は該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18より上流側である必要がある。
上記第1及び第2の給電線22a、22bから上記電力供給点23a、23bへの電力供給において、該外部導体同士が固着し短絡された同軸ケーブル21a、21bおよび負荷である一対の電極が同様の平衡伝送路としての電気的特性を有していることから、漏洩電流の発生が抑制される。その結果、異常放電や局部放電などは発生しない。さらに、上記のように、電力供給点23a、23bに印加される電圧の位相差が180度であるので、すなわち、一対の電極に正負の電圧を掛けている状態であるので、電極間以外でのプラズマの発生は皆無となる。したがって、従来技術で問題であった一対の電極周辺のアース構造および配線状況に関係する漏洩電流に起因するプラズマの発生はなく、圧力条件が5.0Torr(666.5Pa)であっても、再現性の良い安定したプラズマの生成が可能である。
上記工程において、SiH4ガスがプラズマ化されると、そのプラズマ中に存在するSiH3、SiH2、SiH等の電気的に中性であるラジカル種が拡散現象により拡散し、基板ホルダー25に設置の基板12表面に吸着される。その結果、a−Si膜が堆積する。なお、微結晶Siあるいは薄膜多結晶Si等は、製膜条件の中のSiH4,H2の流量比、圧力および電力を適正化することで製膜できることは公知の技術である。
上記の手順で製膜する場合の具体的条件を以下に説明する。サイズ1200mmx300mm(厚み4mm)程度のガラス基板12に製膜速度2nm/s、膜厚分布±10%のa−Siを製膜することを実施する。
製膜条件は次の通りである。
(製膜条件)
●放電ガス:SiH4
●流量:1000sccm
●圧力:5Torr(666.5Pa)
●電極間隔:1.5cm
●電源周波数:70MHz
●電力:1500W
●基板の温度:200℃
上記製膜条件でプラズマを生成すると、第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16及び第2の同軸ケーブルを通して伝送された高周波電源14からの電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と同軸ケーブル19a、19bと真空用接続端子20と同軸ケーブル21a、21bから成る平衡伝送線路方式で、第1及び第2の給電線22a、22bを介して、一対の電極2,4の電力供給点23a、23bに供給できるので、電力供給系と付加である一対の電極との接続部での伝送特性が整合され、漏洩電流の発生が抑制される。したがって、生成されるプラズマの密度の空間的分布は、従来に比べて、再現性良く均一になる。その結果、製膜されるa−Siの膜厚分布は従来に比べて、再現性良く均一になる。数値的にはa−Si膜厚分布が±10以内で製膜が可能となる。なお、平衡伝送線路(あるいは平衡伝送回路)とは、2本の導体から成る電力伝送回路において、両線を往路と帰路として流れる電流の振幅が等しく、位相が180度異なるような伝送形態のことであり、従来の技術では、図20図示のような回路で実現されているが、電磁界放射が強いのでプラズマ理工学分野では用いられていない。
なお、本実施例で用いている上記LCブリッジ型平衡不平衡変換装置は、該装置に入力される不平衡伝送方式の電力伝送を平衡伝送方式に変換する働きをする手段であるので、それに代えて、シュペルトップ型平衡不平衡変換装置及び二分の一波長迂回型平衡不平衡変換装置等を用いることができる。また、電力分配器とフェーズシフターを組み合わせた装置を用いることができる。
また、本実施例では、一対の電極2、4にそれぞれ、給電点を1点(一対)としているので、基板サイズは上記1200mmx300mm程度に制約されるが、給電点数を増加すればサイズの幅は拡大可能であることは当然のことである。
また、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造では、膜厚分布として±10%以内であれば性能上問題はない。上記実施例によれば、70MHzの電源周波数を用いても、従来の装置および方法に比べ著しく良好な膜厚分布を得ることが可能である。このことは、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造分野での生産性向上および低コスト化に係わる工業的価値が著しく大きいことを意味している。
(実施例3)
本発明に関する実施例3の平衡伝送回路、該平衡伝送回路により構成のプラズマ表面処理装置(プラズマCVD装置)およびプラズマ表面処理方法(プラズマCVD方法)について、図7及び図8を参照しながら説明する。
先ず、装置の構成について説明する。ただし、図1ないし図6に示した部材と同じ部材は同符番を付して説明を省略する。図7は実施例3に係わるプラズマ表面処理装置の全体を示す概略図、図8は図7図示のプラズマ表面処理装置の真空容器内部の説明図である。
先ず、装置の構成を説明する。装置の構成は、全体的には実施例1及び2(図1ないし図6)の場合と同じであるが、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と同軸ケーブル27a、27bと真空用接続端子28a、28b、同軸ケーブル29a、29b及び短絡用導体30からなる平衡伝送回路の構造が異なることが特徴である。
図7及び図8において、符番27a、27bは同軸ケーブルで、該同軸ケーブルの一方の端部のそれぞれの芯線はLCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の出力端子に接続され、かつ、それぞれの外部導体は密着し、あるいは導体材で短絡されている。そして、該同軸ケーブル27a、27bの他方の端部は真空用接続端子を介して同軸ケーブル29a、29bの一方の端部に接続されている。該同軸ケーブル29a、29bの他方の端部の外部導体は短絡用導体で短絡され、該端部のそれぞれの芯線は第1及び第2の給電線22a、22bを介して、電力給電点23a、23bに接続されている。
次に、上記構成のプラズマ表面処理装置を用いて、a−Si太陽電池用のa−Siを製膜する方法を説明する。図7及び図8において、予め、基板12を基板ホルダー25の上に設置し、真空ポンプ11を稼動させ、真空容器1内の不純物ガス等を除去した後、放電ガス供給管8a、8bからSiH4ガスを、例えば1,000sccm、圧力5.0Torr(666.5Pa)で供給しつつ、一対の電極2、4に高周波電力を、例えば周波数70MHzの電力を、例えば1、500Wを供給する。なお、電極間隔は1.5cm、基板温度は80〜350℃の範囲、例えば200℃に保持する。
即ち、高周波電源14の出力を、例えば80MHzで1、500Wとし、その出力を第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16、第2の同軸ケーブル17、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18、同軸ケーブル27a、27b、真空用接続端子28a、28b、同軸ケーブル29a、29b及び第1及び第2の給電線22a、22bを介して、電力給電点23a、23bに供給する。この場合、上記インピーダンス整合器16及び高周波電源14に付属の進行波及び反射波の電力値モニターを組み合わせて用いることにより、インピーダンス整合器16の上流側には上記供給電力の反射波が戻らないようにできる。また、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度が確保できる。その結果、SiH4ガスのプラズマが生成される。
ただし、該インピーダンス整合器16を該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の下流側、すなわち、それを該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と電力給電点23a、23bの間に配置させる場合、該インピーダンス整合器16に内蔵のLC回路は負荷と電源および伝送路のインピーダンス整合のため調整されるので、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度が確保できなくなる。したがって、該インピーダンス整合器16が配置される場所は該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18より上流側である必要がある。
上記第1及び第2の給電線22a、22bから上記電力供給点23a、23bへの電力供給において、同軸ケーブル27a、27bのLCブリッジ型平衡不平衡変換装置18側の端部の外部導体同士が短絡され、かつ、同軸ケーブル29a、29bの第1及び第2の給電線22a、22b側の端部の外部導体同士が短絡用導体30で短絡されることにより構成される閉ループ回路によって、該同軸ケーブル27a、27b及び該同軸ケーブル29a、29bの外部導体の内部を流れる電流は外部へ流出されないことは、実施例1及び2の場合と同じである。その結果、第1及び第2の給電線22a、22bまわり、及び電力給電点23a、23b近傍での異常放電や局部放電などは発生しない。さらに、上記のように、電力供給点23a、23bに印加される電圧の位相差が180度であるので、すなわち、一対の電極に正負の電圧を掛けている状態であるので、電極間以外でのプラズマの発生は皆無となる。したがって、従来技術で問題であった一対の電極周辺のアース構造および配線状況に関係する漏洩電流に起因するプラズマの発生はなく、圧力条件が5.0Torr(666.5Pa)であっても、再現性の良い安定したプラズマの生成が可能である。
上記工程において、SiH4ガスがプラズマ化されると、そのプラズマ中に存在するSiH3、SiH2、SiH等の電気的に中性であるラジカル種は、拡散現象により拡散し、一対の電極2,4の間から基板ホルダー25に設置の基板12表面に吸着される。その結果、a−Si膜が堆積する。なお、微結晶Siあるいは薄膜多結晶Si等は、製膜条件の中のSiH4,H2の流量比、圧力および電力を適正化することで製膜できることは公知の技術である。
上記の手順で製膜する場合の具体的条件を以下に説明する。サイズ1200mmx300mm(厚み4mm)程度のガラス基板12に製膜速度2nm/s、膜厚分布±10%のa−Siを製膜することを実施する。
製膜条件は次の通りである。
(製膜条件)
●放電ガス:SiH4
●流量:1,000sccm
●圧力:5Torr(666.5Pa)
●電極間隔:1.5cm
●電源周波数:70MHz
●電力:1500W
●基板の温度:200℃
上記製膜条件でプラズマを生成すると、第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16及び第2の同軸ケーブルを通して伝送された高周波電源14からの電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と同軸ケーブル27a、27bと真空用接続端子28a、28bと同軸ケーブル29a、29bと短絡用導体30から成る平衡伝送線路方式で、第1及び第2の給電線22a、22bを介して、一対の電極2,4の電力供給点23a、23bに供給できるので、電力供給系と付加である一対の電極との接続部での伝送特性が整合され、漏洩電流の発生が抑制される。したがって、生成されるプラズマの密度の空間的分布は、従来に比べて、再現性良く均一になる。その結果、製膜されるa−Siの膜厚分布は従来に比べて、再現性良く均一になる。数値的にはa−Si膜厚分布が±10以内で製膜が可能となる。なお、平衡伝送回路とは、2本の導体から成る電力伝送回路において、両線を往路と帰路として流れる電流の振幅が等しく、位相が180度異なるような伝送形態のことである。従来の技術では、図20図示のような回路で実現されているが、電磁界放射が強いのでプラズマ分野では用いられていない。
なお、本実施例で用いている上記LCブリッジ型平衡不平衡変換装置は、該装置に入力される不平衡伝送方式の電力伝送を平衡伝送方式に変換する働きをする手段であるので、それに代えて、シュペルトップ型平衡不平衡変換装置及び二分の一波長迂回型平衡不平衡変換装置等を用いることができる。また、電力分配器とフェーズシフターを組み合わせた装置を用いることができる。
また、本実施例では、一対の電極2、4にそれぞれ、給電点を1点(一対)としているので、基板サイズは上記1200mmx300mm程度に制約されるが、給電点数を増加すればサイズの幅は拡大可能であることは当然のことである。
また、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造では、膜厚分布として±10%以内であれば性能上問題はない。上記実施例によれば、80MHzの電源周波数を用いても、従来の装置および方法に比べ著しく良好な膜厚分布を得ることが可能である。このことは、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造分野での生産性向上および低コスト化に係わる工業的価値が著しく大きいことを意味している。
(実施例4)
本発明に関する実施例4の平衡伝送回路、該平衡伝送回路により構成のプラズマ表面処理装置(プラズマCVD装置)およびプラズマ表面処理方法(プラズマCVD方法)について、図9ないし図14を参照しながら説明する。
図9は実施例4に係わるプラズマ表面処理装置の全体を示す概略図、図10は図9図示のプラズマ表面処理装置の第1の電極に設置の貫通孔を示す説明図、図11は図9図示のプラズマ表面処理装置の電力供給点配線を示す説明図、図12は実施例4に係わる一対の電極間に発生の電圧の定在波を示す説明図、図13は実施例4に係わる一対の電極間に発生の電圧の定在波の腹の位置を示す説明図、図14は実施例4に係わるプラズマ表面処理装置の大面積プラズマ生成への応用例を示す説明図である。
先ず、装置の構成について説明する。ただし、図1ないし図8に示した部材と同じ部材は同符番を付して説明を省略する。実施例4の装置構成の特徴は、図9ないし図11において、一対の電極の一方の電極例えば第1の電極2aに貫通孔を複数個設けることにより該電極2aの面の法線方向より第2の電極4aの面に配置される給電点23b、23dに同軸ケーブル53b、63bを接続していること、かつ、給電点の個数が複数であること、かつ、給電点同士の間隔が使用電力の波長の十分の一以下好ましくは十六分の一以下であること、かつ、電力の分配に電力分配器を用いていることである。
図9ないし図11において、符番2a、4aは第1及び第2の非接地電極で、直径2mm〜10mm程度の多数の開口6が開口率40%〜80%で配置されている。該第1の非接地電極2aには距離L0離れて貫通孔45a、45bが配置され、該貫通孔45a、45bの側面に電力供給点23a及び23cが配置されている。該第2の非接地電極4aには、電力供給点23a、23cの極近傍で、かつ、距離L0離れて、電力供給点23b及び23d配置されている。ただし、電力供給点23aと23bは最近接の位置に、また、電力供給点23cと23dは最近接の位置に配置される。
符番49a、49bは第3及び第4の同軸ケーブルで、長さが同じで、それらの一方の端部の外部導体は短絡されてアースに接続され、それらの芯線は該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の出力端子に接続されている。符番50,60は、それぞれ第1及び第2の電力分配器で、位相変化を与えずに、あるいはある一定の位相変化をあたえて電力を分配するものである。ここではT型分配器を用いる。符番51a、51bは第5及び第6の同軸ケーブルで、長さが同じで、それらの一方の端部は両者ともに、第1の電力分配器50の出力端子に接続され、第5の同軸ケーブル51aの他方の端部は第2の真空用接続端子52bを介して第10の同軸ケーブル53bに接続される。第6の同軸ケーブル51bの他方の端部は第4の真空用接続端子62bを介して第12の同軸ケーブル63bに接続される。第10及び第12のケーブル53b、63bの他方の端部の芯線は、それぞれ、同じ長さの第2及び第4の給電線22b、22dを介して、給電点23b及び23dに接続される。
符番61a、61bは第7及び第8の同軸ケーブルで、長さが第5及び第6の同軸ケーブル51a、51bと同じで、それらの一方の端部は両者ともに、第2の電力分配器60の出力端子に接続され、第7の同軸ケーブル61aの他方の端部は第1の真空用接続端子52aを介して第9の同軸ケーブル53aに接続される。第8の同軸ケーブル61bの他方の端部は第3の真空用接続端子62aを介して第11の同軸ケーブル63aに接続される。第9及び第11の同軸ケーブル53a、63aの他方の端部の芯線は、それぞれ、第1及び第3の給電線22a、22cを介して、給電点23a及び23cに接続される。ただし、第1、第2、第3及び第4の給電線22a、22b、22c、22dの長さは同じである。
上記第9及び第10の同軸ケーブル53a、53bの給電点23a及び23b側の端部の外部導体同士は第1の短絡用導体30aで短絡される。また、第11及び第12の同軸ケーブル63a、63bの給電点23c及び23d側の端部の外部導体同士は第2の短絡用導体30bで短絡される。ただし、第1及び第2の短絡用導体30a、30bの長さは短絡の機能を持たせる為に、使用電力の波長の三十分の一、好まししくは波長の六十分の一以下が良い。なお、これ以上の長さになれば、表皮効果によりインピーダンスが大きくなり、同軸ケーブルの外部導体の内部を流れるべき高周波電流が該外部導体の外側へ流出(漏洩電流)するので、問題が生じる。すなわち、第1及び第2の短絡用導体30a、30bの長さは波長の六十分の一以下に設定することが肝要である。
また、図9ないし図11に示す装置の構成の特徴は、基板12の設置場所が一対の電極2a、4aの間でなく、実施例2及び3と同様に電極間の外であることである。このことは、プラズマ生成時の製膜条件が基板の厚みと材質に影響されずに選べることが可能であるとの意味をもつ。特に、プラズマ生成時の圧力条件が数100Pa〜数1、000Pa(数Torr〜数10Torr)と高い場合でも、基板の影響を受けることなく、一対の電極間隔を10〜15mmと狭く設定できる。これは、従来技術では出来ない画期的なメリットである。
次に、上記構成のプラズマ表面処理装置を用いて、a−Si太陽電池用のa−Siを製膜する方法を説明する。図9ないし図11において、予め、基板12を基板ホルダー25の上に設置し、真空ポンプ11を稼動させ、真空容器1内の不純物ガス等を除去した後、放電ガス供給管8a、8bからSiH4ガスを、例えば1,000sccm、圧力5.0Torr(666.5Pa)で供給しつつ、一対の電極2a、4aに高周波電力を、例えば周波数70MHzの電力を例えば1、000Wを供給する。なお、電極間隔は1.5cm、基板温度は80〜350℃の範囲、例えば200℃に保持する。
即ち、高周波電源14の出力を例えば70MHzで1、000Wとし、その出力は、第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16、第2の同軸ケーブル17、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18、外部導体同士が短絡された第3及び第4の同軸ケーブル49a、49bを介して、それぞれ、第1および第2の電力分配器50,60に伝送される。
第1の電力分配器50に伝送された電力は、2分割されて、第5及び第6の同軸ケーブル51a、51bで、それぞれ、第2の非接地電極4aの電力供給点23b、23dに伝送される。この場合、第5の同軸ケーブル51aからの電力伝送は、第2の真空用接続端子52b、第10の同軸ケーブル53b及び第2の給電線22bを伝播していく。また、第6の同軸ケーブル51bからの電力伝送は、第4の真空用接続端子62b、第12の同軸ケーブル63b及び第4の給電線22dを伝播していく。
第2の電力分配器60に伝送された電力は、2分割されて、第7及び第8の同軸ケーブル61a、61bで、それぞれ、第1の非接地電極2aの電力供給点23a、23cに伝送される。この場合、第7の同軸ケーブル61aからの電力伝送は、第1の真空用接続端子52a、第9の同軸ケーブル53a及び第1の給電線22aを伝播していく。また、第8の同軸ケーブル61bからの電力伝送は、第3の真空用接続端子62a、第11の同軸ケーブル63a及び第3の給電線22cを伝播していく。
上記LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の出力端子の2つの出力は、電圧の位相差が180度異なる電力であり、両者は、上記外部導体同士が短絡された第3及び第4の同軸ケーブル49a、49bを入力部とし、外部導体同士が第1の短絡用導体30aで短絡された第9及び第10の同軸ケーブル53a、53b、及び第2の短絡用導体30bで短絡された第11及び第12の同軸ケーブル63a、63bを出力部とする平衡回路で伝送されているので、電力供給点23a、23b及び電力供給点23c、23dへの電力供給において、それらの同軸ケーブルの外部導体の内部を流れる電流は外部へ流出されないことは、実施例1、2および3の場合と同じである。その結果、第1及び第2の給電線22a、22bまわり及び電力給電点23a、23b、並びに給電線22c、22dまわり及び電力給電点23c、23d近傍での異常放電や局部放電などは発生しない。さらに、上記のように、電力供給点23aと23b、23cと23dに印加される電圧の位相差が180度であるので、すなわち、一対の電極に正負の電圧を掛けている状態であるので、電極間以外でのプラズマの発生は皆無となる。したがって、従来技術で問題であった一対の電極周辺のアース構造および配線状況に関係する漏洩電流に起因するプラズマの発生がない。なお、圧力条件が5.0Torr(666.5Pa)であっても、再現性の良い安定したプラズマの生成が可能である。
ところで、上記電力供給点23aと23b及び23cと23dから供給される電力の電圧波は、互いに電極間を伝播していく。すなわち、両者は互いに異なる方向から伝播しあい、重なり合うので、干渉現象が発生する。その様子を、図12及び図13を用いて説明する。図12において、電極2aの電力供給点23aから電力供給点23c方向の距離をxとし、xの正方向へ伝播する電圧波をW1(x,t)、xの負方向へ伝播する電圧波、即ち電力供給点23cから電力供給点23aの方向へ伝播する電圧波をW2(x,t)とすると、次のように表現される。
W1(x、t)=V0・sin(ωt+2πx/λ)
W2(x、t)=V0・sin{ωt−2π(x−L0)/λ+Δθ}
ただし、V0は電圧波の振幅、ωは電圧の角周波数、λは電圧波の波長、tは時間、L0は電力供給点23a、23cの間隔、Δθは電力供給点23aから供給される電力の電圧波と電力供給点23cから供給される電力の電圧波の位相差である。電圧の合成波W(x、t)は次式のようになる。
W(x、t)=W1(x、t)+W2(x、t)=2・V0cos{2π(x−L0/2)/λ−Δθ/2}・sin{ωt+(πL0/λ+Δθ/2)
上記合成波W(x、t)を概念的に図13に示す。図13において、Δθ=0の場合、生成されるプラズマの強さは電力供給点同士の中央部(x=L0/2)が強く、該中央部から離れるにしたがって弱くなることを示している。プラズマの強い部分は、Δθ>0の場合、プラズマの強い部分が一方の電力給電点側へ移動し、Δθ<0の場合、他方の電力給電点側へ移動することを示している。
図9ないし図11図示の装置の場合は、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置から給電点までの伝播路の長さが等しいので、Δθ=0である。この場合、図13のΔθ=0の場合に相当するので、電力供給点同士の中間点を中心にした安定したプラズマが生成される。プラズマの強さがほぼ一様と見られる範囲は、図13に示しているように、上記給電点23a、23cの間隔が使用電力の波長の十分の一以下好ましくは波長の十六分の一以下程度である。したがって、電源周波数が60MHzの場合(波長=5m)は幅50cm程度、70MHzの場合(波長=4.2m)は幅42cm程度、及び100MHzの場合(波長=3m)は幅30cm程度にわたって、安定したプラズマが得られるということを示している。
図13に示した定在波の概念を示す結果は従来技術では困難視されているVHFプラズマ生成でのプラズマの大面積・均一化が容易に可能であることを意味している。すなわち、一対の電極の電力供給点の間隔を使用する電力の波長の十分の一程度に保ち、かつ、その個数を増加すればそれに比例したサイズの大面積の均一なプラズマが容易に生成できる。例えば、図14に示すように、貫通孔45を等間隔例えば波長λの十分の一で、25個を配置し、それぞれの該貫通孔の近傍に、電力供給点23a、23bを25点設置した場合、電源周波数が60MHzなら、2mx2mの面積(間隔50cmx4=2m)、電源周波数が70MHzなら、1.68mx1.68mの面積(間隔42cmx4=1.68m)及び電源周波数が100MHzなら、1.2mx1.2mの面積(間隔30cmx4=1.2m)にわたって、均一なVHFプラズマが生成できることが推測される。
ただし、該インピーダンス整合器16を該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18の下流側、すなわち、それを該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と電力給電点23a、23bの間に配置させる場合、該インピーダンス整合器16に内蔵のLC回路は負荷と電源および伝送路のインピーダンス整合のため調整されるので、上記電力給電点23a、23bに印加される電圧の位相差は180度が確保できなくなる。したがって、該インピーダンス整合器16が配置される場所は該LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18より上流側である必要がある。
上記工程において、SiH4ガスがプラズマ化されると、そのプラズマ中に存在するSiH3、SiH2、SiH等の電気的に中性であるラジカル種が拡散現象により拡散し、一対の電極2a、4aの間から、基板ホルダー25に設置の基板12表面に吸着される。その結果、a−Si膜が堆積する。なお、微結晶Siあるいは薄膜多結晶Si等は、製膜条件の中のSiH4,H2の流量比、圧力および電力を適正化することで製膜できることは公知の技術である。
上記の手順で製膜する場合の具体的条件を以下に説明する。サイズは80cmx30cm程度のガラス基板12に製膜速度2nm/s、膜厚分布±10%のa−Siを製膜することを実施する。
製膜条件は次の通りである。
(製膜条件)
●放電ガス:SiH4
●流量:500sccm
●圧力:5Torr(666.5Pa)
●電極間隔:1.5cm
●電源周波数:70MHz
●電力供給点の間隔:40cm
●電力:1000W
●基板の温度:200℃
上記製膜条件でプラズマを生成すると、第1の同軸ケーブル15、インピーダンス整合器16及び第2の同軸ケーブルを通して伝送された高周波電源14からの電力を、LCブリッジ型平衡不平衡変換装置18と第3及び第4の同軸ケーブル49a、49bと第1および第2の電力分配器50,60と第5、第6、第7および第8の同軸ケーブルと第1、第2、第3及び第4の真空用接続端子52a、52b、52c、52dと第9、第10、第11及び第12の同軸ケーブル53a、53b、53c、53dと第1及び第2の短絡用導体30a、30bから成る平衡伝送線路方式で、第1及び第2の給電線22a、22bと第3及び第4の給電線22c、22dを介して、一対の電極2a、4aの電力供給点23a、23bおよび23c、23dに供給できるので、電力供給系と負荷である一対の電極との接続部での伝送特性が整合され、漏洩電流の発生が抑制される。したがって、生成されるプラズマの密度の空間的分布は、従来に比べて、再現性良く均一になる。その結果、製膜されるa−Siの膜厚分布は従来に比べて、再現性良く均一になる。数値的にはa−Si膜厚分布が±10以内で製膜が可能となる
なお、本実施例では、一対の電極2a、4aにそれぞれ、給電点を2点(一対)としているので、基板サイズは80cmx30cm程度に制約されるが、図14に示したように、電力供給点を等間隔で多数、設置すれば、すなわちその個数を増加させれば、1〜2m級の大面積基板への対応は容易に可能である。
また、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造では、膜厚分布として±10%以内であれば性能上問題はない。上記実施例によれば、60MHz〜100MHzの電源周波数を用いても、従来の装置および方法に比べ著しく良好な膜厚分布を得ることが可能である。このことは、a−Si太陽電池、薄膜トランジスタおよび感光ドラム等の製造分野での生産性向上および低コスト化に係わる工業的価値が著しく大きいことを意味している。