JP3590642B2 - キシロオリゴ糖及びその還元物の製造方法 - Google Patents

キシロオリゴ糖及びその還元物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
【0002】
本発明は、キシロオリゴ糖及びその還元物の製造方法に関する。
【0003】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
【0004】
キシロオリゴ糖とは2つ以上のキシロースが主にβ−1,4結合した少糖類を云うが、最近の研究の結果、オリゴ糖やその還元物は腸内の有用微生物の活性化や抗腫瘍性等の点から注目されている。
【0005】
また、キシロースは遊離の形では自然界にほとんど存在せず、ヘミセルロースとして、キシロースが長く連なったキシランの形で存在するが、そのキシランは、ほとんど全ての陸上植物中及びある種の海藻類中に存在する。
【0006】
自然界に存在するヘミセルロースに酵素を作用させてキシロオリゴ糖を製造しようとした場合、キシロテトラオース(X−4)やキシロペンタオース(X−5)を生成する酵素は極めて少なく、例えば、特公昭49−20504号公報にはストレプトミセス属の放線菌が紹介されているが、その菌が生産する酵素を用いたキシランとの反応に於ける主生成物はキシロースおよびキシロビオースであり、X−4やX−5の生成量はわずかなので、X−4やX−5を製造する酵素としては適切でないと云う課題があった。
【0007】
また、D.N.Viet等は、アエロモナス・キャビエ・W−61株の酵素を紹介している[Appl. Environ. Microbiol.,57,445−449(1991)]が、この酵素にはキシロース転移酵素活性があり、反応生成物中にキシロビオースを含み、結果的にX−4、X−5等のキシロオリゴ糖割合が減少してしまう、つまり、効率良くキシロオリゴ糖を製造できないと云う課題や、キシロース転移酵素活性のために、生成物の構造や量から、もとのキシランの構造を推定することができないと云う構造解析上の課題があった。
【0008】
更に、A.オオコシ等も、アエロモナス・エスピー・No.212株の酵素を紹介している[Agric. Biol. Chem.,49,3037−3038(1985) ]が、この酵素にもキシロース転移酵素活性があり、前記アエロモナス・キャビエ・W−61由来の酵素と同様の課題があったのである。
【0009】
以上のように、キシロース転移酵素活性を持っていない酵素を用いて、X−4やX−5を主成分とし、キシロースやキシロビオースを含まないキシロオリゴ糖を効率良く製造できる方法は未だ存在せず、その方法の開発が要望されていた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、キシロオリゴ糖を製造する微生物及びその酵素を鋭意研究した結果、草食昆虫の腸管内から見出したアエロモナス・キャビエ・ME−1(以下、ME−1と云うことがある。)株及び/又はエンテロバクター・アグロメランスME−2株(以下、ME−2と云うことがある。)由来のキシラナーゼを採用することにより、キシランから直接キシロビオースを含まないキシロオリゴ糖を製造することに成功し、更に、それを還元することによりキシロオリゴ糖の還元物を得ることに成功して本発明を完成するに到った。
【0012】
即ち、第一の本発明は、ヘミセルロースを基質として、アエロモナス・キャビエ・ME−1株(Aeromonas cavie ME−1)及び/又はエンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2 )由来のキシラナーゼを反応させることを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法である。
【0013】
また、第二の本発明は、ヘミセルロースを基質として、アエロモナス・キャビエ・ME−1株(Aeromonas cavie ME−1)及び/又はエンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2 )由来のキシラナーゼを反応させてキシロオリゴ糖を調製し、これを更に、水素化触媒の存在下で還元することを特徴とするキシロオリゴ糖還元物の製造方法である。
【0014】
なお、アエロモナス・キャビエ・ME−1株(Aeromonas cavie ME−1)は、日本国茨城県にある工業技術院生命工学工業技術研究所に、平成5年(1993年)5月31日付で受託番号FERM P−13664として寄託されている。
【0015】
また、エンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2 )は、日本国茨城県にある工業技術院生命工学工業技術研究所に、平成5年(1993年)5月31日付で受託番号FERM P−13663として寄託されている。
【0016】
以下に本発明の内容を詳細に説明する。
【0017】
本発明を実施するに際して、ME−1及び/又はME−2由来のキシラナーゼを用いるが、これらの菌株は、草食昆虫の一種であるシンジュサン(Samia cynthia pryeri)の幼虫の腸管内やイナゴ(Locusta migratoria) の成虫の腸管内に生息しているので、例えば、シンジユサンの幼虫やイナゴの成虫の腸を採取し、カラスムギ等由来のキシラン0.5%、ポリペプトン0.5%、及び各種栄養塩類を含有する培地で、pHを6.0〜9.0程度とし、30℃前後の温度で好気的に培養することによって得ることができる。
【0018】
このようにして得られた菌、ME−1及びME−2の菌学的性質は表1の通りである。
【0019】
【表1】
Figure 0003590642
【0020】
また、それらの菌株が生産するキシラナーゼを得るには、菌を前記と同様の培地にて、好気的に1時間〜72時間程度培養し、その遠心分離後の上澄液を採取することにより、粗酵素とすることができる。
【0021】
また、この粗酵素は、そのまま本発明に用いるキシラナーゼとして採用することもできるが、必要に応じて、硫安塩析、クロマト分画等の通常の酵素精製操作を適用することにより、高度に精製されたキシラナーゼとして本発明に用いることもできる。
【0022】
このようにして、得られたME−1由来のキシラナーゼは、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量が、20,186と計算され、至適温度が50℃、至適pHが7.0、酵素の安定温度域が30−40℃、安定pH領域が6.5−8.0、最終生成物はキシロース、キシロビオースを含まず、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオース、及びDP≧6のキシロオリゴ糖である。
【0023】
また、ME−2由来のキシラナーゼは、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量が、約30,000程度と計算され、至適温度が約40℃、至適pHが約6.8、酵素の安定温度域が30−40℃、安定pH領域が6.5−8.0、最終生成物はキシロース、キシロビオースを含まず、キシロテトラオース及びDP≧6のキシロオリゴ糖を主成分とするものである。
【0024】
本発明に用いるヘミセルロースは、キシロースの多糖であるキシランを含有するものであれば、その由来、製法、品質を問われないが、木材や各種植物、特に、棉実殻、トウモロコシの芯や茎、イネやカラスムギなどのムギのモミ、ワラ等由来のキシランが有利に採用することができる。
【0025】
本発明を実施してキシロオリゴ糖を製造する際には、例えば、前記粗酵素又は精製酵素を用い、1%程度のキシランを含む水溶液を基質として温度20〜45℃程度、pH6〜9程度の条件で1〜72時間程度反応させることが好ましく、このようにして得られたキシロビオースを全く含まないかまたはほとんど含まないキシロオリゴ糖を更に水素雰囲気下で水素化触媒の存在のもとに還元することによってキシロオリゴ糖還元物を調製することができる。
【0026】
本発明者の研究により確認したところでは、キシラン加水分解活性はME−2由来の酵素よりもME−1由来の酵素のほうが若干高く、ME−2由来の酵素はX−4を選択的に生成する性質を有しているので、本発明を実施するに際し、ME−1由来のキシラナーゼとME−2由来のキシラナーゼとを併用することによって、各々の酵素の性質を相乗的に利用することが可能になり、極めて有利にキシロオリゴ糖及びその還元物を製造することができる。
【0027】
本発明を実施することにより、X−3、X−4、X−5及びDP≧6のキシロオリゴ糖を主成分とし、キシロースやキシロビオースを全く含まないかまたはほとんど含まないキシロオリゴ糖やその還元物をキシランから効率良く製造することができ、また、この酵素を採用してキシランを加水分解することによって生成した各成分の生成比率と量から、もとのキシランの構造を推定することもできる。
【0028】
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0030】
また、%は、特に断らない限り重量%を表すものとする。
【0031】
[酵素調製例−1]
【0032】
本発明者がシンジュサンの幼虫の腸管から分離同定したアエロモナス・キャビエ・ME−1株(Aeromonas cavie ME−1)を、0.1%NaNO 、0.16%Na HPO ・12H O、0.09%KH PO 、0.05%MgSO ・7H O、0.05%KCl、0.5%カラスムギキシラン、0.5%ペプトンから成り、pH9.0に調整した培養液5,000mlに入れ、30℃にて72時間通気培養した後、8,000rpm、20分間遠心分離して、得られた上澄液を粗酵素−1とした。
【0033】
[酵素調製例−2]
【0034】
本発明者がイナゴ(Locusta migratoria)の成虫の腸管から分離同定したエンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2)を、0.1%NaNO 、0.16%Na HPO ・12H O、0.09%KH PO 、0.05%MgSO ・7H O、0.05%KCl、0.5%カラスムギキシラン、0.5%酵母エキスから成り、pH6.8に調整した培養液1,000mlに入れ、30℃にて一夜振盪培養し、それに同じ培養液4,000mlを加えて更に同条件で60時間振盪培養し、8,000rpm、20分間遠心分離して、得られた上澄液を粗酵素−2とした。
【0035】
[酵素精製例−1]
【0036】
酵素調製例−1で得られた粗酵素2,000mlを、硫安塩析(0−95%飽和)し、析出した沈殿を50mlの25mMリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解し、1mM硫安を含む25mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したセファデックスG−75(ファルマシア社製)に吸着させた後、0.2M硫安を含むリン酸緩衝液により毎分11mlの速度でキシラナーゼを溶出させ、各5mlの画分に分けた。
【0037】
次いで、キシラナーゼ活性を有する画分を集め、予め10mMトリス塩酸緩衝液(pH6.2)で平衡化したHPLC((株)島津製作所製、Shim−pack Diol−300)にてキシラナーゼを溶出させ、溶出液を平均ポア径24オングストロームの市販の透析膜(Viskase 社製、ダイアライシスメンブラン)のチューブに入れて10時間透析した後、凍結乾燥して、18mgの精製酵素−1を得た。
【0038】
精製酵素−1は、SDS−PAGEで単一のバンドを形成し、粗酵素に較べて、酵素活性が51倍であった。
【0039】
[酵素精製例−2]
【0040】
酵素調製例−2で得られた粗酵素2,300mlを、硫安塩析(75−100%飽和)し、析出した沈殿を50mlの25mMリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解し、1mM硫安を含む25mMリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したButyl−Toyopearl−650M[東ソー(株)製]に吸着させた後、0.2M硫安を含むリン酸緩衝液により毎分11mlの速度でキシラナーゼを溶出させ、各5mlの画分に分けた。
【0041】
次いで、キシラナーゼ活性を有する画分を集め、予め10mMトリス塩酸緩衝液(pH6.2)で平衡化した13×2cmのCM32(ワットマン社製)カラムにキシラナーゼを吸着させ、NaCl水溶液を毎分28mlの速度で流し、0−1Mの濃度勾配でキシラナーゼを溶出させ、酵素精製例−1と同様に透析、凍結乾燥して、21mgの精製酵素−2を得た。
【0042】
精製酵素−1は、SDS−PAGEで単一のバンドを形成し、粗酵素に較べて、酵素活性が46倍であった。
【0043】
【実施例−1】
【0044】
1%カラスムギキシラン[試薬、生化学工業(株)製]を含む50mMのpH5.0酢酸緩衝液10mlに、酵素調製例−1で得られた粗酵素−1を1ml加え、40℃で30分間反応させた。
【0045】
このときの生成物は、アルミナ薄層クロマトグラフ上にブタノール:酢酸:水=2:1:1で展開し、エタノール:硫酸=1:1を噴霧して140℃に5分間加熱して発色させることにより分析した結果、キシロトリオース(X−3)、キシロテトラオース(X−4)、キシロペンタオース(X−5)(X−3+X−4+X−5の合計を10としたときの生成比は、X−3:X−4:X−5=6:1:3であった)並びにそれ以上の分子量の糖類であり、キシロビオースは検出されなかった。
【0046】
また、ミハエリス・メンテン定数(Km)は9.4mg/ml、生成最大速度(Vmax)は4.330μM生成キシロース相当量/分/mg蛋白質であった。
【0047】
【実施例−2】
【0048】
1%カラスムギキシラン[試薬、生化学工業(株)製]を含む25mMのpH6.8リン酸緩衝液100mlに、酵素調製例−2で得られた粗酵素−2を20ml加え、40℃で48時間反応させた。
【0049】
このときの生成物は、実施例−1と同様に薄層クロマトグラフにより分析した結果、X−4を主成分とし、その他はX−3、X−5並びにそれ以上の分子量の糖類であり、キシロース及びキシロビオースは検出されなかった。
【0050】
【実施例−3】
【0051】
1%カラスムギキシラン[試薬、生化学工業(株)製]を含む50mMのpH5.0酢酸緩衝液100mlに、酵素精製例−1で得られた精製酵素−1の希釈液(濃度1%)を2ml加え、40℃で48時間反応させた。
【0052】
このときの生成物は、実施例−1と同様に薄層クロマトグラフにより分析した結果、X−3、X−4、X−5並びにそれ以上の分子量の糖類であり、キシロビオースは検出されなかった。
【0053】
生成物X−3、X−4、X−5の合計を10としたときの生成比はX−3:X−4:X−5=5:2:3であった。
【0054】
【実施例−4】
【0055】
1%カラスムギキシラン[試薬、生化学工業(株)製]を含む25mMのpH6.8リン酸緩衝液100mlに、酵素精製例−2で得られた精製酵素−2の希釈液(濃度2%)を2ml加え、40℃で48時間反応させた。
【0056】
このときの生成物は、実施例−1と同様に薄層クロマトグラフにより分析した結果、X−4、及びそれ以上の分子量の糖類であり、キシロース及びキシロビオースは検出されなかった。
【0057】
【実施例−5】
【0058】
実施例−3の方法を繰り返して得られた酵素反応生成物をイオン交換樹脂にて脱イオンした後、固形分濃度30%に調整した水溶液250mlを電磁攪拌式ステンレス製オートクレーブに入れ、市販のラネーニッケル触媒4gを加えて水素圧120kg/cm 加圧下、120℃で2時間還元し、キシロビイトールを含まず、DP=3〜5の糖アルコールを主成分とするキシロオリゴ糖還元物を得た。
【0059】
【発明の効果】
【0060】
本発明を実施することにより、X−3、X−4、X−5及びDP≧6のキシロオリゴ糖を主成分とし、キシロースやキシロビオースを全く含まないかまたはほとんど含まないキシロオリゴ糖やその還元物をキシランから効率良く製造することができ、また、この酵素を採用してキシランを加水分解することによって生成した各成分の生成比率と量から、もとのキシランの構造を推定することもできる。

Claims (2)

  1. ヘミセルロースを基質として、寄託番号FERM P−13663のエンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2)由来の、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量が約30,000程度と計算され、至適温度が約40℃、至適pHが約6.8、酵素の安定温度域が30−40℃、安定pH領域が6.5−8.0であるキシラナーゼを反応させることを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法。
  2. ヘミセルロースを基質として、寄託番号FERM P−13663のエンテロバクター・アグロメランス・ME−2株(Enterobacter agglomerans ME−2)由来の、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量が約30,000程度と計算され、至適温度が約40℃、至適pHが約6.8、酵素の安定温度域が30−40℃、安定pH領域が6.5−8.0であるキシラナーゼを反応させてキシロオリゴ糖を調製し、これを更に、水素化触媒の存在下で還元することを特徴とするキシロオリゴ糖還元物の製造方法。
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