JP3588924B2 - ビスカスヒータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータに関する。
【0002】
【従来の技術】
車載用の補助熱源として、車両のエンジンの駆動力を利用するビスカスヒータが注目されている。例えば、特開平2−246823号公報は、車両用暖房装置に組み込まれるビスカスヒータを開示する。
【0003】
このビスカスヒータでは、前部及び後部ハウジングが対設された状態で相互に連結され、その内部には発熱室と、この発熱室の外域にウォータジャケット(放熱室)とが形成されている。前部ハウジングには軸受装置を介して駆動軸が回動可能に支承されており、この駆動軸の一端には発熱室内で一体回動可能にロータが固定されている。ロータの前後外壁部及びそれらと対向する発熱室の内壁部は、相符合するラビリンス溝を構成すべく凹凸条形成されており、両者の近接配置によって当該内外壁部間にラビリンス状のクリアランスを確保している。そして、前記発熱室内に所要量の粘性流体(例えばシリコーンオイル)を封入し、これを前記ラビリンス状のクリアランスにもいきわたらせている。
【0004】
エンジンの駆動力が駆動軸に伝達されると、駆動軸と共にロータが発熱室内で回転し、発熱室内壁部とロータ外壁部との間に介在される粘性流体が前記ロータで剪断されて流体摩擦に基づく熱を発生する。発熱室で発生した熱は、前記ウォータジャケット内を流れる循環水に熱交換され、その加熱循環水は外部暖房回路に供給されて車両の暖房に供される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来型のビスカスヒータでは、ロータの前後外壁部に、ラビリンス溝構成用の凹凸を形成する必要から、そのロータ本体は、その軸心からの半径よりも軸長の短い円板類似の形状となる。かかるロータでは、主たる剪断作用面はロータの前後外壁部の凹凸条部表面となり、また、ロータ本体の軸心から離れた位置にある凹凸条部ほど周回速度(即ち剪断速度)が大きくなる。このため、ヒータの発熱量を多くするためには、ロータ径を大きく、つまりヒータ本体の外径を大きくする必要が生ずる。しかし、このように径方向に大きなディメンションを持つビスカスヒータでは、車両内、特にエンジンルーム内での搭載スペースの確保が一般に難しく、他の車両用補機類との関係でレイアウト設計上の障害となることがある。
【0006】
本発明の目的は、ヒータとしての発熱量を低下させずに車両その他の製品への搭載を容易とする形状のビスカスヒータを提供すると共に、更には、ロータやヒータ本体の基本的な形状(又はディメンション)の変更に伴って生じ得る問題を解決して優れた発熱性能を発揮することができるビスカスヒータを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるためのガイド溝を前記ロータの外周部に設けたことををその要旨とする。
【0008】
このビスカスヒータによれば、ロータの周速が最も大きい当該ロータの外周面が主たる剪断作用面となっており、その外周面を囲むように放熱室が形成されて熱交換効率が高められている。また、ガイド溝によって、ロータと区画部材との間に介在する粘性流体が発熱室内において特定方向に移動される。従って、ガイド溝による粘性流体の移動方向の設定の仕方如何によって、発熱性能を維持しあるいは高め得る位置に粘性流体が集まるように、発熱室内での粘性流体の流動を制御することができる。
【0009】
また、かかるガイド溝は、ロータの回転に伴い、当該ガイド溝に沿った粘性流体の強制流動を生じさせる。それ故、ガイド溝の設定の仕方如何により、ロータの外周部に沿って粘性流体をロータの一端側に偏らせたり、ロータの両端側から中央付近に引き寄せたりすることが可能となる。また、当該ガイド溝は、後記実施形態中で詳述する気体確保効果や粘性流体拘束効果を発揮する。
【0010】
請求項2の発明は、前記ガイド溝がロータの外周部においてその一端から他端に延びる斜め溝であることを特徴とする。
かかる斜めガイド溝の作用により、ロータの外周部に沿って粘性流体がロータの一端側に強制的に偏らされる。その結果、ロータ外周域における粘性流体の緻密性が保たれて、ロータによる粘性流体の剪断効率が高められる。また、粘性流体をロータの一端側に集める結果、ロータの反対側端部には空き空間が確保される。この空き空間は、発熱時における粘性流体の膨張を許容し、発熱室内圧の過度な高まりを回避する緩衝空間として機能する。
【0011】
請求項3の発明は、前記ガイド溝がロータの外周部に魚骨状に刻設されていることを特徴とする。
魚骨状のガイド溝は、ロータの回転に伴って、ロータの両端域にある粘性流体を中央付近に引き寄せる。このため、ロータによる主たる剪断作用域たるロータ外周域に粘性流体の多くが存在することとなり、発熱効率が高められる。
【0012】
請求項4の発明は、ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるためのガイド溝を前記ロータの端面に設けたことを特徴とする。
このビスカスヒータによれば、ロータの周速が最も大きい当該ロータの外周面が主たる剪断作用面となっており、その外周面を囲むように放熱室が形成されて熱交換効率が高められている。また、ガイド溝によって、ロータと区画部材との間に介在する粘性流体が発熱室内において特定方向に移動される。従って、ガイド溝による粘性流体の移動方向の設定の仕方如何によって、発熱性能を維持しあるいは高め得る位置に粘性流体が集まるように、発熱室内での粘性流体の流動を制御することができる。
また、かかる端面上のガイド溝は、ロータの端面域から粘性流体を排除すると共に、結果的として粘性流体をロータの外周域に積極的に送り込むように作用する。特に、ロータの端面中央から駆動軸が突出するようなロータ構成にあっては、ロータの回転によるワイセンベルク効果によって粘性流体が中央の駆動軸回りに集まる傾向をみせ、この流体移動の影響で、ロータ外周面と区画部材との間に介在すべき粘性流体の量が減少する結果となる。これに対し、ロータ端面のガイド溝は、かかるワイセンベルク効果による好ましくない流体移動を打ち消して、積極的に粘性流体をロータの外周域に送り込むため、発熱性能の維持が図られる。
【0013】
請求項5の発明は、ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータの端面域と外周域とを連通させる連通路を設け、当該連通路は、前記ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させることを特徴とする。
このビスカスヒータによれば、ロータの周速が最も大きい当該ロータの外周面が主たる剪断作用面となっており、その外周面を囲むように放熱室が形成されて熱交換効率が高められている。また、連通路によって、ロータと区画部材との間に介在する粘性流体が発熱室内において特定方向に移動される。従って、連通路による粘性流体の移動方向の設定の仕方如何によって、発熱性能を維持しあるいは高め得る位置に粘性流体が集まるように、発熱室内での粘性流体の流動を制御することができる。
また、かかる連通路は、前述のようなワイセンベルク効果等によってロータ端面域に集まる粘性流体をロータの外周域に導く。従って、ロータ外周域において粘性流体が不足するという事態が回避され、発熱性能の維持が図られる。また、当該連通路を経由して、ロータと区画部材との間に介在する粘性流体が発熱室内を循環することが可能となる。その結果、粘性流体の滞留が回避され、発熱室内に収納された粘性流体の全てが均等にロータによる剪断作用を受ける。このため、粘性流体の一部のみが先行して劣化することがなく、所期の発熱性能を長期にわたり維持することができる。
【0014】
尚、請求項6に記載のように、前記連通路はロータの内部に設けられることが好ましい。
請求項7の発明では、ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるための移送手段を前記ロータ及び前記区画部材の少なくとも一方に設け、前記ロータは前記ハウジングに回動可能に支承された駆動軸に取り付けられており、当該ロータは前記駆動軸の軸心からの半径よりも軸長の長い円筒状外周面を有していることを特徴とする。
【0015】
このビスカスヒータによれば、ロータの周速が最も大きい当該ロータの外周面が主たる剪断作用面となっており、その外周面を囲むように放熱室が形成されて熱交換効率が高められている。また、移送手段によって、ロータと区画部材との間に介在する粘性流体が発熱室内において特定方向に移動される。従って、移送手段による粘性流体の移動方向の設定の仕方如何によって、発熱性能を維持しあるいは高め得る位置に粘性流体が集まるように、発熱室内での粘性流体の流動を制御することができる。
また、ロータ軸長に対するロータ半径の短縮化、即ちヒータ本体の短径化が図られる。尚、回転時のロータの表面で最大周速を示すのはロータ外周面であるが、当該ロータ外周面の周速度は、ロータの角速度が一定のとき、ロータ半径の短縮に応じて低下傾向を示す。しかし、ロータの相対的な長軸化はロータ外周面積の増大をもたらす。このため、ロータ外周面が主たる剪断作用面として、ロータ半径の短縮による周速度低下の不利を補ってあまりある発熱量を確保する。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7のビスカスヒータにおいて、前記放熱室がその内部に螺旋状に設定された循環流体の循環経路を備えてなることを特徴とする。
循環経路を螺旋状に設定することで循環流体の流れを整え、循環流体の短絡や滞留を防止して熱交換効率を高めることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を車両の暖房装置に組み込まれるビスカスヒータに具体化した実施形態1〜4を図面を参照しつつ説明する。
(実施形態1)
図1に示すように、本実施形態のビスカスヒータはハウジングとして、中部ハウジング1、前部ハウジング5及び後部ハウジング6を備えている。円筒状の中部ハウジング1内には、螺旋状に延びる一条のリブ2aが突設された略円筒状のシリンダブロック2が圧入されている。これら中部ハウジング1及びシリンダブロック2の前部及び後部には、ガスケット3,4を介して前部ハウジング5及び後部ハウジング6が接合され、結果として前記シリンダブロック2内には発熱室7が区画される。それ故に、シリンダブロック2並びに前部ハウジング5及び後部ハウジング6は、ハウジング内に発熱室7を区画する区画部材として位置付けられる。また、シリンダブロック2はハウジングの一部を構成する。
【0018】
中部ハウジング1内へのシリンダブロック2の圧入により、シリンダブロック2の外周面の螺旋状リブ2aは中部ハウジング1の内周面に密接する。こうして、シリンダブロック2の外周面と中部ハウジング1の内周面との間には、放熱室としてのウォータジャケット8が構成される。中部ハウジング1の外周部前端側には車両の暖房回路(図示略)から循環流体としての循環水をウォータジャケット8に取り入れる入水ポート9Aが設けられ、一方、中部ハウジング1の外周部後端側には当該ウォータジャケット8から前記暖房回路へ循環水を送り出す出水ポート9Bが設けられている。このウォータジャケット8において、リブ2aは入水ポート9Aから出水ポート9Bにいたる循環流体の螺旋状循環経路を設定するための循環流体ガイド手段として機能する。
【0019】
前部ハウジング5及び後部ハウジング6には、軸受装置10,11を介して駆動軸12が回動可能に支承されている。前部ハウジング5内には発熱室7に隣接して軸封装置としてのオイルシール13が設けられ、また、後部ハウジング6内には発熱室7に隣接して軸封装置としてのオイルシール14が設けられている。これにより、発熱室7内に駆動軸12の中央主要部を収納しつつ、発熱室7を気密な内部空間としている。この発熱室7内において駆動軸12にはロータ15が固定されている。ロータ15はアルミニウム合金製の中空なドラム状に形成されており、その軸心(駆動軸12の軸心と一致)からの半径Rよりも軸長Lの長い円筒状の外周面を有している。
【0020】
気密な内部空間としての発熱室7内には、粘性流体としてのシリコーンオイルが所要量満たされている。このシリコーンオイルの充填量Vf は、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間のクリアランス、並びに、ロータ15の前後両端面と前部及び後部ハウジング5,6との間の各クリアランスの合計クリアランス容積Vc に対してシリコーンオイルの常温時充填率が50%〜70%の範囲となるように決められている。これは、発熱時のオイル膨張を考慮したものである。尚、駆動軸12及びロータ15の一体回転に伴い、発熱室7の内壁面とロータ15の外表面との隙間には、表面張力に基づいてシリコーンオイルが満遍なく介在されるので、オイルの充填率が70%以下であること自体は、オイルの剪断発熱作用を殊更阻害するものではない。
【0021】
前部ハウジング5に設けられた軸受装置16により、プーリ18が回動可能に支承されている。このプーリ18は、ボルト17によって駆動軸12の前端部(外端部)に固着されている。当該プーリ18はその外周部にかけられる動力伝達ベルト(図示略)を介して、外部駆動源としての車両のエンジンと駆動連結される。従って、プーリ18を介してエンジンの駆動力により駆動軸12が回転され、ロータ15が一体回転される。これに伴い、シリコーンオイルが、主として発熱室7の内壁面とロータ15の外面との間隙で剪断されて発熱する。この熱は、シリンダブロック2を介してウォータジャケット8内の循環水に熱交換され、当該加熱循環水が暖房回路を介して車室内の暖房等に供される。
【0022】
ここで、粘性流体の粘性係数をμ、ロータ15の外周面と発熱室7の内周面との間隙をδ1 、ロータ15の各端面と発熱室7の内端面との間隙をδ2 、角速度をωとすれば、ロータ15の各端面における発熱量Q1 は、
Q1 =πμω2 R4 /δ2
となり、ロータ15の外周面における発熱量Q2 は、
Q2 =2πμω2 R3 L/δ1
となる。このビスカスヒータでは、ロータ15の外周面を主たる剪断作用面としていることから、δ1 <δ2 と設定され、更に半径R<軸長Lであるため、Q1 <Q2 となり、結果としてロータ15の外周面において大きな発熱量Q2 を確保している。
【0023】
尚、リブ2aは、発熱室7からシリンダブロック2に伝えられた熱を更に中部ハウジング1側へも伝導伝熱する熱伝導手段として機能する。この結果、ウォータジャケット8を流れる循環水は、ジャケット8の内側区画部材としてのシリンダブロック2及びジャケット8の外側区画部材としての中部ハウジング1の双方から熱を受け取ることができる。
【0024】
更に、本実施形態では、ドラム状ロータ15の外周部には、当該ロータの一方の端面から他方の端面にいたるまで当該外周面を斜めに横切るように延びる複数条の斜めガイド溝20が形成されている。各斜めガイド溝20は、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間のクリアランスに介在するシリコーンオイルを発熱室7内において強制移動させる移送手段として機能する。
【0025】
即ち、駆動軸12と共にロータ15が図中矢印A1方向へ回転すると、斜めガイド溝20の作用により、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間の周面クリアランスに介在するシリコーンオイルが後部ハウジング6の方へ押しやられる。その結果、ロータ後端面15bと後部ハウジング6との間の後端面側クリアランスの全体にシリコーンオイルが満たされ、その後は、ロータ後端面15b側からロータ前端面15aの方へ順次蓄積する要領でロータ外周面とシリンダブロック内周面との間の周面クリアランスにシリコーンオイルが緻密に満たされる。この際、斜めガイド溝20によるオイルの強制移送に応じて、ロータ前端面15aと前部ハウジング5との間の前端面側クリアランスから前記周面クリアランスへ向かう流体吸引作用が生ずる。この流体吸引作用は、ロータ前端面15aにおいて、粘性流体に特有なワイセンベルク効果よりも優位に働く。更に言うならば、ロータ前端面15aと前部ハウジング5との間に介在するシリコーンオイルは、その粘弾性のために、駆動軸12及びロータ15の回転に伴って回転中心軸たる駆動軸12の回りに集まる傾向(いわゆるワイセンベルク効果)を示すが、前記流体吸引作用は前記ワイセンベルク効果を凌駕するものであり、前端面側クリアランス内に留まらんとするシリコーンオイルを周面クリアランスに吸い出すが如く作用する。
【0026】
従って、ロータ15が回転する限り、発熱室7内全体としては、ロータ15の後端寄りにシリコーンオイルが偏る一方で、ロータ15の前端寄りのクリアランスはオイル不存在の空き空間となる。この空き空間は、発熱時におけるオイルの体積膨張を許容して発熱室7の内圧の高まりを未然に防止する緩衝空間としての役割を果たす。
【0027】
以下に、本実施形態の作用及び効果を説明する。
(イ)仮にロータ15の外周部に前述のような斜めガイド溝20を形成しない場合には、ロータ15の回転時には前記ワイセンベルク効果によって前及び後端面15a,15bより突出する駆動軸12の回りにシリコーンオイルが引き寄せられ、それに伴い、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間の周面クリアランスからシリコーンオイルが排除されて当該周面クリアランスの相当な範囲が空き空間となる可能性がある。これに対し、本実施形態では、斜めガイド溝20を設けることでロータ15が回転する限り、ロータ15の前端及び後端の一方から他方へのオイルの強制移送を可能としたため、少なくとも、周面クリアランスの大部分がオイル不存在の空き空間となることがない。従って、本実施形態によれば、前述のようなワイセンベルク効果に由来する好ましからざる流体移動の傾向にもかかわらず、シリコーンオイルの相当量が、主たる剪断作用面たるロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間に持続的に介在することができ、剪断による発熱能力を維持・向上させることができる。
【0028】
(ロ)ロータ15を回転させて前記斜めガイド溝20に粘性流体の強制移送作用を発揮させることで、発熱室7内におけるロータ15の前端寄りクリアランス(又は後端寄りクリアランス)を、オイル不存在の空き空間とすることができる。この空き空間は、発熱時におけるオイルの体積膨張を許容して発熱室7の内圧の高まりを未然に防止する緩衝空間として機能する。
【0029】
(ハ)移送手段としてガイド溝20を採用したことで、発熱室7内にシリコーンオイルと共に介在される気体(空気等)を該ガイド溝20内に確保(捕縛)することができ、ロータ15の外周面のうちガイド溝20を除いた領域とシリンダブロック2の内周面とのクリアランス(主たる剪断作用領域)にシリコーンオイルを効率よく充填できる。この気体確保効果により、発熱能力の維持・向上を容易に図ることができる。
【0030】
(ニ)上記(ハ)の如く、移送手段としてガイド溝20を採用したことで、シリコーンオイルの分子鎖を拘束する作用を相対移動するロータ15の外周面及びシリンダブロック2の内周面間で向上させることができる。この粘性流体拘束効果により、発熱能力の維持・向上を容易に図ることができる。
(実施形態2)
図2に示すように、ロータ15の外周部に、移送手段としての複数の魚骨状のガイド溝21を形成し、この図2のロータ15を図1のロータ15に代えて前記発熱室7内に組み込んでもよい。図2のロータ15において、各ガイド溝21は、傾斜方向の異なる二つの斜めガイド溝21a,21bから構成される。即ち、図中矢印A2方向へ駆動軸12及びロータ15が回転されると、ロータ外面と発熱室7の内壁面との間に介在されるシリコーンオイルは、前側斜めガイド溝21aにより当該溝21aに沿ってロータ前端からロータの外周部中央に向けて移送され、また、後側斜めガイド溝21bにより当該溝21bに沿ってロータ後端からロータの外周部中央付近に向けて移送される。
【0031】
このように、複数の魚骨状のガイド溝21の作用により、ロータ前端面15a側のクリアランス及びロータ後端面15b側のクリアランスに介在するシリコーンオイルが少なくともロータ15の外周部に招き寄せられる。従って、前記実施形態1と同様又はそれ以上に、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間のクリアランスを十分なシリコーンオイルで満たすことができ、それ故に、ロータ15によるシリコーンオイルの持続的な剪断を実現して、ヒータとしての発熱能力を維持・向上させることができる。また、魚骨状のガイド溝21も前記実施形態1と同様、前記(ハ)及び(ニ)の作用・効果を奏する。
(実施形態3)
図3に示すように、ロータ15の前端面15a及び後端面15bの少なくとも一方に、移送手段としての複数のガイド溝22(図3では4条)を形成し、この図3のロータ15を図1のロータ15に代えて前記発熱室7内に組み込んでもよい。図3のロータ15において、各ガイド溝22は、ロータ15の軸心(駆動軸12の軸心)を通らない直線に沿った溝として形成されている。図中矢印A3方向へ駆動軸12及びロータ15が回転されると、ロータ後端面15bと後部ハウジング6との間に介在されるシリコーンオイルは、これらガイド溝22により当該溝22に沿って略遠心方向(即ち駆動軸12周辺からロータ後端面15bの周縁に向かう方向)に移送される。
【0032】
このように、各端面15a,15bに形成されたガイド溝22の作用により、前端面及び後端面側クリアランス内のシリコーンオイルを、駆動軸12回りに集まらんとするワイセンベルク効果に打ち勝って前記周面クリアランスに向けて強制移送することができる。従って、前記実施形態1又は2と同様、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間のクリアランスを十分なシリコーンオイルで満たすことができ、それ故に、ロータ15によるシリコーンオイルの持続的な剪断を実現して、ヒータとしての発熱能力を維持・向上させることができる。
【0033】
尚、実施形態2(図2)及び実施形態3(図3)の構成を同一ロータ15上に実現してもよい。この場合には、両端面15a,15bのガイド溝22と外周部の魚骨状のガイド溝21の相乗作用によって、発熱室7内のシリコーンオイルのロータ外周部への強制移送作用が飛躍的に高められる。
(実施形態4)
図4(A)及び(B)に示すようなドラム状ロータ15を、図1のロータに代えて前記発熱室7内に組み込んでもよい。即ち、図4のロータ15では、その中央部外周面に等角度間隔にて配置された四つの外周面開口41が設けられると共に、ロータの前端面15a及び後端面15bの各々には、駆動軸12を挟みつつ近接配置された二つの端面開口42が設けられている。更に、ロータ15内には、四つの外周面開口41をそれぞれに端面開口42の各々と連通させる四つの連通路43が形成されている。この場合、各連通路43は、ロータ15の回転に伴うワイセンベルク効果に基づき駆動軸12の周囲に集まってくるシリコーンオイルを、ドラム状ロータ15の中央部外周域に導く移送手段として機能する。
【0034】
従って、前記実施形態1,2及び3と同様、連通路43を介して、ロータ15の外周面とシリンダブロック2の内周面との間のクリアランスを十分なシリコーンオイルで満たすことができ、ロータ15によるシリコーンオイルの持続的な剪断を実現して、ヒータとしての発熱能力を維持・向上させることができる。
【0035】
また、この構成によれば、ワイセンベルク効果の影響によってロータ外周域の周面クリアランスから各端面のクリアランスの方に引き寄せられたシリコーンオイルが、更に駆動軸12の近傍から前記連通路43を通って再度周面クリアランスに戻されるというシリコーンオイルの循環が生じる。このため、発熱室7内の全てのシリコーンオイルが均等にロータ15による剪断作用を受けることができる。従って、一部に滞留したシリコーンオイルのみが集中的に剪断作用を受けて当該一部のオイルのみの劣化が進行するという不都合な事態が生じ難くなる。
【0036】
また、各連通路43を、駆動軸12の近傍のロータ15の端面領域からロータ15の中央部外周面付近へと傾斜して連通させているので、上記ワイセンベルク効果に基づく粘性流体の移動に加えて遠心力をも粘性流体に作用させることができ、これらの相乗的作用により粘性流体の円滑な移動が実現される。
【0037】
尚、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような態様にて実施することも可能である。
(a)図1、図2及び図3では、ロータ15の外周部や前及び後端面15a,15bにガイド溝20,21,22を形成したが、ロータ15の表面に溝を設ける代わりに、これらのロータ外周面や前後端面15a,15bと対向する発熱室7の内壁面側にこれらのガイド溝20,21,22に相当する溝を形成してもよい。この場合でも、前記実施形態1,2及び3と同様の作用及び効果を得ることができる。これは、ロータ15の表面と発熱室7の内壁面との間に存するクリアランスが非常に狭いために、当該クリアランスの大きさが、粘性流体(シリコーンオイル)の境界層領域内に収まってしまい、ロータの回転によって相対速度差を生じる発熱室内壁面とロータ表面とが流体力学的には等価な存在となることに由来する。
【0038】
(b)前記実施形態4(図4)では、連通路43をロータ15内に設けたが、同様の目的の連通路をハウジング側に設けてもよい。
(c)図3に示すようなガイド溝22の着想を、円板の前後面を主たる剪断作用面とする円板型ロータに適用してもよい。この場合、ガイド溝22は、周速度が相対的に小さい駆動軸12近傍から周速度が相対的に大きい円板の周縁域へ粘性流体を送り出すよう機能するため、周速度の大きな領域に粘性流体が集められることになり、剪断発熱の効率が高められる。
【0039】
(d)前記実施形態では、シリンダブロック2の外周面に螺旋状のリブ2aを突設したが、このようなリブ2aに代えて、シリンダブロック2の外周部のほぼ全体に、先端が中部ハウジング1の内周面に接しない多数の放熱フィンを形成してもよい。
【0040】
(e)図1のビスカスヒータにおいて、プーリ18と駆動軸12との間に電磁クラッチ機構を採用し、エンジンの駆動力を必要に応じて駆動軸12に選択的に伝達可能としてもよい。
【0041】
(f)移送手段は溝に代えて凸条を形成することで構成してもよく、この場合も同様の効果を奏する。
尚、本明細書で言う「粘性流体」とは、ロータの剪断作用を受けて流体摩擦に基づく熱を発生するあらゆる媒体を意味するものであり、高粘度の液体や半流動体に限定されず、ましてやシリコーンオイルに限定されるものではない。
【0042】
【発明の効果】
以上詳述したように、各請求項に記載のビスカスヒータによれば、ロータ及び発熱室の区画部材の少なくとも一方に、発熱室内において粘性流体を移動させる移送手段を設けたので、ロータあるいはヒータハウジングの形状を如何様に設計しようとも、発熱性能を維持しあるいは高め得る位置に粘性流体が集まるように粘性流体の流動を制御することができる。従って、ビスカスヒータの形状を、ヒータとしての発熱量を低下させずに車両その他の製品への搭載を容易とする形状に設計することができるのみならず、ロータやヒータハウジングの基本的な形状の変更に伴って生じ得る種々の問題を解決して、優れた発熱性能を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に従うビスカスヒータの縦断面図。
【図2】本発明の実施形態2に従うビスカスヒータ用ロータの正面図。
【図3】本発明の実施形態3に従うビスカスヒータ用ロータの斜視図。
【図4】本発明の実施形態4に従うビスカスヒータ用ロータを示し、(A)は当該ロータの正面図、(B)は当該ロータの側面図。
【符号の説明】
1…中部ハウジング、2…ハウジング兼区画部材としてのシリンダブロック、2a…粘性流体の循環経路を設定するリブ、5…前部ハウジング、6…後部ハウジング(5,6は区画部材でもある)、7…発熱室、8…放熱室としてのウォータジャケット、12…駆動軸、15…ロータ、20…移送手段としての斜めガイド溝、21…移送手段としてのガイド溝、21a,21b…移送手段としての斜めガイド溝、22…移送手段としてのガイド溝、43…移送手段としての連通路、R…半径、L…軸長。
Claims (8)
- ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、
前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるためのガイド溝を前記ロータの外周部に設けたビスカスヒータ。 - 前記ガイド溝は、ロータの外周部においてその一端から他端に延びる斜め溝である請求項1に記載のビスカスヒータ。
- 前記ガイド溝は、ロータの外周部に魚骨状に刻設されている請求項1に記載のビスカスヒータ。
- ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、
前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるためのガイド溝を前記ロータの端面に設けたビスカスヒータ。 - ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、
前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータの端面域と外周域とを連通させる連通路を設け、当該連通路は、前記ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるビスカスヒータ。 - 前記連通路は、ロータの内部に設けられている請求項5に記載のビスカスヒータ。
- ハウジング内に発熱室及び放熱室を区画し、前記発熱室内に収納された粘性流体をロータで剪断することにより発生した熱を前記放熱室内の循環流体に熱交換するビスカスヒータにおいて、
前記ロータの外周面を囲むように前記放熱室を設けると共に、当該ロータと、前記発熱室を区画する区画部材との間に介在する粘性流体を前記発熱室内において特定方向に移動させるための移送手段を前記ロータ及び前記区画部材の少なくとも一方に設け、前記ロータは前記ハウジングに回動可能に支承された駆動軸に取り付けられており、当該ロータは前記駆動軸の軸心からの半径よりも軸長の長い円筒状外周面を有しているビスカスヒータ。 - 前記放熱室は、その内部に螺旋状に設定された循環流体の循環経路を備えてなる請求項7に記載のビスカスヒータ。
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