JP3586784B2 - 含窒素セラミック複合材料及びその製造方法 - Google Patents

含窒素セラミック複合材料及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化アルミニウム、窒化珪素又はサイアロンをそれぞれマトリックスとし、この結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に六方晶窒化硼素が所定の体積割合で均一に分散した含窒素セラミック複合材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
窒化アルミニウムは、高熱伝導特性が要求されるセラミック基板などの基板材料として、従来のベリウムやアルミナなどに代って用いられている。しかし、セラミックスの高温での強度及び破壊靭性は、主に粒界相に依存しており、構造材料分野への応用は、現在の窒化アルミニウムの破壊靭性、破壊強度、信頼性のレベルでは、未だ十分でなく、更なる高靭化、高強度化、高信頼化などの特性向上が必要である。
窒化アルミニウムは、常圧(無加圧下)で焼結させる時、Yが焼結助剤として用いられる。窒化アルミニウム粉末は、その表面が酸化しているために、Yを添加した系では、実質的にAlN−Al−Y系となる。この系の高温強度は、600〜800℃では常温に比べ表面近傍に存在するアルミナ粒子の生成により冷却時に残留圧縮応力が発生し、強度は酸化により少し向上するが、1000℃を超えると粒界の剥離、脱落が顕著となり強度は低下する。また焼結助剤としてY化合物とCa化合物を同時に混合添加するより、それぞれ単独で添加するより低温で焼結できることは既知である。更に、B(硼素)元素(B化合物として)を添加して、粒界相の融点降下により、低温焼結性を向上させる研究が試みられている。
【0003】
一方、窒化珪素又はサイアロンは、耐熱性、耐食性や機械的特性に優れることから、構造材料として、幅広い分野で利用されている。しかし、自動車用部材などの構造材料分野への応用は、現在の窒化珪素の破壊靭性、破壊強度、信頼性のレベルでは、未だ十分でなく、更なる高靭化、高強度化、高信頼化などの特性向上が必要である。その解決法として、セラミックスの複合化が多くの分野で試みられている。この複合化は、マトリックス中にさまざまな第二相を分散させ、微細組織を不均質化することによって、特性向上を試みるもので、その主たる目的は高靭化である。しかし、このような複合化では、相補的な効果の付与が主流であり、線形的に予測できる範囲の複合化しか期待されない。従って、特性向上のためには、今までの複合化とは異なる材料設計の考えが必要になる。
【0004】
近年、窒化珪素に第二相としてh−BN(六方晶窒化硼素)を複合化し、快削性、耐熱衝撃性を改善する研究が行われている。しかし、これらの研究では、複合材料の合成にBN源として市販のBN粉末を使用しており、より微細にそして均一に第二相を分散させるという点においては問題があり、破壊強度、耐熱衝撃性などが不十分である。
このような非線形の効果を具現するための手段として、本発明者らは窒化珪素マトリックスの結晶粒子に微細なh−BNを1〜25体積%均一に分散させた窒化珪素基複合材料及びその製造方法を特許出願した(特開平9−169575)。この複合材料によれば、窒化珪素中にh−BNを分散複合化することにより、従来の窒化珪素複合材料に比べ、破壊強度、耐熱衝撃性などの特性が大幅に改善された。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した窒化アルミニウム粉末にY粉末を添加することにより、又はY化合物とCa化合物を同時に混合添加するより、或いはB元素(B化合物として)を添加して粒界相の融点降下を起させることにより、窒化アルミニウムをより低温で焼結するという考えでは、窒化アルミニウムの焼結性は改善されるが、構造材料としての室温及び高温での機械的特性の改善は不十分である。従って、機械的特性の向上のためには、今までとは異なる材料設計と製造方法の考えが必要になる。
そこで、本発明者らは窒化アルミニウムに第二相としてh−BNを複合化し、機械的特性などを改善する研究を試みた。しかし、これらの研究では、複合材料の合成にBN源として市販のBN粉末を使用したために、より微細にそして均一に第二相を分散させることができず、窒化アルミニウムの破壊強度などは向上しなかった。
【0006】
また、特開平9−169575号公報で示した方法で製造した窒化珪素基複合材料は、BNの含有量が20体積%のときにt−BN中の残留酸化物の影響により生じたSiONガラスの回折ピークが認められ、強度も低下した。この傾向は、BNの含有量が20体積%を超えるとより顕著であった。
このため、室温で機械的加工性が優れ、高温で強く、更に溶融金属に対する腐食性に優れた窒化珪素基複合材料を作製する観点に立つと、上記製造方法では25体積%を超えてBNを含有させることができない問題点があった。
【0007】
本発明の目的は、機械加工性、耐熱衝撃性及び溶融金属の腐食性に優れ、破壊強度及び高温強度が高い、含窒素セラミック複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、窒化アルミニウムマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BN(六方晶窒化硼素)が5体積%以上40体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料である。
請求項2に係る発明は、窒化珪素マトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BNが25体積%を超え45体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料である。
請求項3に係る発明は、サイアロンマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BNが20体積%以上45体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料である。
請求項1ないし3に係る発明において、上記所定の体積%で微細なh−BNを窒化アルミニウム、窒化珪素又はサイアロンのマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に分散させると、得られた複合材料は、機械加工性、耐熱衝撃性及び溶融金属の腐食性に優れ、破壊強度及び高温強度が高くなる。
【0009】
請求項4に係る発明は、窒化アルミニウム粉末とこの窒化アルミニウム粉末に対して14〜52重量%の尿素粉末と7〜27重量%の硼酸粉末とを混合し、この混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、この還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、この熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して2〜7重量%添加し、この焼結助剤を添加した混合粉末を窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結して窒化アルミニウム複合材料を得る製造方法である。
請求項5に係る発明は、窒化珪素粉末とこの窒化珪素粉末に対して9〜54重量%の尿素粉末と4〜28重量%の硼酸粉末とを混合し、この混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、この還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、この熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して5〜15重量%添加し、この焼結助剤を添加した混合粉末を窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結して窒化珪素複合材料を得る製造方法である。
請求項6に係る発明は、窒化珪素粉末とアルミナ粉末と窒化アルミニウム粉末と二酸化珪素粉末とを所定の重量%で配合し、この配合した粉末総量に対して9〜54重量%の尿素粉末と4〜28重量%の硼酸粉末とを混合し、この混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、この還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、この熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して5〜15重量%添加し、この焼結助剤を添加した混合粉末を窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結してサイアロンを得る製造方法である。
【0010】
請求項4ないし6に係る発明の方法では、BN源として市販のBN粉末を用いると前述したように、窒化アルミニウム、窒化珪素やサイアロン等のマトリックス結晶粒子内での窒化硼素の分散性に問題が生じる。このため、請求項4ないし6に係る発明では、窒化アルミニウム、窒化珪素、又は窒化珪素とアルミナと窒化アルミニウムの粉末に、所定量の尿素と硼酸の粉末を混合した後、水素雰囲気の還元処理と窒素雰囲気の熱処理と、所定量の焼結助剤を添加して焼結を行う工程を経ることにより、BN源である尿素と硼酸を溶液に溶かし、乾燥以降の工程でマトリックス結晶粒子の表面にh−BNの形態で第二相として析出させる。具体的には、h−BNは尿素と硼酸を還元雰囲気中で加熱することにより得られ、マトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界にh−BNを均一に分散させることができ、機械加工性、耐熱衝撃性及び溶融金属の腐食性に優れ、破壊強度及び高温強度の高い複合材料が得られる。出発原料の尿素も硼酸もともにあらゆる溶媒に可溶である。
即ち、本発明では、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)又はサイアロン(Si−Al−O−N)のマトリックス中に分散させるBN粒子の出発原料に尿素と硼酸を用い、乾燥工程での還元処理でマトリックス表面に乱層構造のt−BNを析出させ、このt−BNから焼結時に生成するh−BN粒子に以下のような役割を与えることにより、構造材料としての問題点を克服するものである。
(1) 窒化アルミニウム、窒化珪素又は窒化珪素とアルミナと窒化アルミニウムの粉末に、尿素と硼酸を混合した粉末は、水素雰囲気中で乾燥処理、更に窒素雰囲気で高温熱処理することにより、尿素と硼酸の還元により乱層構造のt−BNが生成する。この混合粉末では、第二相のt−BNがAlN、Si又はSi−Al−O−Nの周りを取り囲んでいる。
(2) この粉末に焼結助剤を添加し、混合・乾燥した混合粉末を焼結すると、AlN、Si又はSi−Al−O−Nの粒子内に分散したBN粒子は、AlN、α−Si又はSi−Al−O−Nが焼結助剤に起因して生成する粒界相に融解し、そこから析出するときの成長核の役割を果たす。特にα−Siはβ−Siとして析出するときの成長核の役割を果たし、柱状のβ−Siの成長を促進する。このAlN、β−Si又はSi−Al−O−Nは、ナノサイズの分散粒子を核にして成長するために、AlN、β−Si又はSi−Al−O−Nのマトリックス結晶粒子の粒径が良好に制御される。そのために、上記粒子が成長しても破壊源は増大しないので、本発明の含窒素セラミック複合材料の破壊強度が向上し、特性のばらつきも少なくなる。
【0011】
(3) 本発明の複合材料では、上記マトリックス結晶粒子の結晶粒内のBNと同様に結晶粒界のBNでもその界面に不純物の生成は認められず、界面の整合性は良い。また、熱膨張差により冷却過程に生じる劈開も、BN−AlN粒界、BN−Si粒界又はBN−Si−Al−O−N粒界よりもBN粒内であることから、強い界面を実現する。BNを多量添加することにより、粒界にも微細な粒子を分散することができ、温度が上昇しても、粒界は安定なBN粒子により部分的に結合しているために、高温での強度低下が抑えられる。
(4) BN含有量を所定の体積%以上にすると、溶融金属に対する腐食性が改善される。特にBN粒子がナノ分散しているので、BN粒子間の間隔がかなり短くなるため、マトリックスの受けるダメージも小さくなる。また、h−BNはグラファイトと同じ積層構造をとり、その層間は弱いファンデルワールスカで結合しているため、多量添加により機械加工時に劈開し、硬い材料でも優れた快削性を示す。
【0012】
本発明では、このようにAlN、Si又はSi−Al−O−Nのマトリックス結晶粒子の結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に特定の割合で分散させたh−BN粒子に以上述べた役割を与えることにより、従来のセラミック複合材料の破壊強度、耐熱衝撃性などの機械的特性の改善だけでなく、溶融金属に対する耐食性と機械加工時の快削性を改善することが可能になる。その結果、高強度の維持、耐熱衝撃性を要求される摺動部材や使用環境が厳しい高温部材などの構造材料を実現することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のh−BN(六方晶窒化硼素)のマトリックス結晶粒子の結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界における含有量は、窒化アルミニウム複合材料が5体積%以上40体積%以下、好ましくは10〜30体積%である。また窒化珪素複合材料が25体積%を超え45体積%以下、好ましくは25〜45体積%である。更にサイアロンが20体積%以上45体積%以下である。このh−BNの体積含有割合は、窒化珪素基複合材料の体積に対するh−BNの体積百分率である。それぞれのh−BNは粒径が80nm以下である。こうした微細な粒径のh−BNを上記範囲で含有しかつ均一に分散させると、本発明の複合材料は室温及び高温での機械的特性の向上、溶融金属に対する耐食性と機械加工時の優れた快削性が同時に得られる。
h−BN含有量の上記上限値を超えると、複合材料は耐食性と快削性について良好であるが、破壊強度、破壊靭性などの機械的特性が低下する。またh−BN含有量の上記下限値未満(窒化珪素複合材料のみ下限値以下)では、複合材料は機械的特性は優れているが、耐食性と快削性の改善効果が小さくなり、好ましくない。
【0014】
請求項4ないし6に係る発明の製造は次の通りに行う。
従来の市販のBN粉末を用いた複合化では、微細かつ均一に第二相を分散することは難しく、BNの多量添加では更に難しいため、先ず窒化アルミニウム、窒化珪素又は窒化珪素とアルミナと窒化アルミニウムの粉末に、所定量の尿素と硼酸の粉末を加え、この混合粉末をエタノールを分散媒として湿式混合する。この硼酸に対する尿素の割合は、硼酸1モルに対して尿素1〜4モルとなるようにするのが好適である。また尿素粉末及び硼酸粉末は、最終的にマトリックス結晶粒子中に上記体積%となるように秤量し添加混合される。そのために窒化アルミニウム複合材料を製造する場合には、尿素粉末は窒化アルミニウム粉末の14〜52重量%、硼酸粉末は窒化アルミニウム粉末の7〜27重量%、また窒化珪素複合材料を製造する場合には、尿素粉末は窒化珪素粉末の9〜54重量%、硼酸粉末は窒化珪素粉末の4〜28重量%、更にサイアロン材料を製造する場合には、尿素粉末は窒化珪素とアルミナと窒化アルミニウムの合計粉末の9〜54重量%、硼酸粉末は窒化珪素とアルミナと窒化アルミニウムの合計粉末の4〜28重量%混合される。
【0015】
この混合物を乾燥した後に水素雰囲気中、700〜1100℃、好ましくは800〜1000℃で4〜10時間還元処理する。ここで特開平9−169575号公報に示された方法のように、窒化珪素、尿素、硼酸及び焼結助剤を混合し、水素還元処理した混合粉末を用いて焼結すると、t−BN中の残留酸化物の影響により生じたSiONガラス相が特性に悪影響を及ぼす。そのため本発明では、水素雰囲気中で還元処理した後、続いて窒素雰囲気中、1400〜1550℃、好ましくは1500℃で更に4〜10時間高温熱処理し、更に続いて熱処理した混合粉末に所定量の焼結助剤を添加して、再びエタノールを分散媒として湿式混合し、更に乾燥する。ここで焼結助剤及びその添加量は、窒化アルミニウム複合材料を製造する場合には、Y、Al、Gd等であって、混合粉末の2〜7重量%、好ましくは4〜6重量%添加する。また窒化珪素複合材料又はサイアロン材料を製造するときはいずれの場合も、焼結助剤はY、Al、Gd等であって、混合粉末の5〜15重量%、好ましくは6〜10重量%添加する。
そして最終的には、上記公報に示された方法と同様に、得られた混合粉末を成形して、窒素雰囲気中、1650℃以上、好ましくは1700℃以上の焼結温度で焼結する。この焼結は常圧焼結の他に、窒素などの不活性雰囲気中で、常圧焼結とHIP処理を組合せて行うか、或いはホットプレス焼結で行うことができる。ホットプレス焼結の場合は、特に焼結温度1700〜1750℃、プレス圧10〜40MPaで1〜2時間焼結することが好ましい。
【0016】
【実施例】
以下に本発明の実施例を比較例とともにより具体的に説明する。
<実施例1〜6>
平均粒径が0.6μmの窒化アルミニウム粉末(徳山ソーダ社製)にこの粉末に対して硼酸(HBO)粉末(高純度化学研究所製)とこの硼酸の2倍のモル量に相当する尿素粉末(和光純薬工業社製)を表1に示す6種類の割合で加えて均一に混合した。6種類のの混合粉末を各別にエタノールを分散媒としてボールミルを用いて湿式混合した後、水を加え、更に乾燥した。これらの粉末を水素雰囲気中、900℃で7時間還元処理し、更に窒素雰囲気中、1500℃で7時間高温熱処理した。得られた6種類の混合粉末にこの粉末に対して焼結助剤としてYを2重量%を加え、再びエタノールを分散媒としてボールミルを用いて湿式混合した後、乾燥させた。これらの混合粉末を黒鉛ダイスに充填して、ホットプレス装置(富士電波工業社製)で30MPaの圧力でプレス成形した。これらの成形体を窒素雰囲気中、1700℃で1時間焼結して6種類の窒化アルミニウム複合材料を製造した。
【0017】
<比較例1>
それぞれ実施例1と同一の窒化アルミニウム粉末に硼酸粉末27.41重量%と尿素粉末53.21重量%の割合で加えて均一に混合した以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム複合材料を製造した。
<比較例2〜7>
比較のために、BN源として硼酸と尿素を用いる代わりに、市販のBN粉末(平均粒径0.9μm)を表1に示す割合で実施例1と同一の窒化アルミニウム粉末に加えた。それ以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム複合材料を製造した。
<比較例8>
窒化硼素を全く含まない、窒化アルミニウム単相材料を比較例8とした。
<比較結果1>
(a) BN含有量
実施例1〜6及び比較例1の窒化硼素の含有量(体積%)を測定した結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
Figure 0003586784
【0019】
(b) 3点曲げ強度とヤング率
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた窒化アルミニウム複合材料、並びに比較例8で得られた窒化アルミニウム単相材料をそれぞれ研削加工して、3mm×4mm×40mmの大きさのサンプルを作製した。これらのサンプルの曲げ強度をJIS(R 1601)に準じた3点曲げ試験法により、荷重速度0.5mm/min、スパン長さ30mmで測定した。また同様に作製したサンプルでヤング率は共振法により測定した。図1と図2に、実施例1〜6及び比較例1〜8のサンプルの3点曲げ強度とヤング率を示す。
図1及び図2から明らかなように、比較例2から比較例7になるに従って、即ちBNの添加量の増加とともに強度は低下するが、実施例1〜6の窒化アルミニウム複合材料では、BN含有量40体積%(実施例6)まで高強度を維持している。しかしBN含有量45体積%(比較例1)になると強度は著しく低下した。ヤング率は実施例1〜6の複合材料も比較例2〜7の複合材料も、BN含有量とともに低下するが、実施例1〜6の複合材料は、比較例2〜7と比べて、ヤング率が低下しても強度の低下の程度が小さいことから、比較例2〜7より耐熱衝撃性が改善されていることが分かる。
【0020】
(c) 高温時の強度
実施例2及び比較例3で得られた、それぞれBN含有量10体積%の窒化アルミニウム複合材料、並びに比較例8で得られた窒化アルミニウム単相材料から上記と同じサンプルを作製し、これらのサンプルを窒素雰囲気中、室温、800℃、1000℃、1200℃及び1400℃でそれぞれ10分間保持した後、上記と同じ条件で3点曲げ試験することにより、室温時及び高温時の強度を測定した。その結果を図3に示す。
図3から明らかなように、実施例2(ナノ複合材料)、比較例3(ミクロ複合材料)及び比較例8(単相材料)とも800℃から1000℃までの強度は室温時の強度とほぼ同じであったが、1200℃以上の温度では強度の減小率は実施例2(ナノ複合材料)の方が比較例8(単相材料)と比較例3(ミクロ複合材料)に比べて小さく、1400℃でも高強度を維持している。特に粒界が軟化すると言われている1300℃付近で、比較例8(単相材料)や比較例3(ミクロ複合材料)は急激に強度が低下するのに対して、実施例2(ナノ複合材料)はマイルドで強度低下が抑制されている。
【0021】
(d) 機械加工時の快削性
快削性にはその材料が有する機械的特性(硬度、破壊靭性、(強度)/2×(ヤング率)など)が関係する。この機械加工時の快削性を調べるために、第1法としてWCドリルを用いて、3000rpmで圧搾した。また第2法として直径1mmのドリルでHP方向にボール盤加工した。その結果、比較例8(単相材料)では難加工性を示したが、BN含有量が20体積%以上の実施例4〜6(ナノ複合材料)では良好な快削性を示した。
【0022】
<実施例7〜14>
平均粒径が0.2μmの窒化珪素(α−Si)粉末(宇部化学社製、商品名:SN−E10)にこの粉末に対して硼酸(HBO)粉末(高純度化学研究所製)とこの硼酸の2倍のモル量に相当する尿素粉末(和光純薬工業社製)を表2に示す8種類の割合で加えて均一に混合した。8種類のの混合粉末を各別にエタノールを分散媒としてボールミルを用いて湿式混合した後、水を加え、更に乾燥した。これらの粉末を水素雰囲気中、900℃で7時間還元処理し、更に窒素雰囲気中、1500℃で7時間高温熱処理した。得られた8種類の混合粉末にこの粉末に対して焼結助剤としてY6重量%とAl2重量%を加え、再びエタノールを分散媒としてボールミルを用いて湿式混合した後、乾燥させた。これらの混合粉末を黒鉛ダイスに充填して、ホットプレス装置(富士電波工業社製)で30MPaの圧力でプレス成形した。これらの成形体を窒素雰囲気中、1700℃で1時間焼結して8種類の窒化珪素複合材料を製造した。
【0023】
<比較例9>
それぞれ実施例7と同一の窒化珪素粉末に硼酸粉末28.92重量%と尿素粉末56.12重量%の割合で加えて均一に混合した以外は実施例7と同様にして窒化珪素複合材料を製造した。
<比較例10〜16>
比較のために、BN源として硼酸と尿素を用いる代わりに、市販のBN粉末(平均粒径0.9μm)を表2に示す割合で実施例7と同一の窒化珪素粉末に加えた。それ以外は実施例7と同様にして窒化珪素複合材料を製造した。
<比較例17>
窒化硼素を全く含まない、窒化珪素単相材料を比較例17とした。
<比較結果2>
(e) BN含有量
実施例7〜14及び比較例9の窒化硼素の含有量(体積%)を測定した結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
Figure 0003586784
【0025】
(f) TEM観察及びEDX分析
実施例7〜14及び比較例9〜16において、α−Siと硼酸と尿素の混合粉末を水素雰囲気中で還元した後、窒素雰囲気中で熱処理したときの各粉末について、TEM観察(透過型電子顕微鏡観察)及びEDX分析(エネルギ分散X線分光分析)を行った。実施例7〜14では、乱層構造のt−BNがα−Siの周りを取り囲んでいた。この実施例13(BN含有量30体積%)の粉末を焼結したときの複合材料のTEM写真を図4(a)及び(b)に示す。これらの写真からSiマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に80nm以下の微細なh−BNが分散した組織を持つナノ複合材料であることが分った。図5に実施例10のSi複合材料のTEM写真を示す。写真からSiとBNの界面の整合性が良いことが分かる。これに対して比較例10〜16では、粉末の状態でこの粉末の粒径は0.9μmであり、この粉末を焼結したときの窒化珪素複合材料は、TEM観察からBN粒子が窒化珪素の粒界に分散した組織を持つミクロ複合材料であることが分った。
【0026】
(g) 3点曲げ強度とヤング率
実施例7〜14及び比較例9〜16で得られた窒化珪素複合材料、並びに比較例17で得られた窒化珪素単相材料を上述した(b)と同様の方法でそれぞれ研削加工して、同一の大きさのサンプルを作製した。これらのサンプルの曲げ強度とヤング率を上述した(b)と同様の方法で測定した。図6と図7に、実施例7〜14及び比較例9〜17のサンプルの3点曲げ強度とヤング率を示す。
図6及び図7から明らかなように、比較例10から比較例16になるに従って、即ちBNの添加量の増加とともに強度は低下するが、実施例7〜14の窒化珪素複合材料では、BN含有量45体積%(実施例16)まで高強度を維持している。特にBN含有量30体積%の実施例13の複合材料では、同じ30体積%の比較例15と異なり、SiOガラス相のX線回折ピークが観察されず、比較例15より高い強度を示した。しかしBN含有量50体積%(比較例9)になると強度は著しく低下した。ヤング率は実施例7〜14の複合材料も比較例10〜16の複合材料も、BN含有量とともに低下するが、実施例7〜14の複合材料は、比較例10〜16と比べて、ヤング率が低下しても強度の低下の程度が小さいことから、比較例10〜16より耐熱衝撃性が改善されていることが分かる。
【0027】
(h) 高温時の強度
実施例13で得られたBN含有量30体積%の窒化珪素複合材料及び比較例17で得られた窒化珪素単相材料から上記と同じサンプルを作製し、これらのサンプルを窒素雰囲気中、室温、1000℃、1200℃、1300℃、1400℃、1500℃及び1600℃でそれぞれ10分間保持した後、上記と同じ条件で3点曲げ試験することにより、室温時及び高温時の強度を測定した。その結果を図8に示す。
図8から明らかなように、実施例13(ナノ複合材料)及び比較例17(単相材料)とも1000℃から1200℃までの強度は室温時の強度とほぼ同じであったが、1200℃以上の温度では強度の減小率は実施例13(ナノ複合材料)の方が比較例17(単相材料)に比べて小さく、1400℃でも高強度を維持している。特に粒界が軟化すると言われている1300℃付近で、比較例17(単相材料)は急激に強度が低下するのに対して、実施例13(ナノ複合材料)はマイルドで強度低下が抑制されている。
【0028】
(i) 機械加工時の快削性
快削性にはその材料が有する機械的特性(硬度、破壊靭性、(強度)/2×(ヤング率)など)が関係する。この機械加工時の快削性を調べるために、上述した(d)と同様に、第1法としてWCドリルを用いて、3000rpmで圧搾した。また第2法として直径1mmのドリルでHP方向にボール盤加工した。その結果、比較例17(単相材料)では難加工性を示したが、BN含有量が20体積%以上の実施例11、13(ナノ複合材料)では良好は快削性を示した。
図9に窒化珪素複合材料の硬度を示す。BN含有量15体積%の比較例12のミクロ複合材料の硬度は、同じく20体積%の実施例11のナノ複合材料の硬度より低いが、この20体積%のナノ複合材料の方が良好な快削性を示した。またBN含有量30体積%の実施例13のナノ複合材料と、同じくBN含有量30体積%の比較例15のミクロ複合材料とをそれぞれドリル加工した。それぞれの孔を顕微鏡観察(図示せず)したところ、比較例15のミクロ複合材料では粗い研削面であるのに対して、実施例13のナノ複合材料では研削痕が見えるほどきめ細かい研削面であった。
【0029】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の窒化アルミニウム複合材料、窒化珪素複合材料又はサイアロンのような含窒素セラミック複合材料は、マトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に六方晶窒化硼素が所定の体積%で均一に分散しているため、強度、耐熱衝撃性に優れた特性を有する材料であり、溶融金属に対する耐食性と機械加工時の快削性が改善され、摺動部材などの構造材料に応用可能である。
また本発明の製造方法によれば、分散粒子であるBN源に尿素と硼酸を用いて、水素雰囲気での還元処理、高温熱処理した後に焼結助剤を添加することにより、六方晶窒化硼素を比較的高い含有量で均一にマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1〜6及び比較例1〜8の窒化アルミニウム複合又は単相材料のBN含有量と曲げ強度との関係を示す図。
【図2】実施例1〜6及び比較例1〜8の窒化アルミニウム複合又は単相材料のBN含有量とヤング率との関係を示す図。
【図3】実施例2及び比較例3の窒化アルミニウム複合材料並びに比較例8の窒化アルミニウム単相材料の高温時における強度を示す図。
【図4】(a) 実施例13の粉末を焼結したときの窒化珪素複合材料のTEM写真図。
(b) その高分解のTEM写真図。
【図5】実施例12のSi複合材料の高分解能TEM写真図。
【図6】実施例7〜14及び比較例9〜16の窒化珪素複合又は単相材料のBN含有量と曲げ強度との関係を示す図。
【図7】実施例7〜14及び比較例9〜16の窒化珪素複合又は単相材料のBN含有量とヤング率との関係を示す図。
【図8】実施例13及び比較例17の窒化珪素複合材料の高温時における強度を示す図。
【図9】実施例7〜13、15及び比較例10〜13、15、17の窒化珪素複合材料の硬度を示す図。

Claims (6)

  1. 窒化アルミニウムマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BN(六方晶窒化硼素)が5体積%以上40体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料。
  2. 窒化珪素マトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BN(六方晶窒化硼素)が25体積%を超え45体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料。
  3. サイアロンマトリックスの結晶粒内又は結晶粒内及び結晶粒界に粒径が80nm以下のh−BN(六方晶窒化硼素)が20体積%以上45体積%以下で均一に分散したことを特徴とする含窒素セラミック複合材料。
  4. 窒化アルミニウム粉末とこの窒化アルミニウム粉末に対して14〜52重量%の尿素粉末と7〜27重量%の硼酸粉末とを混合し、
    前記混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、
    前記還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、
    前記熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して2〜7重量%添加し、
    前記焼結助剤を添加した混合粉末を成形した後、窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結して窒化アルミニウム複合材料を得る含窒素セラミック複合材料の製造方法。
  5. 窒化珪素粉末とこの窒化珪素粉末に対して9〜54重量%の尿素粉末と4〜28重量%の硼酸粉末とを混合し、
    前記混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、
    前記還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、
    前記熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して5〜15重量%添加し、
    前記焼結助剤を添加した混合粉末を成形した後、窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結して窒化珪素複合材料を得る含窒素セラミック複合材料の製造方法。
  6. 窒化珪素粉末とアルミナ粉末と窒化アルミニウム粉末と二酸化珪素粉末とを所定の重量%で配合し、
    前記配合した粉末総量に対して9〜54重量%の尿素粉末と4〜28重量%の硼酸粉末とを混合し、
    前記混合粉末を水素雰囲気中、700〜1100℃で還元処理し、
    前記還元処理した混合粉末を窒素雰囲気中、1400〜1550℃で高温熱処理し、
    前記熱処理した混合粉末に焼結助剤をこの混合粉末に対して5〜15重量%添加し、
    前記焼結助剤を添加した混合粉末を成形した後、窒素雰囲気中、1650℃以上の温度で焼結してサイアロンを得る含窒素セラミック複合材料の製造方法。
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