JP3582550B2 - インクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録用プリンタヘッド又はその製造方法に関する。本発明によるヘッドは、インクジェット記録装置に配置して用いることができる。
【0002】
インクジェット記録用プリンタヘッドのインク室内に収納されているインクに吐出エネルギーを与える手段としては、圧電体素子を用いてインク室内を加圧する手段、又はヒータを用いてインク室内のインクを加熱する手段が一般的である。本発明は、この内、圧電体素子を用いてインク室内を加圧する手段をもつ、インクジェット記録用プリンタヘッドに関する。
【0003】
【従来の技術】
圧電/電歪膜型素子に酸化ジルコニウムを用いる従来技術としては、例えば、特開平6−204580号公報に、セラミック基板としての酸化ジルコニウム基板の一部を薄肉化し、その上部に、膜形成法で、圧電/電歪作動部を形成した圧電/電歪膜型素子が開示されている。この素子の基板である酸化ジルコニウムは、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、又は酸化カルシウムの内の少なくとも一つの化合物を含有することによって、結晶相が完全安定化、若しくは部分安定化されていた。また、セラミック基板を用いるため、薄肉部の寸法や厚みは比較的大きなものであった。
【0004】
基板として単結晶珪素を用いる従来技術としては、例えば、米国特許第5,265,315号明細書に、単結晶珪素基板上の薄肉部に、白金(Pt)又はニッケル(Ni)からなる金属遮断層、酸化アルミニウム膜、下部電極、2成分系ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)膜、及び上部電極の積層構造を有するインクジェット記録用プリンタヘッドが開示されている。このインクジェット記録用プリンタヘッドでは、2成分系PZTを用いているので、熱処理温度は、600℃〜650℃程度であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来技術によるインクジェット記録用プリンタヘッドにおいては、例えば、以下に示すような課題がある。
【0006】
前記特開平6−204580号公報記載の圧電/電歪膜型素子では、セラミック基板を使用している。この圧電/電歪膜型素子を用いてインクジェット記録用プリンタヘッドを形成する場合、セラミック基板から形成される薄肉部の寸法や厚みを小さくするのが困難であった。事実、前記公開公報記載の素子において、薄肉部の寸法は、0.8mm×3mm、厚み10μmである。この薄肉部の寸法はそのままインクジェット記録用プリンタヘッドのインク室寸法となる。インクジェット記録用プリンタヘッドのノズルを180dpi程度に高密度化してインク噴射動作を行うためには、薄肉部の寸法を0.1mm×4mm、及び厚み1μm程度とすることが必要である。従って、前記公開公報記載の素子から、そのような微細な構造を形成することはできない。更に、セラミック基板は高価であるので、前記公開公報記載の素子からインクジェット記録用プリンタヘッドを製造すると、高価なものとなってしまう。
【0007】
また、前記米国特許第5,265,315号明細書に記載のインクジェット記録用プリンタヘッドでは、圧電体膜が2成分系PZTからなり、圧電特性が充分ではないので、満足なインク噴射特性を有する製品を得ることができなかった。こうした圧電特性を更に向上させるためには、第3成分を5モル%以上を含んだ3成分系PZTを用いることが望ましいが、圧電体薄膜によってバルクセラミックスのPZTと同程度の特性を実現するためには、PZTの焼成温度を800℃以上に上げなければならない。しかし、前記米国特許明細書に開示された構成で、高温熱処理を行うと、振動板部に割れが生じる。
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決することを目的に、薄肉部の寸法や厚みを小さくすることができ、安価で、しかも3成分系PZTを用いて高温処理を実施した場合でも振動板部などに割れの生じることがない耐久性に優れたインクジェット記録用プリンタヘッドを開発するべく鋭意研究した結果、単結晶珪素基板を利用してインクジェット記録用プリンタヘッドを製造する際に、単結晶珪素基板と下部電極との間に酸化ジルコニウム膜又は金属ジルコニウム膜を設けることにより、前記ヘッドの製造工程で実施する熱処理において、高温から常温への及び/又は常温から高温への温度変化に伴う単結晶珪素基板の体積変化と下部電極(及び圧電体膜)の体積変化との差異によって前記単結晶珪素基板に負荷される応力を、前記酸化ジルコニウム膜の結晶相転移による体積膨張、又はジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張によって低減することができることを見い出した。しかも、こうして得られるインクジェット記録用プリンタヘッドは、構造それ自体も新規であり、酸化ジルコニウム膜と単結晶珪素基板及び下部電極との密着性が良好であり、高い圧電特性を有する圧電体膜を担持することができ、ヘッド駆動耐久性も向上した。
【0009】
本発明はこうした知見に基づくものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その珪素基板の貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板表面に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層に直接接触する酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドに関する。
【0011】
また、本発明は、貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
製造工程における高温から常温への温度変化に伴う単結晶珪素基板の体積変化と下部電極及び圧電体膜の体積変化との差異によって前記単結晶珪素基板に負荷される応力を、前記酸化ジルコニウム膜の結晶相転移による体積膨張、又はジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張によって低減することを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法にも関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法においては、(1)単結晶珪素基板と下部電極との間に設けた酸化ジルコニウム膜の結晶相転移による体積膨張を利用するか、及び/又は(2)同じく単結晶珪素基板と下部電極との間に設けた金属ジルコニウム膜のジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張を利用することができる。
【0013】
はじめに、前記(1)の結晶相転移による体積膨張を利用する方法について、添付図面に添って説明する。
【0014】
図1は、本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの一実施態様を模式的に示し、図1(a)は本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドの概略斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A’線断面拡大図である。
【0015】
図1に示す本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドは、複数個のインク室102を有する単結晶珪素基板101;そのインク室102の底面を形成して単結晶珪素基板101上に形成された酸化ジルコニウム膜103;前記酸化ジルコニウム膜103の上に形成された下部電極104と、前記下部電極104の上に形成された圧電体膜105と、前記圧電体膜105の上に形成された上部電極106とからなる圧電体素子;及びノズル108を形成するノズル板107を接合して構成されている。
【0016】
インク室102とノズル108は、同一のピッチで配置されている。
【0017】
このインクジェット記録用プリンタヘッドの動作を簡単に説明すると、下部電極104と上部電極106の間に電圧を印加し、下部電極104と圧電体膜105と上部電極106とよりなる圧電体素子、及び酸化ジルコニウム膜103を変形させることにより、インク室102の体積を減少させ、インク室102内に充満しているインクを、ノズル108より噴射させることができる。
【0018】
図2は、前記の結晶相転移による体積膨張を利用して、本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドを製造する代表的な方法を、単結晶珪素基板101に圧電体素子及びインク室102を形成するまでの製造工程として、工程順〔(a)〜(c)〕に示す断面図である。なお、この断面図において、紙面に垂直な方向がインク室の奥行き方向となる。
【0019】
はじめに、面方位(110)を有する単結晶珪素基板101を1000〜1200℃で湿式熱酸化し、基板101の両面に二酸化珪素膜201,202を同時に形成する。二酸化珪素膜は、CVD(化学気相成長法)によって形成することもできる。二酸化珪素膜201,202の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2000〜10000オングストロームである。なお、エッチング停止層として作用する二酸化珪素膜201は、オーバーエッチングを考慮すると、2000オングストローム以上の厚みを有することが好ましい。また、エッチングマスクとして作用する二酸化珪素膜202の好ましい膜厚は、珪素基板の厚みによって変化するが、6000〜10000オングストロームであることが好ましい。なお、単結晶珪素基板101を酸化せずに、単結晶珪素基板101上に直接、後記の酸化ジルコニウム膜103を形成するか、あるいは一度形成した二酸化珪素膜201をエッチングなどで除去してから、後記の酸化ジルコニウム膜103を単結晶珪素基板101上に直接、形成することもできる。
【0020】
次に、二酸化珪素膜202にフォトレジストを形成し、開口部を設け、二酸化珪素膜202を、エッチング液(例えば、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液)でパターニングし、開口部203を形成する。ここで、開口部203の奥行き方向、すなわち紙面に垂直な方向を単結晶珪素基板101の
【0021】
【外1】
【0022】
方向となるように配置する。フォトレジストを剥離した後、二酸化珪素膜201側に、酸化ジルコニウム膜103を薄膜形成法によって形成する。酸化ジルコニウム膜103の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは 0.1〜2μmである。なお、酸化ジルコニウム膜103の膜厚の上限は、酸化ジルコニウム膜103形成直後の熱処理後の残留応力の上限で決まり、その下限は、圧電体膜の熱処理後の残留応力の上限で決まる。
【0023】
なお、本明細書において「薄膜形成法」とは、インクジェット記録用プリンタヘッドなどのエレクトロニクスデバイスの製造に一般的に使用されている薄膜形成法であれば特に限定されないが、具体的には、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法、蒸着法、及び水熱法を挙げることができる。
【0024】
前記の酸化ジルコニウム膜103は、例えば、酸化ジルコニウムの焼結体スパッタリングターゲットを用いて、高周波スパッタリング法により形成するのが好ましい。続いて、酸素を含む雰囲気(特に空気中)で1050〜1200℃にて30分間〜2時間の熱処理を行う。室温にて、酸化ジルコニウム膜を担持した基板の反りを測り、残留応力を計算すると、単結晶珪素基板は、酸化ジルコニウム膜から0.5〜3×10−8N/m2程度の小さな引っ張り応力を受ける。
【0025】
酸化ジルコニウム膜を形成するには、酸化ジルコニウム焼結体ターゲットを使用するスパッタ法の他に、金属ジルコニウムターゲットを用いて、酸素雰囲気中でスパッタして、酸化ジルコニウム膜を成膜することもでき、更にはゾルゲル法又はCVD法により、酸化ジルコニウム膜を形成することもできる。
【0026】
ここで、酸化ジルコニウム膜103は、安定化剤を実質的に含有せず、安定化されていない酸化ジルコニウムから構成し、室温での結晶構造が単斜晶系となるようにする。酸化ジルコニウムは、安定化剤、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム又は酸化セリウムを1モル%以上の量で固溶して含むと、安定化する。前記の結晶相転移による体積膨張を利用する本発明方法では、いわゆる安定化又は部分安定化酸化ジルコニウムを使用せず、いわゆる非安定化酸化ジルコニウム(ジルコニア)を使用する。
【0027】
次に、酸化ジルコニウム膜103上に、薄膜形成法によって、下部電極104、及び圧電体膜105を積層する。こうして得られる積層体の断面を図2(a)に示す。
【0028】
下部電極104は、インクジェット記録用プリンタヘッドなどのエレクトロニクスデバイスの製造において電極、特に下部電極として一般的に使用されている材料であれば特に限定されず、下部電極の上に形成される圧電体(例えば、PZT)の熱処理温度に対して反応性が乏しく、安定な高融点金属であることが好ましく、具体的には、白金又はパラジウムのいずれかを主成分とする材料からなるのが好ましい。ここで、「主成分とする」とは、白金又はパラジウムの含有量が50重量%以上、好ましくは80重量%以上であることを意味する。下部電極の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1000〜10000オングストロームである。下部電極の膜厚は、配線抵抗の観点から1000オングストローム以上であることが好ましく、10000オングストロームを越えると応力がかかり過ぎることがあるので好ましくない。
【0029】
図2には示さないが、場合により、酸化ジルコニウム膜103と下部電極104との間に、密着層用としてチタン、タンタル、アルミニウム、錫、若しくはイリジウムからなる金属膜、又はそれらの混合物膜を薄膜形成法によって形成して、酸化ジルコニウム膜103と下部電極104との密着性を向上させるのが好ましい。密着層用金属膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは50〜1000オングストロームである。
【0030】
密着層用チタン膜と、下部電極104としての白金層は、直流スパッタリング法により、2層を連続して形成することができる。
【0031】
更に、下部電極104の上に、圧電体膜105を積層する。圧電体膜は、最初に、種々の薄膜形成法によって前駆体膜を成膜し、続いて、使用した薄膜形成法に応じて、結晶化温度や処理時間を適宜選択し、加熱処理を実施して結晶化し、前駆体を圧電体に変換することができる。
【0032】
例えば、スパッタ法によって前駆体膜を成膜した場合は、前駆体膜の組成等に応じて各種の熱処理を実施する。例えば、主にランプアニール装置を用いた急速加熱法(例えば、500〜700℃にて1〜5分間の結晶化のための第1の熱処理と、650〜900℃にて1〜5分間の特性向上のための第2の熱処理の組み合わせ)、または、半導体の製造に通常用いられている拡散炉による特に急速でない熱処理法(例えば、500〜700℃での10分〜3時間の結晶化のための第1の熱処理と、650〜900℃での10分〜3時間の特性向上のための第2の熱処理の組み合わせ)によって前駆体を圧電体に変換することができる。
【0033】
ゾルゲル法によって前駆体膜を成膜した場合においても、ゾルの原料組成により熱処理条件を変えるが、一般的には、ランプアニール装置を用いた急速加熱法(例えば、500〜700℃にて1〜5分間の種結晶生成のための第1の熱処理と、650〜950℃にて1〜5分間の結晶成長及び特性向上のための第2の熱処理の組み合わせ)を用いることができる。なお、水熱法の場合には、膜形成時に圧電体膜が得られる。
【0034】
使用することのできる圧電体は、特に限定されないが、高圧電性を有する圧電体が得られる点で、3成分系PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)が好ましく、例えば、一般式(1):
Pb1+x〔(Zr)a(Ti)b(BdB’e)c〕O3+x
(式中、B及びB’は、2価金属イオンと5価金属イオンとの組み合わせ、2価金属イオンと6価金属イオンとの組み合わせ、又は3価金属イオンと5価金属イオンとの組み合わせであり、x、a、b、c、d及びeは以下の関係:
0≦x≦0.3、
0.25≦a≦0.55、
0.35≦b≦0.55、
0.05≦c≦0.04であり、
そして、B及びB’が、2価金属イオンと5価金属イオンとの組み合わせの場合には
0.31<d<0.35、
0.63<e<0.7、
0.94<d+e<1.05であるか、
あるいは、B及びB’が、3価金属イオンと5価金属イオンとの組み合わせ、又は2価金属イオンと6価金属イオンとの組み合わせの場合には
0.47<d<0.53、
0.47<e<0.53、
0.94<d+e<1.06である)
で表される3成分系PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)が好ましい。前記の一般式(1)において、2価金属イオンBは、例えば、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、マンガン(Mn)、又はニッケル(Ni)であり、3価金属イオンBは、例えば、イットリウム(Y)、鉄(Fe)、スカンジウム(Sc)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、インジウム(In)、又はクロム(Cr)であり、5価金属イオンB’は、例えば、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、又はアンチモン(Sb)であり、6価金属イオンB’は、例えば、タングステン(W)、又はテルル(Te)である。更に、インクジェット記録用プリンタヘッドのインク噴射特性を向上させるためには、第3成分、すなわち、前記一般式(1)におけるB及びB’を好ましくは5モル%以上、より好ましくは5〜40モル%含み、圧電歪み定数の高い3成分系PZTを用いる。上述した第3成分を5モル%以上含んだ3成分系PZTの場合、前述の酸素雰囲気中での熱処理温度(結晶成長及び1または特成向上のための)を700℃〜900℃にすることにより、より高い圧電性を有する圧電体が得られる。また、800℃以上であればより好ましい。
【0035】
圧電体膜105の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜5μmである。なお、酸化ジルコニウム膜103と下部電極104との間に、密着層用として金属膜を形成してある場合には、圧電体前駆体の加熱処理の際に、前記金属も同時に酸化される。
【0036】
次に、圧電体膜105をエッチング液(例えば、ホウ弗酸水溶液)で、下部電極104をエッチング液(例えば、王水水溶液)でパターンエッチングした後、圧電体膜105上に、上部電極106を薄膜形成法によって形成する。
【0037】
上部電極106は、インクジェット記録用プリンタヘッドなどのエレクトロニクスデバイスの製造において電極、特に上部電極として一般的に使用されている材料であれば特に限定されないが、具体的には、金、白金又はアルミニウムからなるのが好ましい。上部電極の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは500〜5000オングストロームである。
【0038】
図2には示さないが、場合により、圧電体膜105と上部電極106との間に、密着層用として、例えばチタン層を薄膜形成法によって形成して、圧電体膜105と上部電極106との密着性を向上させるのが好ましい。密着層用金属膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは50〜300オングストロームである。上部電極形成後は、高温処理を必要とせず、充分な密着力が得られるので、特に前記チタン層を酸化する必要はない。
【0039】
密着層用金属膜と上部電極106とをスパッタリング法で順に形成し、続いてエッチング液(例えば、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液)でパターンエッチングする。圧電体膜105の上に上部電極106を形成してからパターンエッチングして得られる積層体の構造を図2(b)に示す。また、不活性ガスを用いた、イオンミリング法によっても同様の積層体を得ることができる。
【0040】
その後、図2(c)に示すように、圧電体膜105の保護膜204として、例えば、ポリイミド形成用の感光性モノマー層を厚み0.3〜5μmに形成し、上部電極106上の保護膜を現像により取り除いた後、300〜450℃で熱処理を行いポリイミド層とする。
【0041】
次に、保護膜204を形成した圧電体素子側の面がエッチング液に接触せず、反対側の珪素基板側の面のみをエッチング液に接触させることのできる治具を用いて、70〜90℃の異方性エッチング液(例えば、10〜40%水酸化カリウム水溶液)に浸漬し、二酸化珪素膜202の開口部203から単結晶珪素基板101の異方性エッチングを行い、インク室102を形成する。この時、単結晶珪素基板101の面方位が(110)であり、更に開口部203の奥行き方向が
【0042】
【外2】
【0043】
方向となるように配置してあるので、インク室102の奥行き方向の辺を形成する側壁の面を(111)面とすることができる。
【0044】
異方性エッチング液として水酸化カリウム水溶液を用いた場合、単結晶珪素の(110)面と(111)面のエッチング速度の比は300:1程度となり、単結晶珪素基板101の厚み250μmの深さの溝をサイドエッチング1μm程度に抑えることができるので、インク室102を高精度に形成することができる。引き続き、単結晶珪素基板101を前記治具に固定したまま、二酸化珪素膜202,201の露出部をエッチング液(例えば、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液)でエッチング除去する。
【0045】
このエッチング処理において、酸化ジルコニウム膜103は、インク室102形成時の二酸化珪素膜201のエッチング停止層として優れており、酸化ジルコニウム膜103がない場合に比べて、格段に製造歩留まりを向上することができる。
【0046】
更に、非安定化酸化ジルコニウムは、酸化マグネシウムや酸化イットリウムによって安定化された酸化ジルコニウムよりも、ヤング率が高くなり、インクの噴射特性も向上する。
【0047】
純粋な酸化ジルコニウム(ジルコニア)は、温度変化に応じて結晶構造を変化させることが知られている。すなわち、常温から約1000℃の温度範囲では単斜晶系(六方晶系とも呼ぶ)、それ以上の温度から約1900℃以下の温度範囲では正方晶系、それ以上の温度から約2700℃(融点)以下の温度範囲では立方晶系となる。従って、本発明方法における酸化ジルコニウム膜形成後の加熱処理(1050〜1200℃)、例えば、密着層や下部電極の形成工程の前後で、結晶系が単斜晶系と正方晶系とに変化する。
【0048】
また、正方晶系の酸化ジルコニウムは、単斜晶系の酸化ジルコニウムよりも約3%体積が小さくなり、単斜晶系/正方晶系の転移温度を挟んで温度を上下させる熱処理を実施すると、体積変化は、熱処理温度に対してヒステリシスを示すため、酸化ジルコニウム結晶に歪みが入ることが既に知られている。すなわち、バルクセラミックスの酸化ジルコニウムに、結晶構造が変化するような熱サイクルを与えると、体積収縮に伴う割れが発生してしまい、使用可能な製品を得ることができない。このため、バルクセラミックスでは、一般的に、高温型の立方晶系として常に存在するように、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、又は酸化セリウム等を1モル%〜30モル%の量で固溶させて、室温でも立方晶系を有する安定化ジルコニアを用いている。
【0049】
しかし、本発明のように、単結晶珪素基板上に薄膜状の酸化ジルコニウム膜を形成した場合は、酸化ジルコニウムの体積膨張エネルギーを、珪素基板が反ることにより吸収することができるので、酸化ジルコニウム膜の割れの発生を防ぐことができる。すなわち、安定化していない酸化ジルコニウムは、1000℃以上の正方晶系の熱的に安定な状態から、降温冷却する際に、単斜晶系に結晶相転移を起こし、体積が膨張する。そのため、単結晶珪素基板は、酸化ジルコニウム膜から引張応力を受ける。 一方、安定化ジルコニアを1000℃以上の高温から冷却した場合には、結晶相転移を伴わないため、単結晶珪素基板は、熱膨張率(安定化ジルコニアの方が珪素より熱膨張率が大きい)にのみ依存して強い圧縮応力を受ける。圧電体薄膜を形成する工程において、圧電体膜を結晶化して、高い圧電特性を得るためには、800℃以上の熱処理が必要不可欠であるが、下部電極と圧電体膜の熱膨張係数が単結晶珪素基板に比べて大きいため、安定化ジルコニア層を用いる場合も用いない場合も、高温から冷却した時に、単結晶珪素基板は強い圧縮応力を受ける。
【0050】
本発明は、前記の原理を利用したものであり、いわゆる安定化していない酸化ジルコニウム膜を単結晶珪素基板と下部電極との間に介在させることにより、圧電体素子形成後の単結晶珪素基板にかかる残留応力を低減することができ、しかも製品中に形成される酸化ジルコニウム膜を振動板材料として用いることができる。
【0051】
一般に、インクジェット記録用プリンタヘッドの製造工程においては、前記のように各種の熱処理を実施するので、珪素基板と膜構造全体(上部電極、圧電体膜及び下部電極振動板)との熱膨張係数の差異などにより、両者の間に強い応力がかかる。膜構造全体における残留応力が大きい場合には、インク室形成時に珪素基板がエッチングによって削られると、振動板部の応力変化が大きく、振動板部に破壊が発生する。しかし、本発明においては、膜構造全体での残留応力が少ないので、インク室形成時にも振動板部(酸化ジルコニウム膜)における応力破壊による不良を防ぐことができる。
【0052】
更に、一般に、インクジェット記録用プリンタヘッドにおいては、インク噴射時に振動板部を振動させるため、振動板部に応力変化が発生する。この際、振動板部に高い残留応力が存在すると、その残留応力とインク噴射時の応力とが膜の破壊応力限界を超えてしまうことがあり、プリンタヘッドとしての耐久性が低下する。しかし、本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドでは、前記の残留応力が少ないので、酸化ジルコニウム膜を含めた駆動部の変位動作に対する耐久性を飛躍的に向上することができる。
【0053】
本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドは、前記のように、酸化ジルコニウム膜を形成した後に、前記酸化ジルコニウム膜の結晶構造が単斜晶系から正方晶系に転移する温度より高温(好ましくは1050℃以上、より好ましくは1150℃以上)で熱処理を実施することによって製造することもできるが、後述するように、金属ジルコニウム膜を成膜する工程と、酸素を含む雰囲気中にて、前記酸化ジルコニウム膜の結晶構造が単斜晶系から正方晶系に転移する温度より高温(好ましくは1050℃以上、より好ましくは1150℃以上)で酸化して、前記金属ジルコニウム膜を前記酸化ジルコニウム膜に変換する工程を実施することによって製造することもできる。後者の場合には酸化反応によって酸化ジルコニウム膜が形成されるので、ピンホールの少ない緻密な膜を得ることができると共に、製造工程において前記の結晶層転移による体積膨張に加えて、金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの体積膨張を利用することもできる。
【0054】
こうして得られた本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドは、貫通孔を有する単結晶珪素基板;その珪素基板の貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板表面に直接接触するか又はその珪素基板表面の二酸化珪素層に直接接触する酸化ジルコニウム膜(好ましい膜厚=0.1〜2μm);その酸化ジルコニウム膜上の下部電極(好ましい膜厚=1000〜10000オングストローム);場合により、前記酸化ジルコニウム膜と前記下部電極との間の密着層(好ましい膜厚=0〜1000オングストローム);前記下部電極上の圧電体膜(好ましい膜厚=0.5〜5μm);その圧電体膜上の上部電極(好ましい膜厚=500〜5000オングストローム);場合により、前記圧電体膜と前記上部電極との間の密着層(好ましい膜厚=0〜300オングストローム)からなり、前記酸化ジルコニウム膜の結晶構造が常温で単斜晶系である。前記の比較的厚い単斜晶系酸化ジルコニウム膜は、振動板として作用する。
【0055】
また、本発明による前記インクジェット記録用プリンタヘッドにおいては、前記下部電極の厚みより、前記単斜晶系酸化ジルコニウム膜の厚みの方が厚いことが好ましい。すなわち、両者の厚みの比(単斜晶系酸化ジルコニウム膜の厚み/下部電極の厚み)が1以上(特には1〜10)であると、前記と同様の理由により、インク室形成前の単結晶珪素基板の残留応力、振動板の製造歩留まり、及びヘッド駆動の耐久性が向上する。
【0056】
更に、本発明による前記インクジェット記録用プリンタヘッドにおいては、前記単斜晶系酸化ジルコニウム膜を構成する酸化ジルコニウムの平均結晶粒径が500〜3000オングストロームであることが好ましい。平均結晶粒径が前記の範囲内にあると、ヘッド駆動の耐久性が向上する。なお、平均結晶粒径は、熱処理温度、熱処理時間、及び/又は熱処理時の雰囲気ガス等を変化させることにより適宜調整することができる。
【0057】
次に、本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの製造において、単結晶珪素基板と下部電極との間に設けた金属ジルコニウム膜のジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張を利用する方法について、添付図面に添って説明する。
【0058】
図3は、本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの一実施態様を模式的に示し、図3(a)は本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドの概略斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A’線断面拡大図である。
【0059】
図3に示す本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドも、複数個のインク室102を有する単結晶珪素基板101;その単結晶珪素基板101上に形成された二酸化珪素膜201;前記インク室102の底面を形成して二酸化珪素膜201上に形成された酸化ジルコニウム膜103;前記酸化ジルコニウム膜103の上に形成された下部電極104と、前記下部電極104の上に形成された圧電体膜105と、前記圧電体膜105の上に形成された上部電極106とからなる圧電体素子;及びノズル108を形成するノズル板107を接合して構成されている。インク室102とノズル108は、同一のピッチで配置されている。
【0060】
このインクジェット記録用プリンタヘッドの動作を簡単に説明すると、下部電極104と上部電極106の間に電圧を印加し、下部電極104と圧電体膜105と上部電極106とよりなる圧電体素子、及び酸化ジルコニウム膜103を変形させることにより、インク室102の体積を減少させ、インク室102内に充満しているインクを、ノズル108より噴射させることができる。
【0061】
図4は、ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張を利用して、本発明のインクジェット記録用プリンタヘッドを製造する代表的な方法を、単結晶珪素基板101に圧電体素子及びインク室102を形成するまでの製造工程として、工程順〔(a)〜(c)〕に示す断面図である。なお、この断面図において、紙面に垂直な方向がインク室の奥行き方向となる。
はじめに、前記の方法と同様に、面方位(110)を有する単結晶珪素基板101を1000〜1200℃で湿式熱酸化するか又はCVDによって、基板101の両面に二酸化珪素膜201,202を形成する。二酸化珪素膜201,202の厚みは、特に限定されないが、前記と同様に好ましくは4000〜10000オングストロームである。単結晶珪素基板101を酸化せずに、単結晶珪素基板101上に直接、後記の金属ジルコニウム膜103を形成するか、あるいは一度形成した二酸化珪素膜201をエッチングなどで除去してから、後記の酸化ジルコニウム膜103を単結晶珪素基板101上に直接、形成することもできる。そして、通常のフォトリソ工程により二酸化珪素膜201,202両面にフォトレジストを形成し、二酸化珪素膜202上のフォトレジストに所望のパターンを形成する。
【0062】
得られた基板を、エッチング液(例えば、弗酸と弗化アンモニウムとを含む水溶液)に浸漬し、二酸化珪素膜202をパターンエッチングし、開口部203を形成する。この時、開口部203の奥行き方向、すなわち紙面に垂直な方向を単結晶珪素基板101の
【0063】
【外3】
【0064】
方向となるように配置する。
【0065】
得られた基板を、80〜90℃の剥離液(例えば、硫酸)に浸漬してフォトレジストを剥離した後、二酸化珪素膜201側に、金属ジルコニウム膜103を、薄膜形成法、特には直流スパッタ法により形成する。金属ジルコニウム膜の膜厚は、金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへ変換することによる体積膨張が本発明の目的に適っている限り限定されるものではない。特に、圧電体膜形成前に金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化工程を実施する場合には、前記の膜厚は限定されない。一方、圧電体前駆体から圧電体への変換工程を実施するまでは、金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化工程を実施しない場合には、金属ジルコニウム膜の膜厚は、約50〜約300オングストロームであることが好ましい。以下、後者の場合に沿って本発明方法を説明する。
【0066】
金属ジルコニウム膜103の形成後に、下部電極104を、薄膜形成法、特には直流スパッタ法により形成する。下部電極の膜厚は、特に限定されるものではないが、0.2〜2μmであることが好ましい。
【0067】
図4には示さないが、場合により、金属ジルコニウム膜からの酸化により形成される酸化ジルコニウム膜103と下部電極104との密着性を向上するために、金属ジルコニウム膜103と下部電極104の間に、薄膜形成法により、前記と同様の密着層用金属膜を挿入することができる。
【0068】
次に、下部電極104の上に、圧電体前駆体膜を積層する。この前駆体膜は、前記と同様に、薄膜形成法によって成膜し、使用した薄膜形成法に応じて、結晶化温度や処理時間を適宜調整して加熱処理を実施し、前駆体膜から圧電体膜105に変換することができる。
【0069】
一方、この熱処理において、金属ジルコニウム膜103は、酸化されて酸化ジルコニウム膜103になり、その膜厚もほぼ倍増する。金属ジルコニウム膜103を存在させないで前記と同様の熱処理を実施すると、この熱処理中に下部電極104が二酸化珪素膜201より剥離する。また、金属ジルコニウム膜103の変わりに、例えば金属チタン膜を用いて前記と同様の熱処理を実施すると、圧電体としてPZTを用いた場合には、PZTから拡散した鉛により、二酸化珪素膜201が溶融し、やはり下部電極の一部領域に剥離が生じる。従って、酸化ジルコニウム膜103は、下部電極104と二酸化珪素膜201との密着層として作用すると共に、鉛拡散防止膜としても作用している。なお、金属ジルコニウム膜103と下部電極104との間に、密着層用金属膜を挿入してある場合には、前記の熱処理において、前記密着層用金属膜も酸化される。
【0070】
次に、圧電体膜105上に、薄膜形成法によって上部電極106を形成する。上部電極106の膜厚は、特に限定されるものではないが、500〜5000オングストロームであることが好ましい。
【0071】
図4には示さないが、場合により、圧電体膜105と上部電極106の密着性を向上するために、圧電体膜105と上部電極106の間に、密着層用金属膜を挿入することができる。この密着層用金属膜は、特に酸化する必要はない。
【0072】
次に、通常のフォトリソ工程と、例えば、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を用いた、イオンミリング法を用いることにより、順次、上部電極106、圧電体膜105、及び下部電極膜104を所望の形状に加工し、図4(b)に示す断面形状の積層体を得ることができる。また、エッチング液を用いたパターンエッチングによっても同様の積層体を得ることができる。
【0073】
その後、図4(c)に示すように、圧電体膜105の保護膜204として、例えば、ポリイミド形成用の感光性モノマー層を厚み0.3〜5μmに形成し、上部電極106上の保護膜を現像により取り除いた後、300〜450℃で熱処理を行いポリイミド層とする。
【0074】
その後の操作及び条件などは、前記の結晶相転移による体積膨張を利用する方法において記載した操作及び条件と同様であり、保護膜204を形成した圧電体素子側の面を治具により保護し、水酸化カリウム水溶液に浸漬し、二酸化珪素膜202の開口部203から単結晶珪素基板101の異方性エッチングを行い、インク室102を形成する。引き続き、単結晶珪素基板101を前記治具に固定したまま、二酸化珪素膜202,201の露出部を異方性エッチング液でエッチング除去する。
【0075】
金属ジルコニウム膜の熱酸化により形成した酸化ジルコニウム膜103は、緻密であるため、インク室102形成時の二酸化珪素膜201のエッチング停止層として優れている。
【0076】
金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張を利用する前記の方法において、下部電極、圧電体、上部電極、及び密着層の形成に使用する材料は、それぞれ、前記の結晶相転移による体積膨張を利用する方法において使用する材料と、同じものであることができる。
【0077】
金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張を利用する前記の方法により、熱処理に伴う単結晶珪素基板の体積変化と下部電極及び圧電体膜の体積変化との差異に基づいて前記単結晶珪素基板に負荷される応力を軽減することができる理由は以下のとおりである。すなわち、下部電極及び圧電体膜を担持する単結晶珪素基板に対して加熱処理を実施すると、単結晶珪素基板と、下部電極及び圧電体膜では熱膨張係数が異なるので、体積の膨張及び収縮の程度が異なり、例えば高温状態から低温状態へ冷却される際に、単結晶珪素基板と下部電極及び圧電体膜とは相互に強い応力を受け、下部電極などには体積収縮により割れが発生してしまう。
【0078】
しかし、本発明方法においては、単結晶珪素基板と下部電極との間に金属ジルコニウム膜を設け、前記の加熱処理の際に、同時に金属ジルコニウムを酸化ジルコニウムへ酸化して体積を膨張させるので、単結晶珪素基板と下部電極及び圧電体膜との体積変化によって生じる応力を相殺することができる。しかも、酸化の結果として製品中に形成される酸化ジルコニウム膜は、薄膜形成法によって直接に形成された酸化ジルコニウム膜と比較すると、緻密性が高いので、単結晶珪素基板又は二酸化珪素膜のエッチング停止層としても、一層優れている。
【0079】
圧電体前駆体膜から圧電体膜への変換工程と、金属ジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化工程とを同時に実施する本発明方法によって得られた本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドは、貫通孔を有する単結晶珪素基板;その珪素基板の貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板表面に直接接触するか又はその珪素基板表面の二酸化珪素層に直接接触する酸化ジルコニウム膜;その酸化ジルコニウム膜上の下部電極;場合により、前記酸化ジルコニウム膜と前記下部電極との間の密着層;前記下部電極上の圧電体膜;その圧電体膜上の上部電極;場合により、前記圧電体膜と前記上部電極との間の密着層からなり、前記酸化ジルコニウム膜の膜厚が、100〜600オングストローム、好ましくは150〜450オングストロームの範囲内にある。酸化ジルコニウム膜の膜厚が100オングストローム未満になると、下部電極と酸化ジルコニウム膜との密着力が低下する。膜厚が600オングストロームを越えると、酸化時の体積膨張に耐えられなくなり、下部電極の剥離が多くなる。150〜450オングストロームの範囲内になると、下部電極の剥離が起きる確率が大幅に減少する。なお、この場合、酸化ジルコニウム膜が、安定化されていない酸化ジルコニウムから構成されている必要はない。
【0080】
下部電極の膜厚は、振動板として作用することのできる膜厚である限り、特に限定されるものではないが、好ましくは0.2〜2μmである。圧電体膜の膜厚も、その機能を発揮することができる限り、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜5μmである。上部電極の膜厚は、特に限定されるものではないが、好ましくは500〜5000オングストロームである。
【0081】
以上のとおり、本発明の技術をインクジェット記録用プリンタヘッドに利用する場合に関して説明したが、本発明の技術は、一般にアクチュエータに利用することもできる。従って、本発明は、貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その珪素基板の貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板表面に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層に直接接触する酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むアクチュエータにも関する。本発明によるアクチュエータは、インクジェット記録用プリンタヘッドの他に、例えば、マイクロホン、発音体(例えば、スピーカー)、各種の振動子若しくは発振子、又はセンサーなどに用いることができる。
【0082】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0083】
<実施例1>
図2に示す方法で本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドを製造した。インク室102の配列方向の長さ〔図2の紙面の左右方向〕を100μm、その奥行き方向〔図2の紙面と垂直の方向〕の長さを4mmとし、圧電体膜の配列方向〔図2の紙面の左右方向〕の長さは80μmとし、インク室上に形成した。インク室の配列方向のピッチは141μmとし、解像度を80dpi(ドット・パー・インチ)とした。
【0084】
次に、図2の(a)〜(c)に沿って、製造工程を具体的に説明する。
【0085】
面方位(110)を有する単結晶珪素基板101を1200℃で湿式熱酸化し、基板101の両面に厚み8000オングストロームの二酸化珪素膜201,202を同時に形成した。そして、二酸化珪素膜202にフォトレジストを形成し、開口部を設け、二酸化珪素膜202を、弗酸と弗化アンモニウムとを含む水溶液でパターニングし、開口部203を形成した。この時、開口部203の奥行き方向、すなわち紙面に垂直な方向を単結晶珪素基板101の
【0086】
【外4】
【0087】
方向とした。フォトレジストを剥離した後、二酸化珪素膜201側に、膜厚1μmの酸化ジルコニウム膜103を酸化ジルコニウムの焼結体スパッタリングターゲットを用いて、高周波スパッタリング法により形成した。その後、空気中で1100℃にて1時間の熱処理を実施した。この時、酸化ジルコニウム膜付きの基板の反りを測り、残留応力を計算したところ、単結晶珪素基板101は、酸化ジルコニウム膜103から2×10−8N/m2と小さい引張応力を受けていた。ここで、酸化ジルコニウム膜103は、室温での結晶構造を単斜晶系とするために酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化イットリウム、又は酸化セリウム等の不純物を1モル%以上固溶していない、いわゆる非安定化ジルコニアとした。
【0088】
次に、酸化ジルコニウム膜103上に、下部電極104及び圧電体膜105を積層し、図2(a)に示す断面形状を有する積層体を得た。
【0089】
実際には、酸化ジルコニウム膜103と下部電極104の間に、密着層としてチタン膜を50オングストロームの膜厚で形成した。密着層用チタンと下部電極104としての白金は、直流スパッタリング法により、2層を連続して形成し、膜厚は、それぞれ50オングストローム、及び2000オングストロームとした。更に、圧電体膜105は、膜厚2μmの3成分系PZT〔PbZrO3−PbTiO3−Pb(Mg1/3Nb2/3)O3〕とし、その製法には、PZTの焼結体スパッタリングターゲットを使った、高周波スパッタ法を用いた。基板加熱を行わずに高周波スパッタリング成膜を行い、アモルファスのPZT前駆体膜を成膜し、その後、酸素雰囲気中で650℃にて1分間及び900℃にて1分間の急速熱処理により、結晶化して、圧電性を示すPZT膜に変換した。
【0090】
続いて、圧電体膜105をホウ弗酸水溶液で、そして下部電極104を王水水溶液でそれぞれパターンエッチングした後、スパッタリング法により、チタン膜(厚み=50オングストローム)及び上部電極106としての金膜(厚み=2000オングストローム)を、この順に形成し、ヨウ素とヨウ化カリウムとの水溶液でパターンエッチングを行い、図2(b)に示す断面形状とした。
【0091】
その後、図2(c)に示すように、圧電体膜105の保護膜204として、感光性モノマー層を厚み2μmで形成し、上部電極106上の保護膜を現像により取り除いた後、400℃で熱処理を行ってポリイミド層を形成した。次に、保護膜204を形成した圧電体素子側の面をポリプロピレン製円筒状治具(WO93/22140号公報の図3に記載の治具)により保護し、80℃の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、二酸化珪素膜202の開口部203から単結晶珪素基板101の異方性エッチングを行い、インク室102を形成した。この時、単結晶珪素基板101の面方位が(110)であり、更に開口部203の奥行き方向が
【0092】
【外5】
【0093】
方向であるから、インク室102の奥行き方向の辺を形成する側壁の面を(111)面とすることができ、単結晶珪素基板101の厚み250μmの深さの溝をサイドエッチング1μm程度に抑えることができた。
【0094】
続いて、単結晶珪素基板101を前記治具に固定したまま、二酸化珪素膜202,201の露出部を、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液でエッチングして除去した。この時、酸化ジルコニウム膜103の振動板の割れに対する製造歩留まりは98%と良好であった。
【0095】
酸化ジルコニウム膜103は、インク室102形成時の二酸化珪素膜201のエッチング停止層として優れており、酸化ジルコニウム膜103がない場合に比べて、格段に本エッチング工程の製造歩留まりを向上することができた。更に、非安定化の酸化ジルコニウムは、酸化マグネシウムや酸化イットリウムによって安定化された酸化ジルコニウムより、ヤング率が高くなり、インクの噴射特性も向上した。
【0096】
前記実施例では、酸化ジルコニウム膜に、結晶構造が単斜晶系の非安定化ジルコニア膜を用いたが、酸化ジルコニウム膜中に酸化イットリウムを5モル%固溶した半安定化ジルコニア膜を用いて前記方法と同様に製造した場合には、単結晶珪素基板101に、インク室102を形成したときに、薄肉部(酸化ジルコニウム膜と、下部電極で構成される部分)に割れが多発し、製造歩留まりが30%と極めて悪かった。また、前記半安定化ジルコニア膜は、X線回折法により結晶構造が単斜晶系と立方晶系の混在であることが判った。
【0097】
<実施例2>
下部電極104の厚みと酸化ジルコニウム膜103の厚みとの比(酸化ジルコニウム膜の厚み/下部電極の厚み)を種々に変化させること以外は、前記実施例1と同様の操作を繰り返して各種のインクジェット記録用プリンタヘッドを調製し、インク室形成前の単結晶珪素基板の残留応力、振動板の製造歩留まり、及びヘッド駆動の耐久性試験を行った。具体的には、下部電極の厚みを2000オングストロームに固定し、酸化ジルコニウム膜の膜厚だけを変化させた。残留応力は、インク室形成前の単結晶珪素基板の反り測定から計算により求めた。振動板の製造歩留まりは、振動板の割れの有無によって判定し、良品/全数の比率(%)で示した。耐久性試験は、圧電体素子に、パルス幅1ミリ秒で、電圧30Vのパルス電圧を1×108回印加し、その前後での歩留まりで評価した。歩留まりは、下部電極及び酸化ジルコニウム部の割れの有無によって判定し、良品/全数の比率(%)で示した。
【0098】
結果を判定結果と共に表1に示す。表1において、残留応力の正負の記号は、圧縮応力を−符号、引張応力を+符号にて示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、残留応力と、振動板製造歩留まりと、耐久性歩留まりとには、相関関係が存在した。すなわち、厚みの比(酸化ジルコニウム厚み/下部電極厚み)が1以上であると、耐久性歩留まりが、概ね良好であった。この時、単結晶珪素基板にかかる残留応力は、弱い圧縮応力から引張応力の範囲内であった。
【0101】
<実施例3>
酸化ジルコニウム膜を構成する酸化ジルコニウムの平均結晶粒径を種々に変化させること以外は、前記実施例1と同様の操作を繰り返して各種のインクジェット記録用プリンタヘッドを調製し、実施例2と同様のヘッド駆動の耐久性試験評価を行った。その結果を表2に示す。結晶粒径は、熱処理温度、熱処理時間、及び/又は熱処理時の雰囲気ガス等を適宜調整して変化させた。
【0102】
【表2】
【0103】
表2に示すように、酸化ジルコニウム膜の平均結晶粒径が500〜3000オングストロームの場合に、耐久性歩留まりが良好であった。
【0104】
<実施例4>
酸化ジルコニウム膜形成後の熱処理温度を種々に変化させること以外は、前記実施例1と同様の操作を繰り返して各種のインクジェット記録用プリンタヘッドを調製し、実施例2と同様のヘッド駆動の耐久性試験評価を行った。その結果を表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
熱処理温度1050℃以上で、耐久性歩留まりが比較的良好であり、1150℃以上で格段に良好になった。
【0107】
<実施例5>
本実施例では、実施例1での酸化ジルコニウム膜の形成方法を以下の形成方法に変更した。
【0108】
二酸化珪素膜201上に、金属ジルコニウムをスパッタリングターゲットとした直流スパッタ法により、ジルコニウム膜を5000オングストローム程度の厚みで成膜した。
【0109】
次に、拡散炉中で、純酸素を流しながら所定の温度で1時間、酸化熱処理を行い、膜厚1μmの酸化ジルコニウム膜104を得た。酸化熱処理温度を種々に変更して、インクジェット記録用プリンタヘッドを作成し、実施例2と同様の耐久性試験を行った。その結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
ジルコニウムの酸化は300℃程度で始まり、表4に示す酸化温度で酸化した膜は、全て、単斜晶系の酸化ジルコニウム膜であった。
【0112】
表4から明らかなように、金属ジルコニウムの酸化温度は、1050℃以上であることが比較的望ましく、1150℃以上であると、格段に優れた結果が得られた。
【0113】
また、熱酸化で、酸化ジルコニウム膜を形成した場合には、実施例1で述べた酸化ジルコニウムの製法に比較して、より緻密な膜が得られるので、インク室形成時の良好なエッチング停止層となると共に、ヤング率が大きくなりインクの噴射特性も向上した。
【0114】
<実施例6>
図3に示すような本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドを製造した。インク室102の配列方向の長さ〔図3(b)の紙面の左右方向〕を100μm、その奥行き方向〔図3(b)の紙面と垂直の方向〕の長さを4mmとし、圧電体膜の配列方向〔図3(b)の紙面の左右方向〕の長さは80μmとし、インク室上に形成した。インク室の配列方向のピッチは141μmとし、解像度を80dpi(ドット・パー・インチ)とした。
【0115】
次に、図4に沿って、製造工程を具体的に説明する。なお、図4の断面図において、紙面に垂直な方向がインク室の奥行き方向となる。
【0116】
厚み220μmの面方位(110)を有する単結晶珪素基板101を1100℃で湿式熱酸化し、基板101の両面に厚み0.8μmの二酸化珪素膜201,202を同時に形成した。
【0117】
そして、通常のフォトリソ工程により二酸化珪素膜201,202両面にフォトレジストを形成し、二酸化珪素膜202上のフォトレジストに所望のパターンを形成した。
【0118】
この基板を、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液に浸漬し、二酸化珪素膜202をパターンエッチングし、開口部203を形成した。この時、開口部203の奥行き方向、すなわち紙面に垂直な方向を単結晶珪素基板101の
【0119】
【外6】
【0120】
方向とした。
【0121】
この基板を80℃の硫酸に浸し、フォトレジストを剥離した後、二酸化珪素膜201側に、膜厚200オングストロームの金属ジルコニウム膜103を直流スパッタ法により形成した。次に、下部電極104として、膜厚0.8μmの白金層を、直流スパッタ法により形成した。更に、圧電体膜105は、膜厚2μmの3成分系PZT〔PbZrO3−PbTiO3−Pb(Mg1/3Nb2/3)O3〕とし、その製法には、PZTの焼結体スパッタリングターゲットを使った、高周波スパッタ法を用いた。基板加熱を行わずに高周波スパッタリング成膜を行い、アモルファスのPZT前駆体膜を成膜し、その後、酸素雰囲気中で750℃にて1時間の熱処理により、結晶化して、圧電性を示すPZT膜に変換した。同時に、この熱処理において、金属ジルコニウム膜103は、酸化されて酸化ジルコニウム膜になり、その膜厚も400オングストロームに倍増した。続いて、圧電体膜105上に、上部電極106として、膜厚0.1μmの金膜を直流スパッタ法にて形成した。
【0122】
次に、通常のフォトリソ工程と、アルゴンガスを用いたイオンミリング法を用いることにより、順次、上部電極106、圧電体膜105、及び下部電極膜104を所望の形状に加工し、図4(b)に示す断面形状とした。
【0123】
その後、図4(c)に示すように、圧電体膜105の保護膜204として感光性モノマー層を厚み2μmに形成し、上部電極106上の保護膜を現像により取り除いた後、400℃で熱処理を行ってポリイミド層を形成した。次に、保護膜204を形成した圧電体素子側の面を、前記実施例1で用いた治具により保護し、80℃の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、二酸化珪素膜202の開口部203から単結晶珪素基板101の異方性エッチングを行い、インク室102を形成した。この時、単結晶珪素基板101の面方位が(110)であり、更に開口部203の奥行き方向が
【0124】
【外7】
【0125】
方向であるから、インク室102の奥行き方向の辺を形成する側壁の面を(111)面とすることができ、単結晶珪素基板101の厚み220μmの深さの溝をサイドエッチング0.8μm程度に抑えることができた。
【0126】
続いて、単結晶珪素基板101を前記治具に固定したまま、二酸化珪素膜202,201の露出部を、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液でエッチング除去した。
【0127】
こうして、珪素基板と酸化ジルコニウム膜、及び酸化ジルコニウム膜と下部電極との密着性が各々良好で、膜剥がれのないインクジェット記録ヘッドを製造することができた。また、このヘッドを実施例2と同様の耐久性試験にかけたところ、80%以上の高歩留まりが得られた。
【0128】
<実施例7>
本実施例では、図5に示すように、二酸化珪素層を介することなく、単結晶珪素基板101上に直接金属ジルコニウム膜103を形成した。
【0129】
図6(a),(b),(c)に沿って製造工程を具体的に説明する。
【0130】
図6(a)に示すように、単結晶珪素基板101の両面に実施例6と同様にして、二酸化珪素膜201,202を形成した後、二酸化珪素膜202の面にのみ通常のフォトリソ工程にて、フォトレジスト401をパターン形成した。次に、前記フォトレジストのパターンが形成された基板を、弗酸と弗化アンモニウムとの水溶液中に浸すことにより、二酸化珪素膜201を全面エッチング除去すると同時に、二酸化珪素膜202をパターンエッチングした。
【0131】
その後、図6(b)に示すように、80℃の硫酸にて、フォトレジスト401を剥離した。次に、実施例6と同様にして、図6(c)に示すよう、酸化ジルコニウム膜103、下部電極104、圧電体膜105、及び上部電極106を順次形成した。
【0132】
最後に、実施例6と同様にして、インク室102と保護膜204を形成して、図5に示す構造体を得ることができた。
【0133】
こうして、珪素基板と酸化ジルコニウム膜、及び酸化ジルコニウム膜と下部電極との密着性が各々良好で、膜剥がれのないインクジェット記録ヘッドを製造することができた。また、このヘッドを実施例2と同様の耐久性試験にかけたところ、80%以上の高歩留まりが得られた。
【0134】
<実施例8>
金属ジルコニウムの膜厚を種々に変化させること以外は、前記実施例6と同様の操作を繰り返して素子を製造し、それらの素子の歩留りを評価した。
【0135】
下部電極、及び圧電体膜としては、それぞれ膜厚が0.8μmの白金層、及び膜厚が1.5μmの3成分系PZT(実施例6で使用したもの)を用いた。得られた素子の良否の判断は、PZT結晶化熱処理後の下部電極の密着性で評価し、下部電極に、剥離又は浮きの観察されるチップを不良とした。歩留り50%を境に○×で判定した。表5に結果を示す。
【0136】
【表5】
【0137】
金属ジルコニウム膜は、熱処理により、全てのサンプルで膜厚が倍になった。前記実験結果より、酸化ジルコニウム膜の好適な膜厚の範囲は、100〜600オングストロームであることが分かる。
【0138】
下部電極の厚みを0.2〜2μmとし、PZT圧電体膜の厚みを0.5〜5μmとして、前記と同様の試験を実施したところ、好適な酸化ジルコニウムの厚みの範囲は、同様に100〜600オングストロームであった。
【0139】
膜厚200オングストロームの金属ジルコニウムをあらかじめ熱酸化し、その後、下部電極、及びPZT膜を順次形成し、続いてPZTの結晶化熱処理を行った場合には、下部電極と酸化ジルコニウムの密着性が極めて悪く、下部電極が酸化ジルコニウム膜から全面剥離してしまった。
【0140】
前記実施例では、二酸化珪素膜が存在する構造体を使用したが、前記実施例7に示した二酸化珪素膜が存在しない構造体に対して同様の試験を実施したところ、酸化ジルコニウム膜の好適な膜厚の範囲は、100〜600オングストロームであった。
【0141】
<実施例9>
金属ジルコニウム膜と下部電極の間に更に密着層を追加すること以外は、前記実施例8と同様の操作を繰り返して素子を製造した。
【0142】
密着層用金属として、チタン、タンタル、アルミニウム、又は錫を用いた場合には、密着力が向上し、歩留りが1〜5ポイント向上した。
【0143】
これらの密着層をX線回折によって分析したところ、全て酸化物となっていた。特にタンタルの場合には、PZTから拡散した鉛と一部分が反応し、酸化タンタルと酸化タンタル鉛との合金となっていた。
【0144】
また、イリジウムを密着層用金属として用いた場合には、下部電極と同じ白金族に属することが原因であると想像されるが、特に密着力が高くなり、歩留りは7〜10ポイント向上した。
【0145】
前記の実施例6〜9においては、PZTの結晶化熱処理温度を750℃として試験を実施したが、使用するPZTの組成に応じて、高い圧電特性を得るための最適熱処理温度は、変化する。650〜850℃の範囲で、熱処理温度を種々に変化させて試験を実施したところ、前記の好適膜厚範囲の酸化ジルコニウム膜を用いた場合には、下部電極の密着性には、問題はなかった。
【0146】
【発明の効果】
本発明によれば、インクジェット記録用プリンタヘッドを製造する際に、単結晶珪素基板と下部電極との間に、単斜晶系の酸化ジルコニウム膜又は金属ジルコニウム膜を設けることにより、前記製造工程での熱処理による温度変化に伴う単結晶珪素基板と下部電極及び圧電体膜などの体積変化の差異によって前記単結晶珪素基板に負荷される応力を、前記単斜晶系酸化ジルコニウム膜の結晶相転移による体積膨張、又はジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張によって低減することができる。従って、本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドでは、単斜晶系酸化ジルコニウム膜からなる振動板の割れが無く、耐久性の優れたインクジェット記録用プリンタヘッドを提供することができる。また、高い圧電特性を有する圧電体薄膜素子を一体的に形成することができるため、高密度で、インク噴射特性の優れたインクジェット記録用プリンタヘッドを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの一実施態様の概略斜視図(a)と、そのA−A’線断面拡大図である。
【図2】本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの一実施態様の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの別の一実施態様の概略斜視図(a)と、そのA−A’線断面拡大図である。
【図4】図3に示す本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの更に別の一実施態様の主要部の断面図である。
【図6】図5に示す本発明によるインクジェット記録用プリンタヘッドの主要部の製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
101・・・単結晶珪素基板
102・・・インク室
103・・・酸化ジルコニウム膜又は金属ジルコニウム膜
104・・・下部電極
105・・・圧電体膜
106・・・上部電極
107・・・ノズル板
108・・・ノズル
201,202・・・二酸化珪素膜
203・・・開口部
204・・・保護膜
401・・・フォトレジスト
Claims (11)
- 貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
製造工程における熱処理温度から常温への温度変化に伴う単結晶珪素基板の体積変化と下部電極及び圧電体膜の体積変化との差異によって前記単結晶珪素基板に負荷される応力を、前記酸化ジルコニウム膜の結晶相転移による体積膨張、又はジルコニウムから酸化ジルコニウムへの酸化による体積膨張によって低減することを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法。 - 貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する単斜晶系の酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
前記酸化ジルコニウム膜の形成後に、その酸化ジルコニウム膜の結晶構造が単斜晶系から正方晶系に転移する温度よりも高い温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法。 - 貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する単斜晶系の酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
金属ジルコニウム膜を成膜する工程と、酸素を含む雰囲気中にて、前記酸化ジルコニウム膜の結晶構造が単斜晶系から正方晶系に転移する温度よりも高い温度で熱処理して前記金属ジルコニウム膜を前記酸化ジルコニウム膜に変換する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法。 - 前記の熱処理温度が1050℃以上である請求項2又は3に記載の製造方法。
- 前記の熱処理温度が1150℃以上である請求項4に記載の製造方法。
- 前記下部電極上に、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体前駆体膜を形成する工程と、酸素を含む雰囲気中にて650℃以上の温度で熱処理して前記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体前駆体膜をジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体膜に変換する工程を更に含む請求項2〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
- 貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する膜厚100〜600オングストロームの酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
単結晶珪素基板上に直接、又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接、金属ジルコニウム膜を形成する工程と、その金属ジルコニウム膜上に下部電極を形成する工程と、その下部電極上に薄膜形成法にて、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体前駆体膜を形成する工程と、そのジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体前駆体膜が形成された基板を、酸素を含む雰囲気中にて熱処理し、前記ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体前駆体を結晶性のジルコン酸チタン酸鉛(PZT)圧電体に変換すると同時に、前記金属ジルコニウム膜を酸化ジルコニウム膜に変換する工程とを含むことを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法。 - 金属ジルコニウム膜を形成する工程の後で、金属ジルコニウム膜上に密着層用の金属膜を形成する工程を実施し、続いてその金属膜上に下部電極を形成する工程を実施する請求項7に記載の製造方法。
- 密着層用の金属膜が、チタン、タンタル、アルミニウム、錫、若しくはイリジウムからなる膜、又はそれらの混合物膜である請求項8に記載の製造方法。
- 熱処理温度が650〜850℃である請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
- 貫通孔を有する単結晶珪素基板と、その貫通孔の一方の開口部を覆うように珪素基板上に直接接触するか又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に直接接触する単斜晶系の酸化ジルコニウム膜と、その酸化ジルコニウム膜上の下部電極と、その下部電極上の圧電体膜と、その圧電体膜上の上部電極とを含むインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法であって、
金属ジルコニウム膜を前記珪素基板上又はその珪素基板表面の酸化珪素層上に成膜する工程と、酸素を含む雰囲気中で熱処理して前記金属ジルコニウム膜を前記酸化ジルコニウム膜に変換する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録用プリンタヘッドの製造方法。
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