JP3580195B2 - 断面形状が安定し機械的性質が良好なアルミニウムの略中空材の製造方法 - Google Patents

断面形状が安定し機械的性質が良好なアルミニウムの略中空材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、断面形状が安定し機械的性質に優れた中空材,セミ中空材等の押出形材を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
2000系,6000系,7000系等のアルミニウム合金は、機械的性質を調整するため、押出後に熱処理されることが多い。熱処理としては、押出後に別工程で溶体化処理した後、水焼入れを経て時効処理するT6処理,押出直後放冷することなく強制冷却して焼き入れ、すなわちダイス端焼入れし、次いで時効処理するT5処理等がある。T5処理は、押出直後の押出形材が保有している熱量を溶体化処理に利用しているので、T6処理に比較すると改めて溶体化処理の必要がなく、コスト的に有利な熱処理といえる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
T5処理における押出直後の焼入れ、換言すればダイス端焼入れは、押出形材の形状,合金成分・組成,押出速度を始めとする押出条件,設備的な制約等の影響を受け、不充分な焼入れ,押出形材の歪みによる断面形状の変形等の欠陥を発生させ易い。押出形材の変形を防止し且つ十分な焼きを入れるためには、それぞれの状態に応じて熱処理条件をきめ細かく管理することが必要になる。しかし、押出形材の形状,合金成分・組成,押出速度を始めとする押出条件,設備的な制約等は多岐にわたり、それに応じた多様の熱処理条件を個々の製品についてトライアンドエラーで実施している現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、押出直後の焼き入れ温度から形材温度が200℃までの温度域における冷却条件を適正化することにより、断面形状が安定化し、しかも良好な機械的性質をもつ押出形材を提供することを目的とする。
本発明の製造方法は、その目的を達成するため、6000系又は7000系の析出硬化型アルミニウム合金の略中空材を押し出した直後、押し出された略中空材の焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域において275×t×R≦α≦0.1×λ/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m2・℃),t:中空部の最大肉厚(m),R:要求される引張り強度に応じて定まる冷却速度(℃/分),λ:熱伝導率(W/m・℃)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような条件下で外表面からのみ略中空材を冷却し、その後に時効処理を施すことを特徴とする。
【0005】
6000系アルミニウム合金の一例としては、表1のNo.3に示すようなSi:0.6〜0.9質量%,Mg:0.8〜1.2質量%,Cu:0.1〜0.4質量%,Cr:0.04〜0.2質量%,Fe:0.1〜0.3質量%,Mn:0.1質量%以下,Zr:0.1質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Zn:0.05質量%以下,残部が実質的にAlの組成をもつ6000系アルミニウム合金が使用され、500℃以上の焼入れ温度からダイス端焼入れされる。この場合、冷却速度200℃/分以上で且つ55000×t≦α≦16/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m2・℃),t:中空部の最大肉厚(m)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような冷却条件を採用し、焼入れ後の略中空材を170〜210℃×1〜12時間で時効処理すると、Mg2Si,Al2Cu等の析出により310MPa以上の強度が付与される。
製造された略中空材は、高欄の手摺材,パワーブリッジの桁材,構造用大型角パイプ材等として使用される。なお、請求項2では、6000系のアルミニウム合金について表1のNo.3の合金例を示したが、合金No.1〜No.8がそれぞれ請求項の合金組成に適用できることは言うまでもない。
【0006】
7000系アルミニウム合金の一例としては、表1のNo.1に示すようなZn:5.5〜6.5質量%,Mg:0.6〜1.0質量%,Cu:0.05〜0.2質量%,Fe:0.1〜0.4質量%,Si:0.05〜0.2質量%,Zr:0.1〜0.2質量%,Mn:0〜0.3質量%,Cr:0〜0.2質量%,Ti:0.01〜0.1質量%,B:0.001〜0.01質量%,残部が実質的にAlの組成をもつアルミニウム合金が使用される。この場合、略中空材に押し出した直後、430℃以上の焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域を冷却速度50℃/分以上で且つ13750×t≦α≦15/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m2・℃),t:中空部の最大肉厚(m)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような冷却条件下で略中空材を冷却し、その後に110〜130℃×12〜36時間又は80〜110℃×3〜12時間+140〜170℃×5〜16時間で時効処理を施す。
製造された略中空材は、鉄道車両用構造材を始めとして強度及び軽量性が要求される各種構造体として使用される。なお、請求項3では、7000系のアルミニウム合金について表1のNo.1の合金例を示したが、合金No.1〜No.3がそれぞれ請求項の合金組成に適用できることは言うまでもない。
【0007】
【作用】
押出後の冷却過程で押出形材に発生する形状変形歪みは、冷媒が直接作用する形材表面と熱伝導により冷却される裏面,内部等との間に生じる温度差が原因である。具体的には、図1に示すように押出形材Mの押出方向に垂直な断面において表面Sに冷媒Cを吹き付けると、冷却初期は冷却面側が収縮する。このとき、非冷却面側に拘束されて冷却面側が自由に収縮できない。その結果、冷却面近傍に引張り応力が作用する。引張り応力のレベルが耐力を超えると、冷却面は降伏して伸びきった状態になる。その後の冷却過程における温度差の減少に伴って歪み分布は小さくなるものの、冷却面側に生じた塑性変形は面外変形量hとして残存する。
断面内の温度差が大きいほど、面外変形が発生し易く、面外変形量hが増加する傾向にある。そこで、押出直後の冷却過程で、押出形材Mの表面Sと中空部内部の裏面Bとの温度差を可能な限り小さくして冷却することが歪み防止に重要な要因となる。
【0008】
他方、押出形材に機械的強度を付与するためには、焼入れ時にMg,Si,Cu等を多量に固溶させ、後工程の時効処理で強度向上に有効な析出物量を確保することが必要である。Mg,Si,Cu等の固溶量を大きくし、且つ固溶状態を維持するためには、高温状態の押出形材を速い冷却速度で焼き入れることが要求される。
機械的強度向上のためには焼き入れ直後から強力に冷却することが要求されるが、強力な冷却は、押出形材Mの表面Sと裏面Bとの間の温度差を大きくして形状変形歪みを大きくする方向に作用する。本発明は、断面形状精度と機械的強度の向上との間で相矛盾する冷却条件を適正化することにより、断面形状が安定化し、しかも良好な機械的性質をもつ押出形材の製造を可能にした。
【0009】
本発明が対象とする析出硬化型アルミニウム合金には、2000系,6000系,7000系等のアルミニウム合金がある。これらのアルミニウム合金は、組成によって焼きが入る冷却速度が異なるため、本発明者等による実験結果から表1に示すように命名した合金種別の組成群に分類した。各組成群のアルミニウム合金は、表2に示す飽和冷却速度及び熱伝導率を示し、それぞれに適した条件下で人工時効処理される。なお、飽和冷却速度は、所定の冷却速度で焼入れした後、各時効条件で焼き戻したとき、材料のもつ最大引張強さの90〜95%を示したときの冷却速度で表した。
【0010】
Figure 0003580195
【0011】
Figure 0003580195
【0012】
製造される押出形材としては、形材の表面と裏面との間に温度差が生じ易い形状、具体的には形材表面は冷媒で直接冷却されるが裏面や内部が冷却され難い中空材やセミ中空材を対象としている。中空材には、目の字型や日の字型の断面形状をもつもの,部分的にリブが外面又は内面から突出したもの等がある。セミ中空材には、断面が完全にクローズされていないが内部に冷媒が入りづらく、表面と裏面との冷却条件が異なる断面構造をもつものがある。本件明細書では、これらを総称して「略中空材」という。
押出形材のサイズとしては、図1に示す押出方向に垂直な断面の幅Wが50〜600mmに範囲にあるものを対象として冷却条件と幅Wとの関係を調査した。肉厚に関しては、制限を設けなかった。
【0013】
本発明者等は、組成及び形状が種々異なる押出形材の機械的強度及び発生した歪みに関して得られた多量の実験データ及び解析結果から、次の経験則を導き出した。
(1)歪み発生の防止
2000系,6000系又は7000系材料をダイス端焼入れする際に発生する歪みは、組成に応じて定まる熱伝導率及び押出形材の断面において温度差の大きな部分、換言すれば肉厚の如何に依存していることが判った。図1で押出形材Mの幅Wに対する面外変形量hの比、すなわちh/Wとして表わされる平らさh/Wが0.1%以下を一つの目安とした場合、奪熱量に関係する押出形材Mと冷媒Cとの界面の熱伝達係数αを熱伝導率λ及び最大肉厚tとの関数f(t)として表示するとき、次式(1)を満足する値のとき平らさh/Wが0.1%以下の製品が得られることが判った。
α≦f(t,λ) ・・・・(1)
【0014】
(2)焼きが入る条件
焼きが入る条件は、押出形材Mの組成c,焼きが入りにくい厚肉部の最大肉厚t及び奪熱時の冷却速度Rに依存していることが判った。そして、本発明者等の調査・研究によるとき、奪熱量に関する熱伝達係数αが次式(2)を満足しているとき、押出形材Mに焼きが入ることが判った。
α≧f(c,t,R) ・・・・(2)
前掲した式(1)及び(2)は、何れも押出形材Mの温度が焼入れ温度〜200℃の温度域にあるときに成立していることが条件となる。図2は、式(1)及び(2)の関係を定性的に示したグラフである。
【0015】
図2は、焼入れ温度〜200℃の温度域で押出形材を冷却するとき、押出形材Mの最大肉厚tとの関係で定まる領域Aに熱伝達係数αがあれば、歪み発生がなく焼きの入った材料が得られることを意味する。すなわち、α=f(t,λ)とα=f(c,t,R)との交点tよりも最大肉厚tが薄いとき、略中空材を外表面からのみ熱伝達係数に合うように冷却すると、歪み発生が抑えられ且つ焼きが入ることを意味する。しかし、略中空材の最大肉厚tが交点tを超えると、歪みを発生させない条件で外表面だけの冷却では焼きが入らず、要求特性を満足する製品を得るためには略中空材の内部からも冷媒を用いた冷却が必要になる。
歪みに関しては肉厚tに依存した曲線α=f(t,λ)が定まるが、焼入れに関しては組成c,冷却速度R及び肉厚tに依存しているため曲線α=f(c,t,R)が変数に連動して変動する。
【0016】
(3)曲線α=f(t,λ)の確定
押出形材を焼入れ温度から形材温度が200℃まで冷却するに当たり、製品としての平らさh/Wを0.1%以下に設定すると、その限界の式は、多数の実験データを用いてα=f(t,λ)を定量化した結果、式(1)は式(3)に書き換えられる。ただし、αは熱伝達係数(W/m・℃)、λは熱伝導率(W/m・℃)、tは温度勾配が大きな部分の肉厚,すなわち最大肉厚(m)を示す。
α≦0.1×λ/t ・・・・(3)
したがって、冷却時の歪み発生は熱伝達係数α,熱伝導率λ及び最大肉厚tで定まることになり、式(3)が満足される条件下では冷媒を用いた冷却により平らさh/Wが0.1%を超える歪みが発生せず、製品の平らさh/Wが0.1%以下になる。
【0017】
(4)曲線α=f(c,t,R)の確定
押出形材に焼きが入る冷却速度を成分・組成との関係で調査したところ、焼入れ温度(2000系では450℃以上,6000系では500℃以上,7000系では430℃以上)から200℃までを冷却するときの飽和冷却速度Rは、表1に示すように6000系,2000系,7000系合金の組成cによって異なる。なお、飽和冷却速度Rは、ある組成のアルミニウム合金をある冷却速度で焼き入れた後、表2に示す各条件下で時効処理する、いわゆるT5処理により、当該材料のもつ最大引張強さの90〜95%を示すときの冷却速度と定義した。
【0018】
本発明者等による実験結果の一例として、表1に示した6000系のNo.3合金を540℃から焼き入れたときの冷却速度(℃/分)とT5処理(180℃×6時間の時効処理)後の引張強さ(MPa)との関係を図3に示す。多数の6000系合金を用いた実験データから式(2)を定量化すると、α≧275×t×Rが導き出される。表1に示した6000系のNo.3合金において、図3に示すように引張強さが飽和してくる飽和冷却速度R=200℃/分をRに代入すると、式(2)は式(4)に書き換えられる。
α≧55000×t ・・・・(4)
ただし、α:熱伝達係数(W/m・℃)
t:押出形材の最大肉厚(m)
【0019】
同様に表1に示した7000系のNo.1合金を470℃から焼き入れたときの冷却速度(℃/分)とT5処理(180℃×6時間の時効処理)後の引張強さ(MPa)との関係を図4に示す。多数の7000系合金を用いた実験データから式(2)を定量化すると、α≧275×t×Rが導き出される。表1に示した7000系のNo.1合金において、図4に示すように引張強さが飽和してくる飽和冷却速度R=50℃/分をRに代入すると、式(2)は式(5)に書き換えられる。
α≧13750×t ・・・・(5)
【0020】
冷却速度を200℃/分にして式(4)を満足する限り、表1に示した6000系のNo.3合金ではT5処理後の引張強さが310MPa以上になる。すなわち、最も焼きが入りにくい最大肉厚tの関数を基準とし、最大肉厚tの値で定まる熱伝達係数α以上が得られる冷却方法を採用するとき、最大肉厚部においても焼きが入ることになる。なお、図3から判るように当該合金種において要求される引張強さに応じて冷却速度Rを変えることができるので、式(4)は要求引張強さに応じて変動する。
図5は、6000系のNo.3合金の略中空材を冷却速度200℃/分で冷却した場合を例にとって式(3)及び(4)を具体化したグラフである。図5において、α=16/tとα=55000×tの交点tは約20mmである。したがって、6000系のNo.3合金の略中空材については、肉厚が20mm以上になる領域Bでは、中空部内側も冷媒を用いて冷却する必要があることが判る。他方、肉厚が20mm以下になると、外部からだけの冷却で良い。そして、そのときの奪熱量がA領域に入るような熱伝達係数で冷却すると、変形歪みが小さく平らさh/Wが0.1%以下になって焼きも入るため、T5処理だけで要求特性をもつ製品が得られる。
【0021】
他方、7000系のNo.1合金の略中空材を冷却速度50℃/分で冷却した場合、式(3)及び(4)は図6にグラフ化される。図6において、α=15/tとα=13750×tの交点tは約32mmである。したがって、7000系のNo.1合金の略中空材については、肉厚が32mm以上になる領域Bでは、中空部内側も冷媒を用いて冷却する必要があることが判る。他方、肉厚が32mm以下になると、外部からだけの冷却で良い。そして、そのときの奪熱量がA領域に入るような熱伝達係数で冷却すると、変形歪みが小さく平らさh/Wが0.1%以下になって焼きも入るため、T5処理だけで要求特性をもつ製品が得られる。
【0022】
式(3)は肉厚tを変数とする関数であるため合金組成cや冷却条件の影響を受けないが、式(4)は合金組成c及び冷却速度Rで変化する。たとえば、同じ6000系のNo.3合金であっても要求特性が引張強さ300MPaであると、図3にみられるように100℃/分の冷却速度で良い。そのとき、式(4)はα=27500×tになり、図5の場合よりも下方に移動し、交点tに当たる肉厚tの値が20mmより大きい方向にずれ、熱伝達係数αの許容範囲も広がる。このように、式(4)及び(5)は、押出形材に要求される機械的性質によって定まる冷却速度(本発明における冷却速度を計算するに当たっての形材温度の測定方法は、先端が尖った熱電対を形材表面に押し当て、表面から約1mm深さの温度を測定する)の数値に依存して変化する。
B領域の冷却方法は、略中空材の冷却では設備的に複雑になる。すなわち、略中空材外部表面の冷却はA領域と同様に実施されるが、中空材内部の冷却は、中空材内部に冷媒を供給し、且つ冷却後に冷媒を除去する工夫が必要になる。また、中空材内部が均一に冷却されるように冷媒を中空材内部に撒布する必要がある。
【0023】
次いで、本発明が対象の一つとする6000系のNo.3合金に含まれる合金成分,含有量等を説明する。
Si:0.6〜0.9質量%,Mg:0.8〜1.2質量%
ダイス端焼入れでSi,Mgをマトリックスに固溶させ、後工程の時効処理でMgSiを析出させることにより強度向上に働く合金成分である。必要強度を得るために、本発明ではSi含有量を0.6〜0.9質量%,Mg含有量を0.8〜1.2質量%の範囲に設定した。0.6質量%未満のSiや0.8質量%未満のMgでは、必要とする強度が時効処理後に得られない。逆に、0.9質量%を超えるSiや1.2質量%を超えるMgでは、押出性が低下し、生産性が悪くなる。
Cu:0.1〜0.4質量%
マトリックスを固溶強化すると共に、ダイス端焼入れで固溶したCuが後工程の時効処理でAlCuとなって析出し、強度を付与する合金成分である。Cuの作用は0.1質量%以上で顕著になるが、0.4質量%を超えるCu含有量では全面腐食が発生し易くなり、耐食性が低下する。
【0024】
Cr:0.04〜0.2質量%
再結晶粒の生成・成長を抑制する作用を呈し、押出直後の押出材表面に生じがちな再結晶粒層を抑制し、耐食性を向上させる。このような作用は0.04質量%以上のCr添加で顕著になるが、0.2質量%を超える過剰量のCrでは押出性が劣化し、腐食の起点になる粗大な金属間化合物が発生し易くなる。
Fe:0.1〜0.3質量%
Crと同様に押出直後の押出形材表面における再結晶粒の生成・成長を抑制するが、多量に含まれると腐食の起点になる粗大な金属間化合物が生じ易くなる。本発明の合金系ではFeを添加成分としている。しかし、過度にFe含有量を少なくすることは原料配合のコストが高くなるので、本発明においてはFe含有量の下限を0.1質量%に設定した。
【0025】
Mn:0.1質量%以下, Zr:0.1質量%以下
何れも必要に応じて添加される合金成分であり、Crと同様に再結晶粒の生成・成長を抑制する作用を呈する。しかし、表1に示した6000系のNo.3合金においては、分類上不純物扱いとしたが、No.4,No.5等ではMnを添加元素とした。
Ti:0.005〜0.1質量%, B:0.0001〜0.01質量%
鋳造結晶粒を微細化し、材質の均質化に有効な合金成分である。このような作用は、0.005質量%以上のTi及び0.0001質量%以上のBで顕著になる。しかし、0.1質量%を超えるTiや0.01質量%を超えるBでは、粗大なTi−B系金属間化合物が発生し易くなり、耐食性が劣化する。
Zn:0.05質量%以下
全面腐食を発生させる成分であり、押出形材の外観を悪化させることになるので、本発明においては6000系合金の全てに対しZn含有量を0.05質量%以下に規制した。
【0026】
押出直後の冷却条件:
6000系のアルミニウム合金では、押出直後の略中空材を焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域において275×t×R≦α≦0.1×λ/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m・℃),t:中空部の最大肉厚(m),R:冷却速度(℃/分),λ:熱伝導度(W/m・℃)]が満足される条件下で冷却する。この冷却により、Mg,Si,Cuがマトリックスに十分固溶し、後工程の時効処理で必要な強度付与に有効な析出量が確保される。また、断面形状の変形量も、平らさh/Wが0.1%以下に抑えられる。
6000系のNo.3合金の押出形材を200℃/分の冷却速度で冷却する場合、熱伝達係数α(W/m・℃)と中空材の最大肉厚t(m)との間に55000×t≦α≦16/tの関係が満足される熱伝達係数αが得られるように冷却条件を設定する。このように冷却条件を設定するとき、外面部の平らさh/Wが0.1%以下に抑えられた良好な断面形状をもつ中空材となり、しかも時効処理後に310MPa以上の引張強さが得られる。これに対し、α>16/tでは平らさh/Wが0.1%を超え、α<55000×tでは時効処理後に310MPa以上の引張強さが得られないことがある。要求される時効処理後の強度と肉厚が決まれば、6000系のNo.3合金では、図3に基づいて冷却速度を参酌して熱伝達係数αの範囲が計算で定まるので、その熱伝達係数αが得られるように冷却水量等の条件を設定する。
【0027】
時効処理:
ダイス端焼入れされた6000系のNo.3合金の略中空材を170〜210℃×1〜12時間で時効処理すると、MgSi,AlCu等が析出し、所定の機械的強度が付与される。強度付与に有効な析出を行わせるためには、170℃以上,1時間以上の時効処理が必要である。しかし、210℃を超える温度や12時間をこえる長時間加熱では、高温・長時間に見合った強度向上効果が得られず、却ってエネルギ損失や生産性低下の傾向がみられる。そして、図3のようなT5処理後の引張強さと冷却速度との関係は、表1の合金種種別ごとに別途求められているので、合金組成,最大肉厚及び要求強度が決まれば冷却速度が定まり、それに基づいて熱伝達係数αの範囲が計算できる。計算された熱伝達係数αを満足するような冷却方法を選定すると、歪みが少なく且つ時効処理後に要求強度を満足する略中空材が製造できる。
【0028】
7000系のアルミニウム合金では,次のように合金成分,含有量,熱処理条件等を規定する。
Zn:5.5〜6.5質量%,Mg:0.6〜1.0質量%
ダイス端焼入れでZn,Mgをマトリックスに固溶させ、後工程の時効処理でMg−Zn系化合物を析出させることにより強度向上に働く合金成分である。必要強度を得るために、7000系合金ではZn含有量を5.5〜6.5質量%,Mg含有量を0.6〜1.0質量%の範囲に設定した。5.5質量%未満のZnや0.6質量%未満のMgでは、必要とする強度が時効処理後に得られない。逆に、6.5質量%を超えるZnや1.0質量%を超えるMgでは、押出性が低下し、生産性が悪くなる。
Cu:0.05〜0.2質量%
マトリックスを固溶強化すると共に、ダイス端焼入れで固溶したCuが後工程の時効処理でAl−Cu−Mg系化合物となって析出し、強度を付与する合金成分である。Cuの作用は0.05質量%以上で顕著になるが、0.2質量%を超えるCu含有量では押出性が低下する。
【0029】
Fe:0.1〜0.4質量%,Si:0.005〜0.2質量%
鋳造中にAl−Fe−Si系化合物となって晶出し,押出加工で分散されることにより,押出材の再結晶粒の生成・成長を抑制する作用を呈し、耐応力腐食割れ性や機械的特性の向上に有効な合金成分である。再結晶粒の生成・成長抑制効果は、0.1質量%以上のFe及び0.005質量%以上のSiで顕著になる。また、Fe含有量を0.1質量%未満,Si含有量を0.005質量%未満に規制することは,原料配合のコストを上げることからも好ましくない。逆に、0.4質量%を超えるFeや0.2質量%を超えるSiでは、粗大な晶出物が生成し、押出性が低下しやすくなる。
Zr:0.1〜0.2質量%
鋳造時にマトリックスに固溶し,均質化処理でAl−Zr系化合物となって析出することにより押出材の再結晶粒の生成・成長を抑制する作用を呈し,耐応力腐食割れ性や機械的性質の向上に有効な合金成分である。再結晶粒の生成・成長抑制効果は、0.1質量%以上のZrで顕著になる。しかし、0.2質量%を超える過剰量のZrが含まれると、鋳造中に粗大な晶出物が生成し,押出材が低下する傾向がみられる。
【0030】
Mn:0.3質量%以下,Cr:0.2質量%以下
何れも必要に応じて添加される合金成分であり、均質化処理でAl−Mn系,Al−Cr系等の化合物となって析出し、押出材の再結晶粒の生成・成長を抑制し、耐応力腐食割れ性や機械的性質を向上させる。表1に掲げた7000系のNo.1合金ではMn,Crを不純物扱いとしたが、No.2合金ではMnを、No.3合金ではCrを必須成分とした。
Ti:0.01〜0.1質量%,B:0.001〜0.01質量%
鋳造結晶粒を微細化し、鋳造われを防止すると共に,後工程で均質化処理の効果を高める作用を呈する合金成分である。このような作用は、0.01質量%以上のTi及び0.001質量%以上のBで顕著になる。しかし、0.1質量%を超えるTiや0.01質量%を超えるBでは、粗大なTi−B系金属間化合物が発生し易くなり、耐食性が劣化する。
【0031】
押出直後の冷却条件:
7000系のアルミニウム合金では、押出直後の略中空材を焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域において275×t×R≦α≦0.1×λ/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m・℃),t:中空部の最大肉厚(m),R:冷却速度(℃/分),λ:熱伝導度(W/m・℃)]が満足される条件下で冷却する。この冷却により、Zn,Mg,Cuがマトリックスに十分固溶し、後工程の時効処理で必要な強度付与に有効な析出量が確保される。また、断面形状の変形量も、平らさh/Wが0.1%以下に抑えられる。
7000系のNo.1合金の押出形材を50℃/分の冷却速度で冷却する場合、熱伝達係数α(W/m・℃)と中空材の最大肉厚t(m)との間に13750×t≦α≦15/tの関係が満足される熱伝達係数αが得られるように冷却条件を設定する。このように冷却条件を設定するとき、外面部の平らさh/Wが0.1%以下に抑えられた良好な断面形状をもつ中空材となり、しかも時効処理後に400MPa以上の引張強さが得られる。これに対し、α>15/tでは平らさh/Wが0.1%を超え、α<13750×tでは時効処理後に400MPa以上の引張強さが得られないことがある。要求される時効処理後の強度と肉厚が決まれば、7000系のNo.1合金では、図4に基づいて冷却速度を参酌して熱伝達係数αの範囲が計算で定まるので、その熱伝達係数αが得られるように冷却水量等の条件を設定する。
【0032】
時効処理:
ダイス端で急冷された7000系のNo.1合金の略中空材を115〜125℃×12〜36時間又は80〜110℃×3〜12時間+140〜160℃×5〜16時間で時効処理すると、Mg−Zn系化合物,Al−Mg−Zn系化合物等が析出し、所定の機械的強度が付与される。設定範囲を下回る温度や時間の時効処理条件では、所定の機械的強度が得られない。逆に温度や時間が設定範囲を上回る時効処理条件では、温度上昇や長時間化に見合った強度向上効果がみられず、却ってエネルギ損失や生産性低下の原因になる。
【0033】
【実施例1】
本実施例は、高欄の手摺材を製造した例である。
表1に示した6000系のNo.3合金を所定組成に溶製したアルミニウム合金溶湯に脱ガス処理,微細化処理,脱滓処理を施した後、DC鋳造で直径355mmの鋳塊に鋳込んだ。得られた鋳塊の分析結果は、次の通りであった。
Si:0.67質量%,Fe:0.18質量%,Cu:0.35質量%,Mn:0.03質量%,Zr:0.01質量%,Mg:1.00質量%,Cr:0.08質量%,Zn:0.02質量%,Ti:0.01質量%,B:0.002質量%
マトリックスにCrを細かく分散させるため昇温速度50℃/時で鋳塊を昇温し、560℃×2時間の均質化処理でMg,Si,Cuをマトリックスに固溶させると共にAl−Cr系化合物を細かく分散させた。次いで、MgSi,AlCuがマトリックスに析出しないように冷却速度250℃/時で常温までファンを用いて強制空冷した。冷却後の鋳塊を押出用ビレットに切断した後、480℃に加熱し、上面幅200mm,高さ150mm,肉厚4mmで図7に示す断面形状をもつ中空状の高欄用手摺材を押し出した。
【0034】
このとき使用した押出装置は、図8に概略を示すように、ダイス1に接するエンドプラテン2の出側に第1〜5冷却リング3〜3を配置している。第1冷却リング3はエンドプラテン2の出側から1.5m離し、各冷却リング3〜3の間に0.45mの間隔をおいた。
各冷却リング3〜3は、何れも押出方向に垂直な面内で同じ八角形状(図9)をもち、押出ラインの中心から八角形の各辺L〜Lまでの距離を45cmとした。辺L,L,Lにはそれぞれ等間隔で2個、辺L〜Lにはそれぞれ等間隔で3個、合計で21個の噴霧ノズル4を各冷却リング3〜3に取り付けた。噴霧ノズル4の個数及び取付け位置は、押出形材Mの断面形状(図7)に対応した冷却効率を考慮し、押出形材Mに対する冷却水噴霧量が上面:一側側面:下面=4:5.5:6となるように設定した。
【0035】
各噴霧ノズル4は、押出形材Mに対する冷却水の噴霧角度θが30度となるように押出方向下流側に傾斜させた。噴霧角度θで冷却水を吹き付けるとき、押出形材Mの表面で跳ね返った冷却水が押出方向下流側に送られ、上流側のダイス1側への飛散が防止される。そのため、飛散した冷却水による局部的な冷却がなく、押出形材Mが均一に冷却され、機械的性質が均一になると共に、アルマイト処理される用途ではアルマイト処理後の色調が均一になる。
各冷却リング3〜3から、流量55リットル/分・リングで18℃の工業用水を噴霧しながら押出速度7m/分で押出形材Mを押し出した。押出中に押出形材Mの温度を測定したところ、第1冷却リング3の入口位置Pで520℃であり、押出方向下流側に第1冷却リング3から約20cm離れた位置の押出形材M表面に冷却水が吹き付けられていた。また、押出方向下流側に第5冷却リング3から40cm離れた位置Pでは押出形材Mが195℃に降温しており、この位置で冷却が完了していた。なお、押出形材Mの温度は、押出形材Mの表面に約1mmの深さまで尖った熱電対の先端を打ち込んで測定した。
【0036】
入口位置Pから冷却完了位置Pまでの距離Lは2.2mであり、押出速度が7m/分であるから、押出形材Mが冷却されている時間は19秒となる。この間に押出形材Mが520℃から195℃に降温しているので、冷却速度は(520℃−195℃)×60/19=1026℃/分と計算される。この値は、焼きが入る冷却速度条件を十分に満足している。
冷却に使用された当初18℃の工業用水は、オーバフローする位置で温度を測定したところ28℃であった。冷却装置全体からの奪熱量の測定結果から熱伝達係数を計算すると約500W/m・℃となっていた。これらの結果を図5に当てはめてみると、t=4mmにおける領域Aに入っており、外面変形量が平らさh/Wが0.1%以下の範囲にあることが判る。
【0037】
得られた押出形材に長さ方向に0.2%の引張り応力をかけて整直した後、平らさh/Wを測定した。この場合、押出形材は、図7に断面形状を示すように上側及び側面が湾曲しているので、底面で平らさh/Wを測定した。平らさh/Wは0.05%であった。
押出形材に180℃×4時間の時効処理を施した後で機械的性質を測定したところ、引張強さ322MPa,0.2%耐力289MPa,伸び14.5%であり、高欄の手摺材に要求される特性を十分に満足していた。
【0038】
【比較例1】
実施例1と同じビレットを490℃に加熱した後、実施例1と同じ断面形状の高欄用手摺材を押出速度3m/分で押し出した。冷却装置としては実施例1と同じ21個の噴霧ノズル4を取り付けた第1〜4冷却リング3〜3を使用し、第1冷却リング3を同様にエンドプラテン2から押出方向下流側に1.5m離れた位置に配置したが、各第1〜4冷却リング3〜3の間隔をそれぞれ80cmに広げた。押出形材に噴霧する冷却水の水量を、実施例1よりも少ない40リットル/分・リングに設定した。押出形材に熱電対を打ち込み、形材温度を連続的に測定した結果を図10に示す。
押出形材Mの温度は、第1冷却リング3の入口位置Pで510℃,第4冷却リング3から押出方向下流側に40cm離れた位置Pで200℃と測定された。入口位置Pから下流側の位置Pまでの距離Lが2.8m,押出速度が3m/分であることから、冷却されている時間が56秒,冷却速度が(510℃−200℃)×60/56=332℃/分と計算される。
【0039】
押出形材Mは、第4冷却リング3から下流方向に40cm離れた位置Pにおいて200℃まで冷却された後で、図10に示すように再び250℃まで昇温した。すなわち、比較例1では、第1〜4冷却リング3〜3からの冷却水噴霧で押出形材Mが一旦冷却されて降温するものの、第1〜4冷却リング3〜3の間隔が広すぎたこと,冷却水量が少ないこと,押出速度が遅いこと等が原因し、押出形材Mが各冷却リング3〜3を通過した後で復熱し、4回も温度が上昇している。
このような冷却方法では、押出形材Mに十分な焼きが入らず、歪みに関しても悪影響の虞れがある。実際、0.2%の引張り張力をかけて整直した後、底面の平らさh/Wを測定したところ0.15%であり、0.1%を超えていた。また、押出形材に180℃×4時間の時効処理を施した後の機械的性質は、引張強さ308MPa,0.2%耐力277MPa,伸び12%であり、強度が若干低下していた。そのため、高欄材の手摺材としては好ましい製品でなかった。すなわち、計算上は焼きが入っても、350℃以上に復熱するような冷却方法はその度合いによって不適であることが判る。
【0040】
【実施例2】
本実施例は、パワーブリッジの桁材を製造した例である。
実施例1と同じビレットを使用し、実施例1と同じ押出・冷却装置を用い、幅275mm,高さ180mm,肉厚5〜8mmで、コーナーにリブを付けた断面形状(図11)をもつパワーブリッジの桁材を押し出した。
押出に際しては、ビレットを500℃に加熱し、押出速度を4m/分に設定した。第1〜5冷却リング3〜3から流量83リットル/分・リングで18℃の工業用水を押出形材に噴霧した。押出形材の温度は、第1冷却リング3の入口位置Pで505℃,第5冷却リング3から押出方向下流側に40cm離れた位置Pで107℃と測定された。入口位置Pから下流側の位置Pまでの距離Lが2.2m,押出速度が4m/分であることから、冷却されている時間が33秒,冷却速度が(505℃−107℃)×60/33=724℃/分と計算される。この値は、焼きが入る冷却速度条件を十分に満足している。
【0041】
冷却に使用された当初18℃の工業用水は、オーバフローする位置で温度を測定したところ38℃であった。冷却装置全体からの奪熱量の測定結果から熱伝達係数を計算すると約750W/m・℃となっていた。これらの結果を図5に当てはめてみると、t=8mmにおける領域Aに入っており、外面歪みが合格範囲にあることが判る。
得られた押出形材に長さ方向に0.2%の引張り応力をかけて整直した後、平らさh/Wを測定した。肉厚8mmの短辺側(図11)で若干外側に凸であったが、平らさh/Wは0.07%であった。
押出形材に180℃×4時間の時効処理を施した後で機械的性質を測定したところ、引張強さ320MPa,0.2%耐力286MPa,伸び11.0%であり、パワーブリッジの桁材に要求される特性を十分に満足していた。
【0042】
【実施例3】
本実施例は、構造用大型角パイプ材を製造した例である。
実施例1と同じビレットを使用し、実施例1と同じ押出・冷却装置を用い、幅280mm,高さ200mm,肉厚10mmで、図12に示す断面形状をもつ構造用大型角パイプ材を押し出した。
押出に際しては、ビレットを500℃に加熱し、押出速度を3m/分に設定した。第1〜5冷却リング3〜3から流量110リットル/分・リングで18℃の工業用水を押出形材に噴霧した。押出形材の温度は、第1冷却リング3の入口位置Pで510℃,第5冷却リング3から押出方向下流側に40cm離れた位置Pで95℃と測定された。入口位置Pから下流側の位置Pまでの距離Lが2.2m,押出速度が3m/分であることから、冷却されている時間が44秒,冷却速度が(510℃−95℃)×60/44=565℃/分と計算される。この値は、焼きが入る冷却速度条件を十分に満足している。
【0043】
冷却に使用された当初18℃の工業用水は、オーバフローする位置で温度を測定したところ33℃であった。冷却装置全体からの奪熱量の測定結果から熱伝達係数を計算すると約1100W/m・℃となっていた。これらの結果を図5に当てはめてみると、t=10mmにおける領域Aに入っており、平らさh/Wが0.1%以下の範囲にあることが判る。
得られた押出形材に長さ方向に0.2%の引張り応力をかけて整直した後、平らさh/Wを測定した。肉厚10mmの長辺側(図12)で若干内側に凹んでいたが、平らさh/Wは0.01%であり、製品形状は良好であった。
押出形材に180℃×4時間の時効処理を施した後で機械的性質を測定したところ、引張強さ324MPa,0.2%耐力290MPa,伸び11.3%であり、構造用大型角パイプ材に要求される特性を十分に満足していた。
【0044】
【比較例2】
冷却条件以外は、実施例3と同じ条件下で構造用大型角パイプ材を製造した。第1〜5冷却リング3〜3として1リング当りのノズル数を実施例3の21個から倍の42個に増やした冷却リングを使用し、各冷却リング3〜3から流量330リットル/分・リングで温度18℃の工業用水を押出形材に噴霧した。押出形材の温度は、第1冷却リング3の入口位置Pで510℃,第5冷却リング3から押出方向下流側に40cm離れた位置Pで22℃と測定された。入口位置Pから下流側の位置Pまでの距離Lが2.2m,押出速度が3m/分であることから、冷却されている時間が44秒,冷却速度が(510℃−22℃)×60/44=665℃/分と計算される。この値は、焼きが入る冷却速度条件を十分に満足している。
【0045】
冷却に使用された当初18℃の工業用水は、オーバフローする位置で温度を測定したところ20℃であった。冷却装置全体からの奪熱量の測定結果から熱伝達係数を計算すると約3000W/m・℃となっていた。これらの結果を図5に当てはめてみると、t=10mmにおける熱伝達係数が領域Aから外れ、曲線α=20/tの上側に位置する。すなわち、過度に冷却されたことを意味し、得られた押出形材にも外面変形が発生していた。
得られた押出形材に長さ方向に0.2%の引張り応力をかけて整直した後、平らさh/Wを測定した。肉厚10mmの長辺側(図12)で若干内側に凹んでおり、凹み量は長辺中央部で約2mmであった。この値から平らさh/Wは0.7%と計算され、製品としては好ましくない。図5において10mmの位置で熱伝達係数が3000W/m・℃の点は領域Aから外れており、外面変形が発生することが判る。
【0046】
【実施例4】
本実施例は、鉄道車両用の構造材を製造した例である。
表1に示した7000系のNo.3合金を所定組成に溶製したアルミニウム合金溶湯に脱ガス処理,微細化処理,脱滓処理を施した後、DC鋳造で直径273mmの鋳塊に鋳込んだ。得られた鋳塊の分析結果は、次の通りであった。
Si:0.12質量%,Fe:0.18質量%,Cu:0.17質量%,Mn:0.002質量%,Zr:0.15質量%,Mg:1.00質量%,Cr:0.002質量%,Zn:5.90質量%,Ti:0.03質量%,B:0.001質量%
【0047】
マトリックスにZrを細かく分散させるため昇温速度80℃/時で鋳塊を昇温し、470℃×6時間の均質化処理でMg,Zn,Cuをマトリックスに固溶させると共にAl−Zr系化合物を細かく分散させた。次いで、Mg−Zn系化合物,Al−Mg−Zn系化合物がマトリックスに粗大に析出しないように冷却速度200℃/時で常温までファンを用いて強制空冷した。冷却後の鋳塊を押出用ビレットに切断した後、480℃に加熱し、全幅230mm,高さ100mm,肉厚6mmで図13に示す断面形状をもつ中空状の鉄道車両用構造材を押し出した。
【0048】
このとき使用した押出装置は、ダイスに接するエンドプラテンの出口から2m離れた位置を基準として、1.3m間隔で合計7台の上部ファンをエンドプラテンの出側上部に設け、隣接する上部ファンの中間点に合計6台の下部ファンを配置した。上下で合計13台のファンを稼動し、形材表面部での風速が20m/秒で冷気が形材全周にほぼ均等に当たるように冷却した。冷却帯の入口から出口までの距離が9.1m,押出速度が7m/分であることから、押出形材が冷却されている時間は78秒となる。この間に押出形材が480℃から210℃に降温しているので、冷却速度は208℃/分と計算される。この値は、焼きが入る冷却速度条件を十分に満足している。このときの熱伝達係数は、約180W/m・℃であった。
【0049】
得られた押出形材に長さ方向に0.2%の引張り応力をかけて整直した後、平らさh/Wを測定したところ、平らさh/Wは0.02%であり、製品形状は良好であった。
押出形材に90℃×8時間+150℃×8時間の時効処理を施した後で機械的性質を測定したところ、引張強さ441MPa,0.2%耐力397MPa,伸び16.4%であり、鉄道車両用構造材に要求される特性を十分に満足していた。
【0050】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明は、押出直後に6000系,7000系等の析出硬化型アルミニウム合金をダイス端焼入れする際、焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域における冷却条件のうち、形材の要求強度に応じた冷却速度を設定するとともに、その冷却速度において熱伝達係数を適正範囲内に制御することにより、急冷による変形を抑え、しかもMg,Si,Cu,Zn等を十分にマトリックスに固溶させている。そのため、得られた押出形材を時効処理するときMg2Si,Al2Cu等の析出により必要強度が付与され、断面形状が安定した中空材やセミ中空材が得られる。しかも、溶体化処理が必要なT6処理を施さなくても、同等な強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ダイス端焼入れで押出形材の押出方向に垂直な断面に発生しがちな変形を説明する図
【図2】熱伝達係数に及ぼす肉厚の影響を表わしたグラフ
【図3】T5処理(ダイス端焼入れ後時効処理)された表1に示した6000系のNo.3合金の機械的性質に及ぼすダイス端焼入れ時の冷却速度の影響を表わしたグラフ
【図4】T5処理(ダイス端焼入れ後時効処理)された表1に示した7000系のNo.1合金の機械的性質に及ぼすダイス端焼入れ時の冷却速度の影響を表わしたグラフ
【図5】熱伝達係数と肉厚との関係を6000系のNo.3合金中空材で定量的に表わしたグラフ
【図6】熱伝達係数と肉厚との関係を7000系のNo.1合金中空材で定量的に表わしたグラフ
【図7】実施例1で製造した高欄用手摺材の断面図
【図8】実施例で使用した冷却リングを備えた押出装置の概略図
【図9】冷却リングに取り付けたノズルの位置関係を示す図
【図10】比較例における押出直後の押出形材の温度変化を示すグラフ
【図11】実施例2で製造したパワーブリッジ用桁材の断面図
【図12】実施例3で製造した構造用大型角パイプ材の断面図
【図13】7000系のアルミニウム合金を用いて実施例4で製造した鉄道車両用の構造材の断面図
【符号の説明】
1:ダイス 2:エンドプラテン 3〜3:第1〜5冷却リング 4:ノズル
M:押出形材 C:冷媒 P:第1冷却リングの入口位置 P:冷却完了位置 L:入口位置Pから冷却完了位置Pまでの距離(冷却帯の長さ)

Claims (3)

  1. 6000系又は7000系の析出硬化型アルミニウム合金の略中空材を押し出した直後、押し出された略中空材の焼入れ温度から形材温度が200℃までの温度域において275×t×R≦α≦0.1×λ/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m2・℃),t:中空部の最大肉厚(m),R:要求される引張り強度に応じて定まる冷却速度(℃/分),λ:熱伝導率(W/m・℃)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような条件下で略中空材の外表面からのみ略中空材を冷却し、その後に時効処理を施すことを特徴とする断面形状が安定し機械的性質が良好なアルミニウムの略中空材の製造方法。
  2. Si:0.6〜0.9質量%,Mg:0.8〜1.2質量%,Cu:0.1〜0.4質量%,Cr:0.04〜0.2質量%,Fe:0.1〜0.3質量%,Mn:0.1質量%以下,Zr:0.1質量%以下,Ti:0.005〜0.1質量%,B:0.0001〜0.01質量%,Zn:0.05質量%以下,残部が実質的にAlの組成をもつアルミニウム合金を略中空材に押し出した直後、500℃以上の焼入れ温度から形材温度200℃までの温度域を冷却速度200℃/分以上で且つ55000×t≦α≦16/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m 2 ・℃),t:中空部の最大肉厚(m)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような条件下で略中空材の外表面からのみ略中空材を冷却し、その後に170〜210℃×1〜12時間で時効処理を施すことを特徴とする断面形状が安定し機械的性質が良好なアルミニウムの略中空材の製造方法。
  3. Zn:5.5〜6.5質量%,Mg:0.6〜1.0質量%,Cu:0.05〜0.2質量%,Fe:0.1〜0.4質量%,Si:0.05〜0.2質量%,Zr:0.1〜0.2質量%,Mn:0〜0.3質量%,Cr:0〜0.2質量%,Ti:0.01〜0.1質量%,B:0.001〜0.01質量%,残部が実質的にAlの組成をもつアルミニウム合金を略中空材に押し出した直後、430℃以上の焼入れ温度から形材温度200℃までの温度域を冷却速度50℃/分以上で且つ13750×t≦α≦15/t[ただし、α:熱伝達係数(W/m 2 ・℃),t:中空部の最大肉厚(m)]を満足する熱伝達係数αを予め計算しておき、熱伝達係数αがその範囲内になるような条件下で略中空材の外表面からのみ略中空材を冷却し、その後に110〜130℃×12〜36時間又は80〜110℃×3〜12時間+140〜170℃×5〜16時間で時効処理を施すことを特徴とする断面形状が安定し機械的性質が良好なアルミニウムの略中空材の製造方法。
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