JP3580144B2 - Ni−Cu−Znフェライト材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト材料、特にチップインダクタ用として好適なNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インダクタ部品は、電子機器の電気回路用ノイズフィルターとして使用されてきた。そして、小型化、高密度実装化に対応するため、もれ磁束が少なく、かつ、占有面積が小さい、フェライトセラミック(コア)内に内部導体を備えた構造のチップインダクタが提案され、実用化されてきた。
【0003】
このチップインダクタは、例えば、複数のフェライト材料層とその層間に形成した導体材料層とを同時焼成して得られる。そして、通常、チップインダクタのフェライト材料としてはNi−Cu−Znフェライト材料が、また、導体材料としては電気伝導度の大きいAgが用いられてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
導体材料としてAgを用いて、同時焼成で上述のチップインダクタを得る場合、Agの融点は酸素平衡状態(大気中)においては950℃であり、900℃以上に加熱すると加熱時間の増加に伴い、Agの塑性変形が始まり、フェライト中への浸透・拡散が起る。これにより、内部導体の断面積が減少し、直流抵抗値が増加し、消費電力が増大するという不具合が生じる。さらに、高温に加熱し、950℃を越えると内部導体の一部が断線し、インダクタとしての働きを失ってしまうことになる。したがって、Agを内部導体としたチップインダクタを得るためには、950℃以下、より好ましくは900℃以下の温度で焼成しなければならない。
【0005】
しかしながら、従来、チップインダクタのコア材(フェライトセラミック)として使用されるNi−Cu−Znフェライト材料は、緻密な焼結体を得るためには1000℃以上の温度で焼成する必要があり、これ以下の温度では、十分な焼結密度が得られず、初透磁率が低かったり、気孔が多いという問題点があった。
【0006】
また、30MHz以下の低周波領域におけるノイズを効果的に除去するため、電気回路用ノイズフィルターの特性として、R成分の周波数曲線とX成分の周波数曲線の交点であるクロスポイント周波数を10MHz以下に抑えることが要求されている。そのためには、チップインダクタのコアであるNi−Cu−Znフェライトの初透磁率を800以上にすることが必要である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、900℃以下の低温で緻密に焼結でき、初透磁率が800以上のNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法は、少なくとも鉄化合物、ニッケル化合物、銅化合物および亜鉛化合物を混合した後、仮焼し、その後粉砕する工程を備えたNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法において、前記鉄化合物として比表面積が8.5m2/g以上の、湿式法で合成されたα−Fe2O3を用い、混合後の粉体の比表面積を8.0m2/g以上とし、仮焼後の粉体の比表面積を6.0m2/g以上とするとともに、仮焼温度が600℃〜750℃であることを特徴とする。
【0009】
また、前記Ni−Cu−Znフェライト材料は、Fe2O3が48.0〜49.8モル%、ZnOが20.0〜34.0モル%、CuOが6.0〜20.0モル%、NiOが残部、からなることを特徴とする。
【0010】
ここで上記した範囲に限定したのは、次のような理由による。まず、粉砕後の粉体の比表面積が6.0m2/g未満の場合には、粉体の反応性が低いため、900℃以下の温度では十分焼結せず焼結密度が上がらず、800以上の初透磁率を得ることができない。したがって、粉砕後の粉体の比表面積は、6.0m2/g以上であることが好ましい。
【0011】
また、仮焼後の粉体の比表面積が5.0m2/g未満の場合には、粉体の粒成長が進みすぎており、粉砕後の比表面積を6.0m2/g以上にするためには、粉砕時間を通常より長くしたり、または、媒体(メディア)攪拌式の粉砕機を使用する必要がある。その結果、玉石などの媒体から混入する不純物量が増加し、焼結後のNi−Cu−Znフェライトの特性を劣化させてしまう。したがって、仮焼後の粉体の比表面積は、5.0m2/g以上であることが好ましい。
【0012】
また、化合物混合後の粉体の比表面積が8.0m2/g未満の場合、粉体の反応性が低いため、比表面積が8.0m2/g以上のものと比べて高い温度で仮焼することとなり、結果的に粉体の粒成長が進んでしまい、仮焼後の比表面積が5.0m2/g未満となってしまう。したがって、化合物混合後の粉体の比表面積は8.0m2/g以上であることが好ましい。
【0013】
また、鉄化合物の粉体の比表面積が8.5m2/g未満の場合でも、ニッケル化合物、亜鉛化合物、銅化合物の粉体の比表面積を大きくすることで、化合物混合後の粉体の比表面積を8.0m2/g以上にすることが可能である。しかしながら、Ni−Cu−Znフェライト材料の仮焼工程においては、温度上昇にともない、まず、低温領域でZnフェライトが生成し、その後、CuおよびNiが固溶し、Ni−Cu−Znフェライトが生成する。したがって、鉄化合物の比表面積が8.5m2/g未満の場合には、最初のZnフェライトが生成する温度が高くなり、鉄化合物の比表面積が8.5m2/g以上の場合と比べて高い温度で仮焼する必要が生じる。その結果、粉体の粒成長が進んでしまい、仮焼後の粉体の比表面積が5.0m2/g未満となってしまう。したがって、鉄化合物の粉体の比表面積は、8.5m2/g以上が好ましい。
【0014】
さらに、Ni―Cu―Znフェライト材料の組成に関して、Fe2O3量が48.0モル%未満では、フェライトの飽和磁化が小さくなるため、初透磁率が800を下回ってしまう。一方、Fe2O3量が49.8モル%を超えると極端に焼結性が低下し900℃以下では焼結できなくなってしまう。また、CuO量が6.0モル%未満では、900℃以下の焼成温度では焼結密度が高くならない。一方、CuO量が20.0モル%を超えると、キュリー温度が80℃以下となる。また、ZnO量が20.0モル%未満では、フェリ磁性による飽和磁化が不十分となり、初透磁率が800を下回ってしまう。逆に、ZnO量が34.0モル%を超えるとキュリー温度が80℃以下となる。したがって、Ni―Cu―Znフェライト材料は、Fe2O3が48.0〜49.8モル%、ZnOが20.0〜34.0モル%、CuOが6.0〜20.0モル%、NiOが残部、であることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法の実施の形態を、実施例に基づいて説明する。
【0016】
(実施例)
まず鉄化合物として、表1に示す種々の比表面積を有する、湿式合成法により得られたα−Fe2O3粉体を用意した。また、ニッケル化合物としてNiO粉体を、銅化合物としてCuO粉体を、亜鉛化合物としてZnO粉体をそれぞれ用意した。その後、これら化合物をFe2O3が48.7モル%、ZnOが26.9モル%、CuOが10.5モル%、残りがNiOとなるように秤量し、ボールミルで湿式混合し、乾燥させた。
【0017】
次に、この混合後の粉体を表1に示す温度で仮焼した。その後、仮焼後の粉体をボールミルで湿式粉砕した。得られた粉砕後の粉体にバインダを加えて、乾燥、造粒し、プレス成形で直径20mm、内径10mm、高さ2mmのトロイダルリングに成形した。これを870℃で2時間焼成して、フェライトセラミックを得た。
【0018】
上記工程中、混合後の粉体、仮焼後の粉体、粉砕後の粉体それぞれについて、BET法により比表面積を測定した。また、仮焼後の粉体についてX線回折分析を行ない、下式により、スピネル合成度を求めた。なお、下式において、IFe104はFe2O3の(104)面のピーク強度であり、Isp311はスピネル結晶の(311)面のピーク強度である。以上の結果を表1に示す。
スピネル合成度=Isp311/(IFe104+Isp311)×100 (%)。
【0019】
仮焼後のスピネル合成度が85%未満の場合、未反応のFe 2 O 3 が多く残り焼結性が低下し、焼成時に均一なNi−Cu−Znフェライトが得られず、800以上の初透磁率が得られない。一方、スピネル合成度が98%を超えるまで仮焼温度を上げると、スピネル結晶の粒成長が起こり、粉体の比表面積が減少して反応性が低下し、900℃以下の温度では十分焼結しない。したがって、仮焼後のスピネル合成度は、85〜98%の範囲内が好ましい。
【0020】
次に、得られたフェライトセラミックについて、アルキメデス法で密度を求め、理論密度に対する相対密度(%表示)を算出した。また、インピーダンスアナライザにより初透磁率を測定した。以上の結果を表1に示す。なお、表1において、試料番号に*印を付したものは本発明の範囲外のものであり、その他はすべて本発明の範囲内のものである。
【0021】
【表1】
【0022】
表1の試料番号3〜8、14〜16から明らかなように、鉄化合物として比表面積が8.5m2/g以上のα−Fe2O3粉体を用い、混合後の粉体の比表面積を8.0m2/g以上とし、仮焼後の粉体の比表面積を5.0m2/g以上とし、粉砕後の粉体の比表面積を6.0m2/g以上とするとともに、仮焼後のスピネル合成度を85〜98%とした、本発明の製造方法によるNi−Cu−Znフェライト材料は、870℃で焼成したときの相対焼結密度は95%以上の高い値を示す。そして、フェライトセラミックの初透磁率としては、チップインダクタのクロスポイント周波数を10MHz以下に抑えるために必要な800以上が得られる。ここで、仮焼後のスピネル合成度を85〜98%とするためには、少なくとも仮焼温度を600℃〜750℃とすることが必要である。
【0023】
これに対して、試料番号1、2のように、鉄化合物としてのα―Fe2O3粉体の比表面積が8.5m2/g未満の場合には、初透磁率が800を下回り好ましくない。
【0024】
このように、α―Fe2O3粉体の比表面積が8.5m2/g未満の場合、試料番号9のように、仮焼温度を500℃と低くし、仮焼後における粉体の比表面積を5.0m2/g以上にしても、仮焼後のスピネル合成度が70%と低く、仮焼が不十分であるため、相対焼結密度、初透磁率ともに低くなり好ましくない。一方、試料番号10〜13のように仮焼温度を700℃以上にすると、仮焼後のスピネル合成度は高くなって85〜98%内に入るが、仮焼後の粉体の比表面積が5.0m2/g未満、粉砕後の粉体の比表面積が6.0m2/g未満と小さく、相対焼結密度、初透磁率ともに低くなり好ましくない。
【0025】
また、試料番号17のように、仮焼後の粉体の比表面積が5.0m2/g以上、粉砕後の粉体の比表面積が6.0m2/g以上と大きい場合でも、仮焼後のスピネル合成度が85〜98%外であって低い場合は、相対焼結密度、初透磁率ともに低くなり好ましくない。一方、試料番号18、19のように、仮焼後のスピネル合成度が高い場合でも、仮焼後の粉体の比表面積が5.0m2/g未満、粉砕後の粉体の比表面積が6.0m2/g未満と小さい場合は、相対焼結密度、初透磁率ともに低くなり好ましくない。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、900℃以下の低温で緻密に焼結でき、初透磁率が800以上のNi−Cu−Znフェライト材料を得ることができる。
【0027】
従って、本発明によって得られるNi−Cu−Znフェライト材料は、クロスポイント周波数を10MHz以下に抑えたチップインダクタ用として最適である。
Claims (2)
- 少なくとも鉄化合物、ニッケル化合物、銅化合物および亜鉛化合物を混合した後、仮焼し、その後粉砕する工程を備えたNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法において、前記鉄化合物として比表面積が8.5m2/g以上の、湿式法で合成されたα−Fe2O3を用い、混合後の粉体の比表面積を8.0m2/g以上とし、仮焼後の粉体の比表面積を6.0m2/g以上とするとともに、仮焼温度が600℃〜750℃であることを特徴とする、Ni−Cu−Znフェライト材料の製造方法。
- 前記Ni−Cu−Znフェライト材料は、Fe2O3が48.0〜49.8モル%、ZnOが20.0〜34.0モル%、CuOが6.0〜20.0モル%、NiOが残部、からなることを特徴とする、請求項1に記載のNi−Cu−Znフェライト材料の製造方法。
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