JP3579919B2 - 光ファイバ用母材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は光ファイバ用母材の製造方法に関し、より詳細にはガラス母材の軸方向及び径方向の全域について、均一なフッ素濃度分布を有する光ファイバ用母材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバによる通信網の拡充と共に、光ファイバの伝送損失量の低減や強度のコントロールなどに対するニーズが日々高まっており、それと共に、石英系光ファイバ用ガラス母材の品質に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
現在、光ファイバの主流である石英系の単一モード光ファイバは、中心部分であるコア部(高屈折率部;GeO −SiO )、及び外套部分であるクラッド部(低屈折率部;SiO )から構成されている。しかし、光ファイバの低伝送損失化の要求に伴い、光ファイバ用母材の前記クラッド部分にフッ素を添加する方法が採用され、この方法によりコア部(高屈折率部)がSiO 、クラッド部(低屈折率部)がフッ素を含有するSiO からなる光ファイバが開発されてきており、光ファイバの主流は前記構成のものに移行しつつある。そして、さらなる低伝送損失化や粘性制御の容易化などを図るため、コア部及びクラッド部の双方にフッ素をドープしたものが研究されており、将来的にはこのようなコア部及びクラッド部の双方にフッ素をドープした光ファイバに移行する可能性もある。
【0004】
このような構成の光ファイバを製造するためには、比屈折率Δn が0.01〜0.3%となるような広い屈折率の範囲で、ガラス母材の軸方向及び径方向の全域に対し、屈折率分布が均一な光ファイバ用ガラス母材の製造方法の確立が必要となり、そのためにはSiO に低濃度のフッ素を均一にドープする方法及びSiO に高濃度のフッ素を均一にドープする方法の両方の技術が必要になる。ここで、比屈折率Δn は下記の数1式で表される。
【0005】
【数1】
Δn =(n −n )/n
なお、上記数1式において、n はSiO の屈折率であり、n はフッ素を含有するSiO の屈折率である。
【0006】
従来より光ファイバ用ガラス母材を製造する方法としては、一般にSiCl などの原料を酸水素火炎により加水分解反応させてガラス微粒子を合成し、これを一軸方向に堆積成長させて多孔質母材を形成し、さらに前記多孔質母材を加熱炉で加熱し、焼成することにより透明ガラス化する方法、すなわち気相軸付け法(Vapor−phase Axial Deposition Method : VAD法)が用いられている。
【0007】
従来より前記VAD法を用いてフッ素を含有する光ファイバ用ガラス母材を製造する具体的な方法は、以下の3つの方法に大別される。
【0008】
第1の方法は、例えば特公昭55−15682号公報や特開平2−164736号公報などにおいて提案されている方法であり、前記VAD法によりガラス微粒子を合成して一軸方向に堆積成長させる際に、原料ガスと共にフッ素化合物のガス(以下、フッ化物ガスと記す)を導入し、多孔質母材を形成する段階でフッ素をドープする方法である。このようにして多孔質母材を形成した後、フッ素がドープされた多孔質母材を透明ガラス化を行うための炉内に挿入し、不活性ガス及び塩素を供給しつつ、1500℃前後で数時間加熱することにより透明ガラス化を行うが、この工程は、通常のVAD法と全く同様である。
【0009】
第2の方法は、例えば特開昭60−86049号公報、特開昭60−231432号公報、特開昭60−235734号公報などにおいて提案されている方法であり、まず前記VAD法においてガラス微粒子を合成して一軸方向に堆積成長させ、フッ素を含まない多孔質母材を形成する。次に、前記多孔質母材を形成した炉とは別置きの加熱炉内に前記多孔質母材を挿入し、フッ化物ガス、塩素ガス及び不活性ガスを混合した混合ガス雰囲気でフッ素をドープし、その後加熱することにより透明ガラス化を行う方法である。
【0010】
さらに第3の方法は、上記の第1の方法と第2の方法とを組み合わせた方法であり、例えば特開昭61−236626号公報などにおいて提案されている。
【0011】
この方法は、第1段階として、前記VAD法によりガラス微粒子を合成して一軸方向に堆積成長させる際に、原料ガスと共にフッ化物ガス(例えば六フッ化硫黄)を導入し、まずフッ素を含有した多孔質母材を形成する。次に、第2段階として、この多孔質母材を透明ガラス化炉に移し、炉内にフッ化物ガス、塩素、及び不活性ガスを供給してさらにフッ素をドープしながら加熱し、透明ガラス化を行う方法である。この場合、前記特開昭61−236626号公報においては、第1段階において供給するフッ素の量を徐々に減少させている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した3つの従来法のいずれにおいても、以下のような課題があった。
【0013】
すなわち、前記した第1の方法では、原料とフッ化物ガスとの両方を連続的に供給しながら多孔質母材を形成していくため、前記多孔質母材の初期に形成した部分と完成直前に形成した部分とでは、フッ化物ガス雰囲気下に存在する時間が大きく異なる。また、形成する多孔質母材の径方向についてもフッ素含有量のコントロールが難しいため、製造された光ファイバ用ガラス母材は、軸方向に大きな屈折率分布が発生すると共に、径方向についても屈折率分布が発生するという課題があった。また前記第1の方法に含まれる特開昭63−129032号公報に提案されている方法では、原料ガスとしてSiCl を、フッ素ドーピングを行うためのフッ化物ガスとしてSF をそれぞれ使用している。この場合、酸水素火炎により生成する水蒸気や原料ガスの熱分解で生成する化合物などを含めて種々の反応が進行すると考えられるが、それらの反応のなかで下記の化1式及び化2式の反応も進行し、これらの反応の結果、SiO 中にフッ素がドープされると考えられる。
【0014】
【化1】
SF +SiO →4SiF +SO
【0015】
【化2】
3SiO +SiF →4SiO1.5
この場合、酸水素火炎中で生成されたH OとSiF は、加水分解により多量のSiO とHFとを生成し易く、結果的にはドーピング剤であるSiF の大部分が消費されてしまうため、フッ素ドープ量が小さくなる。従って、通常は、純石英ガラスに対して0.2%程度以上の大きな比屈折率△n を有する光ファイバ用ガラス母材を得ることは難しい。さらに、前記した反応により生成したHFは、堆積途中の多孔質母材を侵食して剥離などを引き起こすので、多孔質母材の形成を困難にするという問題もあった。
【0016】
また、前記した第2の方法では、多孔質母材を形成した後、別の加熱炉に移してフッ化物ガスをドープするため、多孔質母材の内部と表面部とではフッ化物ガスの拡散状況が異なる。また、高濃度のフッ化物ガスを導入した場合には、多孔質母材内部にまでフッ化物ガスが十分に拡散するが、比較的低濃度でフッ化物ガスを導入した場合には、多孔質母材外周部でフッ化物ガスが消費され、結果的に多孔質母材の径方向にフッ素ドーピング量の分布が生じるようになる。このようなことから、前記方法により形成された光ファイバ用ガラス母材は、径方向に屈折率分布が発生し、また軸方向については、フッ素ドーピング量が比較的高濃度(比屈折率;△n >0.25%)の領域では屈折率分布に差が生じにくいが、比較的低濃度(比屈折率;△n <0.01%)の領域では屈折率分布に差が発生し易いという課題があった。
【0017】
この問題を解決する方法として、特開平2−145448号公報では、多孔質母材に脱水処理を施した後、フッ化物ガスをドープする方法を採用している。すなわち、形成された多孔質母材に前記多孔質母材が完全にガラス化しない温度で塩素及び不活性ガスを流しながら加熱し、前記多孔質母材の脱水処理を行った後、塩素、不活性ガス、及びフッ化物ガスを含有する雰囲気中で前記脱水処理の温度よりも低温で加熱してフッ素ドープし、その後、さらに塩素と不活性ガスとを含む雰囲気中で加熱して透明ガラス化を行っている。前記公報には、具体的に900℃の加熱炉内でSiF を0.03リットル/分の流量で供給して比屈折率△n が0.02%である光ファイバ用ガラス母材を得た実施例が記載されている。この方法の場合は、上記化2式の反応が進行し、フッ素がドーピングされると考えられる。
【0018】
この場合、フッ素ドープ用のガスとして他のフッ化物、例えばSF を使用することも考えられる。この場合、導入したSF は上記化1式の反応が進行してSiF とSO とを生成し、続いて生成したSiF とSiO との間に上記化2式の反応が進行し、多孔質母材にフッ素がドーピングされると考えられる。
【0019】
従って、SiF 以外のフッ化物ガスを用いると、まず第1段階として上記化1式に示したSiF を生成する反応を必要とするが、この場合には出発物質としてSiO を必要とするため、多孔質母材や石英炉芯管と反応し、SiF を得る。従って、フッ素ドープの際に、石英炉芯管を用いると炉芯管がSiF を生成するために侵食され、使用寿命が極端に短くなるといった問題が発生する。一方、石英炉芯管の腐食の問題を避けるために、石英炉芯管の代わりにカーボンや炭化珪素製などの材料からなる炉芯管を使用してSiF でフッ素ドープする方法もあるが、前記したカーボンや炭化珪素製の炉芯管は石英に比べて純度が低いため、製造した光ファイバ用ガラス母材の純度の低下を招き、光ファイバ製品の品質低下、すなわり伝送損失を引き起こす。
【0020】
これらのことから、前記のような方法をとる場合、均一なフッ素ドーピングが難しいなどの課題の他、使用するフッ化物ガスが炉芯管を腐食させにくいSiF ガスに限定され、炉芯管の材質は、高純度で光ファイバ用ガラス母材の純度を維持することができる石英に限定される。しかし、前記SiF は有毒で極めて危険性が高く非常に取り扱いにくいという問題があった。
【0021】
さらに、前記した第3の方法では、得られた光ファイバ用ガラス母材は軸方向には余り大きな屈折率分布を有しないが、多孔質母材を透明ガラス化炉に移した後にフッ素ドーピングを行うため、前記した第2の方法と同様の問題が発生し、フッ素のドーピング量が比較的高濃度(比屈折率;△n >0.25%)になる領域では、比較的均一なフッ素ドーピングが可能であるが、フッ素ドーピング量が低濃度(比屈折率;△n <0.1%)になる領域ではフッ素の均一なドーピングが難しいという課題があった。またフッ化物としてSF を使用すると、石英ガラス製の炉芯管の寿命が著しく短くなり、ランニングコストが高くつき経済的でないという問題もあった。
【0022】
以上のように従来の光ファイバ用ガラス母材の製造方法においては、前記光ファイバ用ガラス母材の径方向、軸方向のいずれに対しても均一で、かつ前記比屈折率△n が0.01〜0.3%の広い範囲内で正確に制御された光ファイバ用ガラス母材を製造することは困難であるという課題があった。また、前記した第2の方法や第3の方法では、加熱炉内の温度が900〜1500℃と比較的高い領域でフッ素ドープするため、化1式の反応速度が大きくなり、石英炉芯管の劣化が急激に進行する一方、不安定物質であるSiF をフッ化物ガスとして用いることは危険を伴い取り扱いにくいという課題もあった。
【0023】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、製造する光ファイバ用母材の軸方向及び径方向における屈折率の分布に差がなく、広い濃度の範囲で均一にフッ素ドーピングを行うことができ、しかも前記光ファイバ用母材の製造中に堆積途中の多孔質母材の一部あるいは全体が剥離、落下したり、炉芯管の著しい劣化などのトラブルが発生しない光ファイバ用母材の製造方法を提供することを目的としている。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法は、酸水素火炎加水分解反応により多孔質母材を合成し、その後加熱、透明化する光ファイバ用母材の製造方法において、多重管バーナーから原料と共にフッ素化合物を供給してフッ素含有多孔質母材を形成する多孔質母材形成工程の後、該多孔質母材を形成した炉内で引き続き前記多重管バーナーからフッ素化合物を供給し、前記フッ素含有多孔質母材にさらにフッ素をドープするフッ素ドーピング工程を行うことを特徴としている(1)。
【0025】
また本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法は、上記(1)記載の多孔質母材形成工程及びフッ素ドーピング工程において、多重管バーナーからのフッ素化合物の供給に、前記多重管バーナーの2層を使用し、かつ該2層のうちの内層からの流量に対する外層からの流量の比を1〜5の割合に設定することを特徴としている(2)。
【0026】
また本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法は、上記(1)記載の多孔質母材形成工程における流量に対するフッ素ドーピング工程における流量の比を1.5〜5に設定してフッ素化合物を供給することを特徴としている(3)。
【0027】
本発明においては、まず多孔質母材形成工程として、原料の酸水素火炎加水分解反応によって多孔質母材を形成するが、その際多重管バーナーから原料と共にフッ化物ガスを供給し、フッ素含有多孔質母材を形成する。
【0028】
図1(a)は、本発明で用いられる多重管バーナーの先端部分を拡大して示した拡大正面図であり、図1(b)は側面図である。
【0029】
図1に示したように、この多重管バーナー11は多数の径の異なる管状体12a〜12hが同心円状に集合した多重構造を有しており、それぞれの層より異なる種類のガスを供給することができるようになっている。この多重管バーナーの層の数は4〜16層程度が好ましい。
【0030】
前記多孔質母材形成工程で用いられる原料としては、例えば従来より使用されている高純度のSiCl などのケイ素化合物が挙げられ、その供給量も通常の供給量と同様でよい。前記原料は主に多重管バーナー11の中心部分より供給する。またこの工程で用いられるフッ化物ガスとしては、CF 、SF 、CCl 、CHF 、C 、SiF などが挙げられるが、中でもCF 、SF が取扱いも比較的容易であり、前記多孔質母材へのフッ素ドーピングも効率的に行うことができるので好ましい。この工程では前記した原料、フッ化物ガス、酸素及び水素ガスなどと共に、酸水素火炎との反応の程度をコントロールするために、窒素やアルゴンなどの不活性ガスも導入するのが好ましい。またこのときの多重管バーナー11火炎部の温度は熱電対を用いた測温で1200〜1600℃程度が好ましく、他方炉体の温度は400℃程度以下に保つのが好ましい。多重管バーナー11火炎部の温度が1200℃未満であると、多孔質母材の堆積効率が低下し、嵩密度の低下、該母材の剥離などを引き起こし、他方多重管バーナー11火炎部の温度が1600℃を超えると、多孔質母材が局部的にガラス化し、後の焼成工程で気泡が発生するなどの支障をきたす。また、炉体の温度が400℃を超えるとガス中に存在するHFの炉体に対する腐食速度が著しく上昇し、その寿命が著しく短くなる。
【0031】
また多重管バーナー11からフッ化物ガスを供給し、合成するSiO にフッ素をドープするが、形成される多孔質母材にフッ素をより均一にドープするためには、前記フッ化物ガスを複数層に分け、かつ多重管バーナー11の内層からの供給量と外層からの供給量が一定の割合になるように供給する方が好ましい。この方法により、酸水素火炎から出たフッ素ドーピング作用を有する化合物がより均一に分散するようになり、より均一にフッ素がドーピングされる。このときのフッ化物ガスの流量の比(外層からの流量/内層からの流量)は、1〜5が好ましく、2〜4がさらに好ましい。前記フッ化物ガスの流量の比が1未満であると、前記多孔質母材の外周部のフッ素濃度が低くなりすぎ、他方フッ化物ガスの流量の比が5を超えると、前記多孔質母材の外周部のフッ素濃度が高くなりすぎ、屈折率分布が大きくなり、均一性に欠ける。
【0032】
次にフッ素ドーピング工程として、前記多孔質母材を形成した炉内で引き続き多重管バーナー11からフッ素化合物を供給し、前記フッ素含有多孔質母材にさらにフッ素をドープする。
【0033】
この工程では、原料の供給は停止するが、酸水素火炎による燃焼は引き続き行う必要があり、この場合の多重管バーナー11火炎部の温度は1200℃以上が好ましく、炉体の温度は400℃以下を維持するのが好ましい。多重管バーナー11火炎部の温度が1200℃未満であると、フッ化物ガスの分解能力が低下するため、化1式の反応が進行しにくい。
【0034】
この工程では、フッ素ドーピングの効果を上げるために反応炉内の排気量を低下させ、フッ化物ガスの供給量を前記多孔質母材形成工程の供給量よりも増加させることが好ましい。フッ化物ガスの供給の方法は多孔質母材形成工程の場合と同様に、フッ化物ガスの流量の比(外層からの流量/内層からの流量)が、1〜5であるのが好ましく、2〜4であるのがさらに好ましい。
【0035】
さらに、フッ素ドーピング工程でのフッ化物ガスの流量は、多孔質母材形成工程におけるフッ化物ガスの流量に対して、1.5〜5倍が好ましく、3〜4倍がより好ましい。前記した流量の比(フッ素ドーピング工程での流量/多孔質母材形成工程での流量)が、1.5未満であるとフッ化物ガスが前記多孔質母材の上部側まで十分に拡散せず、他方5を超えると前記多孔質母材の外周部及び火炎に近い部分のフッ素濃度が極端に高くなるため、いずれの場合においてもガラス母材の径方向及び軸方向に屈折率分布が発生する。
【0036】従って、本発明は、反応炉内で酸水素火炎加水分解反応によって生成するガラス微粒子を軸方向に堆積させる多孔質母材製造工程において、多重管バーナーから原料とともにフッ化物ガスを導入し、多孔質母材成長段階でフッ素ドープを行い、所定量まで堆積させた後、炉の腐食が進行しない極めて低い温度で多重管バーナーから、酸水素とフッ化物ガスを所定量導入することにより、ガラス母材の軸方向及び径方向に発生する屈折率分布を改善し、効率よくかつ0.01〜0.3%の範囲内での比屈折率の制御と従来法よりも低い温度でのフッ素ドープを可能にした。
【0037】
その後の透明ガラス化工程は、従来からの方法と同様の方法で行えばよい。
【0038】
【作用】
本発明の方法は、従来、ガラス微粒子を堆積中に、酸水素炎とフッ化物ガスの反応から発生する多量のHFにより形成過程の多孔質母材が侵食を受け、該母材中の一部が剥離したり、崩れたりし易いなどの問題及び屈折率分布発生問題を解決し、全域における屈折率が均一でかつ0.01〜0.3%の範囲内での比屈折率の制御が可能である大型光ファイバ用母材の製造方法を提供するものである。
【0039】
上記(1)記載の光ファイバ用母材の製造方法によれば、酸水素火炎加水分解反応により多孔質母材を合成し、その後加熱、透明化する光ファイバ用母材の製造方法において、多重管バーナーから原料と共にフッ素化合物を供給してフッ素含有多孔質母材を形成する多孔質母材形成工程の後、該多孔質母材を形成した炉内で引き続き前記多重管バーナーからフッ素化合物を供給し、前記フッ素含有多孔質母材にさらにフッ素をドープするフッ素ドーピング工程を行うので、前記多孔質母材形成工程で前記多孔質母材がHFにより侵食されない程度に比較的低濃度で比較的均一にフッ素をドープすることができる。また、引き続いて行われる原料ガスを供給しないフッ素ドーピング工程で、前記工程で形成された多孔質母材中のフッ素濃度の不均一性を修正しつつ、効率よくフッ素をドープすることができ、前記光ファイバ用母材の軸方向及び径方向に発生する不均一な屈折率分布が改善され、石英に対する比屈折率△n が0.01〜0.3%の広い範囲で均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材の製造が可能になる。
【0040】
また、この製造方法では、前記多孔質母材を外部から加熱する必要がなく、炉体を400℃以下の低温に維持することができるので、系内に発生したHFにより炉体自身が腐食される虞れが小さく、比較的安価なランニングコストで光ファイバ用母材を製造することができる。
【0041】
また、上記(2)記載の光ファイバ用母材の製造方法によれば、前記多孔質母材形成工程及びフッ素ドーピング工程において、多重管バーナーからのフッ素化合物の供給に、前記多重管バーナーの2層を使用し、かつ該2層のうちの内層からの流量に対する外層からの流量の比を1〜5の割合に設定するので、より均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材の製造が可能になる。
【0042】
さらに上記(3)記載の光ファイバ用母材の製造方法によれば、前記多孔質母材形成工程における流量に対するフッ素ドーピング工程における流量の比を1.5〜5に設定してフッ素化合物を供給するので、より均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材の製造が可能になる。
【0043】
【実施例及び比較例】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法の実施例及び比較例を説明する。
【0044】
[実施例1〜24]
図2は実施例に係る光ファイバ用母材の製造方法を実施するために用いた装置を模式的に示した概念図であり、20は光ファイバ用母材の製造装置を示している。
【0045】
反応炉24の内部には、回転昇降装置(図示せず)に連結された回転棒21が配設され、回転棒21には石英ガラス棒23が接続されている。この回転棒21は一定の速度で回転し、さらに上下に昇降するようになっており、すなわち、多孔質母材25を形成する場合には、多重管バーナ(8層バーナー)22から原料、酸素、水素及びフッ化物ガスなどを供給して、酸水素火炎を発生させ、石英ガラス棒23の先端部分にSiO などからなる多孔質母材25を一定の大きさになるように形成していくが、この際多孔質母材25の下端部と多重管バーナ22との距離を所望の値に設定することができるようになっている。
【0046】
次に図2に基づいて実施例に係る光ファイバ用母材の製造方法を具体的に説明する。
【0047】
まず、光ファイバ用母材の製造装置20に配設されている前記回転昇降装置に連結された回転棒21を一定の速度で回転させながら、8層の多重管バーナー22からH ガスを180リットル/分、O ガスを160リットル/分、SiCl を4リットル/分の流量で供給し、同時に下記の表1及び表2に示した種類のフッ化物ガスを用いて、多重管バーナー22の内層のみから、又は内層及び外層から表1及び表2に示した流量でフッ化物ガスをそれぞれ供給した。このときの酸水素火炎の温度は1500℃であった。この操作を行うことにより、次第に回転棒21に接続された石英ガラス棒23にSiO ガラスの微粒子が堆積したので、形成される多孔質母材25の外径が300mmに維持されるように、その昇降速度を調整しながら徐々に回転棒21を上方に移動させた。多孔質母材25の軸方向の長さが1400mmに達した時点で、SiCl の供給を停止し、多孔質母材形成工程を終了した。
【0048】
前記工程の後、多重管バーナー22の内層のみから、又は内層及び外層から表1及び表2で示す流量で表1及び表2に示す種類のフッ化物ガスを表1及び表2に示した時間供給し、フッ素ドーピング工程を終了した。なお、下記の表1及び表2に示すように、同じ実施例においては、前記多孔質母材形成工程及びフッ素ドーピング工程で同じ種類のフッ化物ガスを使用した。
【0049】
【表1】
Figure 0003579919
【0050】
【表2】
Figure 0003579919
【0051】
次に、このようにフッ素ドーピングが終了した多孔質母材25を、1400℃の加熱炉内に移し、Cl ガスを1.2リットル/分及びN ガスを18リットル/分で供給しながら、前記多孔質母材25を透明化した。
【0052】
これにより外径が140mm、長さが900mm、重量が30kgのフッ素含有大型光ファイバ用母材を得た。
【0053】
次に、得られた各実施例に係る光ファイバ用母材の上部(T部)、中央部(C部)、下部(B部)から径方向にサンプル(厚さ10mm)を切り出し、その屈折率を測定した。測定結果を下記の表3及び表4に示している。なお、下記の表3及び表4において、比屈折率差(MAX −MIN )は、測定した全域において純石英に対する比屈折率△n の最も大きい値 (△nMAX)と小さい値 (△nMIN)との差を示した数値である。また、数2式の値とは、下記の数2式に基づいて計算した値であり、比屈折率の分布状態をより適確に示す値である。
【0054】
【数2】
[(△nMAX)−(△nMIN)]/[(△nMAX)+(△nMIN)] ×100 ;(%)
【0055】
【表3】
Figure 0003579919
【0056】
【表4】
Figure 0003579919
【0057】
上記表3及び表4の結果より明らかなように、実施例に係る光ファイバ用母材の製造方法により製造された光ファイバ用母材は、純石英に対する比屈折率△n が0.01〜0.28の広い範囲でフッ素が均一にドーピングされており、比屈折率差(MAX −MIN )が0〜0.02%と小さく、数2式の値も0〜9%と小さい。
【0058】
[比較例1〜11]
下記の表5に示したフッ化物を用い、表5に示した流量で、上記実施例1の場合と同様に多孔質母材形成工程を行って多孔質母材を形成し、その後、上記実施例におけるフッ素ドーピング工程は行わず、上記実施例1の場合と同様の条件で透明ガラス化を行った。前記製造条件及び得られた母材の比屈折率△n などを下記の表5に示している。
【0059】
【表5】
Figure 0003579919
【0060】
本比較例の場合、製造途中で多孔質母材の一部が剥離するトラブルが多発し、また表5より明らかなように、製造された光ファイバ用母材は、低濃度領域を除いて軸方向にかなり大きな屈折率分布を有している。ちなみに、表5に示した本比較例の場合における比屈折率差(MAX −MIN )は0.01〜0.07%と大きく、数2式の値も14〜54%と非常に大きい。
【0061】
[比較例12〜19]
フッ化物ガスを導入しなかった他は実施例1の場合と同様に多孔質母材を形成した後、形成された多孔質母材を加熱炉内に移し、Cl ガスを1.2リットル/分、N ガスを18リットル/分及び表6に示した種類のフッ化物ガスを表6に示した流量で供給しながら、表6に示した条件でフッ素ドーピングを行い、その後、実施例1の場合と同様に透明ガラス化を行った。前記製造条件及び得られた母材の比屈折率△n などを下記の表6に示している。
【0062】
【表6】
Figure 0003579919
【0063】
高濃度にフッ素を含有する母材、すなわち比屈折率△n が大きなものの製造は、比較的容易である。しかし、上記表6より明らかなように、得られたガラス母材はその径方向及び軸方向に極端に大きな屈折率分布を有している。ちなみに、表6に示した本比較例の場合における比屈折率差(MAX −MIN )は0.02〜0.15%と大きく、数2式の値も18〜54%と非常に大きい。
【0064】
[比較例20〜22]
上記表6に示したフッ化物を用い、表6に示した流量で内層から前記フッ化物ガスを供給し、上記実施例1の場合と同様に多孔質母材形成工程を行って多孔質母材を形成し、その後、形成された多孔質母材を加熱炉内に移し、Cl ガスを1.2リットル/分、N ガスを18リットル/分及び表6に示した種類のフッ化物ガスを表6に示した流量で供給しながら、表6に示した条件でフッ素ドーピングを行った。そして、その後、実施例1の場合と同様に透明ガラス化を行った。前記製造条件及び得られた母材の比屈折率△n などを上記の表6に示した。
【0065】
上記表6より明らかなように、高濃度にフッ素を含有する母材、すなわち比屈折率△n が大きなものは、比較的屈折率分布が均一的であるが、実施例の場合のガラス母材の比屈折率△n と比較すると大きい値となっている。またフッ素濃度が低濃度になると母材の径方向及び軸方向について極端に大きな屈折率分布を有している。ちなみに、表6に示した本比較例の場合における比屈折率差(MAX −MIN )は0.02〜0.05%と大きく、数2式の値も14〜50%と非常に大きい。
【0066】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法にあっては、酸水素火炎加水分解反応により多孔質母材を合成し、その後加熱、透明化する光ファイバ用母材の製造方法において、多重管バーナーから原料と共にフッ素化合物を供給してフッ素含有多孔質母材を形成する多孔質母材形成工程の後、該多孔質母材を形成した炉内で引き続き前記多重管バーナーからフッ素化合物を供給し、前記フッ素含有多孔質母材にさらにフッ素をドープするフッ素ドーピング工程を行うので、前記多孔質母材形成工程で前記多孔質母材がHFにより侵食されない程度に比較的低濃度で比較的均一にフッ素をドープすることができる。また、引き続いて行われる原料を供給しないフッ素ドーピング工程で、前記工程で形成された多孔質母材中のフッ素濃度の不均一性を修正しつつ、効率よくフッ素をドープすることができ、前記光ファイバ用母材の軸方向及び径方向に発生する不均一な屈折率分布が改善され、比屈折率△n が0.01〜0.3%の広い範囲で均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材の製造が可能になる。
【0067】
また、この製造方法では、前記多孔質母材を外部から加熱する必要がなく、炉体を400℃以下の低温に維持することができるので、系内に発生したHFにより炉体自身が腐食される虞れが小さく、比較的安価なランニングコストで光ファイバ用母材を製造することができる。
【0068】
また、上記(2)記載の光ファイバ用母材の製造方法にあっては、前記多孔質母材形成工程及びフッ素ドーピング工程において、多重管バーナーからのフッ素化合物の供給に、前記多重管バーナーの2層を使用し、かつ該2層のうちの内層からの流量に対する外層からの流量の比を1〜5の割合に設定するので、より均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材を製造することができる。
【0069】
さらに上記(3)記載の光ファイバ用母材の製造方法にあっては、前記多孔質母材形成工程における流量に対するフッ素ドーピング工程における流量の比を1.5〜5に設定してフッ素化合物を供給するので、より均一なフッ素濃度を有する光ファイバ用母材を製造することができる。
【0070】
本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法は、上述したVAD法の他、他の外付け法によるガラス母材の製造方法(例えば、OVD法など)に適用することができ、さらにクラッド部用ガラス母材の製造方法(例えば、MCVD法など)にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明で用いられる多重管バーナーの先端部分を拡大して示した拡大正面図であり、(b)はその側面図である。
【図2】実施例に係る光ファイバ用母材の製造方法を実施するために用いた装置を模式的に示した概念図である。
【符号の説明】
22 多重管バーナー
25 多孔質母材

Claims (3)

  1. 酸水素火炎加水分解反応により多孔質母材を合成し、その後加熱、透明化する光ファイバ用母材の製造方法において、多重管バーナーから原料と共にフッ素化合物を供給してフッ素含有多孔質母材を形成する多孔質母材形成工程の後、該多孔質母材を形成した炉内で引き続き前記多重管バーナーからフッ素化合物を供給し、前記フッ素含有多孔質母材にさらにフッ素をドープするフッ素ドーピング工程を行うことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
  2. 多孔質母材形成工程及びフッ素ドーピング工程において、多重管バーナーからのフッ素化合物の供給に、前記多重管バーナーの2層を使用し、かつ該2層のうちの内層からの流量に対する外層からの流量の比を1〜5の割合に設定することを特徴とする請求項1記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  3. 多孔質母材形成工程における流量に対するフッ素ドーピング工程における流量の比を1.5〜5に設定してフッ素化合物を供給することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光ファイバ用母材の製造方法。
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