JP3579508B2 - オーディオ装置 - Google Patents

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JP3579508B2
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はオーディオ装置に係わり、特に目標信号を出力するフィルタ手段の伝達特性をスピーカ等の物理的レイアウトに基づいて設定することにより少ない演算量にもかかわらず聴感上優れた効果を発揮できるオーディオ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車室内は、密閉された狭い空間である。従って、短時間で反射が起こり、音波が干渉しあうため、聴取点までの伝達特性は、非常に複雑なものとなる。また、左右非対称な場所で音楽等を聴いているので、左右スピーカからの伝達特性も大きく違ってしまう。かかる車室内の悪影響を取り除き、車室内における音響特性の改善を目的としたオーディオ装置が望まれている。このため、適応等化器を用いて再生空間の複数点(制御点)において、振幅、位相特性を含めて所望の特性となるようにする制御が提案されている。
【0003】
図5は適応等化システムの基本構成図であり、1はオーディオ信号x(n)を出力するオーディオソース(チューナ、テープデッキ、CDプレーヤ等)、2は目標伝達特性(インパルスレスポンス)Hが設定され、オーディオ信号x(n)が入力されて目標信号d(n)を出力する目標特性設定部、4は車室内音響空間の聴取位置(観測点)における音を検出するマイク、5は検出された音楽信号d^(n)とフィルタ2から出力される目標信号d(n)との誤差e(n)を演算する演算部、6は前記誤差e(n)のパワーが最小となるように信号y(n)を発生する適応信号処理装置、7は該信号y(n)に応じた音を車室内音響空間8に放射するスピーカである。
【0004】
適応信号処理装置6は、オーディオ信号x(n)を参照信号として入力されると共に、前記演算部5から出力されるエラ−信号e(n)を入力され、該エラ−信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って信号y(n)を出力する。適応信号処理装置6は、適応信号処理部(LMS)6aと、FIR型のデジタルフィルタ構成の適応フィルタ(ADF)6bと、参照信号x(n)にスピーカ7から聴取位置までの音声伝搬系の伝搬特性(伝達関数)C^を畳み込んで適応信号処理に用いる参照信号(フィルタードリファレンス信号)r(n)を生成するフィルタ6cを有している。
【0005】
適応信号処理部6aは聴取位置におけるエラー信号e(n)と信号処理フィルタ6cを介して入力される適応信号処理用参照信号r(n)が入力され、これらの信号を用いて聴取位置における音楽信号d^(n)が目標信号d(n)と等しくなるように適応信号処理を行って適応フィルタ6bの係数を決定する。例えば、適応信号処理部6aは周知のLMS(Least Mean Square)適応アルゴリズムに従って、エラ−信号e(n)のパワーが最小となるように適応フィルタ6bの係数を決定する。適応フィルタ6bは適応信号処理部6aにより決定された係数に従ってオーディオ信号x(n)にデジタルフィルタ処理を施して信号y(n)を出力する。従って、適応信号処理によりエラー信号e(n)のパワーが最小となるように適応フィルタ6bの係数が最適フィルタに収束すれば、聴取位置において、デジタルフィルタ2に設定した伝達特性Hを有する空間で音を聴取することと等価な効果を得ることができる。
【0006】
適応フィルタ6bは図6に示すように、NタップのFIR型デジタルフィルタで構成され、例えば、入力信号を順次1サンプリング時間遅延する(N−1)個の遅延要素DL,DL・・・DLN−1と、各遅延要素出力に係数w(n),w(n),w(n)・・・wN−1(n)を乗算するN個の乗算部ML,ML,・・・MLN−1と、各乗算部出力を順次加算する加算部AD,AD・・・ADN−1で実現される。すなわち、現時刻n・Tsにおける参照信号をx(n)、その時の各乗算器の係数をw(n),w(n),w(n)・・・wN−1(n)、出力信号をy(n)とすれば、適応フィルタ6bは次式
【0007】
【数1】
Figure 0003579508
の演算を実行し、信号y(n)を出力する。
【0008】
フィルタ6cは図7に示すように、FIR型デジタルフィルタで構成され、例えば、入力信号を順次1サンプリング時間遅延する(M−1)個の遅延要素DL,DL・・・DLM−1と、各遅延要素出力に係数c,c,c・・・cM−1を乗算するM個の乗算部ML,ML,・・・MLM−1と、各乗算部出力を順次加算する加算部AD,AD・・・ADM−1で実現される。係数c,c,c・・・cM−1は二次音伝搬系(スピーカから観測点までの系)の伝搬特性を模擬するように決定されている。時刻n・Tsにおける参照信号をx(n)、出力(フィルタードX信号)をr(n)とすれば、フィルタ6cは次式
【0009】
【数2】
Figure 0003579508
の演算を実行してフィルタードX信号r(n)を出力する。
【0010】
適応信号処理部6aは、1サンプリング時刻Ts後の次の時刻(n+1)・Tsにおける適応フィルタ6bの係数w(n+1),w(n+1),w(n+1)・・・wN−1(n+1)を、現時刻n・Tにおける係数w(n),w(n),w(n)・・・wN−1(n)とエラー信号e(n)とフィルタードX信号r(n)を用いて次の係数更新式により決定する。
【0011】
【数3】
Figure 0003579508
【0012】
ただし、j番目のフィルタ係数更新式は
(n+1)=w(n)+α・r(n−j+1)・e(n) (4)
で与えられる。(3)式において、(n)は現サンプリング時刻の値、(n+1)は1サンプリング時刻後の値、(n−1)は1サンプリング時刻前の値、(n−2)は2サンプリング時刻前の値、・・・を意味している。又、αは適応フィルタの係数を更新するステップを決める定数であり、適当な値に設定される。フィルタードX LMS適応アルゴリズムによる処理においては、上記(1)〜(3)式の演算を1サンプリング時間内に行って、信号 y(n)を出力する。
【0013】
以上のように、適応信号処理部6aは、聴取位置におけるエラー信号e(n)とフィルタ6cを介して入力される適応信号処理用参照信号r(n)が入力され、これらの信号を用いて聴取位置における音楽信号d^(n)が目標信号d(n)と等しくなるように適応信号処理を行うことで適応フィルタ6bの係数を決定する。適応フィルタ6bは適応信号処理部6aにより決定された係数に従ってオーディオ信号x(n)にデジタルフィルタ処理を施して信号y(n)を出力する。従って、適応信号処理によりエラー信号e(n)のパワーが最小となるように適応フィルタ6bの係数が所定値に収束すれば、聴取位置において、デジタルフィルタ2に設定した伝達特性Hを有する空間で音を聴取することと等価な効果を得ることができる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
適応等化システムにおいて、全帯域の制御を行うのは当然のやり方である。しかし、膨大な演算量となり、その処理をリアルタイムで行おうとすれば、DSPが数十個必要になるという問題がある。そこで、特定の周波数帯域のみ、例えば、低音の再生品質を向上するために低音域のみをターゲットとした適応イコライザが考えられる。図8はかかる適応イコライザの構成図であり、図5と同一部分には同一符号を付している。図5と異なる点は、▲1▼目標特性設定部であるデジタルフィルタ2と適応信号処理装置6の前に低音域を通過するバンドパスフィルタ9、10を設け、該バンドパスフィルタの帯域のみ所望の目標信号が得られるようにした点、▲2▼前記バンドパスフィルタの帯域外(特定周波数帯域外)のオーディオ信号を通過するバンドエリミネートフィルタ(例えば中低音域以上のハイパスフィルタ)11及び該バンドエリミネートフィルタ11の出力信号を入力されて音を車室内音響空間に放射するスピーカ12を設けた点である。
【0015】
この適応イコライザによれば、適応フィルタ6bはバンドパスフィルタ10で制限された低音域のみ、再生系(スピーカから観測点までの伝達特性)の逆フィルタになりつつ、目標信号d(n)となるように動作する。但し、適応フィルタの収束する特性には、逆フィルタも含まれるため目標信号(フィルタ2に設定する目標応答)にはモデリングディレイを入れる必要がある。それに伴い、制御帯域外にもディレイをかけ、制御帯域の信号が観測点に到達するまでのタイミングを合わせる必要があるが、目標信号を与えるデジタルフィルタHを任意に設定すると制御帯域外の補正(ディレイ時間の設定等)が複雑になってしまう問題がある。
以上から本発明の目的は、特定帯域のみを制御することにより演算量を削減し、その際、実際のスピーカレイアウトに基づいてフィルタ2の伝達特性(目標応答)を決定して目標信号を出力することにより処理帯域外の補正を簡単にでき、すなわち、特定帯域外のオーディオ信号の処理系を単に遅延のみとすることができ、かつ、観測点で所望の音を聴取できるようにすることである。
本発明の別の目的は、模擬したい音場(例えば反射のない自由空間)におけるスピーカと観測点の位置関係を、実際のスピーカと観測点の実際の位置関係と同じにした時の該音場におけるスピーカから観測点までの伝達特性を求め、該伝達特性を目標信号を出力するフィルタ手段に設定し、実際の観測点において模擬したい音場と同一の音を聴取できるようにすることである。
本発明の更に別の目的は、適応信号処理装置や目標応答を設定するフィルタ手段がなくても簡単な構成により、模擬したい音場と同一の音を聴取できるようにすることである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、本発明によれば、所定の伝達特性が設定され、入力されたオーディオ信号に該伝達特性を畳み込んで目標信号を出力するフィルタ手段と、目標信号と観測点における音楽信号との差であるエラー信号を出力する手段と、オーディオ信号及び前記エラー信号を入力され、該エラー信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って適応フィルタの係数を決定し、該適応フィルタによりフィルタ処理を施されたオーディオ信号を第1のスピーカ(制御用スピーカであり、例えば車室内ではリアスピーカ)に入力する適応信号処理装置と、特定周波数帯域外のオーディオ信号を所定時間遅延して出力する手段と、特定周波数帯域外のオーディオ信号に応じた音を放射する第2のスピーカ(例えばフロントスピーカ)と、特定周波数帯域のオーディオ信号を通過させるバンドパスフィルタを備えたオーディオ装置により達成される。
【0017】
【作用】
模擬したい音場におけるスピーカと観測点の位置関係を、実際の第2のスピーカと観測点の位置関係と同じにした時の該音場におけるスピーカから観測点までの伝達特性を求めて前記目標信号を出力するフィルタ手段に設定する。フィルタ手段はバンドパスフィルタから入力される特定周波数帯域のオーディオ信号に該伝達特性を畳込んで特定周波数帯域内の目標信号を出力し、適応信号処理装置は、目標信号と観測点における音楽信号との差であるエラー信号と特定周波数帯域のオーディオ信号を入力され、該エラー信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って適応フィルタの係数を決定し、該適応フィルタによりフィルタ処理を施された特定周波数帯域のオーディオ信号を第1のスピーカに入力し、第1のスピーカより該オーディオ信号に応じた音を放射すると共に、第2のスピーカより所定時間遅延した特定周波数帯域外のオーディオ信号に応じた音を放射する。以上のように構成すれば、特定帯域のみを制御するため演算量を削減することができ、しかも、実際のスピーカレイアウトに基づいてフィルタ手段の伝達特性を決定して目標信号を出力することにより処理帯域外の補正を簡単に行え、かつ、模擬したい音場と同一の音楽を観測点で聴取することができる。・・・請求項1
【0018】
又、目標応答ディレイ時間をτ、第1スピーカから観測点までの遅延時間τ、第2スピーカから観測点までの遅延時間をτとするとき、前記特定周波数帯域外のオーディオ信号の遅延時間を、
τ+τ−τ
とする。このようにすれば、第1、第2のスピーカから放射された音楽信号は観測点に同時に到達するようにできる。・・・請求項2
又、適応信号処理で収束した適応フィルタの係数を設定されるFIR型フィルタで適応信号処理装置を置き換え、かつ、目標信号出力用のフィルタ手段を除去してオーディオ装置を構成する。このようにすれば、高価な適応信号処理装置やフィルタ手段が不要になり、安価な構成で観測点において模擬したい音場と同一の音を聴取することができる。・・・請求項3
又、各部分をLチャンネル及びRチャンネル両方に設けることによりステレオに対応させることができる。・・・請求項4、請求項5
【0019】
【実施例】
(a) 目標信号を出力するフィルタ手段の係数設定法
本発明は、特定周波数帯域のみ制御することにより演算量を削減し、その際、特定周波数帯域外のオーディオ信号を出力するスピーカ、観測点のレイアウトに基づいて、目標信号を出力するフィルタ手段(FIR型フィルタ)の係数を決定し、これにより、処理帯域外の補正を簡単に行え、しかも、観測点で優れた音を聴取できるようにするものである。すなわち、模擬したい音場におけるスピーカと観測点の位置関係を、実際の音場におけるスピーカと観測点の位置関係と同じにした時のスピーカから観測点までの伝達特性を求めて目標信号を出力するフィルタ手段2に設定する。
模擬したい音場としては、例えば反射の無い自由音場があげられる。本発明は、車室内における特定周波数帯域の特性(例えば低音再生特性)の改善を目的としており、特に、定在波が伝達特性におよぼす影響の排除及び反射成分による伝達特性への影響を取り除くことを狙いとしている。反射の無い空間(無響室)は自由空間(自由音場)である。従って、自由空間内に実際のスピーカ及び観測点のレイアウトと一致するように配置された理想点音源が持つ所定の伝達特性を求め、該伝達特性をフィルタ手段に設定する。例えば、自由音場内に、図1に示すように、実際のレイアウトと一致するように、Lチャンネル、RチャンネルのスピーカSP1,SP2とマイクロホンMIC1,MIC2を配置し、スピーカSP1からマイクMIC1までの伝達特性、スピーカSP2からマイクMIC1までの伝達特性、スピーカSP2からマイクMIC1までの伝達特性、スピーカSP2からマイクMIC2までの伝達特性をそれぞれ測定し、フィルタ手段2に設定する。
【0020】
自由空間内の点音源による音圧pは1/rに比例する(r:スピーカ〜マイク間の距離)。ここで、図1に示す様に、ストレートの音圧、ストレートのスピーカ〜マイク間の距離をそれぞれpst,rstとする。又、クロスの音圧、クロスのスピーカ〜マイク間の距離をそれぞれpcr,rcrとする。ストレートの音圧を1とするとクロスの音圧は、pcr/pstの比で表わされる。よって、
pcr/pst=(1/rcr)/(1/rst)=rst/rcr=110/140=0.78
次にストレートとクロスのマイクまでの音波の到達時間の差を求める。距離差は140−110=30cmであって、音速は340m/sであるから、ディレイタイムtdは
td=30/(340×100)=0.9msec
となり、目標応答のインパルス応答は図2に示すようになる。
【0021】
ところで、適応フィルタは伝達系(制御スピーカ〜制御マイク間)の特性を打ち消すように該伝達系の逆フィルタになりつつ、目標応答(目標信号)になるように動作する。逆フィルタは一般に非因果性のフィルタとなるため、そのまま実現することはできない。そこで、因果律を満足させるために、逆フィルタを求める際の目標応答は一定の遅延をかけたものとしなければならない。これは、モデリングディレイとよばれ、逆フィルタを求める際には必ずといってもよい程用いられるものである。
モデリングディレイを考慮すると、伝達特性を打ち消すように動作するためには目標とするインパルス応答を、適応フィルタの中央のタップに立てるのが一般には妥当である。そこで、目標信号出力用のフィルタ手段を、▲1▼クロスの信号が入力される第1のFIR型フィルタと、▲2▼ストレートの信号が入力される第2のFIR型フィルタと、▲3▼第1、第2のFIR型フィルタ出力を合成して目標信号を出力する合成部とで構成するものとすれば、以下のように第1、第2FIR型フィルタに係数を設定する。
すなわち、適応フィルタの中央タップ位置に応じた第1、第2のFIR型フィルタのタップを係数設定タップというものとすると、クロスの信号が入力される第1のFIR型フィルタの係数設定タップにはゲインが0.78のクロスを立てる(第1のFIR型フィルタの係数設定タップの係数を0.78にし、他のタップ係数を零にする)。又、ストレート信号の到達時間は、クロス信号の到達時間より0.9msec早いから、サンプリングタイムを考慮して、ストレートの第2のFIR型フィルタには係数設定タップより該到達時間差に応じた数タップ前のタップ(数タップ入力側)にゲイン1のストレートを立てる(数タップ前のタップ係数を1.0にし、他のタップ係数を零にする)。
【0022】
(b) 本発明の第1実施例
(b−1) 構成
図3は特定周波数帯域、例えば低音域をターゲットにした本発明の第1実施例の構成図である。
20はオーディオソースであり、Lチャンネル及びRチャンネルのオーディオ信号S,Sを出力する。21〜24は特定帯域例えば低域の音楽信号を通過するバンドパスフィルタ(B.P.F)、25はLチャンネル側の第1の観測点における目標信号(目標応答)d(n)を出力するデジタルフィルタ部、26はRチャンネル側の第2の観測点における目標信号d(n)を出力するデジタルフィルタ部である。
デジタルフィルタ部25は、第1、第2のFIR型フィルタ25a,25bと合成部25cで構成されている。第1のFIR型フィルタ25aはバンドパスフィルタ21を通過して入力されたLチャンネルのオーディオ信号S′に伝達特性H11を畳み込んで出力し、第2のFIR型フィルタ25bはバンドパスフィルタ22を通過して入力されたRチャンネルのオーディオ信号S′に伝達特性H12を畳み込んで出力し、合成部25cは第1、第2のFIR型フィルタ出力を合成してLチャンネル側の目標信号d(n)を出力する。
【0023】
デジタルフィルタ部26は、第1、第2のFIR型フィルタ26a,26bと合成部26cで構成されている。第1のFIR型フィルタ26aはバンドパスフィルタ22を通過して入力されたRチャンネルのオーディオ信号S′に伝達特性H22を畳み込んで出力し、第2のFIR型フィルタ26bはバンドパスフィルタ21を通過して入力されたLチャンネルのオーディオ信号S′に伝達特性H21を畳み込んで出力し、合成部26cは第1、第2のFIR型フィルタ出力を合成してRチャンネル側の第2の目標信号d(n)を出力する。
【0024】
31、32はLチャンネル及びRチャンネルの制御用スピーカでリアスピーカ、33,34はLチャンネル及びRチャンネルのフロントスピーカ、35〜38はアンプ、39はLチャンネル側の第1観測点の観測音に応じた音楽信号d^(n)を検出、出力するマイク、40はRチャンネル側の第2観測点の観測音に応じた音楽信号d^(n)を検出、出力するマイクである。尚、リアレフトスピーカ31から各観測点迄の伝達特性はC11、C21、リアライトスピーカ32から各観測点までの伝達特性はC12,C22である。
41はLチャンネル側の目標信号d(n)とLチャンネル側の第1観測点の音楽信号d^(n)の差を演算し、エラー信号e(n)として出力する演算部、42はRチャンネル側の目標信号d(n)とRチャンネル側の第2観測点の音楽信号d^(n)の差を演算し、エラー信号e(n)として出力する演算部である。
【0025】
43,44はLチャンネル側の第1観測点におけるエラー信号e(n)のパワーが最小となるように適応信号処理するLチャンネル側の第1、第2の適応信号処理装置、45,46はRチャンネル側の第2観測点におけるエラー信号e(n)のパワーが最小となるように適応信号処理するRチャンネル側の第1、第2の適応信号処理装置、47、48は合成部であり、2入力−2スピーカ−2観測点に対応する構成を備えている。
【0026】
Lチャンネルの第1の適応信号処理装置43は、バンドパスフィルタ23を通過したLチャンネルのオーディオ信号S′(=x(n))と第1、第2観測点におけるエラー信号e(n),e(n)を用いて適応信号処理を行い、第2の適応信号処理装置44は、バンドパスフィルタ24を通過したRチャンネルのオーディオ信号S′(=x(n))と第1、第2観測点におけるエラー信号e(n),e(n)を用いて適応信号処理を行い、合成部47は第1、第2の適応信号処理装置43,44の適応フィルタ出力を合成してLチャンネルのスピーカ31に入力する。Rチャンネルの第1の適応信号処理装置46は、バンドパスフィルタ24を通過したRチャンネルのオーディオ信号S′(=x(n))と第1、第2観測点におけるエラー信号e(n),e(n)を用いて適応信号処理を行い、第2の適応信号処理装置45は、バンドパスフィルタ23を通過したLチャンネルのオーディオ信号S′(=x(n))と第1、第2観測点におけるエラー信号e(n),e(n)を用いて適応信号処理を行い、合成部48は第1、第2の適応信号処理装置45,46の適応フィルタ出力を合成してRチャンネルのスピーカ32に入力する。
【0027】
適応信号処理装置43〜46はそれぞれ、1サンプリング時刻Ts後の時刻における適応フィルタ(ADF)A11〜A22の係数w(n+1),w(n+1),w(n+1)・・・wN−1(n+1)を、現時刻における係数w(n),w(n),w(n)・・・wN−1(n)とエラー信号e(n),e(n)とフィルタードX信号Rijを用いて次式(係数更新式)により決定する。
【0028】
【数4】
Figure 0003579508
【0029】
ただし、
Figure 0003579508
である。
49、50はバンドパスフィルタ21〜24の帯域外(特定周波数帯域外)のオーディオ信号を通過するバンドエリミネートフィルタ(例えば中低音域以上のハイパスフィルタ)、51、52はオーディオ信号を所定時間遅延するディレイ回路である。
【0030】
(b−2) FIR型フィルタの係数設定
この実施例では、自由空間内の音場を目標としてFIRフィルタの係数を設定する場合を例にとる。フロントスピーカ33,34、第1、第2の観測点39,40が自由空間内に存在するものと仮定し、Lチャンネル側の第1観測点におけるRチャンネルフロントスピーカ34及びLチャンネルフロントスピーカ33よりの音圧の比を音圧の大きい方を分母として求めた値をp、音の到達時間差をtとする。又、Rチャンネル側の第2観測点におけるLチャンネルフロントスピーカ33及びRチャンネルフロントスピーカ34よりの音圧の比を音圧の大きい方を分母として求めた値をp、音の到達時間差をtとする。
かかる場合、Lチャンネルデジタルフィルタ部25の第2のFIR型フィルタ25bにおける係数設定タップの係数をpとすると共に他の係数を零にして特性H12を設定し、又、第1のFIR型フィルタ25aにおいて係数設定タップ位置より前記到達時間差t分入力側のタップ係数を1とすると共に他の係数を零にして特性H11を設定する。そして、これら第1、第2のFIR型フィルタ出力を合成して第1の目標信号d(n)を出力する。
又、Rチャンネルデジタルフィルタ部26の第2のFIR型フィルタ26bにおける係数設定タップの係数をpとすると共に他の係数を零にして特性H21を設定し、又、第1のFIR型フィルタ26aにおいて係数設定タップ位置より前記到達時間差t分入力側のタップ係数を1とすると共に他の係数を零にして特性H22を設定し、これら第1、第2のFIR型フィルタ出力を合成して第2の目標信号d(n)を出力する。
以上のようにすれば、自由空間内に配置された理想点音源が持つ伝達特性H11〜H22を設定して目標応答d(n),d(n)を出力することができる。
【0031】
(b−3) 遅延時間の設定
フロントスピーカ33(34)とリアスピーカ31(32)から出力される音は同時に観測点39(40)に到達する必要がある。先に述べたとおり、目標応答はFIR型フィルタの係数設定タップに立てる。このため、リアスピーカ31(32)の駆動信号は目標応答分のディレイ(第1のタップから係数設定タップまでのディレイ)を持つ。よって、フロントスピーカ33(34)に入力する信号は以下に示す時間td分リアスピーカに入力する信号より遅らせる。
td=(目標応答ディレイ+リアスピーカより観測点までのディレイ)−(フロントスピーカより観測点までのディレイ)
すなわち、ディレイ回路51、52は該遅延時間td分入力信号S,Sを遅延させる。
【0032】
(b−4) 動作
Lチャンネル側及びRチャンネル側のデジタルフィルタ部25,26は、自由空間内に配置された理想点音源が持つ所望の伝達特性H11〜H22を帯域制限された低音域のオーディオ信号S′、S′に畳み込んで目標応答d(n),d(n)を出力する。
Lチャンネル側の適応信号処理装置43,44は、Lチャンネル側の第1観測点(マイク)39における観測音がLチャンネルの目標応答d(n)と一致するように、又、Rチャンネル側の適応信号処理装置45,46は、Rチャンネル側の第2観測点(マイク)40における観測音がRチャンネルの目標応答d(n)と一致するように、すなわち、エラー信号e(n)及びe(n)のトータルパワーが最小となるように適応信号処理を実行する。これにより、聴取位置(観測点)において、バンドパスフィルタ21〜24の帯域(制御帯域)内の音は自由空間に存在するかのような音となる。
一方、フロントスピーカ33、34は所定の時間td分遅延した制御帯域外(処理帯域外)のオーディオ信号S″,S″をバンドエリミネートフィルタ49、50より入力されて該処理帯域外の音を車室内音響空間に放射する。
【0033】
以上より、制御帯域の音と制御帯域外の音が聴取点に同時に到達し、これらの合成音を聴取できる。この場合、制御帯域(低音域)の音は自由空間に存在するかのような音となり、しかも、全帯域で処理していないため演算量を削減でき、更には、制御帯域外の処理系を単純な遅延(ディレイ)のみとすることができ、制御帯域外の補正処理を簡単に行うことができる。
【0034】
(c) 第2実施例
第1実施例では、適応信号処理装置43〜46により、Lチャンネル側の第1観測点における観測音がLチャンネルの目標応答d(n)と一致するように、かつ、Rチャンネル側の第2観測点における観測音がRチャンネルの目標応答d(n)と一致するように適応信号処理を実行する。このため、第1実施例では制御用スピーカから制御点までの伝達特性C11〜C22が種々の要因で変化しても常に目標とする音場に近い状態を維持することができる。一方、C11〜C22が大きく変化しない場合には、適応信号処理装置43〜46を固定係数のデジタルフィルタで置き換えても十分な効果を得ることができる。
【0035】
図4はかかる本発明の第2の実施例構成図であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第1実施例と異なる点は以下の通りである。
▲1▼第1実施例の4つの適応信号処理装置43〜46の代わりに、FIR型デジタルフィルタ43′〜46′を設けた点、
▲2▼第1実施例により適応信号処理で収束したLチャンネル及びRチャンネルの4つの適応信号処理装置43〜46の適応フィルタA11,A21,A12,A22の係数を求め(係数同定)、該4つの係数を4つのFIR型フィルタ43′〜46′に設定する点、
▲3▼第1実施例のLチャンネル及びRチャンネルのデジタルフィルタ部25,26及びバンドパスフィルタ21、22を削除した点、
▲4▼マイク39,40、演算部41,42を除去した点、
以上のように構成すれば、第1実施例のデジタルフィルタ25a〜25b、26a〜26bの特性H11〜H22を1つに固定した場合と同等の効果を得ることができる。
【0036】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明は請求の範囲に記載した本発明の主旨に従い種々の変形が可能であり、本発明はこれらを排除するものではない。
【0037】
【発明の効果】
以上本発明によれば、特定の帯域(制御することで高い効果が得られる帯域)のみを制御するから、演算量V.S.制御効果が最大になる様、制御装置を構成することが可能であり、しかも、制御帯域の目標応答(フィルタの伝達特性)をスピーカレイアウトに基づいて決定することにより、制御帯域外の処理を単純な遅延とするだけで、制御帯域内の音とのつながりを十分に確保することができる。このため、制御性能を保持したまま、系全体の演算量を低減させることができる。
又、適応信号処理により適応フィルタの係数を同定し、該係数をFIR型デジタルフィルタに設定することにより、適応信号処理装置や目標応答出力用のデジタルフィルタ、マイク、演算部を除去でき、ハードウェアを著しく減少でき、しかも、優れた音を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】目標応答の設定法説明図である。
【図2】目標応答のインパルス応答図である。
【図3】特定帯域をターゲットにした本発明の第1実施例の構成図である。
【図4】本発明の第2実施例の構成図である。
【図5】適応等化システムの基本構成図である。
【図6】適応フィルタの構成図である。
【図7】適応処理用参照信号を作成するフィルタの構成図である。
【図8】特定帯域のみターゲットにした従来の適応イコライザの構成図である。
【符号の説明】
20・・オーディオソース
25〜26・・Lチャンネル及びRチャンネルのデジタルフィルタ部
31〜32・・リアスピーカ
33〜34・・フロントスピーカ
39〜40・・マイク
43〜44・・Lチャンネルの適応信号処理装置
45〜46・・Rチャンネルの適応信号処理装置

Claims (5)

  1. 所定の伝達特性が設定され、入力されたオーディオ信号に該伝達特性を畳み込んで目標信号を出力するフィルタ手段と、目標信号と観測点における音楽信号との差であるエラー信号を出力する手段と、オーディオ信号及び前記エラー信号を入力され、該エラー信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って適応フィルタの係数を決定し、該適応フィルタによりフィルタ処理を施されたオーディオ信号を第1のスピーカに入力する適応信号処理装置を備えたオーディオ装置において、
    特定周波数帯域外のオーディオ信号を所定時間遅延して出力する手段と、該手段から出力される特定周波数帯域外のオーディオ信号に応じた音を放射する第2のスピーカと、特定周波数帯域のオーディオ信号を通過させるバンドパスフィルタを設け、
    模擬したい音場におけるスピーカと観測点の位置関係を、前記第2のスピーカと観測点の実際の位置関係と同じにした時の前記音場におけるスピーカから観測点までの伝達特性を求めて前記フィルタ手段に設定し、
    該フィルタ手段は前記バンドパスフィルタから入力される特定周波数帯域のオーディオ信号に該伝達特性を畳込んで特定周波数帯域内の目標信号を出力し、
    前記適応信号処理装置は、目標信号と観測点における音楽信号との差であるエラー信号と特定周波数帯域のオーディオ信号を入力され、該エラー信号のパワーが最小となるように適応信号処理を行って適応フィルタの係数を決定し、該適応フィルタによりフィルタ処理を施された特定周波数帯域のオーディオ信号を前記第1のスピーカに入力し、
    第1のスピーカより該オーディオ信号に応じた音を放射すると共に、第2のスピーカより前記所定時間遅延した特定周波数帯域外のオーディオ信号に応じた音を放射することを特徴とするオーディオ装置。
  2. 前記フィルタ手段における目標応答ディレイ時間をτ、第1スピーカから観測点までの遅延時間τ、第2スピーカから観測点までの遅延時間をτとするとき、前記特定周波数帯域外のオーディオ信号の遅延時間を
    τ+τ−τ
    とすることを特徴とする請求項1記載のオーディオ装置。
  3. 適応信号処理で求まった適応フィルタの係数が設定されるFIR型フィルタで適応信号処理装置を置き換え、かつ、前記フィルタ手段を除去してなることを特徴とする請求項1又は2記載のオーディオ装置。
  4. 前記フィルタ手段は、Lチャンネル、Rチャンネルの特定周波数帯域のオーディオ信号がそれぞれ入力される第1、第2のデジタルフィルタとこれらフィルタ出力を合成してLチャンネルの目標信号を出力する合成部を備えたLチャンネルフィルタと、Rチャンネル、Lチャンネルの特定周波数帯域のオーディオ信号がそれぞれ入力される第1、第2のデジタルフィルタとこれらフィルタ出力を合成してRチャンネルの目標信号を出力する合成部を備えたRチャンネルフィルタを備え、
    前記エラー信号出力手段は、第1の観測点における音楽信号とLチャンネルの目標信号との差であるエラー信号eを出力するエラー信号出力部と、第2の観測点における音楽信号とRチャンネルの目標信号との差であるエラー信号eを出力するエラー信号出力部を備え、
    前記適応信号処理装置は、Lチャンネル及びRチャンネルの特定周波数帯域のオーディオ信号及び前記エラー信号e,eを入力されエラー信号e及びeのトータルパワーが最小となるように適応信号処理を行い、適応フィルタ出力をLチャンネルの第1スピーカに入力するLチャンネルの適応信号処理装置と、Rチャンネル及びLチャンネルの特定周波数帯域のオーディオ信号及び前記エラー信号e,eを入力されエラー信号e及びeのトータルパワーが最小となるように適応信号処理を行い、適応フィルタ出力をRチャンネルの第1スピーカに入力するRチャンネルの適応信号処理装置を備え、
    前記特定周波数帯域外のオーディオ信号遅延出力手段は、特定周波数帯域外のLチャンネル、Rチャンネルのオーディオ信号をそれぞれ所定時間遅延してLチャンネル、Rチャンネルの第2スピーカに出力する手段を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のオーディオ装置。
  5. 模擬したい音場におけるスピーカと観測点の位置関係を実際の位置関係と同一にしたとき、該音場の第1観測点におけるR,Lチャンネルの第2スピーカよりの音圧の比を音圧の大きい方を分母として求めた値をp、音の到達時間差をtとし、又、第2の観測点におけるL,Rチャンネルの第2スピーカよりの音圧の比を音圧の大きい方を分母として求めた値をp、音の到達時間差をtとするとき、
    前記フィルタ手段のLチャンネルフィルタを構成する第2デジタルフィルタの係数設定タップ(通常は、適応フィルタの中央タップの位置に応じたタップ)の係数をpとすると共に他のタップの係数を零とし、又、Lチャンネルフィルタを構成する第1デジタルフィルタの係数設定タップより前記到達時間差t分入力側のタップの係数を1とすると共に他の係数を零とし、これら第1、第2のデジタルフィルタ出力を合成してLチャンネル側の目標信号を出力し、
    前記フィルタ手段のRチャンネルフィルタを構成する第2デジタルフィルタの係数設定タップ(通常は、適応フィルタの中央タップの位置に応じたタップ)の係数をpとすると共に他のタップの係数を零とし、又、Rチャンネルフィルタを構成する第1デジタルフィルタの係数設定タップより前記到達時間差t分入力側のタップの係数を1とすると共に他の係数を零とし、これら第1、第2のデジタルフィルタ出力を合成して第2の目標信号を出力することを特徴とする請求項4記載のオーディオ装置。
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