JP3579468B2 - 耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は自動車、容器、厨房器具をはじめとする加工用材料として利用される耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
厨房器具、自動車、容器などに使用される鋼板は用途に応じた加工性が求められている。この加工性を向上させるため例えば特開平1−225727号公報や特開平2−173247号公報に開示されているように、C,Nを低減し、さらにTi,Nbなどの炭窒化物形成元素を添加した鋼板が開発され実用化されている。しかしこれらの鋼板は非常に軟質となるため疲労特性や耐デント性がそれ以前の鋼板より劣っており使用上問題視され始めている。
【0003】
耐デント性や疲労特性を向上させるには降伏強度(降伏現象を示さない場合は0.2%耐力)や強度の高い材料を用いることが有効であるが、加工性が劣化するとともに加工時の形状凍結性が悪くなり面歪みを生じ易くなる。これらの事情から一般に軟質で良好な加工性と疲労特性、耐デント性および耐面歪み性を両立することは困難となっている。これを解決する手段として特開平4−143227号公報に開示されたC,Mn,Si,Pを特定したA層とC,Nを特定し、Ti,Z,Nbの1種以上を添加したB層を有する複層鋼片を熱延、冷延、焼鈍する複層鋼板による方法があるが、この方法では複層化のコストが非常に大きく実用的ではない。
【0004】
これらの問題点を解決するため本発明者らは、特願平6−187913号で表層にCを添加し表内層の強度差をワイヤー添加法により生じさせた耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に優れた鋼板を提案している。しかし、この鋼板においては製造条件によってはこの素材の持つ特性を十分に活かしきれない場合があり、熱延および焼鈍条件を限定することにより特性をさらに向上できることがその後の検討により明らかとなった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、表層にCを添加し表内層の強度差を生じさせた耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に優れた鋼板において、疲労特性と耐デント性をさらに改善し、同時に加工性も向上させ、しかも製造コストもより低く抑える製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は表層にCを添加し表内層の強度差を生じさせた耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に優れた複層構造を持つ鋼板に関して、さらなる特性の向上、低コスト化を目的として製造条件を検討した結果得られたものである。その要旨とするところは以下の通りである。すなわち
(1)内層成分が重量%で
C :0.200%以下、 Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、 S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、 N :0.0100%以下、
残部Feおよび不可避的不純物であり、
表層成分が重量%で
C :内層Cより0.0600%以上高いか又は内層Cの2.0倍以上であり、かつ0.800%以下、 Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、 S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、 N :0.0100%以下、
残部Feおよび不可避的不純物である鋼片を巻取温度700℃以下として熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
【0007】
(2)内層成分が重量%で
C :0.050%以下、 Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、 S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、 N :0.0100%以下
であり、かつTi,Nbのいずれか1種又は2種であって、
Ti:0.020〜0.100%、 Nb:0.015〜0.100%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
表層成分が重量%で
C :内層Cより0.0600%以上高いか又は内層Cの2.0倍以上であり、かつ、0.800%以下、 Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、 S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、 N :0.0100%以下
であり、かつTi,Nbのいずれか1種又は2種であって、
Ti:0.020〜0.100%、 Nb:0.015〜0.100%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物である鋼片を巻取温度700℃以下で熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
【0008】
(3)熱間圧延終了後800℃以下で10分以下の熱延板焼鈍を施し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
(4)焼鈍条件として、加熱速度20℃/秒以上、保定温度を再結晶温度以上900℃以下、保定時間120秒以下、冷却速度30℃/秒以上とすることを特徴とする、前記(3)記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
【0009】
(5)鋼片の表層の全厚みに対する比率を片側2〜20%、両側4〜40%とすることを特徴とする、前記(1),(2),(3)又は(4)記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
(6)鋼片の表層と内層の間に成分が連続的に変化する領域を、片側で全厚みの0.1%以上有せしめることを特徴とする前記(1),(2),(3),(4)又は(5)記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
【0010】
このように本発明においては、内表層でC量を変えた鋼片を処理するにあたり、1)熱延巻取温度は低く抑える。2)冷延後の焼鈍を短時間で行う。3)必要に応じて熱延板の焼鈍を行うことでよりよく目的が達成できる。
【0011】
【作用】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、内層部の成分に関して述べる。成分はすべて重量%である。
Cは内層部の加工性を向上させ鋼板自体の加工性を向上させるので加工性が重視される場合は低いほど好ましい。又、内層部を軟質にし表層のみを硬化させることによるデント性や疲労特性の向上のためにも低いほど好ましい。用途によっては鋼板自体の強度が必要となるため内層部にも添加されるが過剰な添加は鋼板の加工性を著しく劣化させるため上限を0.200%とする。
【0012】
Mnは鋼の熱間加工性を向上させるため必要な元素である。しかし過剰な添加は加工性を劣化させるため適正量を0.01〜3.00%とする。
Pは加工性の点からは少ないことが望ましいが鋼板自体の強度が必要な用途では添加される。脱Pコストと加工性の点から0.001〜0.200%とする。
Sは熱間加工性から低い方が好ましいが脱Sコストを考え0.001〜0.050%に制限する。
【0013】
Alはアルミキルド鋼では脱酸のために少なからず含有する。又Nによる時効性劣化を避けるためにも有用である。添加コストを考え0.005〜0.100%とする。
Nは加工性から低い方が好ましいが、脱Nコストを考え0.0100%以下とする。
【0014】
Tiは内層Cが0.0050%以下の場合に添加することで内層部の加工性を著しく向上させる。添加コストも考え0.020〜0.100%とする。
NbもTiと同様の理由から0.015〜0.100%とする。
【0015】
次に、表層部の成分に関して述べる。
Cは表層部を硬化させるため添加される。目的とする効果を得るために表層Cと内層Cの差が0.0600%以上、又は内層Cとの比で2.0倍以上であることが必要である。後述する焼鈍時の冷却速度との関連もあるが過剰な添加は表層部の加工性を著しく劣化させ加工時に表層部の割れを生じさせるので、上限を0.800%とする。良好な加工性を得るには上限を0.3%とすることが好ましい。さらに絞りや張り出し、曲げ成形などが厳しい場合には上限を0.2%とすることが好ましい。
Mn,P,S,Al,Nの限定理由は内層部と同様である。
【0016】
次に目的とする複層構造を得るための方法について述べる。
これまで複層鋼板の製造法については、鋳ぐるみ法、鋳込み法(2本ノズル鋳造法、ワイヤー添加法)、熱延圧着法、爆着法などが提示されている。本発明者らはこれらの製法と本発明鋼板が目的とする材質改善効果を検討した結果、製造法によって明確な差は認められず、鋳込み法以外の製法による複層鋼板では、製造条件によっては界面の接合が最適でない場合に強加工時に界面からの破壊が起きることがあった。
【0017】
鋳込み法によったものでもワイヤー添加によった場合には界面での接合状態が非常に良好なため加工性が向上する傾向が見られた。さらに、電磁ブレーキにより溶鋼の混合を抑えた場合には表内層の強度差が明確となるため高加工性をそのままにして耐デント性などの特性を顕著に向上させることができる。一般にワイヤー添加による成分添加は1%程度が限度であるが、本発明鋼では基本的には高々0.6%のCを添加することからもワイヤー添加法での製造が最適と言える。又、製造コストの面からは連続的に製造でき、複層化のための設備も簡易であるワイヤー添加法が圧倒的に有利である。これらの理由から本発明鋼の製造法はワイヤー添加鋳込み法が望ましい。
【0018】
本発明の鋼板においては熱延および焼鈍条件を適当に限定することも重要である。本発明者が特願平6−187913号で明らかにした表層にCを添加する技術により耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性を同時に向上させることができるが、熱延時の巻取温度が高い場合や焼鈍条件によっては耐デント性の向上代が小さかったり、加工性が劣化する場合がある。これは熱処理のパターンによっては表層に添加したCが内層に拡散するため表層の強度が低下し同時に内層の強度が上昇するためである。これを避けるために熱延時点での巻取温度を700℃以下に限定する。特に耐デント性や疲労特性を重視する場合は600℃以下とすることが望ましい。
【0019】
さらに加工性を重視する場合は熱延板焼鈍を行ってもよいが、その時の条件は上述の理由から保定温度800℃以下、保定時間10分以下に制限される。
内層にTi,Nbを含有する場合には、熱延条件を限定することで所望の特性の向上が図られるものの、表層より内層へ拡散したCのため内層に微細なTi又はNbの炭化物が形成され、内層部の再結晶温度が著しく上昇するため高温焼鈍が必要になるので熱延板焼鈍温度を上記のようにすることは冷延後の焼鈍時のエネルギーコストの点でも有利となる。
【0020】
冷延後の焼鈍時にも表層から内層へのCの拡散が起き、目的とする特性の向上代の低下を引き起こす。これを避けるため焼鈍条件は加熱速度20℃/秒以上、保定を再結晶温度以上、900℃以下、保定時間120秒以下、冷却速度30℃/秒以上が望ましい。この中で特に冷却速度については、保定温度を730℃以上として急速な冷却を行い表層部の強度を内層部以上に上昇させ易い耐デント性、疲労特性を著しく高めることができる。これは本発明鋼では表層部のC濃度が内層部より高いため、又表層部のMn,N含有量が内層部より高い場合などに表層部のみで焼入れ性の向上やγ→α変態温度が低下するため、表層部の一部又は全部がベイナイトやマルテンサイトなど硬質な組織となるためであり本発明の効果を十分に得ることができる。
この効果をより効果的に得るため表層部にCr,B,Ni,Moなど焼入れ性を高める元素を積極的に添加することは本発明の効果を何等損なうものではない。
【0021】
C又はその他の焼入れ性に影響を及ぼす元素の含有量と関連するが、あまりに急冷条件とすると表層部が完全にマルテンサイトとなるため加工時に表層部に亀裂が入る場合がある。又過剰な急冷条件は熱応力による転位密度の上昇、変態組織の影響などにより鋼板自体の加工性も低下する。この影響を緩和するため焼鈍後に焼戻しを行う手段もあるが厳しい加工用途では使用が制限される。この場合冷却条件の上限は、表内層部の成分および用途との関連で選定することが望ましい。又、一般のアルミキルド鋼を連続焼鈍で製造する場合のように、時効性の観点から再結晶焼鈍の後に約400℃で行われる、いわゆる過時効処理を施すことは本発明の効果を何等損なうものではない。
【0022】
次に表層および内層の厚みについて述べる。
鋼板表層の厚みは、耐デント性、疲労特性、耐面歪み性を確保するために全厚みの2%以上(両表層の場合両表層の合計で4%以上)、20%以下(両表層の場合両表層の合計で40%以下)が望ましい。製造の安定性、効果の十分な発現を考えると全厚みの4%以上(両表層の場合両表層の合計で8%以上)、15%以下(両表層の場合両表層の合計で30%以下)とすることが好ましい。この場合、連続的に成分が変化する領域を片側で全厚みの0.1%以上有せしめれば、加工時に表内層の境界部から割れが発生することがなくて、望ましい。この領域の形成は、上述のワイヤー添加法で可能である。
【0023】
本発明鋼板は鋳造後熱延、必要に応じて熱延板焼鈍、冷延、焼鈍ラインを通板され使用される。又、本発明による方法で製造した鋼板を亜鉛、錫、クロム、アルミなどでめっきする表面処理鋼板の素材としても利用できる。又、使用目的に応じ表層又は内層にSiなどを添加し表層強度をさらに上昇することや、鋼板全体の強度を上昇しても本発明の効果は失われるものではない。
【0024】
【実施例】
ワイヤー添加法によって表1に示す成分を有する複層鋳片を得た。表層の厚みは両表層同一とし全厚みに対する片側表層の比率は10%とした。一部のものについてはスラブ段階で表層を研削し表層比率の小さいものを製造し表層厚みの下限を検討した。これらのスラブについて熱延条件および冷延後の焼鈍条件を変化させ、冷薄材を製造し特性評価を行った。特性を表2に示す。
【0025】
加工性は内層相当の成分系で実施例と同製造条件でほぼ同一の強度に製造した単層板と比較し、伸び、平均r値が同等で、さらに引張試験で試験片にくびれが発生する以前に表層に亀裂が発生しないことを合格基準とした。耐面歪み性については降伏強度(YS)が250MPa 以上で面歪みが問題となるという従来の知見に基づきYS<250MPa を合格とした。又、疲労強度、耐デント性については試験鋼板と同一の引張強度を有する鋼板の各試験値との比をとり、特性値の向上代が10%以上であることを合格基準とした。デント性については鋼板に付加を与え、付加を除去した後に残った凹み量を指標とし、疲労特性については両振り平面曲げを1800cpm にて行い100万回曲げで破壊しない最大応力を指標とした。
【0026】
本発明鋼板は加工性と耐デント性、疲労特性、耐面歪み性のすべてについて基準を満足している。一方、複層鋼板でも本発明の範囲を外れたものは各特性のいずれかが基準を満足しない。又、単層材では高加工性鋼板では耐面歪み性を満足するものの疲労特性、耐デント性が良好でなく、高強度鋼板では疲労特性、耐デント性は良好であるが、加工性および耐面歪み性が不良である。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【発明の効果】
以上述べたごとく本発明による鋼板は低コストで製造できる上に、高加工性と耐デント性、疲労特性および耐面歪み性を両立することができる。
Claims (6)
- 内層成分が重量%で
C :0.200%以下、
Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、
S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、
N :0.0100%以下、残部Feおよび不可避的不純物であり、
表層成分が重量%で
C :内層Cより0.0600%以上高いか又は内層Cの2.0倍以上であり、かつ0.800%以下、
Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、
S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、
N :0.0100%以下、残部Feおよび不可避的不純物
である鋼片を巻取温度700℃以下として熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。 - 内層成分が重量%で
C :0.050%以下、
Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、
S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、
N :0.0100%以下
であり、かつTi,Nbのいずれか1種又は2種であって、
Ti:0.020〜0.100%、
Nb:0.015〜0.100%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
表層成分が重量%で
C :内層Cより0.0600%以上高いか又は内層Cの2.0倍以上であり、かつ0.800%以下、
Mn:0.01〜3.00%、
P :0.001〜0.200%、
S :0.001〜0.050%、
Al:0.005〜0.100%、
N :0.0100%以下
であり、かつTi,Nbのいずれか1種又は2種であって、
Ti:0.020〜0.100%、
Nb:0.015〜0.100%を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物である鋼片を巻取温度700℃以下で熱間圧延し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。 - 熱間圧延終了後800℃以下で10分以下の熱延板焼鈍を施し、冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする請求項1又は2記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
- 焼鈍条件として、加熱速度20℃/秒以上、保定温度を再結晶温度以上900℃以下、保定時間120秒以下、冷却速度30℃/秒以上とすることを特徴とする、請求項3記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
- 鋼片の表層の全厚みに対する比率を片側2〜20%、両側4〜40%とすることを特徴とする、請求項1,2,3又は4記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
- 鋼片の表層と内層の間に成分が連続的に変化する領域を、片側で全厚みの0.1%以上有せしめることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の耐デント性、疲労特性、耐面歪み性および加工性に著しく優れた冷延鋼板の製造方法。
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