JP4189194B2 - 加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、曲げ加工を主とする形状凍結性が優れた冷延鋼板とその製造方法に関するもので、自動車部品等が主たる用途である。
【0002】
【従来の技術】
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用して自動車車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全確保のためにも、自動車車体には軟鋼板の他に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。更に、自動車車体の軽量化を今後進めていくために、従来以上に高強度鋼板の使用強度レベルを高めたいという新たな要請が非常に高まりつつある。
【0003】
しかしながら、高強度鋼板に曲げ変形を加えると、加工後の形状はその高強度ゆえに、加工冶具の形状から離れて加工前の形状の方向にもどりやすくなるスプリング・バック現象や、成形中の曲げ−曲げ戻しからの弾性回復により側壁部の平面が曲率を持った面になってしまう壁そり現象が起こり、狙いとする加工部品の形状が得られない寸法精度不良が生じる。
【0004】
従って、従来の自動車の車体では、主として、440MPa以下の高強度鋼板に限って使用されてきた。自動車車体にとっては、490MPa以上の高強度鋼板を使用して車体の軽量化を進めていく必要があるにもかかわらず、スプリング・バックや壁そりが少なく形状凍結性の良い高強度鋼板が存在しないのが実状である。
【0005】
付け加えるまでもなく、440MPa以下の高強度鋼板や軟鋼板の加工後の形状凍結性を高めることは、自動車や家電製品などの製品の形状精度を高める上で極めて重要である。
【0006】
本発明者らは、板厚中心での集合組織を制御することによって形状凍結性に優れた鋼板を製造する方法を開示している(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では冷延鋼板でしばしば要求される深絞り性のような加工性がある程度低下することは否めない。また、焼鈍過程で形状凍結性に有利な集合組織が一部壊れてしまうことから冷延鋼板において極めて高い形状凍結性を確保することは難しい。
【0007】
なお、本発明者らの一部は、スプリングバック量を小さくする技術として、板面に平行な{100}面の反射X線強度比が3以上である冷延鋼板を開示した(例えば、特許文献2参照)が、この発明は、板厚最表面でのX線強度比の規定を特徴としており、1/2板厚におけるX線強度比を規定する本発明とは全く異なるものである。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−303175号公報
【特許文献2】
特開2001−64750号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
軟鋼板や高強度鋼板に曲げ加工を施すと、鋼板の強度に依存しながら大きなスプリング・バックが発生し、加工成形部品の形状凍結性が悪いのが現状である。本発明は、この問題を抜本的に解決して、加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
従来の知見によれば、スプリング・バックを抑えるための方策としては、鋼板の降伏点を低くすることが、とりあえず重要であると考えられていた。そして、降伏点を低くするためには、引張強さの低い鋼板を使用せざるをえなかった。しかしこれだけでは、鋼板の曲げ加工性を向上させ、スプリング・バック量を低く抑えるための根本的な解決にはならない。
【0011】
そこで、本発明者らは、曲げ加工性を向上させてスプリング・バックの発生を根本的に解決するために、鋼板の集合組織の形状凍結性への影響に着目して、その作用効果を詳細に調査、研究した。
【0012】
その結果、{100}<011>〜{223}<110>方位群と、{554}<225>、{111}<112>、{111}<110>の各方位の強度、及び、これらの方位の強度比を制御すること、更には、圧延方向のr値及び圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つをできるだけ低い値にすることで、加工性を確保しつつ形状凍結性が飛躍的に向上することを明らかにした。
【0013】
また、鋭意検討の結果、成分の最適化及び冷延率・焼鈍温度等の製造条件の最適化によって、前述の加工性と形状凍結性に有利な集合組織を有する冷延鋼板を製造することが可能であることを見出した。
【0014】
本発明は、前述の知見に基づいて構成されており、その主旨とするところは以下の通りである。
【0015】
(1) 質量%で、
C:0.0001%以上、0.25%以下、
Si:0.001%以上、2.5%以下、
Mn:0.01%以上、2.5%以下、
P:0.15%以下、
S:0.03%以下、
Al:0.01%以上、2.0%以下、
N:0.01%以下、
O:0.01%以下
更に、Ti、Nbの1種又は2種を合計で0.01%以上、0.40%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼(ただし、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の相とし、体積分率で25%以下のマルテンサイトを含む複合組織鋼を除く)であり、少なくとも1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値(A)が4.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値(B)が3.0以上であり、更に、1.0≦(A)/(B)≦4.0を満足し、加えて、圧延方向及びそれと直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.7以下、r値の平均値が0.8以上であることを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。
【0017】
(2) 更に、質量%で、
V:0.20%以下、
Cr:1.5%以下、及び、
B:0.007%以下
の1種又は2種以上を含有する(1)に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。
【0018】
(3) 更に、質量%で、
Mo≦1%、
Cu≦2%、
Ni≦1%、及び、
Sn≦0.2%
の1種又は2種以上を含有する(1)又は(2)に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。
【0019】
(4) (1)〜(3)の何れかに記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板にめっきを施したことを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。
【0020】
(5) (1)〜(4)の何れかに記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板を製造するに当たり、冷延母材として用いる熱延鋼板の集合組織と冷延圧下率が、次式(1)及び(2)を満足し、
冷間圧延後、更に、3℃/s〜100℃/sで、600℃〜(Ac3+150)℃の温度範囲に加熱し、1℃/s〜250℃/sで冷却することを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0021】
(a)+0.02×CR≧4 ・・・(1)
2.5≦(b)+0.03×CR≦5.0 ・・・(2)
ここで
(a):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値
(b):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値
CR:冷延圧下率(%)
(6) (5)に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法において、冷延鋼板に、0.4%以上5%以下のスキンパス圧延を施すことを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
【0023】
1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値及び{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値:
本発明で特に重要な特性値である。板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム試料に対する各方位の強度比を求めたときの、{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値が4.0以上でなくてはならない。これが4.0未満では形状凍結性が劣悪となる。
【0024】
この方位群に含まれる主な方位は、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>である。
【0025】
これら各方位のX線ランダム強度比は、{110}極点図に基づきベクトル法により計算した3次元集合組織や、{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図(好ましくは3つ以上)を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0026】
例えば、後者の方法における上記各結晶方位のX線ランダム強度比には、3次元集合組織のφ2=45゜断面における(001)[1−10]、(116)[1−10]、(114)[1−10]、(113)[1−10]、(112)[1−10]、(335)[1−10]、(223)[1−10]の強度をそのまま用ればよい。
【0027】
{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値とは、上記の各方位の相加平均である。上記の全ての方位の強度を得ることができない場合には、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{112}<110>、{223}<110>の各方位の相加平均で代替してもよい。
【0028】
更に、1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値は3.0以上なくてはならない。これが3.0未満になると、加工性が劣化する。{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比も、上記の方法に従って計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0029】
より望ましくは、{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.5以上、更に望ましくは5.0以上、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比の相加平均値が3.5以上である。
【0030】
また、{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比(以下(A)という)と、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>のX線ランダム強度比の相加平均値(以下(B)という)は1.0≦(A)/(B)≦4.0を満足していなければならない。
【0031】
(A)/(B)が1.0未満では、優れた形状凍結性を確保できず、4.0超になると加工性が劣化する。この観点から、望ましくは1.5≦(A)/(B)≦3.7、更に望ましくは、2.0≦(A)/(B)≦3.5とする。
【0032】
以上述べた結晶方位のX線強度が曲げ加工時の形状凍結性及び加工性に対して重要であることの理由は必ずしも明らかではないが、曲げ変形時の結晶のすべり挙動と関係があるものと推測される。
【0033】
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで、化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去すると同時に、板厚1/2面が測定面となるように作製する。
【0034】
鋼板の板厚中心層に偏析帯や欠陥などが存在し、測定上不都合が生ずる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように、上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。
【0035】
当然のことであるが、上述のX線強度の限定が板厚1/2近傍だけでなく、なるべく多くの厚みについて満たされることで、より一層形状凍結性が良好になる。
【0036】
なお、{hkl}<uvw>で表される結晶方位とは、板面の法線方向が<hkl>に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。
【0037】
圧延方向のr値(rL)及び圧延方向と直角方向のr値(rC):
本発明において重要である。すなわち、本発明者等が鋭意検討の結果、上述した種々の結晶方位のX線強度が適正であっても、必ずしも良好な形状凍結性が得られないことが判明した。上記のX線強度と同時に、rL及びrCのうち少なくとも1つが0.7以下であることが必須である。より好ましくは0.55以下である。
【0038】
なお、rL及びrCの下限は、特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
【0039】
一方、加工性を確保するためには、r値の平均値は0.8以上にすることが必須である。ここで述べるr値の平均値は圧延方向と45°の方向のr値をrDとした場合、次式で定義される。
【0040】
r(平均値)=(rL+2rD+rC)/4
r値の平均値の上限は、特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、形状凍結性の観点からは、1.3以下とすることが好ましい。
【0041】
r値はJIS5号引張試験片を用いた引張試験により評価する。引張歪みは通常15%であるが、均一伸びが15%を下回る場合には、均一伸びの範囲でできるだけ15%に近い歪みで評価すればよい。
【0042】
なお、曲げ加工を施す方向は加工部品によって異なるので特に限定するものではないが、r値が小さい方向に対して垂直もしくは垂直に近い方向に折り曲げる加工を主とすることが好ましい。
【0043】
ところで、一般に集合組織とr値とは相関があることが知られているが、本発明においては、既述の結晶方位のX線強度比に関する限定とr値に関する限定とは互いに同義ではなく、両方の限定が同時に満たされなくては、良好な形状凍結性と加工性を得ることはできない。
【0044】
本発明は引張強度レベルの低い軟鋼板から高強度鋼板にいたる全ての冷延鋼板に適用できるものであり、上記の限定が満たされれば、冷延鋼板の曲げ加工性は飛躍的に向上する。換言すれば、冷延鋼板の機械的強度レベルの制約を越えた、曲げ加工変形に関する基本的材料指標であるということである。
【0045】
まず、成分組成の限定条件について述べる。
【0046】
Cの下限を0.0001%としたのは、実用鋼で得られる下限値を用いることにしたためである。上限は、0.25%超になると加工性が悪くなるので、0.25%に設定する。
【0047】
Siは鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、2.5%超となると加工性が劣化したり、表面疵が発生したりするので、2.5%を上限とする。一方、実用鋼でSiを0.001%未満とするのは困難であるので、0.001%を下限とする。
【0048】
Mnも鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、2.5%超となると加工性が劣化するので、2.5%を上限とする。一方、実用鋼でMnを0.01%未満とするのは困難であるので、0.01%を下限とする。また、Mn以外に、Sによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には、質量%で、Mn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。
【0049】
PとSは不純物であり、それぞれ、0.15%以下、0.03%以下とする。これは、加工性の劣化や熱間圧延又は冷間圧延時の割れを防ぐためである。
【0050】
Alは脱酸のために0.01%以上添加する。また、Alはγ→α変態点を顕著に上昇させるので、特に、Ar3点以下での熱延を指向する場合には有効な元素である。しかし、多すぎると加工性が低下したり、表面性状が劣悪となるため、上限を2.0%とする。
【0051】
NとOは不純物であり、加工性を悪くさせないように、それぞれ、0.01%以下、0.01%以下とする。
【0052】
Ti、Nbは本発明において非常に重要な元素である。すなわち、これらの元素を添加することによって、冷延後の焼鈍中の再結晶及び粒成長が抑制され、形状凍結性に有利な集合組織が破壊されることなく保存される。
【0053】
また、これらの元素は、炭素や窒素の固定、析出強化、細粒強化などの機構を通じて材質を改善するので、それぞれ目的に応じて、1種又は2種を合計で0.01%以上添加する。過度の添加は加工性を劣化させるので、上限を1種又は2種の合計で0.40%と設定した。
【0054】
V、Cr、Bは、炭素、窒素の固定、析出強化、組織制御、細粒強化などの機構を通じて材質を改善するので、必要に応じて、それぞれ、0.0001%以上添加することが望ましい。ただし、過度に添加しても格段の効果はなく、むしろ、加工性や表面性状を劣化させるので、それぞれに、0.20%、1.5%、0.007%の上限を設定した。
【0055】
Mo、Cu、Ni、Snは機械的強度を高めたり、材質を改善する効果があるので、必要に応じて、各成分とも、0.001%以上を添加することが望ましい。一方、過度の添加は、逆に加工性を劣化させるので、上限を、それぞれ、1%、2%、1%、0.2%とする。
【0056】
なお、本発明では特に限定しないが、脱酸の目的や硫化物の形態制御の目的でCaやMg,Ceを適量添加しても構わない。
【0057】
本発明によって製造された冷延鋼板にメッキを施す場合、メッキの種類は特に限定するものではなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等の何れでも本発明の効果が得られる。
【0058】
次に、本発明冷延鋼板の製造方法について述べる。
【0059】
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。
【0060】
連続鋳造の場合には、一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、鋳造スラブを連続的に熱延してもよい。
【0061】
原料にはスクラップを使用しても構わない。熱間圧延の方法も特に限定はしない。通常の方法で熱延、冷却、巻取を行う。γ域、α域、γ+α域いずれの温度領域で圧延を行ってもよい。
【0062】
ただし、熱延板の集合組織とその後行う冷間圧延の圧下率は、次式(1)及び(2)を満足するものとする。
【0063】
(a)+0.02×CR≧4 ・・・(1)
2.5≦(b)+0.03×CR≦5.0 ・・・(2)
ここで
(a):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値
(b):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値
CR:冷延圧下率(%)
(1)式が4未満になると冷延・焼鈍後の製品板の形状凍結性が劣化するため、下限値を4とした。上限値は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、加工性の観点からは15以下とすることが望ましい。
【0064】
また、(2)式が2.5未満になると製品板の加工性が劣化するため、(2)式の下限値は2.5とした。一方、(2)式の値が5.0超となると製品板の形状凍結性が劣化することから、上限を5.0とした。
【0065】
これらの熱延板集合組織が熱延板板厚方向に均一に分布している方が望ましいことは言うまでもない。冷延圧下率の上下限は特に限定することなく、本発明の効果が得られるが、冷延圧下率を20%未満にするためには、熱延板の板厚を薄くする必要があることから熱延工程に大きな負荷をかける。
【0066】
このことから冷延圧下率は20%以上とすることが望ましい。この観点から、更に望ましくは30%以上とする。一方、冷延圧下率が90%を越すと熱延鋼板の強度が高いと冷延工程の負荷が高くなる。したがって、冷延圧下率の上限は90%とすることが望ましい。この観点からは80%以下が、更に望ましい。
【0067】
この様な範囲で冷間加工された冷延鋼板を焼鈍する際に、加熱速度が3℃/s未満では、加熱中に再結晶が進行し集合組織が破壊されることから、加熱速度の下限を3℃/sとした。この観点からは、10℃/s以上に制限することが望ましい。更に望ましくは20℃/s以上である。
【0068】
一方、加熱速度を100℃/s超にすることは過剰な設備投資を必要とすることから、100℃/sを加熱速度の上限とした。
【0069】
焼鈍温度が600℃未満の場合には、加工組織が残留し成形性を著しく劣化させるので、焼鈍温度の下限を600℃とする。一方、焼鈍温度が過度に高い場合には、再結晶によって生成したフェライトの集合組織が、オーステナイトへ変態後、オーステナイトの粒成長によってランダム化され、最終的に得られるフェライトの集合組織もランダム化される。
【0070】
特に、焼鈍温度が(Ac3+150)℃を越える場合には、そのような傾向が顕著となる。従って、焼鈍温度は(Ac3+150)℃以下とする。この観点からは、焼鈍温度はAc3変態温度以下とすることが望ましい。
【0071】
焼鈍後、冷却する際に、冷却速度が1℃/s未満の場合には、最終的に得られる冷延鋼板の集合組織の発達が十分でなく、良好な形状凍結性が得られないため、1℃/sを冷却速度の下限とした。この観点からは、冷却速度の下限は10℃/sとすることが望ましい。
【0072】
また、冷却速度を250℃/s超とすることは、過剰の設備投資を必要とすることから、250℃/sを冷却速度の上限とした。
【0073】
ここで述べた冷却速度は一時冷却停止温度までの平均冷却速度のことであり、低冷却速度での冷却と高冷却速度での冷却の組み合わせによって上述の冷却速度を達成してもかまわない。
【0074】
また、焼鈍・冷却の後に連続焼鈍工程や、連続溶融亜鉛めっき工程での温度履歴に相当するような除冷もしくは等温保持、または連続溶融めっき工程の合金化処理工程での再加熱の過程を採用してもよい。
【0075】
以上の方法で製造された冷延鋼板にスキンパス圧延を施してもよい。スキンパス圧延を施すと、鋼板の形状を良好にするばかりでなく、鋼板の衝突エネルギー吸収能を高めることになる。
【0076】
この時、スキンパス圧延における圧下率が0.4%未満ではこの効果が小さいので、0.4%を下限とする。また、圧下率が5%超になると通常、スキンパス圧延機の改造が必要となり、経済的なデメリットを生じるとともに、鋼板の加工性を著しく劣化させるので、5%を上限とする。
【0077】
本発明で得られる組織は、フェライトを主体とするものであるが、フェライト以外の金属組織として、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトおよび炭窒化物等の化合物を含有しても構わない。
【0078】
特に、マルテンサイトやベイナイトの結晶構造は、フェライトのそれと同等もしくは類似しているので、フェライトの代わりにこれらの組織が主体であっても差し支えない。
【0079】
尚、本発明に係る鋼板は曲げ加工だけでなく、曲げ、張り出し、絞り等、曲げ加工を主体とする複合成形にも適用できる。
【0080】
【実施例】
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
【0081】
(実施例)
実施例として、表1に示した成分組成を有するAからNまでの鋼を用いて検討した結果について説明する。これらの鋼は、鋳造後そのまま、もしくは、一旦室温まで冷却された後に再加熱し、1000℃〜1300℃の温度範囲に加熱され、その後熱間圧延が施され、種々の厚みの熱延鋼板とした。
【0082】
その後、表2に示した圧下率の冷間圧延を施すことによって1.2m厚とし、その後、連続焼鈍工程にて焼鈍を行った。
【0083】
これら1.2mm厚の鋼板から45mm幅、270mm長さの試験片を作成し、ポンチ幅78mm、ポンチ肩R5、ダイス幅81mm、ダイ肩R4の金型を用いてハット曲げ試験を行った。成型高さは70mmとした。
【0084】
曲げ試験を行った試験片は、三次元形状測定装置にて板幅中心部の形状を測定し、図1に示した様に、点(v)と点(w)の接線と点(x)と点(y)の接線の交点の角度から90°を引いた値の左右での平均値をスプリング・バック量、点(x)と点(z)間の曲率の逆数を左右で平均化した値を1000倍したものを壁そり量、左右の点(z)間の長さからポンチ幅を引いた値を寸法精度として形状凍結性を評価した。なお曲げはr値の低い方向と垂直に折れ線が入るように行った。
【0085】
【表1】
【0086】
ところで図2及び図3に示した様に、スプリングバック量や壁そり量はBHF(しわ押さえ力)によっても変化する。本発明の効果は、いずれのBHFで評価を行ってもその傾向は変わらないが、実機で実部品をプレスする際には設備上の制約からあまり高いBHFはかけられないため、今回は、BHF29kNで各鋼種のハット曲げ試験を行った。なお曲げはr値の低い方向と垂直に折れ線が入るように行った。
【0087】
表2には、各鋼板の製造条件が本発明の範囲内にあるか否かを示している。「熱延板集合組織」の(a)欄には、X線で測定した熱延板の板厚の7/16厚の位置での{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、そして、(b)欄には、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値を示す。
【0088】
「製造条件」の欄には圧下率(CR)、冷延後、焼鈍時の室温から焼鈍温度までの加熱速度を示す。焼鈍温度は、本発明の範囲に入っている場合を「○」、本発明の範囲を外れている場合を「×」とした。いずれの鋼板も該焼鈍温度から3〜30℃/sの冷却速度で冷却し、スキンパス圧延を0.5〜1.5%の範囲で施した。「関係式」の欄には、本発明で規定する(1)式と(2)式の値を示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表3に、前記の方法によって製造された1.2mm厚の冷延鋼板の機械的特性値、焼鈍板の集合組織、及び、形状凍結性の指標が示されている。本発明で限定された条件を満たしているものは、いずれも良好な形状凍結性が達成され、加工性も良好である。
【0091】
また、図4には、表3に示されたr値の平均値と寸法精度の関係をグラフにして示す。ここでは、表3中で示された寸法精度の値を引張強度で割ったものを形状凍結性の指標として示してある。
【0092】
表3及び図4から明らかなように、本発明の範囲の鋼は良好な形状凍結性と加工性を兼ね備えていることがわかる。
【0093】
各結晶方位のX線ランダム強度比やr値が形状凍結性に重要であることの機構については、現在のところ必ずしも明らかとはなっていない。おそらく、曲げ変形時にすべり変形の進行を容易にすることで、結果的に曲げ変形時のスプリング・バック量、壁反り量が小さくなっているものと理解される。
【0094】
【表3】
【0095】
【発明の効果】
薄鋼板の集合組織とr値を制御すると、その曲げ加工性は著しく向上することを以上に詳述した。本発明によって、スプリング・バック量が少なく、曲げ加工を主体とする形状凍結性に優れた薄鋼板が提供できるようになった。特に、従来は形状不良の問題から高強度鋼板の適用が難しかった部品にも高強度鋼板が使用できるようになる。
【0096】
自動車の軽量化を推進するためには、高強度鋼板の使用は是非とも必要である。スプリング・バック量が少なく、形状凍結性に優れた高強度鋼板が適用できるようになると、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。従って、本発明は、工業的に極めて高い価値のある発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ハット曲げ試験に用いた試験片の断面図である。
【図2】スプリングバック量に及ぼすBHF(しわ押え力)の関係を示す図である。
【図3】壁そり量とBHF(しわ押え力)の関係を示す図である。
【図4】形状凍結性(寸法精度)とTSの比とr値の平均値の関係を示した図である。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.0001%以上、0.25%以下、
Si:0.001%以上、2.5%以下、
Mn:0.01%以上、2.5%以下、
P:0.15%以下、
S:0.03%以下、
Al:0.01%以上、2.0%以下、
N:0.01%以下、
O:0.01%以下
更に、Ti、Nbの1種又は2種を合計で0.01%以上、0.40%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼(ただし、フェライト又はベイナイトを体積分率最大の相とし、体積分率で25%以下のマルテンサイトを含む複合組織鋼を除く)であり、少なくとも1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値(A)が4.0以上で、かつ、{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値(B)が3.0以上であり、更に、1.0≦(A)/(B)≦4.0を満足し、加えて、圧延方向及びそれと直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.7以下、r値の平均値が0.8以上であることを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。 - 更に、質量%で、
V:0.20%以下、
Cr:1.5%以下、及び、
B:0.007%以下
の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。 - 更に、質量%で、
Mo≦1%、
Cu≦2%、
Ni≦1%、及び、
Sn≦0.2%
の1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。 - 請求項1〜3の何れか1項に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板にめっきを施したことを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板を製造するに当たり、冷延母材として用いる熱延鋼板の集合組織と冷延圧下率が、次式(1)及び(2)を満足し、
冷間圧延後、更に、3℃/s〜100℃/sで、600℃〜(Ac3+150)℃の温度範囲に加熱し、1℃/s〜250℃/sで冷却することを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
(a)+0.02×CR≧4 ・・・(1)
2.5≦(b)+0.03×CR≦5.0 ・・・(2)
ここで
(a):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値
(b):熱延板の少なくとも1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>及び{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値
CR:冷延圧下率(%) - 請求項5に記載の加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法において、冷延鋼板に、0.4%以上5%以下のスキンパス圧延を施すことを特徴とする加工性と形状凍結性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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