JP3576803B2 - フェニルベンゾフラノン誘導体を用いた電子写真感光体 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば静電式複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタ等の画像形成装置に用いられる電子写真感光体に関するものである。さらに詳しくは、フェニルベンゾフラノン誘導体を用いて光感度を向上させた電子写真感光体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カールソンプロセスを用いた複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ等の画像形成装置においては、種々の材料からなる電子写真感光体が使用されている。その1つはセレンのような無機材料を感光層に用いた無機感光体であり、他は有機材料を感光層に用いた有機感光体(OPC)である。このうち、有機感光体は無機感光体に比べて安価でしかも生産性が高く、無公害である等の多くの利点を有していることから、広範な研究が進められている。
【0003】
有機感光体としては、電荷発生層と電荷輸送層とを積層した積層型の感光体、いわゆる機能分離型の感光体が多いが、電荷発生剤と電荷輸送剤とを単一の感光層中に分散させた、いわゆる単層型の感光体も知られている。
【0004】
これらの感光体に使用される電荷輸送剤にはキャリヤ移動度が高いことが要求されているが、キャリヤ移動度が高い電荷輸送剤のほとんどが正孔輸送性であるため、実用に供されている有機感光体は、機械的強度の観点から、最外層に電荷輸送層が設けられた負帯電型の積層型有機感光体に限られている。しかし、負帯電型の有機感光体は負極性コロナ放電を利用するため、オゾンの発生量が多く、環境を汚染したり、感光体を劣化させるなどの問題が生じる。
【0005】
そこで、このような欠点を排除するために、電荷輸送剤として電子輸送剤を使用することが検討されており、例えば特開平1−206349号公報には、下記の化学式(8)で表されるジフェノキノン構造を有する化合物を電子写真感光体用の電子輸送剤として使用することが提案されている。
【0006】
【化2】
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記化学式(8)で表されるジフェノキノン構造を有する化合物などの従来の電子輸送剤は、電荷発生剤とのマッチングが困難であり、電荷発生剤から電子輸送剤への電子注入が不充分になる。また、かかる電子輸送剤は、結着樹脂との相溶性が乏しく、ホッピング距離が長くなるため、低電界での電子移動が生じ難い。従って、従来の電子輸送剤を含有する感光体は、残留電位が高くなり、感度が低いという問題があった。
【0008】
また、前記のように現在、実用化されている有機感光体の多くは積層型の感光層を備えたものであるが、これに比べて単層型の感光層を備えた感光体は構造が簡単で製造が容易である上、被膜欠陥の発生を抑制し、光学的特性を向上させる点でも多くの利点がある。
【0009】
しかも、このような単層型の感光層を備えた感光体は、例えば電荷輸送剤として電子輸送剤と正孔輸送剤とを併用することで、1つの感光体を正帯電型及び負帯電型の両方に使用でき、感光体の応用範囲を拡げられる可能性がある。しかしながら、前記した従来の電子輸送剤は、正孔輸送剤との相互作用により、電子及び正孔の輸送を阻害するという問題があるため、かかる単層型の感光層を備えた感光体は、広く実用化されるには至っていない。
【0010】
この発明は、以上のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、残留電位を低くして、光感度を向上させることができ、特に単層型の感光体として好適に使用できる電子写真感光体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、この発明における第1の発明の電子写真感光体は、導電性基体上に、下記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。
【0012】
【化3】
〔式中、R1はOR、OCOR(Rはアルキル基)を示し、R2 はアリール基を示す。〕
第2の発明の電子写真感光体は、第1の発明において、前記感光層は、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤に加え、電子受容性化合物を含有するものである。
【0013】
第3の発明の電子写真感光体は、第1又は第2の発明において、前記感光層は、少なくとも電荷発生剤、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にある単層構造のものである。
【0014】
従って、第1の発明においては、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体が、ナフトキノン類似環の有するカルボニル基(>C=O)の作用に基づいて電子受容性に優れている。また、前記基R1 、R2 及び2つのフェニル基の作用並びにフェニルベンゾフラノン誘導体が非対称構造であることから、溶剤への溶解性及び結着剤としての結着樹脂との相溶性が良好で、感光層中に均一に分散される。
【0015】
加えて、前記フェニルベンゾフラノン誘導体はLUMO〔基底空分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital )、つまり電子を有していない分子軌道の中で最もエネルギー準位が低い軌道をいい、励起された電子は通常この軌道に移動する。〕の拡がりが大きい。このため、電子のホッピング距離が短く、特に低電界での電子輸送性に優れており、かつ電荷発生剤とのマッチングが優れている。
【0016】
特に、前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、上記各置換基の作用によって本来的に電子輸送性及び電子受容性に優れているので、さらに電子輸送性の向上が見られるものと推測される。
【0017】
さらに、フェニルベンゾフラノン誘導体を含む感光層は、低電界での電子輸送性に優れているとともに、層中で電子と正孔が再結合する割合が減少し、見かけの電荷発生効率が実際の値に近づく結果、感光体の感度が向上する。
【0018】
また、第2の発明においては、感光層に電子受容性化合物が含有されており、その電子受容性化合物はLUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも低いため、光照射による電荷発生剤での電子・正孔対の生成の際に電荷発生剤から電子を引き抜く働きをし、電荷発生効率が高められる。
【0019】
第3の発明においては、単層構造の感光層は、少なくとも電荷発生剤、前記フェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にして形成される。この場合、フェニルベンゾフラノン誘導体は、電子及び正孔の輸送を阻害したり、正孔輸送剤との相互作用を生じたりしないため、特に同じ層中に正孔輸送剤が含有される単層型の感光層に使用した際に、より高感度の感光体を構成することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の電子写真感光体の実施形態について詳細に説明する。
電子写真感光体は、導電性基体上に、下記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。
【0021】
【化4】
〔式中、R1 はOR、OCOR(Rはアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基)、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、R2 はアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基、ニトロ基、シアノ基、OR、NR2 (Rはアルキル基)を示す。〕
上記導電性基体としては、導電性を有する種々の材料が使用され、例えばアルミニウム、鉄、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属単体や、上記金属が蒸着又はラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ又は酸化インジウム等で被覆されたガラス等が挙げられる。
【0022】
この導電性基体はシート状、ドラム状等の何れの形態であってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有しておればよい。また、導電性基体は、使用に際して、充分な機械的強度を有するものが望ましい。
【0023】
次に、感光層に含有される前記一般式(1)のフェニルベンゾフラノン誘導体について説明する。
一般式(1)において、R1 中のRのアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4の低級アルキル基がさらに好ましい。すなわち、アルコキシ基(OR)としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどの炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がさらに好ましい。
【0024】
また、アラルキル基としては、例えばベンジル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシルなどのアルキル部分の炭素数が1〜6のアルキル基であるアラルキル基が挙げられる。
【0025】
さらに、Rの置換基を有していてもよいアリール基としては、例えばフェニル、トリル、キシリル、ビフェニリル、o−テルフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなどが挙げられる。その置換基としては、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、ハロゲン原子、アリール基又はアルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0026】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。
基R2 はアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基、ニトロ基、シアノ基、OR、NR2 (Rはアルキル基)であり、それらアルキル基、アラルキル基又はアリール基としては前述したR1 におけるアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。
【0027】
また、基R2 がアリール基であるフェニルベンゾフラノン誘導体は、特に電子輸送能に優れており、より高感度の感光体が形成される。しかも、ガラス転移温度Tgが高いため、感光層のTgを向上させることができ、例えば感光体表面に圧接されたクリーニングブレードにより、装置の停止時に感光体の表面に圧接痕がつくのを防止できるなどの効果を発揮できる。また、上記アリール基に、置換基としてアルキル基を置換させたものは、溶剤への溶解性及び結着樹脂との相溶性が特に良好である。
【0028】
さらに、R2 がOR又はNR2 である場合のRは、炭素数1〜4の低級アルキル基であることが好ましい。
一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体の具体例としては、例えば下記の化学式(2)及び(3)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】
この化学式(2)のフェニルベンゾフラノン誘導体は、前記一般式(1)において、R1 はメトキシ基(−OCH3 )、R2 はアリール基としてのp−トリル基(CH3 C6 H4 −)である。
【0030】
【化6】
この化学式(3)のフェニルベンゾフラノン誘導体は、前記一般式(1)において、R1 はアセトキシ基(−OCOCH3 )、R2 はアリール基としてのp−トリル基(CH3 C6 H4 −)である。
【0031】
電子写真感光体は、前述のように導電性基体上に設けた感光層に前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。この電子写真感光体は、単層型と積層型のいずれであってもよいが、単層型が電子輸送剤の使用による効果を顕著に示すことから望ましい。
【0032】
感光層には、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体に加え、電子受容性化合物を含有することが望ましい。この電子受容性化合物は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも低いため、光照射による電荷発生剤での電子・正孔対の生成の際に、電荷発生剤から電子を引き抜く働きをする。従って、電荷発生剤中での電子と正孔の再結合による消失の割合が減少して、電荷発生効率が向上する。
【0033】
さらに、この電子受容性化合物は、電荷発生剤から引き抜いた電子を、電子輸送剤であるフェニルベンゾフラノン誘導体に効率良く伝達する働きもする。このため、フェニルベンゾフラノン誘導体に電子受容性化合物を加えることにより、電荷発生剤からの電子の注入と輸送が円滑に行われ、感光体の感度をさらに高めることができる。
【0034】
しかも、電子受容性化合物は、その酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vの範囲内であることが望ましい。酸化還元電位が−0.8Vよりも低いと、電子受容性化合物はトラップと脱トラップを繰り返しながら移動する電子を脱トラップ不可能なレベルに落とし込み、キャリヤトラップを生じるために電子輸送の妨げになり、感光体の感度が低下する。逆に、酸化還元電位が−1.4Vより高いと、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも高くなり、電子・正孔対の生成の際に電子を電荷発生剤から引き抜く働きをしないため、電荷発生効率が向上せず、感光体の感度が低下する。
【0035】
そのような電子受容性化合物としては、例えばベンゾキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物等のキノン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、2, 4, 8−トリニトロチオキサントン、3, 4, 5, 7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノンなどが用いられる。
【0036】
但し、電荷発生剤や、前記フェニルベンゾフラノン誘導体との相性を考慮すると、上記例示の各化合物の中でも、下記一般式(4)で表されるベンゾキノン系化合物又は一般式(5)で表されるジフェノキノン系化合物に属し、かつ酸化還元電位が前記の範囲内である化合物が最も好適に使用される。
【0037】
【化7】
この一般式(4)中、R3 、R4 、R5 及びR6 は、同一又は異なるものであり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。
【0038】
【化8】
この一般式(5)中のR7 、R8 、R9 及びR10は、同一又は異なるものであり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。
【0039】
なお、シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの、炭素数3〜6のシクロアルキル基が挙げられる。
【0040】
また、置換基を有していてもよいアミノ基としては、例えばアミノのほか、モノメチルアミノ、ジメチルアミノ、モノエチルアミノ、ジエチルアミノなどが挙げられる。
【0041】
一般式(4)で表されるベンゾキノン系化合物の具体例としては、p−ベンゾキノン(酸化還元電位−0.81V)や2,6−ジ(t−ブチル)−p−ベンゾキノン(酸化還元電位−1.31V)などが挙げられる。
【0042】
一般式(5)で表されるジフェノキノン系化合物の具体例としては、例えば、3,5−ジメチル−3′,5′−ジ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン(酸化還元電位−0.86V)や3,5,3′,5′−テトラキス(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン(酸化還元電位−0.94V)などが挙げられる。
【0043】
これらの電子受容性化合物は、それぞれ単独で使用できる他、二種以上を併用することもできる。この電子受容性化合物は電子輸送剤としても用いられる。また、電子受容性化合物(電子輸送剤)のほかに、従来公知の他の電子輸送剤を感光層に含有させてもよい。そのような電子輸送剤としては、テトラシアノエチレン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が用いられる。
【0044】
前記単層型の電子写真感光体は、導電性基体上に単一の感光層を設けたものであって、この感光層が、少なくとも電荷発生剤、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にある単層構造のものである。この感光層には、さらに正孔輸送剤が含有される。この単層型感光体は正帯電及び負帯電のいずれにも適用可能であるが、特に正帯電型で使用するのが好ましい。
【0045】
一方、積層型電子写真感光体は、導電性基体上に少なくとも電荷発生層及び電荷輸送層をこの順に設けたものであって、前記電荷輸送層に電子輸送剤として一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有するものである。この積層型電子写真感光体は、従来の積層型電子写真感光体に比べて残留電位が大きく低下しており、感度が向上している。また、電荷発生層から電荷輸送層への電子の授受をより円滑に行わせるために、電荷発生層にもフェニルベンゾフラノン誘導体を含有させるのが好ましい。
【0046】
電子写真感光体に使用するフェニルベンゾフラノン誘導体は、前述のように、溶剤への溶解性及び結着樹脂との相溶性が良好であるとともに、電荷発生剤とのマッチングに優れていることから、電子の注入が円滑に行われ、とりわけ低電界での電子輸送性に優れている。
【0047】
従って、例えば正帯電の単層型感光体では、感光体への露光により光を吸収した電荷発生剤は、イオン対〔正孔(+)と電子(−)〕を生成する。電荷発生剤から放出された電子が前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤にスムーズに注入される。次いで、電子輸送剤間での電子の授受により、電子が感光層の表面に移動し、あらかじめ感光層表面に帯電された正電荷(+)が打ち消される。一方、正孔(+)は正孔輸送剤に注入されて、途中でトラップされることなく導電性基体の表面に移動し、導電性基体の表面の負電荷(−)を打ち消す。このようにして正帯電の単層型感光体の感度が向上するものと考えられる。負帯電の単層型感光体は、上記と電荷移動の方向が逆になるだけであって、同様に感度が向上する。
【0048】
前記電荷発生剤より生成したイオン対がフリーキャリヤとなり有効に表面電荷を打ち消すためには、イオン対が再結合して消失してしまう割合が小さい方がよい。
【0049】
電子写真感光体は、前記フェニルベンゾフラノン誘導体とともに、他の電子輸送剤を併用することができる。例えば、酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vである電子輸送剤が好適に使用される。その理由は以下の通りである。
【0050】
酸化還元電位が−1.4Vより小さい電子輸送剤を使用した場合は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤よりも高くなり、イオン対の生成の際に電子が電子輸送剤に移動せず、電荷発生効率の向上につながらない。
【0051】
これに対して、酸化還元電位が−1.4Vより大きい電子輸送剤を使用した場合は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤よりも低いため、イオン対の生成の際に電子が電子輸送剤へ移動し、イオン対がキャリヤへ分離し易くなるからである。すなわち、電子輸送剤が電荷発生に作用し、その発生効率を向上させるのである。
【0052】
一方、高感度であるためには、フリーキャリヤの移動時に不純物によるキャリヤトラップが発生しないことも必要である。
通常、フリーキャリヤの移動過程には少量の不純物などによるトラップが存在し、フリーキャリヤは、トラップと脱トラップを繰り返しながら移動するが、酸化還元電位が−0.8Vよりも大きい電子輸送剤を使用した場合は、分離したフリーキャリヤを脱トラップ不可能なレベルに落とし込み、キャリヤトラップを生じるため、その移動は中止される。
【0053】
かかる電子輸送剤としては、その酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vの範囲内である化合物であれば特に制限はなく、前述した電子輸送剤又は電子受容性化合物が挙げられる。
【0054】
次に、上述した電荷発生剤としては、例えば無金属フタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニン、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料などが挙げられる。これらのうち、ペリレン顔料としては、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【化9】
この一般式(6)中、R11及びR12は同一又は異なっていてもよく、炭素数が18以下の置換又は未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカノイル基又はアラルキル基を示す。
【0056】
この電荷発生剤としては、上記例示の電荷発生剤のほかに、例えばセレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末や、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等の従来公知の電荷発生剤も用いられる。
【0057】
また、上記例示の電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で又は2種以上を混合して用いられる。
さらに、電荷発生剤のうち、特に半導体レーザーなどの光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。
【0058】
一方、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えばペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0059】
次に、正孔輸送剤について説明する。
この正孔輸送剤としては、高い正孔輸送能を有する種々の化合物、例えばベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が用いられる。これらのうち、ベンジジン誘導体としては、下記一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
【化10】
この一般式(7)中、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。a及びbは同一又は異なっていてもよく、1〜4の整数を示し、c、d、e及びfは同一又は異なっていてもよく、1〜5の整数を示す。なお、a、b、c、d、e又はfが2以上のとき、各R13、R14、R15、R16、R17及びR18は異なっていてもよい。
【0061】
これらの正孔輸送剤は、1種を単独で用いるほか、2種以上を混合して用いてもよい。また、ポリビニルカルバゾール等の成膜性を有する正孔輸送剤を用いる場合には、結着樹脂は必ずしも必要でない。
【0062】
前記正孔輸送剤のうち、イオン化電位(Ip)が4.8〜5.6eVのものを使用するのが好ましく、電界強度3×105 V/cmで1×10−6cm2 /V・秒以上の移動度を有するものがより好ましい。
【0063】
イオン化電位が前記範囲内にある正孔輸送剤を用いることによって、より一層残留電位が低下し、感度が向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなものと考えられる。
【0064】
すなわち、電荷発生剤から正孔輸送剤への電荷の注入のし易さは正孔輸送剤のイオン化電位と密接に関係しており、正孔輸送剤のイオン化電位が前記範囲よりも大きい場合には、電荷発生剤から正孔輸送剤への電荷の注入の程度が低くなるか、あるいは正孔輸送剤間での正孔の授受の程度が低くなるため、感度の低下が生じるものと推測される。一方、正孔輸送剤と電子輸送剤とが共存する系では、両者の間の相互作用、より具体的には電荷移動錯体の形成に注意する必要がある。両者の間にこのような錯体が形成されると、正孔と電子との間に再結合が生じ、全体として電荷の移動度が低下する。正孔輸送剤のイオン化電位が前記範囲よりも小さい場合には、電子輸送剤との間に錯体を形成する傾向が大きくなり、電子と正孔との再結合が生じるために、見掛けの量子収率が低下し、感度の低下に結びつくものと思われる。
【0065】
さらに、電子輸送剤中に嵩高い基が存在する場合は、その立体障害により電荷移動錯体の形成を抑制することができる。従って、電子輸送剤として用いられるフェニルベンゾフラノン誘導体には、できるだけ嵩高い置換基を導入するのが好ましい。正孔輸送剤の具体例としては、例えばベンジジン誘導体などが挙げられる。
【0066】
次に、結着樹脂について説明する。
上記した各成分を分散させるための結着樹脂としては、従来より感光層に使用されている種々の樹脂を使用することができ、例えばスチレン系重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、さらにエポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂等が挙げられる。これらの結着樹脂は1種又は2種以上が混合して用いられる。これらのうち、好適な樹脂は、スチレン系重合体、アクリル系重合体、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート等である。
【0067】
次に、電子写真感光体の製造方法について説明する。
単層型の電子写真感光体は、所定の電子輸送剤を、電荷発生剤、正孔輸送剤、結着樹脂等と共に適当な溶剤に溶解又は分散した塗布液を、塗布等の手段によって導電性基体上に塗布し、乾燥させることにより製造される。
【0068】
単層型の感光体においては、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤は好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部の割合で配合され、電子輸送剤は好ましくは5〜100重量部、さらに好ましくは10〜80重量部の割合で配合される。また、正孔輸送剤は好ましくは5〜500重量部、さらに好ましくは25〜200重量部の割合で配合される。さらに、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量は、結着樹脂100重量部に対して好ましくは20〜500重量部、さらに好ましくは30〜200重量部である。単層型の感光層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物の含有量が結着樹脂100重量部に対して0.1〜40重量部であることが望ましく、0.5〜20重量部であることがより望ましい。
【0069】
また、単層型の感光層の厚さは好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
また、積層型の電子写真感光体を得るには、まず導電性基体上に、蒸着又は塗布等の手段によって電荷発生剤を含有する電荷発生層を形成する。次いで、この電荷発生層上に、電子輸送剤と結着樹脂とを含有する塗布液を塗布等の手段によって塗布し、乾燥させることにより電荷輸送層が形成される。
【0070】
この積層型感光体においては、電荷発生層を構成する電荷発生剤と結着樹脂とは、種々の割合で使用することができるが、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤を好ましくは5〜1000重量部、さらに好ましくは30〜500重量部の割合で配合するのが適当である。電荷発生層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部で配合するのが適当である。また、電荷発生層に電子輸送剤を含有させる場合は、電子輸送剤を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜40重量部で配合するのが適当である。
【0071】
電荷輸送層を構成する電子輸送剤と結着樹脂とは、電荷の輸送を阻害しない範囲及び結晶化しない範囲で種々の割合で使用することができるが、光照射により電荷発生層で生じた電荷が容易に輸送できるように、結着樹脂100重量部に対して電子輸送剤を好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは25〜100重量部の割合で配合するのが適当である。電荷輸送層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部で配合するのが適当である。
【0072】
また、積層型の感光層の厚さは、電荷発生層が望ましくは0.01〜5μm程度、さらに望ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が望ましくは2〜100μm、さらに望ましくは5〜50μm程度である。
【0073】
単層型感光体にあっては、導電性基体と感光層との間に、また積層型感光体にあっては、導電性基体と電荷発生層との間、導電性基体と電荷輸送層との間又は電荷発生層と電荷輸送層との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層が形成されていてもよい。また、感光体の表面には、保護層が形成されていてもよい。
【0074】
単層型及び積層型の各感光層には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、それ自体公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0075】
さらに、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体とともに、高い電子輸送能を有する種々の電子輸送剤を感光層に含有させてもよい。
導電性基体上に形成される感光層は、前記した各成分を含む樹脂組成物を溶剤に溶解ないし分散した塗布液を導電性基体上に塗布、乾燥して製造される。すなわち、前記例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を、適当な溶剤とともに、公知の方法、例えば、ロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカーあるいは超音波分散器等を用いて分散混合して塗布液を調製し、これを常法より塗布、乾燥すればよい。
【0076】
塗布液を調製するための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は、1種又は2種以上が混合して用いられる。
【0077】
さらに、電荷輸送材料や電荷発生材料の分散性、感光層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
以上の実施形態の電子写真感光体によれば、次のような効果を奏する。
【0078】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体は、ナフトキノン類似環の有するカルボニル基(>C=O)の作用に基づいて電子受容性に優れている。
【0079】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体の基R1 、R2 及び2つのフェニル基の作用によって、溶剤への溶解性及び結着剤としての結着樹脂との相溶性が良好で、感光層中に均一に分散される。
【0080】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、LUMOの拡がりが大きい。このため、電子のホッピング距離が短く、特に低電界での電子輸送性に優れており、かつ電荷発生剤とのマッチングが優れている。
【0081】
・ 従って、実施形態の電子写真感光体によれば、かかるフェニルベンゾフラノン誘導体を電子写真感光体における電子輸送剤として使用することにより、高感度な感光体を形成することができる。
【0082】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、特に前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、前記各置換基の作用によって本来的に電子輸送性及び電子受容性に優れているので、さらに電子輸送性を向上させることができる。
【0083】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、電子写真感光体は、導電性基体上に感光層を設けたものであって、この感光層が、一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。このフェニルベンゾフラノン誘導体を含む感光層は、低電界での電子輸送性に優れているとともに、層中で電子と正孔が再結合する割合が減少し、見かけの電荷発生効率が実際の値に近づくことから、感光体の感度を向上させることができる。
【0084】
特に、かかるフェニルベンゾフラノン誘導体は、電子及び正孔の輸送を阻害したり、正孔輸送剤との相互作用を生じたりしないため、特に同じ層中に正孔輸送剤が含有される単層型の感光層に使用した場合に、より高感度の感光体を構成できる。
【0085】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、感光体の残留電位が低くなり、繰り返し露光を行った際の感光層の安定性及び耐久性を向上させることができる。
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記感光層が−0.8〜−1.4Vの酸化還元電位を有する電子輸送剤を含有すると、感光体の感度をさらに向上させることができる。これは、前記電子輸送剤が、電荷発生剤から電子を引き抜いてフェニルベンゾフラノン誘導体に伝達する働きを有するため、電荷発生剤からフェニルベンゾフラノン誘導体への電子の注入がさらに円滑になるためと推測される。
【0086】
・ 実施形態における前記フェニルベンゾフラノン誘導体は前述のように高い電子輸送能を有していることから、その機能を利用して、太陽電池、EL素子などの用途にも使用できる。
【0087】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜18及び比較例1〜7)
〔電子写真感光体の製造〕
各実施例又は比較例の電子写真感光体に用いた各成分は以下のとおりである。
(i) 電荷発生剤
PcH2 : 無金属フタロシアニン〔イオン化ポテンシャル(Ip)=5.38eV〕
PcTiO: オキソチタニルフタロシアニン(Ip=5.32eV)
ペリレン: 前述の一般式(6)で表されるペリレン顔料(Ip=5.50eV)
(ii) 正孔輸送剤
有 : 前述の一般式(7)で表されるベンジジン誘導体(Ip=5.56eV)
無 : 正孔輸送剤を含有しない
(iii) 電子輸送剤
(2): 前述の化学式(2)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体
(3): 前述の化学式(3)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体
(iv) 電子受容性化合物又は電子輸送剤
a: p−ベンゾキノン
b: 2,6−ジ(t−ブチル)−p−ベンゾキノン
c: 3,5−ジメチル−3′,5′−ジ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン
d: 3,5,3′,5′−テトラ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン
〔単層型電子写真感光体の作製〕
表1及び表2に示す電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤及び電子受容体を、結着樹脂と溶媒と共に以下に示す割合で配合し、ボールミルで50時間混合分散して単層型感光層塗布液を調製した。
【0088】
(成分) (重量部)
電荷発生剤 5
正孔輸送剤 50
電子輸送剤 30
結着樹脂(ポリカーボネート) 100
溶 媒(テトラヒドロフラン) 800
次いで、上記塗布液を、導電性基材であるアルミニウム素管の表面にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚15〜20μmの単層型電子写真感光体を作製した。
〔積層型電子写真感光体の作製〕
表1及び表2に示す電荷発生剤100重量部、結着樹脂(ポリビニルブチラール)100重量部及び溶媒(テトラヒドロフラン)2000重量部をボールミルで50時間混合分散し、電荷発生層用の塗布液を調製した。この塗布液を導電性基材であるアルミニウム素管の表面にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚1μmの電荷発生層を形成した。
【0089】
次いで、表1及び表2に示す電子輸送剤100重量部、結着樹脂(ポリカーボネート)100重量部及び溶媒(トルエン)800重量部をボールミルで50時間混合分散し、電荷輸送層用の塗布液を調製した。そして、この塗布液を上記電荷発生層上にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚20μmの電荷輸送層を形成し、積層型電子写真感光体を作製した。
(感光体特性の評価)
上記実施例及び比較例で得られた電子写真感光体について、下記の光感度試験を行い、その感度特性を評価した。
(光感度試験)
ジェンテック(GENTEC)社製のドラム型の感度試験機を用い、上記各実施例及び比較例の感光体に電圧を印加して+700Vに帯電させた。次いで、この感光体に光を照射して露光させ、露光から330ミリ秒後の感光体表面の電位を露光後電位Vr (V)として測定した。
【0090】
なお、光照射の条件は、以下に示すように、電荷発生剤がフタロシアニン系のものとペリレン系のものとによって分けた。
(1)フタロシアニン系顔料の場合
+700Vに帯電させた感光体表面に、バンドパスフィルターを用いて780nm(半値幅20nm)に単色化した光(ハロゲンランプ、光強度:16μW/cm2 )80ミリ秒間照射した。
(2)ペリレン系顔料の場合
+700Vに帯電させた感光体表面にハロゲンランプの白色光(光強度:147μW/cm2 )50ミリ秒間照射した。
【0091】
上記実施例及び比較例で使用した成分及び露光後電位Vr の測定結果を表1及び表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
表1に示したように、実施例1〜9の単層型又は積層型の感光体は、前記化学式(2)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。従って、従来の電子輸送剤を用いた感光体(比較例1、2、4、5及び7)あるいは電子輸送剤を使用しなかった感光体(比較例3及び6)に比べて、露光後の電位が低下しており、高い感度を発揮できることがわかる。
【0094】
また、表2に示したように、実施例10〜18の単層型又は積層型の感光体は、前記化学式(3)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。このため、従来の電子輸送剤を用いた感光体(比較例1、2、4、5及び7)あるいは電子輸送剤を使用しなかった感光体(比較例3及び6)に比べて、露光後の電位が低下し、高感度を有することがわかる。
【0095】
なお、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0096】
( i ) 前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体中のR 1 のアルキル基は、炭素数1から4の低級アルキル基である請求項1から請求項3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【0097】
このように構成した場合、感光層の感度をさらに確実に発揮させることができる。
( ii ) 前記電子受容性化合物は、キノン系化合物である請求項2に記載の電子写真感光体。
【0098】
このように構成した場合、感光層中の電子受容性化合物であるキノン系化合物が電荷発生効率をより確実に向上させることができる。
( iii ) 前記電子輸送剤の含有量は、結着剤100重量部に対して5〜100重量部である請求項3に記載の電子写真感光体。
【0099】
このように構成した場合、電子輸送剤がその機能を効果的に発揮でき、感光層の感度を向上させることができる。
( iv ) 前記電荷発生剤は、フタロシアニン系顔料又はペリレン系顔料である請求項3に記載の電子写真感光体。
【0100】
このように構成した場合、電荷発生剤による電荷の発生を有効に、しかも確実に行うことができる。
【0101】
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
この発明における第1の発明の電子写真感光体によれば、感光層に含有されるフェニルベンゾフラノン誘導体は高い電子輸送能を有することから、残留電位が効果的に低下し、高い光感度を発揮することができ、特に単層型の感光体として好適に使用することができる。
【0102】
また、第2の発明の電子写真感光体によれば、第1の発明の効果に加え、感光層は電子受容性化合物を含有することから、より一層残留電位が低下し、さらに光感度を向上させることができる。
【0103】
さらに、第3の発明の電子写真感光体によれば、第1又は第2の発明の効果に加え、感光層の構成が簡単で、被膜欠陥の発生を抑制でき、しかも光学的特性を向上させることができる。
【0104】
従って、この発明の電子写真感光体を使用することにより、複写機やプリンター等の高速化を図ることが可能である。
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば静電式複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタ等の画像形成装置に用いられる電子写真感光体に関するものである。さらに詳しくは、フェニルベンゾフラノン誘導体を用いて光感度を向上させた電子写真感光体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カールソンプロセスを用いた複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ等の画像形成装置においては、種々の材料からなる電子写真感光体が使用されている。その1つはセレンのような無機材料を感光層に用いた無機感光体であり、他は有機材料を感光層に用いた有機感光体(OPC)である。このうち、有機感光体は無機感光体に比べて安価でしかも生産性が高く、無公害である等の多くの利点を有していることから、広範な研究が進められている。
【0003】
有機感光体としては、電荷発生層と電荷輸送層とを積層した積層型の感光体、いわゆる機能分離型の感光体が多いが、電荷発生剤と電荷輸送剤とを単一の感光層中に分散させた、いわゆる単層型の感光体も知られている。
【0004】
これらの感光体に使用される電荷輸送剤にはキャリヤ移動度が高いことが要求されているが、キャリヤ移動度が高い電荷輸送剤のほとんどが正孔輸送性であるため、実用に供されている有機感光体は、機械的強度の観点から、最外層に電荷輸送層が設けられた負帯電型の積層型有機感光体に限られている。しかし、負帯電型の有機感光体は負極性コロナ放電を利用するため、オゾンの発生量が多く、環境を汚染したり、感光体を劣化させるなどの問題が生じる。
【0005】
そこで、このような欠点を排除するために、電荷輸送剤として電子輸送剤を使用することが検討されており、例えば特開平1−206349号公報には、下記の化学式(8)で表されるジフェノキノン構造を有する化合物を電子写真感光体用の電子輸送剤として使用することが提案されている。
【0006】
【化2】
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記化学式(8)で表されるジフェノキノン構造を有する化合物などの従来の電子輸送剤は、電荷発生剤とのマッチングが困難であり、電荷発生剤から電子輸送剤への電子注入が不充分になる。また、かかる電子輸送剤は、結着樹脂との相溶性が乏しく、ホッピング距離が長くなるため、低電界での電子移動が生じ難い。従って、従来の電子輸送剤を含有する感光体は、残留電位が高くなり、感度が低いという問題があった。
【0008】
また、前記のように現在、実用化されている有機感光体の多くは積層型の感光層を備えたものであるが、これに比べて単層型の感光層を備えた感光体は構造が簡単で製造が容易である上、被膜欠陥の発生を抑制し、光学的特性を向上させる点でも多くの利点がある。
【0009】
しかも、このような単層型の感光層を備えた感光体は、例えば電荷輸送剤として電子輸送剤と正孔輸送剤とを併用することで、1つの感光体を正帯電型及び負帯電型の両方に使用でき、感光体の応用範囲を拡げられる可能性がある。しかしながら、前記した従来の電子輸送剤は、正孔輸送剤との相互作用により、電子及び正孔の輸送を阻害するという問題があるため、かかる単層型の感光層を備えた感光体は、広く実用化されるには至っていない。
【0010】
この発明は、以上のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、残留電位を低くして、光感度を向上させることができ、特に単層型の感光体として好適に使用できる電子写真感光体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、この発明における第1の発明の電子写真感光体は、導電性基体上に、下記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。
【0012】
【化3】
〔式中、R1はOR、OCOR(Rはアルキル基)を示し、R2 はアリール基を示す。〕
第2の発明の電子写真感光体は、第1の発明において、前記感光層は、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤に加え、電子受容性化合物を含有するものである。
【0013】
第3の発明の電子写真感光体は、第1又は第2の発明において、前記感光層は、少なくとも電荷発生剤、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にある単層構造のものである。
【0014】
従って、第1の発明においては、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体が、ナフトキノン類似環の有するカルボニル基(>C=O)の作用に基づいて電子受容性に優れている。また、前記基R1 、R2 及び2つのフェニル基の作用並びにフェニルベンゾフラノン誘導体が非対称構造であることから、溶剤への溶解性及び結着剤としての結着樹脂との相溶性が良好で、感光層中に均一に分散される。
【0015】
加えて、前記フェニルベンゾフラノン誘導体はLUMO〔基底空分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital )、つまり電子を有していない分子軌道の中で最もエネルギー準位が低い軌道をいい、励起された電子は通常この軌道に移動する。〕の拡がりが大きい。このため、電子のホッピング距離が短く、特に低電界での電子輸送性に優れており、かつ電荷発生剤とのマッチングが優れている。
【0016】
特に、前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、上記各置換基の作用によって本来的に電子輸送性及び電子受容性に優れているので、さらに電子輸送性の向上が見られるものと推測される。
【0017】
さらに、フェニルベンゾフラノン誘導体を含む感光層は、低電界での電子輸送性に優れているとともに、層中で電子と正孔が再結合する割合が減少し、見かけの電荷発生効率が実際の値に近づく結果、感光体の感度が向上する。
【0018】
また、第2の発明においては、感光層に電子受容性化合物が含有されており、その電子受容性化合物はLUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも低いため、光照射による電荷発生剤での電子・正孔対の生成の際に電荷発生剤から電子を引き抜く働きをし、電荷発生効率が高められる。
【0019】
第3の発明においては、単層構造の感光層は、少なくとも電荷発生剤、前記フェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にして形成される。この場合、フェニルベンゾフラノン誘導体は、電子及び正孔の輸送を阻害したり、正孔輸送剤との相互作用を生じたりしないため、特に同じ層中に正孔輸送剤が含有される単層型の感光層に使用した際に、より高感度の感光体を構成することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の電子写真感光体の実施形態について詳細に説明する。
電子写真感光体は、導電性基体上に、下記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。
【0021】
【化4】
〔式中、R1 はOR、OCOR(Rはアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基)、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、R2 はアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基、ニトロ基、シアノ基、OR、NR2 (Rはアルキル基)を示す。〕
上記導電性基体としては、導電性を有する種々の材料が使用され、例えばアルミニウム、鉄、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属単体や、上記金属が蒸着又はラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ又は酸化インジウム等で被覆されたガラス等が挙げられる。
【0022】
この導電性基体はシート状、ドラム状等の何れの形態であってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有しておればよい。また、導電性基体は、使用に際して、充分な機械的強度を有するものが望ましい。
【0023】
次に、感光層に含有される前記一般式(1)のフェニルベンゾフラノン誘導体について説明する。
一般式(1)において、R1 中のRのアルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4の低級アルキル基がさらに好ましい。すなわち、アルコキシ基(OR)としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシなどの炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がさらに好ましい。
【0024】
また、アラルキル基としては、例えばベンジル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、5−フェニルペンチル、6−フェニルヘキシルなどのアルキル部分の炭素数が1〜6のアルキル基であるアラルキル基が挙げられる。
【0025】
さらに、Rの置換基を有していてもよいアリール基としては、例えばフェニル、トリル、キシリル、ビフェニリル、o−テルフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルなどが挙げられる。その置換基としては、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、ハロゲン原子、アリール基又はアルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0026】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。
基R2 はアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基、ニトロ基、シアノ基、OR、NR2 (Rはアルキル基)であり、それらアルキル基、アラルキル基又はアリール基としては前述したR1 におけるアルキル基、アラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。
【0027】
また、基R2 がアリール基であるフェニルベンゾフラノン誘導体は、特に電子輸送能に優れており、より高感度の感光体が形成される。しかも、ガラス転移温度Tgが高いため、感光層のTgを向上させることができ、例えば感光体表面に圧接されたクリーニングブレードにより、装置の停止時に感光体の表面に圧接痕がつくのを防止できるなどの効果を発揮できる。また、上記アリール基に、置換基としてアルキル基を置換させたものは、溶剤への溶解性及び結着樹脂との相溶性が特に良好である。
【0028】
さらに、R2 がOR又はNR2 である場合のRは、炭素数1〜4の低級アルキル基であることが好ましい。
一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体の具体例としては、例えば下記の化学式(2)及び(3)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化5】
この化学式(2)のフェニルベンゾフラノン誘導体は、前記一般式(1)において、R1 はメトキシ基(−OCH3 )、R2 はアリール基としてのp−トリル基(CH3 C6 H4 −)である。
【0030】
【化6】
この化学式(3)のフェニルベンゾフラノン誘導体は、前記一般式(1)において、R1 はアセトキシ基(−OCOCH3 )、R2 はアリール基としてのp−トリル基(CH3 C6 H4 −)である。
【0031】
電子写真感光体は、前述のように導電性基体上に設けた感光層に前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有する感光層を形成したものである。この電子写真感光体は、単層型と積層型のいずれであってもよいが、単層型が電子輸送剤の使用による効果を顕著に示すことから望ましい。
【0032】
感光層には、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体に加え、電子受容性化合物を含有することが望ましい。この電子受容性化合物は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも低いため、光照射による電荷発生剤での電子・正孔対の生成の際に、電荷発生剤から電子を引き抜く働きをする。従って、電荷発生剤中での電子と正孔の再結合による消失の割合が減少して、電荷発生効率が向上する。
【0033】
さらに、この電子受容性化合物は、電荷発生剤から引き抜いた電子を、電子輸送剤であるフェニルベンゾフラノン誘導体に効率良く伝達する働きもする。このため、フェニルベンゾフラノン誘導体に電子受容性化合物を加えることにより、電荷発生剤からの電子の注入と輸送が円滑に行われ、感光体の感度をさらに高めることができる。
【0034】
しかも、電子受容性化合物は、その酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vの範囲内であることが望ましい。酸化還元電位が−0.8Vよりも低いと、電子受容性化合物はトラップと脱トラップを繰り返しながら移動する電子を脱トラップ不可能なレベルに落とし込み、キャリヤトラップを生じるために電子輸送の妨げになり、感光体の感度が低下する。逆に、酸化還元電位が−1.4Vより高いと、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤のそれよりも高くなり、電子・正孔対の生成の際に電子を電荷発生剤から引き抜く働きをしないため、電荷発生効率が向上せず、感光体の感度が低下する。
【0035】
そのような電子受容性化合物としては、例えばベンゾキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物等のキノン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、2, 4, 8−トリニトロチオキサントン、3, 4, 5, 7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノンなどが用いられる。
【0036】
但し、電荷発生剤や、前記フェニルベンゾフラノン誘導体との相性を考慮すると、上記例示の各化合物の中でも、下記一般式(4)で表されるベンゾキノン系化合物又は一般式(5)で表されるジフェノキノン系化合物に属し、かつ酸化還元電位が前記の範囲内である化合物が最も好適に使用される。
【0037】
【化7】
この一般式(4)中、R3 、R4 、R5 及びR6 は、同一又は異なるものであり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。
【0038】
【化8】
この一般式(5)中のR7 、R8 、R9 及びR10は、同一又は異なるものであり、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基又は置換基を有していてもよいアミノ基を示す。
【0039】
なお、シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの、炭素数3〜6のシクロアルキル基が挙げられる。
【0040】
また、置換基を有していてもよいアミノ基としては、例えばアミノのほか、モノメチルアミノ、ジメチルアミノ、モノエチルアミノ、ジエチルアミノなどが挙げられる。
【0041】
一般式(4)で表されるベンゾキノン系化合物の具体例としては、p−ベンゾキノン(酸化還元電位−0.81V)や2,6−ジ(t−ブチル)−p−ベンゾキノン(酸化還元電位−1.31V)などが挙げられる。
【0042】
一般式(5)で表されるジフェノキノン系化合物の具体例としては、例えば、3,5−ジメチル−3′,5′−ジ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン(酸化還元電位−0.86V)や3,5,3′,5′−テトラキス(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン(酸化還元電位−0.94V)などが挙げられる。
【0043】
これらの電子受容性化合物は、それぞれ単独で使用できる他、二種以上を併用することもできる。この電子受容性化合物は電子輸送剤としても用いられる。また、電子受容性化合物(電子輸送剤)のほかに、従来公知の他の電子輸送剤を感光層に含有させてもよい。そのような電子輸送剤としては、テトラシアノエチレン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等が用いられる。
【0044】
前記単層型の電子写真感光体は、導電性基体上に単一の感光層を設けたものであって、この感光層が、少なくとも電荷発生剤、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤及び結着剤が分散状態にある単層構造のものである。この感光層には、さらに正孔輸送剤が含有される。この単層型感光体は正帯電及び負帯電のいずれにも適用可能であるが、特に正帯電型で使用するのが好ましい。
【0045】
一方、積層型電子写真感光体は、導電性基体上に少なくとも電荷発生層及び電荷輸送層をこの順に設けたものであって、前記電荷輸送層に電子輸送剤として一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有するものである。この積層型電子写真感光体は、従来の積層型電子写真感光体に比べて残留電位が大きく低下しており、感度が向上している。また、電荷発生層から電荷輸送層への電子の授受をより円滑に行わせるために、電荷発生層にもフェニルベンゾフラノン誘導体を含有させるのが好ましい。
【0046】
電子写真感光体に使用するフェニルベンゾフラノン誘導体は、前述のように、溶剤への溶解性及び結着樹脂との相溶性が良好であるとともに、電荷発生剤とのマッチングに優れていることから、電子の注入が円滑に行われ、とりわけ低電界での電子輸送性に優れている。
【0047】
従って、例えば正帯電の単層型感光体では、感光体への露光により光を吸収した電荷発生剤は、イオン対〔正孔(+)と電子(−)〕を生成する。電荷発生剤から放出された電子が前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体よりなる電子輸送剤にスムーズに注入される。次いで、電子輸送剤間での電子の授受により、電子が感光層の表面に移動し、あらかじめ感光層表面に帯電された正電荷(+)が打ち消される。一方、正孔(+)は正孔輸送剤に注入されて、途中でトラップされることなく導電性基体の表面に移動し、導電性基体の表面の負電荷(−)を打ち消す。このようにして正帯電の単層型感光体の感度が向上するものと考えられる。負帯電の単層型感光体は、上記と電荷移動の方向が逆になるだけであって、同様に感度が向上する。
【0048】
前記電荷発生剤より生成したイオン対がフリーキャリヤとなり有効に表面電荷を打ち消すためには、イオン対が再結合して消失してしまう割合が小さい方がよい。
【0049】
電子写真感光体は、前記フェニルベンゾフラノン誘導体とともに、他の電子輸送剤を併用することができる。例えば、酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vである電子輸送剤が好適に使用される。その理由は以下の通りである。
【0050】
酸化還元電位が−1.4Vより小さい電子輸送剤を使用した場合は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤よりも高くなり、イオン対の生成の際に電子が電子輸送剤に移動せず、電荷発生効率の向上につながらない。
【0051】
これに対して、酸化還元電位が−1.4Vより大きい電子輸送剤を使用した場合は、LUMOのエネルギー準位が電荷発生剤よりも低いため、イオン対の生成の際に電子が電子輸送剤へ移動し、イオン対がキャリヤへ分離し易くなるからである。すなわち、電子輸送剤が電荷発生に作用し、その発生効率を向上させるのである。
【0052】
一方、高感度であるためには、フリーキャリヤの移動時に不純物によるキャリヤトラップが発生しないことも必要である。
通常、フリーキャリヤの移動過程には少量の不純物などによるトラップが存在し、フリーキャリヤは、トラップと脱トラップを繰り返しながら移動するが、酸化還元電位が−0.8Vよりも大きい電子輸送剤を使用した場合は、分離したフリーキャリヤを脱トラップ不可能なレベルに落とし込み、キャリヤトラップを生じるため、その移動は中止される。
【0053】
かかる電子輸送剤としては、その酸化還元電位が−0.8〜−1.4Vの範囲内である化合物であれば特に制限はなく、前述した電子輸送剤又は電子受容性化合物が挙げられる。
【0054】
次に、上述した電荷発生剤としては、例えば無金属フタロシアニン、オキソチタニルフタロシアニン、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料などが挙げられる。これらのうち、ペリレン顔料としては、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【化9】
この一般式(6)中、R11及びR12は同一又は異なっていてもよく、炭素数が18以下の置換又は未置換のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカノイル基又はアラルキル基を示す。
【0056】
この電荷発生剤としては、上記例示の電荷発生剤のほかに、例えばセレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末や、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等の従来公知の電荷発生剤も用いられる。
【0057】
また、上記例示の電荷発生剤は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で又は2種以上を混合して用いられる。
さらに、電荷発生剤のうち、特に半導体レーザーなどの光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶形については特に限定されず、種々のものが使用される。
【0058】
一方、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えばペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0059】
次に、正孔輸送剤について説明する。
この正孔輸送剤としては、高い正孔輸送能を有する種々の化合物、例えばベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が用いられる。これらのうち、ベンジジン誘導体としては、下記一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
【化10】
この一般式(7)中、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリール基を示す。a及びbは同一又は異なっていてもよく、1〜4の整数を示し、c、d、e及びfは同一又は異なっていてもよく、1〜5の整数を示す。なお、a、b、c、d、e又はfが2以上のとき、各R13、R14、R15、R16、R17及びR18は異なっていてもよい。
【0061】
これらの正孔輸送剤は、1種を単独で用いるほか、2種以上を混合して用いてもよい。また、ポリビニルカルバゾール等の成膜性を有する正孔輸送剤を用いる場合には、結着樹脂は必ずしも必要でない。
【0062】
前記正孔輸送剤のうち、イオン化電位(Ip)が4.8〜5.6eVのものを使用するのが好ましく、電界強度3×105 V/cmで1×10−6cm2 /V・秒以上の移動度を有するものがより好ましい。
【0063】
イオン化電位が前記範囲内にある正孔輸送剤を用いることによって、より一層残留電位が低下し、感度が向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなものと考えられる。
【0064】
すなわち、電荷発生剤から正孔輸送剤への電荷の注入のし易さは正孔輸送剤のイオン化電位と密接に関係しており、正孔輸送剤のイオン化電位が前記範囲よりも大きい場合には、電荷発生剤から正孔輸送剤への電荷の注入の程度が低くなるか、あるいは正孔輸送剤間での正孔の授受の程度が低くなるため、感度の低下が生じるものと推測される。一方、正孔輸送剤と電子輸送剤とが共存する系では、両者の間の相互作用、より具体的には電荷移動錯体の形成に注意する必要がある。両者の間にこのような錯体が形成されると、正孔と電子との間に再結合が生じ、全体として電荷の移動度が低下する。正孔輸送剤のイオン化電位が前記範囲よりも小さい場合には、電子輸送剤との間に錯体を形成する傾向が大きくなり、電子と正孔との再結合が生じるために、見掛けの量子収率が低下し、感度の低下に結びつくものと思われる。
【0065】
さらに、電子輸送剤中に嵩高い基が存在する場合は、その立体障害により電荷移動錯体の形成を抑制することができる。従って、電子輸送剤として用いられるフェニルベンゾフラノン誘導体には、できるだけ嵩高い置換基を導入するのが好ましい。正孔輸送剤の具体例としては、例えばベンジジン誘導体などが挙げられる。
【0066】
次に、結着樹脂について説明する。
上記した各成分を分散させるための結着樹脂としては、従来より感光層に使用されている種々の樹脂を使用することができ、例えばスチレン系重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、さらにエポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂等が挙げられる。これらの結着樹脂は1種又は2種以上が混合して用いられる。これらのうち、好適な樹脂は、スチレン系重合体、アクリル系重合体、スチレン−アクリル系共重合体、ポリエステル、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート等である。
【0067】
次に、電子写真感光体の製造方法について説明する。
単層型の電子写真感光体は、所定の電子輸送剤を、電荷発生剤、正孔輸送剤、結着樹脂等と共に適当な溶剤に溶解又は分散した塗布液を、塗布等の手段によって導電性基体上に塗布し、乾燥させることにより製造される。
【0068】
単層型の感光体においては、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤は好ましくは0.1〜50重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部の割合で配合され、電子輸送剤は好ましくは5〜100重量部、さらに好ましくは10〜80重量部の割合で配合される。また、正孔輸送剤は好ましくは5〜500重量部、さらに好ましくは25〜200重量部の割合で配合される。さらに、正孔輸送剤と電子輸送剤との総量は、結着樹脂100重量部に対して好ましくは20〜500重量部、さらに好ましくは30〜200重量部である。単層型の感光層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物の含有量が結着樹脂100重量部に対して0.1〜40重量部であることが望ましく、0.5〜20重量部であることがより望ましい。
【0069】
また、単層型の感光層の厚さは好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
また、積層型の電子写真感光体を得るには、まず導電性基体上に、蒸着又は塗布等の手段によって電荷発生剤を含有する電荷発生層を形成する。次いで、この電荷発生層上に、電子輸送剤と結着樹脂とを含有する塗布液を塗布等の手段によって塗布し、乾燥させることにより電荷輸送層が形成される。
【0070】
この積層型感光体においては、電荷発生層を構成する電荷発生剤と結着樹脂とは、種々の割合で使用することができるが、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤を好ましくは5〜1000重量部、さらに好ましくは30〜500重量部の割合で配合するのが適当である。電荷発生層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部で配合するのが適当である。また、電荷発生層に電子輸送剤を含有させる場合は、電子輸送剤を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜40重量部で配合するのが適当である。
【0071】
電荷輸送層を構成する電子輸送剤と結着樹脂とは、電荷の輸送を阻害しない範囲及び結晶化しない範囲で種々の割合で使用することができるが、光照射により電荷発生層で生じた電荷が容易に輸送できるように、結着樹脂100重量部に対して電子輸送剤を好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは25〜100重量部の割合で配合するのが適当である。電荷輸送層に電子受容性化合物を含有させる場合は、電子受容性化合物を結着樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部で配合するのが適当である。
【0072】
また、積層型の感光層の厚さは、電荷発生層が望ましくは0.01〜5μm程度、さらに望ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が望ましくは2〜100μm、さらに望ましくは5〜50μm程度である。
【0073】
単層型感光体にあっては、導電性基体と感光層との間に、また積層型感光体にあっては、導電性基体と電荷発生層との間、導電性基体と電荷輸送層との間又は電荷発生層と電荷輸送層との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層が形成されていてもよい。また、感光体の表面には、保護層が形成されていてもよい。
【0074】
単層型及び積層型の各感光層には、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、それ自体公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0075】
さらに、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体とともに、高い電子輸送能を有する種々の電子輸送剤を感光層に含有させてもよい。
導電性基体上に形成される感光層は、前記した各成分を含む樹脂組成物を溶剤に溶解ないし分散した塗布液を導電性基体上に塗布、乾燥して製造される。すなわち、前記例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を、適当な溶剤とともに、公知の方法、例えば、ロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカーあるいは超音波分散器等を用いて分散混合して塗布液を調製し、これを常法より塗布、乾燥すればよい。
【0076】
塗布液を調製するための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は、1種又は2種以上が混合して用いられる。
【0077】
さらに、電荷輸送材料や電荷発生材料の分散性、感光層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
以上の実施形態の電子写真感光体によれば、次のような効果を奏する。
【0078】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体は、ナフトキノン類似環の有するカルボニル基(>C=O)の作用に基づいて電子受容性に優れている。
【0079】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体の基R1 、R2 及び2つのフェニル基の作用によって、溶剤への溶解性及び結着剤としての結着樹脂との相溶性が良好で、感光層中に均一に分散される。
【0080】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、LUMOの拡がりが大きい。このため、電子のホッピング距離が短く、特に低電界での電子輸送性に優れており、かつ電荷発生剤とのマッチングが優れている。
【0081】
・ 従って、実施形態の電子写真感光体によれば、かかるフェニルベンゾフラノン誘導体を電子写真感光体における電子輸送剤として使用することにより、高感度な感光体を形成することができる。
【0082】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、特に前記フェニルベンゾフラノン誘導体は、前記各置換基の作用によって本来的に電子輸送性及び電子受容性に優れているので、さらに電子輸送性を向上させることができる。
【0083】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、電子写真感光体は、導電性基体上に感光層を設けたものであって、この感光層が、一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。このフェニルベンゾフラノン誘導体を含む感光層は、低電界での電子輸送性に優れているとともに、層中で電子と正孔が再結合する割合が減少し、見かけの電荷発生効率が実際の値に近づくことから、感光体の感度を向上させることができる。
【0084】
特に、かかるフェニルベンゾフラノン誘導体は、電子及び正孔の輸送を阻害したり、正孔輸送剤との相互作用を生じたりしないため、特に同じ層中に正孔輸送剤が含有される単層型の感光層に使用した場合に、より高感度の感光体を構成できる。
【0085】
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、感光体の残留電位が低くなり、繰り返し露光を行った際の感光層の安定性及び耐久性を向上させることができる。
・ 実施形態の電子写真感光体によれば、前記感光層が−0.8〜−1.4Vの酸化還元電位を有する電子輸送剤を含有すると、感光体の感度をさらに向上させることができる。これは、前記電子輸送剤が、電荷発生剤から電子を引き抜いてフェニルベンゾフラノン誘導体に伝達する働きを有するため、電荷発生剤からフェニルベンゾフラノン誘導体への電子の注入がさらに円滑になるためと推測される。
【0086】
・ 実施形態における前記フェニルベンゾフラノン誘導体は前述のように高い電子輸送能を有していることから、その機能を利用して、太陽電池、EL素子などの用途にも使用できる。
【0087】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜18及び比較例1〜7)
〔電子写真感光体の製造〕
各実施例又は比較例の電子写真感光体に用いた各成分は以下のとおりである。
(i) 電荷発生剤
PcH2 : 無金属フタロシアニン〔イオン化ポテンシャル(Ip)=5.38eV〕
PcTiO: オキソチタニルフタロシアニン(Ip=5.32eV)
ペリレン: 前述の一般式(6)で表されるペリレン顔料(Ip=5.50eV)
(ii) 正孔輸送剤
有 : 前述の一般式(7)で表されるベンジジン誘導体(Ip=5.56eV)
無 : 正孔輸送剤を含有しない
(iii) 電子輸送剤
(2): 前述の化学式(2)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体
(3): 前述の化学式(3)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体
(iv) 電子受容性化合物又は電子輸送剤
a: p−ベンゾキノン
b: 2,6−ジ(t−ブチル)−p−ベンゾキノン
c: 3,5−ジメチル−3′,5′−ジ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン
d: 3,5,3′,5′−テトラ(t−ブチル)−4,4′−ジフェノキノン
〔単層型電子写真感光体の作製〕
表1及び表2に示す電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤及び電子受容体を、結着樹脂と溶媒と共に以下に示す割合で配合し、ボールミルで50時間混合分散して単層型感光層塗布液を調製した。
【0088】
(成分) (重量部)
電荷発生剤 5
正孔輸送剤 50
電子輸送剤 30
結着樹脂(ポリカーボネート) 100
溶 媒(テトラヒドロフラン) 800
次いで、上記塗布液を、導電性基材であるアルミニウム素管の表面にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚15〜20μmの単層型電子写真感光体を作製した。
〔積層型電子写真感光体の作製〕
表1及び表2に示す電荷発生剤100重量部、結着樹脂(ポリビニルブチラール)100重量部及び溶媒(テトラヒドロフラン)2000重量部をボールミルで50時間混合分散し、電荷発生層用の塗布液を調製した。この塗布液を導電性基材であるアルミニウム素管の表面にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚1μmの電荷発生層を形成した。
【0089】
次いで、表1及び表2に示す電子輸送剤100重量部、結着樹脂(ポリカーボネート)100重量部及び溶媒(トルエン)800重量部をボールミルで50時間混合分散し、電荷輸送層用の塗布液を調製した。そして、この塗布液を上記電荷発生層上にディップコート法にて塗布し、100℃で60分間熱風乾燥させて膜厚20μmの電荷輸送層を形成し、積層型電子写真感光体を作製した。
(感光体特性の評価)
上記実施例及び比較例で得られた電子写真感光体について、下記の光感度試験を行い、その感度特性を評価した。
(光感度試験)
ジェンテック(GENTEC)社製のドラム型の感度試験機を用い、上記各実施例及び比較例の感光体に電圧を印加して+700Vに帯電させた。次いで、この感光体に光を照射して露光させ、露光から330ミリ秒後の感光体表面の電位を露光後電位Vr (V)として測定した。
【0090】
なお、光照射の条件は、以下に示すように、電荷発生剤がフタロシアニン系のものとペリレン系のものとによって分けた。
(1)フタロシアニン系顔料の場合
+700Vに帯電させた感光体表面に、バンドパスフィルターを用いて780nm(半値幅20nm)に単色化した光(ハロゲンランプ、光強度:16μW/cm2 )80ミリ秒間照射した。
(2)ペリレン系顔料の場合
+700Vに帯電させた感光体表面にハロゲンランプの白色光(光強度:147μW/cm2 )50ミリ秒間照射した。
【0091】
上記実施例及び比較例で使用した成分及び露光後電位Vr の測定結果を表1及び表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
表1に示したように、実施例1〜9の単層型又は積層型の感光体は、前記化学式(2)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。従って、従来の電子輸送剤を用いた感光体(比較例1、2、4、5及び7)あるいは電子輸送剤を使用しなかった感光体(比較例3及び6)に比べて、露光後の電位が低下しており、高い感度を発揮できることがわかる。
【0094】
また、表2に示したように、実施例10〜18の単層型又は積層型の感光体は、前記化学式(3)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体を含有している。このため、従来の電子輸送剤を用いた感光体(比較例1、2、4、5及び7)あるいは電子輸送剤を使用しなかった感光体(比較例3及び6)に比べて、露光後の電位が低下し、高感度を有することがわかる。
【0095】
なお、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0096】
( i ) 前記一般式(1)で表されるフェニルベンゾフラノン誘導体中のR 1 のアルキル基は、炭素数1から4の低級アルキル基である請求項1から請求項3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【0097】
このように構成した場合、感光層の感度をさらに確実に発揮させることができる。
( ii ) 前記電子受容性化合物は、キノン系化合物である請求項2に記載の電子写真感光体。
【0098】
このように構成した場合、感光層中の電子受容性化合物であるキノン系化合物が電荷発生効率をより確実に向上させることができる。
( iii ) 前記電子輸送剤の含有量は、結着剤100重量部に対して5〜100重量部である請求項3に記載の電子写真感光体。
【0099】
このように構成した場合、電子輸送剤がその機能を効果的に発揮でき、感光層の感度を向上させることができる。
( iv ) 前記電荷発生剤は、フタロシアニン系顔料又はペリレン系顔料である請求項3に記載の電子写真感光体。
【0100】
このように構成した場合、電荷発生剤による電荷の発生を有効に、しかも確実に行うことができる。
【0101】
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
この発明における第1の発明の電子写真感光体によれば、感光層に含有されるフェニルベンゾフラノン誘導体は高い電子輸送能を有することから、残留電位が効果的に低下し、高い光感度を発揮することができ、特に単層型の感光体として好適に使用することができる。
【0102】
また、第2の発明の電子写真感光体によれば、第1の発明の効果に加え、感光層は電子受容性化合物を含有することから、より一層残留電位が低下し、さらに光感度を向上させることができる。
【0103】
さらに、第3の発明の電子写真感光体によれば、第1又は第2の発明の効果に加え、感光層の構成が簡単で、被膜欠陥の発生を抑制でき、しかも光学的特性を向上させることができる。
【0104】
従って、この発明の電子写真感光体を使用することにより、複写機やプリンター等の高速化を図ることが可能である。
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