JP3573234B2 - Ito膜を形成した基板及びito膜の形成方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はプラズマ処理装置を用いて作成されるITO(インジウム錫酸化物)膜を表面に形成した基板、更には基板に対するITO膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイ用カラーフィルター基板に形成される透明電極等としてITO膜は優れており、また樹脂基板にもITO膜は導電膜として形成される。
斯かるITO膜の形成方法として、従来から、真空蒸着法、スパッタリング法、RF(高周波)イオンプレーティング法が知られているが、カラーフィルターを付けたガラス基板や樹脂基板にITO膜を形成する場合には、基板温度が200℃以上にならないようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、カラー液晶ディスプレイには、高解像度、高透過率の観点から、透明電極の膜厚を薄くすることが要求され、また大型化、応答速度の高速化の観点から透明電極の低抵抗化が要求されている。
【0004】
しかしながら、従来の装置或いは膜形成法で形成されるITO膜は、温度が200℃以下と制限されるため、基板上でのインジウムと酸素との反応及び結晶化が十分に行われず、その結果、結晶粒径が小さく、欠陥の多い膜が形成されてしまう。そして、この欠陥がキャリア電子を捕獲するため、膜中のキャリア電子濃度が減少し、カラー液晶ディスプレイに要求される低抵抗率(2.0×10−4Ωcm)のITO膜を得ることができず、これが大型で高性能のカラー液晶ディスプレイを製造するにあたっての障害になっている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明に係るITO膜を形成した基板は、以下の蒸着装置と蒸着条件を採用するのを前提として、基板表面に形成されるITO膜の表面の10点平均粗さ(RZ値)が4.0nm以上15.0nm未満であるものとした。
【0006】
前提となる蒸着装置は、プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備えたものとし、また前提となる蒸着条件は、被蒸発物質を酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物とし、前記環状永久磁石によって形成される磁界に対し、前記環状電磁コイルによって形成される磁界を重畳し、この状態で前記プラズマビーム発生部からのプラズマビームを酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物に照射するというものである。
【0007】
また本発明に係るITO膜の形成方法は、上記と同様の蒸着装置と蒸着条件を採用するのを前提として、プラズマビームを発生せしめるための放電電圧を70V以上100V未満とした。
【0008】
放電電圧を70V以上100V未満とすることで、基板表面に形成されるITO膜の表面の10点平均粗さ(RZ値)を4.0nm以上15.0nm未満とすることができ、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満とすることで、キャリア電子を捕獲する膜中の欠陥が少なくなり、膜の抵抗値を下げることが可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るITO膜を基板に形成するために用いる蒸着装置の全体構成を示す図であり、真空容器1は一側に排気口2を備えるとともに、他側にプラズマビーム発生部3を設けている。
【0010】
本実施例に用いるプラズマビーム発生部3は複合陰極型と圧力勾配型のプラズマビーム発生機構を組み込んでいる。複合陰極型のプラズマビーム発生機構は、熱容量の小さな補助陰極に初期放電を集中させ、それを利用して主陰極を加熱し、主陰極を最終陰極として効率良くアーク放電を行うようにしたものであり、また圧力勾配型のプラズマビーム発生機構は、陰極と陽極(ハース)との間に中間電極を介在させ、陰極領域を1torr程度に、陽極領域を10−4torr以上に保って放電を行うことで、陽極領域からのイオンの逆流による陰極の損傷を防ぎ、更にキャリヤガスのガス効率が高いため、大電流放電を可能としたものである。
【0011】
このような、複合陰極型と圧力勾配型のプラズマビーム発生機構を備えたプラズマビーム発生部3は筒体4に熱シールド5を介して補助電極6が保持され、この補助電極6はW,Ta,Mo等の高融点金属パイプ等を用いる。この補助電極6の後端にはAr等のキャリヤガスをプラズマビーム発生部3内に送り込むパイプ7を接続している。
【0012】
また、筒体4内の先部には円板状主電極8が取り付けられ、この主電極8中心の穴を貫通して補助電極6の先端が成膜室S側に伸び、更に、主電極8よりも成膜室S側寄りの部分には環状永久磁石を内蔵する第1の中間電極9(第1のグリッド)、コイルを内蔵する第2の中間電極10(第2のグリッド)及びステアリングコイル11が設けられ、陰極(主電極8)と第1,第2の中間電極9,10との間には垂下抵抗器12,13を介して可変電圧型の主電源14が接続される。
【0013】
尚、主電源14には補助放電電源15と垂下抵抗器16とがスイッチ17を介して並列に接続され、また第2の中間電極10に内蔵されるコイルは電源18にて励磁され、ステアリングコイル11は電源19にて励磁される。
【0014】
また、真空容器1内の底部には銅等の熱伝導率の良い導電材料からなる主ハース20と補助ハース21が配置されている。主ハース20は前記主電源14の正側に接続されるので、前記プラズマビーム発生部3に対して陽極を構成する。したがって、プラズマビーム発生部3で発生したプラズマビームは前記第1の中間電極9及び第2の中間電極10にて収束され、ステアリングコイル11によって真空容器1に導きかれ、主ハース20に入射する。このプラズマビームが入射する主ハース20の上面には被蒸発物質であるITO(インジウム錫酸化物)タブレット22をセットする凹部を形成している。
【0015】
一方補助ハース21は、主ハース20と同様に銅等の熱伝導率の良い導電材料からなるとともに、主ハース20を囲む環状容器内に環状の永久磁石23とハースコイル24とを同軸上に積層して設け、ハースコイル24を可変電源25に接続し、永久磁石23によって形成される磁界に対し、ハースコイル24によって形成される磁界を重畳するようにしている。例えば、永久磁石23により発生する中心側の磁界とハースコイル24の中心側の磁界とが同じ向きになるようにする。
【0016】
また、真空容器1内の上部には基板Wを加熱するヒータ26が配置され、更に図示しない移動機構にて基板Wは水平方向に移動可能とされている。
【0017】
以上において、プラズマビーム発生部3で発生したプラズマビームを、主ハース20の上面にセットしたITOタブレット22に入射せしめ、図2に示すように、ITOタブレット22から金属粒子を蒸発せしめるとともに蒸発した金属粒子をイオン化し、このイオン化した金属粒子に基板W表面で酸化反応を起こさせ、基板W表面にITO膜27を形成する。ここで、可変電源25からハースコイル24に流す電流値を変えることによって、イオン化した金属粒子の飛行パターンを調整することができ、基板W表面に均一な厚みのITO膜27を形成することができる。
【0018】
尚、蒸着装置としては上記の構成のものに限らず、図3に示す構成のものでもよい。即ち、図3(a)は蒸着装置の概略構成を示す平面図、(b)は概略構成を示す側面図であり、この蒸着装置は真空容器1内に回転体30を設け、この回転体30に基板Wを複数枚取り付けるとともに、真空容器1の天井部にプラズマビーム発生部3を、真空容器1内の側壁にハース20を配置している。尚、ハースを設ける箇所は、上記の例に限らず、プラズマビーム発生部からのプラズマビームの延長線上であれば如何なる箇所でもよい。
【0019】
次に、図1に示した蒸着装置を用いた具体的な実施例と比較例を説明する。
(実施例1)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:98V
放電電流:150A
成膜中圧力:2.0×10−3torr
酸素分圧:0.6×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:279nm
10点平均粗さ(RZ値):4.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し85%
抵抗率:1.30×10−4Ω・cm
【0020】
(実施例2)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:90V
放電電流:150A
成膜中圧力:1.8×10−3torr
酸素分圧:0.9×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:280nm
10点平均粗さ(RZ値):7.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し86%
抵抗率:1.20×10−4Ω・cm
【0021】
(実施例3)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:70V
放電電流:150A
成膜中圧力:3.5×10−3torr
酸素分圧:1.2×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:285nm
10点平均粗さ(RZ値):13.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し85%
抵抗率:1.40×10−4Ω・cm
【0022】
(比較例1)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:60V
放電電流:150A
成膜中圧力:4.0×10−3torr
酸素分圧:2.0×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:283nm
10点平均粗さ(RZ値):15.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し83%
抵抗率:1.70×10−4Ω・cm
【0023】
(比較例2)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:105V
放電電流:150A
成膜中圧力:0.6×10−3torr
酸素分圧:0.3×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:283nm
10点平均粗さ(RZ値):2.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し86%
抵抗率:1.90×10−4Ω・cm
【0024】
ここで、10点平均粗さ(RZ値)とは図4(説明を分りやすくするため、ITO膜の凹凸を誇張して示す)に示すように、
L:基準長さ
R1,R3,R5,R7,R9 :基準長さLに対応する抜取り部分の最高から5番目までの山頂の標高
R2,R4,R6,R8,R10:基準長さLに対応する抜取り部分の最深から5番目までの谷底の標高
RZ値={(R1+R3+R5+R7+R9)−(R2+R4+R6+R8+R10)}/5
で表わされる。
【0025】
図5は上記の実施例と比較例に基づいて作成した抵抗率(Ω・cm)とRZ値との関係を示すグラフであり、このグラフから明らかなように、液晶ディスプレイ用カラーフィルター基板に形成される透明電極として要求される抵抗率を満足するには、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満にすべきことが分る。
【0026】
図6はRZ値と放電電圧との関係を示すグラフであり、このグラフから明らかなように、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満にするには、放電電圧を70V以上100V未満にすべきことが分る。
【0027】
次に、Sn/Inの平均値と標準偏差及び抵抗率の平均値と標準偏差について、図1に示した本発明に係る装置(補助ハース有り)と従来装置(補助ハースなし)を用いて成膜した場合を以下の(表1)及び(表2)に示す。尚、成膜条件は以下の通りとし、基板10枚を5分毎に一定速度で移動させた。
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:70V〜100V(90V)
放電電流:150A
放電ガス:Ar(30sccm)
反応ガス:O2(50sccm)
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、蒸着装置として、プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備え、更にプラズマ発生源として複合陰極型と圧力勾配型を組合せるとともに、プラズマ修正機能付きのハースを使用したので、ITOソース直上での電流密度が高くなり、イオン密度を高める(1011/CC以上)ことができ、またプラズマ中での膜構成原子及び分子の活性度が高くなり、基板上での酸化反応(膜形成)が十分になされる。
【0031】
特に、プラズマビームを発生せしめるための放電電圧を70V以上100V未満と低く設定することで、プラスイオンによる膜成長面へのダメージを小さくしかつプラスイオンの適度の打ち込みが行われる結果、緻密で結晶粒子同士の結合が強固で、結晶の粒径が大きく、したがってキャリア電子を捕獲する膜中の欠陥が少ない表面粗さ(RZ値)が4.0nm以上15.0nm未満のITO膜を得ることができる。
【0032】
そして、上記のITO膜は薄く、更に(表1)及び(表2)に示すように均質で且つ低抵抗であるため、基板に対して電流が平行に流れる液晶ディスプレー等に適用して極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るITO膜を基板に形成するために用いる蒸着装置の全体構成を示す図
【図2】ITOタブレットからの金属粒子の蒸発状態を示す図
【図3】(a)は別実施例に係る蒸着装置の概略構成を示す平面図、(b)は同蒸着装置の概略構成を示す側面図
【図4】10点平均粗さ(RZ値)の説明に用いる図
【図5】抵抗率と10点平均粗さ(RZ値)との関係を示すグラフ
【図6】10点平均粗さ(RZ値)と放電電圧との関係を示すグラフ
【符号の説明】
1…真空容器、3…プラズマビーム発生部、6…補助電極、8…主電極、9…第1の中間電極、10…第2の中間電極、11…ステアリングコイル、14…主電源、20…主ハース、21…補助ハース、22…ITOタブレット、23…永久磁石、24…ハースコイル、27…ITO膜、W…基板。
【発明の属する技術分野】
本発明はプラズマ処理装置を用いて作成されるITO(インジウム錫酸化物)膜を表面に形成した基板、更には基板に対するITO膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイ用カラーフィルター基板に形成される透明電極等としてITO膜は優れており、また樹脂基板にもITO膜は導電膜として形成される。
斯かるITO膜の形成方法として、従来から、真空蒸着法、スパッタリング法、RF(高周波)イオンプレーティング法が知られているが、カラーフィルターを付けたガラス基板や樹脂基板にITO膜を形成する場合には、基板温度が200℃以上にならないようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、カラー液晶ディスプレイには、高解像度、高透過率の観点から、透明電極の膜厚を薄くすることが要求され、また大型化、応答速度の高速化の観点から透明電極の低抵抗化が要求されている。
【0004】
しかしながら、従来の装置或いは膜形成法で形成されるITO膜は、温度が200℃以下と制限されるため、基板上でのインジウムと酸素との反応及び結晶化が十分に行われず、その結果、結晶粒径が小さく、欠陥の多い膜が形成されてしまう。そして、この欠陥がキャリア電子を捕獲するため、膜中のキャリア電子濃度が減少し、カラー液晶ディスプレイに要求される低抵抗率(2.0×10−4Ωcm)のITO膜を得ることができず、これが大型で高性能のカラー液晶ディスプレイを製造するにあたっての障害になっている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明に係るITO膜を形成した基板は、以下の蒸着装置と蒸着条件を採用するのを前提として、基板表面に形成されるITO膜の表面の10点平均粗さ(RZ値)が4.0nm以上15.0nm未満であるものとした。
【0006】
前提となる蒸着装置は、プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備えたものとし、また前提となる蒸着条件は、被蒸発物質を酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物とし、前記環状永久磁石によって形成される磁界に対し、前記環状電磁コイルによって形成される磁界を重畳し、この状態で前記プラズマビーム発生部からのプラズマビームを酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物に照射するというものである。
【0007】
また本発明に係るITO膜の形成方法は、上記と同様の蒸着装置と蒸着条件を採用するのを前提として、プラズマビームを発生せしめるための放電電圧を70V以上100V未満とした。
【0008】
放電電圧を70V以上100V未満とすることで、基板表面に形成されるITO膜の表面の10点平均粗さ(RZ値)を4.0nm以上15.0nm未満とすることができ、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満とすることで、キャリア電子を捕獲する膜中の欠陥が少なくなり、膜の抵抗値を下げることが可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るITO膜を基板に形成するために用いる蒸着装置の全体構成を示す図であり、真空容器1は一側に排気口2を備えるとともに、他側にプラズマビーム発生部3を設けている。
【0010】
本実施例に用いるプラズマビーム発生部3は複合陰極型と圧力勾配型のプラズマビーム発生機構を組み込んでいる。複合陰極型のプラズマビーム発生機構は、熱容量の小さな補助陰極に初期放電を集中させ、それを利用して主陰極を加熱し、主陰極を最終陰極として効率良くアーク放電を行うようにしたものであり、また圧力勾配型のプラズマビーム発生機構は、陰極と陽極(ハース)との間に中間電極を介在させ、陰極領域を1torr程度に、陽極領域を10−4torr以上に保って放電を行うことで、陽極領域からのイオンの逆流による陰極の損傷を防ぎ、更にキャリヤガスのガス効率が高いため、大電流放電を可能としたものである。
【0011】
このような、複合陰極型と圧力勾配型のプラズマビーム発生機構を備えたプラズマビーム発生部3は筒体4に熱シールド5を介して補助電極6が保持され、この補助電極6はW,Ta,Mo等の高融点金属パイプ等を用いる。この補助電極6の後端にはAr等のキャリヤガスをプラズマビーム発生部3内に送り込むパイプ7を接続している。
【0012】
また、筒体4内の先部には円板状主電極8が取り付けられ、この主電極8中心の穴を貫通して補助電極6の先端が成膜室S側に伸び、更に、主電極8よりも成膜室S側寄りの部分には環状永久磁石を内蔵する第1の中間電極9(第1のグリッド)、コイルを内蔵する第2の中間電極10(第2のグリッド)及びステアリングコイル11が設けられ、陰極(主電極8)と第1,第2の中間電極9,10との間には垂下抵抗器12,13を介して可変電圧型の主電源14が接続される。
【0013】
尚、主電源14には補助放電電源15と垂下抵抗器16とがスイッチ17を介して並列に接続され、また第2の中間電極10に内蔵されるコイルは電源18にて励磁され、ステアリングコイル11は電源19にて励磁される。
【0014】
また、真空容器1内の底部には銅等の熱伝導率の良い導電材料からなる主ハース20と補助ハース21が配置されている。主ハース20は前記主電源14の正側に接続されるので、前記プラズマビーム発生部3に対して陽極を構成する。したがって、プラズマビーム発生部3で発生したプラズマビームは前記第1の中間電極9及び第2の中間電極10にて収束され、ステアリングコイル11によって真空容器1に導きかれ、主ハース20に入射する。このプラズマビームが入射する主ハース20の上面には被蒸発物質であるITO(インジウム錫酸化物)タブレット22をセットする凹部を形成している。
【0015】
一方補助ハース21は、主ハース20と同様に銅等の熱伝導率の良い導電材料からなるとともに、主ハース20を囲む環状容器内に環状の永久磁石23とハースコイル24とを同軸上に積層して設け、ハースコイル24を可変電源25に接続し、永久磁石23によって形成される磁界に対し、ハースコイル24によって形成される磁界を重畳するようにしている。例えば、永久磁石23により発生する中心側の磁界とハースコイル24の中心側の磁界とが同じ向きになるようにする。
【0016】
また、真空容器1内の上部には基板Wを加熱するヒータ26が配置され、更に図示しない移動機構にて基板Wは水平方向に移動可能とされている。
【0017】
以上において、プラズマビーム発生部3で発生したプラズマビームを、主ハース20の上面にセットしたITOタブレット22に入射せしめ、図2に示すように、ITOタブレット22から金属粒子を蒸発せしめるとともに蒸発した金属粒子をイオン化し、このイオン化した金属粒子に基板W表面で酸化反応を起こさせ、基板W表面にITO膜27を形成する。ここで、可変電源25からハースコイル24に流す電流値を変えることによって、イオン化した金属粒子の飛行パターンを調整することができ、基板W表面に均一な厚みのITO膜27を形成することができる。
【0018】
尚、蒸着装置としては上記の構成のものに限らず、図3に示す構成のものでもよい。即ち、図3(a)は蒸着装置の概略構成を示す平面図、(b)は概略構成を示す側面図であり、この蒸着装置は真空容器1内に回転体30を設け、この回転体30に基板Wを複数枚取り付けるとともに、真空容器1の天井部にプラズマビーム発生部3を、真空容器1内の側壁にハース20を配置している。尚、ハースを設ける箇所は、上記の例に限らず、プラズマビーム発生部からのプラズマビームの延長線上であれば如何なる箇所でもよい。
【0019】
次に、図1に示した蒸着装置を用いた具体的な実施例と比較例を説明する。
(実施例1)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:98V
放電電流:150A
成膜中圧力:2.0×10−3torr
酸素分圧:0.6×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:279nm
10点平均粗さ(RZ値):4.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し85%
抵抗率:1.30×10−4Ω・cm
【0020】
(実施例2)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:90V
放電電流:150A
成膜中圧力:1.8×10−3torr
酸素分圧:0.9×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:280nm
10点平均粗さ(RZ値):7.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し86%
抵抗率:1.20×10−4Ω・cm
【0021】
(実施例3)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:70V
放電電流:150A
成膜中圧力:3.5×10−3torr
酸素分圧:1.2×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:285nm
10点平均粗さ(RZ値):13.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し85%
抵抗率:1.40×10−4Ω・cm
【0022】
(比較例1)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:60V
放電電流:150A
成膜中圧力:4.0×10−3torr
酸素分圧:2.0×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:283nm
10点平均粗さ(RZ値):15.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し83%
抵抗率:1.70×10−4Ω・cm
【0023】
(比較例2)
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:105V
放電電流:150A
成膜中圧力:0.6×10−3torr
酸素分圧:0.3×10−3torr
以上の条件で形成したITO膜の特性
厚さ:283nm
10点平均粗さ(RZ値):2.0nm
直線透過率:550nmの波長の光に対し86%
抵抗率:1.90×10−4Ω・cm
【0024】
ここで、10点平均粗さ(RZ値)とは図4(説明を分りやすくするため、ITO膜の凹凸を誇張して示す)に示すように、
L:基準長さ
R1,R3,R5,R7,R9 :基準長さLに対応する抜取り部分の最高から5番目までの山頂の標高
R2,R4,R6,R8,R10:基準長さLに対応する抜取り部分の最深から5番目までの谷底の標高
RZ値={(R1+R3+R5+R7+R9)−(R2+R4+R6+R8+R10)}/5
で表わされる。
【0025】
図5は上記の実施例と比較例に基づいて作成した抵抗率(Ω・cm)とRZ値との関係を示すグラフであり、このグラフから明らかなように、液晶ディスプレイ用カラーフィルター基板に形成される透明電極として要求される抵抗率を満足するには、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満にすべきことが分る。
【0026】
図6はRZ値と放電電圧との関係を示すグラフであり、このグラフから明らかなように、RZ値を4.0nm以上15.0nm未満にするには、放電電圧を70V以上100V未満にすべきことが分る。
【0027】
次に、Sn/Inの平均値と標準偏差及び抵抗率の平均値と標準偏差について、図1に示した本発明に係る装置(補助ハース有り)と従来装置(補助ハースなし)を用いて成膜した場合を以下の(表1)及び(表2)に示す。尚、成膜条件は以下の通りとし、基板10枚を5分毎に一定速度で移動させた。
条件
タブレット:Snを5wt%添加したITO焼結体
基板:30cm角、厚さ1.1mmのカラーフィルタ付きソーダライムガラス基板
基板の加熱温度:200℃
放電電圧:70V〜100V(90V)
放電電流:150A
放電ガス:Ar(30sccm)
反応ガス:O2(50sccm)
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、蒸着装置として、プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備え、更にプラズマ発生源として複合陰極型と圧力勾配型を組合せるとともに、プラズマ修正機能付きのハースを使用したので、ITOソース直上での電流密度が高くなり、イオン密度を高める(1011/CC以上)ことができ、またプラズマ中での膜構成原子及び分子の活性度が高くなり、基板上での酸化反応(膜形成)が十分になされる。
【0031】
特に、プラズマビームを発生せしめるための放電電圧を70V以上100V未満と低く設定することで、プラスイオンによる膜成長面へのダメージを小さくしかつプラスイオンの適度の打ち込みが行われる結果、緻密で結晶粒子同士の結合が強固で、結晶の粒径が大きく、したがってキャリア電子を捕獲する膜中の欠陥が少ない表面粗さ(RZ値)が4.0nm以上15.0nm未満のITO膜を得ることができる。
【0032】
そして、上記のITO膜は薄く、更に(表1)及び(表2)に示すように均質で且つ低抵抗であるため、基板に対して電流が平行に流れる液晶ディスプレー等に適用して極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るITO膜を基板に形成するために用いる蒸着装置の全体構成を示す図
【図2】ITOタブレットからの金属粒子の蒸発状態を示す図
【図3】(a)は別実施例に係る蒸着装置の概略構成を示す平面図、(b)は同蒸着装置の概略構成を示す側面図
【図4】10点平均粗さ(RZ値)の説明に用いる図
【図5】抵抗率と10点平均粗さ(RZ値)との関係を示すグラフ
【図6】10点平均粗さ(RZ値)と放電電圧との関係を示すグラフ
【符号の説明】
1…真空容器、3…プラズマビーム発生部、6…補助電極、8…主電極、9…第1の中間電極、10…第2の中間電極、11…ステアリングコイル、14…主電源、20…主ハース、21…補助ハース、22…ITOタブレット、23…永久磁石、24…ハースコイル、27…ITO膜、W…基板。
Claims (2)
- プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備えた蒸着装置を用い、前記被蒸発物質を酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物とし、前記環状永久磁石によって形成される磁界に対し、前記環状電磁コイルによって形成される磁界を重畳し、前記プラズマビーム発生部からのプラズマビームを酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物に照射して蒸発・イオン化せしめ、これをITO(インジウム錫酸化物)膜として表面に蒸着した基板であって、前記ITO膜の表面の10点平均粗さ(RZ値)が4.0nm以上15.0nm未満であることを特徴とするITO膜を形成した基板。
- プラズマビーム発生部と、被蒸発物質をセットするハースと、このハースの周囲にハースと同軸上に配置される環状永久磁石及び環状電磁コイルとを備えた蒸着装置を用い、前記被蒸発物質を酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物とし、前記環状永久磁石によって形成される磁界に対し、前記環状電磁コイルによって形成される磁界を重畳し、前記プラズマビーム発生部からのプラズマビームを酸化インジウム(In2O3)と酸化錫(SnO2)との混合物に照射して蒸発・イオン化せしめ、この蒸発・イオン化せしめられた物質を基板に付着させるITO(インジウム錫酸化物)膜の形成方法であって、前記プラズマビームを発生せしめるための放電電圧を70V以上100V未満としたことを特徴とするITO膜の形成方法。
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