JP3572187B2 - ワイヤ放電加工装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ワイヤ放電加工装置に関し、特に、加工槽に対する下部アームの突入部のシール構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図11、図12は、従来における加工槽移動型のワイヤ放電加工装置の構成を示している。このワイヤ放電加工装置は機械の基台であるベッド1を有している。ベッド1上にはベッド1に固定されたX軸ガイド2に案内されてX軸方向(図11の紙面を垂直に貫通する方向)に移動可能なX軸テーブル3が載置されている。X軸テーブル3はX軸モータ4によって回転駆動されるX軸ボールねじ5とX軸ボールねじ5に螺合した送りナット6によりX軸方向に移動する。
【0003】
X軸テーブル3上には加工液を溜める加工槽7が載置され、加工槽7内に被加工物Wを固定するワークテーブル8が固定配置されている。ベッド1上にはベッド1に固定されたY軸ガイド9に案内されてY軸方向(図11の左右方向)に移動可能な可動コラム10が載置されている。可動コラム10はY軸モータ11によって回転駆動されるY軸ボールねじ12とY軸ボールねじ12に螺合した送りナット(図示省略)によりY軸方向に移動する。
【0004】
可動コラム10には、可動コラム10に固定されたZ軸ガイド13に案内されてZ軸方向(上下方向)に移動可能な可動上部アーム14と、可動コラム10に固定配置の下部アーム15とがそれぞれ水平に設けられている。可動上部アーム14には上部ワイヤガイドローラ16と上部ガイド部材17が取り付けられている。下部アーム15の先端部は加工槽7の側壁を貫通し、延在して加工槽7内に突入しており、この先端部に下部ワイヤガイドローラ18が取り付けられている。
【0005】
ワイヤ電極20は可動コラム10に取り付けられたワイヤボビン21より繰り出され、上部ワイヤガイドローラ16、上部ガイド部材17、下部ワイヤガイドローラ18に案内されて上部ガイド部材17と下部ワイヤガイドローラ18との間で所定のテンションを与えられた状態で垂直に延在し、この垂直区間を降下方向に走行し、下部アーム15内を通って可動コラム10の背面部の後部延長部22に至り、後部延長部22の先端部に設けられているワイヤ回収ローラ23に案内されてワイヤ回収箱24内に回収される。
【0006】
加工槽7の側壁にはパッキン取付板30が固定されており、パッキン取付板30にはゴム状弾性部材によるパッキン31が取り付けられている。パッキン取付板30はパッキン31を納める溝を加工するため加工性の良い樹脂により構成されることがある。
【0007】
パッキン取付板30のOパッキン装着面にはシール板32が支持ローラ33によって支持されている。シール板32は押さえローラ34によてパッキン取付板30に対してX軸方向に相対変位可能に押し付けられている。シール板32は、連結部材35によりベッド1と連結され、X軸テーブル3によって加工槽7がX軸方向に移動する際に連れ動きしないよう、ベッド1に固定されている。
【0008】
下部アーム15は、シール板32に形成されている貫通孔36とパッキン取付板30に形成されてX軸方向に長い開口37と加工槽7の側壁を貫通して加工槽7内に突出している。シール板32はパッキン31を介して開口37を覆蓋シールする。下部アーム15の基端部側とパッキン取付板30との間には、この間の下部アーム15を被覆するY軸方向に伸縮自在の蛇腹38が取り付けられている。蛇腹38はシール板32と共に加工槽7内の加工液が外部に漏れないようシールする。
【0009】
以上の構成において、加工槽7に対する下部アーム15の突入部のシールは、パッキン取付板30、パッキン31、シール板32および蛇腹38により行われ、加工液は加工槽7内に滞留することができる。
【0010】
加工槽7がX軸方向に移動しても、シール板がパッキン取付板30に対してパッキン31を挟んで押し付けられ、パッキン31のシール効果により加工液の加工槽7外への漏れは最小限に押さえることができる。当然ながら、加工槽7の移動ストロークを十分カバーするだけの長さはパッキン取付板30とシール板32にあらかじめ付与されているものとする。なお、パッキン取付板30、パッキン31、シール板32によるシール部の下部には漏洩加工液回収樋39が設けられている。
【0011】
上述のようなシール構造において、加工槽7がX軸方向に移動すれば、加工槽7と共にX軸方向へ移動するパッキン31とX軸方向には変位しないシール板32との間において大きな摩擦力が作用する。
【0012】
図13〜図15は、従来における加工槽固定型のワイヤ放電加工装置の構成を示している。なお、図13〜図15において、図11、図12に対応する部分は、図11、図12に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0013】
このワイヤ放電加工装置では、加工槽7がベッド1上に固定され、可動コラム10、Y軸ガイド9の全体がX軸テーブル3上に搭載され、可動コラム10がX軸方向とY軸方向とに軸移動する。シール板32は、可動コラム10のX軸移動に伴ってX軸移動するよう、連結部材35’によりX軸テーブル3と固定連結されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従来のワイヤ放電加工装置では、加工槽7に対する下部アーム15の突入部のシールが上述のようなシール構造により行われるため、加工粉によるパッキン取付板30、シール板32の摩耗、さらにシール板32の接触面の荒れなどが手伝い、さらにはシール板32が樹脂製の場合には磨耗が加速し、ついにはシール効果が徐々に低下し、シール部からの加工液の漏れは増大していく。
【0015】
これに対抗するため押さえローラ34によるシール板32に対する押し付け力を増大し、漏れ量を低下させるが、押し付け力の増大は、摩擦力によりX軸方向の駆動抵抗を増加し、ロストモーションによる送り誤差を誘発する要因を醸成することになる。また、パッキン31の摩損もあり、パッキン31を定期的に交換する必要がある。シール板32の押し付け力の増加は、パッキン31の摩耗およびシール板32などの接触移動部材の摩耗を速め、定期的に部品交換などの修理を要する必要があり、維持費が高く付くことになる。
【0016】
また、加工槽7における加工液の水面の高さによる水頭圧がシール部に作用し、水面が高くなると、水圧によってシール板32が外方向に押され、漏れ量が増加する。これを防ぐために、従来のシール構造では、押さえローラ34によるシール板32に対する押し付け力をさらに大きく設定する必要が生じる。
【0017】
また、従来のシール構造では、シール板32の押し付け力は、加工液の高さに応じて水圧が大きくなる最大高さを想定して設定されるため、常に最大の摩擦力が作用することになり、加工液位が低い場合でも大きいシール板押し付け力が作用し、送り精度が低下する要因となっている。
【0018】
また、従来のシール構造では、加工の内容に関係なく常に一定のシール板押し付け力(シール圧)が作用するため、たとえば高精度加工する場合には加工液漏れを犠牲にしてシール圧を低減させて精度を向上させたり、これとは逆に被加工物の板厚が厚く、漏れ量が大きくなることを回避するためにシール圧を大きくしたい場合でも、これらに対応してシール板押し付け力を変更することは不可能であった。また、時間経過とともにスラッジの固着などによるシール板32の摩擦抵抗が増大することにより送り精度が低下した場合に、シール板32の押さえ力を低減することによって送り精度の低下を軽減させることもできない。
【0019】
また、従来のシール構成では、シール板32の全周より加工液が漏れ出すことになり、特に上部より漏れ出した加工液は外部へ飛散しやすい傾向があり、飛散加工液を回収するための漏洩加工液回収樋39を大きくしたり、飛散防止カバーを設ける必要が生じる。
【0020】
また、可動コラム10がX軸方向に軸移動するので、シール板32が連結部材35’によりX軸テーブル3と固定連結されているものでは、加工槽シールの抵抗により可動コラム10が全体として大きな曲げモーメントを受け、この外力が各ガイド側面に作用して弾性変形を引き起こし、図14に示されているように、捻れ角(Θ)が生じる。上部および下部ワイヤガイドは可動コラム10の中心部から上部アーム14、下部アーム15などを経由して大きく離れた位置にあるため、ワイヤガイドの中心がX軸方向に変位し、誤差を生じる。この誤差は、一般的にヨーイングと云われ、Y軸のストローク位置により決定され、手前側へワイヤ電極が移動すると大きくなる。このようにヨーイングの捻れ角度に比例して旋回半径が大きくなれば、その分、誤差が拡大することになるからである。
【0021】
この発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたもので、加工槽シールによる摩擦抵抗に起因する送り系の誤差を低減でき、構造が簡単で、摩耗消耗品を使用することがなく保守点検作業性に優れ、また加工槽シール部に作用する水圧や要求特性等に応じてシール圧を可変設定でき、またヨーイングの発生を抑えて高精度な加工が行われるようにするワイヤ放電加工装置を得ることを目的としている。
【0029】
【課題を解決するための手段】
また上述の目的を達成するために、この発明によるワイヤ放電加工装置は、内部にワークテーブルを配置された加工槽とワイヤ電極の案内部を有する下部アームとが送り軸方向に相対変位し、前記加工槽の側面に送り軸方向に長い下部アーム貫通孔が形成され、前記下部アームが機体より前記下部アーム貫通孔を貫通して加工槽内に突入し、前記下部アーム側に前記下部アーム貫通孔のシールを行うシール板が設けられた加工槽シール構造を有するワイヤ放電加工装置において、前記加工槽の側壁に、送り軸方向に長い下部アーム貫通孔が形成されたプレートが固定され、前記シール板が加工槽の内側に存在し前記プレートに面接触する内側シール板と加工槽の外側に存在し前記プレートに面接触する外側シール板により構成されて前記内側シール板と前記外側シール板とがリング状のスペーサにより連結され、前記スペーサ内を前記下部アームが貫通し、前記スペーサにより隔置されている前記内側シール板と前記外側シール板との間の空間に加工液を供給するものである。
【0030】
つぎの発明によるワイヤ放電加工装置は、前記外側シール板の外周縁部に斜め外側に折り曲げられた傾斜折曲片が設けられているものである。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照してこの発明に係るワイヤ放電加工装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に説明するこの発明の実施の形態において上述の従来例と同一構成の部分は、上述の従来例に付した符号と同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0035】
実施の形態1.
図1〜図3は、この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態1を示している。加工槽7の側壁には下部アーム15が貫通する下部アーム貫通孔51が設けられている。下部アーム貫通孔51は、X軸テーブル3と一体に加工槽7が下部アーム15と干渉することなくX軸方向に移動できるよう、X軸方向に長い長孔になっている。
【0036】
加工槽7の側壁外面には、下部アーム貫通孔51の全周を取り囲む環状をなし、シール板32に対して開放されたチューブ保持溝52が形成されている。チューブ保持溝52には弾性変形可能なゴム状弾性体性の環状のチューブ53が嵌め込まれている。チューブ53の底部は接着剤によってチューブ保持溝52の底部に接着固定することができる。
【0037】
下部アーム貫通孔51には下部アーム貫通孔51と同形状の押さえ枠54が前後進可能に係合している。押さえ枠54はフランジ面部54aを有し、フランジ面部54aは、チューブ保持溝52を塞ぐ形態でチューブ53とシール板32との間に存在し、チューブ53の膨張によってシール板32に押し付けられる。押さえ枠54のフランジ面部54aがシール板32と接触する面にはスライドプレート55が貼り付けられている。スライドプレート55は、特に摩擦係数の少ない材質が選択される。たとえばフッ素系樹脂などが摩擦係数を低減させるためには効果ある。
【0038】
これにより加工槽7がX軸移動すると、シール板32とスライドプレート55との間で相対移動が起こり、摩擦力が作用する。この摩擦力によってシール板32が連れ動きしないよう、シール板32は連結部材35によってベット1に係止されている。
【0039】
チューブ53は配管56によって圧力源57に接続されており、チューブ53には配管56の途中に設けられた圧力調整弁58、59あるいは60により圧力制御された流体圧が供給される。圧力調整弁58、59、60は、互いに並列に接続され、それぞれ異なる圧力設定値を有しており、数値制御装置61からの指令によって選択されることにより、チューブ53に供給する流体圧を変更することができる。
【0040】
シール板32は外周縁部に加工槽7側に向かって折り曲げられた折曲片部32aを有しており、支持ローラ33は上縁部の折曲片部32aを下側より受けることによりシール板32を落下しないように支持している。なお、シール板32は押さえローラ34により加工槽7より遠ざかる方向への移動を制限されている。シール板32には蛇腹38が接続されており、加工液は蛇腹38内を通ってコラム10より接続部まで滞留することになる。
【0041】
つぎに上述の構成によるシール構造の動作について説明する。チューブ53には圧力源57により圧力調整弁58、59あるいは60のいずれかにより圧力設定された流体圧が供給され、この流体圧によりチューブ53がチューブ保持溝52内において膨張する。これによりチューブ53は押さえ枠54をシール板32へ向けて押すことになり、この結果、スライドプレート55がシール板32の内面に接するようになる。
【0042】
この接触圧力は、摩擦係数と加工液の漏れ量を考慮して決定され、漏れが完全無い状態まで圧力を上げる必要はなく、漏れた加工液は漏洩加工液回収樋39にて回収されるため、必要最低限の圧力でよい。
【0043】
加工液は押さえ枠54と加工槽7との隙間から外部へ漏れようとするが、チューブ53の底部は接着剤によりチューブ保持溝52の底部に固定され、チューブ53自身によってもシール可能なため、ここからは漏れることはなく、またチューブ53の頭部は押さえ枠54のフランジ面部54aに十分接触するため、ここに加工液が漏れるような隙間は生じない。このため、加工液は相対滑りするシール板32とスライドプレート55との接触移動面から僅かに漏れるだけとなり、かりに漏れても、加工液は漏洩加工液回収樋39に入って十分回収可能である。
【0044】
この状態で、加工槽7がX方向(図3で見て上下方向)に移動すると、スライドプレート55はシール板32に対して相対的に滑りながら移動する。水圧は内部より作用し、最初にシール板32を外側へ変形させるよう作用する。薄板によるシール板32は水圧によって反るが、チューブ53には圧力が常時作用しているため、その変形に追従して膨張し、押さえ枠54が押されるため、スライドプレート55がシール板32にしっかり密着した状態が維持される。これにより、水圧によるシール板32の変形に拘わらず、常に安定した状態で加工液の漏洩を防止するシールが可能となる。
【0045】
また、加工槽7における加工液の水位の上昇とともにシール板32に作用する水圧は大きくなるが、同時にチューブ53に供給する流体圧をそれに応じて高く設定することにより、加工液の高さに応じて加工液の漏れ量を一定にすることが可能である。
【0046】
また、圧力調整弁を、圧力調整弁58、59、60と云うように、複数個準備し、それに対応する指令コードを準備すれば、数値制御装置61からの指令により任意にチューブ53の供給圧力を制御できる。これは、たとえば、特に高精度を必要とする加工を実施する場合には、加工液の漏れを犠牲にして精度優先加工をするとか、精度を必要としない比較的ラフな加工をする場合には、加工液の漏れを制限したいとか、色々な要求に応じて数値制御装置61からの指令により応じることが可能となり、使用条件、さらには使用環境に応じてプログラムコントロールが可能なことは便利である。
【0047】
また、チューブ53に作用する圧力をあらかじめ指令コードに対応して複数個準備すると共に、数値制御装置61からの指令に応じて指令コードを任意に選択可能とし、指令コードを選択する命令を機械の送り系のバックラッシュあるいはロストモーションを評価する物理量に応じて決定するようにすれば、摩擦抵抗が増大し、送り系のバックラッシュが増大して精度が低下しても、それに対応してチューブ53の圧力を低下させ、摩擦抵抗を軽減させることにより、精度維持が可能となり、使用時間の経過からくる時間的変化にも十分対応できることになる。
【0048】
このことはきわめて重要なことであり、従来であれば、定期的な保守点検により、あるいは分解清掃などにより一定の抵抗になるよう管理する必要が有ったが、このシステムを使用すれば自動化でき、保守の費用も不要で、機械の稼働率を上げることが可能となる。
【0049】
また、上述の構成によるシール構造では、シール板32の外周縁部に、90度、加工槽7側に折り曲った折曲片部32aがあることにより、これが加工液飛散防止カバーとして機能し、シール部の上部あるいは両側において加工液が漏れても加工液が外部に飛散することがなく、下部に設けられた漏洩加工液回収樋39へ集められ、結果として、全量、加工液タンクに回収されることになる。
【0050】
上述の構成によるシール構造では、従来のごとくOリング等のパッキンを必要としないから、消耗品が廃止され、定期的な交換などの点検および分解作業を完全に省略できる。また、シール板32および押さえ枠54は、樹脂でなく、耐食性のあるステンレス材などで構成できるため長期間使用に耐え、また、たとえ加工粉が侵入しても傷が付き難い。
【0051】
また、シール板32の外縁部に折曲片部32aがあることにより、シール板32を落下させないための支持ローラ33による支持が容易となり、落下防止のための特別の配慮をする必要がなくなる。
【0052】
実施の形態2.
図4〜図6は、この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態2を示している。この実施の形態では、加工槽7に側壁にプレート71が貼り付け固定されている。プレート71にはX軸方向に長い長孔(下部アーム貫通孔)72が形成されている。プレート71の両側には内側シール板73と外側シール板74とが配置されている。内側シール板73と外側シール板74とはプレート71の厚みとほぼ同一の厚みを有するリング状のスペーサ75により固定連結されていており、スペーサ75の内側には下部アーム15が通り、外側にはプレート71との間に閉じた空間76を画定する。
【0053】
換言すれば、加工槽7に固定の長孔付きのプレート71はリング状のスペーサ75により相互に固定連結された内側シール板73と外側シール板74により挟まれており、加工槽7のX軸方向に移動によりこれらに対して摺動し、スペーサ75は内側シール板73と外側シール板74を伴って長孔72内を相対的に変位させることになる。
【0054】
外側シール板74の上縁部および両側縁部は斜め外側に折り曲げられており、この傾斜折曲片74aは漏れ出た加工液のガイド板の役目を果たす。これにより、特に外側シール板74の上部より漏れた加工液は両側へ導かれ、下側の漏洩加工液回収樋39にて回収される。
【0055】
内側シール板73と外側シール板74とスペーサ75との組立体は、外側シール板74より出された金具77がベッド1より出された支持板78と軸79により連結されていることにより上下方向および左右方向( 加工槽7の移動方向)に動かないようにベッド1より支えらている。
【0056】
以上の構成において、加工槽7がX方向に移動すると、プレート71が内側シール板73と外側シール板74に対して相対的に滑りながら移動し、スペーサ75を挟んで空間76の一方は小さくなり、もう一方は大きくなる。
【0057】
加工槽7内の加工液による水圧は内部より作用し、加工液は最初にプレート71と内側シール板73との間に構成される微少な隙間に侵入する。隙間による圧力損失により加工液の水圧は減少し、漏れた加工液は空間76内に到達する。空間76内に到達した加工液は、さらにプレート71と外側シール板74との間に構成される微少な隙間を通って外部へ漏れ出る。漏れた加工液は漏洩加工液回収樋39により回収される。
【0058】
上述の空間76内に到達した加工液はプレート71と外側シール板74との間の全周方向より外部に向かって漏れるが、外側シール板74の上縁部および両側縁部には斜め傾斜して折り曲げられた傾斜折曲片74aがあることにより、漏れた加工液を導く樋の作用を働き、外側シール板74の上部より漏れた加工液は両側へ導かれ、下方の漏洩加工液回収樋39において全量回収される。このため、飛散防止用のカバーを小さくでき、漏洩加工液回収樋39も小型化できる。
【0059】
水位の上昇とともに、内側シール板73に作用する水圧は大きくなるが、この水圧によって内側シール板73をプレート71に押し付ける力が比例して大きくなり、シール効果を増長させる。この結果として隙間より漏れ出る加工液の量は減少する。
【0060】
リング状のスペーサ75の厚みはプレート71の厚みとほぼ同一の寸法であるから、プレート71を両側から強く押し付けることがないため、シール部に作用する抵抗は水圧による内側シール板73とプレート71との間の摩擦力だけによるものになる。
【0061】
また、従来のごとくローラによるシール板のガイドを必要としないため、構成が簡単になり、Oリングも必要としない。このため消耗品が廃止され、定期的な交換などの点検および分解作業を完全に省略できる。さらに、プレート71、内側シール板73、外側シール板74は、樹脂で構成する必要はなく、耐食性のあるステンレス材などで構成できるため長期間使用に耐え、たとえ加工粉が侵入しても傷が付き難い。
【0062】
実施の形態3.
図7は、この発明のワイヤ放電加工装置の実施の形態3を示している。なお、図7において、図4に対応する部分は、図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0063】
この実施の形態では、加工液タンク80よりポンプ81によって汲み上げられた加工液を配管82によって空間76内に導くようになっている。空間76内に供給する加工液の圧力は加工槽7の水圧より高めに設定し、空間76内に流入された加工液は加工槽7内および外部へ漏れ出るようにする。
【0064】
これにより、内側シール板73とプレート71との間、および外側シール板74とプレート71との間にできる微少な隙間に水圧が作用し、内側シール板73、外側シール板74をそれぞれ両側へ少し押し開くことになり、機械的な接触が減少し、シール部での抵抗が大きく減少する。
【0065】
この結果、加工槽7の送り誤差は大きく改善され、送り精度が向上すると共に、加工液の漏洩を防止するシールも併せてできることになる。なお、シール効果を向上させるため、図示しないが、内側シール板73とプレート71との間の間隙や、外側シール板74とプレート71との間の隙間に1個以上の溝を設けることにより、ラビリンス効果を持たせることもできる。
【0066】
実施の形態4.
図8、図9は、この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態4を示している。なお、図8、図9において、図13〜図15に対応する部分は、図13〜図15に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0067】
この実施の形態では、ベッド1上に固定された2個のブラケット91よりX軸方向に移動可能に支持されたガイドバー92が設けられ、ガイドバー92の両端に接続されているシール側連結アーム93、94によってガイドバー92の両端とシール板32の両端とが固定連結されている。
【0068】
ガイドバー92の両端近傍にはテーブル側連結アーム95、96の一端が固定されている。テーブル側連結アーム95、96はそれぞれY軸方向に延在しており、、各テーブル側連結アーム95、96の先端部には連接棒97、98の基端部が固定されている。連接棒97、98はそれぞれY軸方向に延在しており、連接棒97はX軸テーブル3の一方の端面に当接し、連接棒98はX軸テーブル3の他方の端面に当接している。連接棒97、98はそれぞれ先端部でX軸テーブル3の端面に接触するだけで、固定接続されていない。
【0069】
なお、この実施の形態における加工槽シールは、実施の形態1における場合と同等に、チューブ53により行われる。
【0070】
上述のような構成により、X軸テーブル3がX軸方向に移動すると(ここでは、図8で見て上側に移動したとする)、X軸テーブル3の移動方向前側の端面によって移動方向前側の連接棒97が押され、この移動力がテーブル側連結アーム95によってガイドバー92に伝達される。
【0071】
ガイドバー92は2個のブラケット91より支持されているため、作用力は直進運動に規制され、ガイドバー92がX軸テーブル3のX軸方向の移動に伴ってX軸方向に移動する。この移動はシール側連結アーム93、94によってシール板32に伝えられ、この結果、シール板32がX軸テーブル3のX軸方向の移動に同期してX軸方向に移動する。
【0072】
シール板32のX軸方向の移動に伴い発生する摩擦力は、当然、X軸テーブル3のX軸送り系に作用するが、この摩擦力は、X軸ボールねじ5の軸線方向にしか作用せず、X軸テーブル3に曲げモーメントとして作用しない。これは、連接棒97、98が単なる接触状態でX軸テーブル3に当接し、X軸テーブル3にX軸方向の反力しか伝えないからであり、これをX軸テーブル3に剛固に固定すると、従来と同様に、X軸テーブル3に曲げモーメントが作用することになる。
【0073】
シール板32の摩擦抵抗が送り系に作用し、送り系の弾性変形によりロストモーションの発生があるが、Y軸位置により誤差が異なるヨーイングの発生がないため、ロストモーションはバックラッシュ補正などの手段で解決できる。
【0074】
さらに、負荷に見合ったサイズの送りねじを採用すれば、さらに改善できることは自明である。要するにX軸テーブル3に曲げモーメントを、どのように作用しないようにするかが重要で、摩擦抵抗の大小は大きな問題ではない。ガイドバー92は軽く動く必要があり、ブラケット91によるガイドバー92の支持には、ボールブッシュやメタルスリーブの採用などは当然のことである。
【0075】
実施の形態5.
図10は、この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態5を示している。なお、図10において、図8に対応する部分は、図8に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0076】
この実施の形態では、一方のX軸カイド2に2個のスライダ99、100がそれぞれX軸方向に移動可能に設けられ、このそれぞれにテーブル側連結アーム95、96と連接棒97、98の連結体が固定接続されている。スライダ99、100は連結棒101により相互接続され、連結棒101の両端がシール側連結アーム93、94によってシール板32の両端と固定連結されている。
【0077】
この実施の形態でも、連接棒97、98は単なる接触状態でX軸テーブル3に当接し、X軸テーブル3にX軸方向の反力しか伝えない構造であるから、実施の形態3における場合と同様に、シール板32のX軸方向の移動に伴い発生する摩擦力がX軸テーブル3に曲げモーメントとして作用することがなく、ヨーイングの発生がない。
【0078】
この実施の形態では、ガイドバーの構成をX軸カイド2の一部と供用することが可能であり、この構成にすれば、部品点数を大きく削減することができる。
【0086】
【発明の効果】
以上の説明から理解される如く、この発明によるワイヤ放電加工装置によれば、加工槽の側壁に、送り軸方向に長い下部アーム貫通孔が形成されたプレートが固定され、シール板が加工槽の内側に存在し前記プレートに面接触する内側シール板と加工槽の外側に存在し前記プレートに面接触する外側シール板により構成され、加工液の圧を利用してシール効果を得るから、構成簡単にして加工槽シール部に発生する抵抗を押さえて送り精度を改善でき、またシール部の加工粉の蓄積などによる経時的な抵抗増大変化を減少させることができる。また、加工液の水位の上昇に比例して作用する水圧を利用してシール効果を高めることができ、また従来のようにパッキンなどを使用することがないため摩損部品がなく、保守点検などの作業が大きく低減できる。また、スペーサにより隔置されている内側シール板と外側シール板との間の空間に加工液を供給するから、液圧により内側シール板と外側シール板をそれぞれ両側へ少し押し開くことになり、機械的な接触が減少し、シール部での抵抗が大きく減少する。この結果、加工槽の送り精度の向上が大きく期待できる。
【0087】
つぎの発明によるワイヤ放電加工装置によれば、外側シール板の外周縁部に斜め外側に折り曲げられた傾斜折曲片が設けられていることにより、傾斜折曲片が漏れ出る加工液の樋として作用するから、回収樋の小型化や飛散防止用の部材の削減などにより部品構成を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態1の要部を示す平断面図である。
【図2】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態1の要部を示す縦断面図である。
【図3】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態1の要部を示す拡大断面図である。
【図4】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態2の要部を示す平断面図である。
【図5】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態2の要部を示す縦断面図である。
【図6】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態2の要部を示す別の縦断面図である。
【図7】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態3の要部を示す平断面図である。
【図8】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態4の要部を示す平断面図である。
【図9】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態4の要部を示す縦断面図である。
【図10】この発明によるワイヤ放電加工装置の実施の形態5の要部を示す平断面図である。
【図11】加工槽移動型のワイヤ放電加工装置の全体を示す概略構成図である。
【図12】従来における加工槽移動型のワイヤ放電加工装置の加工槽シール部を示す構成図である。
【図13】加工槽固定型のワイヤ放電加工装置の全体を示す概略構成図である。
【図14】加工槽固定型のワイヤ放電加工装置を示す平面図である。
【図15】従来における加工槽固定型のワイヤ放電加工装置の加工槽シール部を示す構成図である。
【符号の説明】
1 ベッド,3 X軸テーブル,7 加工槽,10 可動コラム,15 下部アーム,32 シール板 32a 折曲片部,51 下部アーム貫通孔,53 チューブ,54 押さえ枠,55 スライドプレート,57 圧力源,58,59,60 圧力調整弁,61 数値制御装置,71 プレート,73 内側シール板,74 外側シール板,74a 傾斜折曲片,75 スペーサ,76 空間,80 加工液タンク,81 ポンプ,91 ブラケット,92 ガイドバー,93,94 シール側連結アーム,95,96 テーブル側連結アーム 97,98 連接棒,99,100 スライダ,101 連結棒。
Claims (2)
- 内部にワークテーブルを配置された加工槽とワイヤ電極の案内部を有する下部アームとが送り軸方向に相対変位し、前記加工槽の側面に送り軸方向に長い下部アーム貫通孔が形成され、前記下部アームが機体より前記下部アーム貫通孔を貫通して加工槽内に突入し、前記下部アーム側に前記下部アーム貫通孔のシールを行うシール板が設けられた加工槽シール構造を有するワイヤ放電加工装置において、
前記加工槽の側壁に、送り軸方向に長い下部アーム貫通孔が形成されたプレートが固定され、
前記シール板が加工槽の内側に存在し前記プレートに面接触する内側シール板と加工槽の外側に存在し前記プレートに面接触する外側シール板により構成されて前記内側シール板と前記外側シール板とがリング状のスペーサにより連結され、前記スペーサ内を前記下部アームが貫通し、
前記スペーサにより隔置されている前記内側シール板と前記外側シール板との間の空間に加工液を供給することを特徴とするワイヤ放電加工装置。 - 前記外側シール板の外周縁部に斜め外側に折り曲げられた傾斜折曲片が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
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