JP3572057B2 - 帯域分割a/d変換装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アナログ信号を複数の帯域に分割してデジタル信号に変換する帯域分割A/D変換装置に係り、特に各帯域のA/D変換器で発生する量子化ノイズを除去するためのデジタルフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的にA/D変換器は、変換精度と変換帯域との間にトレードオフが存在する。例えば、フラッシュ型A/D変換器は変換帯域は広いが、変換精度はあまり高くない。一方、ΔΣ型A/D変換器は、フラッシュ型A/D変換器とは逆の傾向を示す。近年のデジタル通信の進展に伴い、携帯通信機器などの無線通信システムにおいて、受信信号をデジタル信号に変換するような用途のA/D変換器には、高精度と広帯域の両方が要求されるようになってきている。
【0003】
A/D変換に対する高精度・広帯域の要求に応えるために、互い異なる帯域で変換を行う複数のA/D変換器を共通の入力端子に接続し、A/D変換器の出力側に各A/D変換器の変換帯域に相当する帯域を通過域とするデジタルフィルタを接続し、各デジタルフィルタの出力を合成して帯域合成を行うことにより、全帯域のデジタル信号を出力する帯域分割A/D変換装置が提案されている(例えば、特開平11−17549号公報)。特に、各A/D変換器にΔΣ変調器を用いれば(このようなA/D変換器をΔΣ型A/D変換器という)、量子化ノイズの少ない帯域のみ取り出して合成することができ、高精度化かつ広帯域のA/D変換装置を実現できる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような帯域分割A/D変換装置では、各A/D変換器の出力側に設けられるデジタルフィルタの特性についてはこれまで具体的に考察されていない。例えば、特開平11−17549号公報においては、帯域合成後の利得特性(利得−周波数特性)が略フラットであるようなデジタルフィルタを用いることが記載されているが、帯域合成後の利得特性をフラットにするような個々の具体的なフィルタの特性をいかに設定するかについての具体的な開示はない。
【0005】
また、特に無線システムに使用するA/D変換器では、信号帯域内のリップルや群遅延特性に対する要求が厳しく、利得特性が概略フラットになる特性のみでは満足しない。特開平11−17549号公報では、このような要求に関しても言及されていない。
【0006】
本発明の目的は、帯域合成後の利得特性をフラットに保つことができるようなデジタルフィルタを有する帯域分割A/D変換装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、帯域合成後の利得特性をフラットにし、さらに群遅延を一定にできる帯域分割A/D変換装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明に係る帯域分割A/D変換装置では、アナログ信号が入力される共通入力端子にそれぞれの入力端子が接続された複数のA/D変換器によりそれぞれ異なる変換帯域でA/D変換を行い、各A/D変換器の変換帯域に相当する帯域を通過域または遷移域とし、遷移域は利得が通過域の利得のほぼ半分となる周波数を中心に点対称の利得特性を有するように構成されたデジタルフィルタにA/D変換器の出力をそれぞれ入力し、デジタルフィルタの出力を合成して出力端子に全帯域のデジタル信号を出力する。
【0009】
また、A/D変換器として特にΔΣ型A/D変換器を用いる場合、ΔΣ型A/D変換器はそれぞれ異なる周波数で量子化ノイズが最小となる特性を有し、該周波数を中心周波数とするそれぞれ異なる変換帯域でA/D変換を行うように構成される。一方、デジタルフィルタは各々のA/D変換器の量子化ノイズが最小となる周波数を通過域または遷移域に含み、遷移域は利得が通過域の利得のほぼ半分となる周波数を中心に点対称な利得特性を有するように構成される。
【0010】
さらに、本発明においては、各デジタルフィルタは所望帯域内で群遅延が一定となるように、より具体的にはインパルスレスポンス値が隅対称となるように構成される。
このような構成により帯域分割A/D変換装置における帯域合成後の利得特性をフラットに保つことができ、さらには群遅延を一定にすることも可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1に、本発明の一実施形態に係る帯域分割A/D変換装置の構成を示す。本実施形態では、入力信号を3つの帯域に分割してA/D変換する場合について説明するが、本発明は帯域分割数が2または4以上の場合にも適用が可能である。
【0012】
図1において、共通入力端子10にはA/D変換すべきアナログ信号が入力される。この入力アナログ信号は、3つのA/D変換器11,12,13の入力端子に与えられる。A/D変換器11,12,13は、本実施形態ではΔΣ変調器を用いたA/D変換器、すなわちΔΣ型A/D変換器であり、A/D変換器11はローパス特性を有するΔΣ変調器、A/D変換器12,13はバンドパス特性を有するΔΣ変調器を用いて構成されている。A/D変換器11,12,13は、入力アナログ信号を所定のサンプリング周波数(fとする)でサンプリングした後、それぞれ異なる変換帯域(Lowpass, Bandpass_L, Bandpass_H とする)でA/D変換を行って、それぞれの出力端子へ変換出力を出力する。A/D変換器11,12,13は、ΔΣ型A/D変換器の場合、それぞれ異なる周波数で量子化ノイズが最小となる特性を有しており、量子化ノイズ最小の周波数を変換帯域Lowpass, Bandpass_L, Bandpass_H の中心周波数とするものとする。
【0013】
A/D変換器11,12,13からの変換出力は、それぞれデジタルフィルタ14,15,16に入力される。デジタルフィルタ14,15,16は、それぞれに接続されているA/D変換器11,12,13の変換帯域に相当する帯域を通過域または遷移域とし、遷移域は利得が通過域の半分となる周波数を中心に点対称の利得特性を有するように構成されるFIR(finite impulse response)フィルタである。デジタルフィルタの遷移域は、通過域と阻止域の間の領域であり、過渡領域とも呼ばれる。ここでは、量子化ノイズ最小の周波数がA/D変換器の変換帯域の中心であるとしているが、互いの中心がずれているためA/D変換器の変換帯域外にデジタルフィルタの遷移域がくることもある。
【0014】
A/D変換器11,12,13がΔΣ型A/D変換器の場合、デジタルフィルタ14,15,16は、A/D変換器11,12,13の量子化ノイズ最小の周波数を通過域または遷移域に含むように構成されることによって、A/D変換器11,12,13の変換帯域に相当する帯域が通過域または遷移域となる。デジタルフィルタ14,15,16は、さらに好ましくは通過域または遷移域の所望帯域内で群遅延が一定となるように構成される。デジタルフィルタ14,15,16の出力は加算器17により合成され、これによって帯域分割A/D変換装置の出力である全帯域のデジタル信号が出力端子18へ出力される。
【0015】
次に、デジタルフィルタ14,15,16について説明する。
図2は、デジタルフィルタ14,15,16として用いられるFIRフィルタの特性を示す図であり、横軸はサンプリング周波数fで正規化した周波数、縦軸は利得である。本実施形態では、コサインロールオフ特性を有するFIRフィルタを基準ローパスフィルタとして使用する。基準ローパスフィルタは、デジタルフィルタ14,15,16を構成する際の基準となるフィルタであって、この例では利得が0.5となる周波数が2/38Hzであり、この周波数を中心として遷移域の利得特性は点対称となっている。
【0016】
この基準ローパスフィルタの利得特性を周波数軸上で移動することにより、任意の特性のバンドパスフィルタを実現することができる。例えば、図2中のバンドパスフィルタBandpass1, Bandpass_L, Bandpass_H は、それぞれ基準ローパスフィルタの利得特性を4/38Hz,8/38Hz,12/38Hz移動した利得特性を有する。このようにバンドパスフィルタBandpass1, Bandpass_L, Bandpass_H の利得特性を基準ローパスフィルタの利得が0.5となる周波数2/38Hzの2倍ずつ順に周波数軸上で移動させた特性とすることによって、各バンドパスフィルタBandpass1, Bandpass_L, Bandpass_H の利得特性は、利得が0.5となる点で交差する。従って、バンドパスフィルタBandpass1, Bandpass_L, Bandpass_H の利得特性を合成した後の利得特性は、どの周波数でも利得が1、すなわちフラットな特性となる。
【0017】
本実施形態においては、ローパスΔΣ型A/D変換器11に接続されるデジタルフィルタ14には、基準ローパスフィルタとバンドパスフィルタBandpass1 の周波数特性の和の周波数特性を有するローパスフィルタLowpass が用いられ、また二つのバンドパスΔΣ型A/D変換器12,13に接続されるデジタルフィルタ15,16には、それぞれバンドパスフィルタBandpass_L,Bandpass_H が用いられる。この場合、デジタルフィルタ14であるローパスフィルタLowpass の帯域幅は6/38Hz、デジタルフィルタ15,16であるバンドパスフィルタBandpass_L,Bandpass_H の帯域幅は共に4/38Hzとなり、特定のΔΣ型A/D変換器(この例では、ローパスΔΣ型A/D変換器11)の出力に対してだけ広い帯域幅でフィルタリングすることも可能となる。
【0018】
ここで、デジタルフィルタ14として用いられるローパスフィルタLowpassのような、複数のデジタルフィルタ(この例では、基準ローパスフィルタとバンドパスフィルタBondpass1 )の周波数特性の和の周波数特性のフィルタを作るためには、単にそれぞれのフィルタのインパルスレスポンスの和のインパルスレスポンスを有するフィルタ、すなわち該インパルスレスポンスの和をタップ係数として持つフィルタを作れば良い。また、ローパスフィルタLowpassを新たに基準ローパスフィルタとし、ローパスフィルタLowpass の利得特性を周波数軸上で移動させてバンドパスフィルタBandpass_L,Bandpass_H を作ることもできる。
【0019】
次に、デジタルフィルタ14,15,16のタップ数(インパルスレスポンスの数)Nと、デジタルフィルタ14,15,16に用いられるバンドパスフィルタの中心周波数の関係について述べる。基準ローパスフィルタのインパルスレスポンス値をh(n)(n=0,…,N−1)とすると、基準ローパスフィルタを角周波数ωだけ周波数軸上で移動して得られるバンドパスフィルタ(例えば、Bandpass_L,Bandpass_H )のインパルスレスポンス値h(n)は、次式により求められる。
(n)=2h(n)cos(nω) (1)
(n=0,1,…,N−1)
式(1)に示すように、cos(nω)(n=0,1,…,N−1)を変換係数とする変換を行うことによって、基準ローパスフィルタの利得特性を基準ローパスフィルタの特性と同じ形のバンドパスフィルタBandpass_L,Bandpass_H
の利得特性に変換することができる。
【0020】
一方、デジタルフィルタの位相特性に関しては、インパルスレスポンス値が隅対称の場合に直線位相、すなわち群遅延一定となることが知られている。インパルスレスポンス値が隅対称の基準ローパスフィルタは、例えばParks−McClellan アルゴリズム(T. W. Parks, J. H. McClellan: “Chebyshev Approximation for Nonrecursive Digital Filters with Linear Phase”, IEEE Trans. Circuit Theory, CT−19, No.2, pp. 189−194, 1972) に記載された手法を用いて設計することができる。
【0021】
帯域分割A/D変換装置全体の群遅延、すなわち加算器17の出力で見た全帯域のデジタル信号の群遅延を一定にするためには、基準ローパスフィルタのみならず、基準ローパスフィルタから変換された後のバンドパスフィルタのインパルスレスポンス値も隅対称でなければならない。このためには、図3に示すように変換係数cos(nω)(n=0,1,…,N−1)の値も隅対称である必要がある。変換係数cos(nω)(n=0,1,…,N−1)の値を隅対称にするには、次式に示すように(N−1)ωの間にコサイン波形がM周期分(Mは整数)含まれるようにすればよい。
(N−1)ω=2πM (2)
このとき、A/D変換器11,12,13のサンプリング周波数をfsとすれば、バンドパスフィルタの中心周波数f=ω/2πは、
=Mf/(N−1) (3)
となる。例えば、本実施形態ではN=39としているので、バンドパスフィルタの中心周波数は、サンプリング周波数fの1/(N−1)=1/38の倍数に選ばれる。このようにバンドパスフィルタの中心周波数fを設定することにより、基準ローパスフィルタの群遅延が一定ならば、変換後のバンドパスフィルタの群遅延も一定となり、これによって帯域分割A/D変換装置全体の群遅延を一定にすることができる。なお、本実施形態の場合、合成後の利得特性をフラットにするために、基準ローパスフィルタの帯域幅は1/38の倍数にしなければならない。
【0022】
上記実施形態において、周波数の最も高いバンドパスフィルタBandpass_H については、ハイパスフィルタに置き換えることもできる。これは帯域分割数が2または4以上の場合においても、同様である。すなわち、各A/D変換器に接続されるデジタルフィルタは、(a)基準ローパスフィルタ、(b)基準ローパスフィルタの利得特性を周波数変換したバンドパスフィルタ及びハイパスフィルタの少なくとも一方を含めばよい。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、各変換帯域のA/D変換器の出力側に設けられるデジタルフィルタを本発明に従い構成することによって、合成後の利得特性がフラットな帯域分割A/D変換装置を実現することができ、また群遅延を一定にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る帯域分割A/D変換装置の構成を示すブロック図
【図2】同実施形態におけるデジタルフィルタの利得特性について説明する図
【図3】同実施形態におけるバンドパスフィルタを実現するための変換係数について説明する図
【符号の説明】
10…共通入力端子
11,12,13…A/D変換器
14,15,16…デジタルフィルタ
17…加算器(合成器)
18…出力端子

Claims (7)

  1. 入力されるアナログ信号を複数の帯域に分割してデジタル信号に変換する帯域分割A/D変換装置において、
    前記アナログ信号が入力される共通入力端子と、
    前記共通入力端子にそれぞれの入力端子が接続され、それぞれ異なる変換帯域でA/D変換を行ってそれぞれの出力端子へ変換出力を出力する複数のA/D変換器と、
    前記複数のA/D変換器の出力端子にそれぞれ接続され、各々のA/D変換器の変換帯域に相当する帯域を通過域または遷移域とし、遷移域は利得が通過域の利得のほぼ半分となる周波数を中心に点対称の利得特性を有し、さらに所望帯域内で群遅延が一定となるように構成された複数のデジタルフィルタと、
    前記デジタルフィルタの出力を合成して前記デジタル信号を出力する合成器とを具備する帯域分割A/D変換装置。
  2. 入力されるアナログ信号を複数の帯域に分割してデジタル信号に変換する帯域分割A/D変換装置において、
    前記アナログ信号が入力される共通入力端子と、
    前記共通入力端子にそれぞれの入力端子が接続され、それぞれ異なる周波数で量子化ノイズが最小となる特性を有し、該周波数を中心周波数とするそれぞれ異なる変換帯域でA/D変換を行ってそれぞれの出力端子へ変換出力を出力する複数のΔΣ型A/D変換器と、
    前記複数のΔΣA/D変換器の出力端子にそれぞれ接続され、各々のA/D変換器の前記量子化ノイズが最小となる周波数を通過域または遷移域に含み、遷移域は利得が通過域の利得のほぼ半分となる周波数を中心に点対称な利得特性を有し、さらに所望帯域内で群遅延が一定となるように構成された複数のデジタルフィルタと、
    前記デジタルフィルタの出力を合成して前記デジタル信号を出力する合成器とを具備する帯域分割A/D変換装置。
  3. 前記複数のデジタルフィルタの各々は、インパルスレスポンス値が隅対称となるように構成される請求項1または2のいずれか1項記載の帯域変換A/D変換装置。
  4. 前記デジタルフィルタの少なくとも一つは、遷移域での利得特性がコサインロールオフ特性を有するFIRフィルタである請求項1〜のいずれか1項記載の帯域分割A/D変換装置。
  5. 前記複数のデジタルフィルタは、遷移域での利得特性がコサインロールオフ特性を有する基準ローパスフィルタと、該基準ローパスフィルタの利得特性を周波数変換したバンドパスフィルタ及びハイパスフィルタの少なくとも一方とを含む請求項1〜のいずれか1項記載の帯域分割A/D変換装置。
  6. 前記デジタルフィルタの少なくとも一つは、基準ローパスフィルタのインパルスレスポンスと、該基準ローパスフィルタの利得特性を周波数変換したバンドパスフィルタのインパルスレスポンスとの和のインパルスレスポンスを有する請求項1〜のいずれか1項記載の帯域分割A/D変換装置。
  7. 記デジタルフィルタの少なくとも一つは、中心周波数がMfs/(N−1)(但し、fsはサンプリング周波数、Mは任意の整数、Nはタップ数)のバンドパスフィルタである請求項1〜のいずれか1項記載の帯域分割A/D変換装置。
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