JP3570046B2 - 低温型燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は,メタノール等の燃料を改質して得た水素ガスと空気等酸素を含有するガスとを供給することにより電気を発生させる,低温型燃料電池に関する。
【0002】
【従来技術】
従来,メタノールを改質して得た水素ガスを利用して電気を発生させる燃料電池が提案されている。この中で,常温に近い温度で作動可能な低温型燃料電池は,車載動力源として注目されつつある。
低温型燃料電池に供給される水素ガスは,図6に示すごとく,メタノールと水とを,改質器90に導いて,ここで水素を発生させることにより得られる。この改質器90は,改質部91と,シフト反応部92と,CO酸化部93とよりなる(特開平3−203165号公報)。
【0003】
改質部91では,180〜300℃,Cu−Zn系触媒の存在下で,図7(a)に示すごとく,メタノールと水とを反応させて,電池燃料としての水素を得る。この反応は平衡反応である。また,このとき副生成物として,発電作用の障害となるCOが生成する。
【0004】
COは,燃料電池の負極触媒層に用いるPtを被毒して,不活性化させる。また,CO濃度が10ppm程度の場合には,発電電圧は通常の使用電流範囲で数%低下する。そして,CO濃度が更に高い100ppmの場合には,発電電圧は通常の使用電流範囲で半分以下にまで低下してしまう。従って,上記のごとき電池作用障害を低減するためには,可能な限りCO濃度の低い水素ガスを,燃料極に供給する必要がある。
【0005】
そこで,このCOを低減させるため,更に,以下のシフト反応及びCO酸化反応を行う。即ち,シフト反応部92において,150〜200℃,Cu−Zn系触媒の存在下で,図7(b)に示すごとく,改質部91で未反応の水蒸気又は更に付加した水蒸気を利用して,上記のCOを,平衡反応により水素とCOとに変換する。これにより,CO濃度を0.1〜0.3%まで低減させることができる。
【0006】
次に,上記シフト反応の後に,CO酸化部93において,Pt系又はAu系の触媒の存在下で少量の空気の導入により,図7(c)に示すごとく,残存するCOをCOに酸化する。Pt系触媒を用いる場合には,120〜180℃において,PtにCOを選択的に吸着させて,非平衡反応によりCOに変換する。Au系触媒を用いる場合には,50〜100℃において,Pt系触媒と同様に非平衡反応によりCOをCOに変換する。
【0007】
以上のように精製した水素ガスは,CO含量が極く少ない燃料ガスとして,図6,図8に示すごとく,低温型燃料電池に供給される(特開平7−135015号公報)。
上記低温型燃料電池7は,図6,図8に示すごとく,固体高分子よりなる電解質膜5を挟んでその両側に燃料極1と酸素極2とを有している。燃料極1及び酸素極2の片面側には,負極集電体3および正極集電体4が対面,配置されている。負極集電体3は,水素ガスを燃料極1に供給する燃料ガス供給路31を有している。また,正極集電体4は,酸素ガスを酸素極2に供給する酸素ガス供給路41を有している。
【0008】
燃料極1は,燃料ガス供給路31より導入された水素ガスを拡散させるための,通気性の燃料ガス拡散層11と,水素ガスをプロトン及び電子に変換させる負極触媒層12とからなる。
酸素極2は,酸素ガス供給路41より導入された酸素ガスを拡散させるための,通気性の酸素ガス拡散層21と,酸素ガス及びプロトンから水を生成させる正極触媒層22とからなる。
【0009】
負極触媒層12と正極触媒層22とは,電解質膜5の両側に対面,配置されて,一組の電気セル70を構成している。そして,一方の電池セルの負極集電体3と他方の電池セルの正極集電体4との間には,電気絶縁性のセパレータ6を設けて,上記の各電池セル70を電気的に区画している。
【0010】
各電池セルにおいては,図8,図7(d)に示すごとく,水素ガスは,燃料極(負極)1で酸化され,プロトンと電子とを生成する。これらは,酸素極(正極)2に供給されて酸素を還元して,水を生成する。このとき,プロトンは電解質膜5を,電子は外部回路8を通って,酸素極2に移動する。このようにして,電気エネルギーが外部に取り出される。
尚,低温型燃料電池で使用されなかった水素ガスは,戻しパイプ79により再度改質器90へ戻される。
【0011】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記従来の低温型燃料電池においては,上述のようにCO濃度を低減させるために,改質部91,シフト反応部92及びCO酸化部93からなる各種の触媒反応部を設けている。そのため,改質器9が大型となる。また,図7に示すごとく,各種の反応を連携して行っているため,各々の反応の制御が複雑となり,燃料電池のコスト高をもたらす。
【0012】
また,COにより被毒した負極触媒層(Pt)12は,酸素を作用させると活性が戻る。そこで,CO濃度100ppm(乾きガス基準)の場合には水素ガスの中に約2%のクリーニング用空気を導入することが考えられる。また,クリーニング用の純水素を通じることによっても,負極触媒層を活性化させることができる。
しかし,この場合には,負極触媒層12に対して,上記クリーニング用空気を導入するため,クリーニング制御系が必要となる。
【0013】
また,CO酸化部93においては,COの酸化と同時に一部の水素も酸化されてしまい,燃料電池での水素利用率が低下する。また,この酸化反応の際に生ずる発熱によって,CO酸化部93の温度が高くなると,水素の消費量も高くなる。そのため,COを酸化するための空気を大量に導入する必要を生じてしまう。
【0014】
また,CO平衡濃度は100℃でも100ppm以上(乾きガス基準;水蒸気/メタノール(モル比)=1.1〜3)である。そのため,CO酸化部93を冷却して,CO酸化反応の平衡をCO生成側に移動させる必要がある。
従って,空気量制御システム及び温度制御システム(空冷,水冷又は油冷等)が必要となる。更に,均一に反応させるため,少量の空気を均一に分散させなければならない。
【0015】
また,CO酸化部93においてAu系触媒を用いる場合には,酸化反応が不均一となり,一部に水が発生する。そのため,水漏れが発生するおそれがある。水がAu系触媒を覆うと,反応すべきガスがAu系触媒に到達しないか,または,非常に到達しにくくなる。また,Au系触媒の一部に水漏れが生ずると,その周囲の水蒸気圧が高くなりやすく,また,毛細管現象のごとく除々に水漏れ領域が拡大することが多い。このため,Au系触媒の活性領域の減少又は消滅をもたらす。さらには,空間速度が小さくなり,多量のAuを使用する必要があり,コスト高となる。
【0016】
本発明はかかる従来の問題点に鑑み,水素ガス中のCO濃度を極少とし,かつコンパクト化及び低コスト化を図ることができる低温型燃料電池を提供しようとするものである。
【0017】
【課題の解決手段】
請求項1に記載の発明は,固体高分子よりなる電解質膜と,該電解質膜を挟むように配置した燃料極及び酸素極と,上記燃料極に対面して設けた燃料ガス供給路を有する負極集電体と,上記酸素極に対面して設けた酸素ガス供給路を有する正極集電体とを有する低温型燃料電池において,
上記燃料極は,上記電解質膜に対面して設けた負極触媒層と,該負極触媒層と上記燃料ガス供給路との間に設けた燃料ガス拡散層とを有し,
かつ該燃料ガス拡散層には,COを選択的に酸化するCO選択酸化触媒が含有されており,
また,上記燃料ガス拡散層へ供給する水素ガスを含む改質ガスは0.1〜2%のCOを含有しており,更に上記改質ガスにはCO選択酸化用空気を乾き状態で5〜20%混入することを特徴とする低温型燃料電池である。
【0018】
本発明において最も注目すべきことは,負極触媒層と上記燃料ガス供給路との間に,CO選択酸化触媒を含有した燃料ガス拡散層を設け,該燃料ガス拡散層へ供給する改質ガスは0.1〜2%のCOを含有しており,また改質ガスには5〜20%のCO選択酸化用空気を混入することである。
【0019】
次に,本発明の作用効果について説明する。
本発明において,上記燃料ガス拡散層に設けたCO選択酸化触媒は,改質器で副生成物として生成したCOをCOに変換することによって,水素ガス中のCO濃度を,乾きガス中で10ppm以下まで低減させることができる。
そのため,従来の改質器に装備していたシフト反応及びCO酸化部が不要となり,改質器のコンパクト化を図ることができる(図2と図6とを比較)。
【0020】
また,従来においては,改質器にはCO酸化用空気を,また負極触媒層にはクリーニング用空気をそれぞれ別個に導入していたが,本発明においては,クリーニング用空気が不要となり,燃料ガス拡散層に対してCO選択酸化用空気を導入するだけでよい。従って,空気導入システムを簡素化して低温型燃料電池のコストの低減化を図ることができる。
【0021】
また,低温型燃料電池は,低温作動のため,水冷または空冷の温度制御が行われている。そのため,CO選択酸化触媒も冷却されて,COの酸化反応により発生する熱も効率的に除去され,COの酸化が一層促進される。そのため,負極触媒層へ導入する水素ガス中のCO濃度を極少化することができる。
また,CO選択酸化触媒の冷却のためだけの特別な温度制御が不要となり,燃料電池のコンパクト化を図ることができる。
【0022】
また,上記燃料ガス拡散層は,燃料ガスである水素ガスを負極触媒層に均一に拡散させる性質を有する。そのため,均一に発電反応が起こり,一定の電圧を安定して供給することができる。
また,改質部において改質ガスの流量変化又は温度変化が生じてCO濃度が変化しても,CO酸化のために導入する空気量は改質ガス量の約5〜20%の定率で良い。また,CO及び水素の酸化に伴う発熱量の変化も燃料電池の温度制御システムで吸収できる。そのため,発電システムの負荷追従性を向上させることができる。
【0023】
また,本発明の中のCO選択酸化触媒は室温〜90℃と比較的低温で作動する。また,スタートアップの際に,改質ガスを本発明のガス拡散層に導入すると,主にCOの酸化反応熱で,燃料電池本体の最適温度までの昇温を早めることができる。そのため,スタートアップ時の燃料ガス拡散層の余熱が不要である。
【0024】
そして,上記CO選択酸化触媒は,例えば,請求項2に記載のように,触媒成分と,該触媒成分を担持する担体とよりなる。上記触媒成分としては,例えば,請求項3に記載のように,金超微粒子,金とVIII属貴金属との合金,金とVIII属貴金属との混合物,金と銀との合金,金と銀との混合物,金と卑金属との合金,又は金と卑金属との混合物の少なくともいずれかを用いることが好ましい。これらは,金(Au)を含有しているため,優れたCO選択酸化性能を発揮することができる。
上記VIII属貴金属としては,例えば,Pt,Pd,Ru,Rh,Irを用いることができる。上記卑金属としては,Fe,Mn,CO,Ni,Ti,Zr等のCO選択酸化能を有する金属を用いることができる。
【0025】
また,上記触媒成分としては,請求項4に記載のように,AuとFeとの混合物を用いることができる。更に,上記触媒成分としては,請求項5に記載のように,Pt,Pd,Ru,Rh等のVIII属貴金属と,Fe,Mn,Co等の遷移金属酸化物とからなる合金又は混合物を用いることもできる。
また,担体としては,例えば,請求項6に記載のように,Fe,CoO,NiO,Al,TiO,ZrO及びSiOのグループから選ばれる1種又は2種以上を用いる。
【0026】
更に,請求項7に記載のように,上記CO選択酸化触媒において,触媒成分としてはAuを,担体としてはFeを用いることが好ましい。これにより,CO選択酸化触媒の上記CO選択酸化性能を最大限に発揮させることができる。
【0027】
更に,請求項8に記載のように,CO選択酸化触媒が金を含有しており,かつ,CO選択酸化触媒中における金の含有率は0.1〜50重量%であることが好ましい。0.1重量%未満の場合には,CO選択酸化作用が低下するおそれがある。一方,50重量%を越える場合には,触媒の分散性が悪化し,活性低下のおそれがあるとともに,全体として,非常に高価になるおそれがある。
【0028】
更に,CO選択酸化触媒における金の含有率は,1〜10重量%であることがより一層好ましい。1重量%未満の場合には,燃料ガス拡散層の出口ガスにおけるCO濃度が10ppmを越えるおそれがある。一方,10重量%を越える場合には,触媒の高分散性が損なわれ,十分な触媒活性が得られないおそれがある。また,水素の酸化が進行しやすくなるおそれがある。
【0029】
また,請求項9に記載のように,上記燃料ガス拡散層は,例えば,上記CO選択酸化触媒に加えて,更に導電物質と撥水性物質とを混合してなる成形体であることが好ましい。これにより,燃料極における水濡れを防止することができ,常に高い発電活性を維持することができる。
【0030】
上記導電物質としては,例えば,カーボンブラック,黒鉛粉,カーボンペーパー,カーボンクロス,カーボンフェルト等の炭素系物質,及び導電性を有する金属粉末のグループから選ばれる1種又は2種以上のを用いることができる。
上記撥水性物質としては,例えば,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ化炭素系ポリマー,フッ素系界面活性剤,ポリエチレン及びポリプロピレンのグループから選ばれる1種又は2種以上のを用いることができる。
【0031】
これら3者からなる燃料ガス拡散層は,例えば,以下の配合比により混合されている。「CO選択酸化触媒」と「導電物質及び撥水性物質の混合物」との配合割合は,重量比で,10:1〜1:10の範囲にあることが好ましい。
CO選択酸化触媒の重量比が上記の下限よりも少ない場合には,燃料ガス拡散層のCO選択酸化性能が低下するおそれがある。一方,CO選択酸化触媒の重量比が上記の上限よりも多くなる場合には,ガスの拡散を損なうとともに電気抵抗増大による発熱,撥水性低下による水漏れが発生するおそれがある。
【0032】
更に,CO選択酸化触媒と上記混合物との配合割合は重量比で,1:3〜5:1であることがより一層好ましい。CO選択酸化触媒の重量比が上記の下限よりも少ない場合には,燃料ガス拡散層の出口ガスにおけるCO濃度が10ppmを越えるおそれがある。一方,CO選択酸化触媒の重量比が上記の上限よりも多くなる場合には,電気抵抗増大による発熱,撥水性低下による水漏れが発生するおそれがある。また,ガスの拡散がやや損なわれ均一な発電反応が妨げられる。
【0033】
また,導電物質と撥水性物質との配合割合は重量比で20:1〜1:4であることが好ましい。導電物質が上記の下限よりも少ない場合には,燃料電池の内部抵抗が増大して,電池電圧が低下するおそれがある。一方,導電物質が上記の上限よりも多い場合には,撥水性物質の量が少なくなり,反応ガスの通路が水により塞がるおそれがある。塞がった場合には,COの酸化反応のみならず,水素のイオン化反応も停止し,電池電圧が急激に低下してしまう。更に,導電物質と撥水性物質との配合割合は重量比で10:1〜1:1であることが好ましい。これにより,電池電圧が高く,反応ガス通過のための十分な通路空間を確保することができる。
【0034】
また,請求項10に記載のように,上記燃料ガス拡散層の厚みは,0.1〜1mmであることが好ましい。0.1mm未満の場合には,燃料ガスである水素ガスが電極表面全体に拡散しにくく,COの吹き抜けにより,電池電圧が低下してしまうおそれがある。一方,1mmを越える場合には,燃料電池全体が大きくなる場合があり,燃料電池の内部抵抗も増加するおそれがある。
【0035】
更に,上記燃料ガス拡散層の厚みは,0.2〜0.6mmであることがより一層好ましい。これにより,水素ガスが電極表面全体に均一に拡散し,また,COの殆どが酸化されて高い電池電圧が得られる。また,燃料電池のコンパクト化,内部抵抗の抑制を図ることができる。
【0036】
また,請求項11に記載のように,上記燃料ガス拡散層と負極触媒層との間には,燃料ガスを負極触媒層の表面全体に拡散させるための第2拡散層を設けることが好ましい。
第2拡散層は,水素ガスを負極触媒層表面に均一に拡散させることができるものであり,例えば,上記燃料ガス拡散層の構成要素である導電物質又は撥水性物質の少なくともいずれかにより形成される。上記第2拡散層を設けることにより,水素ガスの拡散性を更に向上させることができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかる低温型燃料電池について,図1〜図3を用いて説明する。
本例の低温型燃料電池7の基本構成は,従来例と同様である(図8参照)。
【0038】
本例においては,図1に示すごとく,負極触媒層12と燃料ガス供給路31との間に設けた燃料ガス拡散層11に,COを選択的に酸化するCO選択酸化触媒を含有させた点で,従来例と異なる。CO選択酸化触媒は,触媒成分であるAuを,Feからなる担体に担持したAu/Fe触媒である。CO選択酸化触媒におけるAuの含有率は,0.1〜50重量%である。
【0039】
燃料ガス拡散層11は,上記CO選択酸化触媒に加えて,導電物質と撥水性物質とを混合してなる成形体である。導電物質としてはカーボンブラックを,撥水性物質としてはPTFEを用いる。
「CO選択酸化触媒」と「導電物質及び撥水性物質の混合物」との配合割合は,重量比で,10:1〜1:10である。導電物質と撥水性物質との配合割合は重量比で20:1〜1:4である。
燃料ガス拡散層の厚みは,0.1〜1mmである。
負極集電体3としては,カーボンブラックを用いる。負極触媒層12としては,Ptを多孔質体に担持し成形したものを用いる。
【0040】
また,本例においては,従来例で説明した正極集電体4として,カーボンブラックを用いる(図8参照)。酸素ガス拡散層21の厚みは,0.2〜0.5mmである。正極触媒層22としては,Ptを多孔質体に担持し成形したものを用いる。電解質膜5としては,固体高分子であるパーフルオロスルフォン酸ポリマーを用いる。
【0041】
また,本例の低温型燃料電池7は水冷温度制御が行われている。水冷温度制御の具体的構成は,循環水ポンプ,ラジエーター,燃料電池入口出口における温度検出器,コントローラから成る。入口出口の水温データに基づいて循環水流量を制御し,ラジエーターでの放熱量を最適に保つことにより,燃料電池の温度制御を行う。通常は,60〜80℃に制御する。
【0042】
次に,上記低温型燃料電池7の燃料極1に,水素ガスを含む改質ガスを供給した。
改質ガスは,図2に示すごとく,メタノールと水蒸気とからなる原料ガス(水蒸気/メタノール(モル比)=1.5)を改質器9に導入して,改質温度300℃の改質反応(図7(a)参照)により生成したガスである。
【0043】
上記原料の内,約96%(重量%を意味する。以下,同様。)が改質された。この改質ガスの組成は,H:66%,CO:22%,HO:10%,CO:1.5%,CHOH:1%である。
【0044】
上記改質ガスは,上記原料ガスを余熱冷却するための熱交換器を経て,60℃まで冷却する。冷却した改質ガスには,図2に示すように,CO選択酸化用空気導入する。CO選択酸化用空気の導入量は,乾き状態の上記改質ガス(HOを除く。)に対して,5〜20%とする。そして,このCO選択酸化用空気を混入した燃料ガスを,低温型燃料電池の燃料極1の燃料ガス供給路31に供給する(図2)。
【0045】
上記燃料ガスは,図1,図2に示すごとく,燃料極1における燃料ガス拡散層11に到達し,ここで,CO選択酸化触媒によって上記の混入した空気とCOとが反応する。これにより,COは酸化されてCOとなる。燃料ガス拡散層11を通過した出口ガスの組成は,CO選択酸化空気が乾き状態の改質ガスに対して10%であるとき,おおよそH:60%,CO:20%,HO:11%,CO:<10ppm,CHOH<0.1%,O<0.2%,N:8%である。
【0046】
そのため,CO濃度は十分に小さく,O濃度もHのイオン化を阻害するほど大きくはない。また,微量のOは負極触媒層12のクリーニング作用に有効である。このように,上記CO選択酸化触媒を有する燃料ガス拡散層11を設けることにより,CO濃度を10ppm以下にすることができ,良好な発電反応を継続して行うことができる。
【0047】
次に,本例の低温型燃料電池について,CO選択酸化触媒(Au/Fe触媒)の触媒活性を測定した。
燃料極に供給する燃料ガスは,改質ガスに空気を10%混入し,負極触媒層の温度よりも10℃低いバブリング層,つまり加湿器に通すことにより,加湿して得た。
【0048】
改質ガスとしては,図3に示すごとく,組成がH:75%,CO:24.9%,CO:0.1%のガスと,組成がH:75%,CO:24%,CO:1%のガスとの2種類を用いる。加湿した上記燃料ガスは,空気を混入したメタノール水蒸気改質ガスを模したものである。
【0049】
燃料ガスにおけるCO濃度は,10ccのペレット触媒(東洋CCI社製の商品名AUS,直径約3mm)を,直径10mmのステンレス管に充填し,大気圧下で測定した。ペレット触媒のAuとFeとの原子比は,5:95である。
その結果を図3に示した。
【0050】
図3の横軸は空間速度,縦軸は負極触媒層の温度を示し,図中の右下がり斜線領域は,CO濃度が1.0%の燃料ガスを供給した場合に,CO濃度を10ppm以下にすることができる範囲である。
一方,左下がり斜線領域は,CO濃度が0.1%の燃料ガスを供給した場合に,CO濃度を10ppm以下にすることができる範囲である。
【0051】
図3より知られるように,改質ガスのCO濃度が1.0%,0.1%のいずれの場合にも,負極触媒層の温度が35〜85℃と低温で,素早くCOを酸化した。
CO濃度が0.1%と薄い場合には,CO濃度が1.0%の場合に比べて,更に素早くCOを酸化した。この2〜3×10−1という空間速度(乾きガス基準)は,低温型燃料電池の通常の使用状態での燃料ガス拡散層を通過する燃料ガスの通過速度と同程度,または,やや遅い。
【0052】
本発明のガス拡散層を通過するガスは,改質ガス全体の水素利用率分,すなわち,通常の燃料電池で80%以下でよい。また,COは発電反応にもCO選択酸化にも寄与しない。そのため,COのように分子量の大きなガス成分はガス通過路を流れればよく,ガス拡散層を通過させる必要はない。このため,COガス組成分にあたる全改質ガスの約25%,空間速度算出時には除いてもよいと考える。すると,空間速度は全改質ガスを処理する場合に比べて,(1/0.8)×(1/0.75)=1.67倍と考えてよいことになる。ただし,COガス組成分すべてがガス通過路のみを流れることはありえないので,この1.67倍という値は,理想的な最大値である。よって,実際には,(1/0.8)=1.25倍から1.67倍の間の値となるものと推察される。
【0053】
さらに,本発明では,ガス拡散層,すなわち,みかけ上,多孔質の膜の形態で,CO選択酸化触媒を用いていることになる。このため,この膜を通過したガスのみが発電反応にかかわる。この直径3mmのペレット形状では触媒はペレットの比較的表層近傍部分でしか反応に寄与しないのに比べて,膜を通過させる形態では,実質的に反応にかかわる比表面積は大きくなる。このため,反応ガスが未反応のままで通過してしまう吹き抜け現象は非常に起こりにくい。
【0054】
そのため,本例の低温型燃料電池は,燃料ガスに含まれるCOを実使用状態で10ppm以下に低減させることができるものである。そのため,高い発電効率を長期間維持することができる。
【0055】
また,燃料ガス拡散層に設けたCO選択酸化触媒は,燃料ガス中のCO濃度を10ppm以下まで低減させることができる。そのため,本発明を示す図2と従来例を示す図6との比較より知られるように,本発明の低温型燃料電池においては,従来改質器に装備していたシフト反応及びCO酸化部が不要となり,装置のコンパクト化を図ることができる。
【0056】
また,従来においてはCO酸化用空気導入部とクリーニング用空気導入部とを別個に設けていたが,本発明によれば燃料ガス拡散層に対してCO選択酸化用空気を一ヶ所の導入部より導入すればよい。そのため,空気導入システムの簡素化,更には低温型燃料電池の低コスト化を図ることができる。
【0057】
また,低温型燃料電池は低温作動のため,水冷又は空冷の温度制御が行われているため,CO選択酸化触媒も冷却される。そのため,COの酸化が一層促進される。従って,CO選択酸化触媒の冷却のためだけの特別な温度制御が不要となり,燃料電池のコンパクト化を図ることができる。
また,上記燃料ガス拡散層は,燃料ガスである水素ガスを負極触媒層に均一に拡散させる性質を有する。そのため,均一に発電反応が起こり,一定の電圧を得ることができる。
【0058】
実施形態例2
本例の低温型燃料電池においては,図4に示すごとく,燃料ガス拡散層11の一部を,燃料ガス供給路31の中に0.05〜0.6mm突出させている。負極集電体3と負極触媒層12との間における燃料ガス拡散層11の厚みは,0.1〜0.6mmである。
その他は,実施形態例1と同様である。
【0059】
本例においては,燃料ガス拡散層11の一部を燃料ガス供給路31内に突出させているため,反応ガスのCO選択酸化層の通過時間が長くなり,電極触媒部に到達するCO濃度を減少させ易い。また,反応に寄与しないガスは速やかにガス供給路を通過し,拡散層表面の余分な水分を早急に運び去るという効果を発揮することができる。
その他は,本例においても実施形態例1と同様の効果を得ることができる。
【0060】
実施形態例3
本例の低温型燃料電池においては,図5に示すごとく,燃料ガス拡散層11と負極触媒層12との間に,第2拡散層13を設けている。第2拡散層13は,水素ガスを負極触媒層表面に均一に拡散させるためのものである。第2拡散層13は,導電物質及び撥水性物質からなる成形体であり,これらは実施形態例1において燃料ガス拡散層に用いたものと同様である。但し,CO選択酸化触媒は含有していない。
第2拡散層13の厚みは,0.1〜0.6mmである。その他は,実施形態例2と同様である。
【0061】
本例においては,燃料ガス拡散層11と負極触媒層12との間に,ガス拡散用の第2拡散層13を設けているため,水素ガスの拡散性を更に向上させることができる。その他は,本例においても実施形態例2と同様の効果を得ることができる。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば,水素ガス中のCO濃度を極少とし,かつコンパクト化及び低コスト化を図ることができる低温型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における低温型燃料電池の説明図。
【図2】実施形態例1における,改質器及び低温型燃料電池の関連説明図。
【図3】実施形態例1における,燃料ガス拡散層通過によってCO濃度10ppm以下まで低減することができる空間速度を示す特性図。
【図4】実施形態例2における低温型燃料電池の説明図。
【図5】実施形態例3における低温型燃料電池の説明図。
【図6】従来例における,改質器及び低温型燃料電池の関連説明図。
【図7】従来例における,改質器及び低温型燃料電池において行なわれる反応を示す説明図。
【図8】従来例における,低温型燃料電池の説明図。
【符号の説明】
1...燃料極,
11...燃料ガス拡散層,
12...負極触媒層,
13...第2拡散層,
2...酸素極,
21...酸素ガス拡散層,
22...正極触媒層,
3...負極集電体,
31...燃料ガス供給路,
4...正極集電体,
41...酸素ガス供給路,
5...電解質膜,
6...セパレータ,
7...低温型燃料電池,
9...改質器,

Claims (11)

  1. 固体高分子よりなる電解質膜と,該電解質膜を挟むように配置した燃料極及び酸素極と,上記燃料極に対面して設けた燃料ガス供給路を有する負極集電体と,上記酸素極に対面して設けた酸素ガス供給路を有する正極集電体とを有する低温型燃料電池において,
    上記燃料極は,上記電解質膜に対面して設けた負極触媒層と,該負極触媒層と上記燃料ガス供給路との間に設けた燃料ガス拡散層とを有し,
    かつ該燃料ガス拡散層には,COを選択的に酸化するCO選択酸化触媒が含有されており,
    また,上記燃料ガス拡散層へ供給する水素ガスを含む改質ガスは0.1〜2%のCOを含有しており,更に上記改質ガスにはCO選択酸化用空気を乾き状態で5〜20%混入することを特徴とする低温型燃料電池。
  2. 請求項1において,上記CO選択酸化触媒は,触媒成分と,該触媒成分を担持する担体とよりなることを特徴とする低温型燃料電池。
  3. 請求項1又は2において,上記触媒成分としては,金超微粒子,金とVIII属貴金属との合金,金とVIII属貴金属との混合物,金と銀との合金,金と銀との混合物,金と卑金属との合金,又は金と卑金属との混合物の少なくともいずれかを用いることを特徴とする低温型燃料電池。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項において,上記触媒成分としては,AuとFeとの混合物を用いることを特徴とする低温型燃料電池。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項において,上記触媒成分としては,Pt,Pd,Ru,Rh等のVIII属貴金属と,Fe,Mn,Co等の遷移金属酸化物とからなる合金又は混合物を用いることを特徴とする低温型燃料電池。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項において,上記担体としては,Fe,CoO,NiO,Al,TiO,ZrO及びSiOのグループから選ばれる1種又は2種以上を用いることを特徴とする低温型燃料電池。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項において,上記触媒成分としてはAuを,上記担体としてはFeを用いることを特徴とする低温型燃料電池。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項において,上記CO選択酸化触媒は金を含有しており,かつ,CO選択酸化触媒中における金の含有率は0.1〜50重量%であることを特徴とする低温型燃料電池。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項において,上記燃料ガス拡散層は,上記CO選択酸化触媒に加えて,更に導電物質と撥水性物質とを混合してなる成形体であることを特徴とする低温型燃料電池。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項において,上記燃料ガス拡散層の厚みは,0.1〜1mmであることを特徴とする低温型燃料電池。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項において,上記燃料ガス拡散層と負極触媒層との間には,燃料ガスを負極触媒層の表面全体に拡散させるための第2拡散層を設けることを特徴とする低温型燃料電池。
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