JP3568942B2 - マグネシウム基合金線条体およびその製造方法 - Google Patents

マグネシウム基合金線条体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長尺化を可能にするマグネシウム基合金線条体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
マグネシウム基合金は、アルミニウムよりも軽く、比強度、比剛性が鋼やアルミニウムよりも優れており、航空機部品、自動車部品などの他、各種電気製品のボディーなどにも広く利用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、マグネシウムおよびその合金は、最密六方格子構造であるため延性に乏しく、塑性加工性が極めて悪い。
【0004】
通常、マグネシウム基合金線条体は、鋳造材の押出し加工や押出し加工で得られた材料に引き抜き加工を加えて得られる。ところが、押出し加工時の生産性が極めて低く、1回の押出し加工での単位重量には上限があり、よってマグネシウム基合金線条体には長尺化に対して大きな制限があった。
【0005】
従って、本発明の主目的は、長尺化を可能にするマグネシウム基合金線条体と、その製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、通常は困難なマグネシウム基合金の単位線材同士を接合した線条体の引き抜き加工について、接合後に好適な加工温度、加工度で引き抜き加工を施すことによって、その後、断線発生がなく、ある一定加工度以上の引き抜き加工に耐えうるマグネシウム基合金線条体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
(マグネシウム基合金線条体)
すなわち、本発明のマグネシウム基合金線条体は、直径dが0.1mm以上10mm以下、長さLが1000d以上であり、複数の単位線材同士が接合された接合部を含んでおり、この線条体に断面積減少率で50%以上の引き抜き加工を行っても、前記接合部及びその近傍を起点とする断線が発生しない靭性を有することを特徴とする。
【0008】
この線条体に用いられるマグネシウム基合金には、鋳造用マグネシウム基合金と展伸用マグネシウム基合金のいずれも利用することができる。より具体的には、Al、Mn、Zn、Si、Zr等の化学成分を添加した合金であり、ASTM記号でAM系、AZ系、AS系、ZK系、EZ系などが利用できる。上記化学成分の他にはMgおよび不可避的不純物が含まれる合金として利用されることが一般的である。不可避的不純物には、Fe、Si、Cu、Ni、Caなどが挙げられる。
【0009】
AM系におけるAM60は質量%で、Al:5.5〜6.5%、Zn:0.22%以下、Cu:0.35%以下、Mn:0.13%以上、Ni:0.03%以下、Si:0.5%以下を含有するマグネシウム基合金である。AM100はAl:9.3〜10.7%、Zn:0.3%以下、Cu:0.1%以下、Mn:0.1〜0.35%、Ni:0.01%以下、Si:0.3%以下を含有するマグネシウム基合金である。
【0010】
AZ系におけるAZ31は質量%で、Al:2.5〜3.5%、Zn:0.5〜1.5%、Mn:0.15〜0.5%、Cu:0.05%以下、Si:0.1%以下、Ca:0.04%以下を含有するマグネシウム基合金である。AZ61はAl:5.5〜7.2%、Zn:0.4〜1.5%、Mn:0.15〜0.35%、Ni:0.05%以下、Si:0.1%以下を含有するマグネシウム基合金である。AZ91は、Al:8.1〜9.7%、Zn:0.35〜1.0%、Mn:0.13%以上、Cu:0.1%以下、Ni:0.03%以下、Si:0.5%以下を含有するマグネシウム基合金である。
【0011】
AS系におけるAS41は質量%で、Al:3.7〜4.8%、Zn:0.1%以下、Cu:0.15%以下、Mn:0.35〜0.60%、Ni:0.001%以下、Si:0.6〜0.14%を含有するマグネシウム基合金である。
【0012】
ZK系におけるZK60は質量%で、Zn:4.8〜6.2%、Zr:0.45%以上を含有するマグネシウム基合金である。
【0013】
EZ系におけるEZ33は質量%で、Zn:2〜3.1%、Cu:0.1%以下、Ni:0.01%以下、RE:2.5〜4.0%、Zr:0.5〜1%を含有するマグネシウム基合金である。ここでREは希土類元素であり、通常はPrとNdの混合物が利用されることが多い。
【0014】
上記の化学成分のマグネシウム基合金を用いることで、マグネシウム基合金の一つの特徴である高い比強度(単位重量当たりの強度)が得られることになる。一方、AM系、AZ系、AS系、ZK系、EZ系などのすべては最密六方格子構造ゆえに通常は延性に乏しい。その上、一般に単位原料同士の接合時に実施される高温圧接では、接合部は再結晶温度を越える温度で加熱されるため、金属結晶粒径が粗大化して著しく延性が低下する。その結果、接合部及びその近傍では他の部分に比べ非常に塑性加工性が悪くなり、引き抜き加工時には断線が発生しやすい状態となる。ところが、本発明マグネシウム基合金線条体であれば、接合部でも断線発生を引き起こさない靭性を具えることができる。本発明線条体における好ましい靭性は、絞り25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上である。特に、絞りが40%以上のマグネシウム基合金線条体も得ることができる。
【0015】
本発明線条体の断面形状は、最も一般的には円形である。しかし、靭性に優れる本発明線条体では円形に限らず、断面が楕円や矩形・多角形の非円形線条体とすることも容易にできる。線条体の断面形状を非円形にするには、ダイスの形状を変えることで容易に対応できる。
【0016】
(マグネシウム基合金線条体の製造方法)
本発明マグネシウム基合金線条体の製造方法は、マグネシウム基合金材料からなる複数の単位原料を接合して接合原料を得る工程と、前記接合原料に温度:100〜200℃、断面積減少率:10〜20%の引き抜き加工を施して線条体とする工程とを具えることを特徴とする。
【0017】
このような条件にて引き抜き加工を施すことで、接合部を有する長尺の線条体で靭性に優れたものを得ることができる。特に、この線条体は、後工程で断面積減少率50%以上の引き抜き加工を施しても、前記接合部及びその近傍を起点とする断線を抑制できる。また、マグネシウム基合金線条体について、事実上制限なく長尺化が可能になるため、自動溶接機用の溶接線やねじ用材料などについて、工業的に非常に有効な利用を行うことができる。
【0018】
単位原料はマグネシウム基合金からなる。例えば、マグネシウム基合金鋳造材の押出し加工で得られた材料、または押出し材に引き抜き加工を行って得られた材料が利用できる。鋳造材、押出し材に用いられるマグネシウム基合金には、先述の鋳造用マグネシウム基合金と展伸用マグネシウム基合金のいずれも利用することができる。より具体的にはASTM記号でAM系、AZ系、AS系、ZK系、EZ系などが利用できる。
【0019】
このような単位原料を接合して接合原料とする。接合については、単位原料の端部を再結晶温度以上に加熱しながら圧接する高温圧接が利用できる。
【0020】
そして、得られた接合原料に所定の引き抜き加工を施し、単位線材が接合部を介してつながったマグネシウム基合金線条体を得る。単位線材とは、単位原料に相当する部分が引き抜き加工された結果できた線材部分である。引き抜き加工は、例えば接合原料を穴ダイスもしくはローラーダイス等に通すことで行う。もちろん、穴ダイスまたはローラーダイスを複数用いて、多段階に引き抜き加工を行うこともできる。この繰り返し多パスの引き抜き加工を行うことで、より細径のワイヤを得ることができる。特に、直径6mm未満のワイヤも容易に得られる。
【0021】
この引き抜き加工は、加工温度を100〜200℃にして行うのが好適である。加工温度が100℃未満になると、最密六方構造であるマグネシウム基合金は加工性が悪く、特に再結晶温度を越える温度で加熱された接合部及びその近傍では、金属結晶粒径が粗大化して著しく延性が低下しているため、加工中に割れや断線が発生しやすい。逆に、加工温度が200℃を越えると、接合部及びその近傍では加工中に金属結晶粒径が更に粗大化し、その後の引き抜き加工に耐えることができなくなって、靭性に優れる長尺の線条体が得られないことになる。
【0022】
また、引き抜き加工温度は、ダイス直前にヒーターや加熱溶媒等を設置して、それらの加熱温度を加工温度としている。加工度については10〜20%が好適である。加工度が10%未満の場合は、接合部及びその近傍では金属結晶粒が粗大化したままであり、本発明を満たすマグネシウム基合金が得られないことになる。また、加工度が20%を超える場合は、著しく延性が低下した接合部及びその近傍が加工に耐えることができず、割れや断線が発生することになる。ここでの加工度は、一回以上の引き抜き加工におけるトータル加工度を示す。
【0023】
この引き抜き加工後の冷却速度は0.1℃/sec以上が好ましい。この下限値を下回ると結晶粒の成長を促進してしまう。冷却手段には衝風などが挙げられ、速度の調整は風速、風量などにより行うことができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(実施例1)
質量%で、Al:3.0%、Zn:1.0%、Mn:0.15%を含み、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金(ASTM記号AZ31合金相当材)の押出し材(φ6.0mm)を用いて高温圧接にて押出し材同士を接合して接合原料を得た。その後、接合原料に種々加工温度、加工度条件にて穴ダイスによる引き抜き加工を実施し、本発明例の線条体および比較例の線条体を作製した。引き抜き加工後の冷却は衝風冷却にて、10℃/secにて行った。この段階で線条体を得られたものは、いずれも直径の1000倍以上の長さであった。そして、得られた各線条体について引き抜き加工を行って、引き抜き加工の加工度と接合部近傍での断線発生状況を評価した。その評価結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0003568942
【0026】
表1をみると、線条体作製時の加工度が16%であっても、加工温度が70℃のものは線条体作製時に断線が発生しており、加工温度が260℃のものはその後の引き抜き加工において加工度41.7%で断線が発生している。
【0027】
また、線条体作製時の加工温度が150℃であっても線条体作製時の加工度が8.3%、22.1%のものは、その後の引き抜き加工においてそれぞれ加工度41.7%、17.4%で断線が発生している。
【0028】
これら比較例に対し、実施例は線条体作製時の加工温度が100〜200℃、加工度が10.0〜20.0%の場合は、その後の引き抜き加工において加工度94.1〜94.8%の加工を行っても断線発生は認められず、非常に長尺の伸線材を得ることができた。
【0029】
(実施例2)
質量%で、Zn:5.5%、Zr:0.45%を含み、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金(ASTM記号ZK60合金相当材)の押出し材(φ6.0mm)を用いて高温圧接にて押出し材同士を接合して接合原料を得た。その後、接合原料に種々加工温度、加工度条件にて穴ダイスによる引き抜き加工を実施し、本発明例の線条体および比較例の線条体を作製した。引き抜き加工後の冷却は衝風冷却にて、10℃/secにて行った。この段階で線条体を得られたものは、いずれも直径の1000倍以上の長さであった。そして、得られた各線条体について引き抜き加工を行って、引き抜き加工の加工度と接合部近傍での断線発生状況を評価した。その評価結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
Figure 0003568942
【0031】
表2をみると、線条体作製時の加工度が16%であっても、加工温度が70℃のものは線条体作製時に断線が発生しており、加工温度が260℃のものはその後の引き抜き加工において加工度41.7%で断線が発生している。
【0032】
また、線条体作製時の加工温度が150℃であっても線条体作製時の加工度が8.3%、22.1%のものは、その後の引き抜き加工においてそれぞれ加工度41.2%、18.0%で断線が発生している。
【0033】
これら比較例に対し、実施例は線条体作製時の加工温度が100〜200℃、加工度が10.0〜20.0%の場合は、その後の引き抜き加工において加工度93.2〜94.0%の加工を行っても断線発生は認められず、非常に長尺の伸線材を得ることができた。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明マグネシウム基合金線条体は、接合原料を用いた線条体であっても、高い加工度の引き抜き加工を断線することなく行うことができる。従って、従来得られなかった長尺のマグネシウム基合金線を得ることができる。
【0035】
また、本発明製造方法によれば、従来困難であったマグネシウム基合金線条体の実質上無制限な長尺化が可能になる。従って、自動溶接機用の溶接線やねじ用材料などについて、工業的に非常に有効なマグネシウム基合金線条体を提供することが可能となる。

Claims (3)

  1. マグネシウム基合金の線条体であって、
    引き抜き加工により得られ、
    直径dが0.1mm以上10mm以下、
    長さLが1000d以上
    絞りが 25 %以上であり、
    複数の単位線材同士が接合された接合部を含んでいることを特徴とするマグネシウム基合金線条体。
  2. マグネシウム基合金材料からなる複数の単位原料を接合して接合原料を得る工程と、
    前記接合原料に温度:100〜200℃、断面積減少率:10〜20%の引き抜き加工を施して線条体とする工程とを具えることを特徴とするマグネシウム基合金線条体の製造方法。
  3. 前記単位原料の接合は、単位原料の端部をマグネシウム基合金の再結晶温度以上に加熱しながら圧接する高温圧接により行うことを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム基合金線条体の製造方法。
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