JP3568720B2 - 移動農機の操向装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンバインやハーベスタ等、クローラ走行部を有する移動農機に関し、特に操作レバーの操作に基づき電磁アクチュエータによりサイドクラッチを入切可能な移動農機の操向装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンバインやハーベスタ等の移動農機は左右一対のクローラ走行部を有しており、機体を旋回させる場合は左右いずれかの操作レバー(サイドクラッチレバー)を切り操作することで、油圧シリンダの作動杆を伸長作動させてサイドクラッチを切り、更に前記油圧シリンダの作動杆のストロークを伸長させてサイドクラッチ切り側のドライブシャフトにブレーキをかける構造のものが多い。
【0003】
また、例えば本件出願人の出願に係る特開平6−298116号公報に記載されているように、サイドクラッチを切るときに、操作レバーを操作すると先ず電磁ソレノイドに通電されてソレノイドピンが突出し、このソレノイドピンがサイドクラッチギヤと一体のカムに係合して該カムが軸方向に移動し、前記ギヤの噛み合いが外れてサイドクラッチが切られる。このとき、略々同時に油圧シリンダが作動し、該油圧にてサイドクラッチの切状態を保持するようにした技術が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来例のように、ソレノイドピンを突出させてサイドクラッチを切る手段にあっては、サイドクラッチ切の期間中、電磁ソレノイドに通電し続けてソレノイドピンを突出させた状態を維持していたため、操作レバーを戻してサイドクラッチの切状態を解除するときに、前記ソレノイドピンが前記カムに挟まれて戻り不良となる等、サイドクラッチを入状態にすることが困難となり、信頼性に欠けるという課題があった。
【0005】
すなわち、操作レバーにてサイドクラッチの切状態を解除するときに、例えば前記ソレノイドピンとカムとの位相関係から、該カムが軸方向に復帰するときにカムの凸部にソレノイドピンが当接したりすると、該ソレノイドピンがサイドクラッチギヤの戻しスプリング力により前記カムに挟み込まれ、該カムに乗り上げた状態(サイドクラッチ切状態)となって、ソレノイドピンを抜くのが困難になるというおそれがあった。
【0006】
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、サイドクラッチの切状態から入状態への動作をスムーズに行えるようにした移動農機の操向装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明に係る移動農機の操向装置は、軸方向に摺動してサイドクラッチの入切を行うサイドクラッチギヤ(19L,19R)と、該サイドクラッチギヤ(19L,19R)に一体的に固定されたカム(19a)と、操作レバー(23)の操作に基づき電磁アクチュエータ(41)を介して出没制御され、前記カム(19a)と係合離脱してサイドクラッチを入切可能な作動ピン(22)と、を備えた移動農機(1)において、
前記電磁アクチュエータ(41)への通電を制御するタイマ手段(43)を備え、
前記電磁アクチュエータ(41)への所定時間通電により前記作動ピン(22)を突出させてサイドクラッチを切とし、通電終了後は油圧シリンダ(15)の作動によりサイドクラッチを切状態に保持するようにした、ことを特徴とする。また、本発明は、前記タイマ手段(43)を、前記作動ピン(22)が少なくとも1回前記カム(19a)に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定した、ことを特徴とする。
【0008】
更に、本発明は、機体が停止していると判断した時は、前記操作レバー(23)の操作に拘らず前記電磁アクチュエータ(41)への通電を禁止するようにした、ことを特徴とする。
【0009】
[作用]
以上の発明特定事項に基づき、本発明によれば、操作レバー(23)を傾動操作すると、電磁アクチュエータ(41)を介して作動ピン(22)が突出し、該作動ピン(22)がサイドクラッチのカム(19a)部に突入してサイドクラッチギヤ(19L,19R)がクラッチ切り方向に移動し、駆動力が切られるが、これと略々同時に、油圧シリンダ(15)が作動してその油圧によりサイドクラッチを切状態に保持する。
【0010】
そして、本発明では、このときの電磁アクチュエータ(41)への通電時間を、タイマ(43)により、前記作動ピン(22)が少なくとも1回前記カム(19a)の凸部に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定したことで、前記作動ピン(22)がカム(19a)の凹部に対応する位置にきたときに該作動ピン(22)を確実に抜くことが可能となり、これにより作動ピン(22)の戻り不良が防止される。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、本発明を何等限定するものではない。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明が適用されたコンバインの外観斜視図であり、コンバイン1は、左右のクローラ走行装置10,10により支持された機体37の上部に運転席39を有し、この運転席39の操作パネル31には操作レバー(マルチステアリングレバー)23が設けられていて、機体37はエンジン38の動力により走行駆動される。また、機体37の前方には穀稈を刈り取る昇降自在な前処理部12を有し、穀稈の刈取作業中は、前記操作レバー23の左右傾動操作により立毛穀稈列条に沿って機体37が移動し、刈取りが行われる。
【0014】
前記コンバイン1のトランスミッションの内部構造は、図2〜図4に示すようになっており、前記エンジン38からの動力は、入カプーリ2を介してメインシャフト3に伝達された後、主クラッチaを組み込んだ第1シャフト4、第2シャフト5、副変速機構bを組み込んだ第3シャフト6、第4シャフト7、サイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dを組み込んだ第5シャフト8、及び上記各シャフトに装着されたギヤ群を介してドライブシャフト(左右)9,9に伝達され、前記クローラ走行装置10,lOが駆動されるようになっている。
【0015】
また、油圧ポンプ11は、油圧バルブ40を介して各部の油圧機構を作動させる油圧シリンダ15等を作動させ、該油圧シリンダ15によりサイドクラッチ機構cとブレーキ機構dが作動されるようになっている。前記油圧シリンダ15は、シリンダ軸15aとシフタ15bを有し、シリンダ軸15aが摺動することによりシフタ15bを回動させ、該シフタ15bに連結されたシフトフォーク15cにてサイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dを作動させる。なお、前処理部12への動力伝達用の出カプーリ16は、ワンウエイクラッチ17を介して第2シャフト5に連係されている。
【0016】
前記サイドクラッチ機構cは、サイドクラッチギヤ19L,19Rを有し、このサイドクラッチギヤ19L,19Rは第5シャフト8に対し軸方向にのみ摺動自在で、かつ戻しスプリング20により常時クラッチ入り方向に付勢されていて、左右一方のサイドクラッチが入り状態にあるときは、サイドクラッチギヤ19L又は19Rは戻しスプリング20の弾発力でセンタギヤ21のドグ2laと噛合って動力の伝達が行われる。
【0017】
図4及び図5に示すように、このサイドクラッチギヤ19L,19Rには、夫々カム19aが一体的に設けられており、該カム19aのカム面19a’には、軸方向中央側に突出する凸部19a”が略々180度の位相差にて2箇所形成されている。そして、後述の電気指令により押し出されたソレノイドピン(作動ピン)22と上記カム19aによリ、サイドクラッチギヤ19L(又は19R)を軸方向に摺動させてサイドクラッチを切るように構成されている。
【0018】
すなわち、前述した図3に示されるように、操作レバー23の操作により、制御部44からの出力指令により電磁アクチュエータとしてのソレノイド41L(又は41R)に通電され、ソレノイドピン22が第5シャフト8側に押し出される。すると、ソレノイドピン22がサイドクラッチギヤ19L(又は19R)のカム19a部に嵌入して該サイドクラッチギヤ19L(又は19R)がクラッチ切り方向に強制的に移動させられる。このため、サイドクラッチギヤ19L(又は19R)がセンタギヤ21のドグ2laから外れ、左右いずれかのクローラ10の駆動力が切られる。
【0019】
図6(a)〜(d)は、前記ソレノイドピン22とカム19aとの位置関係を示す図である。
【0020】
すなわち、カム19aが図の時計方向に回転する場合に、ソレノイドピン22とカム19aの凸部19a”とが、回転角度において+42.80°の位相差にある位置までは、サイドクラッチは入状態にある。この状態から、図6(a)のように、カム19aが同方向に回転して、ソレノイドピン22とカム19aの凸部19a”とが、回転角度において+42.80°の位相差にある位置になると、サイドクラッチは半噛み状態になる。更に、図6(b)(c)のように、カム19aが同方向に回転してソレノイドピン22と凸部19a”とが、回転角度において±16.30°の位相差にある範囲内においては、サイドクラッチは切状態になる。そして、図6(d)のように、カム19aが更に同方向に回転してソレノイドピン22と凸部19a”とが、回転角度において−42.80°の位相差にある位置になると、サイドクラッチは半噛み状態になる。
【0021】
ところで、図7において、前記油圧シリンダ15は、操作レバー23の操作により油圧バルブ40を介して制御され、この操作レバー23の左右傾動操作により左右のサイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dの作動が、また,操作レバー23の前後傾動操作により前処理部12の昇降作動が行われる。そして、サイドクラッチ及びブレーキ作動と、該作動時における油圧バルブ40のバルブストローク(レバーストローク)との関係は、予め所定の関係に設定されている。
【0022】
例えば、操作レバー23が中立位置から右方向に少し傾動したA点では、制御部44に連係されたスイッチ25がONとなり、これによリソレノイド41Rのソレノイドピン22が第5シャフト8側に突出するようになっており、次いで、バルブストロークが中立位置から右方向に傾動したB点ではサイドクラッチが切れ(ON)、更にC点ではブレーキがかかり始める(ON)ように設定されている。
【0023】
同様に、操作レバー23が中立位置から左方向に少し傾動した点では、制御部44に連係されたスイッチ26がONとなり、これによリソレノイド41Lのソレノイドピン22が第5シャフト8側に突出するようになっている。
【0024】
ここで、本実施の形態では、電磁アクチュエータ41への通電を制御するタイマ手段を備え、前記電磁アクチュエータ41への所定時間通電により前記作動ピン22を突出させてサイドクラッチを切とし、通電終了後は油圧シリンダ15の作動によりサイドクラッチを切状態に保持するようにした、ことを特徴としている。
【0025】
すなわち、図3に示すように、前記ソレノイド41L(又は41R)にはタイマ43を介して制御部44からの指令が入力されるようになっている。
【0026】
以下、図8に基づき本実施の形態における制御を説明する。
【0027】
同図において、ステップS1で機体が停止状態か否かを判断し、機体が停止していると判断した時は、前記操作レバー23の操作に拘らずソレノイド41L(又は41R)への通電を禁止する。例えば、トランスミッションの出力軸の検出パルス信号を一定時間検出できなかった場合(回転センサの故障の場合も含む)は、機体が停止しているものとみなし、ソレノイドピン22によるサイドクラッチの入切操作をキャンセルする。
【0028】
そして、トランスミッションの出力軸が回転していると判断した場合は、S2に進む。このS2で、操作レバー23の右スイッチ25がオンかオフかが判断され、オフならS7に進み、オンならS3に進む。このS3では、前回操作の右スイッチ25がオンか否かが判断され、オンならS5に進み、オフならS4においてリミットタイマを設定してからS5に進む。S5では、前記リミットタイマが終了したか否かを判断し、終了しているなら最初に戻り、未終了ならS6において前記リミットタイマにて設定した時間だけソレノイド41Rに通電する。
【0029】
また、S2において、操作レバー23の右スイッチ25がオフなら、S7において操作レバー23の左スイッチ26がオンかオフかが判断され、オフなら最初に戻り、オンならS8に進む。このS8では、前回操作の左スイッチ26がオンか否かが判断され、オンならS10に進み、オフならS9においてリミットタイマを設定してからS10に進む。S10では、前記リミットタイマが終了したか否かを判断し、終了しているなら最初の制御状態に戻り、未終了ならS11において前記リミットタイマにて設定した時間だけソレノイド41Lに通電する。
【0030】
なお、ソレノイド41R,41Lへの通電終了後は、ソレノイドピン22は復帰スプリング42により元の位置に復帰する(図3参照)。
【0031】
また、本実施の形態では、前記リミットタイマの設定時間を、前記ソレノイドピン22が少なくとも1回前記カム19aの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間にした、ことを特徴としている。
【0032】
図9は、カムの輪郭曲線と回転角度との関係を示すものであり、前記ソレノイドピン22が図の(a)と(b)の間にあるときは、サイドクラッチは半噛み状態にあり、カムが回転してソレノイドピン22が図の(b)と(c)の間にあるとき、すなわちソレノイドピン22がカム面19a’の凸部19”に乗り上げているときは、サイドクラッチは切状態にある。また、カムが回転してソレノイドピン22が図の(c)と(d)の間にあるときは、サイドクラッチは半噛み状態にあり、更にカムが回転してソレノイドピン22が図の(d)位置から同方向に94.4°回転する間はサイドクラッチは入状態にある。
【0033】
以上により、ソレノイドピン22が少なくとも1回、カムの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るためには、該カムが239.1°回転する時間だけソレノイドピン22を突出させてやれば良い。そのために、本実施の形態では、前記リミットタイマにて、サイドクラッチを切るために最低限必要な時間を設定している。
【0034】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0035】
いま、機体を右旋回すべく操作レバー(マルチステアリングレバー)23を右側に傾働操作した際、該レバー23が右スイッチ25に接当し、該右スイッチ25がONとなるため、制御部44からの出力信号によリソレノイド41Rが作動してソレノイドピン22が突出してサイドクラッチのカム19a部に嵌入する。これによリ、カム面19’aがソレノイドピン22の側面に沿って回動し、右サイドクラッチギヤ19Rが図2の右方向に強制的に移動させられ、右サイドクラッチが切られて右クローラ10側の駆動力が切られ、機体は右旋回する。
【0036】
ところで、上記サイドクラッチ切り操作の際、ソレノイド41Rへの通電を制御するタイマ43が設けられていて、サイドクラッチを切るときに、前記ソレノイドピン22が少なくとも1回カム19aの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定しており、ソレノイドピン22がカム19aの凹部にきた位置にて該ソレノイドピン22を復帰させることができるので、該ピン22の戻り不良の心配はない。
【0037】
なお、操作レバー23をさらに右側に傾動させると油圧力がさらに上昇し、右サイドクラッチギヤ19Rの背面が右側のブレーキ機構dを押すことによリブレーキがかかり始める。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、軸方向に摺動してサイドクラッチの入切を行うサイドクラッチギヤと、該サイドクラッチギヤに一体的に固定されたカムと、操作レバーの操作に基づき電磁アクチュエータを介して出没制御され、前記カムと係合離脱してサイドクラッチを入切可能な作動ピンと、を備えた移動農機において、前記電磁アクチュエータへの通電を制御するタイマ手段を備え、前記電磁アクチュエータへの所定時間通電により前記作動ピンを突出させてサイドクラッチを切としたことにより、該作動ピンはカムが凹部にきたときに該カムに挟まれることなく、スプリング力によって容易に復帰することができる。
【0039】
また、本発明によれば、前記タイマ手段を、前記作動ピンが少なくとも1回前記カムに乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定したことにより、サイドクラッチギヤの噛み合いが解除された時点で前記作動ピンを戻すことができるので、該作動ピンの戻り不良を防止することができる。
【0040】
更に、本発明は、機体が停止していると判断した時は、操作レバーの操作に拘らず電磁アクチュエータへの通電を禁止するようにしたことで、機体の停止時等には作動ピンによるサイドクラッチ切操作は行われないため、該作動ピンの作動不良等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたコンバインの外観斜視図である。
【図2】コンバインのトランスミッションの展開図である。
【図3】サイドクラッチギヤとソレノイドピンとの位置関係を示す側面図である。
【図4】油圧シリンダの断面図である。
【図5】サイドクラッチギヤのカム部の平面図である。
【図6】(a)〜(d)は、カムの回転に伴うソレノイドピンとカムとの相対位置関係を示す図である。
【図7】操作レバーの操作位置とクラッチ及びブレーキの切位置との関係を示す図である。
【図8】本実施の形態の制御フローチャートを示す図である。
【図9】カムの輪郭曲線と回転角度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 コンバイン
15 油圧シリンダ
19L,19R サイドクラッチギヤ
19a カム
20 戻しスプリング
22 ソレノイドピン
23 操作レバー
25,26 スイッチ
40 油圧バルブ
41 ソレノイド
42 復帰スプリング
43 タイマ
44 制御部
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンバインやハーベスタ等、クローラ走行部を有する移動農機に関し、特に操作レバーの操作に基づき電磁アクチュエータによりサイドクラッチを入切可能な移動農機の操向装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンバインやハーベスタ等の移動農機は左右一対のクローラ走行部を有しており、機体を旋回させる場合は左右いずれかの操作レバー(サイドクラッチレバー)を切り操作することで、油圧シリンダの作動杆を伸長作動させてサイドクラッチを切り、更に前記油圧シリンダの作動杆のストロークを伸長させてサイドクラッチ切り側のドライブシャフトにブレーキをかける構造のものが多い。
【0003】
また、例えば本件出願人の出願に係る特開平6−298116号公報に記載されているように、サイドクラッチを切るときに、操作レバーを操作すると先ず電磁ソレノイドに通電されてソレノイドピンが突出し、このソレノイドピンがサイドクラッチギヤと一体のカムに係合して該カムが軸方向に移動し、前記ギヤの噛み合いが外れてサイドクラッチが切られる。このとき、略々同時に油圧シリンダが作動し、該油圧にてサイドクラッチの切状態を保持するようにした技術が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来例のように、ソレノイドピンを突出させてサイドクラッチを切る手段にあっては、サイドクラッチ切の期間中、電磁ソレノイドに通電し続けてソレノイドピンを突出させた状態を維持していたため、操作レバーを戻してサイドクラッチの切状態を解除するときに、前記ソレノイドピンが前記カムに挟まれて戻り不良となる等、サイドクラッチを入状態にすることが困難となり、信頼性に欠けるという課題があった。
【0005】
すなわち、操作レバーにてサイドクラッチの切状態を解除するときに、例えば前記ソレノイドピンとカムとの位相関係から、該カムが軸方向に復帰するときにカムの凸部にソレノイドピンが当接したりすると、該ソレノイドピンがサイドクラッチギヤの戻しスプリング力により前記カムに挟み込まれ、該カムに乗り上げた状態(サイドクラッチ切状態)となって、ソレノイドピンを抜くのが困難になるというおそれがあった。
【0006】
本発明は、斯かる課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、サイドクラッチの切状態から入状態への動作をスムーズに行えるようにした移動農機の操向装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明に係る移動農機の操向装置は、軸方向に摺動してサイドクラッチの入切を行うサイドクラッチギヤ(19L,19R)と、該サイドクラッチギヤ(19L,19R)に一体的に固定されたカム(19a)と、操作レバー(23)の操作に基づき電磁アクチュエータ(41)を介して出没制御され、前記カム(19a)と係合離脱してサイドクラッチを入切可能な作動ピン(22)と、を備えた移動農機(1)において、
前記電磁アクチュエータ(41)への通電を制御するタイマ手段(43)を備え、
前記電磁アクチュエータ(41)への所定時間通電により前記作動ピン(22)を突出させてサイドクラッチを切とし、通電終了後は油圧シリンダ(15)の作動によりサイドクラッチを切状態に保持するようにした、ことを特徴とする。また、本発明は、前記タイマ手段(43)を、前記作動ピン(22)が少なくとも1回前記カム(19a)に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定した、ことを特徴とする。
【0008】
更に、本発明は、機体が停止していると判断した時は、前記操作レバー(23)の操作に拘らず前記電磁アクチュエータ(41)への通電を禁止するようにした、ことを特徴とする。
【0009】
[作用]
以上の発明特定事項に基づき、本発明によれば、操作レバー(23)を傾動操作すると、電磁アクチュエータ(41)を介して作動ピン(22)が突出し、該作動ピン(22)がサイドクラッチのカム(19a)部に突入してサイドクラッチギヤ(19L,19R)がクラッチ切り方向に移動し、駆動力が切られるが、これと略々同時に、油圧シリンダ(15)が作動してその油圧によりサイドクラッチを切状態に保持する。
【0010】
そして、本発明では、このときの電磁アクチュエータ(41)への通電時間を、タイマ(43)により、前記作動ピン(22)が少なくとも1回前記カム(19a)の凸部に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定したことで、前記作動ピン(22)がカム(19a)の凹部に対応する位置にきたときに該作動ピン(22)を確実に抜くことが可能となり、これにより作動ピン(22)の戻り不良が防止される。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、本発明を何等限定するものではない。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明が適用されたコンバインの外観斜視図であり、コンバイン1は、左右のクローラ走行装置10,10により支持された機体37の上部に運転席39を有し、この運転席39の操作パネル31には操作レバー(マルチステアリングレバー)23が設けられていて、機体37はエンジン38の動力により走行駆動される。また、機体37の前方には穀稈を刈り取る昇降自在な前処理部12を有し、穀稈の刈取作業中は、前記操作レバー23の左右傾動操作により立毛穀稈列条に沿って機体37が移動し、刈取りが行われる。
【0014】
前記コンバイン1のトランスミッションの内部構造は、図2〜図4に示すようになっており、前記エンジン38からの動力は、入カプーリ2を介してメインシャフト3に伝達された後、主クラッチaを組み込んだ第1シャフト4、第2シャフト5、副変速機構bを組み込んだ第3シャフト6、第4シャフト7、サイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dを組み込んだ第5シャフト8、及び上記各シャフトに装着されたギヤ群を介してドライブシャフト(左右)9,9に伝達され、前記クローラ走行装置10,lOが駆動されるようになっている。
【0015】
また、油圧ポンプ11は、油圧バルブ40を介して各部の油圧機構を作動させる油圧シリンダ15等を作動させ、該油圧シリンダ15によりサイドクラッチ機構cとブレーキ機構dが作動されるようになっている。前記油圧シリンダ15は、シリンダ軸15aとシフタ15bを有し、シリンダ軸15aが摺動することによりシフタ15bを回動させ、該シフタ15bに連結されたシフトフォーク15cにてサイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dを作動させる。なお、前処理部12への動力伝達用の出カプーリ16は、ワンウエイクラッチ17を介して第2シャフト5に連係されている。
【0016】
前記サイドクラッチ機構cは、サイドクラッチギヤ19L,19Rを有し、このサイドクラッチギヤ19L,19Rは第5シャフト8に対し軸方向にのみ摺動自在で、かつ戻しスプリング20により常時クラッチ入り方向に付勢されていて、左右一方のサイドクラッチが入り状態にあるときは、サイドクラッチギヤ19L又は19Rは戻しスプリング20の弾発力でセンタギヤ21のドグ2laと噛合って動力の伝達が行われる。
【0017】
図4及び図5に示すように、このサイドクラッチギヤ19L,19Rには、夫々カム19aが一体的に設けられており、該カム19aのカム面19a’には、軸方向中央側に突出する凸部19a”が略々180度の位相差にて2箇所形成されている。そして、後述の電気指令により押し出されたソレノイドピン(作動ピン)22と上記カム19aによリ、サイドクラッチギヤ19L(又は19R)を軸方向に摺動させてサイドクラッチを切るように構成されている。
【0018】
すなわち、前述した図3に示されるように、操作レバー23の操作により、制御部44からの出力指令により電磁アクチュエータとしてのソレノイド41L(又は41R)に通電され、ソレノイドピン22が第5シャフト8側に押し出される。すると、ソレノイドピン22がサイドクラッチギヤ19L(又は19R)のカム19a部に嵌入して該サイドクラッチギヤ19L(又は19R)がクラッチ切り方向に強制的に移動させられる。このため、サイドクラッチギヤ19L(又は19R)がセンタギヤ21のドグ2laから外れ、左右いずれかのクローラ10の駆動力が切られる。
【0019】
図6(a)〜(d)は、前記ソレノイドピン22とカム19aとの位置関係を示す図である。
【0020】
すなわち、カム19aが図の時計方向に回転する場合に、ソレノイドピン22とカム19aの凸部19a”とが、回転角度において+42.80°の位相差にある位置までは、サイドクラッチは入状態にある。この状態から、図6(a)のように、カム19aが同方向に回転して、ソレノイドピン22とカム19aの凸部19a”とが、回転角度において+42.80°の位相差にある位置になると、サイドクラッチは半噛み状態になる。更に、図6(b)(c)のように、カム19aが同方向に回転してソレノイドピン22と凸部19a”とが、回転角度において±16.30°の位相差にある範囲内においては、サイドクラッチは切状態になる。そして、図6(d)のように、カム19aが更に同方向に回転してソレノイドピン22と凸部19a”とが、回転角度において−42.80°の位相差にある位置になると、サイドクラッチは半噛み状態になる。
【0021】
ところで、図7において、前記油圧シリンダ15は、操作レバー23の操作により油圧バルブ40を介して制御され、この操作レバー23の左右傾動操作により左右のサイドクラッチ機構c及びブレーキ機構dの作動が、また,操作レバー23の前後傾動操作により前処理部12の昇降作動が行われる。そして、サイドクラッチ及びブレーキ作動と、該作動時における油圧バルブ40のバルブストローク(レバーストローク)との関係は、予め所定の関係に設定されている。
【0022】
例えば、操作レバー23が中立位置から右方向に少し傾動したA点では、制御部44に連係されたスイッチ25がONとなり、これによリソレノイド41Rのソレノイドピン22が第5シャフト8側に突出するようになっており、次いで、バルブストロークが中立位置から右方向に傾動したB点ではサイドクラッチが切れ(ON)、更にC点ではブレーキがかかり始める(ON)ように設定されている。
【0023】
同様に、操作レバー23が中立位置から左方向に少し傾動した点では、制御部44に連係されたスイッチ26がONとなり、これによリソレノイド41Lのソレノイドピン22が第5シャフト8側に突出するようになっている。
【0024】
ここで、本実施の形態では、電磁アクチュエータ41への通電を制御するタイマ手段を備え、前記電磁アクチュエータ41への所定時間通電により前記作動ピン22を突出させてサイドクラッチを切とし、通電終了後は油圧シリンダ15の作動によりサイドクラッチを切状態に保持するようにした、ことを特徴としている。
【0025】
すなわち、図3に示すように、前記ソレノイド41L(又は41R)にはタイマ43を介して制御部44からの指令が入力されるようになっている。
【0026】
以下、図8に基づき本実施の形態における制御を説明する。
【0027】
同図において、ステップS1で機体が停止状態か否かを判断し、機体が停止していると判断した時は、前記操作レバー23の操作に拘らずソレノイド41L(又は41R)への通電を禁止する。例えば、トランスミッションの出力軸の検出パルス信号を一定時間検出できなかった場合(回転センサの故障の場合も含む)は、機体が停止しているものとみなし、ソレノイドピン22によるサイドクラッチの入切操作をキャンセルする。
【0028】
そして、トランスミッションの出力軸が回転していると判断した場合は、S2に進む。このS2で、操作レバー23の右スイッチ25がオンかオフかが判断され、オフならS7に進み、オンならS3に進む。このS3では、前回操作の右スイッチ25がオンか否かが判断され、オンならS5に進み、オフならS4においてリミットタイマを設定してからS5に進む。S5では、前記リミットタイマが終了したか否かを判断し、終了しているなら最初に戻り、未終了ならS6において前記リミットタイマにて設定した時間だけソレノイド41Rに通電する。
【0029】
また、S2において、操作レバー23の右スイッチ25がオフなら、S7において操作レバー23の左スイッチ26がオンかオフかが判断され、オフなら最初に戻り、オンならS8に進む。このS8では、前回操作の左スイッチ26がオンか否かが判断され、オンならS10に進み、オフならS9においてリミットタイマを設定してからS10に進む。S10では、前記リミットタイマが終了したか否かを判断し、終了しているなら最初の制御状態に戻り、未終了ならS11において前記リミットタイマにて設定した時間だけソレノイド41Lに通電する。
【0030】
なお、ソレノイド41R,41Lへの通電終了後は、ソレノイドピン22は復帰スプリング42により元の位置に復帰する(図3参照)。
【0031】
また、本実施の形態では、前記リミットタイマの設定時間を、前記ソレノイドピン22が少なくとも1回前記カム19aの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間にした、ことを特徴としている。
【0032】
図9は、カムの輪郭曲線と回転角度との関係を示すものであり、前記ソレノイドピン22が図の(a)と(b)の間にあるときは、サイドクラッチは半噛み状態にあり、カムが回転してソレノイドピン22が図の(b)と(c)の間にあるとき、すなわちソレノイドピン22がカム面19a’の凸部19”に乗り上げているときは、サイドクラッチは切状態にある。また、カムが回転してソレノイドピン22が図の(c)と(d)の間にあるときは、サイドクラッチは半噛み状態にあり、更にカムが回転してソレノイドピン22が図の(d)位置から同方向に94.4°回転する間はサイドクラッチは入状態にある。
【0033】
以上により、ソレノイドピン22が少なくとも1回、カムの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るためには、該カムが239.1°回転する時間だけソレノイドピン22を突出させてやれば良い。そのために、本実施の形態では、前記リミットタイマにて、サイドクラッチを切るために最低限必要な時間を設定している。
【0034】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0035】
いま、機体を右旋回すべく操作レバー(マルチステアリングレバー)23を右側に傾働操作した際、該レバー23が右スイッチ25に接当し、該右スイッチ25がONとなるため、制御部44からの出力信号によリソレノイド41Rが作動してソレノイドピン22が突出してサイドクラッチのカム19a部に嵌入する。これによリ、カム面19’aがソレノイドピン22の側面に沿って回動し、右サイドクラッチギヤ19Rが図2の右方向に強制的に移動させられ、右サイドクラッチが切られて右クローラ10側の駆動力が切られ、機体は右旋回する。
【0036】
ところで、上記サイドクラッチ切り操作の際、ソレノイド41Rへの通電を制御するタイマ43が設けられていて、サイドクラッチを切るときに、前記ソレノイドピン22が少なくとも1回カム19aの凸部19”に乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定しており、ソレノイドピン22がカム19aの凹部にきた位置にて該ソレノイドピン22を復帰させることができるので、該ピン22の戻り不良の心配はない。
【0037】
なお、操作レバー23をさらに右側に傾動させると油圧力がさらに上昇し、右サイドクラッチギヤ19Rの背面が右側のブレーキ機構dを押すことによリブレーキがかかり始める。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、軸方向に摺動してサイドクラッチの入切を行うサイドクラッチギヤと、該サイドクラッチギヤに一体的に固定されたカムと、操作レバーの操作に基づき電磁アクチュエータを介して出没制御され、前記カムと係合離脱してサイドクラッチを入切可能な作動ピンと、を備えた移動農機において、前記電磁アクチュエータへの通電を制御するタイマ手段を備え、前記電磁アクチュエータへの所定時間通電により前記作動ピンを突出させてサイドクラッチを切としたことにより、該作動ピンはカムが凹部にきたときに該カムに挟まれることなく、スプリング力によって容易に復帰することができる。
【0039】
また、本発明によれば、前記タイマ手段を、前記作動ピンが少なくとも1回前記カムに乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定したことにより、サイドクラッチギヤの噛み合いが解除された時点で前記作動ピンを戻すことができるので、該作動ピンの戻り不良を防止することができる。
【0040】
更に、本発明は、機体が停止していると判断した時は、操作レバーの操作に拘らず電磁アクチュエータへの通電を禁止するようにしたことで、機体の停止時等には作動ピンによるサイドクラッチ切操作は行われないため、該作動ピンの作動不良等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたコンバインの外観斜視図である。
【図2】コンバインのトランスミッションの展開図である。
【図3】サイドクラッチギヤとソレノイドピンとの位置関係を示す側面図である。
【図4】油圧シリンダの断面図である。
【図5】サイドクラッチギヤのカム部の平面図である。
【図6】(a)〜(d)は、カムの回転に伴うソレノイドピンとカムとの相対位置関係を示す図である。
【図7】操作レバーの操作位置とクラッチ及びブレーキの切位置との関係を示す図である。
【図8】本実施の形態の制御フローチャートを示す図である。
【図9】カムの輪郭曲線と回転角度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 コンバイン
15 油圧シリンダ
19L,19R サイドクラッチギヤ
19a カム
20 戻しスプリング
22 ソレノイドピン
23 操作レバー
25,26 スイッチ
40 油圧バルブ
41 ソレノイド
42 復帰スプリング
43 タイマ
44 制御部
Claims (3)
- 軸方向に摺動してサイドクラッチの入切を行うサイドクラッチギヤと、該サイドクラッチギヤに一体的に固定されたカムと、操作レバーの操作に基づき電磁アクチュエータを介して出没制御され、前記カムと係合離脱してサイドクラッチを入切可能な作動ピンと、を備えた移動農機において、
前記電磁アクチュエータへの通電を制御するタイマ手段を備え、
前記電磁アクチュエータへの所定時間通電により前記作動ピンを突出させてサイドクラッチを切とし、通電終了後は油圧シリンダの作動によりサイドクラッチを切状態に保持するようにした、
ことを特徴とする移動農機の操向装置。 - 前記タイマ手段を、前記作動ピンが少なくとも1回前記カムに乗り上げてサイドクラッチを切るまでに必要な時間に設定した、
ことを特徴とする請求項1記載の移動農機の操向装置。 - 機体が停止していると判断した時は、前記操作レバーの操作に拘らず前記電磁アクチュエータへの通電を禁止するようにした、
ことを特徴とする請求項1記載の移動農機の操向装置。
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Family Applications (1)
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- 1997-01-08 JP JP00170697A patent/JP3568720B2/ja not_active Expired - Fee Related
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JPH10191716A (ja) | 1998-07-28 |
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