JP3567497B2 - 溶融金属中で使用される転がり軸受 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、例えば連続溶融金属メッキ浴中のロール支持装置に組み込まれる転がり軸受のように、溶融状態の亜鉛やアルミニウム等の溶融金属中で使用される転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、連続溶融亜鉛メッキ浴中のロール支持装置に組み込まれるような溶融金属中で使用される転がり軸受としては、高い耐熱性と耐食性とが要求されるために、形状が複雑である保持器以外はセラミックスで作製されたものが使用され、保持器については、その耐食性を向上させるために、例えば純タンタルまたはタンタルに10重量%以下の範囲でタングステンを加えた合金により作製することが提案されている(特開平5−187445号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記提案に示された材料で保持器を作製すれば、溶融金属中での十分な耐食性が得られるが、耐摩耗性については改善の余地があった。
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためのものであり、溶融金属中で使用される転がり軸受を構成する保持器の耐摩耗性を向上させることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、溶融金属中で使用される転がり軸受において、当該転がり軸受の保持器を、前記溶融金属に対する比重が0.8〜1.2である材料で構成したことを特徴とする転がり軸受を提供する。
保持器を構成する材料の前記溶融金属に対する比重を0.8〜1.2とするためには、当該溶融金属に応じ、前記比重が単独で0.8〜1.2である物質により保持器を作製するか、密度の大きな物質、例えばTa,W,Mo,Nb,Re,Os,Ir,Pt,Au等の金属、これらの金属を含む合金、前記金属の炭化物、ホウ化物、窒化物と、密度の小さな物質、例えば黒鉛、C/Cコンポジット(炭素繊維強化カーボン)等の炭素材料、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素等のセラミックスとを組み合わせて、対応する溶融金属に対する比重を0.8〜1.2とした複合材料で保持器を作製すればよい。
【0005】
保持器を複合材料で作製する場合には、複合材料を構成する密度の小さな物質が、黒鉛、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、CaF2 /BaF2 、酸化クロム等の固体潤滑剤であると好ましい。
なお、メッキ浴等に使用される溶融金属には、例えば下記の表1に示すようなものが挙げられ、その密度は2〜12g/cm3 である。
【0006】
【表1】
【0007】
また、Fe系の鋼、NiやCo系の耐熱合金はこれらの溶融金属に対する耐食性が不十分であるため、当該溶融金属に対する比重が0.8〜1.2であっても、溶融金属中で使用される転がり軸受に組み込まれる保持器の材料としては好ましくない。
【0008】
【作用】
本発明においては、溶融金属中で使用される転がり軸受の保持器を、前記溶融金属に対する比重が0.8〜1.2である材料で構成することにより、保持器の転動体および軌道輪との摺動面にかかる圧力が著しく軽減されて保持器のポケット面や案内面の耐摩耗性が向上する。
【0009】
すなわち、保持器と溶融金属との密度の差を小さくすることにより、溶融金属中で保持器が浮き沈みする度合いが小さくなるため、転動体および軌道輪との摺動面にかかる圧力が低減される。
これに対して、前述のように、保持器を純タンタルまたはタンタルに10重量%以下の範囲でタングステンを加えた合金で作製し、この保持器が組み込まれた転がり軸受を連続溶融亜鉛メッキ浴(480℃)中で使用する場合には、純タンタルまたは前記タンタル合金の密度が約16g/cm3 、溶融亜鉛の密度が約7g/cm3 であるため、保持器を構成する材料の溶融亜鉛に対する比重は2.3となり、溶融亜鉛中で保持器が浮き沈みする度合いが大きいため、転動体および軌道輪との摺動面にかかる圧力が大きくなる。
【0010】
また、図9は、TaとC(黒鉛)との複合材料により溶融亜鉛に対する比重がそれぞれ0.3〜2.3である保持器の試験片を作製し、各試験片により溶融亜鉛(480℃)中におけるアキシャル荷重に対する摩耗試験(詳細は実施例参照)を行った結果を示すグラフである。このグラフから、保持器試験片の溶融亜鉛に対する比重が本発明の範囲である0.8〜1.2のものは、ポケット摩耗量および案内面摩耗量のいずれの点でも他のものより著しく優れていることが分かる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
図1および2に示す形状の軌道輪試験片1を二枚(内輪試験片1A,外輪試験片1B)と、図3および4に示す形状の保持器試験片2を一枚と、直径3/8インチのボール3を三個で一組として、図5に示すような転がり軸受の摩耗試験用試験体Sを作製した。図1は軌道輪試験片の正面図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は保持器試験片の正面図であり、図4は図3のB−B線断面図である。
【0012】
軌道輪試験片1は、図1および2から分かるように、厚さT1 =6mm直径D1 =52mmの円板の中心に直径D2 =10mmの穴11を開け、片面の周辺部に円板と同心の環状の溝12を付けたものである。この溝12は断面が円弧状に形成され、その曲率半径は5.15mmであり、円板の面から最大0.8mm(=T2 )だけ凹んでいる。また、溝12の中心線の直径D3 を38.5mmとした。
【0013】
この軌道輪試験片1とボール3は窒化珪素製であり、窒化珪素の粉末をArおよび N2 の雰囲気下、2000℃で加圧焼結して得られた焼結体を機械加工することにより各形状に形成してある。
保持器試験片2は、図3および4から分かるように、軌道輪試験片1と同じ大きさの円板の中心に直径D4 =24mmの穴21を開け、円板面に直径D5 =9.8mmの円形のポケット22を三個、各ポケット22の中心が同一円周上となるように等間隔で開けたものである。そして、ポケット22のピッチ円直径D6 は、軌道輪試験片1の溝12の中心線の直径D3 と同じ38.5mmとした。
【0014】
この保持器試験片2は、各試験体毎に、下記の表2および表3に示す各組成の材料で、溶融亜鉛に対する比重が各値になるように形成してある。なお、実施例1〜10および比較例1〜4では、密度の大きな物質としてTa,W,Mo,WC,TaN,TaB2 を単独または組み合わせて用い、密度の小さな物質としてC(黒鉛),MoS2 ,h−BN,Si3 N4 +Al2 O3 を用い、両者の組成を変えることにより溶融亜鉛に対する比重を調節している。
【0015】
なお、実施例1の保持器試験片2aは、図6(図3のB−B線断面図に相当)に示すように、図3および4に示す保持器試験片2と外形は同じであるが、C(黒鉛)で厚さT3 =4mmに形成した母体4の両面に、Taで厚さT4 =1mmに形成した補強用の側板5を接合した構造であり、表中で「補強型」と表示した。そして、Ta(二枚の側板5)とC(母体4)との体積比から保持器試験片全体としての平均密度を算出した。
【0016】
実施例2〜10および比較例1〜4の保持器試験片2は、前記軌道輪試験片1およびボール3と同様に、各成分の粉末をArおよび N2 の雰囲気下、2000℃で加圧焼結して得られた焼結体を機械加工することにより作製されたものであり、表中で「粉末均一混合型」と表示した。そして、保持器試験片の材料を構成する各成分の密度と存在比(体積比)から平均密度を算出した。
【0017】
比較例5〜10の保持器試験片2は単独材料で構成され、それぞれ下記のバルク材(比較例10はSUS304)を機械加工により前記形状に形成したものであり、表中で「バルク型」と表示した。
Ta:真空冶金(株)製
C/Cコンポジット:東洋炭素(株)製 CX−21
黒鉛:東洋炭素(株)製 IG−43
h−BNマシナブルセラミックス:徳山曹達(株)製 シェイパル(登録商標)M
雲母系マシナブルセラミックス:三井鉱山(株)製
そして、図5に示すように、溝12面を内側にした二枚の軌道輪試験片1A,1Bで、各ポケット22にボール3を入れた状態の保持器試験片2を挟み、各ボール3を各軌道輪試験片1A,1Bの溝12に収めることにより、摩耗試験用の試験体Sを組み立てた。この状態で試験体Sをるつぼ6の底部中心に配置し、回転軸7を上側の軌道輪試験片1A上の中心に配置してアキシャル荷重をかけ、るつぼ6内に溶融亜鉛8を入れ、回転軸7を回転させることにより上側軌道輪試験片1Aを回転させ、下記の条件により摩耗試験を行った。
【0018】
〔試験条件〕
アキシャル荷重:294N
回転速度:300rpm
るつぼ内温度:480℃
総回転時間:72時間
試験後に試験体Sをるつぼ6から出して、各保持試験片2(2a)のポケット摩耗量と案内面摩耗量を測定した。その結果を下記の表1,2に併せて示す。また、保持器試験片のポケット摩耗量について図7に、保持器試験片の案内面摩耗量について図8に示す。なお、図7は図3のE−E線断面図に、図8はF−F線断面図に相当し、各図の(a)は摩耗試験前の状態(b)は摩耗試験後の状態を示す。
【0019】
ここで、溶融亜鉛に対する比重が1より小さい保持器試験片2は、摩耗試験中、上側の軌道輪試験片1Aに接触しながら回る。ボール3は上側軌道輪試験片1Aの回転速度の1/2で公転するため、保持器試験片2はボール3と同じ速度で回る。その際、上側軌道輪試験片1Aと保持器試験片2との間にすべりが生じて、図8に示すように、保持器試験片2の上側案内面(試験中に上側軌道輪試験片1側にあった案内面)23aが摩耗することになる。これに伴う厚さの減少量Ma を測定して案内面摩耗量とした。
【0020】
また、保持器試験片2のポケット22は常にボール3を押す形でボール3と接するため、ボール3とポケット22との間にすべりが生じて、図7に示すように、ポケット22の回転方向後側22aが摩耗する。これに伴うポケット22直径の増加量MP =D15−D5 を測定してポケット摩耗量とした。
なお、溶融亜鉛に対する比重が1より大きい保持器試験片2は、摩耗試験中、下側の軌道輪試験片1Bに接触しながら回るため、上記とは反対に、保持器試験片2の下側案内面23bとポケット22の回転方向前側が摩耗する。
【0021】
各摩耗量の許容値は、転動体であるボールの直径Da を基準にし、摩耗量が時間に対して直線的に増加すると仮定して、連続二週間運転した時に、ポケット摩耗量に関しては直径Da の30%以下、案内面摩耗量に関しては直径Da の10%以下となるものとした。
そして、使用したボールの直径はDa =3/8インチ=9.525mmであり、今回の摩耗試験は72時間(=3日間)であるためこれを換算して、
ポケット摩耗量については、
9.525×0.30×(3/14)=0.61mm以下
案内面摩耗量については、
9.525×0.10×(3/14)=0.20mm以下
であれば合格とした。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
また、TaとC(黒鉛)との複合材料により粉末均一混合型に作製した保持器試験片を組み込んだ試験体(実施例5〜9、比較例1〜5,7)について、各摩耗試験の結果を整理したグラフを図9に示す。
これらの結果より、保持器試験片の溶融亜鉛に対する比重が0.8〜1.2である実施例1〜10の各試験体は、ポケット摩耗量および案内面摩耗量のいずれの結果においても許容値内に入っていることが分かる。また、保持器試験片の溶融亜鉛に対する比重が0.8未満か1.2を越えて大きい比較例1〜9の各試験体は、案内面摩耗量については許容値内に入っているが、ポケット摩耗量については許容値より大きな値となっている。なお、比較例10に関しては、保持器試験片の溶融亜鉛に対する比重は1.1で本発明の範囲内であるが、SUS304の溶融亜鉛に対する耐食性が不十分であることから摩耗量が大きくなったと考えられる。
【0025】
一方、実施例2〜4,7,10について、前述の摩耗試験後にボール3の摩耗量を測定した結果を表4に示す。これらの実施例では、保持器試験片2を複合材料で作製し、複合材料を構成する密度の小さい物質として、実施例2はMoS2 、実施例3と実施例7はC(黒鉛)、実施例4はh−BN、実施例10はSi3 N4 とAl2 O3 をそれぞれ使用している。
【0026】
【表4】
【0027】
表4の結果から分かるように、固体潤滑剤であるMoS2 ,C(黒鉛),h−BNを保持器試験片の材料に含む実施例2〜4および7は、固体潤滑剤を含まない実施例10と比べてボールの摩耗量が著しく小さく、特に黒鉛を含む実施例3および7では摩耗が見られなかった。
したがって、保持器材料を複合材料で構成する場合には、密度の小さい物質として固体潤滑剤、特に黒鉛を用いることが、ボールの摩耗量を小さく抑える上で好ましい。
【0028】
なお、実施例1の補強型に相当する転がり軸受の構造の例を図10および11に示した。図10は深みぞ玉軸受、図11は円筒ころ軸受の例であり、二分割された保持器9をTa製のリベットRで締結している。この保持器9は本体41とその両側面を補強する側板51とで構成され、本体41(ポケット面を含む)は黒鉛またはC/Cコンポジットからなり、側板51はTaからなる。
【0029】
以上の実施例1〜10および比較例1〜10では、溶融金属が溶融亜鉛である場合について述べているが、本発明は、溶融亜鉛以外の溶融金属中で使用される転がり軸受についても適用されるものである。そこで、当該転がり軸受の使用環境が溶融亜鉛以外の溶融金属中である場合の実施例(実施例11〜13)について以下に述べる。
【0030】
実施例11の溶融金属は、亜鉛アルミニウム合金メッキの代表的なメッキ浴に相当する、Alを55重量%、Znを43.4重量%、Siを1.6重量%含有するものである。また、実施例12,13の溶融金属は、溶融アルミニウムである。
前記実施例1〜10および比較例1〜10と同様の軌道輪試験片1A,1Bと、保持器試験片2と、ボール3とにより、同様の図5に示すような転がり軸受の磨耗試験用試験体Sを作製し、前記と同様にして、ポケット磨耗量と案内面磨耗量とボール磨耗量とを測定した。各試験体の保持器試験片の組成、使用環境である溶融金属の種類、および当該溶融金属に対する保持器試験片の比重と、前記各磨耗量の測定結果とについて、下記の表5にまとめて示す。
【0031】
【表5】
【0032】
表5に示すように、これらの実施例では、溶融金属に対する保持器試験片の比重が0.8〜1.2の範囲内であるため、保持器試験片のポケット磨耗量および案内面磨耗量のいずれの値も前述の許容値内に入っている。また、いずれの実施例も保持器試験片に黒鉛を含むものであるため、ボール磨耗量が“0”となる高い耐磨耗性が得られた。
【0033】
なお、溶融メッキ浴として使用される溶融金属としては、前記表1に示したものや前述の実施例11で使用したZn−55%Al−1.6%Si以外にも、例えば、Zn−0.15%Al、Zn−4.1%Al−0.09%Mg、Al−9%Si、Zn−55%Al−1.5%Si等がある。これらについても、使用する転がり軸受の保持器を、対応する各溶融金属に対する比重が0.8〜1.2となるように作製することにより、当該溶融金属中での使用において保持器の耐磨耗性を向上することができる。
【0034】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、溶融金属中で使用される転がり軸受の保持器を、前記溶融金属に対する比重が0.8〜1.2である材料で構成することにより、保持器の耐摩耗性が向上する。その結果、溶融金属中で使用される転がり軸受の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において使用した摩耗試験用試験体を構成する軌道輪試験片の正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】実施例において使用した摩耗試験用試験体を構成する保持器試験片の正面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】実施例における摩耗試験の概要を示す概要図である。
【図6】実施例1の保持器試験片の断面図である。
【図7】保持器試験片のポケット摩耗量の説明に関する図であり、図3のE−E線断面図に相当する。
【図8】保持器試験片の案内面摩耗量の説明に関する図であり、図3のF−F線断面図に相当する。
【図9】TaとC(黒鉛)との複合材料により粉末均一混合型に作製した保持器試験片を組み込んだ試験体(実施例5〜9、比較例1〜5,7)について、各摩耗試験の結果を整理したグラフである。
【図10】実施例1の補強型に相当する転がり軸受の構造の一例を示す概要図である。
【図11】実施例1の補強型に相当する転がり軸受の構造の一例を示す概要図である。
【符号の説明】
1,1A,1B軌道輪試験片
2 保持器試験片
3 ボール(転動体)
8 溶融亜鉛(溶融金属)
9 保持器
S 転がり軸受の摩擦試験用試験体
Claims (3)
- 溶融金属中で使用される転がり軸受において、当該転がり軸受の保持器を、Ta,W,Mo,Nb,Re,Os,Ir,Pt,またはAuである金属、これらの金属を含む合金、前記金属の炭化物、ホウ化物、窒化物から選択された材料からなる密度の大きな物質と、黒鉛、C/Cコンポジット、セラミックス、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、CaF 2 /BaF 2 、または酸化クロムからなる密度の小さな物質とを組み合わせて、前記溶融金属に対する比重を0.8〜1.2とした複合材料で構成したことを特徴とする転がり軸受。
- 前記保持器は、前記密度の大きな物質および前記密度の小さな物質からなる混合粉末を加圧焼結して得られた焼結体からなるものである請求項1記載の転がり軸受。
- 前記密度の小さな物質は固体潤滑剤である請求項1または2記載の転がり軸受。
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