JP3565823B2 - 粉体食品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、揮発性芳香物質を粉体食品に移行させることによりフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、レギュラーコーヒー(焙煎コーヒー豆)を粉砕したコーヒー材料や、茶葉(緑茶、焙じ茶、紅茶、烏龍茶、ハーブティー等)等の粉体食品は、これら粉体食品に熱湯や水などの抽出原液を加水して濾布やメッシュ等の濾材により濾過抽出することによって抽出液を得ていた。そして、この抽出液をそのまま、或いは、例えばコーヒー材料から得られた抽出液であれば、糖類、乳類及び水等と共に所望の濃度に調整されてコーヒー飲料として飲用に供されていた。また、粉体状のインスタントコーヒー粉体等の粉体食品においては、前記抽出原液を加水してインスタントコーヒー粉体を溶解させ、前記コーヒー材料から得られた抽出液の場合と同様の方法でコーヒー飲料として飲用に供されていた。
【0003】
インスタントコーヒー粉体は、フリーズドライ製法等により製造されたものであるが、レギュラーコーヒーを粉砕したコーヒー材料と比べてコーヒーが本来有している芳香(フレーバー)が不足していることが知られていた。このフレーバーの不足は、インスタントコーヒー粉体を収容している収容容器を開封した際等に前記収容容器中から雰囲気中へと拡散したフレーバーを喫飲者等の消費者が嗅いだ時等に感じられる。このようなインスタントコーヒー粉体のフレーバーが不足していると感じられる理由としては、前記フリーズドライ製法等の製造工程中において揮発性芳香物質が散逸することに起因していると考えられる。
【0004】
従って、インスタントコーヒー粉体から得られたコーヒー飲料においても、上述したフレーバーの不足により、レギュラーコーヒーを粉砕したコーヒー材料から得られたコーヒー飲料より風味等の点において物足りなさを感じている喫飲者が存在している。
【0005】
そのため、レギュラーコーヒーを粉砕したコーヒー材料に匹敵するようなフレーバーを有するインスタントコーヒー粉体を供することが広く望まれており、これを解決する技術として、インスタントコーヒー粉体の製造後にコーヒー芳香等のフレーバーを付与する技術が知られていた。
【0006】
このような技術として、特表平10−508195号公報には、収容容器にインスタントコーヒー粉体を充填する前または充填中に、収容容器の中に芳香製剤を直接分配(噴霧)し、芳香製剤を収容容器の中に噴霧した直後に収容容器を密封する技術について記載されている。
具体的には、芳香製剤を噴霧するための分配ノズルにより、頂部開口型容器のの内壁側に液状芳香製剤を飛沫の形で噴霧し、芳香製剤が噴霧された頂部開口型容器に充填すべきインスタントコーヒー粉体を充填することが記載されている。そして、容器内壁に噴霧された芳香製剤がインスタントコーヒー粉体に吸収される過程として、芳香製剤の飛沫がこのインスタントコーヒー粉体の塊に吸収され、この様にしてインスタントコーヒー粉体にフレーバーが付与されるとされている。
これにより、芳香製剤の少ない浪費量でインスタントコーヒー粉体にフレーバーを付与できる方法が商業用速度で実行できるとされていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
コーヒー飲料は嗜好飲料としてその需要もますます増大すると共にニーズの多様化が進んでいる。そのため、コーヒー飲料として異なるフレーバーを有する等、多様な品種を提供することが望まれており、インスタントコーヒー粉体の製造ラインにおいても、多種類の品種の製造に対応できるようにする必要がある。
【0008】
上述した特表平10−508195号公報に記載のインスタントコーヒー粉体の製造後にフレーバーを付与する方法によると、製造ラインにおいて、芳香製剤を噴霧するための分配ノズルやポンプ組立体、収容容器の位置を検出するセンサ等の設備が必要とされているために、インスタントコーヒー粉体にフレーバー付与を施すには、複雑かつ大掛かりな製造ラインが必要となる。さらに、この製造ライン、或いはその周辺には、多種類の異なるフレーバーを保存しておくためのスペースや貯蔵容器等も必要となるため設備がより大掛かりなものとなっていた。
従って、上述した構成を有する製造ラインにおいて、多種類の品種の製造に対応できるようにするために異なるフレーバーを付与する場合には、前記分配ノズル等に付着した芳香製剤を洗い落とした後に異なるフレーバーをセットすることになる。そのため、洗浄の手間が発生すると共にこの洗浄の間は製造ラインが停止してしまい、異なるフレーバーを付与する際には迅速な対応ができない。
【0009】
このため、上述した特表平10−508195号公報に記載のインスタントコーヒー粉体の製造後にフレーバーを付与する方法は大量生産には適合した方法であるが、大掛かりな製造ラインを必要とする上に、多種類の品種の製造を行う際には迅速な対応を行い難い、つまり、多品種少量生産にはあまり適さない方法であるという問題点を有していた。
【0010】
従って、本発明の目的は、簡略な製造ラインで多品種少量生産に適合しているフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
〔構成1〕
この目的を達成するための本発明の特徴構成は、
揮発性芳香物質を粉体食品に移行させることによりフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法であって、
予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂でコーティングしてある粉体食品と、予め揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材とを収容容器内に装入する収容工程と、
前記収容工程において前記粉体食品と前記フレーバー含浸基材とが装入された収容容器を密封する密封工程と、
前記密封工程において密封された収容容器を加熱する加熱工程とを有する点にあり、その作用効果は以下の通りである。
【0012】
〔作用効果1〕
つまり、予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂でコーティングしてある粉体食品と、予め揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材とを収容容器内に装入する収容工程を行うことにより、前記粉体食品とフレーバー含浸基材とが同じ容器内に収容されることになる。従って、前記フレーバー含浸基材に含浸している揮発性芳香物質が揮発して前記粉体食品に揮発性芳香物質が移行し易くなり、前記粉体食品にフレーバー付与を施すことができる。前記粉体食品は、予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂でコーティングしてあるため、前記収容容器内で揮発した揮発性芳香物質を前記油脂が吸収し易くなる。これにより、油脂含有量が極めて少ない前記粉体食品においても有効にフレーバー付与が施されることになる。これは、後述の実施例における(f)の実験により確認できる。
【0013】
つまり、(f)の実験では、粉体食品であるインスタントコーヒー粉体に油脂コーティング処理を施した評価試料X5と、油脂コーティング処理を施さない評価試料X6とを同じ揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材でフレーバー付与処理(賦香)し、それぞれの試料から得られたフレーバー成分を測定してフレーバー付与効果を比較したところ、評価試料X5では約80%のフレーバー成分の増加が確認されたのに対して、評価試料X6では約6%のフレーバー成分の増加に留まるという結果が得られている。そのため、前記粉体食品に油脂コーティング処理を施すことにより、顕著なフレーバー付与効果があることが確認されている。
【0014】
そして、前記収容工程において前記粉体食品と前記フレーバー含浸基材とが装入された収容容器を密封する密封工程を行うことにより、確実に前記粉体食品にフレーバーを付与することができる。
【0015】
さらに、前記密封工程において密封された収容容器を加熱する加熱工程を行うことにより、前記収容容器内に装入されている前記フレーバー含浸基材を昇温することができる。そのため、前記フレーバー含浸基材に含浸されている揮発性芳香物質の揮発を促進することができるため、前記粉体食品へのフレーバー付与効果が増大する。これは、後述の実施例における(g)〜(h)の実験結果により確認できる。
【0016】
つまり、(g)〜(h)の実験では、インスタントコーヒー粉体を揮発性芳香物質を含浸したフレーバー含浸基材と共に密封した収容容器を種々の温度条件で加熱した際のフレーバー付与効果を調べている。これによると、密封した収容容器を20℃で加熱した場合のフレーバー成分を100とした時、30〜55℃で加熱した場合のフレーバー成分の相対値は114〜145となる結果が得られている。そのため、密封した収容容器を20℃以上で加熱することにより、明らかにフレーバー付与効果が増大することが確認されている。
【0017】
このように、上述した収容工程、密封工程、及び加熱工程を行うことにより、前記粉体食品に有効にフレーバー付与を施すことができ、従来のように、粉体食品の製造後にフレーバーを付与するための製造ラインにおいて前記分配ノズル等の複雑かつ大掛かりな設備を必要としない。そのため、本発明のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法によると、製造ラインを簡略化できることが期待される。つまり、異なるフレーバーを噴霧する必要がないために前記分配ノズルを設置する必要が無く、フレーバーを保存しておくためのスペース等については、揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材を収容する場所を確保するだけでよく、液状の芳香製剤等と比べて小型化できることにより省スペース化を実現できるため、大掛かりな設備を要しない。さらに、前記分配ノズル等の洗浄が不要となって洗浄コストの発生や製造ラインの停止といった不都合が生じる虞は殆ど無い。
そして、本発明の方法で前記粉体食品に異なるフレーバーを付与する場合には、単に、前記収容工程において、予め揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材を変更するだけで容易に異なるフレーバー付与を施すことができる。この時、前記密封工程及び加熱工程の処理においては、何ら製造ラインを変更する必要はない。
【0018】
従って、本発明のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法は、多種類の品種を少量生産する製造ラインに最適な方法であると考えられ、前記粉体食品に異なるフレーバーを付与する必要が生じた場合には迅速な対応が可能となって、連続的にフレーバー付与処理を施すことができる。
【0019】
また、従来のように芳香物質を前記粉体食品に直接噴霧する構成とは異なるため、芳香物質を直接噴霧すると溶解する等の不具合が発生する粉体食品に対しても有効な為、本発明の方法は、幅広い粉体食品に適用することができる。
【0020】
〔構成2〕
この目的を達成するための本発明の特徴構成は、上記構成1において、
前記加熱工程の後に、前記収容容器を所定温度まで冷却する冷却工程を有する点にあり、その作用効果は以下の通りである。
【0021】
〔作用効果2〕
つまり、前記加熱工程の後に、前記収容容器を所定温度まで冷却する冷却工程を行うと、前記加熱工程における加熱により昇温している収容容器を、素早く所定温度まで冷却することができる。そのため、この冷却工程を経た収容容器は迅速に流通ルートに移行させることができる。
【0022】
〔構成3〕
この目的を達成するための本発明の特徴構成は、上記構成1又は2の何れかにおいて、
前記加熱工程は、常温〜95℃の温度範囲における任意温度で5〜20分加熱する点にあり、その作用効果は以下の通りである。
【0023】
〔作用効果3〕
この構成において、前記加熱工程を、常温〜95℃の温度範囲における任意温度で5〜20分加熱するようにしたことの根拠は、後述の実施例(i)〜(k)に示した官能試験の評価に基づくものである。これら官能試験では、異なる2種類の揮発性芳香物質を用いて賦香したインスタントコーヒー粉体を、20〜95℃の各温度条件において、種々の時間条件で加熱した場合に得られたフレーバー付与効果やインスタントコーヒー粉体の状態を任意のパネラー10人に総合的に評価させることにより行っている。
【0024】
この結果、20℃(常温)〜95℃の温度範囲においては、5〜20分加熱した場合は劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められず、容器加熱後のフレーバー付与効果とインスタントコーヒー粉体の状態も良好な評価が得られたことから、構成3の温度条件及び時間条件により前記加熱工程を行うことで、総合的に良好な官能評価が得られることが確認されている。
【0025】
これより、前記加熱工程は、常温〜95℃の温度範囲における任意温度で5〜20分加熱することにより、優れたフレーバー付与効果が施された前記粉体食品を優れた品質で提供することができると共に、加熱処理の時間が5〜20分であるという条件は、粉体食品の製造ラインにおいては極めて合理的な時間条件であると考えられるため、前記粉体食品を効率よく製造することができる。
【0026】
〔構成4〕
この目的を達成するための本発明の特徴構成は、上記構成3において、
前記温度範囲は、65〜95℃における任意温度である点にあり、その作用効果は以下の通りである。
【0027】
〔作用効果4〕
この構成において、前記加熱工程における温度範囲を65〜95℃における任意温度としたことの根拠は、後述の実施例(i)〜(k)に示した官能試験の評価に基づくものである。これら官能試験の方法は、前述の構成3の作用効果の欄に記載した通りであるが、この時得られた評価結果の内、前記加熱工程における温度範囲が65〜95℃であれば、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められず、容器加熱後のフレーバー付与効果とインスタントコーヒー粉体の状態が最も良好な評価が得られていることから、構成4の条件で前記加熱工程を行うことで、総合的に最も良好な官能評価が得られることが確認されている。
【0028】
これより、前記加熱工程における温度範囲が65〜95℃であれば、前記粉体食品にさらに優れたフレーバー付与効果を施すことができる。
【0029】
〔構成5〕
この目的を達成するための本発明の特徴構成は、上記構成1又は2の何れかにおいて、
前記加熱工程は、
20〜45℃の温度範囲における任意温度で20時間、又は、
20〜65℃の温度範囲における任意温度で5時間、又は、
27.5〜85℃の温度範囲における任意温度で1時間、又は、
45〜85℃の温度範囲における任意温度で40分間、又は、
65〜95℃の温度範囲における任意温度で20分間、又は、
85〜95℃の温度範囲における任意温度で5分間の何れかの条件で加熱する点にあり、その作用効果は以下の通りである。
【0030】
〔作用効果5〕
この構成において、前記加熱工程における加熱温度及び加熱時間条件を、20〜45℃の温度範囲における任意温度で20時間、又は、20〜65℃の温度範囲における任意温度で5時間、又は、27.5〜85℃の温度範囲における任意温度で1時間、又は、45〜85℃の温度範囲における任意温度で40分間、又は、65〜95℃の温度範囲における任意温度で20分間、又は、85〜95℃の温度範囲における任意温度で5分間の何れかの条件としたことの根拠は、後述の実施例(k)に示した官能試験の評価に基づくものである。この官能試験の方法は、前述の構成3の作用効果の欄に記載した通りであるが、この時得られた評価結果の内、前記加熱工程における加熱温度及び加熱時間条件が、20〜45℃の温度範囲における任意温度で20時間、又は、20〜65℃の温度範囲における任意温度で5時間、又は、27.5〜85℃の温度範囲における任意温度で1時間、又は、45〜85℃の温度範囲における任意温度で40分間、又は、65〜95℃の温度範囲における任意温度で20分間、又は、85〜95℃の温度範囲における任意温度で5分間の何れかの条件であれば、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められず、容器加熱後のフレーバー付与効果とインスタントコーヒー粉体の状態が最も良好な結果が得られたことから、上記条件であれば総合的に最も良好な官能評価が得られることが確認されている。
【0031】
これより、前記加熱工程における加熱温度及び加熱時間条件を構成5に記載されている条件で行うことにより、幅広い温度範囲の条件で前記粉体食品に優れたフレーバー付与効果を施すことができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
図1に本発明のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法の概略を示す。本発明の製造工程は、収容工程A、密封工程B、加熱工程Cを有し、好ましくは前記加熱工程Cの後に冷却工程Dを行うことが可能である。以下に、各工程について詳述する。
【0034】
前記収容工程Aは、予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂2でコーティングしてある粉体食品1と、予め揮発性芳香物質4を含浸させてあるフレーバー含浸基材3とを収容容器5内に充填或いは装入する工程である。
【0035】
前記粉体食品1は、本実施例においてはインスタントコーヒー粉体を例示するが、これに限るものではなく、緑茶、紅茶等の茶葉等、粉体状(顆粒状)の食品であれば適用可能である。
【0036】
前記油脂2は、フレーバー及び味が中性で、前記粉体食品1の溶解性に影響を与えず、粉体食品1がインスタントコーヒー粉体ある場合にはインスタントコーヒー粉体と同等の貯蔵寿命を有すると共に、揮発性芳香物質溶解性を有するものであれば使用できる。例えば、粉体食品1がインスタントコーヒー粉体である場合には、コーン油、ココナッツ油、大豆油、ヒマワリ油等の食用油や、コーヒーに天然に存在するコーヒーオイル等が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセライド等の油脂であってもよい。
そしてこのような油脂を前記粉体食品1に薄く覆うように添加することにより、予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂2でコーティングしてある粉体食品1を準備することができる。
【0037】
前記フレーバー含浸基材3は、後述の揮発性芳香物質4を含浸可能な状態のものであれば使用でき、紙材のような繊維質のシート材により構成されるものが好ましく、多孔質の材料により構成されるもの等も適用可能であるが、これらに限られるものではない。
【0038】
前記揮発性芳香物質4は、天然或いは人工の香料が適宜使用される。粉体食品1がインスタントコーヒー粉体である場合には、コーヒーフレーバー、アーモンドフレーバー、へーゼルナッツフレーバー等が好ましい。つまり、前記粉体食品1に相応しいと考えられ、かつ揮発性を有する香料であれば、様々な香料が使用できる。
そして、このような揮発性芳香物質4を前記フレーバー含浸基材3に含浸させ、乾燥した後、適当な大きさにカットされることにより整形される。このようにして予め揮発性芳香物質4を含浸させてあるフレーバー含浸基材3を準備することができる。
尚、本実施例では、フレーバー含浸基材3として紙材を用いているため、予め揮発性芳香物質4を含浸させてあるフレーバー含浸基材3は着香紙6と記載してある。
【0039】
前記収容容器5は、鉄缶類等の金属製やプラスティック等の樹脂製、耐熱ガラス製、紙製等の容器、或いは、ビニールパック等の樹脂製の袋状の容器等が適用可能であり、密封可能なものであれば使用できる。
【0040】
このように、予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂2でコーティングしてある粉体食品1と、予め揮発性芳香物質4を含浸させてあるフレーバー含浸基材3(着香紙6)とを前記収容容器5内に充填或いは装入する。この時、当該粉体食品1と当該着香紙6とを前記収容容器5内に装入する順番については何れが先であってもよい。図1には、前記着香紙6を前記収容容器5内に装入固定した後、当該粉体食品1を充填する場合を例示している。
前記着香紙6は、前記収容容器5の底面、あるいは側面に嵌合等により固定することにより装入することが可能である。この時、嵌合による固定であれば、接着剤や熱圧着により固定する場合と異なり、フレーバー成分の変質劣化、散逸が発生し難いため、好ましい。
【0041】
前記密封工程Bは、前記収容工程Aにおいて前記粉体食品1と前記フレーバー含浸基材3とが装入された収容容器5を密封する工程である。
つまり、揮発性芳香物質溶解性を有する油脂2でコーティングしてある粉体食品1と、揮発性芳香物質4を含浸させてあるフレーバー含浸基材3(着香紙6)とが装入してある収容容器5を密封するのであるが、この密封方法は、例えば鉄缶類の容器であれば収容容器本体と蓋材等とを嵌合させて雰囲気の流入が生じないように密閉することにより、また、樹脂製の袋状の容器であれば熱シール等の既知の方法を適用することにより行われる。
【0042】
前記加熱工程Cは、前記密封工程Bにおいて密封された収容容器5を加熱する工程である。
このように、密封された収容容器5を加熱することにより、前記収容容器5内に装入されている前記着香紙6を昇温することができるため、前記着香紙6に含浸されている揮発性芳香物質4の揮発が促進され、前記粉体食品1へのフレーバー付与効果が増大する。この時、加熱温度や加熱時間等の条件は、以下の実施例において詳述する。
【0043】
前記冷却工程Dは、前記加熱工程Cの後に、前記収容容器5を所定温度まで冷却する工程である。前記所定温度は、適宜設定することが可能であるが、通常、4〜20℃程度が好ましい温度範囲である。
【0044】
【実施例】
(a)容器開封時におけるフレーバーの揮散の様子及びフレーバーの持続性
本発明の製造方法によりフレーバー付与が施された粉体食品1(インスタントコーヒー粉体)において、収容容器5開封時のフレーバーの揮散の様子及びフレーバーの持続性について調べた。
【0045】
図2に、着香紙6から収容容器内にフレーバーが移行する様子の模式図を示した。
密封された収容容器5内では、前記着香紙6から揮発するフレーバーがインスタントコーヒー粉体(I/C)に移行し、前記収容容器5のヘッドスペース51には、フレーバー成分が拡散し充満する。(図2(a))
【0046】
インナーシール52、上蓋53を外して収容容器5を開封した時、前記ヘッドスペース51に充満していたフレーバーが雰囲気中に揮散する。(図2(b))
【0047】
前記上蓋53を閉じて密封することにより、前記着香紙6から揮発するフレーバーがインスタントコーヒー粉体に移行し、前記収容容器5のヘッドスペース51には、フレーバーが拡散し充満する。(図2(c))
【0048】
このように、開封時にフレーバーが雰囲気中に揮散したとしても、再度の密封後には、前記着香紙6から揮発するフレーバーがインスタントコーヒー粉体に移行すると共に、ヘッドスペース51にはフレーバーが拡散し充満するために、開封時のフレーバー付与効果だけでなく、使い切るまでフレーバーを持続性することも期待できる。
【0049】
(b)官能試験による評価
着香紙6によるフレーバー付与効果については、以下の官能試験を行うことにより評価を行った。
粉体食品1としてフリーズドライ製法により製造されたインスタントコーヒー粉体を使用し、着香紙6は、直径65mmの円形に整形した紙材に揮発性芳香物質4としてコーヒーフレーバー0.15gを均一にスプレーすることにより準備し、収容容器5は、円筒状の紙容器(アルミ、樹脂含有 内径65.4mm、内高141.5mm)を使用した。この着香紙6を紙容器の底部に装入し、次いで前記インスタントコーヒー粉体100gを紙容器に充填したものを評価試料X1とした。
また、紙容器に前記インスタントコーヒー粉体100gのみを充填したもの標準試料S1とした。
【0050】
評価方法は、任意に抽出した10人のパネラーに標準試料S1を与えて香りを記憶させ、次に、標準試料S1と評価試料X1とをブラインドで与えて標準試料S1を指摘させる方法により行った。結果を以下に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の結果より、標準試料Sと評価試料Xとは明確に区別されることが判明した。これは、パネラーの判断理由より、着香紙6より揮発したコーヒーフレーバーの香りが雰囲気中に揮散した際の香りにより、評価試料Xを明確に特定することができたためであると考えられる。
【0053】
(c)ヘッドスペース中のフレーバー成分
上述した官能試験による評価と同様の標準試料S1と評価試料X1とを用いて前記ヘッドスペース51中に含まれるフレーバー成分を測定した。この時、前記ヘッドスペース51の高さは30mmであり、標準試料S1と評価試料X1共に密封後3時間経過した時のヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分をサンプルとした。測定はガスクロマトグラフィー分析により行った。測定結果を図3((a)評価試料X1、(b)標準試料S1)に示した。
測定条件は以下の通りである。
【0054】
【表2】
【0055】
この結果より、評価試料X1のフレーバー成分量の検出強度(840758mV)は標準試料S1のフレーバー成分量の検出強度(114614mV)と比較して約7.3倍であるため、評価試料X1にはこの増大分に相当するフレーバー成分量の増大が認められることが判明した。これにより、着香紙6の装入によって評価試料X1のフレーバー成分量が増加することが確認された。
【0056】
(d)開封後に再度密封した時のヘッドスペース中のフレーバー成分
上述した評価試料X1を用いて開封後に再度密封し、前記ヘッドスペース51中に含まれるフレーバー成分を測定した。
サンプルは、密封後3時間経過した時のヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分を評価試料X1のサンプルとし、開封後15時間開放放置後に再密封し、再密封後3時間経過した時のヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分を評価試料X2のサンプルとした。測定は、上記ガスクロマトグラフィー分析と同様の方法により行った。測定結果を図4((a)評価試料X1、(b)評価試料X2)に示した。
【0057】
この結果より、評価試料X2のフレーバー成分量の検出強度(685846mV)は、評価試料X1のフレーバー成分量の検出強度(840758mV)より約12%減少したものの、前記標準試料S1のフレーバー成分量の検出強度(114614mV)と比べると明らかに有意なフレーバー成分量の増大(約6倍)が認められることが判明した。
【0058】
(e)粉体食品の違いによるフレーバー付与効果の違い
粉体食品1の違いによるフレーバー付与効果の違いを調べた。粉体食品1として、レギュラーコーヒーを粉砕したコーヒー材料(R/C)を評価試料X3とし、インスタントコーヒー粉体(I/C)を評価試料X4とした。
【0059】
着香紙6は、直径65mmの円形に整形した紙材に揮発性芳香物質4としてアーモンドフレーバー0.4gを均一にスプレーすることにより準備した。収容容器5は、上述した(b)で使用した形態と同様のものを使用した。
評価試料X3(R/C)は、ヘッドスペース51が40mmになるように125gの試料を充填し、密封後9日目にヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分量を測定した。図5(a)の上段に測定結果を示した。
評価試料X4(I/C)は、ヘッドスペース51が30mmになるように100gの試料を充填し、密封後30日目にヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分を測定した。図5(b)の上段に、測定結果を示した。
尚、図5(a)(b)の下段の測定結果は、それぞれの粉体食品1において、上記着香紙6(アーモンドフレーバー賦香)によるフレーバー付与を施さない(つまり着香紙6を収容容器5内に装入しない)コントロールの試料のヘッドスペース51に含まれるフレーバー成分を測定したものである。
測定は、ヘッドスペース−ガスクロマトグラフィー分析(HS−GC)により行った。測定条件は以下の表3に示した。
【0060】
【表3】
【0061】
この結果より、フレーバー成分量の増大とフレーバー由来と考えられるピーク(図5中、矢印)が検出されたことより、着香紙6によるフレーバー付与効果が確認された。
また、フレーバー成分の増加量は、評価試料X3(R/C)の検出強度(7012575mV)においては、アーモンドフレーバー賦香していないコントロール(図5(a)下段)の検出強度(2161935mV)の約3.2倍であったため、この増大分に相当するフレーバー成分量の増大が認められることが判明した。
さらに、評価試料X4(I/C)の検出強度(1737946mV)においては、アーモンドフレーバー賦香していないコントロール(図5(b)下段)の検出強度(1356021mV)の約1.3倍であったため、この増大分に相当するフレーバー成分量の増大が認められることが判明した。
【0062】
つまり、粉体食品1として、レギュラーコーヒーを粉砕したコーヒー材料を使用した場合と共に、インスタントコーヒー粉体を使用した場合であっても、フレーバー付与効果は認められたものの、インスタントコーヒー粉体を使用した場合においては、密封してから測定するまでの期間(評価試料X3:30日目)がレギュラーコーヒーを使用した場合(評価試料X4:9日目)よりも長いことにもかかわらず、フレーバー付与効果は弱いことが判明した。
【0063】
(f)油脂コーティングによるフレーバー付与効果の改善
油脂で粉体食品1にコーティングを施すことによるフレーバー付与効果がどのように改善されるかを調べた。
【0064】
粉体食品1は、フリーズドライ製法により製造されたインスタントコーヒー粉体40gを使用した。収容容器5は内径65.4mm、内高91.5mmの円筒状紙容器を使用した。着香紙6は、ヘーゼルナッツフレーバー3gを均一にスプレーしたものを使用し、乾燥後、縦55.0mm、横204.0mmの長方形に整形することにより準備した。コーティング処理に使用した油脂は、中鎖脂肪酸トリグリセライドを5重量%になるように前記インスタントコーヒー粉体にコーティングした。
そして、上述の着香紙6を、前記収容容器5の容器内側面に装入することにより設置し、油脂コーティング処理を施したインスタントコーヒー粉体を前記収容容器5内に充填した。この時、ヘッドスペース51は、内高が46.5mmであった。充填後、前記収容容器5を密封し(評価試料X5)、密封後30日目にヘッドスペース51に拡散しているフレーバー成分量を測定した。測定は、HS−GCにより行い、測定条件は、以下の表4に示した。
【0065】
【表4】
【0066】
図6(a)に、油脂コーティング処理を施したインスタントコーヒー粉体を充填した試料(評価試料X5)のヘッドスペース51のフレーバー成分量を測定した結果を示した。この時の検出強度は、10691200mVであった。
図6(b)に、上記の油脂コーティング処理を施さず、前記着香紙6(ヘーゼルナッツフレーバー賦香)でフレーバー付与を施したインスタントコーヒー粉体を充填した試料(評価試料X6)のヘッドスペース51のフレーバー成分量を測定した結果を示した。この時の検出強度は、6245813mVであった。
図6(c)に、油脂コーティング処理及びフレーバー付与を施さないコントロールの試料(標準試料S2)のヘッドスペース51中に含まれるフレーバー成分量を測定した結果を示した。この時の検出強度は、5878855mVであった。
尚、図6(a)(b)においては、フレーバー成分量の増大とフレーバー由来と考えられるピーク(図6中、矢印)が検出された。
【0067】
この結果より、油脂コーティング処理を施したインスタントコーヒー粉体を充填した試料(評価試料X5)のヘッドスペース51のフレーバー成分が最も増大した結果となり、油脂コーティング処理を施すことによるインスタントコーヒーへのフレーバー付与効果が確認された。コントロールの試料(標準試料S2)に対するフレーバー成分の増加量は、評価試料X5が約80%(10691200/5878855)、評価試料X6が約6%(6245813/5878855)であり、油脂コーティング処理を施すことにより、顕著なフレーバー付与効果があることが確認された。
【0068】
(g)密封した収容容器を加熱することによるフレーバー付与効果の改善
粉体食品1及び着香紙6を収容容器5に充填して密封後、この密封した容器を加熱工程において加熱することによるフレーバー付与効果の変動について調べた。
粉体食品1(中鎖脂肪酸トリグリセライドによる油脂コーティング処理を施したインスタントコーヒー粉体)、収容容器5、着香紙6(ヘーゼルナッツフレーバー賦香)は、上述の(f)と同様の構成とした。
前記インスタントコーヒー粉体、前記着香紙6を収容容器5に充填及び装入して密封後、この密封した容器を以下に示す各温度で15時間加熱し(加熱工程)、その後、20℃(常温)で30分間冷却する処理(冷却工程)を行った。そして、密封してから16時間後にヘッドスペース51に拡散しているフレーバー成分量を測定した。測定はHS−GCにより行い、測定条件は、以下の表5に示した。
【0069】
【表5】
【0070】
図7(a)に、55℃で加熱した場合(評価試料X7)の結果を示した。
尚、図7(b)は、上記着香紙6(ヘーゼルナッツフレーバー賦香)によるフレーバー付与を施さず、収容容器5、粉体食品1等の構成は評価試料X7と同様であるコントロールの試料(標準試料S3)のヘッドスペース51中に含まれるフレーバー成分量を測定したものである。測定は、密封後20℃に放置し、その16時間後に表5に記載の条件と同様の条件で行った。
【0071】
評価試料X7と標準試料S3との検出結果を比較すると、標準試料S3には無いフレーバー成分量の増大とフレーバー由来と考えられるピーク(図7中、矢印)が評価試料X7には検出されたことより、フレーバー付与効果が確認された。
【0072】
また、5、20、35、40℃の各温度(図示せず)においても、同様のピークが検出されたため、これらピーク面積を比較することによりフレーバー成分の増加量を相対的に算出した。
この結果、20℃加熱した時のフレーバー成分量を100とした時の各温度におけるフレーバー成分量の相対値は、以下のようになった。
【0073】
【表6】
【0074】
これより、密封した収容容器を20℃(常温)以上で加熱することにより、フレーバー付与効果が良好に改善されることが判明した。
【0075】
(h)密封した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバー付与効果
上述した実験により、密封した収容容器を20℃(常温)以上に加熱することによりフレーバー付与効果が良好に改善されることが判明したため、20℃以上の種々の温度条件で加熱し、さらに加熱時間を種々変更した場合のフレーバー付与効果を調べた。
【0076】
粉体食品1は、フリーズドライ製法により製造されたインスタントコーヒー粉体50gを使用した。収容容器5は内径65.4mm、内高91.5mmの円筒状紙容器を使用した。着香紙6は、ヘーゼルナッツフレーバー3gを均一にスプレーしたものを使用し、乾燥後、縦70.0mm、横204.0mmの長方形に整形した。コーティング処理に使用した油脂は、中鎖脂肪酸トリグリセライドを1.5重量%になるように前記インスタントコーヒー粉体にコーティングした。
そして、上述の着香紙6を、前記収容容器5の容器内側面に装入することにより設置し、油脂コーティング処理を施したインスタントコーヒー粉体を前記収容容器5内に充填した。この時、ヘッドスペース51は、内高が21.5mmであった。充填後、前記収容容器5を密封し、この密封した容器を以下に示す各温度条件、及び各時間条件で加熱し、その後、4℃で30分間冷却する処理を行った。そして、冷却後にヘッドスペース51に拡散しているフレーバー成分量を測定した。測定はHS−GCにより行い、測定条件は、上記の表5に記載されている条件と同様の条件にて行った。
【0077】
測定結果を表7に示した。結果は、上述の(g)と同様に、標準試料S3には無いフレーバー成分量の増大とフレーバー由来と考えられるピークのピーク面積を算出し、20℃、5分加熱時のフレーバー成分量を100とした時の相対値で示した。表中の「ND」表示は、インスタントコーヒー粉体が固化したため、測定できなかったことを示すものである。
【0078】
尚、表7中に記載の加熱温度は、例えば、20℃の表記は、20〜27.5℃の温度範囲で得られる結果は同様の傾向を示すため、その温度範囲の任意温度の一例として20℃と表記したものである。以下同様に、
35℃の表記は、27.5〜45℃の温度範囲の任意温度の一例、
55℃の表記は、45〜65℃の温度範囲の任意温度の一例、
75℃の表記は、65〜85℃の温度範囲の任意温度の一例、
95℃の表記は、85〜95℃の温度範囲の任意温度の一例として、それぞれ表記したものである。
さらに、参考資料として表8に前記収容容器5加熱中における容器内温度(上段:容器内中心温度、下段:容器内壁温度)を示し、図12に各加熱温度における容器内温度の推移を示した。尚、図11には、この時測定した収容容器5内の温度測定部位を示した。
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
表7の結果より、20〜95℃の各温度条件において、種々の時間条件で加熱した場合であっても、相対値は何れも100以上であるためフレーバー付与効果が明らかに増大していることが判明した。特に、表7中で95℃と表記される温度範囲のフレーバー付与効果が各加熱時間条件内で最大となり、20℃と表記される温度範囲の結果と比較すると、約7〜10倍となっていた。
【0082】
(i)密封した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバーの官能評価1
上述した20〜95℃の各温度条件において、種々の時間条件で加熱した場合に得られたフレーバーの評価を、官能試験を行うことにより行った。
評価方法は、インスタントコーヒー粉体2gに抽出原液として熱水140mLを加水して溶解させた溶解液に基づき、容器加熱後のフレーバー付与効果とインスタントコーヒー粉体の状態との両方を総合的に評価することにより行った。結果は、任意に抽出した10人のパネラーによる4段階評価(◎:最も好ましい、○:好ましい、△:やや好ましい、×:好ましくない)で表示した。図8に結果を示した。
【0083】
この結果より、75℃で20時間加熱した場合、及び、95℃で40分以上加熱した場合には、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められた。
また、55℃で20時間加熱した場合、及び、75℃で5時間加熱した場合には、僅かに劣化臭が認められた。しかし、これ以外の条件では、良好な官能評価が得られた。
【0084】
(j)密封した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバーの官能評価2
上記官能評価は、着香紙6をヘーゼルナッツフレーバーで賦香した時の評価であるが、着香紙6をコーヒーフレーバーで賦香した時の評価を行った。実験手順は、着香紙6をコーヒーフレーバーとすること以外は、上記(h)〜(i)に記載されている諸条件に従って行った。図9に結果を示した。
【0085】
この結果より、75℃で5時間以上加熱した場合、及び、95℃で40分以上加熱した場合には、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められた。
また、55℃で5時間以上加熱した場合、及び、75℃で1時間加熱した場合には、僅かに劣化臭が認められた。しかし、これ以外の条件では、良好な官能評価が得られた。
【0086】
(k)総合評価
上述した(i)〜(j)の官能評価を総合的に評価した。
【0087】
上述した(i)のヘーゼルナッツフレーバーで賦香した場合と、(j)のコーヒーフレーバーで賦香した場合とでは、55℃で5時間加熱した時、及び、75℃で1及び5時間加熱した時の評価が異なるのみで、その他の条件では、同一の評価が得られている。上記(i)〜(j)は4段階評価であったが、この総合評価は3段階で行い、結果を図10に示した。
【0088】
この総合評価によると、20〜95℃の温度範囲における任意温度であれば、5〜20分加熱することにより、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められず、フレーバー付与効果が好ましい、又は、最も好ましい結果が得られることが判明した。
この時、加熱処理の時間が5〜20分であるという条件は、インスタントコーヒー粉体の製造ラインにおいては極めて合理的な時間条件であると考えられる。
【0089】
そして、この条件のうち、前記温度範囲が65〜95℃における任意温度であれば、容器加熱後のフレーバー付与効果が最も良好な結果が得られていることから、総合的に最も良好な官能評価が得られることが判明した。
【0090】
さらに、前記加熱工程における加熱温度及び加熱時間条件が、
20〜45℃(図10の表記は20〜35℃)の温度範囲における任意温度で20時間、又は、
20〜65℃(図10の表記は20〜55℃)の温度範囲における任意温度で5時間、又は、
27.5〜85℃(図10の表記は35〜75℃)の温度範囲における任意温度で1時間、又は、
45〜85℃(図10の表記は55〜75℃)の温度範囲における任意温度で40分間、又は、
65〜95℃(図10の表記は75〜95℃)の温度範囲における任意温度で20分間、又は、
85〜95℃(図10の表記は95℃)の温度範囲における任意温度で5分間の何れかの条件であれば、劣化臭やインスタントコーヒー粉体の変色、固化が認められず、容器加熱後のフレーバー付与効果とインスタントコーヒー粉体の状態が最も良好な結果が得られていることから、上記条件であれば総合的に最も良好な官能評価が幅広い温度範囲の条件で得られることが判明した。
【0091】
以上に記載したように、本発明のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法は、加熱工程の加熱温度及び加熱時間条件を適切に設定することにより、収容容器開封時のフレーバー特性を強化することができる。
また、容器開封後に順次消費していく粉体食品であってもそのフレーバー付与効果が持続する方法であり、インスタントコーヒー粉体のような油脂含有量の極めて少ない粉体食品であっても、収容容器から取出した際、及び、抽出原液を加水して粉体を溶解させてコーヒー飲料として飲用する際にも、顕著なフレーバー効果を喫飲者に与えることができる。
【0092】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、同様の作用効果を奏するものであれば、各部構成を適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法の概略を示した図
【図2】収容容器内にフレーバーが移行する様子を示した図
【図3】評価試料X1及び標準試料S1のヘッドスペース中に含まれるフレーバー成分の測定結果を示した図
【図4】評価試料X1及び評価試料X2のヘッドスペース中に含まれるフレーバー成分の測定結果を示した図
【図5】評価試料X3及び評価試料X4のヘッドスペース中に含まれるフレーバー成分の測定結果を示した図
【図6】評価試料X5及び評価試料X6及び標準試料S2のヘッドスペース中に含まれるフレーバー成分の測定結果を示した図
【図7】評価試料X7及び標準試料S3のヘッドスペース中に含まれるフレーバー成分の測定結果を示した図
【図8】ヘーゼルナッツフレーバー賦香処理した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバーの官能評価を示した図
【図9】コーヒーフレーバー賦香処理した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバーの官能評価を示した図
【図10】ヘーゼルナッツフレーバー及びコーヒーフレーバー賦香処理した収容容器の加熱条件の変動におけるフレーバーの官能評価を総合的に評価した図
【図11】収容容器内の温度測定部位を示した図
【図12】各加熱温度における収容容器内温度の推移を示した図
【符号の説明】
1 粉体食品
2 油脂
3 フレーバー含浸基材
4 揮発性芳香物質
5 収容容器
6 着香紙
A 収容工程
B 密封工程
C 加熱工程
D 冷却工程
Claims (5)
- 揮発性芳香物質を粉体食品に移行させることによりフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法であって、
予め揮発性芳香物質溶解性を有する油脂でコーティングしてある粉体食品と、予め揮発性芳香物質を含浸させてあるフレーバー含浸基材とを収容容器内に装入する収容工程と、
前記収容工程において前記粉体食品と前記フレーバー含浸基材とが装入された収容容器を密封する密封工程と、
前記密封工程において密封された収容容器を加熱する加熱工程とを有するフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法。 - 前記加熱工程の後に、前記収容容器を所定温度まで冷却する冷却工程を有する請求項1に記載のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法。
- 前記加熱工程は、常温〜95℃の温度範囲における任意温度で5〜20分加熱する請求項1又は2の何れかに記載のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法。
- 前記温度範囲は、65〜95℃における任意温度である請求項3に記載のフレーバー付与が施される粉体食品の製造方法。
- 前記加熱工程は、
20〜45℃の温度範囲における任意温度で20時間、又は、
20〜65℃の温度範囲における任意温度で5時間、又は、
27.5〜85℃の温度範囲における任意温度で1時間、又は、
45〜85℃の温度範囲における任意温度で40分間、又は、
65〜95℃の温度範囲における任意温度で20分間、又は、
85〜95℃の温度範囲における任意温度で5分間の何れかの条件で加熱する請求項1又は2の何れかに記載のフレーバー付与を施す粉体食品の製造方法。
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