JP3563755B2 - 新規パン酵母 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は冷凍耐性であり、かつインベルターゼ活性が低い新規パン酵母及びこれを用いた冷凍生地に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年における冷凍生地製パン技術は、新鮮パンの提供、製パン工程の節約(労働力の節約)・夜間・早朝作業の廃止等の労務対策上の問題解決等の大きな長所から製パン分野で注目されている。冷凍生地は小麦粉、砂糖、食塩、油脂、水等のパン原料を混合、発酵、成型し−20℃前後で凍結保存され、必要に応じて解凍し、ホイロ発酵を行って焼成される。
【0003】
通常のパン酵母を用いて調製したパン生地を冷凍すると、冷凍保存期間中に冷凍障害を受け発酵力が低下し死滅することが多く、ホイロ発酵時間の遅延、パンボリュームの低下を引き起こすことが知られている。
【0004】
そこで冷凍生地製造に際しては、冷凍保存しても損傷を受けにくい、所謂、冷凍耐性に優れたパン酵母が必要とされてきた。例えば、サッカロミセス・ロゼイ(特公昭59ー25586号公報)、サッカロミセス・セレビシエFTY(FRY−413)(特公昭59ー48607)、サッカロミセス・セレビシエIAM4274(特開昭和59ー203442)、サッカロミセス・セレビシエKYF110(特開昭62ー208273)、サッカロミセス・セレビシエFTY−3(特公平4−20595)等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特に日本国においては、非常に高い砂糖分を含有するパン生地から調製される菓子パン等が好まれるが、高い砂糖分を含有するパン生地のパン酵母は発酵力の低下が見られ、やはりホイロ発酵時間の遅延、パンボリュームの低下を引き起こすことが知られている。
【0006】
上記の如く公知の冷凍耐性のパン酵母は、砂糖耐性が殆どないか、良くても中糖生地までにしか使用されず、高糖生地において使用することはかなり困難であった。
したがって本発明の目的は、冷凍耐性を有するとともに、高糖生地においても使用することができる新規なパン酵母を開発することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の問題点を解決すべく、菌株の改良を種々検討した結果、従来のパン酵母に対して、好ましい冷凍耐性と高糖生地における砂糖耐性を有する菌株を取得することに成功し、しかもこの菌株の有するインベルターゼ活性が従来のパン酵母に比べて極めて低いことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、冷凍耐性を有し、かつ冷凍前菌体のインベルターゼ活性が砂糖を発酵に利用し得る最低限の砂糖分解能力を少なくとも示す活性値であって、200U/g(生菌体)以下であることを特徴とするパン酵母である。
また本発明は、冷凍耐性を有し、かつ砂糖分が35%の高度高糖生地における38℃1時間の発酵で発生する炭酸ガス発生量が、少なくとも45ml以上であることを特徴とするパン酵母である。
【0009】
冷凍耐性とは、冷凍により障害を受けないか、受けにくいことをいう。調製した生地を、冷凍前に30℃60分間前発酵させ、さらにその生地を−20℃14日間冷凍し、38℃20分間解凍後、38℃60分間に発生する炭酸ガス量を測定し、冷凍後の発酵力とする。一方、同じ生地を30℃60分間前発酵させ、冷凍しないで、38℃60分間に発生する炭酸ガス量を測定し、非冷凍の発酵力として、冷凍後の発酵力と比較する(非冷凍の発酵力を100とする発酵力残存率として計算する)。冷凍耐性とは、例えば、砂糖が15%の中糖生地において発酵力残存率が80%以上である場合が例示される。また、砂糖が25%の高糖生地においては発酵力残存率が85%以上である場合が例示される。
【0010】
上記の砂糖添加量は、小麦粉100に対する重量%で示されるが、通常、後記の生地において、無糖生地とは砂糖無添加生地をいう。低糖生地とは砂糖が10%未満の生地を通常いうが、本発明では5%を添加している生地を代表としている。中糖生地とは砂糖の添加量が通常、10%以上20%未満の生地を通常いうが、本発明では15%を添加している生地を代表としている。高糖生地とは、通常、20%以上35%未満の生地をいうが、本発明では25%を添加している生地を代表としている。高度高糖生地とは砂糖の添加量が通常、35%以上の生地をいうが、本発明では35%を添加している生地を代表としている。
【0011】
インベルターゼは、砂糖をブドウ糖と果糖に分解する酵素であって、パン酵母は菌体外にこの酵素を分泌して砂糖を分解した上で吸収し、炭素源として、生育、発酵に利用する。パン酵母においての発酵は、主にパン等を膨らませるために炭酸ガスを発生させることを意味する。
本発明において、インベルターゼ活性が全くない場合は、デンプンおよび添加した砂糖以外に資化できる糖類が存在しない培地中では、パン酵母は生育できない。通常のパン酵母は、アミラーゼ活性は殆どなく、生育に必要とされる炭素源としてはデンプンを通常利用しないのが普通である。
【0012】
通常、生地中には小麦粉等から由来するその他の糖類が微量存在するが、十分な炭酸ガスを発生させ、持続させるためには不十分であって、冷凍前菌体のインベルターゼ活性が砂糖を発酵に利用し得る最低限の砂糖分解能力を少なくとも示す活性値以上であることが必要である。通常はこの活性は、約50U/g(生菌体)程度が例示される。また、高すぎるインベルターゼ活性を示す場合にも以下の通り問題があり、通常は、約200U/g(生菌体)以下が例示され、好ましくは150U/g(生菌体)以下、特に好ましくは140U/g(生菌体)以下が挙げられる。
【0013】
高いインベルターゼ活性を有する場合は、添加された砂糖が分解されて単糖類となり、浸透圧が極めて高くなり、菌体の生育環境が崩れ、発酵の障害を引き起こす。その結果、本発明の目的とする高砂糖耐性が達成されないこととなる。また、高いインベルターゼ活性を有する従来のパン酵母から調製された高糖(砂糖)パン生地中には、砂糖が分解されて単糖類が生成され、単糖類の構成比が高まっていることが確認された。
【0014】
一方、インベルターゼ活性の低い本発明のパン酵母から調製された高糖(砂糖)パン生地中には、砂糖の分解が少なく、単糖類の構成比は低かった。両者の生地を焼成したときのパンの焼き色の濃さを比較すると、本発明のパン酵母生地の方が、色が薄く綺麗に焼き上がっていた。砂糖の代わりに等量のブドウ糖と果糖とを添加してそれぞれのパン酵母を用いた生地のパンの焼き色の濃さは、ともに濃すぎるものであった。従来より、砂糖に比較して還元糖であるブドウ糖や果糖は色が着きやすいことが知られており、この知見と一致するものと考えられる。
【0015】
冷凍生地から焼成されたパンは、一般的に非冷凍生地からのパンに比較して、焼き色が濃くなる傾向が見られるため、焼成温度や焼成時間のコントロールを十分に行わなければならなかったが、インベルターゼ活性の低い本発明のパン酵母を使用すれば、高糖(砂糖)生地においても焼き色を容易にコントロールすることができる。
【0016】
また同じ実験によれば、本発明のパン酵母を使用した場合には、ホイロ時間が短く、パンのボリュームが大きく、生地のダレも少ないだけでなく、梨肌や表皮つやが好ましく改善された。
上記のインベルターゼ活性において、生菌体とあるものは、通常の培地で培養した培養液を直ちに遠心分離し、洗浄後脱水して、水分が67%、固形分が33%の生菌体を意味する。但し、実際上採れた生菌体の水分、固形分を測定し、上記比率の生菌体に換算することもできる。
【0017】
また本発明のパン酵母は、冷凍耐性を有し、かつ砂糖分が35%の高度高糖生地における38℃1時間の発酵で発生する炭酸ガス量が、少なくとも45ml以上で、好ましくは50ml以上であるパン酵母である。またその他の生地においては、例えば、砂糖分が5%の抵糖生地では160ml以上、砂糖分が15%の中糖生地では150ml以上、砂糖分が25%の高糖生地では85ml以上の発酵力を有する好ましいものである。なお、砂糖を添加しない無糖生地では70ml〜90mlである。
【0018】
更にまた本発明は、これらのパン酵母を、生地原料に添加、ミキシングすることを特徴とする生地の製造方法である。ここでいう生地とは、主としてパン生地、その他に饅頭の生地、ピザの生地等が挙げられる。
生地原料は、目的とする生地により組成等が異なるが、例えばパン生地では、小麦粉、糖、油脂、卵、乳製品、水、およびイーストフード、乳化剤等の添加物が使用され、上記パン酵母が添加される。糖としては通常砂糖が使用されるがブドウ糖、果糖液糖が使用されることもある。
【0019】
上記の生地原料やパン酵母を添加、ミキシングに際しては、ミキサー等を使用すれば生地が調製される。生地は、分割、一次発酵、冷凍、成型、最終発酵等のいずれの工程を付加されてもよく、特に、冷凍耐性や砂糖耐性を有する本発明のパン酵母を用いた生地の製造においては、冷凍工程を行ったり、砂糖を多量に使用する場合において特に大きなメリットを示すものである。
【0020】
生地またはパンの製造法としては、通常、ストレート法と中種法とがある。ストレート法は生地を調整後分割、一次発酵、成型、最終発酵する方法である。また中種法は、まずパン酵母、小麦粉、水等の生地原料の一部を用い生地を調整し、中種発酵を行った後、残り生地原料を添加し生地を調整し分割、成型、最終発酵する方法である。この生地を焼成してパンとなせばよい。なお、上述の生地およびパンの製造に関しては古くから種々の資料が知られており、それらを適宜参考にすることができる。
【0021】
冷凍耐性を有し、かつ冷凍前菌体のインベルターゼ活性が砂糖を発酵に利用し得る最低限の砂糖分解能力を少なくとも示す活性値であって、200U/g(生菌体)以下であるか、または砂糖分が35%の高度高糖生地における38℃1時間の発酵で発生する炭酸ガス発生量が、少なくとも45ml以上であることを特徴とする本発明のパン酵母は、通常、強い高糖生地発酵力を有するか、またはインベルターゼ活性の低いパン酵母の二倍体株の胞子を発芽させて得た一倍体酵母菌株と、冷凍耐性を有するパン酵母の二倍体株の胞子を発芽させて得た一倍体酵母菌株とを有性生殖交配せしめ、後述のスクリーニング法により、冷凍耐性を有する菌株を選択し、さらに冷凍前菌体のインベルターゼ活性が低いもの、例えば、50〜200U/g(生菌体)の菌株を選択するか、または砂糖分が35%の高度高糖生地における38℃1時間の発酵で発生する炭酸ガス発生量が、少なくとも45ml以上の菌株を選択することにより得ることができる。インベルターゼ活性に関するスクリーニングと高度高糖耐性に関するスクリーニングとは、両者を組み合わせることがさらに好ましい。
【0022】
本発明でパン酵母とは、好ましくはサッカロミセス・セレビシエが例示されるが、その他にサッカロミセス・ロゼイやサッカロミセス・ウバルム、サッカロミセス・シバリエリ、トルラスポラ・デルブルーキー、場合によっては、クルベロマイセス・サーモトレランス、サッカロミセス・スペーシーズ等も挙げることができる。
【0023】
本発明の好ましいサッカロミセス・セレビシエとしては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3−2−C−7株が最も有効に使用される菌株の一例であつて、本菌株の菌学的性状を示すと以下の通りである。なお、本菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所へ寄託されている(FERM P−14013)。寄託日は平成5年12月10日である。
【0024】
【0025】
e.硝酸塩の資化性 なし
f.ビタミン要求性
ビオチン +
葉酸 −
ニコチン −
チアミン −
リボフラビン −
パントテン酸カルシウム +
イノシトール −
ピリドキシン −
パラアミノ安息香酸 −
【0026】
上記試験での胞子形成能は下記の組成であるYPD寒天培地で30℃24時間前培養した菌体をSherman寒天培地に接種し、25℃で3〜10日間培養し胞子形成の有無を観察した。
【0027】
YPD寒天培地組成(pH5.5)
酵母エキス 5g
ペプトン 10g
グルコース 40g
KH2 PO4 5g
MgSO4 ・7H2 O 2g
寒天 20g
蒸留水 1000ml
【0028】
Sherman寒天培地組成(pH7.2)
酢酸カリウム 1g
酵母エキス 0.1g
グルコース 0.05g
寒天 2g
蒸留水 100ml
なお、本菌株は二倍体株であった。
【0029】
本発明に用いることのできるパン酵母の製造法としては、上述の如く、有性生殖交配法の他、細胞融合法や変異処理法等の菌株育種技術を用い得ることもできる。
【0030】
【実施例】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0031】
実施例1
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevi
siae)3−2−C−7株の育種とスクリーニング
少なくとも強い高度高糖生地発酵力を有しさらに低いインベルターゼ活性を有するサッカロミセス・セレビシエの属する二倍体酵母株(当社保存菌株)の胞子を発芽させて得た一倍体酵母菌株と、高度高糖生地発酵力は弱いが強い冷凍生地発酵力を有するサッカロミセス・セレビシエに属する二倍体酵母株(当社保存菌株)の胞子を発芽させて得た一倍体酵母株との有性生殖交配により得られた交雑二倍体株を多数得た。
【0032】
次にこれら株より中糖生地(実施例3に示される砂糖15%の生地)における冷凍後の発酵力残存率(中糖生地を30℃で30分間発酵させた後、−20℃で14日間冷凍し、38℃で20分間解凍後、38℃で60分間の発酵で発生する炭酸ガス発生量を非冷凍凍前の発酵で発生する炭酸ガス量と比較したもの)が80%以上の冷凍耐性を有する株をファーモグラフ(ATTO社製)等を用いて選抜し、高度高糖生地発酵力が45ml以上である株をファーモグラフ等を用いて選抜しさらにインベルターゼ活性が50〜200U/gである株を選抜した。
【0033】
上記条件を満たし、良好な製パン試験結果であった菌株が、3株選択され、そのうちの1つをサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3−2−C−7株(以下3−2−C−7株)と命名した。
【0034】
実施例2
インベルターゼ活性の比較
下記条件で培養した3−2−C−7株生菌体を用いてインベルターゼ活性を測定した。
(A)3−2−C−7株の培養
(1)種酵母培養
500ml容三角フラスコ中のYPD液体培地200mlに該株を1白金耳植菌し、30℃24時間振盪培養した培養液を30l ジャーファーメンター中の糖蜜培地15l に接種し、30℃16時間通気攪拌培養し300l ジャーファーメンター培養用の種酵母とした。
【0035】
YPD液体培地組成(pH5.5)
酵母エキス 5g
ペプトン 10g
グルコース 40g
KH2 PO4 5g
MgSO4 ・7H2 O 2g
蒸留水 1000ml
【0036】
糖蜜培地(pH5.5)
廃糖蜜(糖40%に調整、フィリピン産)
3.5l
尿素 35g
第一リン酸アンモニウム 30g
硫酸アンモニウム 30g
水 15l
【0037】
(2)300l ジャーファーメンターでの培養
300l ジャーファーメンターに本培養培地150l を調整後30l ジャーファーメンターで培養した種酵母を全量接種し、以下に示す条件で培養を行った。
【0038】
培養条件
培養温度 30℃〜32℃、
通気 300〜400l /min
攪拌 450rpm
pH 5.0〜6.0
培養時間 16時間
【0039】
本培養培地
廃糖蜜(糖40%に調整、フィリピン産)
30l
(廃糖蜜は培養中に流加)
尿素 800g
第一リン酸アンモニウム 350g
水 15l
培養収量後、直ちに培養液を遠心分離し菌体を分離後濾布を用い圧搾脱水し、水分65〜70%の生菌体を得た。
【0040】
(B)インベルターゼ活性の測定
50mM砂糖溶液(0.1M酢酸ー酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.7)2mlに生酵母菌体200mg添加し25℃5分間反応後100℃1分間煮沸、冷却後生成したブドウ糖濃度をバイオセンサーBF−2(KSシステムズ社製)を用い測定し、インベルターゼ標準品より作成した検量線を用い菌体1gが有するインベルターゼ活性に換算した。なお、生菌体の水分が水分67%となるように活性値は補正した。
【0041】
表1に測定結果を示したが、本発明株のインベルターゼ活性は比較したパン酵母の1/2以下であった。
【0042】
【表1】
【0043】
尚、比較に用いた各々の酵母については以下の通りであり、以降の実施例における酵母はこれらから適宜用いた。
普通生地用酵母・・・・サッカロミセス・セレビシエ237NG(旭化成工業(株)製、商品名”45イースト”)
冷凍生地用酵母−1・・サッカロミセス・セレビシエ市販冷凍生地用酵母
(旭化成工業(株)製、商品名”Fイースト”)
冷凍生地用酵母−2・・サッカロミセス・セレビシエ市販無糖冷凍生地用酵母
(旭化成工業(株)製、商品名”FCイースト”)
【0044】
冷凍生地用酵母−3・・サッカロミセス・セレビシエ市販冷凍生地用酵母
(鐘淵化学(株)製)
冷凍生地用酵母−4・・トルラスポラ・デルブルーキー市販冷凍生地用酵母
(三共(株)製)
冷凍生地用酵母−5・・サッカロミセス・セレビシエ市販冷凍生地用酵母
(オリエンタル酵母(株)製)
冷凍生地用酵母ー6・・サッカロミセス・セレビシエ市販冷凍生地用酵母
(協和発酵(株)製)
【0045】
実施例3
非冷凍生地発酵力
表3に示した生菌体を用い、表2に示される生地組成における非冷凍時の炭酸ガス発生量を測定した。即ち、原料を小型コンプリートミキサー(米国National社製)で2分間ミキシングし、生地を調整し30gに分割してファーモグラフ(ATTO社製)を使用して38℃で1時間の発酵で発生する炭酸ガス発生量を測定した。その結果を表3に示した。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
本菌株は、中糖生地以上の高い砂糖含量の生地において、好ましい発酵力を示し、特に高糖生地や高度高糖生地において顕著であった。
【0049】
実施例4
冷凍耐性(中糖生地)
実施例3に示した中糖生地を30℃60分間発酵させた後、−20℃で14日間冷凍し、38℃で20分間解凍後、38℃で60分間の発酵で発生する炭酸ガス量をファーモグラフを用いて比較測定した。その比較結果を表4に示した。表4から明かなように本発明3−2−C−7株は発酵力残存率が85%以上という強い冷凍耐性を有することが確認された。
【0050】
【表4】
【0051】
実施例5
冷凍耐性(高糖生地)
実施例3に示した高糖生地を30℃60分間発酵させた後、−20℃で14日間冷凍し、38℃で20分間解凍後、38℃で60分間の発酵で発生する炭酸ガス量を比較測定した。その比較結果を表5に示した。表5から明かなように本発明3−2−C−7株は発酵力残存率が90%以上という強い冷凍耐性を有することが確認された。
【0052】
【表5】
【0053】
実施例6
製パン試験
上記生菌体を用い冷凍生地製パン試験を実施した。
(1)菓子パン(砂糖25%対小麦粉)
砂糖の添加量が25%(対粉)の菓子パンについて以下に示す配合、操作により冷凍生地製パンを実施した。本試験においてパンの形状はホイロ時間の比較を容易にするためワンローフ型とした。生地量は下記の通り180gであり、型は12.5cm×7.5cm(深さ6cm)。
【0054】
配 合
小麦粉1000g、脱脂粉乳30g、酵母 60g、全卵100g、砂糖250g、イーストフード1g、食塩8g、油脂80g、乳化剤5g、
水450ml
【0055】
操作
ミキシング時間(分) L2M3↓L3M2H7〜8
生地こね上温度(℃) 20
発酵時間 (分) 30
分割 (g) 180
ベンチタイム (分) 15
冷凍温度 (℃) −20(成型冷凍)
【0056】
冷凍期間 (日) 28
解凍温度 (℃) 20
解凍時間 (分) 150
ホイロ温度 (℃) 38
ホイロ時間 (分) 生地が型の上端(深さ6cm)に達するまで
焼成温度 (℃) 200
焼成時間 (分) 18
製パン試験結果は表6に示した。
【0057】
本発明株を使用した製パンはホイロ時間が短く、ボリュームが大きく、しかも適度な焼き色を呈し、つやのある梨肌の少ない高品質のものであった。
【0058】
【表6】
【0059】
表6中において、ホイロ時間、ボリューム、焼き色の濃さ、表皮のつや、梨肌の程度の意味は下記の通りである。
ホイロ時間:生地を型詰し、最終発酵をさせる際に、生地が発酵し膨らみ上端
が型の上部まで達する時間を示した。
ボリュームの測定:パン焼成直後のパンの容積(パンボリューム)を測定して
示した。
【0060】
焼き色の濃さについての評価点
3+:適度、2+:やや濃い、+:濃い
表皮つやについての評価点
3+:かなりある、2+:ややある、+:あまりない
梨肌の程度についての評価点
3+:少なくて好ましい、2+:ややあり余り好ましくない、
+:かなりあり好ましくない
【0061】
(2)菓子パン(砂糖20%対小麦粉)
砂糖の添加量が20%(対粉)の菓子パンについて、主に生地の腰持ちを確認するために、以下の通り、型詰せずに丸め成形して冷凍生地製パン試験を実施した。
【0062】
配 合
小麦粉1000g、脱脂粉乳30g、酵母50g、全卵80g、砂糖
250g、イーストフード1g、食塩13g、油脂80g、乳化剤5g、
水480ml
【0063】
操作
ミキシング時間(分) L2M3↓L3M2H7〜8
生地こね上温度(℃) 20
発酵時間 (分) 30
分割 (g) 50
ベンチタイム (分) 15
冷凍温度 (℃) −20(成型冷凍)
【0064】
冷凍期間 (日) 28
解凍温度 (℃) 20
解凍時間 (分) 150
ホイロ温度 (℃) 38
ホイロ時間 (分) 50
焼成温度 (℃) 200
焼成時間 (分) 10
製パン試験結果は表7に示した。
【0065】
本発明株を使用した製パンは生地の腰持ちが良く(生地だれの少ない)、ボリュームが大きく、しかも適度な焼き色を呈する梨肌の少ない高品質のものであった。
【0066】
【表7】
【0067】
表7中において、腰持ちについての評価点は下記の通りであり、その他については表6で説明したものと同じ意味である。
3+:良好、2+:ややダレている、+:かなりダレている
【0068】
実施例7
パンの内部組織中の糖組成
実施例6(1)で調製したパンの内部組織中の糖組成を調べた。
パンの内部組織5gに蒸留水45gを添加し十分に攪拌混合後、遠心分離し、遠心上清中に含まれる糖組成を下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0069】
糖分析条件
カラム:Asahipak NH2P−50(旭化成社製)
4.6mmI.D×250L
移動相:CH3 CN:H2 O=75:25
流速 :0.8ml/min
検出器:RI
カラム温度:30℃
【0070】
遠心上清に含まれる砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖の含量及び構成比を表8に示した。上記糖類の合計した重量には大きな差はみられないが、構成比を比較した場合、本発明の菌株は冷凍生地用酵母−1よりも砂糖の割合が極めて高くブドウ糖、果糖の割合が低かった。本発明の菌株は冷凍生地用酵母−1よりもインベルターゼ活性が低いため、生地中の砂糖分解速度が遅く砂糖残存量が多いと推測される。焼成時のパン表皮の褐変(焼き色)の主要因である糖とアミノ酸のメーラード反応は還元糖(ブドウ糖、果糖)で起こりやすく、非還元糖(砂糖)では起こりにくい。従って、砂糖の割合が多く、ブドウ糖、果糖が少ない本発明の菌株を使用したパンの焼き色が薄い原因であることが推測された。
【0071】
【表8】
【0072】
実施例8
使用する糖の種類を代えた製パン試験
パンの焼き色の違いが生地中の糖組成の違いによるものか否かを確認するため、パン生地に使用する糖の種類を1)砂糖、2)ブドウ糖と果糖の等量混合物として製パン試験を試みた。
【0073】
試験は実施例6(1)の菓子パンの製造方法に準じ、その際に添加する砂糖を上記の通り、1)砂糖、2)ブドウ糖と果糖の等量混合物として実施した。また、焼成したパンの糖組成については実施例7の方法に準じて行った。製パン試験結果及びパンの糖構成比は表9に示した。
【0074】
【表9】
【0075】
表9中において、G+F混合・・・ブドウ糖、果糖混合を意味する。
本発明の菌株と砂糖を組み合わせて使用したパンはホイロ時間が最も短く、ボリュームが最も大きく、焼き色が最も薄くて表皮につやがあり、梨肌の少ない高品質のものであった。本発明の菌株をブドウ糖、果糖と併用したパンではホイロ時間、ボリューム、焼き色、表皮のつや、梨肌とも砂糖使用に比べ劣っていた。
【0076】
糖の構成比と焼き色の比較ではブドウ糖、果糖の比率の高いパンの焼き色が濃く、比率の低いパンでは薄い傾向がみられ、実施例6(1)の製パン試験における焼き色の違いは生地中の構成糖の違いに由来するものと思われる。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように、強い冷凍耐性を有し、かつ低いインベルターゼ活性を有する本発明の菌株は、中糖生地から高度高糖生地に対して強い発酵力を有し、冷凍高砂糖生地製パンに用いても、ホイロ時間が短く、パンのボリュームが大きく、適度な焼き色の、表皮につやのある梨肌の少ない、腰持ちの良好な品質の優れたパンを得ることができる。
Claims (5)
- サッカロミセス・セレビシエ種に属し、かつ冷凍耐性を有し、かつ冷凍前菌体のインベルターゼ活性が200U/g(生菌体)から砂糖を醗酵に利用し得る最低限の砂糖分解能力を示す活性である50U/g(生菌体)であることを特徴とするパン酵母。
- サッカロミセス・セレビシエが、サッカロミセス・セレビシエ3−2−C−7(Saccharomyces cerevisiae 3−2−C−7)FERM P−14013株であることを特徴とする請求項1記載の酵母。
- サッカロミセス・セレビシエ3−2−C−7 FERM P−14013(Saccharomyces cerevisiae 3−2−C−7 FERM P−14013)。
- サッカロミセス・セレビシエ種に属し、かつ冷凍耐性を有し、かつ冷凍前菌体のインベルターゼ活性が200U/g(生菌体)から砂糖を醗酵に利用し得る最低限の砂糖分解能力を示す活性である50U/g(生菌体)であるパン酵母を生地原料に添加、ミキシングすることを特徴とする生地の製造方法。
- サッカロミセス・セレビシエが、サッカロミセス・セレビシエ3−2−C−7(Saccharomyces cerevisiae 3−2−C−7)FERM P−14013株であることを特徴とする請求項4記載の生地の製造方法。
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