JP3563657B2 - 送受信機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のアンテナ全体としての指向性を制御して送信相手となる移動局装置に対する信号を送信する送受信機に関し、特に、良好な指向性を実現する技術や、受信信号の到来方向を簡易な構成で検出する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えばIMT−2000標準化では、音声通信ばかりでなく、インターネットによるアクセスや、画像伝送等の高速通信サービスも要求されている。このようなIMT−2000標準化に向けた無線伝送方式として、例えば拡散率を変えることで通信速度を変更することが可能なDS−CDMA方式が盛んに検討等されている。
【0003】
DS−CDMA方式を採用する無線通信システムでは、例えば各移動局装置毎に異なる拡散符号が割り当てられる。そして、CDMA基地局装置では、特定の移動局装置に割り当てられた拡散符号を用いて受信信号を逆拡散することで当該移動局装置に対応した信号を受信信号から分離することができるとともに、特定の移動局装置に割り当てられた拡散符号を用いて拡散した信号(拡散信号)を送信することで当該移動局装置に対して当該信号を送信することができる。
【0004】
上記のようなDS−CDMA方式を採用した無線通信システムでは、上記した拡散符号を用いることで、複数の移動局装置によって同一の周波数帯を共用することが可能である。しかしながら、上記のような無線通信システムでは、複数の移動局装置によって同一の周波数帯が共用されることから、或る移動局装置により通信される拡散信号にとって他の移動局装置により通信される拡散信号が干渉信号となってしまう。このため、例えばDS−CDMA方式を用いてマルチレートサービスを行うような場合に、CDMA基地局装置にアダプティブアレイアンテナを備えて干渉除去を行うことが検討等されており、これについて以下で説明する。
【0005】
なお、DS−CDMA方式の特長である上記したマルチレートサービスとは複数の通信速度を利用することが可能なサービスのことであり、このサービスでは、例えば従前と同様な音声通信を行うことができるとともに、高速な通信速度を利用することにより高速性が要求されるデータや画像データ等の通信に対応することができる。
また、上記したアダプティブアレイアンテナとは、複数のアンテナから構成されてこれらアンテナ全体としての指向性を制御することができるアンテナのことであり、具体的には、それぞれのアンテナに受信ウエイトや送信ウエイトをもたせることにより受信時の指向性(受信指向性)や送信時の指向性(送信指向性)を制御することができるものである。
【0006】
上記したマルチレートサービスでは、一般に、通信速度が高いほど通信される信号の電力レベルが大きい。なお、このことは、例えば「“Wideband Wireless Access Based on DS−CDMA”,IEICE Trans. Commun., vol.E81−B, no.7, pp.1305−1316, July 1998, F.Adachi and M.Sawahashi」に記載されている。
【0007】
このため、例えば通信速度が比較的高い信号(高速ユーザ信号)と通信速度が比較的低い信号(低速ユーザ信号)とが複数の移動局装置から同時に送信されるような場合には、高速ユーザ信号が低速ユーザ信号に対して大きな干渉を与えてしまう。このような問題を解消するため、上記のようにCDMA基地局装置にアダプティブアレイアンテナを備えて受信時の干渉除去を行うことが検討等されており、この検討例が例えば「“Pilot Symbol−Assisted Decision−Directed Coherent Adaptive Array Diversity for DS−CDMA Mobile Radio Reverse Link”,IEICE Trans. Foundamentals, vol.E80−A, no.12, pp.2445−2454, Dec.1997. S.Tanaka, M.Sawahashi, and F.Adachi」や「“Experiments on Coherent Adaptive Antenna Array Diversity for Wideband CDMA Mobile Radio”,IEEE Veh. Technol, Conf.(VTC’99) Rec.,vol.1, pp.243−248, May.1999. S.Tanaka, A.Harada, M.Sawahashi, and F.Adachi」に開示されている。
【0008】
ここで、具体的には、上記のようなCDMA基地局装置による受信時の干渉除去では、アダプティブアレイアンテナの受信ウエイトを制御することにより、大きな電力レベルの受信干渉信号を優先的に低減させるような受信指向性を実現する。例えば、受信を希望する信号以外の干渉信号として上記した高速ユーザ信号と上記した低速ユーザ信号とが存在する場合には、比較的大きな電力レベルの干渉信号となる高速ユーザ信号が優先的に低減され、これにより、受信特性を向上させている。
【0009】
なお、図11には、例えば屋外に設置されたアダプティブアレイアンテナ42を備えたCDMA基地局装置41や、当該CDMA基地局装置41の通信可能領域に存する複数の移動局装置43〜45や、ビル等の障害物46〜48を示してあり、移動局装置としては、高速ユーザ信号を通信する1つの移動局装置(高速ユーザ端末)43と、低速ユーザ信号を通信する2つの移動局装置(低速ユーザ端末)44、45とを例示してある。
【0010】
同図において、CDMA基地局装置41が例えば低速ユーザ端末45から無線送信される信号を受信する場合には、当該CDMA基地局装置41では、例えば同図に示したアダプティブアレイアンテナ42の受信指向性パタンP1のように、高速ユーザパス方向に対するアンテナ利得を優先的に抑圧する(好ましくは、高速ユーザパス方向にヌルを向ける)ような受信指向性パタンを形成して空間的な干渉除去を行うのが好ましい。
【0011】
一方、上記した移動局装置からCDMA基地局装置への上り通信(上りリンク)ばかりでなく、CDMA基地局装置から移動局装置への下り通信(下りリンク)についても、CDMA基地局装置によりアダプティブアレイアンテナの送信ウエイトを制御して送信特性を向上させることが検討等され始めており、この検討例が例えば「“W−CDMA下りリンクにおける適応アンテナアレイ送信ダイバーシチの室内伝送実験特性”,信学技報, RCS99−18, May.1999. 原田, 田中, 佐和橋, 安達」に開示されている。
【0012】
具体的には、上記したような受信時の干渉除去を行ったときに得られた受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを用いてアダプティブアレイアンテナの送信指向性を制御するCDMA基地局装置が検討等されている。ここで、受信ウエイトに基づいた送信ウエイトとは当該受信ウエイトに所定の較正処理を施すことにより得られるウエイトのことであり、所定の較正処理とはCDMA基地局装置に備えられたRF(無線)受信機の複素振幅特性とRF送信機の複素振幅特性とが各アンテナ毎に異なっていることの影響を取り除く処理のことである。また、受信ウエイトは例えば逆拡散後の受信信号に基づいて決定されている。
【0013】
例えば、受信時の干渉除去では、受信希望信号(通信相手となる移動局装置からの信号であって受信を希望する信号)が到来する方向のアンテナ利得を大きくするとともに干渉信号が到来する方向のアンテナ利得を小さくするように受信指向性パタンが形成される。そして、送信時の送信指向性パタンとしては、このような受信指向性パタンと同様なアンテナ利得を実現するパタンが形成される。
【0014】
なお、上記のようなCDMA基地局装置によりアダプティブアレイアンテナの受信指向性を決定する仕方としては、例えばMMSE(Minimum Mean Square
Errors:最小平均二乗誤差)制御を用いることで、受信希望信号以外の信号の受信電力レベルが最小となるような受信ウエイトを決定して採用することが検討等されている。
【0015】
ここで、上記では逆拡散後の信号に基づいてウエイトを決定する場合に言及したが、例えば逆拡散前の信号に基づいてウエイトを決定する方式を採用することも可能であり、このような方式を“従来方式”として示しておく。なお、ここで示す“従来方式”は、例えば後述する実施例において、本発明の一実施例と効果を比較するための従来例として用いられる。また、ここでは、説明の便宜上から、後述する実施例で用いる符号(例えばアンテナの総数Nや信号xi等)と同一の符号を用いて説明する。
【0016】
すなわち、まず、アダプティブアレイアンテナを構成するアンテナ(アンテナ素子)の総数をNとし、第i番目(i=1〜N)のアンテナに入力される信号をxi(k)とし、第i番目のアンテナのウエイトをωiとする。そして、入力信号ベクトルX(k)を式1に示すように定義し、ウエイトベクトルWを式2のように定義する。ここで、X(k)とWはベクトルを示し、また、kは時刻を示す。また、式中の“T”は転置を示す。
【0017】
【数1】
Figure 0003563657
【0018】
【数2】
Figure 0003563657
【0019】
この場合、アダプティブアレイアンテナ全体としての受信信号y(k)は、式3のように示される。なお、式中の“・”は乗算を示し、本明細書中の他の式についても同様である。
【0020】
【数3】
Figure 0003563657
【0021】
また、アンテナに入力される信号の中で希望の信号(参照信号)をr(k)とし、誤差信号e(k)を式4のように定義する。
【0022】
【数4】
Figure 0003563657
【0023】
また、各ウエイトωiは上記した誤差信号e(k)が小さくなるように順次更新され、当該更新のステップ係数をμとすると、更新式は式5で示される。
【0024】
【数5】
Figure 0003563657
【0025】
上述したように、ウエイトベクトルWを更新し続けていくと、各ウエイトωiが次第に誤差信号e(k)を最小とする最適なウエイトに近づいていく。ここで、以上に示したような更新のアルゴリズムは一般にLMS(Least Mean Square)アルゴリズムとして知られている。
【0026】
また、上記式5に示されるように、最適なウエイトへ収束する速度は、例えばアンテナに入射する信号xi(k)の電力が大きいほど速く、ステップ係数μが小さいほど遅い。
このため、例えばステップ係数μをアンテナ入射電力により規格化したものμ’=μ/(X(k)X(k))を当該ステップ係数μの代わりに用いることでアンテナ入射電力にかかわらずに収束時間をほぼ一定とするアルゴリズムが用いられる場合もあり、このようなアルゴリズムはN−LMS(Normalized LMS)として知られている。ここで、“”は複素共役転置を示している。
【0027】
なお、上記したN−LMSについては、例えば「“Application of Antenna Arrays to Mobile Communications,Part2:Beam−Forming and Direction−of−Arrival Considerations”,Proc.IEEE,vol.85,no.8,pp.1195−1245,Aug.1997. L.C.Godara」に記載されている。
【0028】
“従来方式”では、上記のようにして決定されるウエイトωi(なお、上記のように所定の更新処理が施されたもの)を下り通信において用いる。このようなウエイトωiを用いると上述のように大電力の干渉信号方向に対するアンテナ利得が優先的に低減させられるため、例えば或る高速ユーザに対して高速ユーザ信号を送信するアダプティブアレイアンテナでは、当該高速ユーザ信号に関するマルチパス方向及び他の高速ユーザに関する高速ユーザパス方向に対するアンテナ利得が優先的に低減させられる。
【0029】
また、受信信号の到来方向を推定する方法としては、例えば「MUSIC法による高分解能推定,Trans.IEE of Japan,Vol.116−A,No.8,Aug.,1996, 小川恭考,伊藤精彦」に記載されたMUSIC法といった演算法や、例えば「ESPRIT−Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques, IEEE Trans.,vol.ASSP−37,pp.984−995,July,1989, R.Roy and T.Kailath」に記載されたESPRIT法といった演算法が知られている。
【0030】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来のアダプティブアレイアンテナを備えたCDMA基地局装置では、上述したように干渉信号の除去を優先して送信指向性パタンが形成されるため、例えば送信希望信号(通信相手となる移動局装置への信号であって送信を希望する信号)を送信する方向(すなわち、受信希望信号の到来方向)の近傍方向から大きい干渉信号が到来するような場合には、当該近傍方向へのアンテナ利得を小さくするような送信指向性パタンが形成されるに際して、当該送信指向性パタンの最大放射方向が送信希望信号の本来の送信方向(すなわち、受信希望信号の到来方向)からずれてしまうことや、当該送信方向(メインローブ方向)に対する送信信号レベルが小さくなってしまうことがあるといった不具合があった。
【0031】
また、上記のような不具合と共に、従来のアダプティブアレイアンテナを備えたCDMA基地局装置では、例えば通信可能な移動局装置の数が多いような場合には、受信希望信号が到来する方向から大きく角度がずれた方向への送信時のアンテナ利得を十分に小さくすること(すなわち、当該方向へ送信する干渉信号を十分に小さくすること)が困難であるといった不具合があった。
【0032】
ここで、上記のような不具合を更に具体的に説明する。
図12には、例えば屋外に設置されたアダプティブアレイアンテナ52を備えたCDMA基地局装置51や、当該CDMA基地局装置51の通信可能領域に存する複数の移動局装置53〜55や、ビル等の障害物56〜58を示してあり、移動局装置としては、高速ユーザ信号を通信する1つの移動局装置(高速ユーザ端末)53と、低速ユーザ信号を通信する2つの移動局装置(低速ユーザ端末)54、55とを例示してある。
【0033】
同図において、CDMA基地局装置51が例えば高速ユーザ端末53に対して信号を無線送信する場合には、当該CDMA基地局装置51では、例えば同図に示したアダプティブアレイアンテナ52の送信指向性パタンP2のように、多数存在している低速ユーザパス方向に対するアンテナ利得を低減させて低速ユーザに与える干渉を小さくするような送信指向性パタンを形成するのが好ましい。
【0034】
つまり、CDMA基地局装置から移動局装置への下り通信において、特に干渉による影響が問題となるのは、CDMA基地局装置から高速ユーザに対して送信された信号が低速ユーザにより受信されてしまう場合であり、当該信号は低速ユーザにとって大電力の干渉信号となってしまう。
【0035】
しかしながら、従来のアダプティブアレイアンテナを備えたCDMA基地局装置では、例えばアダプティブアレイの自由度不足のために、低速ユーザへの干渉低減を十分に実現することができなかった。一例として、上記従来例で示した“従来方式”を用いてウエイトを決定する場合には、上記図12に示したような送信指向性パタンは形成されず、低速ユーザ方向へのアンテナ利得の低減は十分には実現されない。
【0036】
特に、CDMA基地局装置の通信可能領域に存する移動局装置の数が多い場合には、アダプティブアレイアンテナの自由度が圧倒的に不足して、低速ユーザ方向へのアンテナ利得の低減の効果は非常に小さくなってしまう。
また、上述したように希望信号の近傍(メインローブ内)に大電力の干渉信号が存在する場合には、当該メインローブ内のアンテナ利得を低減させるような送信指向性パタンが形成されることから、最大放射方向がずれてしまい、サイドローブ方向への放射を大きくしてしまう。このように、希望信号の近傍に存在する干渉信号に対してアダプティブアレイアンテナの自由度を使ってしまうと、当該自由度を無駄に使ってしまうことになる。
【0037】
また、従来のCDMA基地局装置では、例えば上記従来例で示したようにMUSIC法やESPRIT法を用いて受信信号の到来方向を推定することができたものの、このような演算法は計算が非常に複雑であるため、処理に時間がかかって円滑な通信処理を実現しづらいといった不具合や、或いは、当該計算を行うための構成が非常に複雑になってしまうといった不具合があった。
【0038】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたもので、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するに際して、例えば送信相手となる移動局装置からの信号(受信希望信号)が到来する方向の近傍方向から大きい干渉信号が到来するような場合や、例えば通信可能な移動局装置の数が多いような場合であっても、良好な指向性を実現することができる送受信機を提供することを目的とする。
また、本発明は、受信信号の到来方向を簡易な構成で検出することができる送受信機を提供することを目的とする。
【0039】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る送受信機では、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して、送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するに際して、次のようにして当該送信ウエイトを決定する。
【0040】
すなわち、到来方向検出手段が移動局装置から受信した信号の到来方向を検出し、参照信号検出手段が送信相手となる移動局装置から受信した信号を参照信号として検出し、補償不要信号検出手段が参照信号の近傍方向から到来する他の移動局装置から受信した信号を補償不要信号として検出し、送信手段が補償不要信号を除外して、参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信する。
【0041】
従って、例えば送信相手となる移動局装置からの参照信号が到来する方向の近傍方向から大きい干渉信号が到来するような場合であっても、当該干渉信号が補償不要信号として除外されて送信ウエイトが算出されるため、例えば送信指向性パタンの最大放射方向を当該参照信号の到来方向に一致させることができ、これにより、従来と比べて良好な送信指向性を実現することができる。また、例えば通信可能な移動局装置の数が多いような場合であっても、参照信号の近傍方向から到来する補償不要信号が除外されて送信ウエイトが算出されるため、例えば参照信号の近傍方向以外の方向へ送信する干渉信号を十分に小さくすることができ、これにより、従来と比べて良好な送信指向性を実現することができる。
【0042】
また、具体的な態様として、上記した本発明に係る送受信機に備えられた送信手段は、検出された参照信号と検出された補償不要信号以外の信号を他の信号として、当該他の信号の受信レベルが小さくなるとともに当該参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信する。
【0043】
従って、このような送信ウエイトを用いることにより、例えば送信相手となる移動局装置に対しては大きな電力レベルで信号を送信することができるとともに前記他の信号の到来方向に対しては小さな電力レベルで当該信号を送信することができる。
【0044】
ここで、各アンテナの送信ウエイトとは、例えば送信対象となる同一の信号を各アンテナから送信するに際して各アンテナ毎に当該信号に施される振幅や位相の調整値のことである。なお、送信ウエイトとしては、必ずしも振幅と位相の両方を調整するものが用いられなくともよく、例えば振幅のみを調整するものや、或いは、位相のみを調整するものが用いられてもよい。送受信機では、このような送信ウエイトを複数のアンテナのそれぞれにもたせることにより、これら複数のアンテナ全体として当該送信ウエイトに応じた送信指向性を実現することができる。
【0045】
また、上記した送信ウエイトを算出する仕方としては、例えば本発明に言う受信ウエイトを算出することなく当該送信ウエイトを直接的に算出する仕方が用いられてもよく、また、例えば本発明に言う受信ウエイトを算出した後に、算出した受信ウエイトに基づいて当該送信ウエイトを算出する仕方が用いられてもよい。
【0046】
なお、本発明に言う受信ウエイトを算出した後に当該受信ウエイトに基づいて上記した送信ウエイトを算出する仕方が用いられる場合には、当該受信ウエイトとしては、例えば上記した送信ウエイトと同様に、上記のような調整値を用いることができる。また、本発明に言う受信ウエイトは上記した送信ウエイトを算出するための概念であるため、本発明に言う受信ウエイトにかかわらず実際の受信に用いられる受信ウエイトはどのようなものであってもよい。なお、通常は、本発明に言う受信ウエイトは実際の受信には用いられず、実際の受信には当該受信にとって好ましい異なる受信ウエイトが用いられる。
【0047】
また、本発明に係る送受信機では、搬送波をデータで変調して生成される信号を移動局装置から受信するに際して、次のようにして受信信号の到来方向を検出する。
すなわち、到来方向検出手段では、受信データ取得手段がアンテナにより受信した信号を復調して受信データを取得し、複数のアンテナにより受信した同一の信号に関して、搬送波検出手段が同一の受信データを用いて各受信信号の搬送波を検出することが行われ、これにより、検出した各搬送波の位相差に基づいて当該受信信号の到来方向を検出する。
【0048】
従って、複数のアンテナにより受信した同一の信号の搬送波の位相差に基づいて当該受信信号の到来方向を検出するといった簡易な構成により受信信号の到来方向を検出することができ、このように、受信信号の到来方向を従来と比べて簡易な構成で検出することができる。
以上のように、本発明に係る送受信機では、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して、送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するに際して、送信相手となる移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号が到来する方向)の近傍に他の移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号)が存する場合であっても、送信指向性パタンの最大放射方向が送信相手となる移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号)の方向或いはその近傍の方向となる送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するようにしたため、例えば送信希望信号の送信方向から比較的離れた角度方向のアンテナ利得を低減させることにアレイパタンの全ての自由度を優先的に用いることができるため、送信相手となる移動局装置に対しては信号が大きな電力レベルで送信されるのを確保するとともに、当該角度方向に対しては信号が小さな電力レベルで送信されるような送信指向性を実現することができる。
【0049】
【発明の実施の形態】
本発明に係る一実施例を図面を参照して説明する。
なお、本例では、CDMA方式を採用して移動局装置との間で拡散信号を送受信するCDMA基地局装置に本発明に係る送受信機を適用した場合を示す。
図1には、本発明に係る送受信機を設けたCDMA基地局装置の一構成例として、当該CDMA基地局装置に備えられたアンテナAiや、デュプレクサ1や、到来方向推定部21を有した(ベースバンド)受信系3や、送信ウエイト決定部Dや、ウエイト較正部11や、送信信号を処理する乗算器12や、RF送信機13を示してある。また、送信ウエイト決定部Dには、RF受信機2や、識別シンボルを処理する再拡散部4や、補償不要信号を処理する再拡散部5及び乗算器6や、受信信号を処理する乗算器7及び加算器8や、誤差信号を算出する加算器9や、MMSE制御を行うウエイト制御部10が備えられている。
【0050】
アンテナAiは、例えばアダプティブアレイアンテナを構成する複数のアンテナの中のi番目のアンテナであり、移動局装置(本例では、CDMA方式を採用したCDMA移動局装置)から無線送信される拡散信号を受信して当該拡散信号をデュプレクサ1へ出力する一方、デュプレクサ1から入力された拡散信号を移動局装置に対して無線送信する機能を有している。本例では、CDMA基地局装置に備えられたアダプティブアレイアンテナを構成するアンテナの総数がN(すなわち、i=1〜N)であるとする。
【0051】
なお、上記図1ではi番目のアンテナAi以外のアンテナについては図示を省略するとともに、i番目のアンテナAi以外のアンテナにより送受信される信号を処理する構成については図示を省略或いは簡略化してあるが、i番目のアンテナAi以外のアンテナにより送受信される信号を処理する構成については例えばi番目のアンテナAiにより送受信される信号を処理する構成と同様である。
【0052】
デュプレクサ1は、アンテナAiから入力される信号をRF受信機2へ出力する一方、RF送信機13から入力される信号をアンテナAiへ出力する機能を有しており、同一のアンテナAiを送受信に共用することを可能にしている。
RF受信機2は、アンテナAiにより受信されてデュプレクサ1を介して入力される信号xi(k)の周波数帯をRF(無線周波数)帯からベースバンド帯へ変換して、当該信号xi(k)を受信系3及び乗算器7へ出力する機能を有している。ここで、“xi(k)”中の“(k)”は信号値xiが時刻kの関数であることを示しており、この“(k)”という表記の意味については以下も同様である。
なお、上記したRF受信機2の機能を例えば後述する受信系3に備えることも可能である。
【0053】
受信系3には全てのアンテナA1〜ANにより受信された信号x1(k)〜xN(k)がベースバンド帯の信号として入力される。受信系3は、これら入力されるN個の信号x1(k)〜xN(k)のそれぞれに受信ウエイトを乗算して当該乗算結果を総和することにより、受信希望信号を受信するのに適した受信指向性を制御して当該受信希望信号の受信処理を行う機能を有している。なお、受信ウエイトを用いた受信指向性の制御の仕方としては、例えば従来例で示したのと同様な仕方を用いることができる。
【0054】
ここで、本例のCDMA基地局装置は、通信相手となる移動局装置から送信される拡散信号が複数の経路(パス)を介して受信されるとともに当該CDMA基地局装置から送信する拡散信号が複数の経路を介して通信相手となる移動局装置に到達するマルチパス環境の通信で用いられているとする。
【0055】
このようなマルチパス環境の通信を効率化するために、本例の受信系3は、RF受信機2から入力される信号xi(k)を各経路毎の信号に分離する機能を有しており、また、各経路を介して受信される同一の信号をRAKE合成する機能を有している。なお、本例のようにCDMA方式が用いられる場合には、受信信号を拡散符号で逆拡散する時点で各経路毎の信号が分離される。また、本例では、各移動局装置にもRAKE合成を行う機能が備えられており、各移動局装置は当該機能を用いてCDMA基地局装置から複数の経路を介して受信される同一の信号をRAKE合成する。
【0056】
また、受信系3は、送信相手となる移動局装置から受信した信号を識別シンボルs(k)として再拡散部4へ出力するとともに、当該受信信号の近傍方向(本例では、当該受信信号の到来方向に対して所定の角度幅の領域)から到来した受信信号を補償不要信号mh(k)として再拡散部5へ出力する機能を有している。
【0057】
なお、具体的に、本例では、識別シンボルs(k)として選択される信号の到来方向の角度θ0に対して所定の角度幅±θtの領域(すなわち、角度(θ0−θt)から角度(θ0+θt)までの領域)から到来した受信信号を補償不要信号mh(k)として検出しており、本明細書では、当該領域のことをターゲット領域(target region)と言う。ターゲット領域の設定の仕方については後述する。
【0058】
ここで、本例では、送信相手となる移動局装置から送信される信号が複数の経路を介して受信されるため、受信系3は、例えばRAKE合成器の信号入力側において、これら複数の経路を介して受信される同一の信号の中から1つの信号を識別シンボルs(k)として選択するとともに、当該識別シンボルs(k)として選択した信号以外の信号(マルチパス信号)であって当該識別シンボルs(k)として選択した信号の近傍方向から到来する信号を上記した補償不要信号mh(k)に含めて出力する。
【0059】
また、同様に、本例では、上記した送信相手となる移動局装置以外の移動局装置から送信される信号も複数の経路を介してCDMA基地局装置により受信されるため、受信系3は、識別シンボルs(k)として選択した信号の近傍方向から到来する信号については、これら複数の経路を介して受信される全ての信号(マルチパス信号)を上記した補償不要信号mh(k)に含めて出力する。
なお、マルチパス信号を含む補償不要信号mh(k)は、例えば受信系3に備えられたRAKE合成器の信号入力側で検出することができる。
【0060】
ここで、送信相手となる移動局装置から複数の経路を介して受信される同一の信号の中からいずれの信号を識別シンボルs(k)として選択するかについては任意であってもよいが、本例の受信系3は、好ましい態様として、上記したRAKE合成器の信号入力側での平均電力が最も大きな信号を識別シンボルs(k)として選択する。
また、受信系3は、上記した補償不要信号mh(k)の総数(補償不要信号数)Hを送信ウエイト決定部Dのウエイト制御部10に通知する機能を有している。ここで、h=1〜Hとなる。
【0061】
また、上記したように受信系3には到来方向推定部21が備えられており、この到来方向推定部21は各受信信号の到来方向を検出する機能を有している。そして、本例では、到来方向推定部21により検出された各受信信号の到来方向に基づいて上記した補償不要信号mh(k)が決定される。また、上述したように、本例では、移動局装置から送信される信号は複数の経路を介してCDMA基地局装置により受信されるため、到来方向推定部21は、これら複数の経路を介して受信される各信号(各マルチパス信号)毎にその到来方向を検出する。
【0062】
ここで、到来方向推定部21の更に詳しい構成例や動作例を示す。なお、本例では、到来方向推定部21により受信信号の到来方向を検出する処理が受信系3の中で最初に行われる構成としたが、受信系3の中で行われる処理の順序としては他のものであってもよい。
【0063】
図2には、到来方向推定部21の詳しい構成例を示してあるとともに、説明の便宜上から、例えば上記図1に示したものと同様なアンテナAiやデュプレクサ1やRF受信機2を示してある。同図に示されるように、到来方向推定部21には、逆拡散部31と、受信・復調部32と、乗算器33と、受信位相平均化処理部34と、隣接アンテナ素子位相平均化処理部35と、位相差算出部36と、到来角度推定部37とが備えられている。なお、同図では、1つのアンテナAiに対応した逆拡散部31のみを示したが、本例では、各アンテナA1〜AN毎に対応してN個の逆拡散部が備えられている。
【0064】
各逆拡散部は各アンテナA1〜ANにより受信された信号をデュプレクサ1及びRF受信機2を介して入力し、当該受信信号を拡散符号で逆拡散して、当該逆拡散結果を受信・復調部32へ出力する機能を有している。また、本例では、i番目のアンテナAi及び(i+1)番目のアンテナAi+1に対応した逆拡散部(逆拡散部31等)は逆拡散結果をそれぞれに接続された乗算器(乗算器33等)へ出力する機能を有している。なお、本例のCDMA基地局装置により受信される拡散信号は、搬送波をデータで変調した後に当該変調信号を拡散符号で拡散して生成されるものであり、この場合、上記した逆拡散結果としては変調信号が出力される。
【0065】
受信・復調部32は、受信希望信号を受信するのに適した受信指向性を制御して、それぞれの逆拡散部から入力される同一の変調信号に受信ウエイトを乗算して当該乗算結果を総和することにより当該総和結果を受信信号として生成する処理や、複数の経路を介して受信される同一の信号(マルチパス信号の直接波や遅延波)をRAKE合成する処理を行う機能を有している。また、受信・復調部32は、このようにして得られた変調信号からデータ(受信データ)を復調する処理や、送信側の移動局装置により付加された誤り訂正符号等を用いて当該受信データに誤り訂正等を施す処理を行う機能を有している。
【0066】
また、受信・復調部32は、このようにして誤り訂正等を施した受信データを識別シンボルs(k)として、その複素共役s(k)を乗算器33へ出力する機能を有している。ここで、“”は複素共役を示す。なお、上記図1と上記図2とでは同一の符号s(k)を用いて識別シンボルを示したが、上記図1で示した識別シンボルs(k)は受信希望信号を復調したものに相当する一方、上記図2で示した識別シンボルs(k)は到来方向の検出対象となる受信信号を復調したものに相当する。
【0067】
また、本例では好ましい態様として、上述のように受信ウエイトの乗算処理やRAKE合成処理や誤り訂正処理等を行って受信データ(識別シンボル)を取得する構成としたが、例えばこれらの処理の全部又は一部を省略することも可能である。
【0068】
乗算器33には例えばアンテナAiに対応した逆拡散部31から出力される変調信号(逆拡散結果)が入力されるとともに受信・復調部32から出力される識別シンボル複素共役s(k)が入力され、乗算器33は当該変調信号と当該識別シンボル複素共役s(k)とを乗算して当該乗算結果を受信位相平均化処理部34へ出力する機能を有している。
【0069】
ここで、逆拡散部31から出力される変調信号は受信・復調部32から出力される識別シンボル複素共役s(k)の複素共役(すなわち、識別シンボルs(k))で変調されたものである。そして、本例では、逆拡散部31から出力される変調信号の変調成分がキャンセルされて当該変調信号が搬送波へ変換される(すなわち、当該搬送波が乗算器33から乗算結果として出力される)ようなタイミングで当該変調信号と識別シンボル複素共役s(k)とが乗算器33に入力される構成としてある。
【0070】
受信位相平均化処理部34は、乗算器33から入力される乗算結果を平均化する処理を例えば1シンボル分以上の所定の時間行い、当該平均結果を位相差算出部36へ出力する機能を有している。
また、上記図2では図示を省略したが、例えば上記したアンテナAiに隣接して配置されたアンテナAi+1についても、上記した乗算器33と同様な機能を有する乗算器(隣接アンテナ素子乗算器)が備えられており、当該乗算器から出力される乗算結果が隣接アンテナ素子位相平均化処理部35へ出力される。
【0071】
隣接アンテナ素子位相平均化処理部35は、上記した隣接アンテナ素子乗算器から入力される乗算結果を平均化する処理を例えば1シンボル分以上の所定の時間行い、当該平均結果を位相差算出部36へ出力する機能を有している。
位相差算出部36は、受信位相平均化処理部34から入力される平均結果と隣接アンテナ素子位相平均化処理部35から入力される平均結果との位相差を算出し、当該位相差の情報を到来角度推定部37へ出力する機能を有している。
【0072】
到来角度推定部37は、位相差算出部36から入力される位相差の情報に基づいて、受信信号(ここでは、各アンテナA1〜ANにより受信した同一の信号であって、アンテナAiの逆拡散部31及びアンテナAi+1の逆拡散部で逆拡散したもの)の到来した角度方向を検出する機能を有している。
【0073】
以上の構成や動作により、到来方向推定部21では受信信号の到来角度方向を検出することができ、以下で、その原理を詳しく説明する。
図3には、本例のCDMA基地局装置に備えられたアンテナの一例として、i番目のアンテナAiと(i+1)番目のアンテナAi+1と(i+2)番目のアンテナAi+2を示してある。本例では、各アンテナが互いに間隔dをもって直線状に配置されているとする。
【0074】
ここでは、同図に示されるように、各アンテナに対して角度θの方向から無線信号が到来する場合を考える。
この場合、隣接する2つのアンテナ(例えばi番目のアンテナAiと(i+1)番目のアンテナAi+1)に到来する信号の間の経路差ΔLは式6で示される。また、この場合、隣接する2つのアンテナに到来する信号の間の位相差Δφ[rad]は式7で示される。なお、上記したように、式中の“・”は乗算を示している。
【0075】
【数6】
Figure 0003563657
【0076】
【数7】
Figure 0003563657
【0077】
ここで、アンテナに到来してくる信号には、データ変調による位相回転(位相のずれ)や、フェージングによる位相回転や、雑音(ノイズ)による位相回転が生じている。通常、データ変調やフェージングによる位相回転の量は各アンテナについて同じ(或いはほぼ同じ)であり、ノイズによる位相回転の量は各アンテナ毎に異なっている。
【0078】
具体例として、例えばデータ変調による位相回転(ここでは、変調に用いるデータのシンボル)をs(k)として、搬送波成分の記載を省略すると、上記図2に示した逆拡散部31から出力される変調信号x’i(k)はs(k)と表される。そして、この変調信号x’i(k)は乗算器33で識別シンボル複素共役s(k)が乗算されることにより変調がとかれて、当該乗算器33からは信号s(k)・s(k)(=1)が乗算結果として出力される。
【0079】
なお、本例では、このように逆拡散後の受信信号を用いて当該受信信号の到来角度方向を検出することが行われるため、例えば逆拡散前の信号を用いた場合と比べて、フェージングやノイズの影響を抑えることができて好ましい。
【0080】
上記では搬送波成分の記載を省略したが、実際には乗算器33からは変調がとかれた搬送波が出力される。そして、乗算器33から出力される信号(搬送波)には例えばノイズによる位相回転が含まれており、この位相回転の影響は当該信号の時間平均をとることで小さくすることが可能である。
本例では、乗算器33から出力される信号を受信位相平均化処理部34により所定の時間平均化することにより、当該信号に含まれるノイズによる位相回転の量を小さく(好ましくは、除去)している。なお、所定の時間としては、特に限定はないが、例えば数シンボル分以上の時間であることが好ましい。
【0081】
本例では、上記した所定の時間としてKシンボル分の時間(例えば、通信で用いられる1フレーム分の時間)が設定されており、受信位相平均化処理部34から出力される平均結果αは式8で示される。また、同様に、隣接アンテナ素子位相平均化処理部35から出力される平均結果βは式9で示される。なお、式8中のx’i(k)はアンテナAiに対応した逆拡散部31から出力される信号を示し、式9中のx’i+1(k)はアンテナAi+1に対応した逆拡散部から出力される信号を示している。
【0082】
【数8】
Figure 0003563657
【0083】
【数9】
Figure 0003563657
【0084】
この場合、位相差算出部36により検出される位相差(平均結果αと平均結果βとの位相差)Δφは式10に基づいて算出される。なお、式10中のjは虚数を示し、他の式についても同様である。
【0085】
【数10】
Figure 0003563657
【0086】
すなわち、式10の右辺の実数部分(real−part)pがcosΔφに相当し、当該右辺の虚数部分(imaginary−part)qがsinΔφに相当し、位相差Δφは式11で示される。なお、ArccosやArcsinはcosやsinの逆関数を示している。
【0087】
【数11】
Figure 0003563657
【0088】
そして、到来角度推定部37では、式12により信号の到来角度θを検出する。なお、式12は上記式7を変形したものである。
【0089】
【数12】
Figure 0003563657
【0090】
ここで、本例では、隣接する各アンテナ間の間隔d=(λ+λ’)/4として設定してあり、λは移動局装置からCDMA基地局装置への上り通信で用いられる信号の波長であり、λ’はCDMA基地局装置から移動局装置への下り通信で用いられる信号の波長である。この場合、信号の到来角度θは式13で示される。
【0091】
【数13】
Figure 0003563657
【0092】
なお、本例の到来方向推定部21ではフェージングによる位相回転を補償していないが、この位相回転の影響は全てのアンテナA1〜ANについて同じ(或いはほぼ同じ)であるため、通常、これを補正する必要はなく、以下で、これについて説明する。
すなわち、フェージングによる位相回転をf(複素数)とし、データ変調による位相回転をs(複素数)とし、i番目のアンテナAiにより受信される信号の位相と(i+1)番目のアンテナAi+1により受信される同一の信号の位相との差をexp(j・Δφ)とすると、式14が成立する。
【0093】
【数14】
Figure 0003563657
【0094】
ここで、上記式14の例では、説明の便宜上から、アンテナAiに対応した逆拡散部31から出力される信号x’i(k)=f(k)・s(k)・exp(j・Δφ)とし、アンテナAi+1に対応した逆拡散部から出力される信号x’i+1(k)=f(k)・s(k)とし、ノイズによる位相回転は省略してある。また、上記したようにs(k)・s(k)=1である。
上記式14に示されるように、フェージングによる位相回転の量は各アンテナA1〜ANについて同じであるため、この位相回転の影響は無視することが可能である。
【0095】
再拡散部4は、受信系3から入力される識別シンボルs(k)を拡散符号を用いて再拡散し、これにより得られた拡散信号を参照信号r(k)として加算器9へ出力する機能を有している。
また、再拡散部5は、受信系3から入力される補償不要信号mh(k)を拡散符号を用いて再拡散し、再拡散後の補償不要信号(拡散信号となっているもの)mh(k)を乗算器6へ出力する機能を有している。
【0096】
ここで、識別シンボルs(k)の再拡散に用いられる拡散符号は、当該識別シンボルs(k)を受信系3で逆拡散により得るときに用いられた拡散符号と例えば同じ拡散符号であり、同様に、各補償不要信号mh(k)の再拡散に用いられる拡散符号は、当該各補償不要信号mh(k)を受信系3で逆拡散により得るときに用いられた拡散符号と例えば同じ拡散符号である。なお、例えばQPSK拡散が行われる場合には、I相については逆拡散で用いた拡散符号と同じ拡散符号が再拡散に用いられるが、Q相については逆拡散で用いた拡散符号を反転させた拡散符号が再拡散に用いられる。
【0097】
乗算器6は、再拡散部5から入力される各補償不要信号mh(k)に複素振幅αhを乗算し、当該乗算結果の総和信号z(k)(=Σ{mh(k)×αh})を加算器9へ出力する機能を有している。ここで、複素振幅αhは後述するウエイト制御部10から出力されるものであり、各補償不要信号mh(k)に対応したものである。
【0098】
乗算器7は、RF受信機2から入力される信号xi(k)に制御用ウエイトωiを乗算し、当該乗算結果を加算器8へ出力する機能を有している。ここで、制御用ウエイトωiは後述するウエイト制御部10から出力されるものであり、各アンテナAiにより受信される信号xi(k)に対応したものである。
加算器8には各アンテナA1〜ANから得られた信号x1(k)〜xN(k)と各制御用ウエイトω1〜ωNとの乗算結果が全てのアンテナA1〜ANについて入力される。加算器8は、これら入力されるN個の乗算結果を総和し、当該総和結果y(k)を加算器9へ出力する機能を有している。
【0099】
加算器9には再拡散部4から上記した参照信号r(k)が入力され、乗算器6から上記した総和信号z(k)が入力され、加算器8から上記した総和結果y(k)が入力される。加算器9は、入力される参照信号r(k)と総和信号z(k)とを加算した信号を入力される総和結果y(k)から減算した信号を誤差信号e(k)(=y(k)−r(k)−z(k))としてウエイト制御部10へ出力する機能を有している。なお、誤差信号e(k)の正負は逆(すなわち、e(k)=r(k)+z(k)−y(k))であってもよい。
【0100】
ウエイト制御部10は、受信系3から通知される補償不要信号数H及び加算器9から入力される誤差信号e(k)に基づいて、乗算器7へ出力する制御用ウエイトωi及び乗算器6へ出力する複素振幅αhを順次更新することにより、当該誤差信号e(k)の電力が最小になるような制御用ウエイトω1〜ωN及び複素振幅α1〜αHを算出する機能を有している。ここで、本例のウエイト制御部10は、受信系3から通知された補償不要信号数Hだけ拡張された(すなわち、アレイパタンの自由度を節約した)MMSE制御を行うことにより、上記のような算出を行う。なお、このように本例では、RF受信機2から出力される信号、すなわち逆拡散前の信号を用いて制御用ウエイトω1〜ωNが決定される。
【0101】
ここで、上記のようにして算出される制御用ウエイトω1〜ωNを仮にアダプティブアレイアンテナの受信ウエイトであるとみなすと、この受信ウエイトは、参照信号r(k)の受信レベルが大きく(本例では、受信系3から出力される識別シンボルs(k)のレベルに応じた大きなレベルに)なるとともに誤差信号e(k)の受信レベルが小さく(本例では、好ましい態様として、可能な限り最小に)なることを実現することができるものとなる。
【0102】
このため、このような制御用ウエイトω1〜ωNに基づいた送信ウエイトを用いると、参照信号r(k)の受信方向に対しては比較的大きな電力レベルで信号を送信することができるとともに誤差信号e(k)に含まれる信号の受信方向に対しては比較的小さな電力レベルで信号を送信することができる送信指向性が実現される。すなわち、このような送信ウエイトを用いることにより、送信相手となる移動局装置に対しては比較的大きな電力レベルで信号を送信することができるとともに、誤差信号e(k)に含まれる信号の受信方向(当該信号の送信元となる移動局装置)に対しては比較的小さな電力レベルで信号を送信することができる。
【0103】
なお、上記のように誤差信号e(k)に含まれる信号の受信方向に与える干渉を優先的に低減させることができる理由は、上記した参照信号r(k)の近傍方向から到来した受信信号を補償不要信号mh(k)として誤差信号e(k)中に残らないようにしているためである。すなわち、補償不要信号mh(k)の受信方向に対する送信時のアンテナ利得を低下させる(例えばヌルを向ける)ことにアレイパタンの自由度を用いないことで、誤差信号e(k)に含まれる信号の受信方向に対する送信時のアンテナ利得を低下させることにアレイパタンの自由度を優先的に用いることができるためである。
【0104】
なお、上記した本例のMMSE制御に関する理論式の一例を示しておく。本例では、例えば上記従来例で示したのと同様なステップ係数を用いたN−LMSアルゴリズムによりウエイトωiの更新処理を行う。
例えば、本例のMMSE制御では、式15に示すように拡張された入力信号ベクトルX(k)と、式16に示すように拡張されたウエイトベクトルWを用いる。ここで、X(k)とWはベクトルを示す。また、式中の“T”は転置を示す。また、式中のx1(k)〜xN(k)やm1(k)〜mH(k)やω1〜ωNやα1〜αHは、それぞれ上記した受信信号xi(k)や補償不要信号mh(k)や制御用ウエイトωiや複素振幅αhを示す。
【0105】
【数15】
Figure 0003563657
【0106】
【数16】
Figure 0003563657
【0107】
上記のように拡張されたウエイトベクトルWのウィーナー解は、式17〜式19で示されるものとなる。なお、上記したように、式中の“・”は乗算を示し、“”は複素共役を示す。また、式中の“E[]”はカッコ([])内のもののアンサンブル平均を示す。また、式中のr(k)は、上記した参照信号r(k)を示す。
【0108】
【数17】
Figure 0003563657
【0109】
【数18】
Figure 0003563657
【0110】
【数19】
Figure 0003563657
【0111】
また、上記したウエイト制御部10は、上記したようにして誤差信号e(k)の電力が最小になるような制御用ウエイトω1〜ωNを算出すると、算出した制御用ウエイトω1〜ωNをウエイト較正部11へ出力する機能を有している。
ウエイト較正部11は、ウエイト制御部10から入力されるN個の制御用ウエイトω1〜ωNに所定の較正処理を施し、これにより得られるN個のウエイトを送信ウエイトω’1〜ω’Nとして各アンテナA1〜ANに対応した乗算器へ出力する機能を有している。ここで、上記図1には、i番目のアンテナAiに対応した乗算器12のみを示してあり、この乗算器12には当該アンテナAiに対応した送信ウエイトω’iが入力される。
【0112】
また、上記した所定の較正処理とは、RF受信機2の複素振幅特性とRF送信機13の複素振幅特性とが各アンテナA1〜AN毎に異なっていることの影響を取り除く処理のことである。なお、このような較正処理が必要でない場合には、例えばウエイト制御部10から出力される制御用ウエイトω1〜ωNがそのまま送信ウエイトω’1〜ω’Nとして用いられる。
【0113】
乗算器12には送信相手となる移動局装置に対する信号(送信信号)t(k)が入力されるとともにウエイト較正部11から送信ウエイトω’iが入力される。乗算器12は、入力される送信信号t(k)と送信ウエイトω’iとを乗算した結果をRF送信機13へ出力する機能を有している。なお、送信信号t(k)に送信ウエイトω’iが乗算されることにより、当該送信ウエイトω’iに応じて送信信号t(k)の振幅や位相が調整される。
【0114】
RF送信機13は、乗算器12から入力される信号の周波数帯をベースバンド帯からRF帯へ変換し、このようにして搬送周波数帯(RF帯)へ変換した信号をデュプレクサ1へ出力する機能を有している。そして、上記したように、デュプレクサ1へ出力される信号はアンテナAiから無線送信される。
なお、例えば上記したRF送信機13の機能を乗算器12の前段に備えることも可能であり、この場合には、送信信号t(k)がRF帯の信号へ変換された後に当該送信信号t(k)に送信ウエイトω’iが乗算される。
【0115】
以上のように、本例のCDMA基地局装置では、アダプティブアレイアンテナを用いて受信した信号に基づいて、参照信号r(k)の受信方向に対しては比較的大きな電力レベルで信号を送信することができるとともに誤差信号e(k)に含まれる信号の受信方向に対しては比較的小さな電力レベルで信号を送信することができるような送信ウエイトω’1〜ω’Nを決定することができるため、当該送信ウエイトω’1〜ω’Nを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を当該アダプティブアレイアンテナにより送信することにより、良好な送信指向性を実現することができる。
【0116】
具体的には、例えば送信相手となる移動局装置からの参照信号r(k)が到来する方向の近傍方向から大きい干渉信号が到来するような場合であっても、当該干渉信号が補償不要信号mh(k)として除外されて送信ウエイトω’1〜ω’Nが算出されるため、送信指向性パタンの最大放射方向を当該参照信号r(k)の到来方向に一致させることができる。また、例えば通信可能な移動局装置の数が多いような場合であっても、参照信号r(k)の近傍方向から到来する補償不要信号mh(k)が除外されて送信ウエイトω’1〜ω’Nが算出されるため、当該参照信号r(k)の近傍方向以外の方向へ送信する信号(干渉信号)を十分に小さくすることができる。
【0117】
そして、CDMA基地局装置が上記のような送信指向性を実現することにより、送信相手となる移動局装置ではCDMA基地局装置から無線送信される信号を大きいレベルで受信することができ、また、参照信号r(k)の近傍方向以外の方向から到来する信号の送信元となる移動局装置では当該CDMA基地局装置から受ける干渉のレベルが小さくなるため、品質のよい無線通信を行うことができる。
【0118】
なお、本例のCDMA基地局装置によるMMSE制御では、例えば各補償不要信号mh(k)の受信方向に対して送信される信号の電力レベルを低減させることにはアレイパタンの自由度が用いられないが、これら各補償不要信号mh(k)を送信した移動局装置(例えば、送信相手となる移動局装置の近傍に存する移動局装置)については、例えば送信電力制御等を行うことにより干渉の影響を小さくすることが可能である。
【0119】
また、本例では、送信相手となる移動局装置から受信した信号の近傍方向から到来した受信信号を補償不要信号mh(k)としたが、好ましい態様として、CDMA基地局装置から無線送信される信号によって干渉を受ける恐れのない信号をも補償不要信号mh(k)に含めるようにすると、アレイパタンの自由度を更に有効に利用することができてよい。ここで、干渉を受ける恐れのない信号とは、例えば干渉を受けない程度に誤り率が低いような信号のことであり、一例として、送信相手となる移動局装置に対する信号(送信希望信号)の送信電力と同程度以上の送信電力でCDMA基地局装置から送信されるような信号が挙げられる。
【0120】
また、本例のCDMA基地局装置では、拡散信号の形で算出された誤差信号e(k)を用いて送信ウエイトω’1〜ω’Nを決定する構成としたが、例えば逆拡散された信号の形(すなわち、拡散前の信号と同じ形)で算出された誤差信号を用いて送信ウエイトを決定する構成とすることも可能である。
【0121】
また、本例のような送信ウエイトω’1〜ω’Nの制御の仕方は、サイドローブ方向の移動局装置の数が多いような場合に特に有効なものであるため、例えば複数種類の送信ウエイト制御法を切り替えて実行することができるようにして、移動局装置の数が多い場合に本例のような送信ウエイト制御法に切り替えて実行する構成としてもよい。
【0122】
また、本例のCDMA基地局装置に備えられた到来方向推定部21では、上記図2を用いて示したように、簡易な構成及び簡易な制御で、受信信号の到来方向を検出することができ、これにより、例えばCDMA基地局装置による送受信制御において、信号(ビーム)の追尾等を実現することが可能である。なお、本例では、このように好ましい例を示したが、例えば上記従来例で示したMUSIC法やESPRIT法等を用いて受信信号の到来方向を検出する構成を用いることも可能である。
【0123】
次に、上記した本例のCDMA基地局装置により行われる送信ウエイト決定処理等の手順の具体例を示す。
図4には、本例のCDMA基地局装置により行われる処理の手順の一例を示してあり、この手順と対応させて説明する。
【0124】
すなわち、まず、各アンテナA1〜ANにより受信された信号x1(k)〜xN(k)がデュプレクサ1を介してRF受信機2へ出力される(ステップS1)。次に、RF受信機2により周波数変換された信号x1(k)〜xN(k)が受信系3によりRAKE受信され、当該受信系3から識別シンボルs(k)及び補償不要信号mh(k)が出力される(ステップS2)。
【0125】
ここで、識別シンボルs(k)としては、送信相手となる移動局装置から複数の経路を介して受信される信号の中で最も平均電力が大きな信号が選択される。また、補償不要信号mh(k)としては、識別シンボルs(k)として選択される信号の近傍方向から到来する全ての受信信号(マルチパス信号も含む)が選択される。
【0126】
また、識別シンボルs(k)は再拡散部4により再拡散されて参照信号r(k)へ変換され(ステップS3)、補償不要信号m1(k)〜mH(k)は再拡散部5により再拡散された後に(ステップS4)、複素振幅α1〜αHを乗算されて当該乗算結果が総和される(ステップS5)。また、例えば以上に示した受信処理や再拡散処理等(ステップS2〜ステップS5)と同期して、各アンテナA1〜ANにより受信された信号x1(k)〜xN(k)には制御用ウエイトω1〜ωNが乗算され(ステップS6)、これらの乗算結果の総和結果y(k)が加算器8により算出される(ステップS7)。
【0127】
次いで、再拡散部4から出力される参照信号r(k)や乗算器6から出力される総和信号z(k)や加算器8から出力される総和結果y(k)に基づいて加算器9により誤差信号e(k)が算出され、当該誤差信号e(k)がウエイト制御部10へ出力される(ステップS8)。
ウエイト制御部10では、例えば予め設定されたMMSE制御の仕方に従って制御用ウエイトω1〜ωNや複素振幅α1〜αHを順次更新することが行われ、これにより、誤差信号e(k)の電力が最小となるような制御用ウエイトω1〜ωNが決定されてウエイト較正部11へ出力される(ステップS9)。
【0128】
そして、上記のようにして決定された制御用ウエイトω1〜ωNに基づいた送信用ウエイトω’1〜ω’Nがウエイト較正部11により算出され(ステップS10)、算出された送信ウエイトω’1〜ω’Nと送信対象となる送信信号t(k)とが乗算された信号がRF送信機13やデュプレクサ1を介して各アンテナA1〜ANから無線送信される(ステップS11)。
【0129】
以上のような処理を行うことにより、本例のCDMA基地局装置では、移動局装置への下り通信を行うに際して、送信希望信号(本例では、識別シンボルs(k)として選択した信号の到来方向へ送信する信号)の送信方向から比較的離れた角度方向のアンテナ利得を低減させることにアレイパタンの全ての自由度を優先的に用いることができるため、送信相手となる移動局装置に対しては信号が大きな電力レベルで送信されるのを確保するとともに、当該角度方向に対しては信号が小さな電力レベルで送信されるような送信指向性を実現することができる。このため、送信希望信号の送信方向から比較的離れた角度方向へ与える干渉を低減させることができ、これにより、このような角度方向に対する送信信号を受信する移動局装置の受信特性が干渉の影響により劣化してしまうのを防止することができる。
【0130】
また、本例のCDMA基地局装置では、送信相手となる移動局装置から送信される信号が複数の経路を介して受信される場合に、好ましい態様として、これら複数の経路を介して受信される信号の中から平均電力が最も大きな信号、すなわち、電力ロスが最も小さな経路を介して受信される信号を参照信号r(k)として選択することが行われるため、常に最良の送信ウエイトω’1〜ω’Nを算出して最良の送信指向性を実現することができる。すなわち、RAKE受信により得られるマルチパス信号の中から平均受信電力が最大の信号を参照信号r(k)として選択することを行うと、時間幅をもった平均化によってフェージング変動等の短時間での電力変動の影響を除去することができるため、例えば上り通信と下り通信との間の伝搬路状況の違いを実質的に抑制することができ、これにより、伝搬ロスやシャドーイング等が最も小さい経路の信号を参照信号r(k)として選択することができる。
【0131】
ここで、本例では、受信系3に備えられた到来方向推定部21が移動局装置から受信した信号の到来方向を検出する機能により、本発明に言う到来方向検出手段が構成されている。
また、本例では、上記した受信系3や再拡散部4が送信相手となる移動局装置から受信した信号を参照信号r(k)として検出する機能により、本発明に言う参照信号検出手段が構成されている。なお、本例のCDMA基地局装置は送信相手となる移動局装置から送信される拡散信号が複数の経路を介して受信されるマルチパス環境の通信で用いられており、本例では、参照信号検出手段が送信相手となる移動局装置から複数の経路を介して受信される信号の中で受信電力が最大となる信号を参照信号として検出している。
【0132】
また、本例では、上記した受信系3や再拡散部5が参照信号r(k)の近傍方向から到来する受信信号を補償不要信号mh(k)として検出する機能により、本発明に言う補償不要信号検出手段が構成されている。なお、本例のCDMA基地局装置は上記したようにマルチパス環境の通信で用いられており、本例では、補償不要信号検出手段が送信相手となる移動局装置以外の移動局装置から受信される信号ばかりでなく、送信相手となる移動局装置から複数の経路を介して受信される信号の中で参照信号として検出された信号以外の信号をも補償不要信号に含めて検出する場合がある。
【0133】
また、本例では、送信ウエイト決定部Dやウエイト較正部11が検出された参照信号r(k)と検出された補償不要信号mh(k)以外の信号を他の信号とすることで当該補償不要信号mh(k)を除外して、当該他の信号の受信レベルが小さくなるとともに当該参照信号r(k)の受信レベルが大きくなるような各アンテナA1〜ANの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトω’1〜ω’Nを算出し、乗算器12やRF送信機13が当該送信ウエイトω’1〜ω’Nを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号をアンテナA1〜ANから送信することにより、本発明に言う送信手段が構成されている。なお、本例では、上記した誤差信号e(k)が本発明に言う他の信号に相当する。
【0134】
また、本例では、上記した制御用ウエイトω1〜ωNが本発明に言う受信ウエイトに相当する。ここで、本例では、本発明に言う受信ウエイト(本例では、制御用ウエイトω1〜ωN)が一旦算出される構成としているが、これは送信ウエイトを算出するために算出されているのであって、この受信ウエイトが必ずしも実際の受信に用いられるということではない。
【0135】
つまり、本例のCDMA基地局装置では、受信時には受信に最適な受信ウエイトを用いてアダプティブアレイアンテナの受信指向性を制御する一方、送信時には、受信時に用いた受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを用いるのではなく、これとは別個に送信に最適な送信ウエイトを算出してアダプティブアレイアンテナの送信指向性を制御している。
【0136】
なお、本例のCDMA基地局装置に備えられた受信系3により行われる実際の受信処理では、好ましい態様として、通信相手となる移動局装置から複数の経路を介して受信される信号の中で受信電力が最大となる信号を受信参照信号として検出し、検出された受信参照信号以外の受信信号を他の信号として、当該他の信号の受信レベルが小さくなるとともに当該受信参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを用いて通信相手となる移動局装置からの信号を受信することが行われている。
【0137】
また、本例では、好ましい態様として、MMSE制御を用いて最良の送信ウエイトを算出することとしたが、送信に用いられる送信ウエイトとしては、例えば送信希望信号の送信方向から比較的離れた方向へ与える干渉を実用上で有効な程度で低減させることができるようなものであれば、必ずしも最良のものでなくともよい。
【0138】
以上に示したような各手段を備えて、本例のCDMA基地局装置に設けられた送受信機では、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して、送信相手となる移動局装置に対する信号を送信することを行う。なお、アンテナの数としては、特に限定はなく、複数であれば種々な数であってもよい。また、アンテナの配置の仕方としても、特に限定はなく、種々な配置の仕方が用いられてもよい。
【0139】
また、本例では上記したように、CDMA基地局装置と移動局装置との間で送受信される信号は、搬送波をデータで変調して生成されている。なお、変調方式としては、特に限定はなく、位相変調方式等の種々な方式を用いることが可能である。
そして、本例の到来方向推定部21(到来方向検出手段)では、逆拡散部31や受信・復調部32がアンテナにより受信した信号を復調(本例では逆拡散も行う)して受信データを取得する機能により、本発明に言う受信データ取得手段が構成されている。
【0140】
また、本例の到来方向推定部21(到来方向検出手段)では、複数のアンテナ(本例では、隣接する2つのアンテナ)により受信した同一の信号に関して、乗算器33等が同一の受信データ(本例では、同一の識別シンボル複素共役s(k))を用いて、各受信信号(各アンテナにより受信した信号)の搬送波を検出する(すなわち、データによる変調をとく)機能により、本発明に言う搬送波検出手段が構成されている。
【0141】
上記のような受信データ取得手段や搬送波検出手段を備えて、本例の到来方向推定部21(到来方向検出手段)では、検出された各搬送波の位相差を位相差算出部36により算出し、算出した位相差(本例では、上記した位相差Δφ)に基づいて到来角度推定部37により受信信号の到来方向(本例では、上記した到来角度方向Δθ)を検出する。
【0142】
ここで、本例では、隣接する2つのアンテナにより受信した同一の信号に基づいて当該受信信号の到来方向を検出する構成としたが、当該検出を行うために用いられる信号はいずれのアンテナにより受信されたものであってもよく、また、例えば3つ以上のアンテナにより受信した同一の信号に基づいて当該受信信号の到来方向を検出する構成とすることも可能である。
【0143】
また、本例では上述したように、好ましい態様として、乗算器33等から出力される乗算結果を受信位相平均化処理部34や隣接アンテナ素子位相平均化処理部35により時間平均することで、ノイズによる位相回転の影響をも低減させている。
なお、本例では、到来方向推定部21により検出された各受信信号の到来方向に基づいて補償不要信号mh(k)に含める信号を決定したが、検出された各受信信号の到来方向の情報は他の用途に用いられてもよい。
【0144】
次に、本例のCDMA基地局装置により実現される送信指向性パタンに関するシミュレーションの結果例を示して、本例のCDMA基地局装置により得られる効果を従来例と比較して述べる。
【0145】
なお、図5には、本例のシミュレーションにおいて用いたDS−CDMA無線通信システムに関する各種の設定を示してある。ここで、同図では、例えばデータや画像を伝送する高速ユーザ信号と例えば音声を伝送する低速ユーザ信号とで設定値が異なる拡散率等に関しては、それぞれの設定値を示してある。
【0146】
同図に示されるように、本例では、例えば高速ユーザ信号の通信速度が低速ユーザ信号の通信速度の16倍であるとしてある。また、チップレートが4.096Mcpsであるとし、高速ユーザ信号の拡散率を4チップ/シンボルとする一方、低速ユーザ信号の拡散率を64チップ/シンボルとすることで、両信号の通信速度を変化させている。送信電力は例えば通信速度に比例することから、高速ユーザ信号の送信電力は低速ユーザ信号の送信電力の16倍(すなわち、12dB大きい値)となる。
【0147】
また、本例のシミュレーションでは、例えば上り通信においてロングコードを用いて移動局装置(ユーザ端末)を識別する構成とした。また、アンテナから送信される各信号は、先行波と当該先行波に比べて1チップ分の時間遅延を有する遅延波との2パス分の信号となって伝送されるとし、すなわち、各信号に関して2パスのマルチパス伝搬環境が成立するとしてある。また、各パスに関して、CDMA基地局装置と移動局装置との距離(信号の伝搬距離)は全て等しいとして、信号の減衰は全て等しいとした。
【0148】
更に、図6には、本例のシミュレーションにおいて用いた他の要素に関する設定を示してある。
同図に示されるように、本例では、例えばCDMA基地局装置の通信可能領域に存する高速ユーザの総数が2であり、低速ユーザの総数が30であるとした。
【0149】
また、ウエイトωiを決定するためのアルゴリズムで用いられるステップ係数の大きさが、上記従来例で示した“従来方式”では0.01であり、本例の方式(“提案方式”)では0.05であるとした。なお、“従来方式”と“提案方式”とで異なるステップ係数を用いているのは例えば方式によってウエイトωiの収束速度が異なるためであり、本例では、両方式で異なるステップ係数を用いることにより収束に要する時間(フレーム区間)を同程度とした。
【0150】
また、本例では、アレイアンテナからの放射電力が等しくなるようにウエイトωiのノルムを拘束しており、また、受信信号から正しいシンボルが判定されて参照信号r(k)や補償不要信号mh(k)が生成されるとした。
【0151】
ここで、本例では、CDMA基地局装置及び移動局装置から構成される無線通信システムにおいてマルチレートサービスが行われる場合であってCDMA基地局装置の送信相手となる移動局装置が高速ユーザである場合についてのシミュレーションの結果例を示してその効果を述べるが、例えば送信相手となる移動局装置が低速ユーザである場合についても同様な効果が得られる。また、例えばCDMA基地局装置及び移動局装置の双方で送信電力制御が行われる場合であってCDMA基地局装置の送信相手となる移動局装置が遠距離ユーザである場合や、或いは、送信相手となる移動局装置が近距離ユーザである場合についても同様な効果が得られる。
【0152】
なお、マルチレートサービスが行われる場合には、CDMA基地局装置から移動局装置に対して高速の通信速度で送信される信号(高速ユーザ信号)の送信電力は、低速の通信速度で送信される信号(低速ユーザ信号)の送信電力と比べて大きいため、高速ユーザ信号を通信する移動局装置(高速ユーザ)の方が低速ユーザ信号を通信する移動局装置(低速ユーザ)と比べて干渉に強く、すなわち、干渉の影響を受けにくい。また、CDMA基地局装置及び移動局装置の双方で送信電力制御が行われる場合には、遠距離の移動局装置(遠距離ユーザ)に対してCDMA基地局装置から送信される信号(遠距離ユーザ信号)の送信電力は、近距離の移動局装置(近距離ユーザ)に対してCDMA基地局装置から送信される信号(近距離ユーザ信号)の送信電力と比べて大きいため、遠距離ユーザの方が近距離ユーザと比べて干渉に強く、すなわち、干渉の影響を受けにくい。
【0153】
以下では、上記したように、マルチレートサービスが行われる場合であってCDMA基地局装置の送信相手となる移動局装置が高速ユーザである場合についてのシミュレーションの結果例を示す。なお、本例のシミュレーションでは、高速ユーザに対する逆拡散前の送信電力の大きさが12dBである一方、低速ユーザに対する逆拡散前の送信電力の大きさが0dBであるマルチレートサービスを行うDS−CDMA無線通信システムを仮定している。
【0154】
また、本例のシミュレーションでは、上記図6に示したように、アンテナA1〜ANの総数Nが6であるとし、上り通信で用いられる波長λと下り通信で用いられる波長λ’(本例では、λとλ’とは異なる波長)との中間波長(λ+λ’)/2の半分の波長(λ+λ’)/4を隣接する各アンテナ間の間隔として各アンテナA1〜A6を直線状に配置したリニアアレイが用いられるとしてある。また、本例のシミュレーションでは、CDMA基地局装置が3セクタ構成の高アンテナ高基地局装置であるとしてあり、各信号の角度広がりが十分小さいと仮定してある。
【0155】
本例では、高速ユーザに対してCDMA基地局装置から送信される信号が低速ユーザに与える干渉に注目する。これは、上記したように高速ユーザに対する送信電力は低速ユーザに対する送信電力と比べて大きいことから、高速ユーザに対して送信される信号の電力は低速ユーザにとって大電力の干渉となってしまうためである。
【0156】
ここで、CDMA基地局装置において参照信号の到来方向に対して実現される送信時のアンテナ利得をGhとし、各低速ユーザの第gパス方向に対して実現される送信時のアンテナ利得をGgとし、干渉低減量IS(Interference Suppression)=Gg/Ghを定義する。この場合、干渉低減量ISは、CDMA基地局装置から高速ユーザに対して送信される信号が低速ユーザの第gパス方向へ与える干渉の相対的な強さを示し、当該干渉低減量ISが小さいほど、高速ユーザに対して送信される信号が低速ユーザの第gパス方向へ与える干渉が小さくなる。
【0157】
上述したように、本例のCDMA基地局装置では、参照信号の到来方向に対して近傍であるとみなされる角度領域(ターゲット領域)から到来する信号を補償不要信号mh(k)として、ウエイトωiを決定するに際して当該補償不要信号mh(k)を除外して誤差信号e(k)を生成する。例えば、ターゲット領域を広くするほど、メインローブの幅が広がる一方、サイドローブに対して送信される信号の電力レベルが小さくなる。このように、メインローブの幅とサイドローブに対する電力レベルとの間にはトレードオフの関係が成り立つ。
【0158】
ここで、ターゲット領域を設定する仕方の具体例を2つ示し、以下では、それぞれのターゲット領域の設定の仕方を“提案方式1”及び“提案方式2”と言う。なお、本例では、ターゲット領域の設定の仕方として好ましい態様を示すが、他の設定の仕方が用いられてもよい。
【0159】
まず、“提案方式1”に係るターゲット領域の設定の仕方を示す。
すなわち、“提案方式1”では、ブロードサイド方向に主ビームを向ける共相等振幅励振アレイの主ビーム範囲の領域(第1ヌルで挟まれる領域)をターゲット領域として設定する。ここで、共相等振幅励振とは、例えば希望方向に対して最大の放射が実現されるような仕方で、各アンテナの信号振幅を等しくして信号位相を希望方向へそろえるようにする最も単純な励振法である。
具体的に、例えば6つのアンテナから構成される6素子リニアアレイでは、“提案方式1”により決定されるターゲット領域は、希望方向に対して±20°(θt=20°)の角度範囲の領域となる。
【0160】
次に、“提案方式2”に係るターゲット領域の設定の仕方を示す。
すなわち、“提案方式2”では、例えば所定の条件(本例の場合には、本例で述べられているシミュレーションの条件)の下でシミュレーションを行って、上記した干渉低減量ISの平均値AIS(Average IS)が最も小さくなるターゲット領域を設定する。ここで、本例のシミュレーションでは、例えば上述のように高速ユーザ信号の総数(全てのパス数)が4(=2端末×2パス)であり、低速ユーザ信号の総数(全てのパス数)が60(=30端末×2パス)であるとしている。
【0161】
また、本例のシミュレーションでは、例えば上述のように逆拡散前における高速ユーザ信号のSN比が12dBであり、逆拡散前における低速ユーザ信号のSN比が0dBであるような静特性環境を想定してある。また、本例のシミュレーションでは、例えば各アンテナは120°幅のセクタアンテナであるとし、各アンテナの指向性f(θ)は、例えば角度方向θが0°≦|θ|≦120°である場合には式20のようになり、角度方向θが120°≦|θ|≦180°である場合には式21のようになるとしてある。なお、これらの式中の“j”は式22により示される。
【0162】
【数20】
Figure 0003563657
【0163】
【数21】
Figure 0003563657
【0164】
【数22】
Figure 0003563657
【0165】
また、本例の“提案方式2”では、例えばCDMA基地局装置に到来する全ての信号の到来角度がそれぞれランダムであるとしてあり、具体的には、高速ユーザからの信号についてはそれぞれ−60°方向から60°方向までの領域(−60°〜60°のセクタ範囲)に含まれるランダムな角度方向から到来するものとし、低速ユーザからの信号についてはそれぞれ−90°方向から90°方向までの領域(−90°〜90°のセクタ範囲)に含まれるランダムな角度方向から到来するものとしてある。
【0166】
また、本例の“提案方式2”では、各パス同士が無相関である理想的な状態を想定しており、まず、このような状態でのウエイトωi(ウィーナー解)について干渉低減量ISを算出し、当該干渉低減量ISの平均値AISを算出した。そして、本例の“提案方式2”では、例えばターゲット領域の角度幅θtを種々な値に変化させて(すなわち、種々なターゲット領域について)前記AISを算出し、当該AISが最も小さくなる場合のターゲット領域を求めて、当該ターゲット領域を採用して設定した。
具体的に、本例の場合には、“提案方式2”により決定されるターゲット領域は、希望方向に対して±30°(θt=30°)の角度範囲の領域となる。
【0167】
ここで、図7には、各励振方式を用いた場合に得られたAISの一例を示してあり、具体的には、セクタアンテナを用いた場合にはAISが−1.85dBとなり、希望の高速ユーザ方向に主ビームを向ける共相等振幅励振を用いた場合にはAISが−18.9dBとなり、上記従来例で示した“従来方式”を用いた場合にはAISは−19.1dBとなり、本例の“提案方式1”を用いた場合にはAISが−25.1dBとなり、本例の“提案方式2”を用いた場合にはAISが−28.9dBとなる。このように、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を用いると、例えばセクタアンテナや共相等振幅励振や“従来方式”を用いた場合と比べて、AISをかなり低減させることができる。
【0168】
また、図8には、本例の“提案方式1”を採用したCDMA基地局装置((a)で示したもの)や、本例の“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置((b)で示したもの)や、“従来方式”を採用したCDMA基地局装置((c)で示したもの)や、例えば希望信号方向の推定結果に基づいて行われる“共相等振幅励振”を採用したCDMA基地局装置((d)で示したもの)に関して、干渉低減量ISの累積度数分布のシミュレーションの結果例を示してある。
【0169】
同図に示したグラフの横軸は干渉低減量IS[dB]を示しており、縦軸は横軸に示した干渉低減量IS以下の干渉低減量が実現される確率を示している。同図のグラフに示されるように、“従来方式”を採用したCDMA基地局装置と“共相等振幅励振”を採用したCDMA基地局装置とではほぼ同様な干渉低減特性を有している一方、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置では干渉低減の効果が大きく得られている。
【0170】
特に、本例のCDMA基地局装置では、干渉低減量ISが−10dB程度より小さくなる確率が“従来方式”等を採用したものと比べて大きくなっている。具体的には、例えば干渉低減量IS=−20dBが達成される確率は、“従来方式”や“共相等振幅励振”を用いたアダプティブアレイでは0.4程度となるのに対し、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を用いた場合には0.7程度と大きくなっている。また、例えば干渉低減量IS<−20dBとなる範囲では、“提案方式2”を用いた場合の方が“提案方式1”を用いた場合と比べて干渉低減特性が良好になっている。
このように、本例のCDMA基地局装置を用いると、従来のCDMA基地局装置を用いた場合と比べて、例えば比較的干渉に弱い低速ユーザに与える干渉を低減させることができる。
【0171】
次に、図9には、マルチレートサービスが行われる場合であってCDMA基地局装置の送信相手となる移動局装置が高速ユーザである場合について得られた送信指向性パタンのシミュレーションの結果例を示してある。ここで、このシミュレーションでは、上述のようにCDMA基地局装置に到来する高速ユーザからの信号の総数(高速ユーザパスの総数)が4であって、2つの高速ユーザの内の一方(高速ユーザ1)からは0°方向の先行波と10°方向の1チップ遅延波が到来するとし、他方(高速ユーザ2)からは−15°方向の先行波と−10°方向の1チップ遅延波が到来するとしてある。
【0172】
また、このシミュレーションでは、上述のようにCDMA基地局装置に到来する低速ユーザからの信号の総数(低速ユーザパスの総数)が60であって、例えば30個の低速ユーザの内の1番目の低速ユーザ(低速ユーザ1)からは−90°の先行波と−87°の1チップ遅延波が到来するといったように、全60パスが−90°から90°の角度範囲に等角度間隔(すなわち、角度幅が3°の間隔)で分布するとしてある。
【0173】
また、このシミュレーションでは、例えば静特性を想定していることや各パスの伝搬距離等が等しいとしていることを考慮して、リニアアレイのブロードサイド方向に近い信号を参照信号として選択してあり、具体的には、0°方向から到来する高速ユーザ1からの信号を参照信号として選択してある。また、このシミュレーションでは、ターゲット領域から到来する全ての信号及び高速ユーザからの信号であって参照信号として選択した信号以外の全てのマルチパス信号Mを補償不要信号として選択してある。
【0174】
なお、この例では、10°方向と−15°方向と−10°方向の高速ユーザ信号はいずれも本例のターゲット領域に含まれるため、上記したマルチパス信号Mとして選択される信号はない。
また、本例では、上記したようにN−LMSアルゴリズムを用いて得られた送信指向性パタンを示してある。
【0175】
同図に示したグラフの横軸は例えばCDMA基地局装置から見た角度方向[deg]を示しており、縦軸は当該角度方向に対して送信する信号の電力レベル[dB]を示している。また、同図のグラフでは、例えば上記図8と同様に、本例の“提案方式1”を採用したCDMA基地局装置((a)で示したもの)や、本例の“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置((b)で示したもの)や、“従来方式”を採用したCDMA基地局装置((c)で示したもの)や、“共相等振幅励振”を採用したCDMA基地局装置((d)で示したもの)に関して、送信指向性パタンを示してある。
【0176】
同図のグラフに示されるように、例えば“従来方式”を用いたアダプティブアレイでは、本シミュレーションのように高速ユーザのマルチパス信号が希望信号の近傍に存在する場合には、当該マルチパス信号方向へのアンテナ利得が優先的に低減させられてしまうことから、メインローブが狭くなってしまうとともにサイドローブのレベルが上昇してしまう。なお、“共相等振幅励振”を用いた場合と比べても、“従来方式”を用いた場合には、サイドローブ方向に存する低速ユーザに対して大きい干渉を与えてしまっている。
【0177】
一方、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置では、例えば上記した“従来方式”や“共相等振幅励振”を採用した場合と比べてメインローブの幅は多少広くなるものの、アレイパタンの自由度が有効に活用されて、サイドローブ方向に存する多数の干渉に弱い低速ユーザへのアンテナ利得が十分に低減させられている。特に、“提案方式2”を用いた場合には、“提案方式1”を用いた場合と比べてターゲット領域が広く設定されていることから、メインローブの幅が多少広くなるものの、サイドローブ方向に対する送信電力レベルは大きく抑えられている。
【0178】
つまり、本例のCDMA基地局装置では、例えば参照信号として選択される高速ユーザ信号に対応した角度方向(メインローブ方向)に対しては高いアンテナ利得で信号を送信することができるとともに、従来のCDMA基地局装置と比べて、当該角度方向から離れた角度方向(サイドローブ方向)に対するアンテナ利得を低下させることができるため、このような角度方向へ与える干渉を低減させることができる。
【0179】
このように、本例のCDMA基地局装置では、参照信号として選択される信号の近傍方向にヌルを向けることにアレイパタンの自由度を用いないことで良好な送信指向性パタンを実現することができ、アレイパタンの自由度を有効に活用することができる。
なお、メインローブ内に存する低速ユーザは比較的大きい干渉を受けることもあるが、このような低速ユーザに関しては例えば送信電力制御を行って信号電力を大きくすることで干渉低減特性を向上させる。
【0180】
また、図10には、例えば上記図9に示したシミュレーションの条件と同様な条件ではあるが、10個の低速ユーザ(パス数は計20)が−30°の角度方向から−40°の角度方向に集中して存在し、これらの低速ユーザからの低速ユーザ信号が−30°の角度方向から−40°の角度方向にわたって等角度間隔(すなわち、角度幅0.5°の間隔)でCDMA基地局装置に到来するとした場合における送信指向性パタンのシミュレーションの結果例を示してある。なお、このシミュレーションでは、残りの20個の低速ユーザ(パス数は計40)は−90°から−40°の角度方向及び−30°から90°の角度方向にわたって等角度間隔(すなわち、角度幅4.25°の間隔)で分布しているとしてある。
【0181】
同図に示したグラフの横軸は例えばCDMA基地局装置から見た角度方向[deg]を示しており、縦軸は当該角度方向に対して送信する信号の電力レベル[dB]を示している。また、同図のグラフでは、例えば上記図8と同様に、本例の“提案方式1”を採用したCDMA基地局装置((a)で示したもの)や、本例の“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置((b)で示したもの)や、“従来方式”を採用したCDMA基地局装置((c)で示したもの)や、“共相等振幅励振”を採用したCDMA基地局装置((d)で示したもの)に関して、送信指向性パタンを示してある。
【0182】
同図のグラフに示されるように、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置では、低速ユーザ信号が集中している−30°から−40°の角度方向へのアンテナ利得を低減させる効果を得ることができる。具体的には、例えば“提案方式1”を用いると、上記図9に示した場合と比べて、−30°の角度方向へのアンテナ利得が約10dB低下しており、また、例えば“提案方式2”を用いると、上記図9に示した場合と比べて、−35°の角度方向へのアンテナ利得が約4dB低下している。
【0183】
このように、本例の“提案方式1”や“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置では、環境に適応して指向性パタンを形成する能力を有していることから、上記のようにユーザ端末が存在する空間に偏りがあるような場合であっても、例えば単なる低サイドローブアレイを用いて送信を行うCDMA基地局装置と比べて、当該偏りを有効に利用して干渉低減特性を改善することができる。
【0184】
なお、上記図9や上記図10のグラフに示した本例の“提案方式1”や“提案方式2”を採用したCDMA基地局装置に関するシミュレーションの結果例は、N−LMSアルゴリズムを用いて得られる送信指向性パタンである。
【0185】
また、上記図9や上記図10のグラフに示した従来例(“従来方式”)に係るアダプティブアレイアンテナを用いたCDMA基地局装置に関するシミュレーションの結果例は、参照信号として選択される信号以外の全ての信号を(すなわち、本例で補償不要信号として選択した信号をも)誤差信号e(k)中に残したままMMSE制御を行うこととした場合にN−LMSアルゴリズムを用いて得られる送信指向性パタンである。この従来例に係る場合には、アレイパタンの自由度が参照信号の近傍方向に対するアンテナ利得を低下させるためにも用いられてしまうため、送信指向性パタンの最大放射方向が参照信号の到来方向(本例では、0°方向)からずれてしまい、また、参照信号の到来方向から比較的離れた角度方向に対する干渉除去が不十分である。
【0186】
以上のように、本例のCDMA基地局装置では、通信可能領域に存する移動局装置の通信特性を向上させることができ、具体的には、例えば通信可能領域に存する移動局装置の数が多くてアレイパタンの自由度が圧倒的に足りないような状況での下り通信においても、当該自由度を有効に活用することで、例えば干渉に弱い低速ユーザ等に対して与えてしまう干渉を大きく低減させることができる。なお、本例のCDMA基地局装置では、例えば上り通信で用いられる上り回線で低速伝送を行う一方、下り通信で用いられる下り回線で高速伝送を行うような上下非対称(上りと下りとで通信速度が非対称)な移動局装置に対しても干渉を低減させることが可能である。
【0187】
ここで、本発明に係る送受信機の構成としては、必ずしも上記実施例で示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。
一例として、本発明に係る送受信機の適用分野としては、必ずしもCDMA基地局装置ばかりでなく、本発明は、例えば種々な通信方式を用いた装置に適用可能なものであり、また、例えば基地局装置ばかりでなく中継増幅装置等に適用することも可能なものである。
【0188】
また、本発明に係る送受信機により行われる送信ウエイト制御処理や到来方向検出処理等としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウエア資源においてプロセッサがROMに格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成であってもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピーディスクやCD−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体として把握することもでき、当該制御プログラムを記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【0189】
なお、例えば上記実施例の図1に示したような送受信機を構築する場合に、同図に示した送信ウエイト決定部Dで行われる各種の処理や到来方向推定部21で行われる各種の処理をソフトウエアを用いて実行する構成とすれば、例えば従来の送受信機に新たなハードウエアを追加することなく同図に示したような送受信機を構築することが可能である。
【0190】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る送受信機によると、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するに際して、送信相手となる移動局装置から受信した信号を参照信号とし、参照信号の近傍方向から到来する他の移動局装置から受信した信号を補償不要信号とし、補償不要信号を除外して、参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを算出して、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するようにしたため、例えば上記実施例で示したように、良好な指向性を実現することができる。
【0191】
また、本発明に係る送受信機では、好ましい態様として、上記した参照信号と上記した補償不要信号以外の信号を他の信号として、当該他の信号の受信レベルが小さくなるとともに当該参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するようにしたため、例えば送信相手となる移動局装置に対しては大きな電力レベルで信号を送信することができるとともに前記他の信号の到来方向に対しては小さな電力レベルで当該信号を送信することができる。
【0192】
また、本発明に係る送受信機では、搬送波をデータで変調して生成される信号を移動局装置から受信するに際して、アンテナにより受信した信号を復調して受信データを取得し、複数のアンテナにより受信した同一の信号に関して同一の受信データを用いて各受信信号の搬送波を検出し、検出した各搬送波の位相差に基づいて当該受信信号の到来方向を検出するようにしたため、例えば上記実施例で示したように、簡易な構成で受信信号の到来方向を検出することができる。
以上のように、本発明に係る送受信機では、移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して、送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するに際して、送信相手となる移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号が到来する方向)の近傍に他の移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号)が存する場合であっても、送信指向性パタンの最大放射方向が送信相手となる移動局装置(例えば当該移動局装置からの信号)の方向或いはその近傍の方向となる送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信するようにしたため、例えば送信希望信号の送信方向から比較的離れた角度方向のアンテナ利得を低減させることにアレイパタンの全ての自由度を優先的に用いることができるため、送信相手となる移動局装置に対しては信号が大きな電力レベルで送信されるのを確保するとともに、当該角度方向に対しては信号が小さな電力レベルで送信されるような送信指向性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る送受信機を設けたCDMA基地局装置の一構成例を示す図である。
【図2】到来方向推定部の構成例を示す図である。
【図3】受信信号の到来方向を検出する原理を説明するための図である。
【図4】CDMA基地局装置により行われる処理の手順の一例を示す図である。
【図5】シミュレーションに用いた各種の設定を示す図である。
【図6】シミュレーションに用いた各種の設定を示す図である。
【図7】各励振方式に対応した平均干渉低減量AISの一例を示す図である。
【図8】干渉低減量ISの累積度数分布のシミュレーションの結果例を示す図である。
【図9】CDMA基地局装置により実現される送信指向性パタンのシミュレーションの結果例を示す図である。
【図10】CDMA基地局装置により実現される送信指向性パタンのシミュレーションの結果例を示す図である。
【図11】従来のCDMA基地局装置により実現される受信指向性パタンの一例を示す図である。
【図12】CDMA基地局装置に望まれる理想的な送信指向性パタンの一例を示す図である。
【符号の説明】
Ai・・i番目のアンテナ、 D・・送信ウエイト決定部、
1・・デュプレクサ、 2・・RF受信機、 3・・受信系、
4、5・・再拡散部、 6、7、12、33・・乗算器、 8、9・・加算器、
10・・ウエイト制御部、 11・・ウエイト較正部、 13・・RF送信機、
21・・到来方向推定部、 31・・逆拡散部、 32・・受信・復調部、
34・・受信位相平均化処理部、
35・・隣接アンテナ素子位相平均化処理部、 36・・位相差算出部、
37・・到来角度推定部、

Claims (2)

  1. 移動局装置から送信される信号を複数のアンテナを用いて受信する一方、これら複数のアンテナのそれぞれに送信ウエイトをもたせることによりこれらアンテナ全体としての指向性を制御して、送信相手となる移動局装置に対する信号を送信する送受信機において、
    移動局装置から受信した信号の到来方向を検出する到来方向検出手段と、
    送信相手となる移動局装置から受信した信号を参照信号として検出する参照信号検出手段と、
    参照信号の到来方向に対して所定の角度幅の領域から到来する他の移動局装置から受信した信号を補償不要信号として検出する補償不要信号検出手段と、
    検出された参照信号と検出された補償不要信号以外の信号の受信レベルが小さくなるとともに当該参照信号の受信レベルが大きくなるような各アンテナの受信ウエイトに基づいた送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを用いて送信相手となる移動局装置に対する信号を送信する送信手段と、
    を備えたことを特徴とする送受信機。
  2. 請求項1に記載の送受信機において、
    移動局装置から受信する信号は、搬送波をデータで変調して生成される信号であり、
    到来方向検出手段は、アンテナにより受信した信号を復調して受信データを取得する受信データ取得手段と、複数のアンテナにより受信した同一の信号に関して同一の受信データを用いて各受信信号の搬送波を検出する搬送波検出手段とを有し、検出した各搬送波の位相差に基づいて当該受信信号の到来方向を検出することを特徴とする送受信機。
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