JP3563271B2 - 走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法及びそのための装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、先端が数ナノメートル程度の走査プローブ顕微鏡(SPM)用探針を、種々の材料に対して、真空中にて簡便に作製する方法及びそのための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
走査トンネル顕微鏡(STM)をはじめとした種々の走査プローブ顕微鏡(SPM)装置による観察は、試料表面と測定探針先端間のトンネル電流、原子間力、磁気双極子相互作用等々を用いたものであり、探針先端の形状、清浄性に大きく依存する。そのため先端曲率半径の小さい、清浄な測定探針が必要である。
【0003】
特に、原子レベルでの測定にはナノメートルスケールの鋭い先端をもつ探針が必須である。そのため、切断、劈開等の力学的手法、電解研磨、化学研磨等の化学的手法、収束イオンを用いたイオンスパッタ法(FIB法)、通常のイオンスパッタ法、気相からの結晶成長法によりSPM探針の作製方法が開発されており、実用に供するに値する探針が得られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、清浄な探針が必要であるということ、また多くのSPM観察が超高真空下で行われているという事実を考慮すると、高真空下で探針を作製し、そのまま大気に曝すことなく超高真空SPM装置に搬送する、探針作製装置とSPM装置の一体化したシステムが望まれる。
【0005】
その際、超高真空SPM装置に組み込むべき探針作製装置は小さく簡素なものが取り扱いやすい。それゆえナノメートルサイズの先端突起をもつ探針を真空下で簡便に作り出す手法が必要となる。しかし、現在用いられている探針作製方法はこの点において不十分である。例えば、力学的手法によっては良好な形状が得にくい。更に、化学的手法は真空中で行えない。また、FIB装置は大型である等の難点がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を除去し、ナノメートルサイズの先端突起を有する探針を真空下で簡便に作り出すことができる走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法において、走査プローブ顕微鏡用探針の材料に、この探針材料よりイオンスパッタ速度が遅い微粒子を付着させ、この微粒子が付着した状態で、この微粒子が無くなるまで、或いはそれ以上に、前記探針材料をイオンスパッタすることにより針状突起を形成した探針の表面を真空熱処理によって清浄にした後、所望の探針材料をエピタキシャル成長させるようにしたものである。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記エピタキシャル成長材料がIII −V族化合物半導体材料、または、III −V族化合物半導体の人工格子である。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法によって得られる走査プローブ顕微鏡用探針の作製装置であって、独立な真空排気ポンプを有する探針材料挿入室と、独立な真空排気ポンプを有するとともに、前記探針材料挿入室に第1の真空バルブを介して連設される探針加工室と、独立な真空排気ポンプを有するとともに、前記探針加工室に第2の真空バルブを介して連設される走査プローブ顕微鏡観察室とを具備するようにしたものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
本発明は、いわゆるイオンシャドー法を走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法に応用したものである。
【0012】
イオンシャドー法とは、透過電子顕微鏡用多層膜断面観察試料の加工技術として開発されたイオンスパッタ法〔吉岡忠則:局所領域のキャラクタリゼーション(II)、金属学会セミナーテキスト、日本金属学会、(1992),59〕である。この手法の概略を図1を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の第1実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程断面図である。
【0014】
(1)まず、図1(a)に示すように、基板1上の多層膜2の表面にダイアモンド粉末3を分散塗布し、試料表面に垂直にイオンビーム(例えば、Ar+ )4を照射する。
【0015】
(2)すると、図1(b)に示すように、ダイアモンド3のスパッタ速度が非常に遅いため、その下の部分はスパッタされずにダイアモンド3の残存した状態の柱状突起5となる。この段階で人工格子部分を観察するのがこの手法の特徴である。
【0016】
これまでのイオンシャドー法において、被スパッタ物はあくまで観察される試料であり、また、突起先端にダイアモンドを残すことで、人工格子の最表面層を観察することが目的であった。
【0017】
(3)それに対し、この実施例においては、図1(c)に示すように、電子顕微鏡試料の代わりに、SPM探針材料(Si,GaAs等の半導体,W,Pt−Ir等の金属、GaN等の薄膜、GaAs/GaAsAl等の人工格子)を被スパッタ物として用い、またスパッタ時間を長くする(しかし30分程度以下で十分)。それによって、ダイアモンドが残存しない針状突起6を作ることができる。
【0018】
図2は本発明に係るSi探針の例を示す図であり、図2(a)は走査電子顕微鏡像、図2(b)は透過電子顕微鏡像、図2(c)は高分解能透過電子顕微鏡像である。
【0019】
これらの図から、そのSi探針のサイズがわかる。この場合、作製条件としては、5μmのダイアモンド粉を用い、スパッタリング条件は5kV、0.5mA、30分である。先端開き角が30°程度〔図2(a)及び図2(b)参照〕で、先端極微小領域での幅が数ナノメートル程度〔図2(c)参照〕の針状突起を容易に作製することができる。
【0020】
これを観察試料としてでなく探針として使用する。この場合、多くの突起ができることもあるが、原子レベルで平坦な試料を観察する際には、最も長い突起のみが探針として作用する。この手法は真空中でのドライなプロセスであり、またイオンのエネルギーも、5keV程度以下で十分であるため、エネルギーが20keV程度のFIB法に比べ、探針表面の荒れを少なくすることができる。
【0021】
このように第1実施例によれば、短時間で鋭い先端をもつ探針を作製できる。また、化学的手法のように材料を選ばず、金属探針から半導体探針に至るまで様々な材料を探針として加工することができる。更に、必要な装置は、基本的に低出力のイオンガンと小型の真空槽であるため、作製コストを低減できると同時に真空SPM装置への取り付けが容易となる。
【0022】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
【0023】
図3は本発明の第2実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。この実施例では板状材料から探針を作製するようにしている。
【0024】
(1)まず、図3(a)に示すように、板状材料11の端部にダイアモンド懸濁液12を少量塗布し乾燥させる。
【0025】
(2)次いで、Ar+ スパッタリングを施し、図3(b)に示すように、針状突起13を板状材料11の端部に作製し、SPM探針ホルダー14に斜めに取り付け測定を行う。この手法は、広い範囲で平坦な表面を持つ、単結晶半導体板に特に有効である。Siを用いた場合には、突起作製後に熱酸化及び化学研磨を行うことにより原子間力顕微鏡(AFM)用SiO2 カンチレバーの作製が可能である。
【0026】
次に、本発明の第3実施例について説明する。
【0027】
図4は本発明の第3実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。この実施例では針状材料から探針を作製するようにしている。
【0028】
(1)まず、図4(a)に示すように、化学研磨法、FIB法等により、予備加工した探針21の先端をダイアモンド懸濁液22に浸ける。
【0029】
(2)次に、図4(b)に示すように、それを乾燥させると、突起先端にダイアモンド粉末23が残存する。これにスパッタリングを施すことにより微小突起24を作製する。
【0030】
この実施例によれば、通常の取り付け方法で、SPM探針として使用できる。金属、半導体、絶縁体の幅広い材料において、単結晶、多結晶を問わず利用できる方法である。使用済みのSTM探針、AFMカンチレバーの再生にも応用することができる。
【0031】
次に、本発明の第4実施例について説明する。
【0032】
図5は本発明の第4実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。この実施例も、板状半導体材料から探針を作製する点では、第1実施例と同様であるが、ダイアモンドを表面に載せる方法が異なる。
【0033】
(1)まず、図5(a)に示すように、板状半導体材料31の表面に微細マスキングをし、エッチングによりエッチピット32を形成する。
【0034】
(2)次に、図5(b)に示すように、化学的気相成長法(CVD)によりエッチピット32にダイアモンド粉末33を成長させる。
【0035】
(3)次に、図5(c)に示すように、イオンビーム(例えば、Ar+ )によるスパッタリングを行う。
【0036】
(4)次に、図5(d)に示すように、板状半導体材料31に針状突起34を作製し、SPM観察に用いる。
【0037】
この方法は、板状半導体材料としてはSi〈001〉単結晶が好適である。
【0038】
次に、本発明の第5実施例について説明する。
【0039】
図6は本発明の第5実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。この実施例では、作製突起の先端にエピタキシャル成長探針を成長させる。
【0040】
この実施例では、上記した第1〜第4実施例により、突起35を作製後〔図6(a)〕、真空熱処理等により先端部の欠陥層、アモルファス層を取り除く。Siの場合、金蒸着した後の真空熱処理(1200℃程度)により、清浄な結晶面が得られることが知られている。次に、図6(b)に示すように、真空蒸着、CVD等の方法により先端に多層膜36を成長させる。イオンシャドー法によるナノメートルサイズの突起先端に結晶成長させるため、非常に微小な探針を作製できる。
【0041】
この場合、単一物質だけでなく、GaAs,GaN等の化合物、GaAs/GaAsAl等の人工格子を成長させることにより、スピン偏極STM用探針を作製できる。
【0042】
以上述べた実施例により、探針を作製し、超高真空SPM装置に搬送する基本システムを図7に示す。
【0043】
本システムは、それぞれ独立な真空排気ポンプ46を有する、探針材料挿入室41(10−7torr)、探針加工室42(10−9torr)、SPM観察室43(10−11torr)から構成されている。
【0044】
すなわち、本発明の走査プローブ顕微鏡用探針の作製装置は、独立な真空排気ポンプ46Aを有する探針材料挿入室41と、独立な真空排気ポンプ46Bを有するとともに、前記探針材料挿入室41に第1の真空バルブ45Aを介して連設される探針加工室42と、独立な真空排気ポンプ46Cを有するとともに、前記探針加工室42に第2の真空バルブ45Bを介して連設される走査プローブ顕微鏡観察室43とを具備する。
【0045】
このように、各室は互いに真空バルブ45A,45Bで連結されており、探針47を搬送棒44により移動させる。ダイアモンド塗布した材料を探針材料挿入室41に入れ真空排気後、探針加工室42に搬送する。イオンガン48により探針を作製した後、SPM観察室43にあるSPM装置51にその探針を取り付ける。基本的にはこれで十分であるが、場合によっては探針加工室42においてレーザ49による探針加熱処理、蒸発源50による金蒸着を行うことができる。
【0046】
なお、上記第5実施例における微小探針の成長を行う際には、別途探針成長室が必要となる。
【0047】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0048】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0049】
(A)ナノメートルサイズの先端突起をもつ走査プローブ顕微鏡用探針を真空下で簡便に作り出すことができる。
【0050】
(B)ダイアモンドを用いたイオンシャドー法を応用することにより、先端がナノメートルサイズのSPM用探針を短時間に、真空中で作製することができる。
【0051】
(C)イオンスパッタによる探針加工であるため、各種探針材料に対しての使用が可能となる。
【0052】
(D)探針作製には、小型のイオンスパッタ装置が必要なだけであるため、探針作製装置を小型のものとすることができる。そのため、作製コストを低減できると同時に真空SPM装置への取り付けを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程断面図である。
【図2】本発明に係るSi探針の例を示す図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。
【図5】本発明の第4実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。
【図6】本発明の第5実施例を示す走査プローブ顕微鏡用探針の作製工程図である。
【図7】本発明の走査プローブ顕微鏡用探針の作製システムを示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2,36 多層膜
3,23,33 ダイアモンド粉末
4 イオンビーム(例えば、Ar+ )
5 ダイアモンドの残存した柱状突起
6,13,34 針状突起
11 板状材料
12,22 ダイアモンド懸濁液
14 SPM探針ホルダー
21 予備加工した探針
24 微小突起
31 板状半導体材料
32 エッチピット
35 突起
41 探針材料挿入室(10−7torr)
42 探針加工室(10−9torr)
43 SPM観察室(10−11torr)
44 搬送棒
45A 第1の真空バルブ
45B 第2の真空バルブ
46A,46B,46C 真空排気ポンプ
47 探針
48 イオンガン
49 レーザ
50 蒸発源
51 SPM装置
Claims (3)
- 走査プローブ顕微鏡用探針の材料に、該探針材料よりイオンスパッタ速度が遅い微粒子を付着させ、該微粒子が付着した状態で、該微粒子が無くなるまで、或いはそれ以上に、前記探針材料をイオンスパッタすることにより針状突起を形成した探針の表面を真空熱処理によって清浄にした後、所望の探針材料をエピタキシャル成長させることを特徴とする走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法。
- 請求項1記載の走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記エピタキシャル成長材料がIII −V族化合物半導体材料、または、III −V族化合物半導体の人工格子であることを特徴とする走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法。
- 請求項1記載の走査プローブ顕微鏡用探針の作製方法によって得られる走査プローブ顕微鏡用探針の作製装置であって、
(a)独立な真空排気ポンプを有する探針材料挿入室と、
(b)独立な真空排気ポンプを有するとともに、前記探針材料挿入室に第1の真空バルブを介して連設される探針加工室と、
(c)独立な真空排気ポンプを有するとともに、前記探針加工室に第2の真空バルブを介して連設される走査プローブ顕微鏡観察室とを具備することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用探針の作製装置。
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