JP3559897B2 - 無段変速機の変速比制御システム - Google Patents

無段変速機の変速比制御システム Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、無段変速機の変速比を制御する変速比制御システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ステップモータ等を用いて変速制御弁を駆動することで可変プーリのプーリ溝幅を変更し、設計者が希望する動特性で変速比が目標とする変速比に追従するように変速比制御を行うVベルト式無段変速機が知られている。
【0003】
このようなVベルト式無段変速機の変速比制御システムとしては、図3に示すように、設計者が希望する変速比応答を実現する動特性補償器と、無段変速機の非線形要素や外乱の影響を除去すべく近似ゼロイングを用いたローパスフィルタにより構成された外乱補償器と、目標変速比と実変速比の偏差から動特性補償器の出力を補正する応答補正部とで構成された変速比制御システムが本出願人により提案されている(特願平11−353135号)。
【0004】
変速比制御システムをこのように構成することにより、動特性補償器と外乱補償器とを別々に設計できるため、設計者が希望する変速比応答と、無段変速機の動特性変化や外乱の影響に対する安定性を独立して自由に設計することができる。
【0005】
【発明が解決しようとしている問題点】
ところで、上記変速比制御システムでは、無段変速機の動特性を表す時定数(以下、「制御対象時定数」)を実変速比と変速方向等を引数として予め測定し、この測定結果をマップ化したものを用いてコントローラで制御対象時定数を推定検出しているが、このマップの引数である変速方向は実変速比や変速比サーボ系の変数を用いて判定するという構成になっていたため、制御対象時定数の変化が小さい場合は変速方向を誤判定する可能性があった。変速方向を誤判定してしまうと制御対象時定数も誤推定してしまうことになる。
【0006】
制御対象時定数を誤推定した場合、上記変速比制御システムでは、外乱補償器が近似ゼロイングを用いたローパスフィルタにより構成されているため、外乱補償器が余分な補償を行ってしまい、変速比サーボ性能を低下させてしまう。
【0007】
例えば、アップシフトからダウンシフトに変速方向が切り替わる状況のように不連続に時定数変化が起こる場合に、推定した制御対象時定数が実際の制御対象時定数とずれていると、外乱が加わっていないにも係らず外乱補償器が余分な補償を行ってしまい、変速比サーボ性能に影響を与えてしまう。
【0008】
さらに、無段変速機の変速機構部の生産バラツキ等により、予め測定した制御対象動特性が実際の制御対象動特性が異なる場合もあり、この場合も上記同様に変速サーボ性能を低下させてしまう。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を鑑みてなされたものであり、制御対象時定数を誤推定した場合であってもそれが変速比サーボ性能に与える影響を抑え、良好な変速比応答を実現することを目的とする。
【0010】
【問題点を解決するための手段】
第1の発明は、運転状態に応じて決まる到達変速比と、所定の変速特性を表す時定数と、推定された無段変速機の動特性を表す時定数とに基づき変速比指令値を演算する動特性補償手段と、無段変速機に加わる外乱を補償すべく近似ゼロイングを用いたローパスフィルタにより変速比指令値を補正する外乱補償手段と、補正後の変速比指令値に基づき無段変速機を制御する手段とを備えた無段変速機の変速比制御システムにおいて、ローパスフィルタの時定数を無段変速機の動特性を表す時定数との比の変動が小さくなるように設定したことを特徴とするものである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、ローパスフィルタの時定数が、変速比制御システムにおいてゲイン余裕が所定値以上あるいは位相余裕が所定値以上の安定性が確保されるように設定されることを特徴とするものである。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、ローパスフィルタの時定数が、変速比制御システムにおいてゲイン余裕が12dB以上の安定性が確保されるように設定されることを特徴とするものである。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、ローパスフィルタの時定数が、変速比制御システムにおいて位相余裕が45°以上の安定性が確保されるよう設定されることを特徴とするものである。
【0014】
第5の発明は、第1の発明において、ローパスフィルタの時定数が、無段変速機の動特性を表す時定数の誤推定の影響が最も大きく出る領域において、理論上安定性が確保される時定数より大きな値に設定されることを特徴とするものである。
【0015】
第6の発明は、第1の発明において、ローパスフィルタの時定数が、理論上安定性が確保されている時定数より大きな値に設定されることを特徴とするものである。
【0016】
【作用及び効果】
本発明に係る無段変速機の変速比制御システムにおいては、実変速比が所定の変速特性をもって運転条件に応じて決まる到達変速比に近づくように、推定された制御対象時定数に基づき無段変速機が制御され、無段変速機に加わる外乱の影響は動特性補償手段によって除去される。
【0017】
シフト方向変化時やオートアップ変速時等においては変速方向が誤判定され、制御対象時定数が誤推定される可能性があるが、第1の発明によると、ローパスフィルタの時定数を制御対象時定数との比の変動が小さくなるように設定したので、外乱補償手段が余分な補償を行うのを抑えることができ、制御対象時定数の推定誤差が変速比サーボ性能に与える影響を小さくすることができる。
【0018】
さらに、第2から第4の発明によると、外乱補償手段のローパスフィルタの時定数がシステムの安定性(例えば、ゲイン余裕12dB以上かつ位相余裕45°以上の安定性)が確保されるように設定されるので、制御対象時定数の誤推定の影響を抑えつつ、変速比制御システムの安定性を確保することができる。
【0019】
また、第5の発明によると、ローパスフィルタの時定数が、制御対象時定数の誤推定の影響が最も出る領域において、理論上安定性が確保される時定数より大きな値に設定されるので、制御対象時定数の誤推定の影響が最も出る領域において外乱補償手段が余分な補償を行うのを抑えることができる。
【0020】
また、第6の発明によると、ローパスフィルタの時定数が、理論上安定性が確保されている時定数より大きく設定される。これにより、外乱補償手段の過敏な応答をなくし、変速比応答のハンチングを防止することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
図1は本発明に係る無段変速機の変速比制御システムの概略構成を示し、変速比制御システムは、無段変速機4と、その変速比を制御するCVTコントロールユニット1とから構成される。
【0023】
無段変速機4は、前後進切替機構10及びトルクコンバータ11を介して図示しないエンジンに接続される変速機構部17と、変速機構部17への油圧供給を制御する油圧コントロールユニット3と、油圧コントロールユニット3内の図示しない変速制御弁を駆動するステップモータ2とを備える。
【0024】
変速機構部17は、プーリ溝幅を変更可能な一対の可変プーリ5、6と、それらに掛け回されるVベルト7とを備えたいわゆるVベルト式無段変速機構であり、可変プーリ5、6のプーリ溝幅を変更することで変速比を無段階に変更することができる。
【0025】
油圧コントロールユニット3内の変速制御弁はステップモータ2の角位置に応じて駆動され、可変プーリ5、6の可動円錐板の背面に設けられた油圧シリンダ8、9に供給される油圧が調整される。この結果、可変プーリ5、6のプーリ溝幅が相反的に変更され、変速機構部17の変速比が変更される。油圧シリンダ8、9に油圧を供給する油圧源の圧力(ライン圧力)はライン圧センサ18により検出される。
【0026】
CVTコントロールユニット1にはスロットル開度センサ12からのスロットル開度信号TVO、インヒビタースイッチ13からのシフトレバー位置信号、油温センサ14からの油温信号、ライン圧センサ18からのライン圧信号pの他、変速機構部17の入力回転速度センサ15からの入力回転速度信号Npri、出力回転速度センサ16からの出力回転速度信号Nsec等が入力される。CVTコントロールユニット1は、これら各種入力信号に基づき最終的な目標変速比である到達変速比iPTを演算し、変速機構部17の実変速比iPRが所定の変速特性で到達変速比iPTに近づくよう変速比指令値iPCFを演算する。変速比指令値iPCFはCVTコントロールユニット1で角位置指令値θに変換された後ステップモータ2に出力される。
【0027】
CVTコントロールユニット1の内部構成を図2に示す。
【0028】
この図に示すように、CVTコントロールユニット1は、到達変速比演算部B1と、実変速比演算部B2と、変速比指令値演算部B3と、変速比指令値変換部B4とから構成される。
【0029】
到達変速比演算部B1は、上述したスロットル開度信号TVO、入力回転速度信号Npri、出力回転速度信号Nsec等に基づき到達変速比iPTを演算し、それを変速比指令値演算部B3に出力する。到達変速比iPTは、運転状態に応じて決定され、例えば、スロットル開度TVOをパラメータとして出力回転速度Nsecに応じた到達変速比iPTを設定したマップを参照することによって決定される。
【0030】
実変速比演算部B2は、変速機構部17の入力回転速度Npriと出力回転速度Nsecから次式(1)、
【0031】
【数1】
Figure 0003559897
により、変速機構部17の実変速比iPRを演算し、それを変速比指令値演算部B3に出力する。
【0032】
変速比指令値演算部B3は、到達変速比iPTと実変速比iPRに基づき設計者が希望する変速比応答を実現するための変速比指令値iPCFを演算し、それを変速比指令値変換部B4に出力する。
【0033】
変速比指令値変換部B4は、変速比指令値iPCFをステップモータ2の角位置と変速機構部17の変速比との関係を規定するマップを参照して角位置指令値θに変換し、それをステップモータ2に出力する。
【0034】
次に、図3から図8を参照しながら、CVTコントロールユニット1が行う変速比制御について詳述する。
【0035】
図3は変速比制御システムのブロック線図である。変速比制御システムは大きく分けて動特性補償器B31と、応答補正部B32と、外乱補償器B33と、変速比指令値変換部B4と、制御対象である無段変速機4(ステップモータ2、油圧コントロールユニット3及び変速機構部17)とから構成される。
【0036】
ここで無段変速機4の動特性は次式(2)に示すような一時遅れとむだ時間で表すことができる。
【0037】
【数2】
Figure 0003559897
ただし、
L:むだ時間
s:微分演算子
:無段変速機4のゲイン
:無段変速機4の動特性を表す時定数
PR:実変速比
:変速方向
:ライン圧力
ステップモータ2の角位置に対する変速機構部17の変速比は図4に示すように比例関係にないので、無段変速機4のゲインKは変速機構部17の実変速比iPRに応じて算出される。
【0038】
また、無段変速機4の動特性を表す時定数T(以下、「制御対象時定数」とする。)は、実変速比iPR、変速方向s(アップシフト方向またはダウンシフト方向)、ライン圧力pに応じて変化するので、実変速比iPR、変速方向s、ライン圧力pから同定実験に基づき作成した図5に示すマップを参照して算出される。なお、変速方向sは実変速比iPRや変速比サーボ系の変数を用いて判定され、その具体的な判定方法は、特開平8−338515号に変速制御弁の変位量に基づき変速制御弁の開口方向を演算する方法として開示されている。
【0039】
以上のことを踏まえ、図3に示す変速比制御システムの各要素について説明する。
【0040】
まず、動特性補償器B31について説明すると、動特性補償器B31はいわゆるフィードフォワード補償器であり、設計者が希望する変速比応答が次式(3)、
【0041】
【数3】
Figure 0003559897
:設計者が希望する変速比応答を得るための時定数
で与えられるとすると、実変速比iPRが動特性Gで到達変速比iPTに近づくよう、次式(4)に基づき変速比指令値iPAを演算する。つまり、動特性補償器B31は1次/1次フィルタで構成され、
【0042】
【数4】
Figure 0003559897
:制御対象時定数
:設計者が希望する変速比応答を得るための時定数
となる。時定数Tは到達変速比iPTと後述する目標変速比iPMとの偏差に基づき予め設定されたマップにより決定される。
【0043】
したがって、動特性補償器B31は到達変速比iPTを入力として設計者が希望する変速比応答を実現すべく変速比指令値iPAを出力する。
【0044】
次に、応答補正部B32について説明する。この応答補正部B32は目標変速比演算部B34と変速比指令値補正量演算部B35とから構成される。
【0045】
目標変速比演算部B34は、到達変速比iPTを入力とし設計者が希望する変速比応答である目標変速比iPMを次式(5)に基づき演算する。この目標変速比iPMは実変速比iPRが到達変速比iPTに至るまでの過渡的な目標値である。
【0046】
【数5】
Figure 0003559897
:設計者が希望する変速比応答を表す時定数
なお、次式(6)に示すように無段変速機4のむだ時間相当の遅れを考慮してもよい。
【0047】
【数6】
Figure 0003559897
変速比指令値補正量演算部B35では、例えば比例制御とした場合、加減算器Pの出力である目標変速比iPMと実変速比iPRの偏差iPERR(=iPM−iPR)を入力として次式(7)に基づき変速比指令値補正量iPFBを演算する。
【0048】
【数7】
Figure 0003559897
FB:制御対象時定数Tにより決定される比例ゲイン
次に、外乱補償器B33について説明する。外乱補償器B33は式(1)で記述される無段変速機4の動特性を基準モデルとし、この基準モデルが量産バラツキ(パラメータ変動)やステップモータの脱調等の外乱により乱されるのを除去するように設計される。
【0049】
具体的には、外乱補償器B33は近似ゼロイングを用いたフィルタで構成され、実変速比iPRと後述する変速比指令値iPCFより、次式(8)に基づき外乱補償出力iPDを算出する。
【0050】
【数8】
Figure 0003559897
ここで、Tは外乱補償器B33のローパスフィルタの時定数であり、制御対象時定数Tに応じて決定される。具体的には、まず、理論上、システムの安定性(例えば、ゲイン余裕12dB以上あるいは位相余裕45°以上の安定性)が確保される外乱補償部ローパスフィルタの時定数TH1が図6に示すように求められる。そして、このTH1より大きく且つT/Tの変動が小さくなるようなローパスフィルタの時定数Tが求められる(図6、図7)。
【0051】
ここでローパスフィルタの時定数TをTH1より大きく設定しているのは、システムの安定性を確保するとともに、外乱補償部B33の過敏な応答を抑えて、変速比応答のハンチングを防止するためである。
【0052】
また、ローパスフィルタの時定数TをT/Tの変動が小さくなるように設定しているのは、制御対象時定数Tを誤推定した場合に外乱補償器B33が余分な補償を行わないようにするためである。
【0053】
図3に示す外乱補償器B33は図8に示すブロック図を等価変換したものであるが、図8をみるとT/Tの変動が小さくなるようにローパスフィルタの時定数Tを設定すれば、ブロック図の直達項T/Tが制御対象時定数Tの誤推定の影響を受けなくなり、外乱補償器B33が余分な補償を行わなくなることがわかる。
【0054】
なお、ここでは全ての領域においてローパスフィルタの時定数TをTH1より大きく設定しているが、制御対象時定数の誤推定の影響が最も出る領域(ここでは最大時定数である0.8秒付近)においてのみTH1より大きく設定するようにしてもよい。
【0055】
図3に戻り、加減算器Pでは、変速比指令値iPAを変速比指令値補正量iPFBで補正し、変速比指令値iPCを演算する。
【0056】
【数9】
Figure 0003559897
さらに、加減算器Pでは、変速比指令値iPCを外乱補償出力iPDで補正し、最終的な変速比指令値iPCFを演算する。
【0057】
【数10】
Figure 0003559897
上式(10)から算出される変速比指令値iPCFをステップモータ2に指令することにより、パラメータ変動等の外乱の影響を受けにくく、かつ設計者が希望する変速比応答が得られる。
【0058】
ただし、変速機構部17の変速比とステップモータ2の角位置は比例関係にないので、変速比指令値変換部B4おいて、図4に示したようなマップを参照して変速比指令値iPCFをステップモータ角位置指令値θに変換し、これをステップモータ2に出力する。
【0059】
次に、CVTコントロールユニット1の動作を図9に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0060】
まず、ステップS11で所定時間経過した後に、ステップS12で変速機構部17の入力回転速度Npriと出力回転速度Nsec、スロットル開度TVO、ライン圧力p、シフトレバー位置等が読み込まれる。
【0061】
次に、ステップS13では読み込まれた各種信号に基づき最終的な目標変速比である到達変速比iPTが演算され、ステップS14では油圧コントロールユニット3の変速制御弁の変速方向sが演算される。ステップ15では、実変速比iPR、変速方向s、ライン圧力pに基づき図5に示したマップを参照して制御対象時定数Tが演算される。
【0062】
そして、ステップS16では、到達変速比iPT、制御対象時定数T、設計者が希望する変速比応答を表す時定数Tに基づき変速比指令値iPAが演算され、ステップS17では、到達変速比iPT、時定数T及びむだ時間Lに基づき設計者が希望する変速比応答である目標変速比iPMが演算される。
【0063】
目標変速比iPMが演算されたら、ステップS18に進んで目標変速比iPMと実変速比iPRとの偏差iPERRが演算され、ステップS19でこの偏差iPERRにフィードバックゲインKFBを乗じて変速比指令値補正量iPFBが演算される。
【0064】
ステップS20では実変速比iPRと変速比指令値iPCFに基づき外乱補償出力iPDが演算され、ステップS21では変速比指令値iPAを変速比指令値補正量iPFBで補正し変速比指令値iPCが演算される。
【0065】
ステップS22では変速比指令値iPCを外乱補償出力iPDでさらに補正して最終的な変速比指令値iPCFが演算され、ステップS23では所定のマップを参照して変速比指令値iPCFがステップモータ角位置指令値θに変換される。そして、ステップS24では、このステップモータ角位置指令値θがステップモータ2に出力される。
【0066】
したがって、このフローチャートを処理することにより、変速機構部17の実変速比iPRが所定の変速特性で到達変速比iPTに近づくようステップモータ2の角位置が制御されるが、ステップモータ2の駆動速度制限などにより目標変速比iPMと実変速比iPRとに偏差が生じる場合は変速比指令値iPAが変速比指令値補正量iPFBに基づき補正されることになる。
【0067】
次に、本発明を適用していない変速比制御システムと本発明を適用した場合の変速比制御システムについて変速比応答性に関する比較を行う。
【0068】
図10、図11は、それぞれ本発明を適用していない変速比制御システム、本発明を適用した変速比制御システムを用いて到達変速比をダウンシフト方向に2回ステップ状に変化させた場合の実変速比と目標変速比の変化の様子を示したものである。例えば、マニュアルモード付きの無段変速機搭載車両でダウンシフトスイッチを続けて2回操作した状況がこれに対応する。
【0069】
このような状況にあっては、実変速比が目標変速比を一旦オーバーシュートしてしまうので、実変速比を目標変速比に近づけるために変速方向がダウンシフトからアップシフトに切り替わるが、このとき制御対象時定数が不連続に変化するため、推定された制御対象時定数Tと実際の制御対象時定数が過渡的に異なってしまう。
【0070】
そのため、本発明を適用していないシステムでは、制御対象時定数Tの誤推定の影響を受けて外乱補償器が余分な補償を行ってしまい、図10に示すようにオーバーシュート後のアンダーシュート量が大きくなってしまう。
【0071】
これに対し、本発明を適用したシステムでは、外乱補償器のローパスフィルタの時定数TがT/Tの変動を抑えるように設定されているので、同じ制御対象時定数Tを誤推定するような状態においても、それを受けて外乱補償器が余分な補償を行うのを抑えることができ、図11に示すように実変速比をアンダーシュートさせることなく実変速比を目標変速比に近づけることができる。
【0072】
なお、ここでは到達変速比がダウンシフト方向にステップ状に変化した場合を示したが、制御対象時定数Tを誤推定する状況ならば同様の作用効果が得られ、変速比サーボ性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る変速比制御システムの概略構成図である。
【図2】CVTコントロールユニットの内部構成を示すブロック線図である。
【図3】変速比制御システムのブロック線図である。
【図4】ステップモータの角位置と無段変速機の変速比の関係を規定するマップである。
【図5】実変速比、変速方向及びライン圧と制御対象時定数との関係を規定するマップである。
【図6】制御対象時定数とローパスフィルタの時定数との関係を規定するマップである。
【図7】制御対象時定数と制御対象時定数/ローパスフィルタの時定数との関係を規定するマップである。
【図8】CVTコントロールユニットの動作を説明するためのフローチャートである。
【図9】外乱補償器のブロック図である。
【図10】本発明を適用していない変速比制御システムを用いて到達変速比をステップ状に変化させた場合の実変速比と目標変速比の変化の様子を示したタイムチャートである。
【図11】本発明を適用した変速比制御システムを用いて到達変速比をステップ状に変化させた場合の実変速比と目標変速比の変化の様子を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
1 CVTコントロールユニット
2 ステップモータ
3 油圧コントロールユニット
4 無段変速機
12 スロットル開度センサ
13 インヒビタースイッチ
14 油温センサ
15 入力回転速度センサ
16 出力回転速度センサ
17 変速機構部
18 ライン圧センサ

Claims (6)

  1. 運転状態に応じて決まる到達変速比と、所定の変速特性を表す時定数と、推定された無段変速機の動特性を表す時定数とに基づき変速比指令値を演算する動特性補償手段と、
    無段変速機に加わる外乱を補償すべく近似ゼロイングを用いたローパスフィルタにより前記変速比指令値を補正する外乱補償手段と、
    補正後の変速比指令値に基づき無段変速機を制御する手段と、
    を備えた無段変速機の変速比制御システムにおいて、
    前記ローパスフィルタの時定数を前記無段変速機の動特性を表す時定数との比の変動が小さくなるように設定したことを特徴とする変速比制御システム。
  2. 前記ローパスフィルタの時定数は、前記変速比制御システムにおいてゲイン余裕が所定値以上あるいは位相余裕が所定値以上の安定性が確保されるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の変速比制御システム。
  3. 前記ローパスフィルタの時定数は、前記変速比制御システムにおいてゲイン余裕が12dB以上の安定性が確保されるように設定されることを特徴とする請求項2に記載の変速比制御システム。
  4. 前記ローパスフィルタの時定数は、前記変速比制御システムにおいて位相余裕が45°以上の安定性が確保されるよう設定されることを特徴とする請求項2に記載の変速比制御システム。
  5. 前記ローパスフィルタの時定数は、前記無段変速機の動特性を表す時定数の誤推定の影響が最も大きく出る領域において、理論上安定性が確保される時定数より大きな値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の変速比制御システム。
  6. 前記ローパスフィルタの時定数は、理論上安定性が確保されている時定数より大きな値に設定されることを特徴とする請求項1に記載の変速比制御システム。
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