JP3559338B2 - 内燃機関の吸入空気量推定装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、内燃機関に吸入される空気量を推定する内燃機関の吸入空気量推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、内燃機関の吸気系に流体力学モデルを適用し、モデル式によって正しい気筒吸入空気量を推定する手法が提案されている。本出願人も、先に、特開平6−74076号において、スロットル弁をオリフィスと見なし、スロットル弁の前後の差圧から絞り式流量形の原理式を用いてスロットル通過空気量を求め、この値をもとに気筒吸入空気量を算出する手法を提案した。
【0003】
また、このモデルから求められる気筒吸入空気量と実際の気筒吸入空気量との誤差を如何に少なくするかが極めて重要となる。この点を改善すべく、本出願人は、流体力学モデルを前提としながらも複雑な演算を必要とせずにモデル式の誤差を吸収し、かつ機関運転の過渡状態や劣化、バラツキ、経年変化などを解消し、気筒吸入空気量をより正確に推定する手法を提案している(特願平5−208835号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、既に提案したこれらの気筒吸入空気量推定手法は、全て、スロットル弁の開度を基準として推定する手法であり、仮にスロットル弁の開度を検出するスロットルセンサ等が故障した場合には、上記した推定手法を実施することは、全く不可能となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、このようにスロットル弁の開度を検出するセンサ等が故障した場合にも、正常時とほぼ同等に気筒吸入空気量を推定し得る内燃機関の吸入空気量推定装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、請求項1のかかる内燃機関の吸入空気量推定装置は、内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段、スロットルの開度を検出する開度検出手段及びチャンバ内の圧力を検出する圧力検出手段と、少なくとも回転数検出手段で検出された機関回転数Ne と圧力検出手段で検出されたチャンバ内圧力Pb とを基に、定常運転状態時に燃焼室へ吸入される吸入空気量Gc 'を求める第1の手段と、少なくとも、開度検出手段で検出されたスロットル開度θTHとチャンバ内圧力Pb とを基に、スロットルの第1有効開口面積Aを求める第2の手段と、スロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を求め、その値をスロットルの第2有効開口面積ADELAY とする第3の手段と、第2の手段で求めた第1有効開口面積Aと第3の手段で求めた第2有効開口面積ADELAY とを基に、吸入空気量Gc 'を補正することで、実吸入空気量Gc を、Gc =Gc '×(A/ADELAY )として求める第4の手段とを備えた内燃機関の吸入空気量推定装置において、機関回転数Ne とチャンバ内圧力Pb との値に基づいて現在のスロットル開度θTHを推定し、この値を代替値θTH'として設定する代替値設定手段と、開度検出手段の故障を検出する故障検出手段と、故障検出手段で故障が検出された際、開度検出手段の検出結果に代り代替値設定手段で設定された代替値θTH'を、第2及び第3の手段に与える切換え手段と、代替値θ TH' をもとに得られるスロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を、開度検出手段の検出結果をもとに得られるべきスロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値にほぼ一致させる補正手段とを備えて構成する。
【0008】
なお、本発明における定常運転状態時とは、充填空気量Gb の増減変化が実質的に無くほぼ一定である期間をいい、過渡運転状態時とは、充填空気量Gb が変動している期間をいう。
【0009】
【作用】
請求項1における内燃機関の吸入空気量推定装置では、スロットルセンサなどの開度検出手段が故障か否かを故障検出手段で検出し、開度検出手段が故障であると検出された場合、その他の検出手段で検出された機関回転数Ne とチャンバ内圧力Pb とをもとに、代替値設定手段において現在のスロットル開度θTHを推定し、その値を代替値θTH’として設定する。そして、切換え手段により、開度検出手段の検出結果に代えて、この設定された代替値θTH’を第2及び第3の手段に与える。
【0010】
また、ここで検出されるチャンバ内圧力Pb は、吸気系においてスロットルに比べて下流側に位置する圧力検出手段によって検出されるため、スロットルの開度変化の影響が遅れて検出される。さらに、吸気系を流通する空気は圧縮性流体であるため、スロットルの開度変化に対する、チャンバ内圧力Pb の変化の応答遅れが発生する。そこで、代替値θTH'が、このような応答遅れをもったチャンバ内圧力Pb の値から推定されるため、これを補うべく、補正手段によって代替値θTH'から得られるスロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を、正常時において開度検出手段の検出結果から得られるべきスロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値にほぼ一致させる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。
【0012】
図1において、符号10は4気筒の内燃機関を示しており、吸気路12の先端に配置されたエアクリーナ14から導入された吸気は、スロットル弁16でその流量を調節されつつサージタンク18とインテークマニホルド20を経て第1〜第4気筒に流入される。各気筒の吸気弁(図示せず)の付近には、インジェクタ22が設けれており、ここから燃料を噴射する。噴射された燃料と吸気とが一体となった混合気は、各気筒内で点火プラグで点火され燃焼され、内燃機関のピストンを駆動する。燃焼後の排気ガスは排気弁を介してエキゾーストマニホルド24に放出され、エキゾーストパイプ26を経て三元触媒コンバータ28で浄化され機関外に排出される。
【0013】
また、内燃機関のディストリビュータ(図示せず)内には、ピストンのクランク角度位置を検出するクランク角センサ34が設けられており、この他、スロットル弁16の開度θTHを検出するスロットル開度センサ36、スロットル弁16下流の吸気圧力(チャンバ内圧力)Pb を絶対圧力で検出する吸気圧センサ38も設けられている。また、スロットル弁16の上流側には、大気圧Paを検出する大気圧センサ40、吸入空気の温度TAを検出する吸気温センサ42、吸入空気の湿度を検出する湿度センサ44が設けられている。さらに、吸気路12には、2次空気量の調整用として、スロットル弁16の前後の吸気路をバイパスするバイパス路32が設けられており、電磁弁90を駆動することにより、このバイパス路32の開閉を行う。また、排気系においてエキゾーストマニホルド24の下流側で三元触媒コンバータ28の上流側には、酸素濃度検出素子からなる広域空燃比46が設けられ、排気ガスの空燃比を検出する。これらセンサ34などの出力は、制御ユニット50に送られる。
【0014】
図2に制御ユニットの詳細を示す。広域空燃比センサ46の出力は検出回路52に入力され空燃比A/Fが検出される。この検出回路52の出力は、A/D変換回路54を介し、CPU56、ROM58及びRAM60からなるマイクロ・コンピュータ内に取り込まれ、RAM60に格納される。同様に、スロットル開度センサ36などのアナログ出力は、レベル変換回路62、マルチプレクサ64及び第2のA/D変換回路66を介して、マイクロ・コンピュータ内に入力される。また、クランク角センサ34の出力は、波形整形回路68で波形整形された後、カウンタ70で出力値がカウントされ、カウント値はマイクロ・コンピュータ内に入力される。マイクロ・コンピュータにおいて、CPU56はROM58に格納された命令に従って、後述するような制御値を演算し、駆動回路72を介して各気筒のインジェクタ22を駆動する。
【0015】
ここで、本実施例において採用する、流体力学モデルを用いた気筒吸入空気量の推定手法の基本原理を概略的に説明する(参照:特願平6−197,238号)。
【0016】
この手法は、内燃機関の吸気系における空気の挙動を物理式によりモデル化し(図3)、スロットルを通過する空気量Gthとチャンバへ充填される空気量Gb とに基づいて、気筒内に吸入される吸入空気量(実吸入空気量)Gc を推定する手法である。なお、ここで「チャンバ」とは、いわゆるサージタンク相当部位のみならず、スロットルから吸気ポートに至る間において空気が流通する全ての部位を含み、実際にチャンバとして働く実効容積を意味するものとする。
【0017】
まず、図4に示すように、スロットル開度θTHから予め設定した特性に従ってスロットルの投影面積(吸気管の長手方向へのスロットルの投影面積)Sを求める。他方、図5に示すように、スロットル開度θTHと吸気圧力(チャンバ内圧力)Pbについて設定した別の特性に従って係数C(流量係数αと気体の膨張補正係数εの積)を求め、両者を乗じてスロットルの有効開口面積Aを求める。なお、いわゆるスロットル全開領域では、スロットルが絞りとして機能しなくなるため、機関回転数ごとにそれぞれスロットル全開領域を臨界値として求めておき、検出されたスロットル開度がこの臨界値を超えたときは、この臨界値をスロットル開度とする。
【0018】
次いで、気体の状態方程式に基づく数1式から、チャンバ内の空気量Gb を求め、チャンバ内の圧力変化ΔPから数2式に従って、今回チャンバ内に充填された空気量ΔGb を求める。今回チャンバ内に充填された空気量は、当然ながら気筒燃焼室に吸入されないものとすれば、単位時間ΔT当たりの吸入空気量Gc は、数3式のように表すことができる。
【0019】
【数1】
【0020】
【数2】
【0021】
【数3】
【0022】
他方、前述したROM58には、図6に示すように、定常運転状態時の燃料噴射量Timapを、いわゆるスピードデンシティ方式に基づいて機関回転数Ne と吸気圧力Pb とから検索できるように予め設定してマップ化して格納している。また、ここで検索された燃料噴射量Timapは機関回転数Ne と吸気圧力Pb に応じて決定される目標空燃比A/Fに応じて設定されることから、図7に示すように、目標空燃比A/Fの基本値KBS も機関回転数Ne と吸気圧力Pb とから自在に検索できるように、予めマップ化して格納しておく。なお、燃料噴射量Timapは、前述した流体力学モデルで、定常運転状態時を満足するように設定する。直接的にはインジェクタ22の開弁時間を単位として設定する。
【0023】
ここで、定常運転状態時のある条件下(機関回転数Ne1と吸気圧力Pb1によって規定される条件下)において、マップ検索によって決定した燃料噴射量Timap1は数4式に示す通りとなる。
【0024】
【数4】
【0025】
前述したモデル式を満足するようにこのマップ値を作成しておくことで、流体力学モデルに基づいて決定される、定常運転状態時の燃料噴射量Timap1’は、マップ検索によって決定した燃料噴射量Timap1と当然に一致する。
【0026】
一方、流体力学モデルに基づいて決定される、定常運転状態時の燃料噴射量Timap1’及び過渡運転状態時の燃料噴射量Timap2’は、目標空燃比を理論空燃比(14.7:1)とすると、数5式及び数6式で表される。
【0027】
【数5】
【0028】
【数6】
【0029】
この両式において、定常運転状態時のスロットル通過空気量Gth1 と過渡運転状態時のスロットル通過空気量Gth2 とを比較すると、スロットルの有効開口面積A1とAのみが異なっている。従って、過渡運転状態時のスロットル通過空気量Gth2 は、数7式で表すことができる。
【0030】
【数7】
【0031】
数3式及び数7式に基づき、定常時のスロットル弁の有効開口面積と過渡時のスロットル弁の有効開口面積との比を用いることによって、定常時のスロットル通過空気量Gth1 を基に、過渡運転状態時のスロットル通過空気量Gth2 を表現することができる。
【0032】
さらに、現在のスロットル弁の有効開口面積をAとし、定常運転状態時のスロットル弁の有効開口面積をA1とすると、定常運転状態時のスロットル弁の有効開口面積A1は、現在のスロットル弁の有効開口面積Aの一次遅れとして把握できる(図8)。即ち、Aの一次遅れを「ADELAY 」と呼ぶと、A1とADELAY とは、ほぼ同様の値となっていることが分る。従って、流体力学モデルの考え方を用いてモデルを近似する際には、A/(Aの一次遅れ)を用いればよい。
【0033】
図9に示すように、過渡運転状態では、スロットルが開かれた瞬間は、スロットル前後の差圧が大きいため、スロットル通過空気量が一気に流れ、次第に定常状態に落ちつくが、その過渡運転状態におけるスロットル通過空気量Gthは、この比A/ADELAY で表現でき、定常運転状態では、図9の下側のグラフで示されるように、この値が”1”となる。以下、この比を「RATIO−A 」と呼ぶ。
【0034】
また、スロットルの有効開口面積は、スロットル開度に大きく依存しており、スロットル開度の変化にほぼ追随して変化する状態となる(図10)。従って、前述した有効開口面積の一次遅れ値を、スロットル開度の1次遅れ値と等価的に取り扱うこととした。さらに、チャンバ充填空気量ΔGb が吸入空気量Gc へ反映される遅れを解消すべく、このスロットル開度の1次遅れに加え、値ΔGb の1次遅れも考慮することとした。
【0035】
このようして、チャンバ充填空気量Gb をスロットル通過空気量Gthから算出することで、スロットル通過空気量Gthを基に吸入空気量Gc を求めることができる。これによって、構成が簡易になると共に、演算量も削減できる。具体的には、単位時間ΔT当たりの吸入空気量Gc は、数8式のように表すことができる。また、数9式及び数10式を伝達関数の形式で表すと、数11式が導かれる。この数11式に示すように、吸入空気量Gc はスロットル通過空気量Gthの1次遅れ値から求めることができる。
【0036】
【数8】
【0037】
【数9】
【0038】
【数10】
【0039】
【数11】
【0040】
そこで、このような一連の演算処理を、図11にブロック図として示す。なお、吸入空気量Gc は燃料噴射量と同様に取り扱うことできるため、以下に示す各ブロック図等では、便宜上、吸入空気量を燃料噴射量として取り扱うこととする。また、図中、「(1−B)/(z−B)」は離散系の伝達関数で1次遅れを意味する。
【0041】
従って、定常運転状態時のある条件下(機関回転数Ne と吸気圧力Pb によって規定される条件)でマップ検索により決定される燃料噴射量をTimapと記すと、実際に出力すべき燃料噴射量Tout は次式より求めることとした。
Tout =Timap×RATIO−A
以下、図12のブロック図及び図13のメイン・フローチャートを参照して、この吸入空気量推定装置の動作について説明する。なお、このフローチャートは各TDC位置で起動される。
【0042】
この吸入空気量の推定手法は、主としてスロットル開度センサ36で検出されたスロットル開度θTHをもとに行っており、このスロットル開度θTHが測定不能となった場合には、以降の推定処理は実施できない。そこで、先ず、スロットル弁16の開度θTHを検出するスロットル開度センサ36に故障が生じていないかを判断する(S10)。この判断は、例えば、スロットル開度センサ36の出力電圧値が所定のHighレベルよりも高い電圧値となった場合、又は、所定のLowレベルよりも低い電圧値となった場合には、スロットル開度センサ36が故障であると判断する。このような場合、送受信系統のいずれかで断線、短絡、或はセンサ自体に故障が発生していると考えられるためである。なお、スロットル開度センサ36の故障検出は、ここで例示した手法に限定するものではなく、公知のいかなる検出手法を採用することもできる。
【0043】
スロットル開度センサ36が正常であると判断された場合には(S10で「NO」)、各センサで検出した機関回転数Ne、吸気圧力Pb、スロットル開度θTH、気圧Pa、機関冷却水温Twなどを読み込む(S20)。また、スロットル開度θTHは、アイドル運転状態のスロットル全閉開度を学習し、その値を用いる。
【0044】
次いで、機関がクランキング(始動)中か否かを判定し(S30)、クランキング中と判断された場合には(S30で「YES」)、水温Twから所定のテーブル(図示省略)を検索してクランキング時の燃料噴射量Ticr を算出し(S31)、次いで始動モードの式(説明省略)に基づいて燃料噴射量Tout を決定する(S32)。
【0045】
一方、S30でクランキング中ではないと判断された場合には(S30で「NO」)、続いて、フューエル・カットか否かが判断される(S40)。フューエル・カットと判断された場合には(S40で「YES」)、燃料噴射量Tout を零に設定する(S41)。
【0046】
S40で「NO」と判断された場合には、機関回転数Neと吸気圧力PbとをもとにしてROM58に格納したマップ(図6)を検索し、定常運転状態時の燃料噴射量Timap(定常運転状態時の吸入空気量Gc’)を求める(S50)。検索した燃料噴射量Timapは、この後、必要に応じて気圧補正などを適宜加える (図示せず)。
【0047】
次いで、S20で読み込まれたスロットル開度θTHと、1次遅れ伝達関数「 (1−B)/(z−B)」とにより、スロットル開度の1次遅れ値θTH−Dを演算する(S60)。次いで、スロットル開度θTHと吸気圧力Pbをもとに、前述した手法によって現在のスロットルの有効開口面積Aを算出する(S70)。次いで、スロットル開度の1次遅れ値θTH−Dと吸気圧力Pbとによりスロットルの有効開口面積の1次遅れ値ADELAY を算出する(S80)。
【0048】
次いで、「RATIO−A 」を
RATIO−A =(A+ABYPASS)/(A+ABYPASS)DELAY
なる式から算出する(S90)。なお、ABYPASSは、スロットル弁を通過せずに、バイパス路32などを経由して各気筒燃焼室に吸入される空気量(図12に「リフト量」として示す)を意味し、正確に吸入空気量を決定するためにはこの空気量も勘案する必要があるために、この空気量を考慮して演算を行うものである。具体的には、この空気量に対応する値を所定の特性に従ってスロットル開度ABYPASSに換算して求めておいて有効開口面積Aに加算すると共に、その和(A+ABYPASS)とその1次遅れの近似値「(A+ABYPASS)DELAY 」の比を求め、それをRATIO−A とする。
【0049】
このように、分子、分母の双方に加算する結果、スロットル弁を通過しないで各気筒燃焼室に吸入される空気量の計測に誤りがあっても、決定される燃料噴射量への影響度が小さくなる。続いて、S50で検索して求めたTimap(Gc’)にRATIO−A を乗じ、スロットル通過空気量に相当する燃料噴射量Tout (Gc)を算出する(S100)。
【0050】
次に、S10において、スロットル開度センサ36が故障であると判断された場合について説明する。
【0051】
前述したように、スロットル開度θTHが測定不能となった場合には、以降の推定処理が実施不能となるため、その代替値を与える必要がある。そこで、この推定装置では、スロットル開度センサ36の故障を検出する Fail 検出部100、スロットル開度θTHの代替値θTH’を設定する代替値設定部101、検出されたスロットル開度θTHと代替値設定部101で設定された代替値θTH’とを切換える切換え部102、スロットル開度センサ36が正常時の1次遅れ伝達関数を補正し、故障時用の伝達関数を設定する1次遅れ補正係数設定部103等を備えている。
【0052】
そこで、先ず、S10において、スロットル開度センサ36が故障であると判断された場合(S10で「YES」)、代替値設定部101においてスロットル開度θTHの代替値θTH’を設定する(S11)。この代替値θTH’の設定は、クランク角センサ34の検出結果をもとに得られる機関回転数Neと吸気圧センサ38で検出された吸気圧力Pb とから検索し得るように予めマップ化しておき (図14)、このマップを検索することにより行う。そして、検索された代替値θTH’を用いて、以降の推定処理を実施する。
【0053】
また、ここで与えられる代替値θTH’は、以下のような特性を有しているため、これを補う処理が必要となる。すなわち、吸気系において、吸気圧センサ38がスロットル開度センサ36に比べて下流側に位置しており、また、吸気系を流る空気が圧縮性流体でありスロットル開度の変化に対するチャンバ内圧力Pbの変化の応答が遅れる結果となる。従って、図15に示すように、真のスロットル開度θTHが変化した場合にも、検出される吸気圧力Pbは遅れをもって検出され、この結果、代替値θTH’も遅れをもった値となる。このような代替値θTH’をもとに、前述したスロットル開度の1次遅れ値θTH−Dを演算すると、図示のようにより遅れをもった値として算出される。そこで、図に点線で示すように、スロットル開度の1次遅れ値θTH−Dが、本来のスロットル開度θTHの一次遅れ値に近づくように、1次遅れ補正係数Bを補正する。なお、この補正にあたっては、機関回転数Neに対応して、正常時の1次遅れ補正係数Bに乗算すべき補正係数KADFが定まるのため、機関回転数Neに対応した補正係数KADFを予め求めておき(図17)、マップ化するなどしてROM58に格納しておく。
【0054】
そこで、S10において故障が検出された場合、S60では、図16に示すフローチャートに従って、スロットル開度の1次遅れ値θTH−Dを演算する。
【0055】
先ず、正常時に設定されている1次遅れ補正係数Bを補正するための補正係数KADFを設定する。この設定処理にあたっては、ROM58に格納した補正係数KADFを機関回転数Neに応じて読み出す(S100)。
【0056】
次いで、正常時に設定されている1次遅れ補正係数Bに対して、S100で設定した補正係数KADFを乗算し、この値を故障時の1次遅れ補正係数Bとして設定する(S101)、この値を用いて1次遅れ伝達関数「(1−B)/(z−B)」を設定する(S102)。次いで、代替値θTH’と1次遅れ伝達関数「 (1−B)/(z−B)」により、スロットル開度の1次遅れ値θTH−Dを算出する(S103)。
【0057】
このようにして求めたスロットル開度の1次遅れ値θTH−Dを用いて、図13のメイン・フローチャートに従って燃料噴射量Tout を算出する。
【0058】
上記した燃料噴射量Tout の各算出手法は、簡易なアルゴリズムによって定常運転状態から過渡運転状態までを表現することができ、定常運転状態時の燃料噴射量をマップ検索によってある程度保証することができると同時に、複雑な演算を必要とせずに燃料噴射量を最適に決定することができる。しかも、スロットル開度センサが故障した場合でも、正常時と同等な推定処理を実施することが可能であり、スロットル開度センサが故障した際にドライバビリティが悪化する事態を回避することができる。
【0059】
また、以上説明した実施例では、燃料噴射量Timapを予めマップ化する例を示したが、これに代えて、定常運転状態時における吸入空気量Gc ’をマップ化し、ROM58に格納しておいてもよい。
【0060】
さらに、例示した実施例では、推定された吸入空気量に対応して燃料噴射量を決定することとしたが、この例に限定されるものではなく、この他にも、推定された吸入空気量に対応し、例えば、点火時期、排気還流量(EGR量)など、他のエンジン制御パラメータを算出することもできる。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1にかかる内燃機関の吸入空気量推定装置では、開度検出手段が故障か否かを故障検出手段で検出し、故障の際には代替値設定手段によってスロットル開度θTHの代替値θTH'を設定すると共に、切換え手段によってこの代替値θTH'を第2及び第3の手段に与え、補正手段によって代替値θ TH' をもとに得られるスロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を、本来得られるべき1次遅れ値にほぼ一致させるように構成したので、この推定手法において主となる開度検出手段の検出結果が得られない場合にも、正常時と同等な推定処理を実施することが可能となり、さらに、開度検出手段の故障時においても正常時と同等な吸入空気量の推定処理を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例にかかる内燃機関及び各種センサの配設位置等を示す概略構成図である。
【図2】内燃機関の吸入空気量推定装置における制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施例で採用した流体力学モデルを示す説明図である。
【図4】図3の流体力学モデルを用いて、スロットル弁の有効開口面積を流量係数などを用いて算出する手法を示すブロック図である。
【図5】図4の算出で用いる係数のマップ特性を示す説明図である。
【図6】定常運転状態時の燃料噴射量のマップ特性を示す説明図である。
【図7】目標空燃比のマップを示す説明図である。
【図8】スロットルの有効開口面積についてのシミュレーション結果を示すデータ図である。
【図9】本実施例における定常運転状態と過渡運転状態とを示す説明図である。
【図10】スロットル開度とスロットルの有効開口面積との関係を示す説明図である。
【図11】燃料噴射量(吸入空気量)の算出処理を示すブロック図である。
【図12】燃料噴射量(吸入空気量)の算出処理を示すブロック図である。
【図13】燃料噴射量(吸入空気量)の算出処理を示すメイン・フローチャートである。
【図14】スロットル開度θTHの代替値マップを示す説明図である。
【図15】真のスロットル開度θTHの変化に対応する、各検出値或は演算値の応答遅れを示す説明図である。
【図16】図13のメイン・フローチャートのうち、θTHの1次遅れ値θTH−Dの算出処置のみを示すフローチャートである。
【図17】1次遅れ補正係数Bに乗算すべき補正係数KADFと機関回転数Neとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…内燃機関、12…吸気路、16…スロットル弁、20…インテークマニホルド、34…クランク角センサ、36…スロットル開度センサ、38…吸気圧センサ。
Claims (1)
- 内燃機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
スロットルの開度を検出する開度検出手段と、
チャンバ内の圧力を検出する圧力検出手段と、少なくとも、前記回転数検出手段で検出された機関回転数Ne と前記圧力検出手段で検出されたチャンバ内圧力Pb とを基に、定常運転状態時に燃焼室へ吸入される吸入空気量Gc 'を求める第1の手段と、
少なくとも、前記開度検出手段で検出されたスロットル開度θTHと前記チャンバ内圧力Pb とを基に、前記スロットルの第1有効開口面積Aを求める第2の手段と、
前記スロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を求め、その値を前記スロットルの第2有効開口面積ADELAY とする第3の手段と、
前記第2の手段で求めた第1有効開口面積Aと前記第3の手段で求めた第2有効開口面積ADELAY とを基に、前記吸入空気量Gc 'を補正することで、実吸入空気量Gc を、
Gc =Gc '×(A/ADELAY )
として求める第4の手段とを備えた内燃機関の吸入空気量推定装置において、
前記開度検出手段の故障を検出する故障検出手段と、
前記機関回転数Ne と前記チャンバ内圧力Pb との値に基づいて現在の前記スロットル開度θTHを推定し、その結果を代替値θTH'として設定する代替値設定手段と、
前記故障検出手段で故障が検出された際、前記開度検出手段の検出結果に代り、前記代替値設定手段で設定された代替値θTH'を、前記第2及び第3の手段に与える切換え手段と、
前記代替値θ TH' をもとに得られる前記スロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値を、前記開度検出手段の検出結果をもとに得られるべき前記スロットルの第1有効開口面積Aの1次遅れ値にほぼ一致させる補正手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の吸入空気量推定装置。
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