JP3555819B2 - ケミカルフィルター - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体産業などの精密電子工業や医薬品製造業において最近とみにクリーンルームに用いられるようになったイオン交換体を用いた空気清浄用ケミカルフィルターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
空気中のガス成分を除去するケミカルフィルターとして、活性炭粒子や活性炭素繊維、またそれらに酸やアルカリを添着したフィルターが知られている。その他の担体に酸化物や金属を担持したフィルターも知られている。イオン交換体を用いたケミカルフィルターはppbレベルのガス成分の除去率が高いばかりでなく、被吸着物の再放出がないので、近年特に半導体関連業界で使用され始めた。
【0003】
ケミカルフィルターに用いるイオン交換体の形状としては除去率が高く、軽量で成型加工が容易な不織布や織布にしたものがよく使われている。イオン交換基はスルホン酸やカルボキシル基などのカチオン交換基、四級アンモニウム基、三級アミノ基などのアニオン交換基などが利用されている。
空気中のガス成分の多くは、炭化水素系の中性ガスを除き、水に溶解し酸性やアルカリ性を示す。イオン交換基による空気中のガス成分の除去機構は水中で使用する場合と同じように水が関与した中和反応であると主に考えられている。即ち、酸化イオウ等の酸性ガスはアニオンとなり、アニオン交換繊維に吸着され、アンモニア等の塩基性ガスはカチオンとなりカチオン交換繊維に吸着される。
【0004】
従って、ケミカルフィルターの使用環境では、十分な水、即ち湿度が必要である。これがないと、十分な除去率、交換容量利用率の向上は望めず、相対湿度を通常、50%以上に管理する必要がある。
これまで、クリーンルームへの外気取り入れラインに湿式スクラバーを設け、外気中のガス成分や粒子を洗浄除去する例があり、その下流に設置したケミカルフィルターに十分な湿度を有する空気が流入している場合があった。しかし、この例はたまたま高湿度の空気がケミカルフィルターに流入したにすぎず、ケミカルフィルターの性能向上を意図したものではなかった。それは、例えば、湿式スクラバーに使用する水の管理が十分でないことにも表れている。塩類濃度の高い水道水を用いた場合、その飛沫がケミカルフィルターに流入し、イオン交換容量を不経済に消費したり、溜まり水や水蒸気の凝縮部にカビ等の微生物類が成育し、ケミカルフィルターに入り込み圧力損失が上昇するなどの問題点が指摘されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ケミカルフィルターが使用できる環境の相対湿度を下げることにより、湿度の管理を緩和すると共に処理効率を向上させ、かつ処理環境の微生物の繁殖を効果的に防止することができるケミカルフィルターを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも放射線グラフト重合方法を利用して製造されたイオン交換体を含むイオン交換体ケミカルフィルター材および該イオン交換体ケミカルフィルター材を使用する環境を相対湿度20%以上30%以下に制御する手段を具備したことを特徴とするケミカルフィルターである。本発明はケミカルフィルターによる処理環境の相対湿度を20%以上30%以下に制御するとイオン交換体ケミカルフィルター材の処理効率が極めて向上することを見出したものである。
【0007】
即ち、相対湿度が20%以上でないと、該フィルター材の吸着容量が小さく、交換容量利用率が小さくなる。相対湿度20%という数値はかなり小さい値であり、半導体工場のように管理された空間ではほとんど20%以上に制御されていることから、相対湿度の管理はほとんど必要ないかまたは極めて容易である。また、冬場に外気を取り入れる場合や工場内の特殊な空間等が問題となるが、この場合も従来に比べ相対湿度の管理は容易である。相対湿度の上限は30%とする。
【0008】
本発明に使用されるイオン交換体は、従来公知のカチオン交換体およびアニオン交換体を用いることができる。また、イオン交換体ケミカルフィルター材は、カチオン交換体およびアニオン交換体の中の少なくとも1種を単独または組み合わせて用いることができる。各々のイオン交換体のイオン交換基自体は従来公知のものが使用され、例えば、カチオン交換基としてはスルホン酸やカルボキシル基などの、アニオン交換基としては四級アンモニウム基、三級アミノ基などが挙げられる。
【0009】
本発明において、特に好ましいイオン交換体は、イオン交換基の周りに水分子を十分吸着できる空間が形成されるようにイオン交換基が担体樹脂に連結されたものである。担体樹脂としては、グラフト共重合体が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等の幹ポリマーとポリメタクリル酸グリシジル(GMA)、ポリアクリル酸、ポリスチレン等の枝ポリマーとのグラフト共重合体が挙げられる。ポリアクリル酸は、イオン交換基を有するモノマーを重合させたものであり、GMAやスチレンはグラフト重合の後でイオン交換基を導入できるモノマーである。枝ポリマーは、グリシジル基等の例えば、亜硫酸塩と反応してイオン交換基であるスルホン酸を形成可能な官能基を有したものが好ましい。また、スチレンを濃硫酸等でスルホン化したものが好ましい。このようなグラフト共重合体は、具体的には放射線グラフト重合法により製造されるものが好ましい。
【0010】
放射線グラフト重合法に用いられる放射線としては、電子線、γ線が好ましく、幹ポリマーの種類に応じて適宜その照射量を設定することができる。放射線により処理された幹ポリマーは公知の方法により枝ポリマーとなるコモノマーとグラフト重合反応に供されるが、好ましくは放射線照射された幹ポリマーをコモノマー溶液に浸漬して反応させることが挙げられる。このグラフト重合反応の条件、例えば、温度、コモノマ−の溶液における溶剤の種類、コモノマーの濃度、反応時間等は適宜選定される。また、グラフト率は前記反応条件等を選定することにより適宜設定され得るが、通常、20〜250%の範囲である。
【0011】
また、得られた共重合体にイオン交換基を形成する反応は、従来公知の方法を適宜用いることができる。
放射線グラフト重合法を利用したイオン交換体は、イオン交換基が非常に運動性の良いグラフト鎖にペンダント状にぶら下がっており、イオン交換基の周りに十分な水分子を吸着している。そのため、相対湿度の下限が20%という低い相対湿度においても性能を十分に発揮することができる。ところが、従来のイオン交換体は、通常、架橋構造を有しているため、イオン交換基の周りに、十分な水分子を吸着することができない。従って、性能を発揮させるためには、相対湿度を約50%以上に管理しなければならなかった。
【0012】
従って、本発明に用いられるイオン交換体は、相対湿度を従来より低くすることができるので、殺菌対策上も有利である。
ところで、いずれのイオン交換体を使用する場合でも加湿する場合は、水を加湿用水槽に入れ使用する。また、除湿する場合は凝縮水をドレンパンなどの受水槽に導いた後、排出する。このような溜り水には微生物が成育しやすい。特に、水道水などの塩類を含む水は栄養塩類なども多く、微生物の温床になりやすい。また、塩類を含む飛沫などがケミカルフィルターに付着すれば、イオン交換容量を消費する。
【0013】
処理空間の相対湿度を制御するために純水を使用すれば、このような問題点がかなり改善するが、完全ではない。ここで、純水とは、電導度が5μS以下のものを指す。従って、別に殺菌を行う方が好ましい。殺菌方法には、数々の方法があり、いずれも適用できるが、紫外線照射が適している。殺菌効果ばかりでなく、空気中の中性ガスである炭化水素などが紫外線照射により酸化され、有機酸などケミカルフィルターに除去されやすい成分に変化すためである。窒素酸化物などの無機ガスについても除去しやすい成分への変化が期待できる。紫外線照射の対象は、特に制限はないが、上記水周りや本発明のケミカルフィルターによる処理空間自体または該空間内に配備されたケミカルフィルターを含む各種装置等が挙げられる。
【0014】
さらに、加湿器内の水と空間との接液部の表面が抗菌剤で処理されているとさらに殺菌効果が発揮される。
イオン交換体の形状は短繊維、短繊維の集合体、それらの加工品である織布・不織布やさらにその成形加工品(例えば、フィルター等)、粉末・粒子、それらの加工品(例えば、樹脂等)、膜、中空糸膜それらの加工品(例えば、中空糸モジュール等)、発泡体などの空隙性材料やその加工品(例えば、スポンジ等)より選ばれたものなどの空隙の多い材料が湿度の制御をやりやすく、また放射線グラフト重合法を適用できるので好ましい。特に、繊維の集合体である織布・不織布が軽量で圧力損失が小さく、成型加工も容易であり好ましい。
【0015】
本発明に使用されるイオン交換体ケミカルフィルター材は、上記イオン交換体と共に公知のフィルター材を併用することができる。
併用できるフィルター材としては、前記したような従来公知のもの、例えば、活性炭粒子、活性炭素繊維、またはそれらに酸やアルカリを添着したもの、その他の担体、例えば、ゼオライト、アルミナ、活性炭等に酸化物や金属を担持したものなどが挙げられる。これらフィルター材の形状は、上記したイオン交換体と同様なもの等が挙げられ、特に制限はない。
【0016】
また、上記イオン交換体と公知のフィルター材との使用割合は、相対湿度の大きさと処理効率を勘案して適宜調整され得る。
本発明のケミカルフィルターは、イオン交換体ケミカルフィルター材を有するフィルター部および上述のような相対湿度制御手段から少なくとも構成される。相対湿度制御手段は、通常、純水を含む加湿器と相対湿度計とそれらを連絡した制御装置とから構成される。また、フィルター部は、通常、例えば、フィルター部材とフィルター部材を保持すると共に処理空気を通過させる枠体、空気をフィルター材に透過させるためのポンプ等の吸引手段から少なくとも構成される。そして、該フィルター部材は、枠部材等のイオン交換体ケミカルフィルター材を担持する手段および枠体に固定する保持機構を有し、該枠部材は複数を多段に連結可能な構造とすることが好ましい。更に、前記制御装置はケミカルフィルターのポンプ等の吸引手段と連絡して相対湿度、フィルター材の種類等に応じてポンプのオン・オフ、風量を制御するように構成することができる。
【0017】
加湿器は、電極式、超音波式、高圧スプレー式等の公知の方法が採用できる。また、加湿器および相対湿度計はフィルター部の枠体内部でも外部に配備してもどちらでもよい。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
強酸性カチオン交換繊維不織布の製造
目付50g/m、厚味0.4mm、繊維径約20μmのポリエチレン製不織布2mを窒素雰囲気で電子線(1MeV、1mA)を100kGy照射した。ついで、この不織布をメタクリル酸グリシジル溶液に浸漬し、グラフト重合反応を行い、グラフト率148%を得た。さらに、亜硫酸ナトリウム水溶液でスルホン化し、塩酸で再生後乾燥したところ、中性塩分解容量2.81meq/gの強酸性カチオン交換不織布ができた。 アンモニアの流通テスト
強酸性カチオン交換不織布を5cm□に切り、図1に示すガス流通試験装置を用い相対湿度を変えてアンモニアの流通テストを行った。該不織布をサンプル装着部に装着し、アンモニアは、乾燥空気と共にパーミエータを通過させ、一方、相対湿度は純水を入れた加湿器具、流量計、ポンプおよび制御装置(不図示)により0〜80%に変化させ、アンモニアと前記相対湿度の空気を混合して、この混合ガスをガスサンプリングライン入口から採取したもの及びサンプルを経由したガスをガスサンプリングライン出口から採取したもののアンモニア濃度の経時変化を測定し、サンプルの強酸性カチオン交換不織布における10%破過時点での相対湿度とイオン交換容量消費の関係を求めた。10%破過時点は、(100×出口濃度/入口濃度=10)より求めた。結果は表1の通りであり、相対湿度20%以上ではアンモニアの吸着性能は比較的安定していた。相対湿度20%未満では吸着容量が激減した。尚、ガスサンプリングライン入口におけるアンモニア濃度は、10ppm程度であった。
【0019】
【表1】
Figure 0003555819
【0020】
【発明の効果】
本発明により、イオン交換体ケミカルフィルター材のガス成分の除去性能が安定化し、除去率、イオン交換消費量の向上が可能となった。また、処理環境の相対湿度管理が緩和され、かつ処理環境の微生物繁殖による問題も解消しただけでなく、炭化水素系の中性ガスの除去率も向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に使用されるガス流通試験装置の構成を示す図である。

Claims (2)

  1. 少なくとも放射線グラフト重合方法を利用して製造されたイオン交換体を含むイオン交換体ケミカルフィルター材および該イオン交換体ケミカルフィルター材を使用する環境を相対湿度20%以上30%以下に制御する手段を具備したことを特徴とするケミカルフィルター。
  2. 前記イオン交換体ケミカルフィルター材の形状が短繊維、短繊維の集合体、それらの加工品である織布・不織布やさらにその成形加工品、粉末・粒子、それらの加工品、膜、中空糸膜それらの加工品、発泡体などの空隙性材料やその加工品より選ばれたものであることを特徴とする請求項1記載のケミカルフィルター。
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