JP3554077B2 - 画像処理装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、多階調画像データを中間調表示可能な2階調画像データに変換して出力する画像処理装置、特に多階調画像データを誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いて中間調表示可能な2階調画像データに変換して出力する画像処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、スキャナ等の画像入力装置を用いて読み取った多階調画像データや、コンピュータを用いて演算された多階調グラフィック画像データ等を、例えばCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プリンタ等といった画像出力装置を用いて再生表示させたり、あるいはファクシミリやデジタル複写機等といった画像出力装置を用いて再生表示させることが行われている。
【0003】
このとき、画像出力装置として、多階調の画像データが再生表示できるものを用いる場合には問題はないが、例えば、ドット単位での階調制御ができないプリンタ装置やディスプレイ装置を用いた場合には、各画素の階調数を2階調に減らす2値化処理を行う必要がある。さらに、多階調画像データを保存し、あるいは転送するために、そのデータ容量を減らそうとする場合には、同様にして各画素の階調数を2階調に減らす2値化処理をすることが広く行われている。
【0004】
このように多階調画像データを2値化処理する手法としては、各種のものがある。その中で最も画質の優れたものとして、誤差拡散法や、それと等価な平均誤差最小法が広く用いられている。これらの誤差拡散法及び平均誤差最小法は、高解像度でありながら、連続的な階調制御が可能であるという優れた特徴を持つ。
【0005】
誤差拡散法は、ある画素の2値化時に生じた量子化誤差を、周辺のまだ2値化していない画素に拡散して加えるものである。一方、平均誤差最小法は、周辺の2値化済みの画素に生じた量子化誤差の重み付き平均値で、次の注目画素のデータ値を修正するものである。誤差拡散法と平均誤差最小法は、誤差の拡散作業をいつ行うかが異なるだけであり、論理的には互いに等価である。例えば、特開平1−284173号公報に誤差拡散法を使用した画像処理方法及び装置が開示されている。しかしながら、誤差拡散法や平均誤差最小法を用いた従来の画像処理装置では、多階調画像データを2階調画像データに変換する際に、次のような問題があった。
【0006】
第1の問題点
低濃度領域(すなわち、黒ドットが疎な領域)の立上り部における黒ドットの生成及び高濃度領域(すなわち、白ドットが疎な領域)の立上り部における白ドットの生成が大幅に遅延し、その結果、最悪の場合には画像が変形してしまう場合があるという問題があった。
【0007】
第2の問題点
また、低濃度領域や高濃度領域が終わった後も、周辺画素に対する異常な誤差の拡散が残り、低濃度領域の後に続く画像データは高濃度側に歪み、高濃度領域の後に続く画像データは低濃度側に歪む、いわゆる「尾引き」という現象が生じるという問題があった。
【0008】
前記第1の問題点を、白い紙上に黒インクのドットを印画する2階調プリンタ装置の場合について考えると、黒ドットはインクが滲んで大きくなるのに対し、白ドットは周囲の黒ドットからの滲みで潰れて目立ち難くなる。よって、この第1の問題点は特に低濃度部において目立つ結果となる。
【0009】
以下、前記第1の問題点及び第2の問題点を図面を用いてより詳細に説明する。図22は、多階調を用いて表示された原画像100を示している。この原画像100は、濃度階調値252(255で最高値)の正方形をした高濃度領域110の中に、濃度階調値3(0が最低濃度)の正方形の低濃度領域120が存在し、さらにこの低濃度領域120の右下に濃度階調値231(背景濃度252よりもやや低濃度)の傾き角度45゜の直線130が描かれている。
【0010】
図23(a)には、誤差拡散法を用いた従来技術により、図22に示す原画像100の多階調画像データを2値化した画像が示されている。なお、図23(b)には、図23(a)の場所を示すための概略図が示されている。この2値化画像は、原画像100の左上隅画素を2値化開始点とし、右方向に1行分2値化した後、1画素下の行の左端に移る、という2値化作業を繰り返して得られたものである。これに対し、図24は、同じ原画像100が理想的に2値化された場合の出力例を示している。
【0011】
両者を比較すると、図23では、正方形をした高濃度領域110の上辺及び左辺の領域140(図23(b)参照)で白ドットの生成が遅延し、さらに正方形の低濃度領域120の上辺及び左辺の領域142では、黒ドットの生成の遅延が生じている。すなわち、領域140及び142では、前述した第1の問題が生じている。さらに、階調値3の正方形をした低濃度領域120の尾引きの影響で、その右下にある領域150において、直線130の一部132が消失してしまっている。このように領域150では、前述した第2の問題が発生している。
【0012】
このような第1及び第2の問題点を解決するための画像処理装置の一例が特開平1−130945号公報に提案されている。ここに提案された第1の実施例は、0〜255の256階調の入力濃度データを扱う場合に、入力濃度データ値が1以上29以下の場合に、閾値が以下に示すようにランダムに変化するようにしている。すなわち、入力データが1〜4のときは20〜230の幅で、入力データが5〜14のときは50〜200の幅で、そして入力データが15〜29のときは100〜150の幅で、それぞれ、閾値をランダムに変化させる。ランダムノイズの幅は、データが1〜4のときは±105、データが5〜14のときは±75、そしてデータが15〜29のときは±25というふうになっており、0に近い低濃度領域ほど大きなノイズを加える結果となっている。但し、閾値の期待値はいずれも125で一定となっている。
【0013】
このようにすると、低濃度時には大きな閾値ノイズによって閾値が非常に小さな値になるケースが生じる。このため、低濃度領域の立ち上がり部でも255側に2値化される画素が発生し、ドット生成の遅延が改善される。しかし、この手法によって前記第1の問題点を改善しようとした場合には、低濃度領域は非常にノイズの多い、低品位な画像となってしまう。また、この従来方法では、判定回路という特別な機構を設け、この判定回路を用いて注目画素周辺の2値化済み画素の2値化結果を調べ、周辺に既にドットがある場合には、注目画素をドット有りに2値化しないような判定処理を行っている。これは、低濃度領域に画像ノイズが発生しやすいという前記の問題を少しでも改善するためであろうと思われる。しかしそのためには、判定回路が近傍の12画素という多くの画素の2値化結果を参照するという複雑な判定処理が必要となり、処理時間がかかる上に画質的にもまだ十分ではないという問題があった。これに加えてこの従来技術では、第2の問題点の改善も不十分であった。
【0014】
また、前記第1及び第2の問題点を改善するための別の手法として、特開平3−112269号公報に開示された画像処理装置や、特開平4−126464号公報に開示された画像処理装置等が提案されている。これらの従来装置は、注目画素近傍の複数画素の2値化結果を参照することによって、平均濃度値を推定し、それを閾値として注目画素の2値化を行っている。しかし、これらの従来装置に関しては次の2つの問題があった。
【0015】
(1)周辺の10以上もの画素の2値化結果を参照する必要があり、処理時間がかかったり、複雑な処理回路が必要となったりするという問題があった。
【0016】
(2)さらに、データが急に変化しているエッジ部分では、周辺画素の平均濃度値を用いるのでは適切でなく、この結果、不適切な2値化が行われて再現画像にノイズが発生してしまうという問題があった。
【0017】
上記のような問題を解決するために、すなわち、低濃度領域及び高濃度領域の立上り部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引きの問題を解決することができると共に、画質劣化につながる副作用がなく、しかも複雑な処理回路等を用いなくても多階調画像データを高速に2階調画像データに画像処理できるようにするために、本発明者は特願平5−352898号に次の画像処理装置を提案した。
【0018】
すなわち、その提案にかかる画像処理装置は、多階調画像データを誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いて第1階調値及び第2階調値(第1階調値<第2階調値)のみからなる2階調画像データに変換する画像処理装置において、注目画素の周辺の既に2値化済みの画素から拡散された誤差をその注目画素の多階調画像データに加えて補正しその補正結果を補正画素データとして出力する誤差補正手段と、注目画素の多階調画像データの階調値に基づいて2値化のための閾値を設定する閾値設定手段と、設定された閾値に基づいて前記補正画素データを2階調画像データに変換する2値化手段とを有している。そして、注目画素の多階調画像データの階調値をdata、前記第1階調値と第2階調値との間の中間の値をm、閾値をslshとするとき、前記閾値設定手段は、図4に示すように、注目画素の多階調画像データの階調値dataに応じて閾値slshを次式、すなわち
(1)dataが第1階調値近辺の値の場合(例えば符号Aで示す領域)には、
data≦slsh≦(m+data)/2
(2)dataが第2階調値近辺の値の場合(例えば符号Bで示す領域)には、
(m +data)/2≦slsh≦data
に示す許容範囲(図4の斜線で示す範囲)の少なくともいずれか一方を満たすように設定するようにした。つまり、多階調画像データの階調値に応じて2値化のための閾値slshを最適値に変化させるという方法、すなわち閾値最適化法を提案した。
【0019】
この閾値最適化法は未だ公知ではないので、以下に少し詳しく説明する。図12は、上記閾値最適化法を用いた画像処理装置の機能ブロック図を示している。この画像処理装置30は、閾値設定手段32と、誤差補正手段34と、2値化手段36とを有している。閾値設定手段32及び誤差補正手段34には、注目画素の多階調画像データ200として、i行j列目の画素P[i,j] のデータdata(i,j) が入力される。
【0020】
閾値設定手段32は、この注目画素P[i,j] の多階調画像データdata(i,j) を2値化する際に用いる閾値slsh(i,j) を、注目画素の多階調画像データdata(i,j)に応じて、次式、すなわち、
slsh(i,j)=(data(i,j)×(K−1)+128)/K ‥‥(1)
(ここで、Kは2以上の整数で表される定数)
に基づいて設定する。
【0021】
誤差補正手段34は、注目画素P[i,j] の多階調画像データdata(i,j)を、周辺画素の2値化によって生じる2値化誤差に基づいて誤差拡散法を用いて補正し、補正画素データdata_c(i,j) として2値化手段36へ向けて出力する。そして2値化手段36は、入力される注目画素P[i,j] の補正画素データdata_c(i,j) を、閾値slsh(i,j) と比較して2値化し、その2値化結果result(i,j) を2階調画像データ230として出力する。すなわち、補正画素データを次の条件、すなわち
data_c(i,j)≧slsh(i,j)ならば、result(i,j)=255
data_c(i,j)<slsh(i,j)ならば、result(i,j)=0 ‥‥(2)
の条件で2値化して出力する。
【0022】
以上のようにして、画像処理装置30は、入力される注目画素の多階調画像データ200を、誤差拡散法を用いて中間調表示可能な階調値0及び階調値255のみから成る2階調画像データ230に変換して出力する。この画像処理装置30は、低濃度領域や高濃度領域で多量の2値化誤差の蓄積が生じていたのを、閾値設定手段32を用いて解消し、それに起因して生じていた低濃度領域又は高濃度領域の立上り部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引き等の問題を解消するものである。これらの各現象が解決される理由を詳しく説明すれば次の通りである。
【0023】
まず、図12に示す画像処理装置30において、閾値設定手段32が設定する閾値を128に固定し、さらに画像データ200として、全画素が一定階調値であるような画像のデータを入力した。そして、原画像データに加えられる2値化誤差err(i,j)の平均値がどうなるかを調べてみた。
【0024】
具体的には、図12に示す画像処理装置30から閾値設定手段32を取り除き、閾値を128にほぼ固定した。そして、図18に示すように、原画像サイズが600画素×400画素であり、全画素が一定の階調値であるような原画像160を、その左上隅を出発点として2値化処理した。そして、ドット形成が安定状態に達したと思われる、右下隅の200画素×100画素の領域170について、原画像データに加えられる2値化誤差err(i,j)の平均値を平均2値化誤差として求めた。但し、閾値は128に完全固定ではなく、±6の範囲の少量の乱数値、すなわちランダムノイズを加えてある。このノイズは、原画像データがコンピュータで作り出した人工的なデータの場合に、特定の規則的パターンが生じるのを防ぐために付加したものである。
【0025】
図19は、以上の実験を、異なる階調値の原画像160について行った結果を表したものである。この実験結果から明らかなように、原画像160の階調値が1〜4という低濃度の場合や、その階調値が251〜254という高濃度の場合は、原画像160の平均2値化誤差は0になるどころか、絶対値で100にも達するような大きな値となっていることがわかる。平均2値化誤差は、定常状態における誤差の拡散、蓄積量の期待値に相当するものである。誤差拡散法は、2値化誤差の局所的平均値を最小にする手法であると考えられているから、低濃度領域や高濃度領域で平均2値化誤差が0でなく、このような絶対値の大きな値をとるということは、非常に興味深い発見であった。
【0026】
この図19に示す実験データから、ドット生成の遅延及び尾引きの各現象が生じるメカニズムを、次のように解析することができる。
【0027】
(1)2値化誤差の蓄積
原画像160の階調値が1〜8や、247〜254というように0又は255の近辺の値をとる場合には、閾値を128のように固定すると、ドットが安定して形成される定常状態に落ち着くまでには、平均2値化誤差の絶対値が80以上に達するような多量の誤差蓄積が成される必要がある。特に、階調値が1〜4や251〜254の値の原画像データ160では、ドットが安定して形成される定常状態に落ち着くまでに、100以上の多量の誤差が蓄積される必要がある。この誤差蓄積量は、多階調画像データ160の濃度値が2値化濃度値である0及び255に近づくほど大きくなる。
【0028】
(2)誤差の蓄積時間
また、画像データの濃度が0付近の値の場合、それを0に2値化してもわずかな2値化誤差しか生じない。そのため、この2値化誤差が拡散及び蓄積して80〜100前後の値に達するまでには、かなりの蓄積時間が必要となる。また、画像データの濃度が255付近の値の場合にも、その2値化誤差が拡散及び蓄積して80〜100前後の値に達するまでには、同様にしてかなりの蓄積時間が必要となる。しかも、蓄積速度も画像データの濃度値が2値化濃度値である0及び255に近づくほど遅くなる。
【0029】
(3)ドット生成の遅延の問題点
誤差が蓄積されて定常状態での蓄積量に達するまでの蓄積期間中は、ドットは形成されない。このため、ドット形成のために多量の誤差蓄積量が必要とされ、しかも、必要とされる誤差蓄積量に達するまでにかなりの蓄積時間が必要になると、ドット生成の遅延が発生することになる。これがドット生成の遅延の原因である。
【0030】
(4)尾引きの問題点
ドット形成のために多量の誤差蓄積量が必要になると、多量に蓄積された誤差が、領域外部にまで拡散されて周辺の画像データを歪ませる。これが、尾引きが発生する原因である。
【0031】
以上のように、ドット生成の遅延及び尾引きの各現象は、低濃度領域及び高濃度領域において2値化誤差が蓄積するということが根本的な原因であることがわかる。本発明者によって提案された閾値最適化法は、原画像データ200が低濃度のときには閾値を小さくし、そして高濃度のときには閾値を大きくするようにして、原画像データ200の濃度に応じて閾値を最適化することで、「誤差の蓄積」それ自体を解消しつつ、「誤差の蓄積」無しでドット生成を行うことを可能とするものである。
【0032】
図20は、閾値最適化法を用いることによって「誤差の蓄積」が解消されることを示している。すなわち、図20は、図12において閾値設定手段32を用いて閾値slshを上式(1)、すなわち
slsh(i,j)=(data(i,j)×(K−1)+128)/K ‥‥(1)
のように最適化するようにした場合に、図19と同様にして調べた平均2値化誤差がどのようになるかを明らかにしたものである。図20には、図19に示した閾値が128に固定の場合に加えて、上式(1)におけるKの値を2,4,8,∞の各値とした場合の結果がプロットしてある。K=∞の場合、slsh=dataとなる。但し、図20の場合も、図19の場合と同様に、上式(1)で決まった閾値に最大で±6の少量のランダムノイズを加えている。
【0033】
図20より、K=2、すなわちslsh=(data+128)/2とすれば、平均2値化誤差が最大でも50以下となり、閾値を128に固定した場合に比べて半分以下に減少し、誤差の蓄積量を大きく減少させる効果があるのがわかる。さらに、K=4とすると、全体的に平均2値化誤差が0に近づき、さらにK=8とすると、画像データの濃度が1,2や253,254といった0や255に極めて近い階調値の場合でも、平均2値化誤差はほぼ0になる。
【0034】
図12に示す画像処理装置30を用いて実際にプリンタによって印画を行い、尾引きの影響を評価する実験を行ったところ、平均2値化誤差の絶対値を50以下に押さえることにより、尾引きの影響を大幅に軽減できることが確認された。このことから、上式(1)のKの値をK=2〜∞の範囲に設定することにより、すなわち、閾値slshを画像データdataの階調値に応じて、
data<128 のときには、data ≦ slsh ≦ (128+data)/2
data>128 のときには、(128+data)/2 ≦ slsh ≦ data ‥‥(3)
の範囲になるように設定することにより、平均2値化誤差の絶対値を50以下に納めることができ、よって、尾引きを解消することができる。
【0035】
次に、ドット生成の遅延の影響を評価する実験を行った。この実験の結果、ドット生成の遅延も平均2値化誤差が減るに従って改善されることが確認された。上式(1)のKを大きくし過ぎると、平均2値化誤差が0を越えて、その符号が逆転してしまう過補正状態が生じる。しかし、実際の印字結果の主観評価では、やや過補正状態にまでドット生成速度を早めた方が、印字強調的な効果が生じて好ましい画質になった。data値が1,2や253,254といったドット生成の遅延の最も大きいデータ領域の再現性を重視した主観評価結果では、K=8〜24程度の範囲が非常に良好で、K=16は最適であった。
【0036】
図21には、平均2値化誤差が常に0になる閾値が示されている。この閾値は、図20を基にして補間演算による推定値として求めた。図12における閾値設定手段32を、図21に基づいて原画像データから閾値を決定するように形成すれば、尾引きの期待値が0になる最良の閾値設定手段32が実現できる。なお、図21には、同時に、上式(1)のKの値が2,8,∞の場合の特性図が描かれている。これらの特性曲線から、Kの値をK=8前後に設定した場合に、平均2値化誤差を0にするための好適な近似値が得られることがわかる。また、先に述べたように、ドット生成の遅延の改善の点から、平均2値化誤差が0を越えて符号が逆転した「過補正状態」気味の方が良い主観的評価が得られる場合があり、主観評価では、K=16程度の近似式を用いた場合に最良の結果が得られた。K=∞までゆくと、データ変化部のエッジがかなり強調される結果となるが、これも画像の使用目的によっては十分に有用なものとなる。
【0037】
また、図21では、原画像データ200が0又は255の場合の最適閾値を128としたが、データ階調値と2値化結果値とが等しい場合の閾値は、どのように設定しても大差はなくなる。従って、図12の閾値設定手段32でも、データ値が0又は255の場合には、閾値をどのように設定しても良い。
【0038】
以上のように、図12に示す閾値最適化法を用いた画像処理装置30によれば、多階調画像データ200を誤差拡散法を用いて、中間調可能な2階調画像データ230に変換して出力すると共に、その2値化処理に使用する閾値を、多階調画像データ200の階調値に基づいて上式(3)、すなわち
data<128 のときには、data ≦ slsh ≦ (128+data)/2
data>128 のときには、(128+data)/2 ≦ slsh ≦ data ‥‥(3)
の範囲に設定することにより、ドット生成の遅延及び尾引きの各現象を根本的に解決することができた。
【0039】
なお、図20及び図21に示した補正データは、誤差拡散法における誤差拡散重みマトリクスとして図17(a)に示すマトリクスを用いた場合のものである。異なるマトリクスを用いた場合は、定量的には多少異なった結果が得られるが、定性的な傾向はほとんど変わりがない。つまり、以上に説明した閾値最適化法は種々の誤差拡散重みマトリクスに対して有効である。
【0040】
図24は、図12に示す閾値最適化法を用いた画像処理装置30を使用して、図22に示す原画像100を印画した場合の出力例を示す図である。図23で問題となった、ドット生成の遅延や、低濃度領域120からの尾引きによる直線130の中央部の消失等の問題点が完璧に解消していることが解る。
【0041】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、誤差拡散法で自然画を2値化した場合には、通常、特定の周期性や規則性の無いドットが分散した状態の2値化パターンが得られる。これに対し、原画像データがコンピュータグラフィックスによって作られたような、非常に均一性の高いデータであるような場合には、2値化によって生じるドットパターンに一定の規則的な繰り返しが生じ、それが目について画質を劣化させることがある。代表的な例は、原画像データの階調値が50%の場合に、図25に示すように、ドット生成パターンが完全に1ドットDおきに規則的に並んでしまうような場合である。
【0042】
通常は、そのような規則性パターンの発生を防止するための対策として、閾値や2値化前の画像データ自体に適量の乱数値、すなわちノイズを加える方法が有効であることが知られている。しかしながら、本発明者による上記の閾値最適化法とそのようなノイズ印加方法を併せて用いてみると、閾値最適化方法を用いることによりドット生成の遅延及び尾引きの問題は解決されるものの、今度は、低濃度領域でのノイズ印加が再現画像の画質に相当な悪影響を与えていることが顕在化するようになった。すなわち、閾値最適化法を利用する以前の従来の誤差拡散法では、低濃度領域で生じるドット生成の遅延等の問題を少しでもごまかすために、低濃度領域でも2値化のための閾値等に相当量のノイズを加えることでむしろ全体的な画質が改善されていた。このため、低濃度領域でも中濃度領域と同量、場合によってはそれ以上のノイズを閾値等に印加、すなわち重畳することが普通に行われていた。
【0043】
規則的パターンは原画像データが特定の階調値である程度以上の面積を占める場合に生じやすいが、どの階調値で生じるかは、どの範囲にどのような重みで誤差拡散するか、等の誤差拡散手法によって変わってくる。しかしながら、通常は、ドット密度が10%以下の低濃度領域や、90%以上の高濃度領域ではほとんど生じず、主に中濃度領域で生じる。従って、規則的なパターンを防ぐ目的からは、0%〜10%の低濃度領域に加えるノイズは、それほど大きくする必要がないか、場合によっては全くなくてもほとんど問題がない。
【0044】
また、ノイズの印加自体による画質劣化の程度は、中濃度領域に比べて低濃度領域では大きくなる。その理由は次の通りである。例えば、中濃度領域としてデータ値が127の場合を考えてそれを0に2値化すると、127の誤差が生じる。この状況は、1画素で生じる誤差の絶対値自体が大きい上に、狭い範囲にONドットとOFFドットが混在する形になるため、誤差の絶対値が大きい上のその符号が目まぐるしく変化するということである。この状況下で、例えば+16〜−16程度の範囲で変動するノイズ、すなわち乱数値を閾値に加えても、それほど大きな画質劣化にはつながらない。
【0045】
これに対し、ドット密度が低い低濃度領域では、小さな誤差がある程度の範囲にわたって積み重なって、その結果、補正データ値が閾値を越えたところでドットがONになる。例えば、データ値が3の場合を考え、それを0に2値化しても3の2値化誤差しか生じない。この3の誤差ずつの積み重ねを行っているところに、+16〜−16までの大きなノイズを加えると、ドット生成パターンはかなり乱れ、ドットの分散の均一性を大きく損なうことになる。
【0046】
本発明は、以上のような問題点を解決するために成されたものであって、より具体的には、低濃度領域及び高濃度領域の立ち上がり部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引きの問題を解決するために本発明者によって既に提案された閾値最適化法と、規則性パターンの発生を防止して良好な再現画像を得られるようにするために2値化のための閾値にノイズを重畳するという方法とを併用する場合に、特に低濃度領域及び高濃度領域においてドットの分散が不均一になって再現画像が乱れるという現象を確実に防止できるようにすることを目的とする。
【0047】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため本発明に係る画像処理装置は、多階調画像データを誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いて第1階調値及び第2階調値(第1階調値<第2階調値)のみからなる2階調画像データに変換する画像処理装置において、
(1)注目画素の周辺の既に2値化済みの画素から拡散された誤差をその注目画素の多階調画像データに加えて補正しその補正結果を補正画素データとして出力する誤差補正手段と、
(2)注目画素の多階調画像データの階調値に基づいて設定されたベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、2値化のための閾値slshとして設定する閾値設定手段と、
(3)設定された閾値slshに基づいて前記補正画素データを2階調画像データに変換する2値化手段とを有する。
【0048】
そして、上記閾値設定手段は、注目画素の多階調画像データの階調値をdata、前記第1階調値と第2階調値との間の中間の値をm、乱数の重畳によって変動する前記閾値の下限をslsh(L) 、乱数の重畳によって変動する前記閾値の上限をslsh(U) とするとき、次の条件、すなわち
(I)dataが第1階調値近辺の低濃度領域の場合に、閾値の下限slsh(L)が
data ≦ slsh(L) ≦ (m+data)/2 ‥‥ (4)
の範囲内に入り、
(II)dataが第2階調値近辺の高濃度領域の場合に、閾値の上限slsh(U)が
(m+data)/2 ≦ slsh(U) ≦ data ‥‥ (5)
の範囲内に入るという条件のうちの少なくともいずれか一方を満たすように、閾値slshを設定する。
【0049】
上記の(4)式及び(5)式は、例えば次のようにして設定できる。すなわち、画像データの階調値dataが第1階調値近辺の低濃度領域の場合に閾値のベース部slsh(B)を
data ≦ slsh(B) ≦ (m+data)/2 ‥‥ (4’)
と設定し、さらに画像データの階調値dataが第2階調値近辺の高濃度領域の場合に閾値のベース部slsh(B)を
(m+data)/2 ≦ slsh(B) ≦ data ‥‥ (5’)
と設定するとき、低濃度領域では閾値のベース部slsh(B) に+方向のノイズを加え、一方、高濃度領域では閾値のベース部slsh(B) に−方向のノイズを加える。つまり、図4に示すように、閾値のベース部slsh(B)を式(4’)及び式(5’)で規定される斜線領域の中に設定し、さらにそのベース部slsh(B) に、例えば図5において斜線で示す範囲内で乱数的に変化するノイズ成分を重畳する。
【0050】
上記説明において第1階調値近辺の低濃度領域とは、広い意味では、多階調画像データの階調値dataの中央値よりも低い領域のことであり、第2階調値近辺の高濃度領域とは、同様に広い意味では、多階調画像データの階調値dataの中央値よりも高い領域のことである。しかしながら、再現画像におけるドットの分散が均一になるという本発明の効果が顕著に発現するのは、本発明者の実験によれば、特に低濃度領域に関しては、多階調画像データの階調値dataが0〜255の256階調であるときに、階調値16以下の領域であった。
【0051】
閾値設定手段は、例えば、注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて、次式、すなわち
slsh(B)=(data×(K−1)+m)/K
(但し、Kは2以上の正数で表される定数)
に従って設定されたベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することができる。
【0052】
また、閾値設定手段は、注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて段階的に設定された前記ベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することができる。
【0053】
また、閾値設定手段は、注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて、次式、すなわち
data<m−L1のとき、 slsh(B)=data+L1
m−L1<data<m+L2のとき、 slsh(B)=m
m+L2<dataのとき、 slsh(B)=data−L2
(但し、L1,L2は0〜mの間の整数で表される定数)
に従って設定されたベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することができる。
【0054】
誤差補正手段は、誤差拡散法を用いるもの、あるいは平均誤差最小法を用いるものを適宜に選択して使用できる。誤差拡散法を用いる誤差補正手段は、(1)各画素毎の拡散誤差積算値を記憶する拡散誤差記憶部と、(2)補正画素データと2値化結果との2値化誤差を演算し、その2値化誤差を誤差拡散法を用いて注目画素の近傍の未2値化画素へ分配して拡散する演算を行い、前記拡散誤差記憶部に記憶された各画素毎の拡散誤差積算値に、前記注目画素からの拡散誤差を加算して新たな拡散誤差積算値を求め、前記拡散誤差記憶部に記憶された各画素毎の拡散誤差積算値を更新する誤差拡散部と、(3)注目画素の多階調画像データと、前記拡散誤差記憶部に記憶された注目画素の拡散誤差積算値とを加算して前記補正画素データを演算するデータ補正部とを有する構成を採用できる。
【0055】
また、平均誤差最小法を用いる誤差補正手段は、(1)各画素毎の誤差を記憶する誤差記憶部と、(2)補正画素データと2値化結果との2値化誤差を演算し、その2値化誤差を前記誤差記憶部に記憶する誤差拡散部と、(3)前記誤差記憶部に記憶された注目画素の周辺の画素の2値化誤差を読み出し所定の重み付けをすることにより平均誤差を求め、この平均誤差を注目画素の多階調画像データに加算して前記補正画素データを演算するデータ補正部とを有する構成を採用できる。
【0056】
【作用】
多階調画像データは、誤差補正手段及び閾値設定手段に入力される。誤差補正手段は、注目画素の多階調画像データに、周辺の既に2値化済みの画素から拡散された誤差を加えて補正しその補正結果を補正画素データとして出力する。閾値設定手段は、注目画素の多階調画像データの階調値に基づいて閾値のベース成分slsh(B) を設定すると共にそのベース成分に乱数値、すなわちノイズを重畳して閾値slshを設定する。そして、設定されたその閾値slshに従って誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いた2値化処理が行われる。
【0057】
本発明では、次の条件、すなわち
(I)dataが第1階調値近辺の低濃度領域の場合に、閾値slshの下限slsh(L) が
data ≦ slsh(L) ≦ (m+data)/2 ‥‥(4)
の範囲内に入り、
(II)dataが第2階調値近辺の高濃度領域の場合に、閾値slshの上限slsh(U) が
(m+data)/2 ≦ slsh(U) ≦ data ‥‥(5)
の範囲内に入るという条件のうちの少なくともいずれか一方を満たすように、閾値slshを設定した。ここで、「第1階調値近辺」とは、mより小さい範囲の一部または全部を、「第2階調値近辺」とは、mより大きい範囲の一部または全部を意味している。
【0058】
以上により、多階調画像データの階調値が小さいときには閾値slshを小さく、一方、多階調画像データの階調値が大きいときには閾値slshも大きくなるように、注目画素の多階調画像データの階調値に応じて閾値slshを最適化するようにしたので、2値化に伴って発生する誤差の蓄積を解消して、注目画素のドット生成を良好に行うことができる。より具体的には、低濃度領域や高濃度領域で、多量の誤差の蓄積が発生するという現象を解消することができ、それに起因して生じていた、低濃度領域又は高濃度領域の立ち上がり部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引き等の問題を、画質劣化につながる副作用なしに根本的に解決できる。
【0059】
さらに、2値化のための閾値にノイズを重畳するようにしたので再現画像に規則性パターンが発生することを防止して良好な再現画像を得ることができる。しかも、そのように閾値にノイズを重畳する場合でも、本発明では低濃度領域では+方向へノイズを加え、高濃度領域では−方向へノイズを加え、つまりそれぞれドットが出難くなる方向へノイズを加えるようにしたので、本来出るべき位置よりもずっと前の位置でドットがいきなり出てしまうといった不都合が無くなり、よって、特に低濃度領域及び高濃度領域においてドットの分散が不均一になって再現画像が乱れるという現象を確実に防止できる。
【0060】
【実施例】
図1は、本発明に係る画像処理装置を用いた画像作成システムを示している。このシステムでは、階調画像データ出力装置10から出力される原画像の多階調画像データ200が画像処理装置30へ入力される。画像処理装置30は、入力された原画像の多階調画像データ200を2階調に階調数変換して2値画像出力装置20へ出力する。より具体的には、多階調画像データ200を、誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いて補正し、中間調表示可能な第1階調値及び第2階調値のみから成る2階調画像データ230に変換して出力する。本実施例では、第1階調値として0(白)を出力し、第2階調値として255(黒)を出力するものとする。2値画像出力装置20は、画像処理装置30から出力される2階調画像データ230に基づき原画像を再生出力する。
【0061】
本実施例において、階調画像データ出力装置10はコンピュータを用いて形成されている。そして、このコンピュータは、ハードディスク等に記憶された多階調画像データ200を画像処理装置30へ向けて出力するように構成される。多階調画像データ200は、0〜255の256階調の濃度データとして表されている。なお、この階調画像データ出力装置10は、これ以外に、例えばコンピュータグラフィックの多階調画像データを出力するように形成しても良く、また、コンピュータ以外でも、例えば、スキャナ、ビデオカメラ等といった各種の手段を用いても良い。
【0062】
本実施例の2値画像出力装置20は、画素単位で階調制御ができないプリンタを用いて形成され、入力される2階調画像データ230に基づいて原画像を中間調表示可能に再生出力する。なお、2値画像出力装置20は、プリンタ以外に、必要に応じてCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、ファクシミリ装置、デジタル複写機等を用いても良い。
【0063】
システムの具体例
本発明において、画像処理装置30は、階調画像データ出力装置10又は2値画像出力装置20と別体に形成しても良いが、必要に応じて、これら各装置10又は20と一体に形成しても良い。例えば、図9に示すように、階調画像データ出力装置10としてホストコンピュータ12を用い、2値画像出力装置20としてプリンタ22を用いた場合には、本発明の画像処理装置30を、プリンタ22内へ一体的に組み込んで形成することができる。この場合には、プリンタ22は、ホストコンピュータ12より出力する多階調画像データ200が入力されるデータ入力部24と、画像処理装置30と、2値化ドット印画手段26とを含んで構成される。
【0064】
また、図10に示すように、ホストコンピュータ12内へ一体的に組み込んで形成しても良い。この場合、ホストコンピュータ12は、階調画像ファイルの読込手段14と、プリンタドライバ16と、データ出力手段18とを含むように構成される。そして、プリンタドライバ16は、階調画像ファイル読込手段14から多階調画像データ200が入力される画像処理装置30と、この画像処理装置30の出力に基づいてプリンタ制御コマンドを生成するプリンタ制御コマンド生成手段16aとを含み、プリンタ制御コマンドに基づいてプリンタ22を制御するように構成されている。
【0065】
なお、図11に示すように、階調画像データ出力装置10としてスキャナ50を用い、このスキャナ50で読み込んだ多階調画像データを2値化データとしてホストコンピュータ60へ出力する場合には、スキャナ50に画像処理装置30を一体的に組み込んで形成すれば良い。この場合には、スキャナ50は、画像を光学的に読み取る階調画像データ読み取り部52と、読み取られた多階調画像データ200を2階調画像データ230として出力する画像処理装置30と、出力された2階調画像データ230のデータをホストコンピュータへ向けて出力する2値化データ出力部54とを含んで構成される。
【0066】
なお、本発明の画像処理装置は必要に応じ、前述した各種装置以外の装置に一体的に組み込んで形成することもできる。
【0067】
なお、説明の都合上、以降の説明では、図1に示すように、本発明の画像処理装置30は階調画像データ出力装置10及び2値画像データ出力装置20とは別体に形成されるものとして、その説明を行う。
【0068】
画像処理装置
図2は、本発明に係る画像処理装置の一実施例の機能ブロック図を示している。この画像処理装置30は、閾値設定手段32と、誤差補正手段34と、2値化手段36と、そして乱数値発生手段8とを有している。閾値設定手段32及び誤差補正手段34には、注目画素の多階調画像データ200として、i行j列目の画素P[i,j] のデータdata(i,j) が入力される。
【0069】
閾値設定手段32は、この注目画素P[i,j] の多階調画像データdata(i,j) に応じて閾値のベース部slsh(B)(i,j) を設定し、さらにそのベース部slsh(B)(i,j) に乱数値発生手段8から出力される乱数値を重畳することにより、多階調画像データ200を2値化するのに用いる閾値slsh(i,j) を設定する。なお、閾値ベース部slsh(B)(i,j) は、
slsh(B)(i,j)=(data(i,j)×(K−1)+128)/K ‥‥(1’)
(ここで、Kは2以上の整数で表される定数)
に基づいて決められる。また、乱数値発生手段8は、例えば、図5に示すように、低濃度領域では+側へ変動し、高濃度領域では−側へ変動する乱数値を出力する。今、数式(1’)が図8において直線Cで表されるものとすれば、これに図5の乱数値を重畳すると、図8に斜線で示す範囲で変動する閾値slshが設定される。この閾値slshに関して、符号slsh(L) で示す部分が閾値slshの下限であり、符号slsh(U)で示す部分が閾値slshの上限である。
【0070】
図2に戻って、誤差補正手段34は、注目画素P[i,j] の多階調画像データdata(i,j) を、周辺画素の2値化によって生じる2値化誤差に基づいて誤差拡散法を用いて補正し、補正画素データdata_c(i,j) として2値化手段36へ向けて出力する。そして2値化手段36は、入力される注目画素P[i,j] の補正画素データdata_c(i,j) を、閾値slsh(i,j) と比較して2値化し、その2値化結果result(i,j) を2階調画像データ230として出力する。すなわち、補正画素データを次の条件、すなわち
の条件で2値化して出力する。
【0071】
誤差補正手段34は、データ補正手段38、誤差拡散手段40及び拡散誤差記憶手段42を有している。拡散誤差記憶手段42は、原画像の各画素毎の拡散誤差積算値total_err(m,n)を記憶する。また、誤差拡散手段40は、まず、2値化結果result(i,j) と補正データdata_c(i,j) とにより、2値化誤差err(i,j)を、
err(i,j)=data_c(i,j)−result(i,j) ‥‥(6)
のようにして求める。次に、その2値化誤差err(i,j)を近傍の未2値化画素P[m,n] 、すなわちP(i,j+1),P(i+1,j),‥‥等へ分配して拡張する。具体的には、拡散誤差記憶手段42が記憶している各画素毎の拡散誤差積算値total_err (m,n)に、注目画素P[i,j]からの拡散誤差分を加算してゆく。今、図17(a)のような誤差拡散重みマトリクスを用いるとする。図17の「*」が注目画素を示している。重みの合計値は16なので、注目画素での2値化誤差に、分配対象の画素位置に応じた重み値を乗じた後、16で割った値を以下のように拡散誤差積算値total_err(m,n)に加算する。
【0072】
以上の加算処理により注目画素P[i,j] の2値化に伴う誤差拡散は終わる。この加算処理は、2値化手段36から2値化結果が出力される毎に繰り返して行われる。なお、誤差拡散法の重みマトリクスの例としては、図17(a)に示すもの以外にも、必要に応じて例えば、図17(b)又は図17(c)に示すマトリクス、あるいはその他各種のマトリクスを採用できる。
【0073】
そして、データ補正手段38は、注目画素P[i,j] の多階調画像データdata(i,j) が入力されると、その注目画素P[i,j] に対応した拡散誤差積算値total_err(i,j)を拡散誤差記憶手段42から読み出し、これを次式、すなわち、
data_c(i,j)=data(i,j) + total_err(i,j) ‥‥(8)
に基づいて注目画素の多階調画像データdata(i,j) に加え、こうして補正画像データdata_c(i,j)を求める。
【0074】
以上のようにして、本実施例の画像処理装置30は、入力される注目画素の多階調画像データ200を、誤差拡散法を用いて中間調表示可能な第1階調値0及び第2階調値255のみから成る2階調画像データ230に変換して出力する。この画像処理装置30は、閾値slshのベース部分slsh(B) を図8の直線Cのように、低濃度領域で小さく且つ高濃度領域で大きくなるように設定したので、従来であれば低濃度領域や高濃度領域で多量の2値化誤差の蓄積が生じていたのを解消でき、それに起因して発生していた、低濃度領域又は高濃度領域の立上り部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引き等の問題が解消された。
【0075】
さらに、閾値slshはノイズ成分を含んでいるので、再現画像に規則性パターンが発生して画質が劣化することを防止でき、良好な再現画像を得ることができる。しかも本実施例では、低濃度領域(例えば、図4のA領域)において閾値slshの下限slsh(L)が
data ≦ slsh(L) ≦ (m+data)/2
の範囲内に入り、さらに高濃度領域(例えば、図4のB領域)において閾値slshの上限slsh(U)が
(m+data)/2 ≦ slsh(U) ≦ data
の範囲内に入るように設定したので、閾値slshにノイズが加えられるにもかかわらず、ドットは出難い傾向に設定されている。この結果、例えば低濃度領域において閾値slshが異常に小さくなることに起因してドットの分散の均一性が悪くなるという不都合が解消される。
【0076】
なお、閾値slshのベース部slsh(B) に重畳するためのノイズは、図5に示すような変動範囲を有するものに限られるものではなく、図6に示す変動範囲を有するもの、あるいは図7に示す変動範囲を有するもの等を適宜に選択して用いることができる。
【0077】
(閾値設定手段32の変形例)
上記実施例において、閾値設定手段32は、
slsh(B)(i,j)=(data(i,j)×(K−1)+128)/K ‥‥(1’)
に基づいて閾値slshのベース部slsh(B) の設定を行っている。しかしながら、閾値ベース部slsh(B) はそれ以外の方法によって設定することができる。例えば、図13に示すように、
の条件に従って閾値ベース部slsh(B) を設定できる。ここにおいて、L1,L2は0〜64の適当な値でよいが、8〜16の範囲とすると最適となる。なお、L1及びL2は同じ値に設定しても良い。式(9)に従う場合には、画像データの階調値dataが128前後の場合には、数式(3)で示した
という範囲から外れることになるが、本発明が解決しようとしている問題点、すなわちドット生成の遅延、尾引き及びドット分散の不均一が特に顕著となるのは、画像データの階調値dataが0又は255近辺の値(0及び255は含まない)、発明者の目視観察によれば特に階調値16以下の低濃度領域であった。従って、全データ領域で上式(3)が満たされる必要はなく、dataが0又は255近辺の値の場合に式(3)が満たされれば良い。従って、閾値のベース部slsh(B) を上式(9)のように設定しても、ドット生成の遅延、尾引き及びドット分散の不均一の各種問題を解決して良好な2値化画像を得ることができる。
【0078】
図14は、閾値のベース部slsh(B) のさらに他の設定例を示している。この例では、原画像データ200の階調値に応じて閾値ベース部slsh(B) を、連続的ではなく段階的に設定する。このようにしても、良好な2値画像を得ることができる。
【0079】
図15は、閾値のベース部slsh(B) のさらに他の設定例を示している。この例では、低濃度領域のみに、本発明の特徴である閾値最適化動作が働くようにしてある。すなわち、画像データ200の閾値が高濃度領域側にある場合には、閾値のベース部は128に固定され、画像データ200が低濃度領域側の0近辺の値にあるときに、閾値ベース部slsh(B) を上式(3)を満足するように設定する。例えば、ドットの滲み量の大きいプリンタ装置では、高濃度領域の孤立した白ドットがほとんど潰れてしまうため、高濃度領域では、ドット生成の遅延という問題がもともと顕著に現れない。そのため、ドット生成の遅延が目立ちやすい低濃度領域のみを、本発明によって改善しようとするものである。
【0080】
(閾値設定手段の具体例)
図2における閾値設定手段32は、原画像データから2値化のための閾値を設定するために、閾値ベース部slsh(B) の演算及びそのベース部へのノイズ成分の加算をその都度行うように形成しても良く、また、原画像データの階調値と閾値との対応関係を予め変換テーブル内に記憶しておき、それを参照するように形成しても良い。
【0081】
図16には、閾値設定手段32を、ROMを用いて構成した場合の具体例が示されている。ROMのアドレスバスA0〜A7に8ビットの原画像データを入力すると、それに対応した8ビットの閾値がデータバスD0〜D7に出力されるよう形成されている。
【0082】
(他の実施例)
上記の実施例では、誤差拡散法を用いて多階調画像データ200を補正する場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、平均誤差最小法を用いて補正する場合にも適用できる。図3は、その平均誤差最小法を用いた画像処理装置30の好適な実施例を示している。なお、図3において図2に示した実施例と対応する部材には同一の符号を付すことにしてその説明は省略する。
【0083】
本実施例において、誤差補正手段34は、データ補正手段38と、誤差計算手段44と、そして誤差記憶手段46とを有する。誤差計算手段44は、前記数式(6)すなわち、
err(i,j)=data_c(i,j)−result(i,j)
に従って、注目画素の2値化誤差err を演算し、誤差記憶手段46の注目画素に対応したアドレスにその値を書き込むように形成されている。この結果、誤差記憶手段46の各画素アドレスに対応した記憶エリアには、2値化済みの画素の2値化誤差が順次に書き込み記憶されてゆく。
【0084】
データ補正手段38は、注目画素P[i,j]の多階調画像データdata(i,j)が入力されると、その注目画素P[i,j] 近傍の2値化済みの画素の誤差を誤差記憶手段46から読み出す。そして、読み出した誤差データに所定の重み付けをして平均誤差を求め、この平均誤差を注目画素の多階調画像データdata(i,j) に加え、これを補正画像データdata_c(i,j)として2値化手段36へ向けて出力する。
【0085】
これ以外の構成及び作用は、図2に示した先の実施例の場合と同様であるので、ここではそれらの説明は省略する。このような平均誤差最小法を用いた場合でも、誤差拡散法を用いた図2の実施例の場合と同様な効果を奏することができる。
【0086】
以上、好ましい実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的範囲内で種々に改変できる。例えば、以上の実施例では原画像データが0で白、255で黒となるような濃度データである場合を例にとって説明したが、原画像データが0で黒、255で白となるような、明度データである場合も、本発明を同様に適用できることはいうまでもない。
【0087】
【発明の効果】
請求項1記載の画像処理装置によれば、多階調画像データの階調値が小さいときには閾値slshを小さく、一方、多階調画像データの階調値が大きいときには閾値slshも大きくなるように、注目画素の多階調画像データの階調値に応じて閾値slshを最適化するようにしたので、2値化に伴って発生する誤差の蓄積を解消して、注目画素のドット生成を良好に行うことができる。より具体的には、低濃度領域や高濃度領域で、多量の誤差の蓄積が発生するという現象を解消することができ、それに起因して生じていた、低濃度領域又は高濃度領域の立ち上がり部でのドット生成の遅延や、低濃度領域又は高濃度領域が終わった後の尾引き等の問題を、画質劣化につながる副作用なしに根本的に解決できる。
【0088】
さらに、2値化のための閾値にノイズを重畳するようにしたので再現画像に規則性パターンが発生することを防止して良好な再現画像を得ることができる。しかも、そのように閾値にノイズを重畳する場合でも、本発明では低濃度領域では+方向へノイズを加え、高濃度領域では−方向へノイズを加え、つまりそれぞれドットが出難くなる方向へノイズを加えるようにしたので、本来出るべき位置よりもずっと前の位置でドットがいきなり出てしまうといった不都合が無くなり、よって、特に低濃度領域及び高濃度領域においてドットの分散が不均一になって再現画像が乱れるという現象を確実に防止できる。
【0089】
さらに、閾値設定手段を、簡単な演算を行うか又は変換テーブルを参照する等の単純な構成で実現できるため、複雑な処理回路を必要とせず、高速且つ良好な画像処理を行うことができる。
【0090】
さらに、閾値設定手段が設定する閾値を増減させることにより、ドット生成速度の調整が可能となり、必要に応じて過補正状態を設定することができ、これにより例えば、エッジ強調的な効果を期待できるという副次的な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る画像処理装置を用いた画像処理システムの一例のブロック図である。
【図2】本発明に係る画像処理装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明に係る画像処理装置の他の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明において適用される閾値の許容範囲の一例を示すグラフである。
【図5】ノイズ範囲の一例を示すグラフである。
【図6】ノイズ範囲の他の一例を示すグラフである。
【図7】ノイズ範囲のさらに他の一例を示すグラフである。
【図8】本発明において適用される閾値の一例を示すグラフである。
【図9】本発明に係る画像処理装置を組み込んだ画像処理システムの一例の全体を示す概略図である。
【図10】本発明に係る画像処理装置を組み込んだ画像処理システムの他の一例の全体を示す概略図である。
【図11】本発明に係る画像処理装置を組み込んだ画像処理システムのさらに他の一例の全体を示す概略図である。
【図12】本発明者の提案による閾値最適化法を用いた画像処理装置の一例を示す機能ブロック図である。
【図13】閾値の設定の仕方の一例を示すグラフである。
【図14】閾値の設定の仕方の他の一例を示すグラフである。
【図15】閾値の設定の仕方のさらに他の一例を示すグラフである。
【図16】本発明に用いられる閾値設定手段のハードウエアの構成の一例を示す図である。
【図17】本発明に係る画像処理装置で用いられる拡散重みマトリクスの具体例を示す図である。
【図18】平均2値化誤差を求めるために使用した原画像データと、平均2値化誤差を求める領域との関係を示す説明図である。
【図19】原画像データの階調値と平均2値化誤差との関係を示すグラフである。
【図20】図1に示す画像処理装置において平均2値化誤差がどのように発生するかを示すグラフである。
【図21】平均2値化誤差が常に0になる閾値を示すグラフである。
【図22】2値化すべき原画像の一例を示す平面図である。
【図23】従来の誤差拡散法によって得られた2値化結果の説明図である。
【図24】本発明者の提案による閾値最適化法を用いた画像処理装置を使用して得られる2値化結果の説明図である。
【図25】階調値が50%であるドット生成パターンを模式的に示す図である。
【符号の説明】
8 乱数値発生手段
10 階調画像データ出力装置
30 画像処理装置
32 閾値設定手段
34 誤差補正手段
36 2値化手段
38 データ補正手段
40 誤差拡散手段
42 拡散誤差記憶手段
200 多階調画像データ
230 2階調画像データ
Claims (7)
- 多階調画像データを誤差拡散法又は平均誤差最小法を用いて第1階調値及び第2階調値(第1階調値<第2階調値)のみからなる2階調画像データに変換する画像処理装置において、
注目画素の周辺の既に2値化済みの画素から拡散された誤差をその注目画素の多階調画像データに加えて補正しその補正結果を補正画素データとして出力する誤差補正手段と、
注目画素の多階調画像データの階調値に基づいて設定されたベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、2値化のための閾値slsh として設定する閾値設定手段と、
設定された閾値に基づいて前記補正画素データを2階調画像データに変換する2値化手段とを有しており、
上記閾値設定手段は、
注目画素の多階調画像データの階調値をdata、前記第1階調値と第2階調値との間の中間の値をm、乱数値の重畳によって変動する前記閾値の下限をslsh(L) 、乱数値の重畳によって変動する前記閾値の上限をslsh(U) とするとき、次の条件、すなわち
(1)dataが第1階調値近辺の低濃度領域の場合に、閾値の下限slsh(L)が
data≦slsh(L)≦(m+data)/2
の範囲内に入り、
(2)dataが第2階調値近辺の高濃度領域の場合に、閾値の上限slsh(U)が
(m+data)/2≦slsh(U)≦data
の範囲内に入るという条件のうちの少なくともいずれか一方を満たすように前記2値化のための閾値slshを設定することを特徴とする画像処理装置。 - 請求項1記載の画像処理装置において、
前記閾値設定手段は、
注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて次式、すなわち
slsh(B)=(data×(K−1)+m)/K
(但し、Kは2以上の正数で表される定数)
に従って設定されたベース成分 slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することを特徴とする画像処理装置。 - 請求項1記載の画像処理装置において、
前記閾値設定手段は、
注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて段階的に設定された前記ベース成分slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することを特徴とする画像処理装置。 - 請求項1記載の画像処理装置において、
前記閾値設定手段は、
注目画素の多階調画像データの階調値dataの値に応じて次式、すなわち
data<m−L1のとき、 slsh(B)=data+L1
m−L1<data<m+L2のとき、 slsh(B)=m
m+L2<dataのとき、 slsh(B)=data−L2
(但し、L1,L2は0〜mの間の整数で表される定数)
に従って設定されたベース成分 slsh(B) にノイズが重畳した閾値を、前記2値化のための閾値 slsh として設定することを特徴とする画像処理装置。 - 請求項1から請求項4のうちのいずれか1つに記載の画像処理装置において、多階調画像データの階調値dataが0〜255の256階調のとき、前記第1階調値近辺の低濃度領域は、階調値16以下の領域であることを特徴とする画像処理装置。
- 請求項1から請求項5のうちのいずれか1つに記載の画像処理装置において、
前記誤差補正手段は、
各画素毎の拡散誤差積算値を記憶する拡散誤差記憶部と、
補正画素データと2値化結果との間の2値化誤差を演算し、その2値化誤差を誤差拡散法を用いて注目画素の近傍の未2値化画素へ分配して拡散する演算を行い、前記拡散誤差記憶部に記憶された各画素毎の拡散誤差積算値に、前記注目画素からの拡散誤差を加算して新たな拡散誤差積算値を求め、前記拡散誤差記憶部に記憶された各画素毎の拡散誤差積算値を更新する誤差拡散部と、
注目画素の多階調画像データと前記拡散誤差記憶部に記憶された注目画素の拡散誤差積算値とを加算して前記補正画素データを演算するデータ補正部とを有しており、
注目画素の多階調画像データを誤差拡散法を用いて補正して補正画素データとして出力することを特徴とする画像処理装置。 - 請求項1から請求項5のうちのいずれか1つに記載の画像処理装置において、
前記誤差補正手段は、
各画素毎の誤差を記憶する誤差記憶部と、
補正画素データと2値化結果との間の2値化誤差を演算し、その2値化誤差を前記誤差記憶部に記憶する誤差拡散部と、
前記誤差記憶部に記憶された注目画素の周辺の画素の2値化誤差を読み出して所定の重み付けをすることにより平均誤差を求め、この平均誤差を注目画素の多階調画像データに加算して前記補正画素データを演算するデータ補正部とを有しており、
注目画素の多階調画像データを平均誤差最小法を用いて補正して補正画素データとして出力することを特徴とする画像処理装置。
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