JP3552792B2 - 金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、耐食性および上塗り塗装密着性も優れ、クロム溶出率が小さい皮膜を金属材料表面に形成するのに適し、かつ水性処理液のポットライフが長い、金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、冷延鋼板、亜鉛系めっき鋼板、およびアルミニウム合金板等の金属材料は、例えば、家電、自動車、建材メーカー等の加工組立メーカーで多用されているが、これらは、それぞれの用途に応じて、プレス、鍛造等の方法で所望の寸法形状に成形加工が施された後に組み立てに供されている。しかしながら、金属素材の種類によっては、成形加工性が不十分なものもあり、この場合には、成形加工の工程で金属材料表面にプレス油に代表される油系潤滑剤、および/又は石灰石鹸等の固体潤滑剤を塗布し、所望の成形加工性を得ている。また、これら成形加工された金属材料は、その組立後に、さらに防錆性、意匠性等の機能を付与するために、表面に残存している潤滑剤を脱脂工程により除去し、必要に応じてさらにリン酸塩系化成処理等の下地処理を行った後に塗装が行われているのである。
【0003】
尚、成形加工された金属材料に、下地処理を行わないで直ちに塗装を行う場合には、予めリン酸塩系化成処理またはクロメート処理が施された金属材料が使用されている。また、優れた上塗り塗装性を有し、かつ塗装されない部位も高耐食性を有し、一般に耐指紋性鋼板と呼ばれている表面処理鋼板も多用されている。さらに、成形加工の工程で油系の潤滑剤を使用しなくても成形可能で、耐指紋性鋼板と同等の優れた塗装性と耐食性とを有し、潤滑鋼板と呼ばれる表面処理鋼板も近年になって使用され始めている。この潤滑鋼板は、脱脂工程も不要なために、大幅な省プロセス化、トータルコストの低減および作業環境改善などに有効なものである。
【0004】
一般に、前記耐指紋性鋼板および潤滑鋼板としては、亜鉛系めっきの表面にクロメート処理を施した後、有機樹脂を被覆するという2プロセス処理されたものが主流をなしている。近年、さらに表面処理の省プロセス化を図るために、単一プロセスによる樹脂含有クロメート処理技術も実用化されている。また、潤滑鋼板レベルの高度の成形加工性を必要としない成形加工、例えば曲げ加工程度の軽度の成形加工用としては、クロメート皮膜に潤滑剤を含有させて、単一プロセス処理された潤滑性クロメート鋼板と呼ばれる表面処理鋼板も市場に供給されてきた。
【0005】
これらの金属材料用表面処理については、今までに種々の技術が開示されているが、こゝでは、表面処理の省プロセス化を図った単一プロセスによるクロメート処理タイプの従来技術について説明する。このような従来技術は、例えば、(1)特公平7−6070号、(2)特願平2−011747号、(3)特開平5−279867号、(4)特開平6−192850号、(5)特開平6−93461号、および(6)特開平5−287548号等に開示されている。
【0006】
前記従来技術(1)および(2)は、クロメート成分と、ノニオン性活性剤により乳化されたアクリル樹脂とを主成分とする樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものであるが、この組成物の単一液でのポットライフは十分なものでなく、かつ金属材料表面上に得られる皮膜の性能において、その耐食性は優れているが、上塗り塗装性が劣るという問題点を有している。さらに、本発明者らが確認したところでは、従来技術(1)および(2)に開示されたノニオン系の界面活性剤を使用したとき、これにシリカを配合すると、組成物の凝集が起こり増粘または沈澱物が生ずるという欠点があることが確認された。
【0007】
前記従来技術(3)および(4)は、クロメート成分と、ウレタン樹脂と、ノニオン界面活性剤を主成分とするクロメート処理液に関するものであるが、この処理液により得られる皮膜の性能において、前記従来技術(1)および(2)と同様に上塗り塗装性が劣り、かつ単一液におけるポットライフは十分なものではない。さらに、それとシリカとの混和安定性も劣っていた。
【0008】
前記従来技術(5)には、シリカを含むクロメート成分と、潤滑剤粒子とを主成分として含む鋼板用クロメート処理組成物が開示されているが、その上塗り塗装性が著しく劣るという問題点を有している。
【0009】
前記従来技術(6)は、クロメート成分と、アニオン乳化剤を用いて重合された水性樹脂と、水溶性高分子ポリオールとを主成分とする難溶性クロメート処理に関するものである。この水性樹脂は、実質的にノニオン乳化剤を含まないために、クロムイオンの酸化力に対するエマルジョンの安定性が不良であるため、ポットライフが不十分である。また、皮膜化するときの6価クロムイオンの還元が不十分なために、皮膜からのクロムの溶出率が大きいという欠点を有する。このような欠点に対する対策として、ノボラック型フェノール樹脂を骨格とする多官能ポリオール化合物にグリコール類を付加した樹脂を用いて、6価クロムイオンの還元を促進させている。本発明者等は、このような組成物では、水性樹脂のエマルジョンの安定化が不十分であり、かつ処理液中で還元反応が進行するためにポットライフは逆に低下することを確認している。従って、現状では処理液安定性が良好で、かつ従来の2工程処理により形成された皮膜の耐食性および上塗り塗装性(塗膜密着性)に匹敵する性能を示し、かつクロム溶出率が小さい皮膜を、単一工程で形成し得るような水性処理組成物は未だ開発されていないのである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決し、従来技術において、耐食性向上のために必要とされていたクロメート下地処理工程と、耐食性と上塗り塗装性とを向上させるための有機樹脂被覆工程との2工程で達成されていた皮膜性能を、単一工程処理で達成しようとするものである。即ち、本発明は処理液安定性が良好で、2工程の処理で形成される従来技術の皮膜と同等の優れた耐食性と上塗り塗装性とを有し、かつクロム溶出率が小さい皮膜を単一工程で形成させることができる金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記問題点を解決するための手段について鋭意検討した結果、6価クロムイオンおよび3価クロムイオンを主成分とするクロメート液と水分散性樹脂エマルジョンとの混合系に特定複合構造を有する界面活性剤を含有させることにより、前記問題点を解決できる事を見い出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、下記成分(1)および(2):
(1)6価クロムイオン(Cr6+)および3価クロムイオン(Cr3+)とを、それらの重量比Cr3+/Cr6+が2/8〜7/3になるように含むクロメート成分を含有する無機成分、および
(2)(A)少なくとも1種の高分子化合物を含む樹脂と、および
(B)ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分、およびアニオン部分を含む複合親水性グループを有するノニオン−アニオン複合界面活性剤と、
を含む有機成分、
を含む水性組成物であって、
(i)前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の前記全有機成分(2)に対する固形分重量比(B)/(2)が5/100〜25/100であり、
(ii)前記全有機成分(2)の前記6価クロム(Cr6+)に対する重量比(2)/(Cr6+)が2〜800であり、かつ
(iii )3以下のpHを有する、
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記無機成分(1)がさらに、
(i)シリカゾル、コロイダルシリカ、およびフュームドシリカ、
(ii)りん酸イオン、並びに
(iii )亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオンからなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記有機成分(2)がさらに、ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員からなる親水性ノニオン部分を有するノニオン界面活性剤(C)を含み、
前記ノニオン界面活性剤(C)の、前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)に対する重量比(C)/(B)が、2以下であり、
前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)および前記ノニオン界面活性剤(C)の合計固形分重量の、全有機成分の固形分重量に対する比{(B)+(C)}/(2)が5/100〜25/100であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)が、前記ノニオン部分およびアニオン部分に加えて、1分子当り少なくとも1個の炭素二重結合(C=C)を有する反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)であることが好ましい。
【0016】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記樹脂(A)が、前記反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)により乳化重合されていてもよい。
【0017】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記有機成分(2)が、さらに、50〜160℃の軟化点を有する有機ワックス(D)を含み、
前記有機ワックス(D)が0.1〜5μmの平均粒径を有する微粒子に分割されており、
前記有機ワックス(D)の前記樹脂(A)に対する固形分重量比が2/98〜30/70であるものであってもよい。
【0018】
【作用】
下記に本発明の構成を詳述する。
本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物は、すべての金属材料に適用できる。特に工業的に有用な金属材料としては、冷延鋼板および熱延鋼板等の鉄鋼材、および亜鉛、ニッケル、マンガン、鉄、錫、鉛およびアルミニウム、並びにこれらの2種以上の合金から選ばれた金属が溶融法、電気法、蒸着法によって被覆されているめっき鋼板、またはめっき鋼管等のめっき鋼材、アルミニウム、マグネシウム、チタン等の軽金属合金材料、ステンレス鋼材料および銅合金材料などがあるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明における金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、金属材料に樹脂処理およびクロメート処理を単一工程で施すための水性組成物であって、樹脂を主成分とし、さらにノニオン部分とアニオン部分とを有する特定の界面活性剤を含有する有機成分と、並びに無機成分(6価クロムイオンおよび3価クロムイオンを含有するクロメート成分)とを含有する水性液から構成されるものである。
【0020】
まず、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に含まれる無機クロメート成分について説明する。無機クロメート成分は、6価クロムイオン(Cr6+)と3価クロムイオン(Cr3+)とを含有し、かつCr3+/Cr6+の重量比が2/8〜7/3であることが必要である。この比が2/8未満では、形成される皮膜中の6価クロムの含有率が過度に高まる為、得られる皮膜の耐水性が不十分になりクロム溶出率が大きくなる。また、それが7/3を超過すると形成される皮膜中の6価クロムの含有率が過度に低くなるため、得られる皮膜の耐食性が不十分となる。
【0021】
本発明の水性処理組成物におけるクロメート成分の濃度としては、全クロムイオン(Cr6++Cr3+)濃度が40g/リットル以下であることが好ましい。全クロムイオンの濃度が、40g/リットルを超える場合には、クロムの酸化力が大きくなりすぎて、水性処理組成物のポットライフが実用に値しないレベルまで低下するので好ましくない。尚、水性処理組成物のポットライフが実用的であると判断する基準としては、密閉ポリ容器に処理組成物を満たし、50℃で経時させた時、少なくとも5日間は、当該水性処理組成物液中に沈澱物または浮遊物が発生せず、そのまゝ金属表面に塗布できるレベルとする。
【0022】
本発明の水性組成物に含まれる6価クロムイオンの供給源には特に制限はないが、例えばクロム酸、重クロム酸、及びこれらの塩類などを使用できる。同様に、3価クロムイオンの供給源としては、硝酸クロム、りん酸クロム、フッ化クロム、クロム酸の還元物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0023】
さらに高度の耐食性を有する皮膜を形成するために、一般にクロメート皮膜中または樹脂皮膜中にシリカを含有させることが知られている。本発明の場合も、シリカを添加することが好ましい。しかし、従来技術では、クロメートと樹脂エマルジョンの混合系で、シリカを長期間安定して含有させることはできなかった。しかしながら、本発明においては、後述するように、ノニオン部分とアニオン部分とを有する複合親水性グループを有する界面活性剤を使用することにより、シリカを安定に含有することができ、かつクロメートの安定性も確保されている。本発明の水性組成物に添加し得るシリカは、コロイダルシリカ、シリカゾル、フュームドシリカから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。上記シリカは、クロメート処理液調製の際に添加されてもよい。尚、シリカを含有させた場合に発生する欠点として、皮膜の電気抵抗が大きくなるために溶接性が低下する場合があるので、用途によってはシリカの配合量を適宜に設定する必要がある。
【0024】
なお、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物から調製された処理液を安定に保つ為には、処理液中に含まれる3価クロムイオンの状態を安定にすることが重要である。そのためには、有機成分を配合した処理液のpHを3.0以下(好ましくは0.8〜3.0)に調節する事が必要である。pHが3を超える場合は、調合後の処理液安定性(ポットライフ)が大幅に低下するので適切でない。無機クロメート成分液中にアルカリ性の樹脂成分エマルジョンを界面活性剤を配合して分散させた場合、得られた組成物のpHが3を超えるときには、pH調整用の酸を添加してもよい。pHを調節するために使用する酸の種類には特に制限はない。本発明の水性組成物処理液に使用するのに特に好ましいpH調整用の酸を具体的に示すと、りん酸、フッ酸、錯フッ化物、クロム酸、重クロム酸等の無機酸類、ギ酸、酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等の有機カルボン酸類、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等のビニル重合性を有するカルボン酸類の単独重合体、もしくは共重合体等を例示することができる。これらの酸から選ばれた1種以上を使用すると、得られる皮膜の塗装性、耐食性等を阻害しないという利点がある。これらの酸は、無機クロメート成分水溶液中に含まれていてもよいし、或は、組成物調製の際に添加されてもよい。
【0025】
特に好ましいpH調整用酸として、りん酸、フッ酸、および錯フッ化物をあげることができる。特に、りん酸を添加することにより、皮膜の耐食性と耐クロム溶出性が向上する。このとき、りん酸と3価クロムイオンとを、3価クロムイオン/酸の当量比が1/3以上になるように配合することが好ましい。この当量比が1/3未満では、酸の比率が過大となることがあり、このために得られる皮膜の耐水性が低下し、耐食性が劣化する場合がある。
【0026】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物の無機クロメート成分水溶液中に、さらに亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオンから選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有させることが好ましく、それによって耐食性が向上する。
【0027】
次に、有機成分の主成分として含有される樹脂(A)について説明する。本発明で用いられる樹脂の種類には特に限定はないが、汎用の樹脂エマルジョンの場合、その大多数は酸性のクロメート液中に安定に分散させることはできないので、本発明においては、ノニオン部分とアニオン部分とからなる複合親水性グループを有する特定構造の界面活性剤を含有させてこれを安定化させている。樹脂の種類としては、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系等の多種の樹脂を用いることが可能であるが、本発明の目的とする優れた耐食性と塗装密着性とを有する皮膜を形成するためには、従来の2工程処理で高性能を示す実績のある樹脂から選定使用すればよい。
【0028】
前記樹脂エマルジョンは、本発明の水性処理組成物中に樹脂固形分で350g/リットル以下の濃度で配合されることが好ましい。その濃度が350g/リットルを超える場合、得られる処理液の粘度が高く流動性が小さいために、クロムの酸化によるエマルジョン凝集が局部的に加速されてポットライフが低下することがあるので好ましくない。
【0029】
本発明に用いられるノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)は、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、アニオン部分との複合親水性グループを有するものである。界面活性剤(B)は、(B)/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるような添加量で用いられる。この(B)/(2)比が5/100未満の場合は、得られる処理液のポットライフが劣り、またそれが25/100を超える場合は、得られる皮膜の耐食性と上塗り塗装性が劣るので好ましくない。
【0030】
本発明に使用される界面活性剤(B)には、前記親水性グループを有することを除き、他には格別の要件はなく、その任意の1種または2種以上の混合物が使用できる。ノニオン−アニオン複合界面活性剤において、その親水性グループ(ノニオン部分+アニオン部分)が、親油性グループと、エステル結合以外の結合方式で結合していることがより好ましい。
【0031】
本発明に使用されるノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の例としては、例えば下記のノニオン性界面活性剤に硫酸、りん酸、炭酸などの親水性の酸を付加結合させたもの、およびそれらの塩が挙げられる。
【0032】
即ち、本発明のノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の原料となるノニオン性界面活性化合物としては、(1)高級脂肪族アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価脂肪族アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、および、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型化合物、グリセロール脂肪酸エステル型化合物、ペンタエリスリトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル型化合物、多価アルコールのアルキルエーテル型化合物、並びにアルカノールアミン類の脂肪酸アミド型化合物などの芳香族核を有しないノニオン化合物群、(2)フェノール類、アルキル化フェノール類、スチレン化フェノール類のエチレンオキサイド付加物、ナフタレン類、アントラセン類等のような多核芳香族グループを有するノニオン化合物群、(3)スチレン化フェノール類、ポリビニルフェノール類、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類との縮合物等のような単核芳香族化合物、およびこれらを付加、縮合、又は重合することにより得られるベンゼン核を複数有する化合物、ナフタレン類、ビスフェノール類等のような多核芳香族化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類との縮合重合により得られ、複数のベンゼン核を有するノニオン化合物及びこれらの複合グループを有するノニオン化合物などのようないろいろな形のものが挙げられる。
【0033】
これらのノニオン性界面活性化合物の中でも、特に高級アルコール類、アルキル化フェノール類およびスチレン化フェノール類のエチレンオキサイド付加物を用いるのが好ましい。上記のようなノニオン性界面活性化合物に、硫酸、りん酸または炭酸などの親水性の酸を付加反応させて、アニオン部分となる硫酸エステル(−OSO3 H)基、スルホン酸(−SO3 H)基、りん酸エステル(−OPO3 H)基、カルボン酸(−COOH)基あるいはこれらの塩からなる基を付加することにより、本発明に有用なノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)が得られる。
【0034】
これらの中で、より好ましい界面活性剤は、炭素間二重結合(C=C)と、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合体からなる基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、およびアニオン部分との複合親水性グループとを有する反応性の界面活性剤(B−a)である。この界面活性剤(B−a)を用いた組成物を塗布すると、耐食性および上塗り塗装性が優れた皮膜を形成でき、かつ本発明の樹脂含有クロメート処理水系組成物のポットライフを長くすることができる。このような反応性の界面活性剤としては、アクリル樹脂などの乳化重合用に市販されている反応性乳化剤を用いることができる。本発明の水性組成物の界面活性剤(B)は、前述のように、界面活性剤(B)単独で配合されてもよいし、樹脂の乳化重合に使用され、そのまゝ本発明の組成物中に含まれていてもよく、或はこれらの混合形態で使用されていてもよい。本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物の中に、前記反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合された水分散性樹脂エマルジョンが含有されることが特に好ましい。本発明の水性組成物で、自己乳化タイプの樹脂エマルジョンに界面活性剤(B)を添加する場合と比較すると、該反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合された水分散性樹脂エマルジョンの方が得られる水性組成物のポットライフが長く、かつ得られる皮膜は優れた耐食性および上塗り密着性を示す。
【0035】
反応性の界面活性剤(B−a)の例としては、アルキル化フェノールのエチレンオキサイド付加物に硫酸を付加させて得られた骨格構造に、−CH=CHCH3 基または−CH2 OCH2 CH=CH2 基等の二重結合を有する基を付加したもの、あるいはそのアンモニア中和塩が挙げられる。また、アクリル酸またはメタクリル酸モノマーとポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールとのエステル化物、またはスチレンモノマー等の二重結合を有する骨格に、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドを付加重合させて形成された基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分に、りん酸又は硫酸により形成されたアニオン部分とを付加したものが挙げられる。樹脂の乳化重合に使用される反応性乳化剤(B−a)に耐酸性に優れたアニオン部分のみを有し、しかしノニオン部分を有していないアニオン界面活性剤を併用することもできる。
【0036】
本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物には、さらに、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分を有するノニオン性の界面活性剤(C)を、(C)/(B)の重量比が2以下、かつ{(B)+(C)}/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるように含有させることができる。このようなノニオン性の界面活性剤(C)は、前記例示のノニオン性界面活性化合物の中から選ばれる1種または2種以上が使用できる。ノニオン性の界面活性剤(C)とノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)とを、(C)/(B)の重量比が2以下になるように併用した場合、界面活性剤が吸着した樹脂粒子の最外層にはアニオン性の基が配位するため、得られる皮膜の上塗り塗装性は低下せず、またシリカを配合したときの混和安定性も良好に維持される。また、ノニオン性界面活性剤(C)を併用することにより皮膜からのクロム溶出率は小さくなる。(C)/(B)の重量比が2を超える場合、得られる皮膜の上塗り塗装性能は低下し、さらにシリカの混和安定性も低下するので好ましくない。
【0037】
本発明の組成物の成分を配合する手法には、特に制限はないが、好ましい手段として、予め水分散樹脂エマルジョンと界面活性剤とを十分に攪拌混合した後に、これに無機クロメート成分液を混合する方法がある。水分散樹脂エマルジョンと界面活性剤との混合比率は、界面活性剤((B)又は(B)+(C))/全有機成分(2)の重量比で5/100〜25/100である必要がある。この比が5/100未満であると、樹脂成分と無機クロメート成分との混和安定性が不十分になることがあるため好ましくない。一方、それが25/100を超えると、得られる皮膜の耐水性が劣り、上塗り塗装性(特に二次密着性)を低下させることがあるから好ましくない。この混合比率は、樹脂の乳化重合で反応性乳化剤が使用される場合、および後述のような有機ワックスを配合する場合も同じである。
【0038】
本発明で得られる皮膜の潤滑性を向上させるために、有機成分中にさらに軟化点が50〜160℃で平均粒径が0.1〜5μmの有機ワックス(D)を含有させることができる。有機ワックス(D)の配合量は、目的の潤滑性が達成されるように、適宜に設定すればよい。有機ワックス(D)/樹脂(A)の固形分重量比は、2/98〜30/70であることが好ましい。この重量比が2/98未満の場合は得られる組成物の潤滑性が不十分であり、またそれが30/70を超える場合にはワックス成分のバインダーとなる樹脂成分が不足するために得られる皮膜の素材表面に対する密着性が劣り、耐食性、上塗り塗装性および潤滑性が低下することがあるから好ましくない。
【0039】
有機ワックス(D)が無機クロメート成分(1)と混合される場合は、樹脂成分(A)と同様に界面活性剤で分散安定性を確保することが必要である。この界面活性剤の種類は、樹脂成分の場合と同様に界面活性剤(B)であることが好ましい。その配合量は、界面活性剤(B)/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるように設定されることが好ましい。この場合の全有機成分(2)とは、樹脂粒子(A)と有機ワックス(D)と界面活性剤(B)と、必要により界面活性剤(C)を含むものである。
【0040】
本発明で使用する有機ワックス(D)の種類には、特に制限はないが、好ましいものの具体例をあげると、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の石油ワックスである。中でもJIS K 2531で規定される軟化点が50〜160℃のワックスを用いることが好ましい。軟化点が50℃未満のワックスでは得られる組成物の潤滑性が不十分になることがある。また160℃超の軟化点を有するワックスでも、同様に潤滑性が不十分になることがある。有機ワックスの平均粒径は、0.1〜5μmが好ましい。0.1μm未満の場合、および5μmを超える場合には、潤滑性が不十分になることがある。つまり、適切な軟化点と粒径を有する有機ワックスを皮膜に含有させることが重要なのである。
【0041】
無機成分である上記クロメート成分(1)と、有機成分である樹脂(A)と界面活性剤(B)との配合割合において、(全有機成分(2))/(Cr6+)が2〜800であることが好ましい。この比が2未満の場合は、水性組成物の安定性が低下することと、皮膜中のクロメート成分の割合が高くなって界面活性剤によるクロムの還元効果が小さくなるために皮膜からのクロム溶出率が大きくなることがある。また、この比が800を超える場合は、皮膜中に含まれるクロムの量が少なすぎて耐食性が低下することがある。
【0042】
次に、本発明の、樹脂含有クロメート皮膜形成方法について説明する。この処理方法においては、処理液のpHを3.0以下に調整しこれを金属材料表面に塗布し、乾燥する。これら塗布および乾燥方法に制限はなく、通常知られている方法、例えば浸漬、シャワー等の方法により処理液塗布層を形成し、このとき、エアーブロー、またはロール等により処理液塗布量を適宜に調節してもよく、又はロールコート法、スプレーコート法など任意の方法で所望の塗布量に設定することができる。本発明の方法により形成される皮膜量には制限はないが、金属材料の表面に樹脂を含む有機成分(2)の付着量が0.05〜3g/m2 、クロム付着量(金属クロム換算で)が5〜100mg/m2 の皮膜を形成することが好ましい。3価のクロムイオンと6価クロムイオンとの合計クロム付着量が5mg/m2 未満では、得られる皮膜の耐食性が不十分になることがあり、またそれが100mg/m2 超であっても、得られる皮膜の耐食性能が飽和し、経済的でないことがある。有機成分付着量が0.05g/m2 未満の場合、組成物中に樹脂を配合した効果が小さく、得られる皮膜の耐食性および上塗り塗装性が劣る。またそれが3g/m2 を超える場合は、得られる皮膜の耐食性能が飽和し、経済的でないことがある。
【0043】
又、塗布した後の塗布液乾燥方法にも特に制限はなく、用途、生産性、経済性に応じて、熱風、高周波誘導加熱等の乾燥方法を用いることができる。また、加熱温度、加熱時間についても特に制限はなく、金属材料、用途、生産性、経済性に応じて適宜の乾燥条件を選択できる。
【0044】
次に、本発明の作用効果について説明する。本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物は、無機クロメート成分に由来する3価クロムイオンと、6価クロムイオンとを含み、さらに樹脂成分と、この樹脂成分を無機クロメート成分に対し安定に分散させるための界面活性剤を含有する。この処理液のpHは3.0以下に調整される。
一般に、親水性樹脂粒子は、アニオン性の官能基、または水酸基、ポリエチレングリコール基等の親水基を樹脂骨格中に有することにより自己乳化してエマルジョン化する。または、疎水性樹脂は、界面活性剤で転層乳化してエマルジョン化されるか、または反応性の界面活性剤で乳化重合してエマルジョン化される。ここで、樹脂皮膜が良好な耐水性を持つためには、樹脂骨格中の親水基の量および界面活性剤の親水基の量はできるだけ少ないことが好ましい。このため自己乳化エマルジョンは、通常エマルジョン化するための下限量のアニオン基または親水基を有する骨格となっている。このような自己乳化エマルジョンは酸性液中では凝集しやすい傾向がある。さらに、強酸化性の6価クロムイオンの存在化では、自己乳化するための官能基が酸化され、それによって分散安定性が低下しやすくなる。これらの要因から、3価クロムイオンと6価クロムイオンとを含みpH3以下の処理液に樹脂粒子を安定して分散するためには、界面活性剤を併用することが不可欠である。本発明は、特定のノニオン−アニオン複合界面活性剤を使用することで、優れた耐食性と上塗り塗装性とを有する皮膜が得られ、かつ処理液の優れたポットライフが達成されるのである。
【0045】
本発明の無機クロメート成分の液中で、樹脂エマルジョン粒子を安定な分散状態に保つためには、樹脂粒子の表面に配位させる界面活性剤の種類は、(アニオン成分の分子量)/(界面活性剤の分子量)の比率が高いアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を含有する乳化剤を使用することが効果的である。つまり、樹脂粒子の表面のアニオン基の濃度を高くすること、または親水性のノニオン基で樹脂粒子表面を覆うことで安定性が高くなるのである。本発明の目的である樹脂含有クロメート処理液の優れたポットライフは、この手法で達成される。しかし、耐食性と上塗り塗装性については、これだけでは必ずしも優れた性能を示さない。
【0046】
従来技術のノニオン性界面活性剤を使用した場合、得られる皮膜の上塗り塗装性が劣る。またアニオン基の濃度の高いアニオン性界面活性剤を使用した場合、得られる皮膜の上塗り塗装性は良好になるが耐食性が劣り、かつ皮膜からのクロム溶出性が大きくなるため好ましくない。本発明者らは、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、アニオン部分とからなる複合親水性グループを有する界面活性剤(B)を使用すると、得られる皮膜の上塗り塗装性、耐食性および耐クロム溶出性などにすぐれ、かつ処理液のポットライフが向上することを見だしたのである。つまり、界面活性剤(B)のノニオン部分は酸性液中における樹脂粒子の分散安定性を向上させる作用がある。また皮膜化するときにノニオン部分は6価クロムイオンにより酸化され、その結果、皮膜中の6価クロムは3価クロムに還元されるので、皮膜から溶出するクロム量は低減するのである。本発明の界面活性剤(B)の中で、C=Cの二重結合を有する反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合した樹脂エマルジョンを使用すると、得られる組成物処理液のポットライフが長くなり、かつ得られる皮膜は特に優れた耐食性および上塗り塗装性を示す。
【0047】
得られる皮膜の耐食性をさらに向上させるためには、本発明の組成物にシリカを配合することが効果的であるが、従来のノニオン性界面活性剤の場合にはシリカを凝集沈澱させる作用を有している。しかしシリカはpH3.0未満で弱いながらもアニオン性を示すことが知られており、本発明のアニオン基を有する界面活性剤(B)とは水溶液中で静電気的に反発するため、シリカが凝集沈澱することはない。
得られる皮膜の耐食性をさらに向上させる別の手法として、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオン等の少なくとも1種の金属イオンを含有させることも効果が高い。これらの金属成分はクロム酸イオンと可溶性クロム酸塩を生成して、腐食抑制効果の持続性を向上させるために、皮膜の耐食性がさらに向上すると考えられる。
【0048】
また、本発明の水性組成物に配合できる有機ワックス(D)は、それ自体の摩擦係数が非常に低く、低摩擦材料として広く知られるものであり、前述のアニオン部分とノニオン部分を有する複合界面活性剤(B)によって潤滑剤成分を安定に分散することができ、かつ、6価クロムイオンと3価クロムイオンとを含有するクロメート成分水溶液とも安定に混合することができる。従って得られる処理液の安定性は実用に十分耐え得るものになる。
【0049】
【実施例】
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。下記実施例における処理液調製、供試金属板、および皮膜性能試験方法を下記に示す。
【0050】
1.処理液の調整
(1)無機クロメート成分(1)の水溶液の調製方法
表1に示された組成を有する無機クロメート成分水溶液(1)−(a)は、まず無水クロム酸200gを水700gで溶解し、この水溶液にメタノールを加え、クロム酸を一部還元し6価クロムイオン/3価クロムイオンの重量比を7/3にした後、水を加えて全量が1kgになるように調製した。この液の全クロム濃度は104g/リットルである。また、表1の無機クロメート成分水溶液(1)−(b)〜(1)−(d)を、それぞれ前記クロメート成分水溶液(1)−(a)と同様の手順により表1に示された組成になるように調製した。
【0051】
(2)樹脂(A)の種類を表2に示す。
(3)有機ワックス(D)の種類を表3に示す。
(4)界面活性剤の種類を表4に示す。
(5)樹脂含有水性クロメート処理組成物の調製
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
2.供試金属板
市販の電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)およびアルミニウムめっき鋼板(AS)を供試板として用いた。供試板のサイズは縦300mm、横200mm、厚さ0.8mmのものを用いた。
この金属板を、予め日本パーカライジング株式会社製のアルカリ脱脂剤(商品名:ファインクリーナー4336、濃度=20g/リットル、脱脂剤温度=60℃、脱脂時間=10秒、脱脂方法=スプレー法)で脱脂し、次いで水洗し、水切りした。
【0057】
実施例1〜13および比較例1〜10
実施例1〜13および比較例1〜10の各々において、表1〜4に記載の成分を用いて表5および6に記載の組成を有する処理液を調製し、これを表7に記載の金属板に、バーコーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉中で180℃の温度において、5秒間乾燥して処理板を作製した。処理液の塗布量はバーコーターの種類(No. )により所望値に調整した。乾燥時の処理板到達最適温度は80℃であった。処理板上に形成された皮膜の付着量、組成は表7に記載の通りであった。
得られた処理板に対し、下記の性能試験を行った。
また、各処理液の安定性を下記方法により試験した。
【0058】
皮膜性能試験
(1)耐食性A(平板部)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を、EGは168時間、GIは240時間、GAは120時間、ASは360時間施し、腐食発生面積を目視により評価した。
【0059】
(2)耐食性B(加工部)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、エリクセン試験機で5mm押し出しした後、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験をEG 72時間、GI 72時間、GA 48時間、AS 120時間施し、押し出し部の腐食発生面積を目視により評価した。
【0060】
(3)耐クロム溶出性
前記の条件で作製した各種処理板を、沸騰水中に30分間浸漬した。このときの浸漬前後の処理板のクロム付着量を測定して、下記式によって耐クロム溶出性をクロム溶出率により評価した。
【0061】
(4)潤滑性(成形加工性)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、高速円筒深絞り試験機により、絞り速度=30m/分、ポンチ径=40mmφ、しわ押さえ荷重=2.0Ton の条件で、ブランク径を変えて、破断に至る限界の絞り比(ブランク径/ポンチ径)で評価した。
【0062】
(5)上塗り塗装性
前記の条件で作製した各種処理板に、大日本塗料株式会社製のメラミン・アルキッド塗料(商品名;デリコン#700)を塗膜厚25μmとなるようにバーコートし、140℃で30分焼付け乾燥を行い塗装板を作製した。
上記のように作製した塗装板について、下記の条件にて塗装性能試験を実施した。
【0063】
(5−1)一次密着性
<ゴバン目エリクセン試験>
カッターナイフで塗膜面に1mm角で100個のゴバン目状の切込みを入れたのち、ゴバン目箇所をエリクセン試験機にて5mm押し出し、セロテープ剥離を行った後の塗膜の残存ゴバン目個数で評価した。評価は残存個数の多い程、塗膜密着性が優れていることを示す。
<評価基準>
【0064】
(5−2)二次密着性
塗装板を沸騰水中に2時間浸漬した後、前記一次密着性と同様にゴバン目エリクセン試験を実施した。<評価基準>は(5−1)に同じ。
【0065】
処理液安定性試験
表4に示した、それぞれの処理液を密閉して50℃で5日間静置し、液外観を目視にて評価した。
<評価基準>
優 ◎・・・変化なし
↑ ○・・・処理液の粘度が上昇するが塗布可能
↓ △・・・僅かの沈澱物、浮遊物の発生があるが塗布可能
劣 ×・・・ゲル化、沈澱物が発生して塗布不可能
上記試験結果を表7に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
表7から明らかなように、本発明の樹脂含有クロメート処理水系組成物を用いた実施例1〜13において、形成された皮膜は耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性に対して優れた性能を示していた。かつ、実施例1〜13で用いた処理液は薬剤安定性においても優れていた。なお、潤滑性については、ポリエチレンワックスを更に添加した実施例10〜12において優れた性能を示した。
【0070】
これに対して、本発明の範囲外の処理液を用いた比較例1〜12において、形成された皮膜は、耐食性、クロム溶出性、上塗り塗装性を同時に満足するものは一つもなかった。
例えば、比較例1および2は、クロメート組成による諸性能の差異を確認したものだが、耐食性、耐クロム溶出性、薬剤安定性のいずれかが劣っていた。
比較例3および4は、界面活性剤の量が本発明の請求の範囲外であり、耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性、薬剤安定性のいずれかが劣っていた。
比較例5は、本発明の範囲外の界面活性剤を用いており、上塗り塗装性と薬剤安定性が劣っていた。
比較例6は、全有機成分/Cr6+の固形分比が本発明の請求の範囲以外であり、加工部耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性、薬剤安定性が劣っていた。
比較例7および8は、本発明の請求の範囲以外のpHを有する処理液を用いたものであって、薬剤安定性が大幅に劣っていた。このため供試材表面には塗布しなかった。
比較例9は、本発明の請求の範囲以外の全有機成分/Cr6+の比を有する処理液を用いたもので、皮膜の耐食性が劣っていた。
比較例10は、有機成分を含まない場合で、耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性のすべてが劣っていた。
【0071】
【発明の効果】
上記に説明したように、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、特定のクロメート成分と樹脂成分と界面活性剤成分とを有しているため、優れたポットライフを有し、かつ、従来、クロメート下地処理工程と有機樹脂被覆工程との2工程で達成されていた耐食性、クロム溶出性、上塗り塗装性などの皮膜性能を、単一工程処理で達成することができるものであって、実用上大きな効果を奏するのである。
【産業上の利用分野】
本発明は、金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものである。さらに詳しく述べるならば、本発明は、耐食性および上塗り塗装密着性も優れ、クロム溶出率が小さい皮膜を金属材料表面に形成するのに適し、かつ水性処理液のポットライフが長い、金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、冷延鋼板、亜鉛系めっき鋼板、およびアルミニウム合金板等の金属材料は、例えば、家電、自動車、建材メーカー等の加工組立メーカーで多用されているが、これらは、それぞれの用途に応じて、プレス、鍛造等の方法で所望の寸法形状に成形加工が施された後に組み立てに供されている。しかしながら、金属素材の種類によっては、成形加工性が不十分なものもあり、この場合には、成形加工の工程で金属材料表面にプレス油に代表される油系潤滑剤、および/又は石灰石鹸等の固体潤滑剤を塗布し、所望の成形加工性を得ている。また、これら成形加工された金属材料は、その組立後に、さらに防錆性、意匠性等の機能を付与するために、表面に残存している潤滑剤を脱脂工程により除去し、必要に応じてさらにリン酸塩系化成処理等の下地処理を行った後に塗装が行われているのである。
【0003】
尚、成形加工された金属材料に、下地処理を行わないで直ちに塗装を行う場合には、予めリン酸塩系化成処理またはクロメート処理が施された金属材料が使用されている。また、優れた上塗り塗装性を有し、かつ塗装されない部位も高耐食性を有し、一般に耐指紋性鋼板と呼ばれている表面処理鋼板も多用されている。さらに、成形加工の工程で油系の潤滑剤を使用しなくても成形可能で、耐指紋性鋼板と同等の優れた塗装性と耐食性とを有し、潤滑鋼板と呼ばれる表面処理鋼板も近年になって使用され始めている。この潤滑鋼板は、脱脂工程も不要なために、大幅な省プロセス化、トータルコストの低減および作業環境改善などに有効なものである。
【0004】
一般に、前記耐指紋性鋼板および潤滑鋼板としては、亜鉛系めっきの表面にクロメート処理を施した後、有機樹脂を被覆するという2プロセス処理されたものが主流をなしている。近年、さらに表面処理の省プロセス化を図るために、単一プロセスによる樹脂含有クロメート処理技術も実用化されている。また、潤滑鋼板レベルの高度の成形加工性を必要としない成形加工、例えば曲げ加工程度の軽度の成形加工用としては、クロメート皮膜に潤滑剤を含有させて、単一プロセス処理された潤滑性クロメート鋼板と呼ばれる表面処理鋼板も市場に供給されてきた。
【0005】
これらの金属材料用表面処理については、今までに種々の技術が開示されているが、こゝでは、表面処理の省プロセス化を図った単一プロセスによるクロメート処理タイプの従来技術について説明する。このような従来技術は、例えば、(1)特公平7−6070号、(2)特願平2−011747号、(3)特開平5−279867号、(4)特開平6−192850号、(5)特開平6−93461号、および(6)特開平5−287548号等に開示されている。
【0006】
前記従来技術(1)および(2)は、クロメート成分と、ノニオン性活性剤により乳化されたアクリル樹脂とを主成分とする樹脂含有水性クロメート処理組成物に関するものであるが、この組成物の単一液でのポットライフは十分なものでなく、かつ金属材料表面上に得られる皮膜の性能において、その耐食性は優れているが、上塗り塗装性が劣るという問題点を有している。さらに、本発明者らが確認したところでは、従来技術(1)および(2)に開示されたノニオン系の界面活性剤を使用したとき、これにシリカを配合すると、組成物の凝集が起こり増粘または沈澱物が生ずるという欠点があることが確認された。
【0007】
前記従来技術(3)および(4)は、クロメート成分と、ウレタン樹脂と、ノニオン界面活性剤を主成分とするクロメート処理液に関するものであるが、この処理液により得られる皮膜の性能において、前記従来技術(1)および(2)と同様に上塗り塗装性が劣り、かつ単一液におけるポットライフは十分なものではない。さらに、それとシリカとの混和安定性も劣っていた。
【0008】
前記従来技術(5)には、シリカを含むクロメート成分と、潤滑剤粒子とを主成分として含む鋼板用クロメート処理組成物が開示されているが、その上塗り塗装性が著しく劣るという問題点を有している。
【0009】
前記従来技術(6)は、クロメート成分と、アニオン乳化剤を用いて重合された水性樹脂と、水溶性高分子ポリオールとを主成分とする難溶性クロメート処理に関するものである。この水性樹脂は、実質的にノニオン乳化剤を含まないために、クロムイオンの酸化力に対するエマルジョンの安定性が不良であるため、ポットライフが不十分である。また、皮膜化するときの6価クロムイオンの還元が不十分なために、皮膜からのクロムの溶出率が大きいという欠点を有する。このような欠点に対する対策として、ノボラック型フェノール樹脂を骨格とする多官能ポリオール化合物にグリコール類を付加した樹脂を用いて、6価クロムイオンの還元を促進させている。本発明者等は、このような組成物では、水性樹脂のエマルジョンの安定化が不十分であり、かつ処理液中で還元反応が進行するためにポットライフは逆に低下することを確認している。従って、現状では処理液安定性が良好で、かつ従来の2工程処理により形成された皮膜の耐食性および上塗り塗装性(塗膜密着性)に匹敵する性能を示し、かつクロム溶出率が小さい皮膜を、単一工程で形成し得るような水性処理組成物は未だ開発されていないのである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決し、従来技術において、耐食性向上のために必要とされていたクロメート下地処理工程と、耐食性と上塗り塗装性とを向上させるための有機樹脂被覆工程との2工程で達成されていた皮膜性能を、単一工程処理で達成しようとするものである。即ち、本発明は処理液安定性が良好で、2工程の処理で形成される従来技術の皮膜と同等の優れた耐食性と上塗り塗装性とを有し、かつクロム溶出率が小さい皮膜を単一工程で形成させることができる金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記問題点を解決するための手段について鋭意検討した結果、6価クロムイオンおよび3価クロムイオンを主成分とするクロメート液と水分散性樹脂エマルジョンとの混合系に特定複合構造を有する界面活性剤を含有させることにより、前記問題点を解決できる事を見い出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、下記成分(1)および(2):
(1)6価クロムイオン(Cr6+)および3価クロムイオン(Cr3+)とを、それらの重量比Cr3+/Cr6+が2/8〜7/3になるように含むクロメート成分を含有する無機成分、および
(2)(A)少なくとも1種の高分子化合物を含む樹脂と、および
(B)ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分、およびアニオン部分を含む複合親水性グループを有するノニオン−アニオン複合界面活性剤と、
を含む有機成分、
を含む水性組成物であって、
(i)前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の前記全有機成分(2)に対する固形分重量比(B)/(2)が5/100〜25/100であり、
(ii)前記全有機成分(2)の前記6価クロム(Cr6+)に対する重量比(2)/(Cr6+)が2〜800であり、かつ
(iii )3以下のpHを有する、
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記無機成分(1)がさらに、
(i)シリカゾル、コロイダルシリカ、およびフュームドシリカ、
(ii)りん酸イオン、並びに
(iii )亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオンからなる群から選ばれた1種以上を含むことが好ましい。
【0014】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記有機成分(2)がさらに、ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員からなる親水性ノニオン部分を有するノニオン界面活性剤(C)を含み、
前記ノニオン界面活性剤(C)の、前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)に対する重量比(C)/(B)が、2以下であり、
前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)および前記ノニオン界面活性剤(C)の合計固形分重量の、全有機成分の固形分重量に対する比{(B)+(C)}/(2)が5/100〜25/100であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)が、前記ノニオン部分およびアニオン部分に加えて、1分子当り少なくとも1個の炭素二重結合(C=C)を有する反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)であることが好ましい。
【0016】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記樹脂(A)が、前記反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)により乳化重合されていてもよい。
【0017】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物において、前記有機成分(2)が、さらに、50〜160℃の軟化点を有する有機ワックス(D)を含み、
前記有機ワックス(D)が0.1〜5μmの平均粒径を有する微粒子に分割されており、
前記有機ワックス(D)の前記樹脂(A)に対する固形分重量比が2/98〜30/70であるものであってもよい。
【0018】
【作用】
下記に本発明の構成を詳述する。
本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物は、すべての金属材料に適用できる。特に工業的に有用な金属材料としては、冷延鋼板および熱延鋼板等の鉄鋼材、および亜鉛、ニッケル、マンガン、鉄、錫、鉛およびアルミニウム、並びにこれらの2種以上の合金から選ばれた金属が溶融法、電気法、蒸着法によって被覆されているめっき鋼板、またはめっき鋼管等のめっき鋼材、アルミニウム、マグネシウム、チタン等の軽金属合金材料、ステンレス鋼材料および銅合金材料などがあるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明における金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、金属材料に樹脂処理およびクロメート処理を単一工程で施すための水性組成物であって、樹脂を主成分とし、さらにノニオン部分とアニオン部分とを有する特定の界面活性剤を含有する有機成分と、並びに無機成分(6価クロムイオンおよび3価クロムイオンを含有するクロメート成分)とを含有する水性液から構成されるものである。
【0020】
まず、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物に含まれる無機クロメート成分について説明する。無機クロメート成分は、6価クロムイオン(Cr6+)と3価クロムイオン(Cr3+)とを含有し、かつCr3+/Cr6+の重量比が2/8〜7/3であることが必要である。この比が2/8未満では、形成される皮膜中の6価クロムの含有率が過度に高まる為、得られる皮膜の耐水性が不十分になりクロム溶出率が大きくなる。また、それが7/3を超過すると形成される皮膜中の6価クロムの含有率が過度に低くなるため、得られる皮膜の耐食性が不十分となる。
【0021】
本発明の水性処理組成物におけるクロメート成分の濃度としては、全クロムイオン(Cr6++Cr3+)濃度が40g/リットル以下であることが好ましい。全クロムイオンの濃度が、40g/リットルを超える場合には、クロムの酸化力が大きくなりすぎて、水性処理組成物のポットライフが実用に値しないレベルまで低下するので好ましくない。尚、水性処理組成物のポットライフが実用的であると判断する基準としては、密閉ポリ容器に処理組成物を満たし、50℃で経時させた時、少なくとも5日間は、当該水性処理組成物液中に沈澱物または浮遊物が発生せず、そのまゝ金属表面に塗布できるレベルとする。
【0022】
本発明の水性組成物に含まれる6価クロムイオンの供給源には特に制限はないが、例えばクロム酸、重クロム酸、及びこれらの塩類などを使用できる。同様に、3価クロムイオンの供給源としては、硝酸クロム、りん酸クロム、フッ化クロム、クロム酸の還元物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0023】
さらに高度の耐食性を有する皮膜を形成するために、一般にクロメート皮膜中または樹脂皮膜中にシリカを含有させることが知られている。本発明の場合も、シリカを添加することが好ましい。しかし、従来技術では、クロメートと樹脂エマルジョンの混合系で、シリカを長期間安定して含有させることはできなかった。しかしながら、本発明においては、後述するように、ノニオン部分とアニオン部分とを有する複合親水性グループを有する界面活性剤を使用することにより、シリカを安定に含有することができ、かつクロメートの安定性も確保されている。本発明の水性組成物に添加し得るシリカは、コロイダルシリカ、シリカゾル、フュームドシリカから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。上記シリカは、クロメート処理液調製の際に添加されてもよい。尚、シリカを含有させた場合に発生する欠点として、皮膜の電気抵抗が大きくなるために溶接性が低下する場合があるので、用途によってはシリカの配合量を適宜に設定する必要がある。
【0024】
なお、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物から調製された処理液を安定に保つ為には、処理液中に含まれる3価クロムイオンの状態を安定にすることが重要である。そのためには、有機成分を配合した処理液のpHを3.0以下(好ましくは0.8〜3.0)に調節する事が必要である。pHが3を超える場合は、調合後の処理液安定性(ポットライフ)が大幅に低下するので適切でない。無機クロメート成分液中にアルカリ性の樹脂成分エマルジョンを界面活性剤を配合して分散させた場合、得られた組成物のpHが3を超えるときには、pH調整用の酸を添加してもよい。pHを調節するために使用する酸の種類には特に制限はない。本発明の水性組成物処理液に使用するのに特に好ましいpH調整用の酸を具体的に示すと、りん酸、フッ酸、錯フッ化物、クロム酸、重クロム酸等の無機酸類、ギ酸、酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等の有機カルボン酸類、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸等のビニル重合性を有するカルボン酸類の単独重合体、もしくは共重合体等を例示することができる。これらの酸から選ばれた1種以上を使用すると、得られる皮膜の塗装性、耐食性等を阻害しないという利点がある。これらの酸は、無機クロメート成分水溶液中に含まれていてもよいし、或は、組成物調製の際に添加されてもよい。
【0025】
特に好ましいpH調整用酸として、りん酸、フッ酸、および錯フッ化物をあげることができる。特に、りん酸を添加することにより、皮膜の耐食性と耐クロム溶出性が向上する。このとき、りん酸と3価クロムイオンとを、3価クロムイオン/酸の当量比が1/3以上になるように配合することが好ましい。この当量比が1/3未満では、酸の比率が過大となることがあり、このために得られる皮膜の耐水性が低下し、耐食性が劣化する場合がある。
【0026】
本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物の無機クロメート成分水溶液中に、さらに亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオンから選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有させることが好ましく、それによって耐食性が向上する。
【0027】
次に、有機成分の主成分として含有される樹脂(A)について説明する。本発明で用いられる樹脂の種類には特に限定はないが、汎用の樹脂エマルジョンの場合、その大多数は酸性のクロメート液中に安定に分散させることはできないので、本発明においては、ノニオン部分とアニオン部分とからなる複合親水性グループを有する特定構造の界面活性剤を含有させてこれを安定化させている。樹脂の種類としては、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系等の多種の樹脂を用いることが可能であるが、本発明の目的とする優れた耐食性と塗装密着性とを有する皮膜を形成するためには、従来の2工程処理で高性能を示す実績のある樹脂から選定使用すればよい。
【0028】
前記樹脂エマルジョンは、本発明の水性処理組成物中に樹脂固形分で350g/リットル以下の濃度で配合されることが好ましい。その濃度が350g/リットルを超える場合、得られる処理液の粘度が高く流動性が小さいために、クロムの酸化によるエマルジョン凝集が局部的に加速されてポットライフが低下することがあるので好ましくない。
【0029】
本発明に用いられるノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)は、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、アニオン部分との複合親水性グループを有するものである。界面活性剤(B)は、(B)/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるような添加量で用いられる。この(B)/(2)比が5/100未満の場合は、得られる処理液のポットライフが劣り、またそれが25/100を超える場合は、得られる皮膜の耐食性と上塗り塗装性が劣るので好ましくない。
【0030】
本発明に使用される界面活性剤(B)には、前記親水性グループを有することを除き、他には格別の要件はなく、その任意の1種または2種以上の混合物が使用できる。ノニオン−アニオン複合界面活性剤において、その親水性グループ(ノニオン部分+アニオン部分)が、親油性グループと、エステル結合以外の結合方式で結合していることがより好ましい。
【0031】
本発明に使用されるノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の例としては、例えば下記のノニオン性界面活性剤に硫酸、りん酸、炭酸などの親水性の酸を付加結合させたもの、およびそれらの塩が挙げられる。
【0032】
即ち、本発明のノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の原料となるノニオン性界面活性化合物としては、(1)高級脂肪族アルコールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価脂肪族アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、および、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型化合物、グリセロール脂肪酸エステル型化合物、ペンタエリスリトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル型化合物、多価アルコールのアルキルエーテル型化合物、並びにアルカノールアミン類の脂肪酸アミド型化合物などの芳香族核を有しないノニオン化合物群、(2)フェノール類、アルキル化フェノール類、スチレン化フェノール類のエチレンオキサイド付加物、ナフタレン類、アントラセン類等のような多核芳香族グループを有するノニオン化合物群、(3)スチレン化フェノール類、ポリビニルフェノール類、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類との縮合物等のような単核芳香族化合物、およびこれらを付加、縮合、又は重合することにより得られるベンゼン核を複数有する化合物、ナフタレン類、ビスフェノール類等のような多核芳香族化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類との縮合重合により得られ、複数のベンゼン核を有するノニオン化合物及びこれらの複合グループを有するノニオン化合物などのようないろいろな形のものが挙げられる。
【0033】
これらのノニオン性界面活性化合物の中でも、特に高級アルコール類、アルキル化フェノール類およびスチレン化フェノール類のエチレンオキサイド付加物を用いるのが好ましい。上記のようなノニオン性界面活性化合物に、硫酸、りん酸または炭酸などの親水性の酸を付加反応させて、アニオン部分となる硫酸エステル(−OSO3 H)基、スルホン酸(−SO3 H)基、りん酸エステル(−OPO3 H)基、カルボン酸(−COOH)基あるいはこれらの塩からなる基を付加することにより、本発明に有用なノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)が得られる。
【0034】
これらの中で、より好ましい界面活性剤は、炭素間二重結合(C=C)と、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合体からなる基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、およびアニオン部分との複合親水性グループとを有する反応性の界面活性剤(B−a)である。この界面活性剤(B−a)を用いた組成物を塗布すると、耐食性および上塗り塗装性が優れた皮膜を形成でき、かつ本発明の樹脂含有クロメート処理水系組成物のポットライフを長くすることができる。このような反応性の界面活性剤としては、アクリル樹脂などの乳化重合用に市販されている反応性乳化剤を用いることができる。本発明の水性組成物の界面活性剤(B)は、前述のように、界面活性剤(B)単独で配合されてもよいし、樹脂の乳化重合に使用され、そのまゝ本発明の組成物中に含まれていてもよく、或はこれらの混合形態で使用されていてもよい。本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物の中に、前記反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合された水分散性樹脂エマルジョンが含有されることが特に好ましい。本発明の水性組成物で、自己乳化タイプの樹脂エマルジョンに界面活性剤(B)を添加する場合と比較すると、該反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合された水分散性樹脂エマルジョンの方が得られる水性組成物のポットライフが長く、かつ得られる皮膜は優れた耐食性および上塗り密着性を示す。
【0035】
反応性の界面活性剤(B−a)の例としては、アルキル化フェノールのエチレンオキサイド付加物に硫酸を付加させて得られた骨格構造に、−CH=CHCH3 基または−CH2 OCH2 CH=CH2 基等の二重結合を有する基を付加したもの、あるいはそのアンモニア中和塩が挙げられる。また、アクリル酸またはメタクリル酸モノマーとポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールとのエステル化物、またはスチレンモノマー等の二重結合を有する骨格に、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドを付加重合させて形成された基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分に、りん酸又は硫酸により形成されたアニオン部分とを付加したものが挙げられる。樹脂の乳化重合に使用される反応性乳化剤(B−a)に耐酸性に優れたアニオン部分のみを有し、しかしノニオン部分を有していないアニオン界面活性剤を併用することもできる。
【0036】
本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物には、さらに、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分を有するノニオン性の界面活性剤(C)を、(C)/(B)の重量比が2以下、かつ{(B)+(C)}/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるように含有させることができる。このようなノニオン性の界面活性剤(C)は、前記例示のノニオン性界面活性化合物の中から選ばれる1種または2種以上が使用できる。ノニオン性の界面活性剤(C)とノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)とを、(C)/(B)の重量比が2以下になるように併用した場合、界面活性剤が吸着した樹脂粒子の最外層にはアニオン性の基が配位するため、得られる皮膜の上塗り塗装性は低下せず、またシリカを配合したときの混和安定性も良好に維持される。また、ノニオン性界面活性剤(C)を併用することにより皮膜からのクロム溶出率は小さくなる。(C)/(B)の重量比が2を超える場合、得られる皮膜の上塗り塗装性能は低下し、さらにシリカの混和安定性も低下するので好ましくない。
【0037】
本発明の組成物の成分を配合する手法には、特に制限はないが、好ましい手段として、予め水分散樹脂エマルジョンと界面活性剤とを十分に攪拌混合した後に、これに無機クロメート成分液を混合する方法がある。水分散樹脂エマルジョンと界面活性剤との混合比率は、界面活性剤((B)又は(B)+(C))/全有機成分(2)の重量比で5/100〜25/100である必要がある。この比が5/100未満であると、樹脂成分と無機クロメート成分との混和安定性が不十分になることがあるため好ましくない。一方、それが25/100を超えると、得られる皮膜の耐水性が劣り、上塗り塗装性(特に二次密着性)を低下させることがあるから好ましくない。この混合比率は、樹脂の乳化重合で反応性乳化剤が使用される場合、および後述のような有機ワックスを配合する場合も同じである。
【0038】
本発明で得られる皮膜の潤滑性を向上させるために、有機成分中にさらに軟化点が50〜160℃で平均粒径が0.1〜5μmの有機ワックス(D)を含有させることができる。有機ワックス(D)の配合量は、目的の潤滑性が達成されるように、適宜に設定すればよい。有機ワックス(D)/樹脂(A)の固形分重量比は、2/98〜30/70であることが好ましい。この重量比が2/98未満の場合は得られる組成物の潤滑性が不十分であり、またそれが30/70を超える場合にはワックス成分のバインダーとなる樹脂成分が不足するために得られる皮膜の素材表面に対する密着性が劣り、耐食性、上塗り塗装性および潤滑性が低下することがあるから好ましくない。
【0039】
有機ワックス(D)が無機クロメート成分(1)と混合される場合は、樹脂成分(A)と同様に界面活性剤で分散安定性を確保することが必要である。この界面活性剤の種類は、樹脂成分の場合と同様に界面活性剤(B)であることが好ましい。その配合量は、界面活性剤(B)/全有機成分(2)固形分重量比が5/100〜25/100になるように設定されることが好ましい。この場合の全有機成分(2)とは、樹脂粒子(A)と有機ワックス(D)と界面活性剤(B)と、必要により界面活性剤(C)を含むものである。
【0040】
本発明で使用する有機ワックス(D)の種類には、特に制限はないが、好ましいものの具体例をあげると、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の石油ワックスである。中でもJIS K 2531で規定される軟化点が50〜160℃のワックスを用いることが好ましい。軟化点が50℃未満のワックスでは得られる組成物の潤滑性が不十分になることがある。また160℃超の軟化点を有するワックスでも、同様に潤滑性が不十分になることがある。有機ワックスの平均粒径は、0.1〜5μmが好ましい。0.1μm未満の場合、および5μmを超える場合には、潤滑性が不十分になることがある。つまり、適切な軟化点と粒径を有する有機ワックスを皮膜に含有させることが重要なのである。
【0041】
無機成分である上記クロメート成分(1)と、有機成分である樹脂(A)と界面活性剤(B)との配合割合において、(全有機成分(2))/(Cr6+)が2〜800であることが好ましい。この比が2未満の場合は、水性組成物の安定性が低下することと、皮膜中のクロメート成分の割合が高くなって界面活性剤によるクロムの還元効果が小さくなるために皮膜からのクロム溶出率が大きくなることがある。また、この比が800を超える場合は、皮膜中に含まれるクロムの量が少なすぎて耐食性が低下することがある。
【0042】
次に、本発明の、樹脂含有クロメート皮膜形成方法について説明する。この処理方法においては、処理液のpHを3.0以下に調整しこれを金属材料表面に塗布し、乾燥する。これら塗布および乾燥方法に制限はなく、通常知られている方法、例えば浸漬、シャワー等の方法により処理液塗布層を形成し、このとき、エアーブロー、またはロール等により処理液塗布量を適宜に調節してもよく、又はロールコート法、スプレーコート法など任意の方法で所望の塗布量に設定することができる。本発明の方法により形成される皮膜量には制限はないが、金属材料の表面に樹脂を含む有機成分(2)の付着量が0.05〜3g/m2 、クロム付着量(金属クロム換算で)が5〜100mg/m2 の皮膜を形成することが好ましい。3価のクロムイオンと6価クロムイオンとの合計クロム付着量が5mg/m2 未満では、得られる皮膜の耐食性が不十分になることがあり、またそれが100mg/m2 超であっても、得られる皮膜の耐食性能が飽和し、経済的でないことがある。有機成分付着量が0.05g/m2 未満の場合、組成物中に樹脂を配合した効果が小さく、得られる皮膜の耐食性および上塗り塗装性が劣る。またそれが3g/m2 を超える場合は、得られる皮膜の耐食性能が飽和し、経済的でないことがある。
【0043】
又、塗布した後の塗布液乾燥方法にも特に制限はなく、用途、生産性、経済性に応じて、熱風、高周波誘導加熱等の乾燥方法を用いることができる。また、加熱温度、加熱時間についても特に制限はなく、金属材料、用途、生産性、経済性に応じて適宜の乾燥条件を選択できる。
【0044】
次に、本発明の作用効果について説明する。本発明の樹脂含有水性クロメート処理組成物は、無機クロメート成分に由来する3価クロムイオンと、6価クロムイオンとを含み、さらに樹脂成分と、この樹脂成分を無機クロメート成分に対し安定に分散させるための界面活性剤を含有する。この処理液のpHは3.0以下に調整される。
一般に、親水性樹脂粒子は、アニオン性の官能基、または水酸基、ポリエチレングリコール基等の親水基を樹脂骨格中に有することにより自己乳化してエマルジョン化する。または、疎水性樹脂は、界面活性剤で転層乳化してエマルジョン化されるか、または反応性の界面活性剤で乳化重合してエマルジョン化される。ここで、樹脂皮膜が良好な耐水性を持つためには、樹脂骨格中の親水基の量および界面活性剤の親水基の量はできるだけ少ないことが好ましい。このため自己乳化エマルジョンは、通常エマルジョン化するための下限量のアニオン基または親水基を有する骨格となっている。このような自己乳化エマルジョンは酸性液中では凝集しやすい傾向がある。さらに、強酸化性の6価クロムイオンの存在化では、自己乳化するための官能基が酸化され、それによって分散安定性が低下しやすくなる。これらの要因から、3価クロムイオンと6価クロムイオンとを含みpH3以下の処理液に樹脂粒子を安定して分散するためには、界面活性剤を併用することが不可欠である。本発明は、特定のノニオン−アニオン複合界面活性剤を使用することで、優れた耐食性と上塗り塗装性とを有する皮膜が得られ、かつ処理液の優れたポットライフが達成されるのである。
【0045】
本発明の無機クロメート成分の液中で、樹脂エマルジョン粒子を安定な分散状態に保つためには、樹脂粒子の表面に配位させる界面活性剤の種類は、(アニオン成分の分子量)/(界面活性剤の分子量)の比率が高いアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を含有する乳化剤を使用することが効果的である。つまり、樹脂粒子の表面のアニオン基の濃度を高くすること、または親水性のノニオン基で樹脂粒子表面を覆うことで安定性が高くなるのである。本発明の目的である樹脂含有クロメート処理液の優れたポットライフは、この手法で達成される。しかし、耐食性と上塗り塗装性については、これだけでは必ずしも優れた性能を示さない。
【0046】
従来技術のノニオン性界面活性剤を使用した場合、得られる皮膜の上塗り塗装性が劣る。またアニオン基の濃度の高いアニオン性界面活性剤を使用した場合、得られる皮膜の上塗り塗装性は良好になるが耐食性が劣り、かつ皮膜からのクロム溶出性が大きくなるため好ましくない。本発明者らは、ポリエチレングリコール基および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分と、アニオン部分とからなる複合親水性グループを有する界面活性剤(B)を使用すると、得られる皮膜の上塗り塗装性、耐食性および耐クロム溶出性などにすぐれ、かつ処理液のポットライフが向上することを見だしたのである。つまり、界面活性剤(B)のノニオン部分は酸性液中における樹脂粒子の分散安定性を向上させる作用がある。また皮膜化するときにノニオン部分は6価クロムイオンにより酸化され、その結果、皮膜中の6価クロムは3価クロムに還元されるので、皮膜から溶出するクロム量は低減するのである。本発明の界面活性剤(B)の中で、C=Cの二重結合を有する反応性の界面活性剤(B−a)で乳化重合した樹脂エマルジョンを使用すると、得られる組成物処理液のポットライフが長くなり、かつ得られる皮膜は特に優れた耐食性および上塗り塗装性を示す。
【0047】
得られる皮膜の耐食性をさらに向上させるためには、本発明の組成物にシリカを配合することが効果的であるが、従来のノニオン性界面活性剤の場合にはシリカを凝集沈澱させる作用を有している。しかしシリカはpH3.0未満で弱いながらもアニオン性を示すことが知られており、本発明のアニオン基を有する界面活性剤(B)とは水溶液中で静電気的に反発するため、シリカが凝集沈澱することはない。
得られる皮膜の耐食性をさらに向上させる別の手法として、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオン等の少なくとも1種の金属イオンを含有させることも効果が高い。これらの金属成分はクロム酸イオンと可溶性クロム酸塩を生成して、腐食抑制効果の持続性を向上させるために、皮膜の耐食性がさらに向上すると考えられる。
【0048】
また、本発明の水性組成物に配合できる有機ワックス(D)は、それ自体の摩擦係数が非常に低く、低摩擦材料として広く知られるものであり、前述のアニオン部分とノニオン部分を有する複合界面活性剤(B)によって潤滑剤成分を安定に分散することができ、かつ、6価クロムイオンと3価クロムイオンとを含有するクロメート成分水溶液とも安定に混合することができる。従って得られる処理液の安定性は実用に十分耐え得るものになる。
【0049】
【実施例】
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。下記実施例における処理液調製、供試金属板、および皮膜性能試験方法を下記に示す。
【0050】
1.処理液の調整
(1)無機クロメート成分(1)の水溶液の調製方法
表1に示された組成を有する無機クロメート成分水溶液(1)−(a)は、まず無水クロム酸200gを水700gで溶解し、この水溶液にメタノールを加え、クロム酸を一部還元し6価クロムイオン/3価クロムイオンの重量比を7/3にした後、水を加えて全量が1kgになるように調製した。この液の全クロム濃度は104g/リットルである。また、表1の無機クロメート成分水溶液(1)−(b)〜(1)−(d)を、それぞれ前記クロメート成分水溶液(1)−(a)と同様の手順により表1に示された組成になるように調製した。
【0051】
(2)樹脂(A)の種類を表2に示す。
(3)有機ワックス(D)の種類を表3に示す。
(4)界面活性剤の種類を表4に示す。
(5)樹脂含有水性クロメート処理組成物の調製
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
2.供試金属板
市販の電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛メッキ鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(GA)およびアルミニウムめっき鋼板(AS)を供試板として用いた。供試板のサイズは縦300mm、横200mm、厚さ0.8mmのものを用いた。
この金属板を、予め日本パーカライジング株式会社製のアルカリ脱脂剤(商品名:ファインクリーナー4336、濃度=20g/リットル、脱脂剤温度=60℃、脱脂時間=10秒、脱脂方法=スプレー法)で脱脂し、次いで水洗し、水切りした。
【0057】
実施例1〜13および比較例1〜10
実施例1〜13および比較例1〜10の各々において、表1〜4に記載の成分を用いて表5および6に記載の組成を有する処理液を調製し、これを表7に記載の金属板に、バーコーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉中で180℃の温度において、5秒間乾燥して処理板を作製した。処理液の塗布量はバーコーターの種類(No. )により所望値に調整した。乾燥時の処理板到達最適温度は80℃であった。処理板上に形成された皮膜の付着量、組成は表7に記載の通りであった。
得られた処理板に対し、下記の性能試験を行った。
また、各処理液の安定性を下記方法により試験した。
【0058】
皮膜性能試験
(1)耐食性A(平板部)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を、EGは168時間、GIは240時間、GAは120時間、ASは360時間施し、腐食発生面積を目視により評価した。
【0059】
(2)耐食性B(加工部)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、エリクセン試験機で5mm押し出しした後、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験をEG 72時間、GI 72時間、GA 48時間、AS 120時間施し、押し出し部の腐食発生面積を目視により評価した。
【0060】
(3)耐クロム溶出性
前記の条件で作製した各種処理板を、沸騰水中に30分間浸漬した。このときの浸漬前後の処理板のクロム付着量を測定して、下記式によって耐クロム溶出性をクロム溶出率により評価した。
【0061】
(4)潤滑性(成形加工性)
前記の条件で作製した各種処理板を用い、高速円筒深絞り試験機により、絞り速度=30m/分、ポンチ径=40mmφ、しわ押さえ荷重=2.0Ton の条件で、ブランク径を変えて、破断に至る限界の絞り比(ブランク径/ポンチ径)で評価した。
【0062】
(5)上塗り塗装性
前記の条件で作製した各種処理板に、大日本塗料株式会社製のメラミン・アルキッド塗料(商品名;デリコン#700)を塗膜厚25μmとなるようにバーコートし、140℃で30分焼付け乾燥を行い塗装板を作製した。
上記のように作製した塗装板について、下記の条件にて塗装性能試験を実施した。
【0063】
(5−1)一次密着性
<ゴバン目エリクセン試験>
カッターナイフで塗膜面に1mm角で100個のゴバン目状の切込みを入れたのち、ゴバン目箇所をエリクセン試験機にて5mm押し出し、セロテープ剥離を行った後の塗膜の残存ゴバン目個数で評価した。評価は残存個数の多い程、塗膜密着性が優れていることを示す。
<評価基準>
【0064】
(5−2)二次密着性
塗装板を沸騰水中に2時間浸漬した後、前記一次密着性と同様にゴバン目エリクセン試験を実施した。<評価基準>は(5−1)に同じ。
【0065】
処理液安定性試験
表4に示した、それぞれの処理液を密閉して50℃で5日間静置し、液外観を目視にて評価した。
<評価基準>
優 ◎・・・変化なし
↑ ○・・・処理液の粘度が上昇するが塗布可能
↓ △・・・僅かの沈澱物、浮遊物の発生があるが塗布可能
劣 ×・・・ゲル化、沈澱物が発生して塗布不可能
上記試験結果を表7に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
表7から明らかなように、本発明の樹脂含有クロメート処理水系組成物を用いた実施例1〜13において、形成された皮膜は耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性に対して優れた性能を示していた。かつ、実施例1〜13で用いた処理液は薬剤安定性においても優れていた。なお、潤滑性については、ポリエチレンワックスを更に添加した実施例10〜12において優れた性能を示した。
【0070】
これに対して、本発明の範囲外の処理液を用いた比較例1〜12において、形成された皮膜は、耐食性、クロム溶出性、上塗り塗装性を同時に満足するものは一つもなかった。
例えば、比較例1および2は、クロメート組成による諸性能の差異を確認したものだが、耐食性、耐クロム溶出性、薬剤安定性のいずれかが劣っていた。
比較例3および4は、界面活性剤の量が本発明の請求の範囲外であり、耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性、薬剤安定性のいずれかが劣っていた。
比較例5は、本発明の範囲外の界面活性剤を用いており、上塗り塗装性と薬剤安定性が劣っていた。
比較例6は、全有機成分/Cr6+の固形分比が本発明の請求の範囲以外であり、加工部耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性、薬剤安定性が劣っていた。
比較例7および8は、本発明の請求の範囲以外のpHを有する処理液を用いたものであって、薬剤安定性が大幅に劣っていた。このため供試材表面には塗布しなかった。
比較例9は、本発明の請求の範囲以外の全有機成分/Cr6+の比を有する処理液を用いたもので、皮膜の耐食性が劣っていた。
比較例10は、有機成分を含まない場合で、耐食性、耐クロム溶出性、上塗り塗装性のすべてが劣っていた。
【0071】
【発明の効果】
上記に説明したように、本発明の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物は、特定のクロメート成分と樹脂成分と界面活性剤成分とを有しているため、優れたポットライフを有し、かつ、従来、クロメート下地処理工程と有機樹脂被覆工程との2工程で達成されていた耐食性、クロム溶出性、上塗り塗装性などの皮膜性能を、単一工程処理で達成することができるものであって、実用上大きな効果を奏するのである。
Claims (6)
- 下記成分(1)および(2):
(1)6価クロムイオン(Cr6+)および3価クロムイオン(Cr3+)とを、それらの重量比Cr3+/Cr6+が2/8〜7/3になるように含むクロメート成分を含有する無機成分、および
(2)(A)少なくとも1種の高分子化合物を含む樹脂と、および
(B)ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員を含むノニオン部分、およびアニオン部分を含む複合親水性グループを有するノニオン−アニオン複合界面活性剤と、
を含む有機成分、
を含む水性組成物であって、
(i)前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)の前記全有機成分(2)に対する固形分重量比(B)/(2)が5/100〜25/100であり、
(ii)前記全有機成分(2)の前記6価クロム(Cr6+)に対する重量比(2)/(Cr6+)が2〜800であり、かつ
(iii )3以下のpHを有する、
ことを特徴とする金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。 - 前記無機成分(1)がさらに、
(i)シリカゾル、コロイダルシリカ、およびフュームドシリカ、
(ii)りん酸イオン、並びに
(iii )亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、アルミニウムイオン、チタニウムイオン、及びジルコニウムイオン、
からなる群から選ばれた1種以上を含む請求項1に記載の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。 - 前記有機成分(2)がさらに、ポリエチレングリコール基、および2分子以上のエチレンオキサイドの付加重合により形成されたポリエチレンオキサイド基から選ばれた少なくとも1員からなる親水性ノニオン部分を有するノニオン界面活性剤(C)を含み、
前記ノニオン界面活性剤(C)の、前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)に対する重量比(C)/(B)が、2以下であり、
前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)および前記ノニオン界面活性剤(C)の合計固形分重量の、全有機成分の固形分重量に対する比{(B)+(C)}/(2)が5/100〜25/100である、
請求項1に記載の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。 - 前記ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B)が、前記ノニオン部分およびアニオン部分に加えて、1分子当り少なくとも1個の炭素二重結合(C=C)を有する反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)である、請求項1に記載の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。
- 前記樹脂(A)が、前記反応性ノニオン−アニオン複合界面活性剤(B−a)により乳化重合されている、請求項4に記載の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。
- 前記有機成分(2)が、さらに、50〜160℃の軟化点を有する有機ワックス(D)を含み、
前記有機ワックス(D)が0.1〜5μmの平均粒径を有する微粒子に分割されており、
前記有機ワックス(D)の前記樹脂(A)に対する固形分重量比が2/98〜30/70である、請求項1に記載の金属材料用樹脂含有水性クロメート処理組成物。
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