JP3551605B2 - 耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品 - Google Patents

耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐衝撃性に代表される機械特性および成形加工性などの優れた特性を維持しつつ、耐薬品性を改良した耐薬品性熱可塑性樹脂組成物、およびこの組成物からなる耐薬品性、特に薬液と接触した場合に成形品にストレスクラックが発生することのない耐ストレスクラック性に優れた成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジエン系ゴム成分にアクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物成分を共重合したグラフト共重合体を含有してなる、いわゆるABS樹脂は、耐衝撃性、機械的強度、及び成形加工性に優れていることから、汎用樹脂とエンジニアリングプラスチックとの中間的な特性を持つ準エンプラとして、OA機器や家電製品向けの用途に幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、ABS樹脂などに代表されるゴム強化スチレン系樹脂からなる成形品は、他の結晶性高分子やエンジニアリングプラスチックからなる成形品に比較して、耐薬品性に劣ることが知られており、アルコール類、炭化水素類、エステル類などの化学薬品・合成洗剤や、フロン類、ガソリン、灯油、ブレーキオイルおよびポリ塩化ビニル用可塑剤などの薬液類に接触した場合に、クレーズやクラックが発生するため、家電・雑貨分野や自動車分野などの用途における使用が制限されているのが実情である。
【0004】
また、ABS樹脂は、冷蔵庫の内箱やドア部材などの断熱構造体の部品、パチンコの受け皿などの雑貨用途、トイレ・台所などのサニタリー用途に多用されている。そして、断熱構造体において断熱材として使用されている硬質ウレタンフォームの発泡剤は、従来特定のフロン−11が使用されてきたが、オゾン問題から代替フロン−141bあるいはシクロペンタンなどに代替されつつある。しかし、フロン−141bおよびシクロペンタンは、従来のフロン−11に比較してABS樹脂を激しく侵し、応力負荷状態では成形品にクレーズやクラックが発生するという問題があった。
さらに、ABS樹脂からなる成形品を雑貨・サニタリー用途に適用する場合には、部材の洗浄に家庭用あるいは業務用洗剤が使用されており、これらの洗剤類によっても成形品にクレーズやクラックが発生し、商品価値を著しく損なうという問題が生じていた。
【0005】
そして、このような問題点を改良する手段としては、樹脂成形品の表面にメッキや塗装を行うか、あるいはフィルムなどを張り付けて薬液類との接触を防ぐ方法、樹脂の分子量を増加する方法、結晶性樹脂をブレンドする方法、またABS樹脂においてはアクリロニトリルの共重合量を増加する方法やグラフト共重合体のグラフト率を制御する方法などが知られている。
【0006】
しかるに、上記した従来技術は、必ずしも耐薬品性を十分に満足できるものではなく、メッキや塗装、フィルム張り付けなどの方法は、確かに耐薬品性の改良には効果があるものの、加工工程の煩雑化、コストアップおよび経時的劣化面で決して有利とは言えない。
一方、樹脂の分子量を増加する方法は、耐薬品性の効果が小さいばかりでなく、成形時の流動性低下などを招き、成形加工性が著しく損なわれるという欠点を有している。
【0007】
また、耐薬品性に優れるポリブチレンテレフタレート、ポリアミドおよびポリプロピレンなどの結晶性樹脂をブレンドする方法(例えば特開平6−313091号公報および特開平6−329852号公報など)は、これらの結晶性樹脂とABS樹脂との相溶性が不十分であり、機械的特性が満足できなかったり、成形収縮率が大きくなるなどの問題があった。
【0008】
さらに、ABS樹脂のグラフト共重合体のグラフト率を規定する方法(例えば特開平4−258619号公報および特開平5−78428号公報)は、耐薬品性の改良効果が低く、またアクリロニトリルの共重合量を増加する方法(特開平4−126756号公報)は、耐薬品性向上には有効であるが、アクリロニトリル量の増加により、成形加工時の熱着色および流動性の低下などの問題を生じるため、根本的な問題の解決には至っていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
したがって、本発明の目的は、耐衝撃性に代表される機械特性および成形加工性などの優れた特性を維持しつつ、耐薬品性を改良した耐薬品性熱可塑性樹脂組成物、およびこの組成物からなる耐薬品性、特に薬液と接触した場合に成形品にストレスクラックが発生することのない耐ストレスクラック性に優れた成形品を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、ゴム強化スチレン系樹脂にブレンドする重合体成分について鋭意検討した結果、特定のゴム粒子径を有するゴムを用いたゴム強化スチレン系樹脂と、特定の組成および流動性を持つエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体をブレンドすることにより、機械特性および成形加工性などの優れた特性を維持しつつ、耐薬品性が飛躍的に改善されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
【発明が解決するための手段】
すなわち本発明は、重量平均粒子径が0.1〜2.0μmであるジエン系ゴム(A−1)5〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル化合物(イ)45〜85重量%、シアン化ビニル化合物(ロ)15〜55重量%、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)0〜85重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体 (ニ)0〜40重量%からなる単量体混合物(A−2)95〜20重量部をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜80重量部、
芳香族ビニル化合物(イ)45〜85重量%、シアン化ビニル化合物(ロ)15〜55重量%、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)0〜85重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜40重量%からなる単量体混合物を共重合した共重合体(B)0〜90重量部、および
メルトフローレイトが1〜200g/10分であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル含有率が20〜60重量%であるエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)1〜20重量部からなり、
グラフト共重合体(A)、共重合体(B)および共重合体(C)の合計が100重量部であることを特徴とする耐薬品性熱可塑性樹脂組成物、およびこの組成物からなる成形品を提供するものである。
【0012】
そして、本発明の成形品は、23℃、24時間薬液接触後のクラック発生臨界歪みが0.5%以上であり、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル化合物、エーテル化合物およびアルコール化合物などの薬品に対する耐薬品性がきわめて優れることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明におけるジエン系ゴム(A−1)の具体例としては、ポリブタジエンの他、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体およびポリイソプレンゴムなどが挙げられ、なかでもポリブタジエンおよびスチレン−ブタジエン共重合体が耐衝撃性の点で好ましく使用される。
【0014】
本発明における単量体混合物(A−2)および共重合体(B)の単量体混合物中の芳香族ビニル化合物(イ)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を組合わせて用いることができる。なかでもスチレンおよびα−メチルスチレンが成形加工性の面で好ましく使用される。
【0015】
本発明における単量体混合物(A−2)および共重合体(B)の単量体混合物中のシアン化ビニル化合物(ロ)としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、なかでもアクリロニトリルが耐薬品性の面で特に好ましく使用される。
【0016】
本発明における単量体混合物(A−2)および共重合体(B)の単量体混合物中のα,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、 (メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸メチルが好ましく使用される。
【0017】
本発明における単量体混合物(A−2)および共重合体(B)の単量体混合物中のその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)としては、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド化合物、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物、およびアクリルアミドなどの不飽和アミド化合物に代表される共重合可能なビニル化合物などを挙げることができ、これらは1種ないし2種以上を組合わせて用いることができる。
【0018】
本発明におけるグラフト共重合体(A)のジエン系ゴム(A−1)の重量平均粒子径は0.1〜2.0μmであることが必要であり、0.2〜1.5μmの範囲が好ましい。重量平均粒子径が0.1〜2.0μmの範囲外であると、十分な耐薬品性および機械的特性が発現しないため好ましくない。
【0019】
グラフト共重合体(A)中のジエン系ゴム(A−1)の含有量は、5〜80重量部が必要で、好ましくは10〜60重量部である。ジエン系ゴム(A−1)の含有量が5重量部未満では、得られる耐薬品性熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が十分でなく、80重量部を越えると得られる耐薬品性熱可塑性樹脂組成物の成形性が低下するため好ましくない。
【0020】
本発明におけるグラフト共重合体(A)の単量体混合物(A−2)および共重合体(B)中の芳香族ビニル化合物(イ)、シアン化ビニル化合物(ロ)、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)の各組成比は、(イ)が45〜85重量%、好ましくは50〜80重量%、(ロ)が15〜55重量%、好ましくは20〜50重量%、(ハ)が0〜85重量%、好ましくは0〜80重量%、(ニ)が0〜40重量%、好ましく0〜35重量%である。
【0021】
ここで、単量体混合物(A−2)と共重合体(B)の単量体組成は、同一であってもよく、あるいは機械的特性を損なわない範囲で異なっていてもよい。
【0022】
また、単量体混合物(A−2)と共重合体(B)の単量体混合物のなかでも、特にシアン化ビニル化合物(ロ)が重要な単量体であり、単量体混合物(A−2)の合計量100重量%に対して15重量%未満では、薬液と接触した場合、成形品にクレーズやクラックが発生しやすくなるため好ましくない。一方、55重量%を越えると耐薬品性改善効果が次第に小さくなるばかりでなく、成形加工時の熱着色や流動性が著しく低下するなどの欠点を生じることになるため好ましくない。
【0023】
なお、共重合体(A)の製造方法は、乳化重合、懸濁重合および塊状懸濁重合などのいずれの重合方法を用いてもよく、特に制限されない。また、共重合体(B)の製造方法は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、塊状懸濁重合および溶液重合などのいずれの重合方法を用いても良く、特に制限されない。さらに、上記の重合法において、単量体の仕込方法についても特に制限はなく、初期一括仕込みで重合してもよく、あるいは共重合体の組成分布の生成を抑えるために仕込み単量体の一部または全部を連続的または分割して仕込みながら重合してもよい。
【0024】
本発明における共重合体(C)は、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体であり、(メタ)アクリル酸エステルのアクリル基は、直鎖状または分岐状であって、その炭素数は1〜18が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基およびオクチル基などが例示され、なかでも炭素数2〜8のものがより好ましい。
【0025】
また、共重合体(C)の各組成共重合比は、エチレンが40〜80重量%、好ましくは50〜75重量%、(メタ)アクリル酸エステルが20〜60重量%、好ましくは25〜50重量%であり、(メタ)アクリル酸エステルが60重量%を越えると、耐薬品性熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が著しく低下し、20重量%未満では、得られる耐薬品性熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が十分でなく、層状剥離を起こす傾向となるため好ましくない。
【0026】
また、共重合体(C)は、JIS K6730の方法に準じ、190℃、2.16Kgの条件で測定したメルトフローレイトが、1〜200g/10分、好ましくは3〜180g/10分であることが重要であり、メルトフローレイトが1g/10分未満では耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品の耐衝撃性が低下し、200g/10分を越えると引張り降伏強度が低下する傾向となるため好ましくない。
【0027】
本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物における各成分の配合割合は、グラフト共重合体(A)が1〜80重量部、好ましくは5〜70重量部、共重合体(B)が0〜90重量部、好ましくは5〜80重量部、共重合体(C)が1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部からなり、かつグラフト共重合体(A)、共重合体(B)および共重合体(C)の合計が100重量部となることが必要である。
【0028】
グラフト共重合体(A)の配合割合が80重量部を越えると、剛性および流動性が低下し、1重量部未満では、十分な耐衝撃性が発現しないため好ましくない。また、共重合体(B)の配合割合が90重量部を越えると、十分な耐衝撃性が発現しないため好ましくない。さらに、共重合体(C)の配合割合が1重量部未満では、十分な耐薬品性が発現せず、20重量部を越えると、剛性および流動性が低下するばかりか、層状剥離を生じる傾向となるため好ましくない。
【0029】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関して、グラフト共重合体(A)、共重合体(B)および共重合体(C)の配合・溶融押出しについては特に制限はなく、通常公知の方法を採用することができる。すなわち、グラフト共重合体(A)、共重合体(B)および共重合体(C)の配合の際には、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダーおよびヘンシェルミキサーなどを用いることができる。そして、バンバリーミキサー、混合ロール、加圧ニーダーおよび単軸または多軸押出機などの押出機などを使用して溶融混練押出することができる。
【0030】
なお、本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、および各種エラストマー類などを配合することにより、成形用樹脂としての性能をさらに改良することができる。
【0031】
また、本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じてヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類などの可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマーなどの含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモンなどの難燃剤・難燃助剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料などを添加することもできる。
さらに、本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物には、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維および金属繊維などの補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0032】
上記によって得られた耐薬品性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形およびガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、特に制限されるものではない。
かくして成形される本発明の成形品は、その耐薬品性を最大限に発揮させるために、23℃、24時間薬液接触後のクラック発生臨界歪みが0.5%以上、好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.8%以上であることが必要であり、0.5%未満では、耐薬品性の改善効果が小さいため好ましくない。
【0033】
本発明の成形品は、耐薬品性が要求される用途に好ましく用いられる。そして、本発明の成形品は、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル化合物、エーテル化合物およびアルコール化合物などの種々の有機化合物、より具体的には炭素数4〜20の炭化水素、フロン類、ガソリン、灯油、ブレーキオイル、ポリ塩化ビニル用可塑剤(例えばフタル酸ジアルキルエステル、フタル酸アルキルエステル)および非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤などを含有する洗剤などに対して優れた耐薬品性を発揮する。
【0034】
本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、耐衝撃性に代表される機械特性および成形加工性などの優れた特性を維持しつつ、耐薬品性が著しく改良されているため、電気、電子、自動車、機械、雑貨、化学プラント、航空、宇宙用の部品、素材などの用途に広く使用可能であるが、なかでも耐薬品性が要求される用途、例えば電気・電子製品のハウジングおよび冷蔵庫の構造体部品、パチンコの受け皿などの雑貨用途、トイレ・台所などのサニタリー用途および自動車用内外装材などの用途に対し好適に使用できる。
【0035】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例および比較例を挙げて説明するが、これら実施例は本発明を制限するものではない。なお、ここで特にことわりのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を表す。
なお、耐薬品性熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性は、下記に示す分析方法に準じて測定した。また成形品の機械的強度、耐熱性などの一般的な特性については、射出成形によりテストピースを成形し、下記の試験法に準拠し測定した。
【0036】
ゴム粒子径:アルギン酸ナトリウム法
還元粘度:メチルエチルケトン溶液(0.4g/dl)30℃
メルトフローレイト:JIS K6730(190℃、2.16Kg)
引張降伏強度:ASTM D638(23℃)
IZOD衝撃強度:ASTM D256(23℃ 1/2インチノッチ付き)
耐薬品性試験:射出成形した短冊状試験片(126×12.6×1.5mm)を図1に示した1/4楕円治具に沿わして固定後、試験片表面に薬液を塗布し、23℃で24時間放置後、クラックの発生有無を確認し、下記式(1)より臨界歪み(%)を算出した。
【0037】
【数1】
Figure 0003551605
[参考例1] グラフト共重合体(A)A1の製造
窒素置換した反応器に純水120部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部および表1に示した所定量のポリブタジエンラテックスを仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として表1に示した所定量のモノマおよびt−ドデシルメルカプタン混合物を5時間掛けて連続添加した。同時に並行して、表1に示すクメンハイドロパーオキサイドおよびオレイン酸カリウムからなる水溶液を7時間掛けて連続添加し、反応を完結させた。
得られたラテックスに、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)をラテックス固形分100重量部に対して1重量部添加し、続いて、このラテックスを硫酸で凝固後、水酸化ナトリウムにて中和し、洗浄濾過後、乾燥させてパウダー状のグラフト共重合体A1を得た。
【0038】
[参考例2〜6] グラフト共重合体(A)A2〜A6の製造
参考例1と同様の方法で、表1に示す組成比で、グラフト共重合体A2〜A6を得た。
【0039】
[参考例7] 共重合体(B)B1〜B6の製造
表2に示す組成比および重合方法で、表2に示す還元粘度の共重合体B1〜B6を得た。
【0040】
[参考例8] エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)C1〜C5
下記共重合体C1〜C5を準備した。
C1:三井・デュポンポリケミカル社製エチレン/アクリル酸エチル共重合体
“EVAFLEX−EEA”A709
アクリル酸エチル含有率:35%
メルトフローレイト:25g/10分
C2:三井・デュポンポリケミカル社製エチレン/アクリル酸エチル共重合体
“EVAFLEX−EEA”A703
アクリル酸エチル含有率:25%
メルトフローレイト:5g/10分
C3:三井・デュポンポリケミカル社製エチレン/アクリル酸エチル共重合体
“EVAFLEX−EEA”A714
アクリル酸エチル含有率:25%
メルトフローレイト:0.5g/10分
C4:三井・デュポンポリケミカル社製エチレン/アクリル酸エチル共重合体
“EVAFLEX−EEA”A702
アクリル酸エチル含有率:19%
メルトフローレイト:5g/10分
C5:三井・デュポンポリケミカル社製エチレン/アクリル酸エチル共重合体
“EVAFLEX−EEA”A704
アクリル酸エチル含有率:25%
メルトフローレイト:230g/10分
[実施例1〜4] 耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品の製造
参考例記載のグラフト共重合体(A)、共重合体(B)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を、それぞれ表3記載の割合で配合した後、40mmφ単軸押出機(シリンダー設定温度は、230℃)で溶融混練し、ペレット状の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られたペレットを東芝機械(株)製射出成形機IS−50Aを使用してテストピースを成形し、この成形品について諸特性を評価して結果を表3に示した。
【0041】
[比較例1〜10] 耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品の製造
参考例記載のグラフト共重合体(A)、共重合体(B)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)を、それぞれ表3記載の割合で配合した後、40mmφ単軸押出機(シリンダー設定温度は230℃)で溶融混練し、ペレット状の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0042】
得られたペレットを東芝機械(株)製射出成形機IS−50Aを使用してテストピースを成形し、この成形品について諸特性を評価して、結果を表3に併せて示した。
【0043】
【表1】
Figure 0003551605
【表2】
Figure 0003551605
【表3】
Figure 0003551605
実施例1〜4により、本発明で規定した配合割合の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物および成形品が、引張降伏強度、衝撃強度および耐薬品性がともに優れていることが明らかである。
【0044】
しかし、比較例1〜3は、グラフト共重合体(A)、共重合体(B)およびエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の配合割合が、本発明の規定範囲外であるため、比較例1、3は引張降伏強度が低く、比較例2は耐薬品性が劣る。また、比較例4〜10は、グラフト共重合体(A)、共重合体(B)およびエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)の少なくとも1種が、本発明の規定を満たしていないため、比較例4、10は引張降伏強度が低く、比較例5は耐薬品性が劣り、比較例6〜9は衝撃強度が劣る。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物およびその組成物からなる成形品は、特定のゴム粒子径のゴムを使用したゴム強化スチレン系樹脂と、特定の組成および流動性を持つエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体を特定の割合で組合わせたことにより、機械的特性、成形加工性などの優れた諸特性を維持したまま、薬液と接触した場合に成形品にクレーズやクラックが発生することがなく、耐薬品性に極めて優れている。
したがって、本発明の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物およびその組成物からなる成形品は、これらの特徴を生かして、電気冷蔵庫用樹脂材料およびその部品あるいは洗剤に接触する機器用樹脂材料およびその部品などの用途に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例における耐薬品性試験で使用する1/4楕円治具の説明図である。

Claims (6)

  1. 重量平均粒子径が0.1〜2.0μmであるジエン系ゴム(A−1)5〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル化合物(イ)45〜85重量%、シアン化ビニル化合物(ロ)15〜55重量%、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)0〜85重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体 (ニ)0〜40重量%からなる単量体混合物(A−2)95〜20重量部をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(A)1〜80重量部、
    芳香族ビニル化合物(イ)45〜85重量%、シアン化ビニル化合物(ロ)15〜55重量%、α,β−不飽和カルボン酸エステル化合物(ハ)0〜85重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜40重量%からなる単量体混合物を共重合した共重合体(B)0〜90重量部、および
    メルトフローレイトが1〜200g/10分であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル含有率が20〜60重量%であるエチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)1〜20重量部からなり、
    グラフト共重合体(A)、共重合体(B)および共重合体(C)の合計が100重量部であることを特徴とする耐薬品性熱可塑性樹脂組成物。
  2. エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体(C)がエチレン/アクリル酸エチル共重合体であることを特徴とする請求項1記載の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物。
  3. 請求項1または2記載の耐薬品性熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
  4. 23℃、24時間薬液接触後のクラック発生臨界歪みが0.5%以上であることを特徴とする請求項3記載の成形品。
  5. 炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル化合物、エーテル化合物およびアルコール化合物から選ばれた少なくとも1種に対し優れた耐薬品性を有する請求項3または4記載の成形品。
  6. 炭素数4〜20の炭化水素、フロン類、ガソリン、灯油、ブレーキオイル、ポリ塩化ビニル用可塑剤および洗剤から選ばれた少なくとも1種に対し優れた耐薬品性を有する請求項3〜5のいずれか1項に記載の成形品。
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