JP3550766B2 - 自律複製配列を有するdna断片、その塩基配列、及びその利用 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有するDNA断片及びそれが導入された環状DNAに関する。
染色体に由来する自律複製配列を有するDNA領域(以下これを「ars(Automonous Replication Sequence)領域」ということがある)とは、染色体の複製開始に必要とされるDNA領域又はその一部のDNA領域を意味するものである。コリネ型細菌染色体に由来するars領域を含むDNA断片を適当な薬剤耐性マーカーとなりうるベクターと連結することにより、コリネ型細菌内で1〜2コピーの低コピー数で存在し、自律複製可能な環状DNAを造成することができる。この低コピー数ベクターは、高発現化により細胞に悪影響を与える遺伝子のクローニング等に有効である。
【0002】
【従来の技術】
微生物由来の自律複製配列を有する配列を含む領域であるars領域は、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli )由来のもの〔プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、74、5458 〜 5462 (1977)参照〕、シュードモナス・プチダ (Pseudomonas putida)由来のもの〔モレキュラー・ジェネラル・ジェネティックス(Mol. Gen. Genet.)、215、381 〜 387 (1979)参照〕、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis )由来のもの〔エンボ・ジャーナル(EMBO J.)、 4、3345〜3350 (1985) 参照〕、マイクロコッカッス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来のもの〔ジーン(Gene)、93、73〜78 (1990) 参照〕、ストレプトミセス・リビダンス(Storeptomyces lividans)由来のもの〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology )、174 、2688〜2693 (1992) 参照〕等がよく研究されている。
【0003】
しかしながら、産業上重要なコリネ型細菌由来のars領域については本発明者らの知る限り、従来の報告例はない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、コリネ型細菌内に低コピー数で存在し自律複製するベクターの造成に利用可能な、コリネ型細菌染色体由来のars領域を含むDNA断片を提供するためになされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有する領域(ars領域)を含むDNA断片、該DNA断片が導入されたコリネ型細菌内で自律複製可能な環状DNA及び該環状DNAベクターで形質転換されたコリネ型細菌を提供するものである。
【0006】
本発明のars領域DNA断片を用いることにより、コリネ型細菌内で自律複製し、低コピー数、すなわち1〜2コピー数で存在しうる環状DNAを造成することができる。この環状DNAベクターは、プラスミドベクター、ファージベクターと同様に遺伝子のクローニング等に有効である。また、特に宿主細胞に悪影響を与える遺伝子のクローニング等に利用可能であると考えられる。
【0007】
以下に、本発明の断片について詳細に説明する。
本発明のars領域を含むDNA断片(以下これを「ars領域DNA断片」ということがある)は、その塩基配列が決定された後においては合成することも可能であるが、通常はコリネ型細菌染色体からクローニングされる。
【0008】
ここで、「コリネ型細菌(Coryneform bacteria )」とはバージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー〔(Bargeys Manual of Determinative Bacteriology) 、8 、599 (1974) 〕に定義されている一群の微生物であり、好気性、グラム陽性、非抗酸性、胞子形成能を有さない桿菌を意味し、その具体例として、例えばブレビバクテリウム・アンモニアゲネス (Brevibacterium ammoniagenes) ATCC 6871、ブレビバクテリウム・デイバリカタム (Brevibacterium divaricatum) ATCC 14020、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム (Brevibacterium lactofermentum) ATCC 13869 、ブレビバクテリウム・リネンス (Brevibacterium linens) ATCC 9174、ブレビバクテリウム・フラバム (Brevibacterium flavum) ATCC 13826 、ブレビバクテリウム・フラバム (Brevibacterium flavum) MJ−233 (FERM BP−1497) 、コリネバクテリウム・グルタミカム (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13032、同ATCC 13060、コリネバクテリウム・リリウム (Corynebacterium lilium) ATCC 15990、コリネバクテリウム・メラセコラ (Corynebacterium melassecola) ATCC 17965 等を挙げることができる。
【0009】
これらコリネ型細菌に属する微生物の中で、ars領域DNA断片の供給源としては、殊にブレビバクテリウム・フラバム (Brevibacterium flavum)MJ−233(FERM BP−1497)およびその由来株が有利に利用される。
本発明のars領域DNA断片は、上記コリネ型細菌染色体上に存在し、コリネ型細菌から抽出した染色体DNA(特開平4−278088、実施例2参照)を鋳型として適当なプライマーを選択して、PCR反応により増幅させることにより、取得することができる。
【0010】
微生物染色体の自律複製配列を有するDNA領域であるars領域は、微生物染色体の複製開始点(oriC)を含み、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli )由来のもの〔プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、74、5458 〜 5462 (1977)参照〕、シュードモナス・プチダ (Pseudomonas putida)由来のもの〔モレキュラー・ジェネラル・ジェネティックス(Mol. Gen. Genet.)、215、381 〜 387 (1979)参照〕、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis )由来のもの〔エンボ・ジャーナル(EMBO J.)、 4、3345〜3350 (1985) 参照〕、マイクロコッカッス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来のもの〔ジーン(Gene)、93、73〜78 (1990) 参照〕等がよく研究されており、塩基配列が決定されている。これら4種の微生物のars領域のDNA塩基配列の解析の結果、ars領域と考えられる領域はrpmH遺伝子とdnaN遺伝子の間に挟まれる形で存在するdnaA遺伝子の近傍に存在することが示されている。そこで、これら4種の微生物のDNA塩基配列より推定されるDnaA、RpmHおよびDnaNタンパク質アミノ酸配列間で保存されている領域、特にDNA塩基配列においても特に保存されている領域を検討し、適当なプライマーを設計し、コリネ型細菌の染色体DNAを鋳型とするPCR法により、ars領域を増幅し、取得することができる。
【0011】
このようにして得られるars領域DNA断片の1つは、前記ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株の染色体DNAを鋳型とし、rpmH遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計されたプライマー、例えば下記RPMH−1及びdnaN遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計されたプライマー、例えば下記DNAN−1の2種のプライマーを用いて、PCR反応により増幅させることによって得られる大きさが約3.5kbのDNA断片(以下これを「C断片」ということがある)をあげることができる。
【0012】
(配列中、RはA又はG、YはC又はT、KはT又はG、SはG又はC、MはC又はA、VはA、G、又はC、BはG、C又はT、NはA、G、C又はTを示す。ここでAはアデニン、Gはグアニン、C はシトシン、Tはチミンを示す。)このars領域DNA断片を、各種の制限酵素で切断した時の認識部位数及び切断断片の大きさを第1表に、その制限酵素切断点地図を図1に示す。
【0013】
【表1】
第1表 大きさが約3.5kbのDNA断片
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
EcoRI 3 1.1、1.0、0.9、0.5
HindIII 4 1.8、1.4、0.16、0.07、0.07
SalI 1 2.3、1.2
【0014】
なお、本明細書において、制限酵素による「認識部位数」は、DNA断片又はプラスミドを、制限酵素の存在下で完全分解し、それらの分解物をそれ自体既知の方法に従い1%アガロースゲル電気泳動および5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、分離可能な断片の数から決定した値を採用した。
【0015】
また、「切断断片の大きさ」及びプラスミドの大きさは、アガロースゲル電気泳動を用いる場合には、エシェリヒア・コリのラムダファージ(λphage)のDNAを制限酵素HindIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一アガロースゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、また、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いる場合には、エシェリヒア・コリのファイ・エックス174ファージ(φx174phage)のDNAを制限酵素HaeIIIで切断して得られる分子量既知のDNA断片の同一ポリアクリルアミドゲル上での泳動距離で描かれる標準線に基づき、切断DNA断片の各DNA断片の大きさを算出する。
【0016】
上記した大きさが約3.5kbの増幅DNA断片は、そのままars領域DNA断片として利用することができるが、更に次に述べる方法により複製に必要なDNA領域に縮小化後に利用することもできる。
すなわち、前記したとおり、ars領域は、dnaA遺伝子の上流及び下流にそれぞれrpmH遺伝子とdnaN遺伝子に挟まれる形で存在しており、dnaA遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計された適当なプライマーと、前記したrpmH遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計された適当なプライマー及びdnaN遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計された適当なプライマーをそれぞれ用いて、前記MJ−233株染色体DNAまたは大きさが約3.5kbの増幅DNA断片を鋳型として、PCR法により、dnaA遺伝子の上流及び下流に存在するoriC領域部分DNA断片を増幅することにより、縮小化されたoriC領域を取得することができる。
【0017】
上記で用いるdnaA遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計された適当なプライマーとしては、例えば、下記DNAA−3及びDNAA−4の2種のプライマーを挙げることができる。
(配列中、Aはアデニン、Gはグアニン、C はシトシン、Tはチミンを示す。)
【0018】
かくして得られる縮小化されたoriC領域の部分DNA断片としては、例えば、上記RPMH−1とDNAA−3の2種のプライマーを用いて増幅される大きさ約1.7kbのDNA断片(以下これを「A断片」ということがある)、このDNA断片を制限酵素SalIで分解して得られる大きさが約1.2kbのDNA断片(以下これを「D断片」ということがある)、上記DNAA−4とDNAN−2の2種のプライマーを用いて増幅される大きさが約1.5kbのDNA断片を挙げることができる。
【0019】
これら大きさが約1.7kb、約1.2kb及び約1.5kbのoriC領域部分DNA断片を各種の制限酵素で切断した時の認識部位数及び切断断片の大きさを第2表〜第4表及び図2〜図3にそれぞれ示す。
【0020】
【表2】
第2表 大きさが約1.7kbのDNA断片
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 0 1.7
EcoRI 2 1.0、1.5、0.2
HindIII 2 1.4、0.2、0.1
SalI 1 1.2、0.5
【0021】
【表3】
第3表 大きさが約1.2kbのDNA断片
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 0 1.2
EcoRI 1 0.7、0.5
HindIII 0 1.2
SalI 0 1.2
【0022】
【表4】
第4表 大きさが約1.5kbのDNA断片
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 1 1.2、0.3
EcoRI 1 0.9、0.6
HindIII 2 1.2、0.2、0.1
PvuII 2 0.7 0.5 0.3
SalI 0 1.5
XhoI 1 0.9、0.6
【0023】
上記DNA断片は、その塩基配列をジデオキシヌクレオチド酵素法(dideoxy chain termination 法)〔Sanger F. et al.、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、74、5463、(1977)〕等により決定することができる。
このようにして決定した上記大きさ約3.5kbのDNA断片(C断片)の配列を後記配列表の配列番号1に示す。この配列中に存在するオープンリーディングフレームから、dnaA遺伝子は、配列中のアミノ酸番号1からアミノ酸番号463までのアミノ酸配列をコードするものであることが明らかとなった。上記の複製開始領域を含むDNA断片は、天然の細菌染色体DNA、例えばコリネ型細菌染色体DNAから分離されたもののみならず、通常用いられるDNA合成装置、例えばベックマン社製システム−1プラス(System−1 Plus)を用いて合成されたものであってもよい。
また、前記の如くブレビバクテリウム・フラバムMJ−233等の細菌染色体から取得される本発明のDNA断片は、コリネ型細菌等の細胞内での複製開始能実質的に損なうことがない限り、塩基配列の一部の塩基が他の塩基と置換されていても、削除されていてもよく、新たに塩基が挿入されていてもよく、あるいは塩基配列の一部が転移されているものであってもよく、さらにそれらの塩基配列にハイブリダイズする塩基配列であってもよく、これらの誘導体のいずれもが、本発明の染色体複製開始領域を含むDNA断片に包含されるものである。
【0024】
上記ars領域DNA断片を用いて環状DNAベクターの構築に用いる場合、dnaA遺伝子の上流及び下流に由来する2種のDNA断片、すなわち上記大きさが約1.7kb又は1.2kbのDNA断片及び大きさが約1.5kbのDNA断片を用いることも可能である。
【0025】
環状DNAベクターの構築に用いられる前記ars領域DNA断片に導入されるマーカーDNA断片としては、コリネ型細菌内でマーカーとして働く遺伝子を含有しているものであれば特に制限はなく、カナマイシン耐性遺伝子を保有するプラスミドpHSG298、pHSG299(宝酒造製)、クロラムフェニコール耐性遺伝子を保有するプラスミドpHSG398、pHSG399(宝酒造製)等が好適に使用される。
【0026】
上記マーカーDNA断片の前記ars領域DNA断片への導入は、例えば、まずプラスミドpHSG298を適当な制限酵素により解裂させ、それに前記したars領域DNA断片を連結酵素処理により結合させることにより行なう。ars領域DNA断片が部分DNA断片である場合は、前記したdnaA遺伝子の上流及び下流に存在するars領域部分DNA断片が導入された各プラスミドからars領域部分DNA断片を切り出すか又はプラスミドを解裂し、連結酵素処理により結合させることにより行なう。
【0027】
このようにして構築される環状DNAベクターとしては、例えば、大きさが2.7kbのプラスミドpHSG298DNA断片にdnaA遺伝子の上流に存在する大きさが1.2kbのDNA断片および、dnaA遺伝子の下流に存在する大きさが1.5kbのDNA断片が挿入された環状DNAベクターpHSG298−oriCを挙げることができる。この環状DNAベクターpHSG298−oriCの構築方法の詳細は後記実施例2で述べる。
【0028】
本発明による環状DNAベクターで形質転換し得る微生物としては、コリネ型細菌、例えばブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233−AB−41(FERMBP−1498)、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233−ABT−11(FERM BP−1500)、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233−ABD−21(FERM BP−1499)等が挙げられる。
【0029】
これらの微生物の他に、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス (Brevibacterium ammoniagenes) ATCC 6871、同 ATCC 13745 、同 ATCC 13746 、ブレビバクテリウム・デイバリカタム (Brevibacterium divaricatum) ATCC 14020、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム (Brevibacterium lactofermentum) ATCC 13869 、コリネバクテリウム・グルタミカム (Corynebacterium glutamicum) ATCC 31831等を宿主微生物として用いることもできる。
【0030】
尚、宿主としてブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株由来の菌株を用いる場合、本菌株が保有するプラスミドpBY502(特開昭63ー36787号公報参照)のため、形質転換が困難である場合があるので、そのような場合には、本菌株よりプラスミドpBY502を除去することが望ましい。そのようなプラスミドpBY502を除去する方法としては、例えば、継代培養を繰り返すことにより自然に欠失させることも可能であるし、人為的に除去することも可能である〔バクテリオロジカル・レビュー(Bact. Rev.) 、36、361 〜405 (1972)参照〕。
【0031】
上記コリネ型細菌、例えば、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233への前記プラスミドの形質転換(前記プラスミドの導入)は、DNA受容菌にパルス波を通電することにより〔Satoh Y. et al. 、ジャーナル・オブ・インダストリアル・マイクロバイオロジー(Journal of Industrial Microbiology) 、5 、159 (1990) 参照〕行なうことができる。
【0032】
かくして得られる形質転換株を選択圧下で培養し、生成するコロニーを取得することにより、本発明の環状DNAベクターで形質転換されたコリネ型細菌を得ることができる。
上記の方法で形質転換して得られる環状DNAベクターを保有するコリネ型細菌としては、例えば、前記プラスミドpHSG298−oriCを保有するブレビバクテリウム・フラバムMJ233−oriC(FERM P−13303)を挙げることができる。
【0033】
本発明の上記コリネ型細菌、例えばブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriC中に存在する環状DNAベクター(pHSG298−oriC)の確認は、例えば、該形質転換株及び比較として親株、例えばブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のDNA抽出液を、常法〔モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning ) 、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕に従いゲノミックスサザンハイブリダイゼーションに供し、ars領域の検出を行うことにより可能である。この時プローブとしては、前期のPCR法により増幅したDNA断片を、ランダムラベルキット(宝酒造より市販)等によりラベルしたものを用いることができる。また、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233−OriCより得られたDNA抽出液、および、比較例として、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のDNA抽出液を鋳型とし、前期4種の微生物のDNA塩基配列より推定されるDnaA、RpmHおよびDnaNタンパク質アミノ酸配列間で保存されている領域、特にDNA塩基配列においても特に保存されている領域をもとに設計したプライマーを用い、前述の方法に従ってPCR反応を行い、得られた反応液をアガロースゲル電気泳動により解析することによりブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriC中に存在する環状DNAベクター(pHSG298−oriC)を確認することができる。
【0034】
【実施例】
以上に本発明を説明してきたが、下記の実施例によりさらに具体的に説明する。
参考例1 ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233由来のdnaA遺伝子断片の一部(dnaA断片)のクローン化
【0035】
(A)ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233の全DNAの抽出
半合成培地A培地〔組成:尿素2g、(NH4)2SO4 7g、K2HPO4 0.5g、KH2PO4 0.5g、MgSO4 0.5g、FeSO4・7H2O6mg、MnSO4・4〜6H2O 6mg、酵母エキス2.5g、カザミノ酸5g、ビオチン200μg、塩酸チアミン200μg、グルコース20g、蒸留水11〕1lに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)を対数増殖期後期まで培養し、菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mlの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl−20mMトリス緩衝液(pH8.0)−1mM EDTA・2Na溶液15mlに懸濁した。次にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mlになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロホルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールをゆっくりと加えた。水層とエタノール層の間に存在するDNAをガラス棒でまきとり、70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mlを加え、4℃で一晩静置し、鋳型DNAとして、PCRに使用した。
【0036】
(B)PCRプライマーの設計
dnaA遺伝子は原核生物では、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli )由来のもの〔プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、74、5458 〜 5462 (1977)参照〕、シュードモナス・プチダ (Pseudomonas putida)由来のもの〔モレキュラー・ジェネラル・ジェネティックス(Mol. Gen. Genet.)、215、381 〜 387 (1979)参照〕、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis )由来のもの〔エンボ・ジャーナル(EMBO J.)、 4、3345〜3350 (1985) 参照〕、マイクロコッカス・ルテウス由来のもの〔ジーン(Gene)、93、73〜78 (1990) 参照〕がよく研究されており、塩基配列が決定されている。これら5種の微生物のdnaA塩基配列より推定されるDnaAタンパク質アミノ酸配列間で保存されている領域、特にDNA塩基配列においても特に保存されている領域を検討し、下記の2つのプライマーを設計し、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製394 DNA/RNAシンセサイザー(synthesizer)を用いて合成した。
【0037】
(配列中、RはA又はG、YはC又はT、MはA、G、C又はTを示し、ここでAはアデニン、Gはグアニン、C はシトシン、Tはチミンを示す。)
【0038】
これら2つのプライマーを用いて上記(A)で調製した染色体を鋳型としてPCRを行うと、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株染色体上のdnaA遺伝子部分の増幅により、約500bpのPCR反応産物が得られると期待される。
【0039】
(C)PCR反応
実際のPCR反応はパーキンエルマーシータス社製のDNAサーマルサイクラーを用いて下記の条件で行った。
反応液:
50mM KCl
10mM Tris−HCl(pH8.4)
1.5mM MgCl2
鋳型DNA 5μl
上記(B)で作製したプライマー 各々0.25μM
dNTPs 各々200μM
TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造) 2.5units
以上を混合し、100μlとした。
PCRサイクル:
デナチュレーション過程:94℃ 60秒
アニーリング過程:37℃ 120秒
エクステンション過程:72℃ 180秒
以上を1サイクルとし、30サイクル行った。
【0040】
(D)反応物の検出
上記(C)で生成した反応液10μlを2%アガロースゲルにより電気泳動を行ったところ約500bpの断片が検出された。
【0041】
(E)増幅断片のクローン化
上記(C)項で得た反応液3μlとPCR産物クローニングベクターpGEM−T(PROMEGAより市販)1μlを混合し、50mMトリス緩衝液(pH7.6)、10mMジチオスレイトール、1mM ATP、10mM MgCl2及びT4 DNAリガーゼ1unitの各成分を添加し(各成分の濃度は最終濃度である)、4℃で15時間反応させ、結合させた。
【0042】
得られたプラスミド混液を用い、塩化カルシウム法〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)、53、159 (1970)〕によりエシェリヒア・コリJM109(宝酒造製)を形質転換し、アンピシリン50mgを含む培地〔トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5g及び寒天16gを蒸留水11に溶解〕に塗抹した。
【0043】
この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、該プラスミドを制限酵素により切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpGEM−Tの長さ3.0kbのDNA断片に加え、長さ約500bpの挿入断片が認められた。
【0044】
(F)増幅断片の塩基配列の決定
参考例1の(E)項で得られた長さが約500bpの増幅断片について、その塩基配列をジデオキシヌクレオチド酵素法(dideozychain termination法)〔Sanger F. et al.、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユー・エス・エー(Proc.Nat .Acad.Sci .USA )、74、5463(1977)〕により決定した。
【0045】
塩基配列決定の結果、該挿入断片はマイクロコッカス・ルテウス由来のdnaA断片の一部(PCRに使用したプライマーによって挟まれる領域)と高いホモロジーを示し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233由来のdnaA断片の一部をクローニングしたことを確認した。
【0046】
実施例1 ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233由来のars領域DNA断片のクローン化
(A)PCRプライマーの設計
微生物染色体の複製に必要とされるDNA領域であるars領域は、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli )由来のもの〔プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、74、5458 〜 5462 (1977)参照〕、シュードモナス・プチダ (Pseudomonas putida)由来のもの〔モレキュラー・ジェネラル・ジェネティックス(Mol. Gen. Genet.)、215、381 〜 387 (1979)参照〕、バチルス・サチルス(Bacillus subtilis )由来のもの〔エンボ・ジャーナル(EMBO J.)、 4、3345〜3350 (1985) 参照〕、マイクロコッカス・ルテウス由来のもの〔ジーン(Gene)、93、73〜78 (1990) 参照〕がよく研究されており塩基配列が決定されている。これら4種の微生物のars領域のDNA塩基配列の解析の結果、ars領域と考えられる領域はrpmH遺伝子とdnaN遺伝子の間に挟まれる形で存在するdnaA遺伝子の近傍に存在することが示されている。そこで、これら4種の微生物のDNA塩基配列より推定されるRpmHおよびDnaNタンパク質アミノ酸配列間で保存されている領域、特にDNA塩基配列においても特に保存されている領域を検討し、rpmH遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計した下記プライマーRPMH−1及びdnaA遺伝子のDNA塩基配列に基づいて設計した下記プライマーDNAN−1の2つのプライマーを設計し、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製394 DNA/RNAシンセサイザー(synthesizer)を用いて合成した。
【0047】
(配列中、RはA又はG、YはC又はT、KはT又はG、SはG又はC、MはC又はA、VはA、G、又はC、BはG、C又はT、NはA、G、C又はTを示す。
【0048】
ここでAはアデニン、Gはグアニン、Cはシトシン、Tはチミンを示す。) なお、RPMH−1の5’末端にはクローニングサイトとして制限酵素BamHI認識部位を、DNAN−1の5’末端にはクローニングサイトとして制限酵素SalI認識部位をを付加した。
【0049】
また、参考例1の(F)で明らかになったdnaA遺伝子のDNA塩基配列をもとに、下記の2つのプライマーを設計し、上記と同様に合成した。
(配列中、Aはアデニン、Gはグアニン、Cはシトシン、Tはチミンを示す。)なお、DNAA−3の5’末端にはクローニングサイトとして制限酵素BamHI認識部位を、DNAA−4の5’末端にはクローニングサイトとして制限酵素SalI認識部位を付加した。
【0050】
これら4つのプライマーを用いて参考例1の(A)で調製した染色体を鋳型としてPCRを行った。プライマーRPMH−1とDNAN−1により全dnaA遺伝子を含むoriC領域全体が、RPMH−1とDNAA−3によりdnaA遺伝子上流領域が、DNAA−4とDNAN−1によりdnaA遺伝子下流領域がPCR反応産物として得られると期待される。
【0051】
(B)PCR反応
参考例の(C)の方法に従いPCR反応を行った。
(C)反応物の検出
上記(B)で生成した反応液10μlを2%アガロースゲルにより電気泳動を行ったところ、プライマーRPMH−1とDNAN−1により約3.5kbのDNA断片(C断片)の増幅が、RPMH−1とDNAA−3により約1.7kbのDNA断片(A断片)の増幅が、DNAA−4とDNAN−1により約1.5kbのDNA断片(B断片)の増幅が検出された。また、プライマーRPMH−1とDNAN−1により増幅した約3.5kbのDNA断片を鋳型としてPCRをおこなった場合、染色体を鋳型として用いた場合と同じように、プライマーRPMH−1とDNAA−3により約1.7kbのDNA断片が、DNAA−4とDNAN−1により約1.5kbのDNA断片が検出された。
【0052】
プライマーRPMH−1とDNAN−1により増幅された大きさが約3.5kbのDNA断片(C断片)、プライマーRPMH−1とDNAA−3により増幅された大きさが約1.7kbのDNA断片(A断片)、このDNA断片を制限酵素SalIにより切断して得られる大きさが約1.2kbのDNA断片(D断片)、プライマーDNAA−4とDNAN−1により増幅された大きさが約1.5kbのDNA断片(B断片)のそれぞれを各種制限酵素で切断して、切断断片の大きさを測定した。その結果は、前記第1表〜第3表に示した通りであった。これらDNA断片の制限酵素切断点地図及び各DNA断片の相互関連を図1〜図3に示す。
【0053】
(D)増幅DNA断片のクローン化
上記(C)項で得られたA断片を制限酵素BamHIで切断したものに、制限酵素BamHIで切断したカナマイシン耐性プラスミドpHSG298を混合し、50mMトリス緩衝液(pH7.6)、10mMジチオスレイトール、1mMATP、10mM MgCl2 及びT4 DNAリガーゼ1unitの各成分を添加し(各成分の濃度は最終濃度である)、4℃で15時間反応させ、結合させた。
【0054】
得られたプラスミド混液を用い、塩化カルシウム法〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)、53、159 (1970)〕によりエシェリヒア・コリJM109(宝酒造製)を形質転換し、カナマイシン50mgを含む培地〔トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5g及び寒天16gを蒸留水11に溶解〕に塗抹した。
【0055】
この培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、該プラスミドを制限酵素により切断し、挿入断片を確認した。この結果、大きさが2.7kbのプラスミドpHSG298のDNA断片に加え、大きさ約1.7kbの挿入DNA断片(A断片)が認められた。このプラスミドをpHSG298−A1と命名した。
【0056】
また、上記(C)項で得られたB断片を、前記の方法に従いpGEM−T(PROMEGAより市販)にクローニングした。得られたプラスミドを制限酵素SalIにより切断し、挿入断片を確認した。この結果、大きさが約3.0kbのプラスミドpGEM−TDNA断片に加え、大きさが約1.5kbの挿入断片(B断片)が認められた。このプラスミドをpGEM−B1と命名した。
【0057】
(E)増幅DNA断片の塩基配列の決定
上記(D)項で得られたプラスミドpHSG298−A1及びpGEM−B1に含まれるA断片およびB断片について、その塩基配列をジデオキシヌクレオチド酵素法(dideozychain termination法)〔Sanger F. et al.、プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユー・エス・エー(Proc.Nat .Acad.Sci .USA )、74、5463(1977)〕により決定した。
【0058】
塩基配列決定の結果、A断片は一方にrpmH遺伝子のN末領域と、他方にマイクロコッカス・ルテウス由来のdnaA遺伝子の一部と高いホモロジーを示し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233由来のdnaA断片の一部及びその上流領域をクローニングしたことを確認した。また、B断片は一方にdnaN遺伝子のN末領域と、他方にマイクロコッカス・ルテウス由来のdnaA遺伝子の一部と高いホモロジーを示し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233由来のdnaA断片の一部及びその下流領域をクローニングしたことを確認した。
【0059】
実施例2 ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233染色体由来の環状DNAベクターの作成
実施例1の(D)項で得られたプラスミドpHSG298−A1をSalIにより切断すると、pHSG298とA断片の一部(大きさが約1.2kbのD断片)を含む4.2kbのDNA断片と、A断片の残りの一部分の約0.5kbのDNA断片とに別れる(図1参照)。この、pHSG298とA断片の一部(D断片)を含む4.2kbのDNA断片と、pGEM−B1をBamHIにより切断することにより得られる1.5kbのB断片を上記の方法によりT4DNAリガーゼを用いて結合した。
【0060】
上記の如く調製されたDNA混液を用い、電気パルス法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)プラスミドpBY502除去株を形質転換し、カナマイシン25μg/ml(最終濃度)を含む前記A寒天培地に塗抹し30℃で2〜3日間培養した。出現したカナマイシン耐性株より、常法によりベクターDNAを抽出し、該ベクターを制限酵素BamHIおよびSalIにより切断し、アガロースゲル電気泳動を用いて調べたところ、大きさが2.7kbのプラスミドpHSG298DNA断片に加え、大きさが約1.2kbのD断片および、大きさが約1.5kbのB断片が認められた。
【0061】
本環状DNAベクターをpHSG298−oriCと命名した。得られた環状DNAベクターを各種制限酵素で切断して、切断断片の大きさを測定した。その結果を下記の第5表に示す。また環状DNAベクターpHSG298−oriCの制限酵素切断点地図を図4に示す。
【0062】
【表5】
第5表
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 2 3.9、1.5
EcoRI 3 3.6、1.3、0.5
HindIII 4 3.6、1.2、0.5、0.1
SalI 2 3.9、1.5
XhoI 1 5.4
【0063】
得られた環状DNAベクターを用いて、電気パルス法によりブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)プラスミドpBY502除去株を形質転換し、カナマイシン25μg/ml(最終濃度)を含む前記A寒天培地に塗抹し30℃で2〜3日間培養したところ、多数の形質転換株が得られ、得られた環状DNAベクターはコリネ型細菌内でars領域DNA断片として複製していることが確認された。
【0064】
なお、環状DNAベクターpHSG298−oriCにより形質転換されたブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriCは、茨城県つくば市東1丁目1番3号の工業技術院生命工学工業技術研究所に、平成4年11月24日付で:微工研菌寄第13303号(FERM P−13303)として寄託されている。
【0065】
実施例3 ブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriC中に存在する環状DNAベクター(pHSG298−oriC)の確認およびコピー数の測定
上記参考例1(A)項の方法に従い、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriCより全DNAを抽出した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriCより得られたDNA抽出溶液、および、比較例として、参考例1(A)項で得られたブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のDNA抽出溶液を、常法に従い〔モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning )、 Cold Spng Harbor Laboratory Press(1989)〕ゲノミックサザンハイブリダイゼーションに供し、ars領域の検出を行った。この時プローブとしては、実施例1の(C)で得られたA断片を、ランダムラベルキット(宝酒造より市販)によりラベルしたものを用いた。
【0066】
この結果、染色体由来と考えられるバンドの他に環状DNAベクター(pHSG298−oriC)由来と考えられるバンドが検出された。両者のバンドの濃さの比較より1細胞当たりの環状DNAベクターのコピー数は、1〜2と考えられた。
【0067】
また、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriCより得られたDNA抽出溶液、および、比較例として、実施例1(A)項で得られたブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のDNA抽出溶液を鋳型とし、実施例1の(A)項で用いたRPMH−1およびDNAN−1をプライマーとして用い、前述の方法に従ってPCR反応を行った。得られた反応液をアガロース電気泳動により解析したところ、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のDNA抽出溶液を鋳型としたPCR反応液からは、約3.5kbのDNA断片のみが検出されるのに対し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233−OriCのDNA抽出溶液を鋳型とした反応液からは、約3.5kbのDNA断片の他に、約2.7kbの環状DNAベクター由来と考えられるDNA断片が検出された。
【0068】
実施例4 ars領域を含むDNA断片の塩基配列の決定
上記実施例1の(C)項で得られたars領域を含む大きさ約3.5kbのDNA断片の塩基配列を下記の操作により決定し、また、このDNA断片上に存在するdnaA遺伝子の存在部位を特定した。
まず、大きさ約3.5kbのDNA断片溶液 14μlを制限酵素Sau3A〓を用いて37℃で1〜5分間処理してDNA断片を部分分解した。次に、クローニングベクターpUC118(宝酒造製)を制限酵素BamH〓で切断した。得られたベクター断片と部分分解DNA断片とを混合し、この混合液にそれぞれ最終濃度が50mM トリス緩衝液(pH7.6),10mM ジオスレイトール、1mM ATP、10mM MgCl2、およびT4 DNAリガーゼ1unitとなるように各成分を添加し、ベクター断片と部分分解DNA断片とを結合させた。
【0069】
上記と同様に大きさ約3.5kbのDNA断片溶液 14μlを制限酵素Taq〓 50unitと5〜8分間反応させて部分分解DNA断片を調製した。 クローニングベクターpUC118を制限酵素Acc〓で切断した後、これを上記と同様にして部分分解DNAと結合させた。
【0070】
得られたプラスミド混液を用い、常法[J. Mol. Biol., 53, 159(1970)参照]によりエシエリヒア・コリJM109株(宝酒造製)を形質転換し、アンピシリンを50μg含む前記のL培地に塗抹した。
上記培地に生育した菌株を常法に従い液体培養し、得られた培養物よりプラスミドDNAを抽出した。抽出したプラスミドDNAを用いて、ベクターpUC118に挿入された部分分解DNA断片の塩基配列をジデオキシヌクレオチド酵素法[dideoxy chain termination method, Sanger, F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463(1977)参照]により決定した。
【0071】
具体的には、上記培養物より抽出したプラスミドDNAをパーキン・エルマー社製カタリスト800モレキュラー・バイオロジー・ラボステーション(CATALYST 800 Moleculer Biology Labostation ; Prkin−Elmer)を用いてプロトコールに従い反応させた後、パーキン・エルマー社製 373A DNAシークエンサーにより各々のプラスミドの挿入DNA断片の塩基配列を決定した。そして、これらの個々の配列の連結は、パーキン・エルマー社製のシークエンス解析ソフト インヘリット(INHERIT)を用いて行い、大きさ約3.5kbのDNA断片の全塩基配列を決定した。その配列を後記配列表の配列番号:1に示す。
決定した塩基配列中にはオープンリーディングフレームの存在が認められ(塩基番号880〜2451;524アミノ酸)、既知のマイクロコッカス・ルテウス由来のdnaA遺伝子〔ジーン(Gene)、93、73〜78 (1990) 参照〕との相同性の比較により、それがブレビバクテリウム・フラバムMJ−233のdnaA遺伝子であることが判明した。さらに、dnaA遺伝子の上流にrpmH遺伝子の一部が(塩基番号32〜9)存在し、dnaA遺伝子の下流にはdnaN遺伝子の一部分(塩基番号2978〜3514)が存在していることが確認された。このことより、ars領域は、dnaA遺伝子およびrpmH遺伝子の間、および、dnaA遺伝子およびdnaN遺伝子の間の領域に存在することが確認された。
【発明の効果】
本発明により、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233染色体に由来するars領域を含むDNA断片が提供される。本発明のDNA断片を用いて造成される環状DNAベクターは、コリネ型細菌内で低コピー数で存在し、自律複製可能であり、該環状DNAベクターを用いることにより、高コピー数存在すると宿主コリネ型細菌に悪影響を与える遺伝子等のクローニングが可能となる。
【0072】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:3521
鎖の数:二本鎖
配列の型:核酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:Genomic DNA
起源
生物名:ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)
株名:MJ−233
配列の特徴:
特徴を表す記号:REP
存在位置:1〜3521
特徴を決定した方法:E
【0073】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の大きさが約3.5kbのDNA断片(C断片)の制限酵素切断点地図並びに該DNA断片と大きさが約1.7kbのDNA断片(A断片)、大きさが約1.2kbのDNA断片(D断片)及び大きさが約1.5kbのDNA断片(B断片)との相互関係を示す図。
【図2】本発明の大きさが約1.7kbのDNA断片(A断片)および大きさが約1.2kbのDNA断片(D断片)の制限酵素切断片地図
【図3】本発明の大きさが約1.5kbのDNA断片(B断片)の制限酵素切断片地図
【図4】本発明のプラスミドpHSG298−oriCの制限酵素切断片地図
Claims (11)
- 大きさが3.5kbであり、下記表に記載する制限酵素で切断した場合、下記表に記載する認識部位数と切断断片の大きさを示す、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有するDNA断片。
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
EcoRI 3 1.1、1.0、0.9、0.5
HindIII 4 1.8、1.4、0.16、0.07、0.07
SalI 1 2.3、1.2 - 大きさが1.7kbであり、下記表に記載する制限酵素で切断した場合、下記表に記載する認識部位数と切断断片の大きさを示す、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有するDNA領域の部分DNA断片。
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 0 1.7
EcoRI 2 1.0、0.8、0.2
HindIII 2 1.4、0.2、0.1
SalI 1 1.2、0.5 - 大きさが1.2kbであり、下記表に記載する制限酵素で切断した場合、下記表に記載する認識部位数と切断断片の大きさを示す、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有するDNA領域の部分DNA断片。
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 0 1.2
EcoRI 1 0.7、0.5
HindIII 0 1.2
SalI 0 1.2 - 大きさが1.5kbであり、下記表に記載する制限酵素で切断した場合、下記表に記載する認識部位数と切断断片の大きさを示す、コリネ型細菌染色体に由来する自律複製配列を有するDNA領域の部分DNA断片。
制限酵素 認識部位数 切断断片の大きさ(kb)
BamHI 1 1.2、0.3
EcoRI 1 0.9、0.6
HindIII 2 1.2、0.2、0.1
PvuII 2 0.7、0.5、0.3
SalI 0 1.5
XhoI 1 0.9,0.6 - 請求項1に記載のDNA断片を保有する、コリネ型細菌内で自律複製可能な環状DNA。
- 請求項2又は3に記載のDNA断片及び請求項4に記載のDNA断片を保有する、コリネ型細菌内で自律複製可能な環状DNA。
- 請求項5又は6に記載の環状DNAにより形質転換されたコリネ型細菌。
- 配列番号1に記載の塩基配列を有するDNA断片。
- 配列番号1に記載の塩基配列において、1から数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列であって、コリネ型細菌内で複製可能な環状DNAとして機能しうるDNA断片。
- 請求項8又は9に記載のDNA断片を保有するコリネ型細菌内で自律複製可能な環状DNA。
- 請求項10に記載の環状DNAにより形質転換されたコリネ型細菌。
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