JP3550649B2 - 極短パルス発生器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般にジョセフソン回路と総称される超伝導回路の出力する高速微小信号を解析するため、当該信号を所定周期で複数回サンプリングし、それに基づき拡大された時間軸上で当該信号を復元、表示する超伝導サンプリング測定回路等に使用され得る極短パルス発生器に関する。
【0002】
【従来の技術】
極低温環境下で動作するジョセフソン接合を用いた超伝導回路の出力信号波形を測定するジョセフソンサンプラは、例えば、
文献1:「電子技術総合研究所彙報,第48巻,第4号,P.340−352」,通産省工業技術院,電子技術総合研究所発行
文献2:特公昭62−45640号
等で公知であるが、その原理的なシステム構成は図5(A) に示すようになっている。
【0003】
被測定回路11がジョセフソン回路系に固有のラッチ動作をするために所定周期でのリセット動作を必要とするか、そうでなくてもクロック同期動作をなす場合には、外部に設けられたクロックパルス発振回路21からの例えば 10KHz程度のクロックパルスCpが被測定回路11に電源電流として供給され、これと同期の関係で測定系を動作させるため、測定系中のパルス発生回路22、トリガーパルス発生回路24、スイッチ回路34等にも電源電流として供給される。
【0004】
しかるに、クロック同期の関係で所定周期でトリガーパルス発生回路24が繰り返し発生するトリガーパルスItu は被測定回路11に与えられ、これに基づき当該被測定回路11がそのたびごとに発生する被測定波形Iuは負荷抵抗Ruを介し、望ましくはジョセフソン単接合で構成されるジョセフソンサンプリングゲートJsに印加される。当該サンプリングゲートJsは、当初は磁束量子干渉デバイス(SQUID)で構成されることがあったが、高速動作性に難点があり、時間分解能を高く取り難いため、最近では専らジョセフソン単接合に代わられている。
【0005】
上記の一方で、トリガーパルス発生回路24の発生するトリガーパルスItu は可変遅延線回路25を介し、可変遅延線制御回路23によりその時々で定められた遅延時間を与えられた遅延駆動パルスItp となってパルス発生回路22に入力し、当該パルス発生回路22を駆動して、そこからパルス幅が極く短いインパルス状のパルスIp(以下、極短パルスIpと呼ぶ)を発生させ、これを負荷抵抗Rpを介し、サンプリングゲートJsに印加する。
【0006】
従って当該サンプリングゲートJsには被測定波形Iuと極短パルスIpとの相乗電流が供給されるが、図5(B) に示すように、例え被測定波形Iuのピーク値に極短パルスIpが重なっても、それら両者の和(Ip+Iu)のみではサンプリングゲートJsの臨界電流値Iso を越えることがないように、それらの電流値を設定する。
【0007】
換言すると、これらの電流値の和(Ip+Iu)に、さらにバイアス電流Isを加えた電流(Ip+Iu+Is)をサンプリングゲートJsに印加した時に、何回かに亙るサンプリングで所定の確率、例えば50%の確率で当該サンプリングゲートが電圧状態に遷移するように(すなわち(Ip+Iu+Is)≧Iso となるように)、当該バイアス電流Isの値を調整、決定すれば、そのバイアス電流Isの値により、極短パルスIpが印加されている瞬時の被測定波形Iuの値を求めることができる。そこで、この操作を、可変遅延線制御回路23の指令により可変遅延線回路25を介し、例えば1ps程度の微小な時間刻みで極短パルスIpの印加タイミングをずらしながら繰返し行えば、被測定波形Iuの全体を高い時間分解能で拡大した時間軸上に復元、表示することができる。
【0008】
ここで、手動でこのような測定操作、特にバイアス電流Isの決定操作を行うのではなく、各サンプル時におけるバイアス電流Isの大きさを最適に制御し、かつ自動化するためには、従来からも図中で一点鎖線で囲って示したようなバイアス電流帰還制御回路30が用いられる。つまり、サンプリングゲートJsに得られる電圧波形Vsを増幅器31により増幅し、この電圧Vsから参照電圧Vrを比較回路32により引き去って、積分回路33により積分する。得られた直流電圧VmをクロックパルスCpに同期したスイッチ34により当該電圧値Vmのパルス波形にし、抵抗Rsを介することでサンプリングゲートJsにバイアス電流Is(=Vm/Rs)を供給する。従って、参照電圧Vrの大きさを調整すると、サンプリングゲートJsが電圧状態になる確率を変えることができるので、このような系において積分回路33の出力電圧Vmに基づきその時々のバイアス電流Isを上述のIs=Vm/Rsから算出して電流軸Yとし、可変遅延線制御回路23からの遅延時間値を時間軸Xとして、適当なる公知表示器26にてプロット表示すれば、目的の被測定波形Iuを拡大された時間字軸上にて復元、表示することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ジョセフソンサンプラの動作原理は上記の通りであるが、図5(A) 中に点線10で囲って示すように、従来、ジョセフソンサンプラの多くの構成要素、特に極短パルスIpの発生回路22、サンプリングゲートJs、バイアス電流帰還制御回路30等は、測定対象である被測定回路11と同じ基板チップ10上に搭載され、そのまま極低温環境下に置かれるようになっていた。というのも、常温で動作する半導体デジタルサンプリング測定回路を用いると、極低温環境下と常温環境下を接続する長い信号ケーブルにより高速信号が劣化し、高精度な波形測定が困難になるからである。
【0010】
しかし、それがために、今度は別な制約が生まれた。それは、被測定回路11がジョセフソンサンプラを構成する各構成要素と同一の作製プロセスにより作製されたものに限られると言うことである。例えばジョセフソンサンプラの構成要素がNbやNbNを電極に用いた超伝導回路である場合、被測定回路11もそうしたNb系材料を用いて構築されたものに限られる。そのため、昨今では多くの研究機関で研究されている酸化物高温超伝導体を電極に用いた回路については測定ができないか、極めて困難だった。
【0011】
また、ジョセフソンサンプラの多くの構成要素を被測定回路11と同じチップ上に構築せねばならないことは、ある意味で無駄でもある。被測定回路の各々に全て、逐一、ジョセフソンサンプラを構築せねばならないからである。
【0012】
図2〜4は被測定回路がストリップ線路である場合のジョセフソンサンプラ測定系が示されている。ただし、図5に即して既に説明した従来の構成に対し、同じで良いか同様の構成要素には同一の符号を付してあり、特に改変を要さないものについては再度の説明は省略する。また、図面を簡明にする意味から、図5に示して説明したクロックパルス発振回路21とそれから周期的な電源電流として与えられるクロックパルスCpは図2〜4中では図示を省略し、図5中のトリガーパルス発生回路24と可変遅延線回路25も図示を省略しており、トリガーパルス発生回路24の発生するトリガーパルスItu と可変遅延線回路25の発生する遅延駆動パルスItp のみを図2〜4の各測定系に印加される信号として示してある。なお、これら図示していないクロックパルス発振回路21、トリガーパルス発生回路24、可変遅延線回路25のどれか、あるいはいくつか、または全ては、要すれば直ぐ後に述べる測定回路チップ40上に搭載しても良いが、通常は常温環境下に置いて良い。
【0013】
さらに、図2〜4のいずれの測定系でも、サンプリングゲートJsとしては既述した理由から望ましい単段ジョセフソンゲートが用いられている。そして、その臨界電流値Iso に対し、被測定回路11から得られる被測定波形の電流値Iuと発生タイミングを微小時間幅でずらして当該被測定波形に重畳させられる極短パルスIpの和は常に Iso>(Iu+Ip)となるように設定され、その上で既述した電流帰還制御回路30により、バイアス電流値Isを制御し、これら三つの電流Iu,Ip,Isが重畳的に印加されるサンプリングゲートJsの状態を観測することでその時々のバイアス電流値Isに基づき被測定波形を拡大した時間軸上で表示する。従って、バイアス電流帰還制御回路30内の構成も図5に示した構成と同様であって良く、外部からの参照電圧Vrも同様にして比較回路32に印加すれば良いし、図示していないが積分回路33の出力に基づき、図示しない表示器(図5中の表示器26)により測定波形を可視表示できる。この表示器26は、人が視認するものである限り、常温環境下に置く。
【0014】
しかるに、まず図2の測定系では、被測定回路11の搭載されている被測定回路チップ50と同じチップの上には、ジョセフソンサンプラにあって極低温環境下におくべき構成要素は搭載されていない。これら極低温環境下に置くべき構成要素、図示の場合は極短パルスIpの発生回路22、後述する被測定波形の元となる波形を発生する被測定パルス波形発生回路61、サンプリングゲートJsとその周辺の抵抗Rs,Rp,Ru、バイアス電流帰還制御回路30は、被測定回路チップ50とは別個独立の測定回路チップ40上に搭載されている。そして、被測定回路11とジョセフソンサンプラとの電気的な接続は、測定回路チップ40上に設けられているボンディングパッド41,・・・・ と、被測定回路チップ50上に設けられているボンディングパッド51,・・・・ とを公知のフリップチップボンディング法に準拠し、例えば半田バンプ42,・・・・ を援用してなすようにしている。
【0015】
そのため、まず言えることは、ジョセフソンサンプラと異なる作製プロセスで作製された被測定回路11であっても、これを測定の対象とし得る。ジョセフソンサンプラがNbないし NbN系材料で作られ、対して被測定回路11が酸化物高温超伝導材料で作製されている場合等も問題ない。また、ボンディングパッド接続部分を取り外して使えば、いくつもの、あるいはまた何種類もの被測定回路に対し、一つのジョセフソンサンプラを流用することができる。
【0016】
さて、図2の回路では、被測定回路11は具体的にはパルス信号を伝送するストリップ線路12となっている。つまり、ここで予定している測定目的は、ストリップ線路12の評価、パルス信号伝搬の観測である。このように、信号線路そのものを評価したいことも実際には良くある。
【0017】
そのため、当該ストリップ線路12に入力する被測定波形の元となるパルス信号は、できるだけ幅の狭い極短パルスの方が望ましいので、図2の場合には、図5に即して説明したトリガーパルスItu の入力を受けて駆動する被測定パルス波形発生回路61を新たに挿入し、この回路61の発する極短パルスIuf を、被測定回路であるストリップ線路12への入力信号波形としている。一方、ジョセフソンゲートJsに重畳される極短パルスIpもまた、既述したように尖鋭なものであることが望ましい。これらパルス発生回路61,22には、できるだけ幅の狭い極短パルスを発生する極短パルス発生器により構成されていることが好ましい。
【0018】
図2中の被測定パルス波形発生回路61の発したパルス信号Iuf は、ボンディング接続部(41,42,51)を介し被測定回路チップ50上の被測定回路11であるストリップ線路12の一端に入力され、ストリップ線路12を経た被測定波形Iuは再びボンディング接続部(51,42,41)を介し測定回路チップ40上に戻り、被測定回路側から見た負荷抵抗Ruを介してサンプリングゲートJsに印加される。その一方で、既に説明したように、遅延駆動パルスItp により駆動されるパルス発生回路22の発する極短パルスIpと、バイアス電流帰還制御回路30の発するバイアス電流IsもサンプリングゲートJsに印加され、既述した手順でサンプリング測定が行われる。
【0019】
しかるに、この図2に示す測定系では、測定回路チップ40上に搭載されている被測定パルス波形発生回路61の発した被測定パルス波形Iuf は、ボンディング接続部(41,42,51)を介し被測定回路11であるストリップ線路12の一端に入力されるだけではなく、被測定回路チップ50上にてその一部が分岐されて、なるべく短い短絡線路52を介した後、再度ボンディング接続部(51,42,41)を経てサンプリングゲートJsに印加されるようになっている。このようにすると、ストリップ線路12における信号伝搬の伝搬速度をも評価できる。
【0020】
また、図示の場合、測定回路チップ40と被測定回路チップ50との間で信号が流れるボンディングパッド対の間には、それぞれ接地路43として示した線路ないしヴィアホールにより図示しないグランドプレーンに接続されたボンディングパッド対が幾何的に介在している。これは、ボンディングパッド接続部におけるインピーダンスを低くするためで、信号の立ち上がりが 100ps程度以下に速まってくると、このようなシールド用のボンディングパッド部分を設けることの効果が大きくなってくる。図示の場合にはさらに、信号線路の外側にも接地路43で短絡されたシールド用ボンディングパッド対を設けているが、これは本来のシールド効果の外、他の信号線路が隣接して設けられる場合には、やはり同様に相互干渉によるインピーダンスの上昇を抑える点で意味がある。
【0021】
ただし、ボンディングパッド41,51を介しての接続を図ると、当該ボンディングパッド部分の幾何的面積が大きいことから、インピーダンスの上昇を招き、インピーダンス不整合を生ずることもある。しかし、そのような場合には、公知の考え方に従い、図中では代表的に一個所にしか示していないが、インピーダンスマッチング用キャパシタンスCmを設ければ良い。このキャパシタンスは、個別部品としてのキャパシタにより得られるものであっても良いが、本出願人は既に、特願平7−326923号(特開平9−167864号)にて、当該ボンディングパッドの幾何的な面積を積極的にキャパシタンスとして利用する工夫も開示しているので、この技術を使うとなお良い。
【0022】
また、信号伝搬速度評価のために被測定パルス波形Iuf の一部を分岐的に流す短絡線路52を設けた場合には特に、インピーダンスマッチングのために、当該分岐線路である短絡線路52や、ストリップ線路12への接続線路の一方または双方中に、マッチング抵抗Rm1,Rm2 を設けた方が良いこともある。
【0023】
もちろん、このような接地路43で接地されたボンディングパッド対を設ける構造や、インピーダンスマッチングキャパシタCmやマッチング抵抗Rm1,Rm2(上述のようにいずれか一方でも良い)を設ける構成は、後述する図3,図4の測定系においても必要に応じ、同様に適用できる。
【0024】
しかるに、上記の極短パルス発生器としては、先に触れたように、サンプリングゲートJsに印加する極短パルスIpや、場合により用いるのが望ましい被測定パルス波形発生回路61からの出力パルスIufを、文字通りにパルス幅の十分短い尖鋭な波形のパルスとして出力するものを用いるのが望ましい。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ジョセフソンサンプリング回路に必要とされる、できるだけ幅の狭い極短パルスの発生器として、四接合電流注入型のジョセフソンゲートの負荷抵抗の一端から当該ジョセフソンゲートが電圧状態に遷移した時に当該負荷抵抗に流れる負荷電流の一部を取出して負荷回路に供給する線路を設け、この負荷回路への線路中に直列にジョセフソン接合を設けて成る極短パルス発生器を提案する。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の極短パルス発生器の一実施例を示している。この実施例を参照して本発明を説明する。その基本的な構成は一般に4JLゲートと略称されて極めて周知の四接合電流注入型ジョセフソンゲートを有して成っている。すなわち、超伝導閉ループ中に四つのジョセフソン接合J1,J2,J3,J4があり、当該閉ループにはゲート端子Tgからゲート抵抗Rgを介しゲート電流(電源電流)Igの流れ込むノード(接続点)と、接地(グランドプレーン)に接続するノードが設けられ、これらノード対を境にして左右のブランチ(枝回路)に分かたれている。一方のブランチ、図示の場合は左ブランチに属する二つのジョセフソン接合J1,J2の間に入力端子Tiからの入力信号電流Iiが流入し、当該流入点と接地との間に設けられているジョセフソン接合J1には並列に入力抵抗Riが設けられている。
【0027】
これら左ブランチ中のジョセフソン接合J1,J2の臨界電流値に対し、他方のブランチである右ブランチ中の二つのジョセフソン接合J3,J4の臨界電流値は、電流増幅率を高く取るために大きく取られ、一般には周知のように三倍程度に選ばれる。
【0028】
閉ループには並列に負荷抵抗RLが設けられ、これにより基本的な四接合電流注入型ジョセフソンゲートの基本構成が満足されるが、図示の極短パルス発生器ではさらに、負荷抵抗RLのホット側端から取り出される出力端子Toへの出力線路中に、ジョセフソン接合J5が介在している。そのため、この極短パルス発生器は、次のような動作により目的の極短パルスを発生することができる。
【0029】
ゲート臨界電流値の80〜90%の大きさの電源電流Igが与えられている状態で、入力信号電流Iiとして既述のトリガーパルスItu か遅延駆動パルスItp が印加されると、まずは入力抵抗Riに並列なジョセフソン接合J2がこれら電流の相乗効果で電圧状態に遷移し、その結果、次いでこれら電流は右ブランチ中のジョセフソン接合J3,J4に流れ込み、これらを電圧状態にスイッチさせる。すると、右ブランチ中に流れていた電源電流Igは逆方向となる入力信号電流Iiより大きいので、残っているジョセフソン接合J1を介し入力抵抗Riに向けて流れ、これを電圧状態に遷移させて、最終的に閉ループ全体を電圧状態に遷移させ、電源電流Igは負荷抵抗RLの方に、入力信号電流Iiは入力抵抗Riにのみ、流れる状態となる。
【0030】
この動作は周知の四接合電流注入型ジョセフソンゲートの基本動作であるが、図示の極短パルス発生器では、負荷抵抗RLへの電流線路は分岐され、負荷抵抗RLに流れる負荷電流(電圧状態に遷移した後の電源電流Ig)の一部が追加のジョセフソン接合J5に流れるようになっている。そしてそのために、このジョセフソン接合J5を介し出力端子Toに生ずる出力電流は極短パルスとなる。すなわち、上述の基本動作によりゲートが全体として電圧状態に遷移した瞬間から、負荷抵抗RLに比して出力端子Toに接続した負荷回路のインピーダンスの方を適当に低く設定することで、最初は電源電流Igの殆どが追加のジョセフソン接合J5を介し、出力電流として負荷回路に流れ込む。
【0031】
しかし、経時的に見て上昇して行く出力電流の大きさが追加のジョセフソン接合J5の臨界電流を越えた瞬間に、当該ジョセフソン接合J5が電圧状態に遷移して出力端子Toを介し負荷抵抗RLに並列な負荷回路に与えられる出力電流が断たれ、電源電流Igは専ら負荷抵抗RLにのみ流れるようになる。
【0032】
従って、本発明の極短パルス発生器を図2中のパルス発生回路22として用いると出力パルスIpとして極短パルスが得られ、被測定パルス波形発生回路61として用いた場合には十分鋭い被測定パルス波形Iuf をストリップ線路12に入力させることができる。
【0033】
本発明者の実験例では、臨界電流密度10KA/cm2のNb/AlOx/Nbジョセフソン接合を用い、ジョセフソン接合J1,J2,J5の臨界電流値を 150μA,ジョセフソン接合J3,J4のそれをその三倍の 450μA に設定し、入力抵抗Riの値を 0.5Ω,出力負荷抵抗RLの値を 5Ω,ゲート抵抗Rgの値を40Ωに設定して、波高値 200μA,半値幅10ps程度の急峻なパルスを得るのに成功した。このように、4JLゲートの基本構成に対し、実質的にその出力線路に直列に追加のジョセフソン接合J5を設けただけの簡単な構成の割に、この極短パルス発生器は高い動作信頼度で目的の極短パルスを発生させることができる。そして、この極短パルス発生器は、後述の他の測定系においても用い得ることはもちろん、これ自体単独で、任意のジョセフソン回路に利用することができる。
【0034】
なお、本発明のような極短パルス発生器を用いる場合の外、他の構造の極短パルス発生器を用いる場合であっても、図2中のパルス発生回路22や被測定パルス波形発生回路61のグランドプレーンへの接地位置と、サンプリングゲートJsの接地位置との間は、幾何的になるべく離す方が望ましい。 100ps程度以下のパルス信号を取扱うようになると、これらの接地位置が近い場合、グランドプレーンを通じてのサンプリングゲートJsへの回り込みによる干渉が生じ、検出誤差の原因となることもあるからである。また、各部に供給する電源波形は、複数のジョセフソン接合を直列接続して成る公知の電圧レギュレータにより、安定化されているのが望ましい。
【0035】
図3は本発明の極短パルス発生器を使用し得る第二のサンプリング測定系を示している。これについては図2中の構成と異なる点にのみ説明し、他についてはこれまでの説明をそのまま援用できる。この点は、後述の図4に示す第三のサンプリング測定系についても同様である。
【0036】
図3の測定系では、被測定対象はストリップ線路12を通過したパルス波形ではなく、ランプ波形である。従って、トリガーパルスItu により駆動され、通常のジョセフソンゲートにより構成できる被測定ランプ波形発生回路62が用いられており、その出力は図3中に模式的に示すようにランプ波形Iuf となる。
【0037】
さらにこの第二の測定系の場合、当該ランプ波形Iuf は第一、第二のゲート71,72に共に与えられ、第一ゲート71から出力された被測定ランプ波形Iuf は測定回路チップ40と被測定回路チップ50との間の接続部分である既述のボンディングパッド接続部(41,42,51)を介してストリップ線路12に入力され、ストリップ線路12を通過した被測定ランプ波形Iuは、再びボンディングパッド接続部(51,42,41)を介し負荷抵抗Ru1 を経てサンプリングゲートJsに印加される。
【0038】
一方で第二ゲート72から出力された被測定ランプ波形Iuf は測定回路チップ40と被測定回路チップ50との間の接続部分である既述のボンディングパッド接続部(41,42,51)を介してできるだけ短い長さの短絡線路52に入力され、当該線路を通過した被測定ランプ波形Iuは再びボンディングパッド接続部(51,42,41)を介し負荷抵抗Ru2 を経てサンプリングゲートJsに印加される。
【0039】
従って、第一、第二ゲート71,72の電源を交互に切り替えることにより、ストリップ線路12を経た場合と短絡線路52を経た場合の信号波形Iuを比較でき、ストリップ線路伝搬特性のより詳しい評価が可能となる。
【0040】
図4に示す第三の測定系は、図3に示した第二の測定系の更なる改良であって、主として異なる所は、ボンディングパッド接続部(41,42,51)そのものの存在の影響をも評価できることである。
【0041】
すなわち、被測定ランプ波形発生回路62の出力したランプ波形Iuf は第一、第二、第三のゲート71,72,73の全てに与えられ、第一ゲート71から出力された被測定ランプ波形Iuf は測定回路チップ40と被測定回路チップ50との間の接続部分である既述のボンディングパッド接続部(41,42,51)を介してストリップ線路12に入力され、ストリップ線路12を通過した被測定ランプ波形Iuは再びボンディングパッド接続部(51,42,41)を介し負荷抵抗Ru1 を経てサンプリングゲートJsに印加される。
【0042】
一方で第二ゲート72から出力された被測定ランプ波形Iuf は測定回路チップ40と被測定回路チップ50との間の接続部分である既述のボンディングパッド接続部(41,42,51)を介してできるだけ短い長さの短絡線路52に入力され、当該線路を通過した被測定ランプ波形Iuは再びボンディングパッド接続部(51,42,41)を介し負荷抵抗Ru2 を経てサンプリングゲートJsに印加される。
【0043】
さらに、第三ゲート73からの被測定ランプ波形Iuf はボンディングパッド接続部分を介することなく、測定回路チップ40上にてのみ、所定の線路を経て負荷抵抗Ru3 を介し、サンプリングゲートJsに印加される。従って、第一、第二、第三ゲート71,72,73の電源を順繰りに切り替えて既述の手法でサンプリング測定すれば、ストリップ線路12を経た場合と短絡線路52を経た場合、さらにはボンディングパッド接続部分すら経ない場合の各信号波形Iuを比較でき、ストリップ線路の伝搬特性をさらに詳しく評価できるようになる。
【0044】
以上の各測定系においては、測定回路チップ40と被測定回路チップ50との接続はフリップチップボンディングによりなしていた。しかしこれに代えて、それ自体は公知のワイヤボンディングによりなしても良い。また、もちろんのことであるが、被測定回路11は、図示のストリップ線路12に限ることはなく、例えば論理回路等、任意のジョセフソン回路であって良い。
【0045】
【発明の効果】
本発明の極短パルス発生器によると、種々の回路において必要となる極めてパルス幅の短い波形を合理的、簡単な回路構成によって、高い動作信頼度で得ることができる。これは、ジョセフソンサンプリング測定系に使用し得ることは勿論、これ単独で任意のジョセフソン回路に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明を使用する第一の ジョセフソンサンプリング測定系の概略図である。
【図3】本発明を使用する第二のジョセフソンサンプリング測定系の概略図である。
【図4】本発明を使用する第三のジョセフソンサンプリング測定系の概略図である。
【図5】従来におけるジョセフソンサンプリング測定系の代表的一例の原理的構成図である。
【符号の説明】
12 ストリップ線路
22 パルス発生回路
40 測定回路チップ
61 被測定パルス波形発生回路
J1〜J4 四接合電流注入型ジョセフソンゲートのジョセフソン接合
RL 負荷抵抗
J5 ジョセフソン接合
Ip 極短パルス
Iuf 被測定パルス発生回路61の出力パルス
Ii 入力信号電流
Itu トリガーパルス

Claims (1)

  1. パルス幅の短い尖鋭な極短パルスの発生器であって;
    四接合電流注入型のジョセフソンゲートの出力端に対して、他端を接地した負荷抵抗とジョセフソン接合の一端とを接続し、該ジョセフソン接合の他端からパルス出力を取り出すようにしたこと;
    を特徴とする極短パルス発生器。
JP25075499A 1999-09-03 1999-09-03 極短パルス発生器 Expired - Lifetime JP3550649B2 (ja)

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