JP3549187B2 - 変速機構及び減速機構を備えた車両用ステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は変速機構及び減速機構を備えた車両用ステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
変速機構は入力回転数を減速、増速又は増減速する機構であり、車両用ステアリング装置を含めて数多くの装置に用いられている。変速機構の変速方式には歯車式、ベルト式、チェーン式等があり、歯車式変速機構のうちには小ギヤと内歯ギヤの組合せ構造のものがある。小ギヤと内歯ギヤの組合せ構造にすれば、大きな減速比が得られ変速機構を比較的小型にすることができる。
ところで歯車式変速機構を装置に取付けたときに、1対の歯車を噛み合わせたときの歯面間の遊び、すなわちバックラッシ(バックラッシュとも言うが、JIS用語によればバックラッシ。)の大きさが装置の性能に影響を及ぼす場合がある。例えば車両用ステアリング装置に、ステアリングハンドルの操舵角を所定の割合で減少させる減速機構として取付けた場合には、バックラッシの大きさが操舵感覚に影響を及ぼす。このような点を配慮した技術に関しては、例えば特開平6−211145号「操舵装置」(以下、「従来の技術」と言う)が知られている。
【0003】
この従来の技術は、その公報の図1によれば、操舵装置のハウジング10(番号は公報に記載されたものを引用した。以下同じ。)を前部ハウジング10aと後部ハウジング10bとの2分割ハウジングとし、後部ハウジング10bのフランジ面に環状凹部を設け、この環状凹部に嵌合する環状突起10cを前部ハウジング10aのフランジ面に設け、フランジ同士を重ね合わせて環状凹部に環状突起10cを嵌合し、フランジ同士を3個の締付けボルト10g・・・にて固定するというものである。締付けボルト10g・・・を緩めれば、前部・後部ハウジング10a,10bは相対的に回転可能である。
【0004】
さらに従来の技術は、その公報の図1によれば、前部ハウジング10aに入力ピニオン41を回転可能に取付け、入力ピニオン41に噛み合う内歯ギア42を後部ハウジング10bに回転可能に取付けたものである。
また従来の技術は、その公報の図2によれば、入力ピニオン41の回転軸線O1と、内歯ギア42の回転軸線O2と、前部・後部ハウジング10a,10bの相対的な回転軸線O5とを、互いに偏心させたというものである。締付けボルト10g・・・を緩め、前部ハウジング10aに対し後部ハウジング10bを手で回すことにより、回転軸線O1に対する回転軸線O2の位置を変えることで、入力ピニオン41と内歯ギア42との間のバックラッシの大きさを調整することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術は操舵装置全体を組立て、締付けボルト10g・・・を緩めた状態で、前部ハウジング10aに対し後部ハウジング10bを手で回してバックラッシを調整した後、締付けボルト10g・・・を再び締めるようにしたものである。前部ハウジング10aに対し後部ハウジング10bを手で回すのであるから、バックラッシを微調整するには作業者の熟練を要するとともに、調整作業が面倒である。
さらには、操舵装置全体を組立てた後にバックラッシを調整するのであるから、入力ピニオン41と内歯ギア42との間のバックラッシだけを調整することはできない。この結果、バックラッシの調整を十分に行うことができない場合もあり得る。
また、操舵装置に減速機構を組込んだ状態で前部・後部ハウジング10a,10bに収納し、この前部・後部ハウジング10a,10bを相対的に回してバックラッシを調整する複雑な調整構造であるから、変速機構単品にそのまま適用したのでは、調整構造が複雑になり実用的でない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、▲1▼変速機構(減速、増速又は増減速する機構)における小ギヤと内歯ギヤのバックラッシを十分に且つ容易に調整できること、▲2▼車両用ステアリング装置に組込んだ減速機構における小ギヤと内歯ギヤのバックラッシを十分に且つ容易に調整できることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、支持部材に、小ギヤを有する第1回転体並びに小ギヤに噛み合う内歯ギヤを有する第2回転体を回転可能に各々取付けた変速機構において、支持部材と第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を支持部材に備え、
偏心カラー回転手段が、支持部材にねじ込んだ調整ボルトと、この調整ボルトの進退方向に移動可能であって偏心カラーを回転方向に押す押しピンと、これら調整ボルトと押しピンとの間に介在した圧縮ばねと、からなり、調整ボルトの先端と押しピンの後端との間に隙間を開けることで、調整ボルトで圧縮ばねを介して押しピンを押すように構成したことを特徴とする変速機構である。
【0008】
偏心カラー回転手段は、調整ボルトをねじ込んで圧縮ばねを介して押しピンを押すことにより、押しピンで偏心カラーを回転させることができる。
変速機構における小ギヤと内歯ギヤのバックラッシを調整するには、偏心カラー回転手段で偏心カラーの回転角を微調整する。第1回転体又は第2回転体は偏心カラーの回転角に応じて変位する。この結果、バックラッシの大きさが変わる。
【0009】
請求項2は、車両のステアリングハンドルから操向車輪に至るステアリング系に可変舵角比操舵機構を備え、この可変舵角比操舵機構によって、ステアリングハンドルの操舵角に対する舵角比を機械的に変えるように構成し、可変舵角比操舵機構にステアリングハンドルの操舵角を所定の割合で減少させる減速機構を備えた車両用ステアリング装置であって、減速機構が、支持部材に、小ギヤを有するとともにステアリングハンドルに連結した第1回転体並びに小ギヤに噛み合う内歯ギヤを有するとともに可変舵角比操舵機構に連結した第2回転体を回転可能に各々取付け、支持部材と前記第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を支持部材に備え、
偏心カラー回転手段が、支持部材にねじ込んだ調整ボルトと、この調整ボルトの進退方向に移動可能であって偏心カラーを回転方向に押す押しピンと、これら調整ボルトと押しピンとの間に介在した圧縮ばねと、からなり、調整ボルトの先端と押しピンの後端との間に隙間を開けることで、調整ボルトで圧縮ばねを介して押しピンを押すように構成したことを特徴とする減速機構を備えた車両用ステアリング装置である。
【0010】
偏心カラー回転手段は、調整ボルトをねじ込んで圧縮ばねを介して押しピンを押すことにより、押しピンで偏心カラーを回転させることができる。
減速機構単品の状態において、偏心カラー回転手段で偏心カラーの回転角を微調整する。第1回転体又は第2回転体は偏心カラーの回転角に応じて変位する。この結果、減速機構の小ギヤと内歯ギヤのバックラッシの大きさが変わる。バックラッシを調整した後の減速機構を車両用ステアリング装置に組付ける。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車両用ステアリング装置のシステム図である。
車両用ステアリング装置10は、車両のステアリングハンドル11から操向車輪12,12に至るステアリング系13に、操舵機構20並びにこの操舵機構20に補助トルクを加える補助トルク機構30を備えた電動パワーステアリング装置である。すなわち、ステアリングハンドル11にステアリングシャフト14並びに自在継手15,15を介して、操舵機構20を連結したものである。操舵機構20は、ステアリングハンドル11の操舵角に対する舵角比を機械的に変えるようにした、いわゆる可変舵角比操舵機構の役割を果たす。操舵機構20のことを以下「可変舵角比操舵機構20」と言う。
【0012】
補助トルク機構30は、ステアリングハンドル11で発生したステアリング系14の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ31と、操舵トルクセンサ31の検出信号に基づき制御信号を発生する制御手段32と、制御信号に基づき操舵トルクに応じた補助トルクを発生する電動機33とからなる。操舵トルクセンサ31は、可変舵角比操舵機構20の上部に取付けたものである。
【0013】
このような車両用ステアリング装置10によれば、運転者がステアリングハンドル11を操舵することにより発生した操舵トルクを操舵トルクセンサ31で検出し、この検出信号に基づき制御手段32で制御信号を発生し、この制御信号に基づき操舵トルクに応じた補助トルクを電動機33で発生し、補助トルクを可変舵角比操舵機構20のラック軸26に付加することができる。
さらには、車速センサ21で検出した車速信号と変位センサ22で検出した可変舵角比操舵機構20の入力軸23の偏心量信号とに基づき、制御手段32で車速に応じた舵角比制御信号を発生し、この舵角比制御信号に基づき舵角比制御用電動機24にて可変舵角比操舵機構20を駆動することで、舵角比を制御することができる。
【0014】
図2は本発明に係る車両用ステアリング装置の全体構成図であり、要部を断面したものである。
車両用ステアリング装置10は、ラックアンドピニオン機構25、電動機33、ボールねじ34を車幅方向に延びる固定ハウジング28に収納したものである。電動機33は、固定ハウジング28の一部をなす副ハウジング28aに収納した環状のステータ35と、ステータ35内に配置したロータ36と、ロータ36に固定した管状の電動機軸37とからなる。ラックアンドピニオン機構25のラック軸26は、電動機軸37内に挿通するとともに、ボールねじ機構34によって電動機軸37に連結したものである。
【0015】
図3は図2の3−3線断面図であり、可変舵角比操舵装置20の断面構造を示す。
可変舵角比操舵装置20は、ステアリングハンドル11(図1参照)の操舵角を所定の割合で減少させる減速機構40を備えたことを特徴とする。詳しくは、可変舵角比操舵装置20は、固定ハウジング28の内部に可動ハウジング29を回転可能に取付け、可動ハウジング29に減速機構40を組み込み、入力軸23にトーションバー71を介して減速機構40の第1回転体44を連結し、減速機構40の第2回転体47に継手90を介して出力軸72を連結し、出力軸72にラックアンドピニオン機構25を連結したものである。
この図は、固定ハウジング28にラックアンドピニオン機構25、可動ハウジング29、減速機構40、出力軸72並びに継手90を収納したことを示す。
【0016】
減速機構40は変速機構の一種であり、略筒状の可動ハウジング(支持部材)29に、小ギヤ44aを有する第1回転体44並びに小ギヤ44aに噛み合う内歯ギヤ47aを有する第2回転体47を回転可能に各々取付け、可動ハウジング29と第2回転体47との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラー45を介在させ、この偏心カラー45を回すことのできる偏心カラー回転手段60を可動ハウジング29に備えたものである。
【0017】
詳しくは、減速機構40は、可動ハウジング29の上下貫通した孔の上部にホルダ41を取付け、ホルダ41に上下の軸受42,43を介して第1回転体44を回転可能に取付け、可動ハウジング29の孔の下部に環状の偏心カラー45を回転可能に取付け、偏心カラー45の孔に軸受46,46を介して第2回転体47を回転可能に取付けたものである。可動ハウジング29は、減速機構40の支持部材の役割を果たす。第1回転体44は長手途中に小ギヤ44aを形成するとともにステアリングハンドルに11(図1参照)に連結した入力側軸部材である。第2回転体47は有底の筒部材であって、上部内周面に内歯ギヤ47aを形成するとともに、下端に平板状の第1フランジ47bを形成し、可変舵角比操舵機構20に連結した出力側軸部材である。
51,51は軸受、52〜54は位置決めナット、55は平座金、56はスラストベアリング、57はオイルシールである。
【0018】
入力軸23は、ステアリングハンドル11(図1参照)に自在継手15,15を介して連結した管状の軸である。入力軸23の内部にトーションバー71を通し、トーションバー71の上部を入力軸23の上部にピン結合し、トーションバー71の下部を第1回転体44の上部に結合することで、入力軸23に第1回転体44を連結することができる。
トーションバー71は、文字通りトルクに対して正確にねじれ角が発生するメンバーであって、操舵トルクが作用すると入力軸23と第1回転体44との間での相対ねじり変位を発生するものである。
【0019】
出力軸72は、固定ハウジング28の下部に軸受73を介して取付けたものである。ラックアンドピニオン機構25は、ラック軸26に形成したラック26aと出力軸72に形成したピニオン72aとからなる。75は調整ボルト、76は軸受、77はラックガイドである。
【0020】
操舵トルクセンサ31は、入力軸23と第1回転体44とに掛け渡すことで、入力軸23と第1回転体44との間の相対ねじれ変位に応じて軸方向へ変位可能なコア81a付きスライダ81と、このスライダ81の変位量(コア81aの変位量)を電気信号に変換するべくセンサハウジング82に取付けたコイル83とからなる、非接触式操舵トルクセンサ(可変インダクタンス式センサ)である。センサハウジング82は、可動ハウジング29の上部にボルト止めしたものである。87は軸受、88はオイルシール、89はカバーである。
【0021】
図4(a),(b)は本発明に係る可変舵角比操舵機構を構成する継手廻りの構成図であって、(a)は図3の4−4線断面の継手構成図であり、(b)は継手の分解斜視図である。
(a)において継手90は、第2回転体47の第1フランジ47bと、第1フランジ47bに3つのボール91・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)を介して連結した第2フランジ92と、第2フランジ92の下端から下方へ延びて出力軸72の連結孔72bに連結した連結軸93とからなる。
【0022】
詳しくは、継手90は、第1フランジ47bの下端面に側断面視半円形状の連結溝47cを形成し、また、第2フランジ92の上端面に側断面視半円形状の連結溝92aを形成し、これら連結溝47c,92aに3つのボール91・・・を1列に並べて、連結溝47c,92aの溝面に当てることで、第1・第2フランジ47b,92間を連結したものである。
連結孔72bは出力軸72の回転中心から偏心した位置にあり、また、連結軸93は第2回転体47から偏心した位置にある。これら連結孔72bと連結軸93は、互いに回転可能に連結したものである。
【0023】
このように継手90は、▲1▼第2回転体47に対して、軸直角方向に相対移動可能に且つ相対回転不能に連結し、▲2▼第2回転体47に対して偏心して設けられた出力軸72の、更に偏心する部位に、軸直角方向に相対移動不能に且つ相対回転可能に連結したものである。言い換えると、第2回転体47と出力軸72とは継手90によって、軸直角方向に相対移動可能に且つ互いに関連した回転をなすように連結したものである。94は板状のボール保持器、95は軸受、96はスラストベアリングである。
【0024】
(b)は入力軸、継手及び出力軸の関係説明図であり、第2回転体47に継手90を軸直角方向への相対移動可能に連結したことを示す。
第2回転体47の回転中心Aは、可動ハウジング29(図3参照)の回転中心Oから偏心した位置に配置したものである。第2回転体47と出力軸72とは平行であり、しかも、対向し合う端部間が所定寸法だけ離間したものである。第2回転体47の回転中心Aが角度A1の位置にあるとき、第2回転体47の回転中心Aと、出力軸72の回転中心Bと、連結軸93の作用点Cとは、平面視で前記相対移動方向に一直線上に配列したものである。回転中心Aは、回転中心Bと作用点Cの間に配列したものである。
【0025】
第2回転体47が回転すると、第1・第2フランジ47b,92とボール91・・・との連結作用により、連結軸93は出力軸72の回転中心Bを基準に公転する。この結果、第2回転体47の回転力によって出力軸72は回転する。
ここで、回転中心Aから回転中心Bまでの距離をx(偏位量x)とし、回転中心Bから作用点Cまでの距離をy(偏位量y)とする。回転中心AはA1〜A2の範囲で変化するものであり、これに対して、回転中心Bは固定位置である。
偏位量xの変化に伴う舵角比の変化については、図10及び図11に基づき後述する。
【0026】
図5は図3の5−5線断面図である。
可変舵角比操舵機構20は、舵角比制御用電動機24にてウォームギヤ機構100を介して可動ハウジング29を回転させることで、第2回転体47の回転中心Aを変位させて、操舵角の割合を変えるようにしたものである。舵角比制御用電動機24は、制御手段32(図1参照)の舵角比制御信号に応じて正・逆転し、第2回転体47の回転中心Aを変位させる減速機付きモータである。ウォームギヤ機構100は、舵角比制御用電動機24の電動機軸24aに連結したウォーム軸101と、ウォーム軸101のウォーム102に噛み合うホイール103とからなる。ホイール103は可動ハウジング29の外周面の一部に形成した歯である。
【0027】
固定ハウジング28は、第2回転体47の変位量を検出する変位センサ22を取付けたものである。変位センサ22は、可動ハウジング29の外周面に形成したカム面29aの変化量を検出することにより、第2回転体47の回転中心Aの変位量を間接的に検出するものであり、カム面29aに接した先端部22aが進退するポテンショメータからなる。104,104は可動ハウジング29の最大回動位置を規制するストッパ、105は中空偏心スリーブ、106,107は軸受、108はナットである。
【0028】
図6は図3の6−6線断面図であり、減速機構40の断面構造を示す。
この図は特に、小ギヤ44aを有する第1回転体44、内歯ギヤ47aを有する第2回転体47、可動ハウジング29と第2回転体47との間に介在した偏心カラー45、並びに、偏心カラー45を回す偏心カラー回転手段60の関係を明確に示す。
【0029】
偏心カラー45は、外周面45aの円の中心Qに対し内周面45bの円の中心を偏心させ、この内周面45bの円の中心を第2回転体47の回転中心Aに一致させたことを示す。言い換えると、外周面45aの円の中心Qは可動ハウジング29の回転中心O、第1回転体44の回転中心P並びに第2回転体47の回転中心Aに対し偏心している。外周面45aの円の中心Qの位置は、偏心カラー回転手段60で偏心カラー45を回転させたときに、小ギヤ44aと内歯ギヤ47aを噛み合わせたときの歯面間の遊び、すなわちバックラッシの大きさが小さくなるように決定したものである。
【0030】
図7は本発明に係る偏心カラー回転手段の断面図である。
偏心カラー回転手段60は、可動ハウジング29にねじ込んだ調整ボルト61と、調整ボルト61の進退方向に移動可能な押しピン62と、調整ボルト61と押しピン62との間に介在した圧縮ばね63とからなる。押しピン62は、その先端を偏心カラー45の当接凹部45cに当てることで、偏心カラー45を回転方向に押す押圧部材である。調整ボルト61をねじ込んで圧縮ばね63を介して押しピン62を押すことにより、押しピン62で偏心カラー45を回転させることができる。このような偏心カラー回転手段60は、調整ボルト61の先端と押しピン62の後端との間に寸法δの隙間を開けることにより、過大な調整荷重や反力を防止することができる。29bはピン挿入孔である。
【0031】
図8(a)〜(d)は本発明に係る可動ハウジング、減速機構及びウォームギヤ機構の関係説明図であり、(a)に示す第2回転体47の向きと(c)に示す第2回転体47の向きとを関連付けて示す。すなわち、(a)と(c)とは、点Oと点Aとを通る直線L1の向きを一致させて示したものである。
【0032】
(a)は、ウォーム102が正・逆転すると、可動ハウジング29は回転角θの範囲で正・逆転することを示す。上述のように、可動ハウジング29の回転中心Oに対して第2回転体47の回転中心Aが偏心している。このため、可動ハウジング29の回転角θに対応して、第2回転体47の回転中心AはA1〜A2の範囲で変化する。例えば、高速域の車速では点A1の位置に変位し、低速域の車速では点A2の位置に変位する。
なお、(b)に示すように回転中心Aの変位軌跡は、正確には回転中心Oを中心とした円弧である。しかし、回転中心Aの径方向の変位量Zは無視できる程度である。以下の説明においては、回転中心Aの変位軌跡がこの図の左右方向の直線である(回転中心Aの径方向の変位量Z=0)として、説明する。
【0033】
(c)及び(d)は、中心Qを第2回転体47の回転中心Aよりも図左下方に配置したものである。言い換えると、中心Qは直線L1から図左へ寸法m1だけ偏心するとともに、回転中心Aを通り直線L1に直角な直線L2から図下方へ寸法m2だけ偏心している。このため、偏心カラー45の厚みは中心Qと回転中心Aとを通る直線L3上において、図右上が最も小さく図左下で最も大きい。このような厚みの差を利用して、偏心カラー45を回すことにより第2回転体47の回転中心Aを変位させることを特徴とする。
【0034】
図9(a)〜(c)は本発明に係る減速機構のバックラッシ調整作用図であり、(a)は減速機構40の断面構成を示し、(b)は(a)のb−b線断面の構成を示し、(c)は(b)の作用を示す。
(a),(b)のように組立られた状態の減速機構40において、(b)の左下の偏心カラー回転手段60で、偏心カラー45を矢印Ru方向に回転させると、(c)に示すように第2回転体47の回転中心Aも矢印Ru方向に変位する。矢印Ru方向の変位によって、バックラッシの大きさを減少させることができる。
【0035】
このように減速機構40の単品の状態において、偏心カラー回転手段60で偏心カラー45の回転角を微調整することにより、偏心カラー45の回転角に応じて第2回転体47を変位させ、小ギヤ44aと内歯ギヤ47aのバックラッシを微調整することができる。従って、ギヤバックラッシ調整作業が容易である。バックラッシを調整した後の減速機構40を可変舵角比操舵機構20(図3参照)に組付ければよい。
【0036】
さらには、ギヤバックラッシを調整するための機構が、可動ハウジング(支持部材)29に備えた偏心カラー45並びに偏心カラー回転手段60からなる簡単な構成であり、しかも、減速機構40単品でバックラッシを調整することができる。可変舵角比操舵機構20に組込む前に減速機構40単品で調整することができるので、可変舵角比操舵機構20の他の構成の影響を受けることなく、バックラッシをより一層十分に且つ容易に調整することができる。
【0037】
図10(a),(b)は本発明に係る可変舵角比操舵機構の作動原理説明図であり、高速域の車速における舵角比の変化を模式的に示す。
図10(a)は上記図4の構成を模式的に表したものであり、この(a)に示すように、高速域では回転中心Aが角度A1の位置にある。このとき、出力軸72の回転中心Bと、第2回転体47の回転中心Aと、連結軸93の作用点Cとは、図左から右へこの順に一直線上に配列しており、この状態を模式的平面図として表したものが、図10(b)である。すなわち、図4におけるA,B,Cの並びが図10(b)のA,B,C(C0)の並びに相当する。
【0038】
なお、作用点Cは、回転中心Bを中心として旋回するものであるため、右の点Cと左の点Cとで区別がつきにくい。そこで、角度0゜又は角度180゜を添字としたC0,C180を付記することで、明瞭化した。作用点Cが、C0を起点として図時計回り(矢印方向)に旋回することで、以下の説明を行う。
【0039】
図10(b)において、第2回転体47の回転角をαとし、出力軸72の回転角をβとすると、次の関係式が導かれる。
y・sinβ=(y・cosβ−x)tanα ……(1)
であるから、第2回転体の回転角αは
α=tan−1((y・sinβ)/(y・cosβ−x)) ……(2)
で表される。
【0040】
従って、作用点Cが点C0から点Cxへ変位したときに、出力軸の回転角はβであり、このときの第2回転体の回転角はαである。また、連結軸の作用点が点C0から点Cyへ変位したときに、出力軸の回転角はβ1であり、このときの第2回転体の回転角はα1である。回転中心Bと作用点Cとの間に回転中心Aがあるので、回転角βは回転角αよりも小さく、回転角β1は回転角α1よりも小さい(β<α、β1<α1)。
一方、低速域では回転中心Aが角度A2の位置にあるので、回転中心Aは回転中心Bの接近した位置にある。このとき、偏位量xは所定の最低値まで減少する。但しx>0である。
【0041】
図11は本発明に係る可変舵角比操舵機構の舵角比特性線図である。
この図は、横軸を第2回転体47の回転角αとし、右の縦軸を出力軸72の回転角βとし、左の縦軸をラック26aのストロークとして表したものであって、線x0,x1に基づき、第2回転体の回転角αに対する、出力軸の回転角βの割合並びにラック26aのストロークの割合を示す。
【0042】
なお、ここでは図3に示す減速機構40の減速率Gを1(G=1)と仮定した場合について、先に説明する。G=1であるから、入力軸23の回転角に対して第2回転体47の回転角αが同一である。
▲1▼線x0は、偏位量xを最低値にした場合(低速域)の舵角比特性を示す。
▲2▼線x1は、偏位量xを変化させた場合(高速域)の舵角比特性を示す。
図から明らかなように、偏位量xを連続的に変化させることにより、舵角比を連続的に変化させることができる。従って、偏位量xを車速に応じて制御すれば、舵角比特性を最適条件に変化させることができる。
【0043】
ところで、線x0,x1は、第2回転体の回転角αが180°の場合に出力軸の回転角βが180°となる特性に設定されている。このような特性は、図4の継手90における第2回転体47、出力軸72並びに連結軸93の位置関係により決まる。減速比G=1と仮定したので、ステアリングハンドル11の操舵角に対して第2回転体の回転角αが同一である。例えば、操舵角が0°のときには回転角αも0°であり、操舵角が最大角(例えば、180°)のときには回転角αも180°である。このため、可変舵角比操舵機構20は、第2回転体の回転角αの全範囲(0°〜180°)にわたり、特定の舵角比特性にて舵角比を変えることになる。
また、ステアリングハンドル11の最大操舵角を180°以下にすると、ハンドルの切れが良過ぎるので、操舵感覚上(操舵フィーリング上)好ましくない。従って、ラックの最大ストローク位置を図11の縦軸のD(従来の最大)以下に下げることはできない。
【0044】
さらには、線x0は図右肩上がりで下方に緩く湾曲した曲線であり、線x1は図右肩上がりで下方に線x0よりもきつく湾曲した曲線である。これらの曲線は、第2回転体の回転角αが概ね90°以下において勾配が緩く、90°を越えると勾配がきつい曲線である。しかも、フル操舵の状態(図1の操向車輪12,12が最大操舵角の状態)では、第2回転体の回転角αが180°なので、出力軸の回転角βは車速と無関係に一定である。
線x0,x1が非線形なので、第2回転体の回転角αが小さいときと大きいときとでは、第2回転体の回転角αに対する出力軸の回転角βの割合、すなわち、舵角比は一定ではない。しかし、ステアリングハンドル11の全操舵範囲にわたり、車速に応じた一定の舵角比特性である方が、運転上好ましい場合がある。
【0045】
本発明はこのような舵角比特性を改良するために、図1に示すステアリングハンドル11の操舵角、すなわち、第2回転体47の回転角を、減速機構40によって所定の割合で減少させるようにしたものである。
例えば、1/6の割合で減少させると(減速比G=1/6)、ステアリングハンドル11の最大操舵角が左右に各540°の場合に、第2回転体47の回転角αは左右に各90°(減少角)となる。また、操舵角が0°のときに、第2回転体47の回転角αは0°である。
【0046】
第2回転体の回転角αが90°以下であれば、線x0,x1は車速に応じた勾配を有するほぼ直線(実線にて示す線x10,x11)である。
このような実線x10から実線x11までの直線的な特性を有する範囲だけを使用した舵角比特性なので、高速域の車速においては、ステアリングハンドル11の全操舵範囲にわたって、緩い勾配特性で操向車輪を操舵することができる。また、低速域の車速においては、ステアリングハンドル11の全操舵範囲にわたって、きつい勾配特性で操向車輪を操舵することができる。
言い換えると、第2回転体の回転角αが小さければ、ステアリングハンドル11を全操舵範囲で操舵しても、可変舵角比操舵機構20における非線形の舵角比特性のうち、一部の狭い範囲だけを使用することになる。一部の範囲だけであれば、非線形であっても比例特性に近似した舵角比特性で操舵することができる。
従って、ステアリングハンドル11の操舵角に対するラック26aのストローク特性、すなわち、操向車輪12,12の操舵角特性は、車速に応じたほぼ比例的な特性であり、車両の操縦性能を一層高めることができる。
【0047】
また、操舵角を減速機構40で減少させたときには、可変舵角比操舵機構20は、第2回転体の回転角αの全範囲のうち、一部の狭い範囲(0°〜減少角)で、特定の舵角比特性にて舵角比を変える。すなわち、舵角比特性のうち一部の範囲だけで舵角比を変える。
このように、ステアリングハンドル11の操舵角を減速機構40で減少させたことにより、ステアリングハンドル11の操舵角に対して、舵角比特性のうち、どの範囲を使用するかを選択することができる。
【0048】
図12は本発明に係る車両用ステアリング装置の舵角比特性線図であり、横軸をステアリングハンドル11の操舵角とし、縦軸をラック26aのストロークとして表したものである。
この図は上記図11に対応した図であり、ステアリングハンドル11を右回転させた場合に図右半分の舵角比特性を有し、ステアリングハンドル11を左回転させた場合に図左半分の舵角比特性を有することを示す。
【0049】
ところで、上記図3、図6〜図9に示す減速機構40は以上の説明から明らかなように、変速機構の一種である。変速機構であるから、入力回転数を減速、増速又は増減速する機構であればよい。変速機構としての減速機構40の変形例を図13に基づき説明する。
図13(a),(b)は本発明に係る変速機構の変形例図である。
(a)は、減速機構40のうち、支持部材29と第1回転体44との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させたことを示す。具体的には、ホルダ41に上記図3に示す偏心カラー45の役割を付加し、ホルダ41を偏心カラー回転手段60で回すようにしたものである。
(b)は、減速機構40における第2回転体47を入力側とし、第1回転体44を出力側とすることにより、増速機構の役割を果たすことを示す。
【0050】
なお、上記実施の形態において、変速機構の変速比や減速機構40の減速比については任意である。
さらには、ホルダ41の有無は任意であり、可動ハウジング29に第1回転体44を直接回転可能に取付けてもよい。
また、偏心カラー回転手段60は偏心カラーを回すことのできる構成であればよく、例えば、調整ボルト61だけであってもよい。押しピン62並びに圧縮ばね63の有無については任意である。
【0051】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、支持部材と第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を支持部材に備えたので、偏心カラー回転手段で偏心カラーの回転角を微調整することにより、第1回転体又は第2回転体を変位させて、小ギヤと内歯ギヤのバックラッシを微調整することができる。従って、ギヤバックラッシ調整作業が容易である。
さらには、ギヤバックラッシを調整するための機構が、支持部材に備えた偏心カラー並びに偏心カラー回転手段からなる簡単な構成であり、しかも、変速機構単品でバックラッシを調整することができる。変速機構単品で調整するので、バックラッシをより一層十分に且つ容易に調整することができる。
さらにまた、偏心カラー回転手段において、調整ボルトをねじ込んで圧縮ばねを介して押しピンを押すことにより、押しピンで偏心カラーを回転させることができる。調整ボルトの先端と押しピンの後端との間に隙間を開けることにより、過大な調整荷重や反力を防止することができる。
【0052】
請求項2は、車両のステアリングハンドルから操向車輪に至るステアリング系に可変舵角比操舵機構を備え、この可変舵角比操舵機構によって、ステアリングハンドルの操舵角に対する舵角比を機械的に変えるように構成し、可変舵角比操舵機構にステアリングハンドルの操舵角を所定の割合で減少させる減速機構を備えた車両用ステアリング装置であって、減速機構のギヤのバックラッシを調整するための機構として、支持部材と第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を支持部材に備えたので、偏心カラー回転手段で偏心カラーの回転角を微調整することにより、第1回転体又は第2回転体を変位させて、小ギヤと内歯ギヤのバックラッシを微調整することができる。従って、ギヤバックラッシ調整作業が容易である。
さらには、ギヤバックラッシを調整するための機構が、支持部材に備えた偏心カラー並びに偏心カラー回転手段からなる簡単な構成であり、しかも、減速機構単品でバックラッシを調整することができる。車両用ステアリング装置に組込む前に減速機構単品で調整することができるので、車両用ステアリング装置の他の構成の影響を受けることなく、バックラッシをより一層十分に且つ容易に調整することができる。
さらにまた、偏心カラー回転手段において、調整ボルトをねじ込んで圧縮ばねを介して押しピンを押すことにより、押しピンで偏心カラーを回転させることができる。調整ボルトの先端と押しピンの後端との間に隙間を開けることにより、過大な調整荷重や反力を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両用ステアリング装置のシステム図
【図2】本発明に係る車両用ステアリング装置の全体構成図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】本発明に係る可変舵角比操舵機構を構成する継手廻りの構成図
【図5】図3の5−5線断面図
【図6】図3の6−6線断面図
【図7】本発明に係る偏心カラー回転手段の断面図
【図8】本発明に係る可動ハウジング、減速機構及びウォームギヤ機構の関係説明図
【図9】本発明に係る減速機構のバックラッシ調整作用図
【図10】本発明に係る可変舵角比操舵機構の作動原理説明図
【図11】本発明に係る可変舵角比操舵機構の舵角比特性線図
【図12】本発明に係る車両用ステアリング装置の舵角比特性線図
【図13】本発明に係る変速機構の変形例図
【符号の説明】
10…車両用ステアリング装置、11…ステアリングハンドル、12…操向車輪、13…ステアリング系、20…可変舵角比操舵機構、28…固定ハウジング、29…支持部材(可動ハウジング)、40…変速機構(減速機構)、44…第1回転体、44a…小ギヤ、45…偏心カラー、45a…外周面、45b…内周面、47…第2回転体、47a…内歯ギヤ、60…偏心カラー回転手段、Q…外周面の円の中心、A…内周面の円の中心。
Claims (2)
- 支持部材に、小ギヤを有する第1回転体並びに小ギヤに噛み合う内歯ギヤを有する第2回転体を回転可能に各々取付けた変速機構において、前記支持部材と前記第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を前記支持部材に備え、
前記偏心カラー回転手段は、前記支持部材にねじ込んだ調整ボルトと、この調整ボルトの進退方向に移動可能であって前記偏心カラーを回転方向に押す押しピンと、これら調整ボルトと押しピンとの間に介在した圧縮ばねと、からなり、前記調整ボルトの先端と前記押しピンの後端との間に隙間を開けることで、調整ボルトで圧縮ばねを介して押しピンを押すように構成したことを特徴とする変速機構。 - 車両のステアリングハンドルから操向車輪に至るステアリング系に可変舵角比操舵機構を備え、この可変舵角比操舵機構によって、ステアリングハンドルの操舵角に対する舵角比を機械的に変えるように構成し、前記可変舵角比操舵機構にステアリングハンドルの操舵角を所定の割合で減少させる減速機構を備えた車両用ステアリング装置であって、前記減速機構は、支持部材に、小ギヤを有するとともにステアリングハンドルに連結した第1回転体並びに小ギヤに噛み合う内歯ギヤを有するとともに可変舵角比操舵機構に連結した第2回転体を回転可能に各々取付け、前記支持部材と前記第1回転体又は第2回転体との間に、外周面の円の中心に対して内周面の円の中心を偏心させてなる偏心カラーを介在させ、この偏心カラーを回すことのできる偏心カラー回転手段を前記支持部材に備え、
前記偏心カラー回転手段は、前記支持部材にねじ込んだ調整ボルトと、この調整ボルトの進退方向に移動可能であって前記偏心カラーを回転方向に押す押しピンと、これら調整ボルトと押しピンとの間に介在した圧縮ばねと、からなり、前記調整ボルトの先端と前記押しピンの後端との間に隙間を開けることで、調整ボルトで圧縮ばねを介して押しピンを押すように構成したことを特徴とする減速機構を備えた車両用ステアリング装置。
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