JP3548772B2 - 固体電解質型燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、固体電解質型燃料電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
固体電解質型燃料電池は、燃料に含有される化学エネルギーを、燃焼による熱エネルギーの形態を経由することなく、電気化学的手段を利用して連続的に電気エネルギーへ直接変換する装置であり、高いエネルギー変換効率を有するものである。
【0003】
平板型の固体電解質型燃料電池は、例えば第1図の分解斜視図に示すような基本構造からなる。すなわち、燃料極1、固体電解質膜2、及び空気極3の各層を重ねて、三層膜を構成する発電部4があり、これが燃料電池の最小単位となって、外部から供給される水素と空気(酸素)と反応を起こし、電気を発生する。この発電部4を直列に接続、積層して大きな電圧を得るために、発電部4を積層する際、インターコネクタ5を用いて発電部と発電部を仕切っている。
【0004】
このインターコネクタ5の両面には、互いに直角方向に一連の溝6が設けられ、燃料極側には水素が、また、空気極側には空気(酸素)が入る流路になっている。そして、インターコネクタ5は燃料極1に入る水素と空気極3に入る空気(酸素)とが混じるのを防ぐとともに、二つの発電部を直列に繋ぐための電子伝導体の役目も果たす。燃料極1、空気極3、及びこれら各極とインターコネクタ5との接合部6aには、電気伝導性を有する多孔質体(図示せず)が用いられている。なお、水素と空気(酸素)が混じるのを防ぐため、発電部4とインターコネクタ5の各端部のガスシールを必要とする接合部7には、ガラス系シール材(図示せず)が用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、燃料極1、空気極3、及びこれら各極とインターコネクタ5との接合部6aで用いられる電気伝導性を有する多孔質体は、その微細構造を観察すると、局所的に気孔率(一定の体積中に占める気孔の体積の割合)がばらついた構造になっている。
【0006】
一般に、多孔質体の気孔率χとヤング率εとの関係式として、
ε=ε0 exp(−Bχ) ε0 :χ=0のときのε B:定数
が知られている。
【0007】
従来の多孔質体の場合、局所的な気孔率のばらつきが大きいため、前記関係式により、局所的なヤング率のばらつきも大きくなる。このため、同じ量の歪みが発生しても、多孔質体の局所では発生する応力のばらつきが大きくなる。そして、所々で破壊応力を超える応力に達して、多孔質体自体が破壊されたり、多孔質体と接合している発電部4(三層膜)やインターコネクタ5が破壊される原因となっていた。また、大きく破壊されるまでに至らない場合でも、部分的な破壊により、燃料極1や空気極3で分極が大きくなったり、接合部6aでは電気伝導が不良になったりして、燃料電池の性能が悪くなる原因となっていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、燃料極、空気極及び前記各極とインターコネクタの接合部を構成している多孔質体の局所的な気孔率のばらつきを抑えて、前記各極の分極を小さくし、また、前記接合部の電気伝導を良好に保って、電池の性能を向上させることができる固体電解質型燃料電池を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、請求項1において、燃料極、固体電解質膜及び空気極からなる三層膜の発電部の前記各極が5μm以下の気孔径を有し、かつ、前記気孔径の均一度が高い多孔質構造を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2において、燃料極、固体電解質膜及び空気極からなる三層膜の発電部の前記各極とインターコネクタの接合部が5μm以下の気孔径を有し、かつ、前記気孔径の均一度が高い多孔質構造を有することを特徴とするものである。
【0011】
なお、気孔径を5μm以下としたのは、本発明者らが実験によって、気孔径と気孔率の各ばらつきの関係を調べた結果、気孔径が5μmを超えると、そのばらつきを抑えても局所的な気孔率のばらつきは小さくならないことを見出だしているためである。そして同じく、気孔径のばらつきの下限値としては、0.05μm、好ましくは0.1μmにあることが望ましいことも確認している。
【0012】
【作用】
本発明によれば、発電部の燃料極と空気極、及び前記各極とインターコネクタの接合部が5μm以下の気孔径を有し、かつ、気孔径の均一度が高い多孔質構造を有することにより、気孔径のばらつきが小さくなり、局所的な気孔率のばらつきも小さく押さえることができるようになる。
【0013】
そして、局所的な気孔率のばらつきが小さいため、局所的なヤング率のばらつきも小さくできる。そのため、仮に歪みが発生しても、多孔質体の局所で発生する応力のばらつきが小さくなり、応力の大きなところでも、破壊応力を超えるような場合をなくすことができる。そして、多孔質体自体が破壊されたり、多孔質体と接合している発電部(三層膜)やインターコネクタが破壊されることも防げる。
【0014】
これにより、燃料極や空気極では分極が大きくなることがなく、また、燃料極、空気極の各極とインターコネクタの接合部では電気伝導が不良になることもない。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の実施例及び比較例につき、図面を参照して説明する。
【0016】
(実施例1)
まず、本発明を平板型の固体電解質型燃料電池の空気極に実施した。
【0017】
空気極材である粒径約0.5μmのLaMnO3 (ランタンマンガナイト)粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤、及び気孔を作るための有機高分子で、分級により粒径を約1μmに揃えた球状セルロース粉末を加えて、空気極ペーストとした。
【0018】
これを固体電解質膜であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)基板の一方の面に塗布して、1200℃で焼き付けた。そして、この基板の反対側の面には、多孔質性のPt(白金)ペーストを塗布し、1000℃で焼き付けて燃料極とし、発電部となる三層膜を得た。
【0019】
(比較例1)
さらに、実施例1と比較を行うべく、空気極材である粒径約0.5μmのLaMnO3 粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤を加えて、空気極ペーストとした。これをYSZ基板に塗布して1200℃で焼き付け、この基板の反対側の面には燃料極として、実施例1と同様に多孔質性のPtペーストを塗布して1000℃で焼き付け、発電部となる三層膜を得た。
【0020】
図2は、実施例1と比較例1を水銀ポロシメータで測定して、空気極の気孔率(空気極の体積に対して気孔体積の占める割合)が30%であるものの気孔径分布を示している。なお、30%の気孔率は多孔質体の最良特性を示す状態として知られているものである。横軸に気孔径、縦軸に任意の気孔体積を採り、分布状況を見たが、比較例1は気孔径分布が広くばらついているのに対して、実施例1によれば、気孔径が5μm以下であり、その分布がより狭い気孔径の範囲に集中し、均一度が高い多孔質構造になっていることがわかる。
【0021】
図3は、実施例1と比較例1について、各試料の電流密度と端子電圧を測定した装置の回路図である。燃料極1と空気極3が固体電解質膜2を挟んで発電部4を構成し、前記各極から燃料電池の運転温度に耐えるPt線8を引き出して、電圧計9及び可変抵抗器10を接続した電流計11に、それぞれ接続した。Pt線8と発電部4の各極が接続されている箇所は、運転温度で耐熱気密性に優れたアルミナ管12で覆っている。
【0022】
次に図4は、これらの実施例1と比較例1について1000℃で発電を行い、図3に示す測定装置を用いて電流密度と端子電圧を測定、比較したものである。この比較から、本発明により空気極の電流・電圧特性が改善されたことがわかる。
【0023】
(実施例2)
次に、本発明を平板型の固体電解質型燃料電池の燃料極に実施した。
【0024】
燃料極材である粒径約0.5μmのNiO(酸化ニッケル)粉末及び粒径約0.5μmのYSZ(イットリア安定化ジルコニア)粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤、及び気孔を作るための有機高分子で、分級により粒径を約1μmに揃えた球状セルロース粉末を加えて、燃料極ペーストとした。
【0025】
これを固体電解質膜であるYSZ基板の一方の面に塗布して、1400℃で焼き付けた。そして、この基板の反対側の面には、多孔質性のPtペーストを塗布し、1000℃で焼き付けて空気極とし、発電部となる三層膜を得た。
【0026】
(比較例2)
さらに、実施例2との比較を行うべく、燃料極材である粒径約0.5μmのNiO粉末及び粒径約0.5μmのYSZ粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤を加えて、燃料極ペーストとした。これをYSZ基板に塗布して1400℃で焼き付け、この基板の反対側の面には空気極として、実施例品と同様に多孔質性のPtペーストを塗布して1000℃で焼き付け、発電部となる三層膜を得た。
【0027】
図5は、実施例2と比較例2を水銀ポロシメータで測定して、燃料極の気孔率(燃料極の体積に対して気孔体積の占める割合)が30%であるものの気孔径分布を示している。横軸に気孔径、縦軸に任意の気孔体積を採り、分布状況を見たが、比較例2は分布が広くばらついているのに対して、実施例2によれば、気孔径が5μm以下であり、その分布がより狭い気孔径の範囲に集中し、均一度が高い多孔質構造になっていることがわかる。
【0028】
図6は、これらの実施例2と比較例2について1000℃で発電を行い、図3に示す測定装置を用いて電流密度と端子電圧を測定、比較したものである。この比較から、本発明により燃料極の電流・電圧特性が改善されたことがわかる。
【0029】
(実施例3)
次に、本発明を平板型の固体電解質型燃料電池の発電部(三層膜)の空気極とインターコネクタの接合部に実施した。
【0030】
接合部材である粒径約0.5μmのLaCoO3 (ランタンコバルタイト)粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤、及び気孔を作るための有機高分子で、分級により粒径を約1μmに揃えた球状セルロース粉末を加えて、接合部用ペーストとした。
【0031】
これを発電部(三層膜)の空気極面に塗布して、インターコネクタをのせて接着し、1200℃で焼き付けた。
【0032】
(比較例3)
さらに、実施例3との比較を行うべく、接合部材である粒径約0.5μmのLaCoO3 粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤を加えて、接合部用ペーストとした。これを実施例3と同様に発電部(三層膜)の空気極面に塗布し、インターコネクタをのせて接着し、1200℃で焼き付けた。
【0033】
図7は、実施例3と比較例3を水銀ポロシメータで測定して、接合部の気孔率(接合部の体積に対して気孔体積の占める割合)が30%であるものの気孔径分布を示している。横軸に気孔径、縦軸に任意の気孔体積を採り、分布状況を見たが、比較例3は分布が広くばらついているのに対して、実施例3によれば、気孔径が5μm以下であり、その分布がより狭い気孔径の範囲に集中し、均一度が高い多孔質構造になっていることがわかる。
【0034】
これらの実施例3と比較例3について1000℃で発電を行い、発電部(三層膜)の燃料極側は水素雰囲気、空気極側は空気雰囲気にして、空気極とインターコネクタ間の抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
Figure 0003548772
【0036】
この比較から、本発明により空気極とインタ−コネクタの接合部の抵抗値が従来より減少し、電気伝導特性が改善されたことがわかる。
【0037】
(実施例4)
次に、本発明を平板型の固体電解質型燃料電池の発電部(三層膜)の燃料極とインターコネクタの接合部に実施した。
【0038】
接合部材である粒径約0.5μmのNiO粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤、及び気孔を作るための有機高分子で、分級により粒径を約1μmに揃えた球状セルロース粉末を加えて、接合部用ペーストとした。
【0039】
これを発電部(三層膜)の燃料極面に塗布して、インターコネクタをのせて接着し、1200℃で焼き付けた。
【0040】
(比較例4)
さらに、実施例4との比較を行うべく、接合部材である粒径約0.5μmのNiO粉末に、ポリビニルブチラール系の結合剤とエタノールとトルエンとを混合した溶剤を加えて、接合部用ペーストとした。これを実施例4と同様に発電部(三層膜)の燃料極面に塗布し、インターコネクタをのせて接着し、1200℃で焼き付けた。
【0041】
図8は、実施例4と比較例4を水銀ポロシメータで測定して、接合部の気孔率が30%であるものの気孔径分布を示している。横軸に気孔径、縦軸に任意の気孔体積を採り、分布状況を見たが、比較例4は分布が広くばらついているのに対して、実施例4によれば、気孔径が5μm以下であり、その分布がより狭い気孔径の範囲(分布の上限は実施例1〜4の中では最も値の大きい5μmである)に集中し、均一度が高い多孔質構造になっていることがわかる。
【0042】
これらの実施例4と比較例4について1000℃で発電を行い、発電部(三層膜)の燃料極側は水素雰囲気、空気極側は空気雰囲気にして、燃料極とインターコネクタ間の抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
Figure 0003548772
【0044】
この比較から、本発明により燃料極とインターコネクタの接合部の抵抗値が従来より減少し、接合部の電気伝導特性が改善されたことがわかる。
【0045】
【発明の効果】
本発明のように、固体電解質型燃料電池の燃料極、空気極及び前記各極とインターコネクタの接合部の気孔径を5μm以下にして、気孔径のばらつきを従来より抑え、均一度が高い多孔質構造としたため、局所的な気孔率のばらつきを小さくすることができる。このため、同じ量の歪みが発生しても、多孔質体の局所で発生する応力のばらつきを抑えられるようになり、部分的な破壊の減少で燃料極や空気極では分極が小さくなる。また同様に、各極とインターコネクタの接合部では電気伝導がよくなるなど、発電部に係る多孔質体構造を改善することにより、固体電解質型燃料電池の性能が向上するという効果を奏するものである
【図面の簡単な説明】
【図1】固体電解質型燃料電池の基本構造を示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施例1及び比較例1の各試料の空気極の気孔径分布図。
【図3】本発明の実施例1及び2の電流密度と端子電圧の測定装置の回路図。
【図4】本発明の実施例1及び比較例1の電流密度と端子電圧の特性図。
【図5】本発明の実施例2及び比較例2の各試料の燃料極の気孔径分布図。
【図6】本発明の実施例2及び比較例2の電流密度と端子電圧の特性図。
【図7】本発明の実施例3及び比較例3の空気極とインターコネクタの接合部の気孔径分布図。
【図8】本発明の実施例4及び比較例4の燃料極とインターコネクタの接合部の気孔径分布図。
【符号の説明】
1 燃料極
2 固体電解質膜
3 空気極
4 発電部
5 インターコネクタ
6a 発電部の各極とインターコネクタの接合部

Claims (2)

  1. 燃料極、固体電解質膜及び空気極からなる三層膜の発電部の前記各極が5μm以下の気孔径を有し、かつ、前記気孔径の均一度が高い多孔質構造を有することを特徴とする平板型の固体電解質型燃料電池。
  2. 燃料極、固体電解質膜及び空気極からなる三層膜の発電部の前記各極とインターコネクタの接合部が5μm以下の気孔径を有し、かつ、前記気孔径の均一度が高い多孔質構造を有することを特徴とする平板型の固体電解質型燃料電池。
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