JP3542923B2 - 掘削ビット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられて掘削作業に供される掘削ビットに係わり、特に軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材あるいは鋼材および無筋コンクリート等の埋設物の掘削とを連続的に行う場合に用いて好適な掘削ビットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このようなカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットとしては、例えば特開昭53−82601号公報において、超硬合金製の軸状のチップの周りに溶接肉盛りや鋳込み法、粉末冶金法などによって軟質合金材よりなる合金マトリックスを囲繞固結してビット本体を形成したものが提案されており、この掘削ビットは上記公報では、岩芯(コア)採取用の円筒状のカッタリングの先端に取り付けられて、該カッタリングをその軸線回りに回転させつつ該軸線方向に前進させることにより、岩石のボーリングに使用されている。なお、この掘削ビットにおいて上記チップはカッタリングの上記軸線に平行に配設されるとともに、該チップの先端および上記ビット本体の先端面は、その上記軸線を含む断面における形状がカッタリングの周方向に亙って均一な形状とされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、例えば既設の下水道本管のシールドトンネルのような地中に埋設された埋設物に、シールド掘削機によって掘削された枝孔を直接接続する掘削工法が研究されている。そして、このような掘削工法においては、シールド掘削機によって上記埋設物に近接する位置まで枝孔を掘削した上で、上述のような掘削ビットを取り付けたカッタリングをシールド掘削機の先端から回転させつつ前進させることにより、この枝孔を上記埋設物に貫通させて接続することが検討されている。
【0004】
しかしながら、このような掘削工法では、上記枝孔と埋設物との間に残された軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリートから形成された上記シールドトンネル等の埋設物の壁部の掘削とが連続して行われるため、上記掘削ビットにおいては、岩層の掘削によってチップの先端がビット本体の先端面全体に亙って摩耗した後に、上記埋設物壁部の掘削が行われることとなる。このため、この埋設物の掘削において掘削効率が著しく劣化してしまうことが避けられず、場合によっては枝孔の接続自体が困難となるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたもので、特に上述のような軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリート等から形成された埋設物の掘削とを確実に連続して行うことが可能な掘削ビットを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、まず本発明では、軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットであって、上記カッタリングの回転方向に沿って先端側に凸となる山型をなす先端面を備えたビット本体に、該ビット本体よりも硬質の複数のチップを、その先端を上記ビット本体の先端面に沿って山型をなすように突出させて植設している。
【0007】
従って、このような掘削ビットでは、上記軟質層から中硬岩層に対しては先端側に突出する山型のビット本体先端面の頂部周辺に植設されたチップによって専ら掘削が行われる一方、上記既設シールドトンネルの壁部のような埋設物を掘削する場合においては、この頂部周辺のチップおよびビット本体先端面が摩耗するのに伴い、上記山型の麓部分に植設された摩耗していないチップが順次掘削に関与することとなって掘削効率が確保されるため、このような埋設物に対しても確実に連続して掘削を行うことが可能となる。
【0008】
そして、このような構成を採用した上で、本発明では第1に、上記ビット本体の先端面がなす山型の斜面が上記軸線に直交する平面に対してなす傾斜角は3°〜12°の範囲に設定されている。これは、この傾斜角が3°を下回るほど小さいと、ビット本体の先端面がなす山型の斜面がなだらかになりすぎ、カッタリングの先端側への送り量によっては軟質層から中硬岩層の掘削においても上記山型の麓部分のチップが掘削に関与して摩耗してしまうおそれがあり、逆に上記傾斜角が12°を上回るほど大きいと上記山型の斜面が急になりすぎ、埋設物の掘削により頂部側のチップが摩耗して麓側のチップが掘削に関与するまでが長くなって、この間の掘削効率が損なわれるおそれがあるからである。
【0009】
一方、このような掘削ビットを先端に取り付けたカッタリングによる掘削においては、上述のように掘削ビットのビット本体先端面が掘削に伴って摩耗するのと同時に、該掘削ビットによって形成される環状の溝の周壁面に摺接することにより、ビット本体の側面も摩耗してしまう。しかも、この側面の摩耗はビット本体の先端側から進行するため、掘削に伴いビット本体はカッタリングの軸線を含む断面において先細りのクサビ形状となり、そのような掘削ビットを取り付けたカッタリングを回転させつつ前進させて掘削を行おうとすると、岩層や埋設物にクサビが打ち込まれるような状態となるので、摩擦抵抗が大きくなってカッタリングの回転トルクが増大するとともに、掘削時に生成された切屑の排出が困難となるという問題が生じる。
【0010】
そこで、このような問題が生じるのを避けるため、本発明では第2に、上記カッタリングの内周側または外周側を向く上記ビット本体の側面を、後端側に向かうに従い漸次後退する傾斜面状に形成しており、これにより上記環状溝の周壁面とビット本体の側面との間に間隙が画成されるので、摩擦抵抗の増大を抑えることができるとともに、この間隙を介して切屑を容易に排出することができる。
【0011】
なお、このようにビット本体の側面を後退させた場合において、その後退角度は2°〜12°の範囲に設定されるのが望ましく、この後退角度が2°を下回るほど小さいと上記間隙も小さくなりすぎて摩擦抵抗の抑制や切屑の円滑な排出を十分に図ることが困難となるおそれがある一方、逆に上記後退角度が12°を上回るほど大きいと、このビット本体の後退した側面と先端面との交差角が小さくなって欠損が生じたり、カッタリングの軸線に平行にはこの側面側に十分な深さまでチップを植設できなくなったり、たとえ該側面に沿ってチップを植設したとしても、摩耗によってチップ先端面と該側面側の周面との交差角が小さくなるため、やはり欠損が生じたりするおそれがある。
【0012】
また、上述したビット本体の側面の摩耗が進行すると、このビット本体に植設されたチップの脱落を招くという問題も生じる。そこで、このような問題を解消するため、本発明では第3に、上記カッタリングの内周側または外周側を向く上記ビット本体の側面に、該ビット本体よりも硬質の補助チップを埋設しており、このような構成を採ることにより、この補助チップによってビット本体の上記側面がクサビ状に摩耗すること自体が防止されるため、摩擦抵抗の増大を抑えることができるとともに、良好な切屑排出性を維持することが可能となる。
【0013】
ただし、この補助チップにおいては、その硬度が、上記チップと同等か、もしくは該チップよりもHRA8低い硬度までの範囲に設定されるのが望ましく、これよりも補助チップの硬度が低いとビット本体の上記側面の摩耗を確実に防止することができなくなるおそれがある一方、補助チップの硬度が上記チップよりも高くなると、補助チップが埋設された上記側面側におけるビット本体の先端面やチップの摩耗が抑制されてしまい、上記埋設物の掘削の際に上記山型の麓側のチップを確実に掘削に関与せしめることができなくなるおそれがある。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1ないし図3は本発明の第1の実施形態の掘削ビット1を示すものである。本実施形態の掘削ビット1は、そのビット本体2が黄銅等の軟質合金または軟鋼によって形成されたものであり、このビット本体2の先端側には、この先端側から見た平面視において図1に示すように概略長方形状をなす刃部3が形成されるとともに、該ビット本体2の後端側は、この刃部3の先端面3aが上記平面視においてなす直方形の幅方向(図1における上下方向。図3においては左右方向)に段違いにずらされるように形成されていて、当該掘削ビット1を図4に示されるようなカッタリング4の先端部に接合されたホルダ5に取り付けるための取付部6とされている。
【0015】
ここで、この取付部6は、該取付部6が刃部3に対して上記幅方向にずらされた側(図1において上側)の部分が上記平面視において略等脚台形状をなすように形成されていて、このずらされた側に向かうに従い互いに接近する側面6a,6aを備えているとともに、この部分には、該取付部6をその底面6bに垂直に貫通する一対の取付孔7,7が、刃部3が上記平面視になす長方形の長手方向(図1、図2における左右方向。)に並ぶように互いに平行に形成されている。また、この長手方向を向く取付部6の両側面には、該側面から突出するように一対の鍔部8,8が形成されている。
【0016】
一方、刃部3には、円柱軸状をなす複数のチップ9…がその先端を刃部3の上記先端面3aから突出させて植設されている。これらのチップ9…は、超硬合金やセラミックス等の硬質材料より形成されていて、その硬度が上記ビット本体2よりもHS50〜80程度高く設定されており、それぞれ上記取付部6の底面6bに対して垂直な方向に、すなわち互いに平行に取り付けられている。また、これらのチップ9…は、上記平面視において刃部3の先端面3aに、上記長手方向に等間隔で並ぶ複数の列(本実施形態では7列)をなすとともに、各列においてもチップ9…が上記幅方向に等間隔をなすように千鳥状に配列されており、しかもこのうち少なくとも上記長手方向の中央部に配設される複数の列においては、1の列において上記幅方向に隣接するチップ9,9同士の間に、この1の列に隣接する列のチップ9が、上記1の列のチップ9,9と上記幅方向に重なり合うようにして配置されている。
【0017】
そして、この刃部3の先端面3aは、上記長手方向において対称にその両端から中央部に向かうに従い漸次先端側に突出する山型をなすように形成されるとともに、各チップ9…の先端は、この先端面から等しい突出量で僅かに突出して、上記先端面3aがなす山型に沿ってやはり山型をなすように配設されている。ただし、本実施形態では、上記チップ9…がなす列のうち長手方向中央に位置する列の部分においてこの先端面3aは取付部6の底面6bに平行な平坦面となるように形成されるとともに、この平坦面から上記長手方向両端側に向けて後端側に向かう山型の先端面3aの麓部分は一定の傾斜角θで傾斜するように形成されており、従ってこの先端面3aは上記平坦面を頂部とする等脚台形状の山型を呈することとなる。さらに、上記傾斜角θは、本実施形態では3°〜12°の範囲に設定されている。なお、本実施形態では、刃部3の取付部6に対してずらされた側の側面3bは、取付部6の底面6bに垂直な方向に形成されている。
【0018】
このような掘削ビット1が取り付けられる上記ホルダ5は、ビット本体2より高硬度の鋼材などによって厚肉の概略平板状に形成されており、円筒状をなす上記カッタリング4の先端部に周方向に等間隔に形成された複数の凹所4a…に、その先端面5aを先端側に向けるとともに側面5b,5cのうち一方をカッタリング4の内周側に向け、他方を外周側に向けて取り付けられている。ここで、このホルダ5には、上記取付部6が嵌挿される取付凹部10が上記先端面5aに開口して側面5b,5c間を貫くように形成されており、このうち側面5b側においてこの取付凹部10には、掘削ビット1の取付部6の上記側面6a,6aがなす角度と等しい挟角で該側面5b側に向かうに従い互いに接近する壁面10a,10aが形成されるとともに、その底面10bには上記側面6a,6aを壁面10a,10aに当接させた状態で上記取付孔7,7と同軸となるように取付ネジ孔11,11が形成される一方、この取付凹部10の側面5c側には、掘削ビット1の取付部6の上記鍔部8,8が嵌合可能な凹部12,12が底面10b側に形成されている。
【0019】
しかして、このように構成されたホルダ5に上記掘削ビット1は、ホルダ5の側面5c側から上記側面6a,6aを前向きにしてその取付部6を上記取付凹部10に嵌挿させ、これら側面6a,6aを取付凹部10の壁面10a,10aに当接させるとともに上記底面6bを取付凹部10の底面10bに密着させ、かつ鍔部8,8を凹部12,12に嵌合させた状態で、上記取付孔7,7に挿通した図示されない一対の取付ボルトを上記取付ネジ孔11,11にねじ込むことにより、上記刃部3をホルダ5の上記先端面5aから突出させて取り付けられる。従って、この掘削ビット1は、その刃部3の上記長手方向をカッタリング4の周方向に沿わせるとともに、上記幅方向をカッタリング4の径方向に向けて取り付けられ、さらに取付部6の底面6bおよび刃部3の先端面3aの頂部の上記平坦面がカッタリング4の軸線に直交する方向に配置される。
【0020】
また、このように上記取付凹部10に嵌挿されて取り付けられた状態で、掘削ビット1の取付部6の上記側面6a,6a間に位置する側面6cとこの側面6cとは反対側の側面6dは、ホルダ5の上記側面5bと側面5cにそれぞれ面一となるようにされており、従って上述のようにこの取付部6と刃部3とが段違いにずらされていることにより、掘削ビット1の刃部3は、その上記側面3bが上記平面視にホルダ5の上記側面5cに対して上記幅方向に一段突出するように配設される。一方、上記カッタリング4の複数の上記凹所4a…に取り付けられる上記ホルダ5…は、該カッタリング4の周方向に隣接するホルダ5,5同士がその側面5b,5cをカッタリング4の内周側と外周側とに互い違いに向けるようにして配設されており、従って該ホルダ5…に取り付けられる掘削ビット1…も、その刃部3の上記側面3bがカッタリング4の内周側と外周側とに交互に突出するように配設される。ただし、これらの内外周に交互に突出する掘削ビット1…の刃部3…の先端面3aにおいては、カッタリング4の回転に伴う互いのチップ9…の回転軌跡が、該カッタリング4の径方向中央部でオーバーラップするようになされている。
【0021】
しかるに、このようにホルダ5を介してカッタリング4の先端に取り付けられた掘削ビット1…は、このカッタリング2が上述のようにシールド掘削機の先端からその中心軸線回りに周方向に回転されつつ該軸線方向に前進させられることにより、その刃部3によって上述のように軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリート等から形成された既設シールドトンネル等の埋設物の掘削とを連続して行うのに使用される。従って、ビット本体2の刃部3の先端面3aは上記カッタリング4の回転方向に沿って先端側に凸となる山型を呈することとなり、またこの刃部3に植設されたチップ9…も、その先端を上記先端面3aに沿って回転方向に山型をなすように突出させて回転させられるため、上記構成の掘削ビット1では、軟質層から中硬岩層のように比較的柔らかい岩層を掘削するときには、これらのチップ9…のうち最も先端側に突出する上記山型の頂部に植設されたチップ9…が専ら掘削に供され、他のチップ9がこの岩層の掘削によって摩耗するのを避けることができる。
【0022】
その一方で、これら掘削ビット1…が上記既設シールドトンネル等に達して鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材と無筋コンクリートのような埋設物を掘削する際には、最も先端側に突出する上記山型の頂部に植設された列のチップ9…が摩耗するのに伴い、この列の上記長手方向に隣接する列のチップ9…が同じ高さとなって摩耗した頂部の列のチップ9…とともに掘削に供され、これらのチップ9…が摩耗すると、さらにその上記長手方向に隣接する列のチップ9…が掘削に供されることとなる。すなわち、上記構成の掘削ビット1によれば、上述のような埋設物に対しては、このようにチップ9…が摩耗してゆくことにより、ビット本体2の刃部3の先端面3aがなす山型の麓部分に植設されたチップ9…が順次掘削に関与することとなって、掘削効率が損なわれるようなことがないばかりか、むしろ摩耗するほど高い掘削効率を確保することができ、従って上述のような掘削工法における軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリート等から形成された埋設物の掘削とを、確実に連続して行うことが可能となる。
【0023】
ここで、本実施形態では、このビット本体2の刃部3の先端面3aがなす山型の麓部分が一定の傾斜角θで傾斜するように形成されており、この傾斜角θが3°〜12°の範囲となるようにされているが、この傾斜角θが3°を下回るほど小さいとこの先端面3aがなす山型がなだらかとなりすぎ、該先端面3aに沿うように山型に配置されるチップ9…の段差も小さくなりすぎて、カッタリング4の先端側への送り量が大きい場合には、上記軟質層から中硬岩層の掘削においても山型の麓部分のチップ9…が掘削に供されて摩耗してしまうおそれがある。一方、これとは逆に上記傾斜角θが12°を上回るほど大きいと、上記先端面3aがなす山型の傾斜が急になりすぎ、従ってこの先端面に沿って山型に配置されるチップ9…の段差も大きくなって、該山型の頂部側に配設されるチップ9が摩耗して麓側のチップ9が掘削に関与するまでの間隔が長くなりすぎ、この間の掘削効率の向上が望めなくなるおそれがある。従って、上記傾斜角θは本実施形態のように3°〜12°の範囲に設定されるのが望ましい。
【0024】
なお、本実施形態では、このようにビット本体2の刃部3の先端面3aが一定の傾斜角θで傾斜する山型に形成されているが、例えばこの先端面3aをカッタリング4の回転方向に向けて先端側に向けて凸となる円筒面状に形成するなどして、この傾斜角θが変化するようにしてもよい。また、本実施形態ではこの先端面3aがなす山型の頂部に形成される上記平坦面に、1列の上記チップ9…が配列されているが、軟質層から中硬岩層における掘削効率を向上させるためにこの平坦面に2列あるいはそれ以上のチップ9…を配設するようにしてもよい。さらに、本実施形態では上記先端面3aが、カッタリング4の回転方向に沿って対称な形状で先端側に突出した後、後退する1つの山型をなすように形成されているが、例えばこの山型の頂部がカッタリング4の回転方向側やこの回転方向の後方側に偏った位置にあってもよく、また先端面3aに2以上の山型が形成されていてもよい。
【0025】
さらにまた、本実施形態では、このチップ9がビット本体2よりも硬質であって、掘削によるチップ9の摩耗よりもビット本体2の先端面3aの摩耗が促進されやすく、このためチップ9が先端面3aに埋没することなく掘削効率を確実に確保することができるとともに、チップ9…間に先端面3aの摩耗による間隔があけられるため、切屑の排出が容易であるという効果も得られる。ただし、このチップ9とビット本体2との硬度差が小さすぎるとこのような効果が十分ではなく、逆に硬度差が大きすぎると、ビット本体2の摩耗が著しくなってチップ9の脱落を招いたりするおそれがあるため望ましくない。このため、このチップ9に対するビット本体2の硬度差は、本実施形態のようにHS50〜80の範囲に設定されるのが望ましい。
【0026】
一方、本実施形態ではビット本体2の上記刃部3と取付部6とがずらされて形成されていて、このような掘削ビット1がカッタリング4の先端に、上記刃部3の側面3bを内周側と外周側とに交互に突出させ、かつ先端面3aのチップ9…の回転軌跡がオーバーラップするように取り付けられている。このため、上記実施形態の掘削ビット1を装着したカッタリング4においては、個々の掘削ビット1に作用する負荷の低減を図ってその寿命の延長を促しつつも、カッタリング4の厚さ以上の掘削幅を確保することができ、カッタリング4の内外周面が掘削ビット1…によって形成された環状溝に摺接してカッタリング4の回転トルクが増大するような事態を防止することができる。しかも、このように刃部3をカッタリング4の内外周側に突出させた場合、ビット本体2には刃部3が突出する側とは反対側に掘削負荷が作用することとなるが、これに対して本実施形態では、この掘削負荷が作用する側に向けて互いに接近する側面6a,6aが上記取付部6に形成されていて、これらの側面6a,6aがホルダ5の壁面10a,10aに当接させられてビット本体2が取り付けられているので、かかる掘削負荷に対しても十分な取付剛性を確保することが可能である。
【0027】
次に、図5は、本発明の第2の実施形態を示すものであり、上記第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。すなわち、この第2の実施形態においては、その掘削ビット21のビット本体2における刃部3の取付部6に対してずらされた側の上記側面3b、すなわち当該掘削ビット21を上記カッタリング4の先端に取り付けた状態においてこのカッタリング4の内周側または外周側を向いて突出するビット本体2の側面3bが、上記先端面3aから後端側に向かうに従い上記幅方向に漸次後退する傾斜面状に形成されていることを特徴としており、この側面3bが後退しつつ傾斜する後退角度αは、本実施形態では2°〜12°の範囲に設定されている。また、本実施形態では、このように側面3bが後退傾斜させられているのに伴い、刃部3に植設される上記チップ9…も、最も側面3b側に植設されるチップ9が上記後退角度αと等しい角度で傾斜させられるとともに、このチップ9と同じ列における次のチップ9は上記後退角度αの略半分の傾斜角で傾斜させられている。
【0028】
しかるに、このように構成された掘削ビット21では、該掘削ビット21を装着した上記カッタリング4において、この掘削ビット21により形成される環状溝の周壁面とこの周壁面に対向するビット本体2の上記側面3bとの間に、後端側に向けて漸次大きくなる間隙が画成されることとなり、この側面3bが上記周壁面に摺接することによる摩擦抵抗の低減を図ることができて、当該カッタリング4の回転トルクを一層軽減することができるとともに、掘削時に生成される切屑をこの間隙を介して容易に排出することが可能となる。しかも、本実施形態では、この傾斜した側面3b側のチップ9…が、該側面3bの傾斜に合わせて後退傾斜するように植設されているので、掘削によって刃部3の側面3b側に摩耗が生じても、硬質のチップ9…の側面が露出したところでこの摩耗が進行するのを抑制して上記間隙を確保することができ、従ってより長期に渡って上述の摩擦抵抗の低減や良好な切屑排出性を図ることが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態ではこの側面3bの後退角度αを2°〜12°の範囲に設定しているが、これは、この後退角度αが2°を下回るほど該側面3bの傾斜が小さくなりすぎると、刃部3によって形成される上記環状溝の周壁面との間の上記間隙も小さくなり、この周壁面と側面3bとの摩擦抵抗を十分に抑制することができなくなったり、良好な切屑の排出性が損なわれたりするおそれがあるからである。その一方で、この後退角度αが12°を上回るほど大きいと、刃部3の上記先端面3aとこの側面3bとの交差角が小さくなりすぎて、この交差部分に欠損が生じやすくなったり、第1の実施形態のようにチップ9…をビット本体2の底面6bに垂直に植設できなかったり、また本実施形態のように該側面3bに沿ってチップ9を後退傾斜させても、該チップ9の先端面と側面3b側の周面との交差角が小さくなってやはり欠損等が生じたりするおそれがある。このため、上記後退角度αは、本実施形態のように2°〜12°の範囲に設定されるのが望ましい。
【0030】
さらに、図6および図7は本発明の第3の実施形態を示すものであり、この第3の実施形態の掘削ビット31では、該掘削ビット31を上記カッタリング4に取り付けた状態においてこのカッタリング4の内周側または外周側を向いて突出するビット本体2の刃部3の側面3bに、該ビット本体2よりも硬質の補助チップ32…を埋設したことを特徴としている。ここで、上記補助チップ32…は、断面略等脚台形をなす軸状に形成されていて、千鳥状に配設された上記チップ9…の列のうち上記側面3bとの間に間隔があけられる列の当該間隔部分の先端面3a側に、ビット本体2の上記底面6bに垂直に、かつ上記等脚台形の幅狭となる辺側を側面3b側に向け、しかも上記幅方向において最も側面3b側のチップ9と略同位置か、もしくは側面3b側に位置するように植設させられている。また、この補助チップ32の硬度は、チップ9と略同等か、該チップ9の硬度よりもHRA8低い硬度までの範囲に設定されている。なお、この第3の実施形態において上記側面3bおよびチップ9…は、第1の実施形態と同様にビット本体2の上記底面6bに垂直な方向に配設されている。
【0031】
しかるに、このように構成された第3の実施形態においては、上述のように刃部3によって形成された環状溝の周壁面との摺接によって上記側面3bが摩耗すると、この側面3b側に植設された補助チップ32…が露出してそれ以上の刃部3の摩耗が抑制されるので、この摩耗により側面3bが先細りのクサビ状に摩耗してしまうのを防いで摩擦抵抗の増大や切屑排出性の劣化を抑制することができるとともに、かかる摩耗が促進されてチップ9が脱落してしまうような事態をも防止することが可能となる。また、特に本実施形態では上記補助チップ32が断面等脚台形状に形成されていて、その幅狭となる辺側を側面3b側に向けて植設されているので、側面3bがある程度摩耗して補助チップ32が露出してもこの補助チップ32自体が脱落してしまうようなこともなく、より確実に摩耗の進行を抑えてチップ9の脱落を防止することができる。
【0032】
なお、本実施形態ではこの補助チップ32の硬度を、上記チップ9の硬度と略同等か、HRA8程度低い範囲までに設定しているが、これは、補助チップ32の硬度がこの範囲よりも低い硬度であると、側面3bの摩耗を確実に抑制することができなくなるおそれがある一方、逆に補助チップ32の硬度がチップ9の硬度を上回るほど高いと、特に上記既設の埋設物の掘削の際に、山型に形成された刃部3の先端面3aやこの山型に合わせて突出させられたチップ9…の摩耗に対して、補助チップ32…や上記長手方向に該補助チップ32,32間に配置されるチップ9の摩耗の進行が遅れ、チップ9…の摩耗によって掘削に関与するチップ9…を確実に増大させて掘削効率の向上を図ることが困難となるおそれが生じるからである。従って、この補助チップ32の硬度は、本実施形態のようにチップ9と略同等からHRA8程度低い範囲までに設定されるのが望ましい。また、この第3の実施形態と上記第2の実施形態とを組み合わせて、後退傾斜した側面3bに補助チップ32を埋設するようにしてもよい。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、軟質層から中硬岩層の掘削の際には、掘削ビットの山型に形成されたビット本体先端面の頂部側のチップによって掘削が行われるため、このビット本体に植設されたすべてのチップが摩耗してしまうのを防ぐことができる一方、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリート等から形成された既設の埋設物の掘削を行う場合においては、上記先端面およびチップが上記山型の頂部側から麓部分側に摩耗するのに伴い掘削に関与するチップが増加するので効率的な掘削を行うことができ、このような軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材、あるいは鋼材および無筋コンクリートから形成された埋設物の掘削とを確実に連続的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態の掘削ビット1およびホルダ5を先端側から見た平面図である。
【図2】図1に示す実施形態の掘削ビット1およびホルダ5の側面図である。
【図3】図1におけるZZ断面図である。
【図4】図1に示す実施形態の掘削ビット1を取り付けたカッタリング4の一部を先端側から見た平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の掘削ビット21およびホルダ5を示す図1におけるZZ断面図に相当する断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態の掘削ビット31およびホルダ5を先端側から見た平面図である。
【図7】図6に示す実施形態の掘削ビット31およびホルダ5の側面図である。
【符号の説明】
1,21,31 掘削ビット
2 ビット本体
3 刃部
3a 刃部3の先端面(ビット本体2の先端面)
3b 刃部3の側面(ビット本体2の側面)
4 カッタリング
5 ホルダ
6 取付部
9 チップ
10 取付凹部
32 補助チップ
θ ビット本体2の先端面3aの傾斜角
α ビット本体2の側面3bの後退角度
Claims (5)
- 軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットであって、上記カッタリングの回転方向に沿って先端側に凸となる山型をなす先端面を備えたビット本体に、該ビット本体よりも硬質の複数のチップが、その先端を上記ビット本体の先端面に沿って山型をなすように突出させて植設されており、上記ビット本体の先端面がなす山型の斜面が上記軸線に直交する平面に対してなす傾斜角が3°〜12°の範囲に設定されていることを特徴とする掘削ビット。
- 軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットであって、上記カッタリングの回転方向に沿って先端側に凸となる山型をなす先端面を備えたビット本体に、該ビット本体よりも硬質の複数のチップが、その先端を上記ビット本体の先端面に沿って山型をなすように突出させて植設されており、上記カッタリングの内周側または外周側を向く上記ビット本体の側面が、後端側に向かうに従い漸次後退する傾斜面状に形成されていることを特徴とする掘削ビット。
- 上記側面の後退角度が2°〜12°の範囲に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の掘削ビット。
- 軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットであって、上記カッタリングの回転方向に沿って先端側に凸となる山型をなす先端面を備えたビット本体に、該ビット本体よりも硬質の複数のチップが、その先端を上記ビット本体の先端面に沿って山型をなすように突出させて植設されており、上記カッタリングの内周側または外周側を向く上記ビット本体の側面には、該ビット本体よりも硬質の補助チップが埋設されていることを特徴とする掘削ビット。
- 上記補助チップの硬度が、上記チップと同等か、もしくは該チップよりもHRA8低い硬度までの範囲に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の掘削ビット。
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