JP3542435B2 - フッ化物結晶の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、真空紫外域から遠赤外域までの広い波長範囲において用いられる各種光学素子、レンズ、窓材、プリズム等に好適であるフッ化物結晶製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
蛍石等のフッ化物結晶は、真空紫外域から遠赤外域までの広い波長範囲において透過率が高く、各種光学素子、レンズ、窓材、プリズム等に広く利用されている。このようなフッ化物結晶は、結晶原料のみを融解して公知のるつぼ降下法等によって結晶化させると白濁して失透する傾向を有するため、透明な結晶を得るには、結晶原料の酸化防止と不純物除去のためのスカベンジャーを添加する必要がある。そこで、スカベンジャーとして、フッ化鉛(Stockbarger,J.Opt.Soc.Am.39,1949参照)や、フッ化カドミウム(Radzhabov and Figura,Phys.Stat.Sol.(b)136,1986参照)等を用いる技術が開発されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記従来の技術によれば、フッ化物を結晶化する際にスカベンジャーとして用いるフッ化鉛やフッ化カドミウムはいずれも、人体に有毒で土壌汚染等の環境破壊につながる有害物質であるため、使用後の廃棄処理が難しいうえに、使用中に作業者が吸引することのないように充分な注意が必要である。
【0004】
加えて、製品であるフッ化物結晶に、スカベンジャーとして用いたフッ化鉛やフッ化カドミウムが微量ではあるが残留し、このために透過率が低下する等の未解決の課題もある。
【0005】
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであって、結晶原料に添加するスカベンジャーが人体に無害であり、従って、これを取り扱う作業者に対する安全性が高く、使用後のスカベンジャーの廃棄処理も簡単であり、しかも、原料を加熱、混合する工程を適切に制御することで、製品にスカベンジャーが残留して透過率等を低下させるのを回避できる安価で光学特性にすぐれたフッ化物結晶製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のフッ化物結晶の製造方法は、原料にスカベンジャーを添加し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる工程を有し、前記スカベンジャーとして、前記原料の結晶成長融点より少なくとも400℃低い融点を有するフッ化亜鉛、フッ化ビスマス、フッ化ナトリウムまたはフッ化リチウムを用いことを特徴とする。
【0008】
前記フッ化物結晶が、蛍石、フッ化バリウムまたはフッ化マグネシウムの結晶であるとよい。
【0009】
【作用】
結晶原料の酸化防止や不純物除去のために用いられるスカベンジャーが人体に有害なフッ化鉛やフッ化カドミウムであれば、その取り扱いや使用後の廃棄処理が難しいために、製造コストの上昇等のトラブルを招く。そこで、フッ化鉛やフッ化カドミウムに替えて、原料の結晶成長融点より少なくとも400℃低い融点を有し人体に対する安全性の高いフッ化亜鉛、フッ化ビスマス、フッ化ナトリウムまたはフッ化リチウムを用いることで、前記トラブルを回避する。また、これらのフッ化物をスカベンジャーとして原料に添加し、その加熱工程等の制御を最適化することで、製品にスカベンジャーが残留するのを防ぐことができる。これによって、極めて光学特性のすぐれた安価なフッ化物結晶を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
第1実施例
スカベンジャーとしてフッ化亜鉛を添加してフッ化物結晶である蛍石の結晶を製作する。フッ化亜鉛は人体に対する安全性が高く、蛍石の結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化亜鉛を原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化亜鉛の添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0012】
フッ化亜鉛の添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化亜鉛の添加量が5mol%以上になると、フッ化亜鉛が結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0013】
フッ化亜鉛の添加量が0.1〜1mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高い蛍石の結晶を製造できる。
【0014】
これは、フッ化亜鉛の添加量を10mol%,5mol%,1mol%,0.3mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させて蛍石の結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0015】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0016】
蛍石の原料とスカベンジャーであるフッ化亜鉛とはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0017】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、原料が完全に融解するまでの間にフッ化亜鉛がスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0018】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜1mol%のフッ化亜鉛を添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明な蛍石を安価に製造することができる。
【0019】
第2実施例
スカベンジャーとしてフッ化ビスマスを添加して蛍石の結晶を製作する。フッ化ビスマスは人体に対する安全性が高く、蛍石の結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化ビスマスを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ビスマスの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0020】
フッ化ビスマスの添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ビスマスの添加量が3mol%以上になると、フッ化ビスマスが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0021】
フッ化ビスマスの添加量が0.1〜0.7mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高い蛍石の結晶を製造できる。
【0022】
これは、フッ化ビスマスの添加量を7mol%,3mol%,0.7mol%,0.2mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させて蛍石の結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0023】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0024】
蛍石の原料とスカベンジャーであるフッ化ビスマスとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0025】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ビスマスがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0026】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜0.7mol%のフッ化ビスマスを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明な蛍石を安価に製造することができる。
【0027】
第3実施例
スカベンジャーとしてフッ化ナトリウムを添加して蛍石の結晶を製作する。フッ化ナトリウムは人体に対する安全性が高く、蛍石の結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化ナトリウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ナトリウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0028】
フッ化ナトリウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ナトリウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化ナトリウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0029】
フッ化ナトリウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高い蛍石の結晶を製造できる。
【0030】
これは、フッ化亜鉛の添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させて蛍石の結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0031】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0032】
蛍石の原料とスカベンジャーであるフッ化ナトリウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0033】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ナトリウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0034】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化ナトリウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明な蛍石を安価に製造することができる。
【0035】
第4実施例
スカベンジャーとしてフッ化リチウムを添加して蛍石の結晶を製作する。フッ化リチウムは人体に対する安全性が高く、蛍石の結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化リチウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化リチウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0036】
まず、フッ化リチウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化リチウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化リチウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0037】
フッ化リチウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高い蛍石の結晶を製造できる。
【0038】
これは、フッ化リチウムの添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させて蛍石の結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0039】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0040】
蛍石の原料とスカベンジャーであるフッ化リチウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0041】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化リチウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0042】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化リチウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明な蛍石を安価に製造することができる。
【0043】
第1〜第4実施例における実験結果を表1にまとめて示す。
【0044】
【表1】
Figure 0003542435
第5実施例
スカベンジャーとしてフッ化亜鉛を添加してフッ化物結晶であるフッ化バリウムの結晶を製作する。フッ化亜鉛は人体に対する安全性が高く、フッ化バリウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化亜鉛を原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化亜鉛の添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0045】
まず、フッ化亜鉛の添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化亜鉛の添加量が5mol%以上になると、フッ化亜鉛が結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0046】
フッ化亜鉛の添加量が0.1〜1mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化バリウムの結晶を製造できる。
【0047】
これは、フッ化亜鉛の添加量を10mol%,5mol%,1mol%,0.3mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させてフッ化バリウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0048】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0049】
フッ化バリウムの原料とスカベンジャーであるフッ化亜鉛とはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0050】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化亜鉛がスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0051】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜1mol%のフッ化亜鉛を添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化バリウムを安価に製造することができる。
【0052】
第6実施例
スカベンジャーとしてフッ化ビスマスを添加してフッ化バリウムの結晶を製作する。フッ化ビスマスは人体に対する安全性が高く、フッ化バリウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有し、フッ化ビスマスを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ビスマスの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0053】
まず、フッ化ビスマスの添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ビスマスの添加量が3mol%以上になると、フッ化ビスマスが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0054】
フッ化ビスマスの添加量が0.1〜0.7mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化バリウムの結晶を製造できる。
【0055】
これは、フッ化ビスマスの添加量を7mol%,3mol%,0.7mol%,0.2mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させてフッ化バリウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0056】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0057】
フッ化バリウムの原料とスカベンジャーであるフッ化ビスマスとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0058】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ビスマスがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0059】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜0.7mol%のフッ化ビスマスを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化バリウムを安価に製造することができる。
【0060】
第7実施例
スカベンジャーとしてフッ化ナトリウムを添加してフッ化バリウムの結晶を製作する。フッ化ナトリウムは人体に対する安全性が高く、フッ化バリウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化ナトリウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ナトリウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0061】
まず、フッ化ナトリウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ナトリウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化ナトリウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0062】
フッ化ナトリウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化バリウムの結晶を製造できる。
【0063】
これは、フッ化ナトリウムの添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させてフッ化バリウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0064】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0065】
フッ化バリウムの原料とスカベンジャーであるフッ化ナトリウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0066】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ナトリウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0067】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化ナトリウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化バリウムを安価に製造することができる。
【0068】
第8実施例
スカベンジャーとしてフッ化リチウムを添加してフッ化バリウムの結晶を製作する。フッ化リチウムは人体に対する安全性が高く、フッ化バリウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化リチウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化リチウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0069】
まず、フッ化リチウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化リチウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化リチウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0070】
フッ化リチウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化バリウムの結晶を製造できる。
【0071】
これは、フッ化リチウムの添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させてフッ化バリウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0072】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0073】
フッ化バリウムの原料とスカベンジャーであるフッ化リチウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0074】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化リチウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0075】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化リチウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化バリウムを安価に製造することができる。
【0076】
第5〜第8実施例における実験結果を表2にまとめて示す。
【0077】
【表2】
Figure 0003542435
第9実施例
スカベンジャーとしてフッ化亜鉛を添加してフッ化物結晶であるフッ化マグネシウムの結晶を製作する。フッ化亜鉛は人体に対する安全性が高く、フッ化マグネシウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化亜鉛を原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化亜鉛の添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0078】
まず、フッ化亜鉛の添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化亜鉛の添加量が5mol%以上になると、フッ化亜鉛が結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0079】
フッ化亜鉛の添加量が0.1〜1mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化マグネシウムの結晶を製造できる。
【0080】
これは、フッ化亜鉛の添加量を10mol%,5mol%,1mol%,0.3mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させてフッ化マグネシウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0081】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0082】
フッ化マグネシウムの原料とスカベンジャーであるフッ化亜鉛とはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0083】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化亜鉛がスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0084】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜1mol%のフッ化亜鉛を添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化マグネシウムを安価に製造することができる。
【0085】
第10実施例
スカベンジャーとしてフッ化ビスマスを添加してフッ化マグネシウムの結晶を製作する。フッ化ビスマスは人体に対する安全性が高く、フッ化マグネシウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化ビスマスを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ビスマスの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0086】
まず、フッ化ビスマスの添加量を0.05mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ビスマスの添加量が3mol%以上になると、フッ化ビスマスが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0087】
フッ化ビスマスの添加量が0.1〜0.7mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化マグネシウムの結晶を製造できる。
【0088】
これは、フッ化ビスマスの添加量を7mol%,3mol%,0.7mol%,0.2mol%,0.1mol%,0.05mol%に変化させてフッ化マグネシウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0089】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0090】
フッ化マグネシウムの原料とスカベンジャーであるフッ化ビスマスとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0091】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ビスマスがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0092】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.1〜0.7mol%のフッ化ビスマスを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化マグネシウムを安価に製造することができる。
【0093】
第11実施例
スカベンジャーとしてフッ化ナトリウムを添加してフッ化マグネシウムの結晶を製作する。フッ化ナトリウムは人体に対する安全性が高く、フッ化マグネシウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有し、フッ化ナトリウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化ナトリウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0094】
まず、フッ化ナトリウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化ナトリウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化ナトリウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0095】
フッ化ナトリウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化マグネシウムの結晶を製造できる。
【0096】
これは、フッ化ナトリウムの添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させてフッ化マグネシウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって波長900〜190nmの光に対する透過率を調べた結果判明したものである。
【0097】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0098】
フッ化マグネシウムの原料とスカベンジャーであるフッ化ナトリウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0099】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化ナトリウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0100】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化ナトリウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化マグネシウムを安価に製造することができる。
【0101】
第12実施例
スカベンジャーとしてフッ化リチウムを添加してフッ化マグネシウムの結晶を製作する。フッ化リチウムは人体に対する安全性が高く、フッ化マグネシウムの結晶成長融点より400℃以上低い融点を有する。フッ化リチウムを原料に均一に混合させてしかも製品となる結晶中に残留させないためには、フッ化リチウムの添加量を以下のように限定し、かつ、原料を混合、融解する工程を適切に制御する必要がある。
【0102】
フッ化リチウムの添加量を0.1mol%以下にすると、スカベンジャーとしての反応が不充分となり、結晶原料の酸化や不純物の残留等のために結晶が失透する。他方、フッ化リチウムの添加量が10mol%以上になると、フッ化リチウムが結晶中に残留し、このために結晶が失透したりクラックが発生する。
【0103】
フッ化リチウムの添加量が0.2〜2mol%の範囲であれば、充分な透明性を有し、しかも、広い波長範囲において透過率の高いフッ化マグネシウムの結晶を製造できる。
【0104】
これは、フッ化リチウムの添加量を20mol%,10mol%,2mol%,0.6mol%,0.2mol%,0.1mol%に変化させてフッ化マグネシウムの結晶を製造し、各サンプルについて透明性を観察し、紫外域から赤外域にわたって透過率を調べた結果判明したものである。
【0105】
なお、スカベンジャーとして従来例と同様にフッ化鉛を用いると、フッ化鉛の残留のために紫外域の光に対する吸収が現れることが知られている。
【0106】
フッ化マグネシウムの原料とスカベンジャーであるフッ化リチウムとはなるべく均一に混合しなければならない。そこで、これらをポリビンに入れて回転混合する方法を採用する。原料の全体量に対するポリビンの大きさと回転速度と混合時間を最適化することで所望通りに均一に混合することができる。
【0107】
混合した原料を黒鉛製のるつぼに充填し、高温の真空炉に設置して加熱、融解する。このとき、完全に融解するまでの間にフッ化リチウムがスカベンジャーとしての反応を完了し、不純物とともにるつぼの外へ揮発してしまわなければならない。そこで、融解時の真空炉の真空度を1×10-6Torr以下に制御し、加熱速度を適宜調節する。このようにして原料を融解し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる。
【0108】
本実施例によれば、スカベンジャーとして0.2〜2mol%のフッ化リチウムを添加し、原料の融解時の加熱速度や真空度を適切に制御することによって、広い波長範囲において高い透過率を有する透明なフッ化マグネシウムを安価に製造することができる。
【0109】
第9〜第12実施例における実験結果を表3にまとめて示す。
【0110】
【表3】
Figure 0003542435
【0111】
【発明の効果】
本発明は上述のとおり構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
【0112】
フッ化物結晶の製造工程において、結晶原料に添加するスカベンジャーが人体に無害であり、従って、これを取り扱う作業者に対する安全性が高く、使用後の廃棄処理も簡単であるため、フッ化物結晶の製造コストを大幅に低減できる。
【0113】
また、原料を加熱、混合する工程を適切に制御すれば、製品にスカベンジャーが残留して透過率等を低下させるおそれもないため、フッ化物結晶の光学特性を大きく改善できる。
【0114】
その結果、安価でしかもすぐれた光学特性を有するフッ化物結晶を実現できる。

Claims (2)

  1. 原料にスカベンジャーを添加し、るつぼ降下法によって結晶を成長させる工程を有し、前記スカベンジャーとして、前記原料の結晶成長融点より少なくとも400℃低い融点を有するフッ化亜鉛、フッ化ビスマス、フッ化ナトリウムまたはフッ化リチウムを用いることを特徴とするフッ化物結晶の製造方法。
  2. 前記フッ化物結晶が、蛍石、フッ化バリウムまたはフッ化マグネシウムの結晶であることを特徴とする請求項記載のフッ化物結晶の製造方法。
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