JP3541789B2 - 単結晶SiCの育成方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶SiCの育成方法に関するもので、詳しくは、発光ダイオードやパワーデバイス、高周波デバイスなどの半導体デバイスとして幅広い分野で用いられる単結晶SiCの育成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
SiC(炭化珪素)は、耐熱性および機械的強度に優れているだけでなく、放射線にも強く、さらに不純物の添加によって電子や正孔の価電子制御が容易である上、広い禁制帯幅を持つ(因みに、6H型のSiC単結晶で約3.0eV、4H型のSiC単結晶で3.3eV)ために、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)などの既存の半導体材料では実現することができない高温、高周波、耐電圧、耐環境性を実現することが可能で、次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体材料として注目され、かつ期待されている。
【0003】
この種の単結晶SiCの育成方法として、従来、黒鉛坩堝内の低温側に種結晶を固定配置し、高温側に原料となるSiC粉末を挿入配置して黒鉛坩堝内を不活性雰囲気中で2000〜2400℃の高温に加熱することによって、SiC粉末を昇華させて低温側の種結晶の表面上で再結晶させて単結晶の育成を行なう昇華再結晶法(改良レーリー法)や、C原子を含む坩堝内にシリコン(Si)融液を収納し、このSi融液を坩堝の加熱により結晶成長温度まで加熱するとともに、このSi融液の低温域にホルダ等で支持させたSiC単結晶基板を一定時間浸漬させることにより、Si融液中に坩堝の構成元素であるCを溶解させて両者の反応により生成されるSiC単結晶をSiC単結晶基板の表面上にエピタキシャル成長させる液相エピタキシャル成長法(通称、LPE法)が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来の育成方法のうち、昇華再結晶法の場合は、成長速度が数100μm/hr.と非常に早い反面、昇華の際、SiC粉末がいったんSi,SiC,SiCに分解されて気化し、さらに坩堝の構成元素である黒鉛の一部も昇華するために、温度変化によって種結晶の表面に到達するガスの種類が異なり、これらの分圧を化学量論的に正確に制御することが技術的に非常に困難であるために不純物が混入しやすく、その混入した不純物や熱に起因する歪みの影響で結晶欠陥やマイクロパイプ欠陥等を発生しやすくて、性能的、品質的に安定した単結晶SiCが得られないという問題がある。
【0005】
一方、LPE法の場合は、昇華再結晶法で見られるようなマイクロパイプ欠陥や結晶欠陥などの発生が少なく、昇華再結晶法で製造されるものに比べて品質的に優れた単結晶SiCが得られる反面、成長過程が、図5の黒三角プロットを結ぶ線で示すように、Si融液中へのCの溶解度によって律速されるために、成長度速度が10μm/hr.以下と非常に遅くて単結晶SiCの生産性が低く、製品(単結晶SiC)コストが非常に高価なものになる。また、Si融液中へのCの溶解度を上昇させて成長速度を速めるために、Sc等の遷移金属をSi融液中に混ぜる方法も採られているが、この場合は、遷移金属が成長結晶中に不純物として取り込まれるために、純度が低下して品質的、性能的に十分満足のゆくものが得られない。また、成長過程は、図5の黒丸プロットを結ぶ線で示すように、Cの溶解度でなく、カーボンの濃度差に起因する拡散現象が律速することになり、Scを混ぜない場合よりも成長速度が速くなる程度に過ぎず、昇華再結晶法に比べて単結晶SiCの生産性は非常に低いという問題があった。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、マイクロパイプ欠陥や界面欠陥等の発生が少ないとともに、純度も高くて非常に高品質、高性能な単結晶SiCを既存の高温熱処理炉内で高速度に成長させることができる単結晶SiCの育成方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る単結晶SiCの育成方法は、種結晶となるSiC単結晶基板にSiC多結晶板を重ね合わせ、その重ね合わせ複合板をグラファイト製容器に収容のSi融液中に浸漬した状態で高温熱処理することにより、SiC多結晶板から流れ出すC原子をSi融液層を通してSiC単結晶基板に供給して、このSiC単結晶基板上にSiC単結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とするものである。
【0008】
上記のような本発明方法によれば、熱処理に伴いSiC単結晶基板とSiC多結晶板との間にSiが表面張力により侵入して界面にSi融液層を形成することになり、SiC多結晶板から流れ出したC原子はSi融液層を通してSiC単結晶基板に供給されて、その単結晶基板上に単結晶SiCとしてエピタキシャル成長する。単なる高温での熱処理による固相エピタキシャル成長である場合は、Siの蒸発によりSiC単結晶基板とSiC多結晶板との界面付近のSiが不足して成長初期段階で界面歪等の多くの欠陥を誘発し、また、成長が進むにつれて多結晶板と成長層との界面に固相成長の阻害要因となる空隙が発生することになる点に着目して、本発明では、Si融液下でのエピタキシャル成長を高温熱処理により行なうことによって、Siが過剰の状態を作り、Siの不足に起因して発生する成長初期段階での歪等の欠陥を低減するとともに、成長層の上端部での空隙の発生もなくすることが可能である。
【0009】
また、本発明方法による成長過程は、多結晶板の表面エネルギーに比例し、結晶粒径の大きいところで成長速度が遅くなるものであって、C原子の拡散現象が成長を律速するものでなく、多結晶板からのC原子の分解流出量による律速であるから、図5の白丸プロットを結ぶ線からも明らかなように、従来のLPE法に比べて成長速度を著しく速くすることが可能である。
【0010】
本発明に係る単結晶SiCの育成方法において、高温熱処理される重ね合わせ複合板として、SiC単結晶基板を二枚のSiC多結晶板で挟み込み保持されたものを用いることにより、上側のSiC多結晶板を単結晶成長のためのC原子の供給源とする一方、下側のSiC多結晶板をSiC単結晶基板のグラファイト製容器からの侵食防止に用いて単結晶SiCの品質を一層向上することができる。
【0011】
また、本発明に係る単結晶SiCの育成方法における熱処理温度としては、2000〜2400℃の範囲に設定されていることが好ましく、2300℃の時、約400μm/hr.の成長速度が得られる。
【0012】
また、本発明の育成方法に使用するSiC多結晶板としては、C軸(111)配向の3C−SiC多結晶板であることが好ましいが、β−SiC多結晶板(220)であってもよい。
【0013】
さらに、本発明に係る単結晶SiCの育成方法では、SiC単結晶基板及びSiC多結晶板の表面を鏡面状に機械研磨して隙間のないように重ね合わせることが好ましいが、研磨しなくても、その界面にSi融液層を形成して上記したとほぼ同様な結晶成長を行なわせることが可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る単結晶SiCの育成方法による単結晶SiC育成に用いられる材料となる複合板の断面図であり、この複合板3は、直径D1が約15mm、厚さt1が260μmで、両面を機械研磨で鏡面状に磨いた種結晶となる6H−SiC単結晶(0001)基板1を、熱CVD法により直径D2が約20mm、厚さt2が650μmに作製され、その両面または片面を機械研磨で鏡面状に磨いたC軸配向の3C−SiC多結晶(111)板2の二枚で挟み込んで、鏡面同士を隙間のないように三層に重ね合わせてなる。
【0015】
上記複合板3を、図2に示すように、小型のグラファイト製坩堝4に収納したSi融液5中に浸漬するように坩堝4内に挿入設置するとともに、この坩堝4を更に大型のグラファイト製坩堝6内に挿入し、かつ、この大型の坩堝6を均熱リング7で囲まれ、上部ヒーター8A、下部ヒーター8B及びリング状断熱材9を有する抵抗加熱式高温炉10中にセットする。
【0016】
この状態で、上部ヒーター8Aおよび下部ヒーター8Bに高周波電流を通して上下に約50〜100℃の温度差をつけて2100〜2350℃の高温で30分〜1時間に亘り加熱し保持するといった高温熱処理を行なうことにより、上部の3C−SiC多結晶板2が6H−SiC単結晶基板1との界面から上方に向かって数100μmの厚さで6H−SiCに単結晶化される。ここで、下部の3C−多結晶板2は6H−SiC単結晶基板1のグラファイト製坩堝4からの侵食を防止するもので、成長単結晶SiCの品質向上に寄与するものである。
【0017】
ところで、Si融液5中での単結晶SiCの成長メカニズムについて簡単に説明すると、熱処理に伴い6H−SiC単結晶基板1と上部の3C−SiC多結晶板2との間にSi融液5が表面張力により侵入して両板1,2の界面にSi融液層を形成することになり、3C−SiC多結晶板2から流れ出したC原子はSi融液層を通して6H−SiC単結晶基板1に供給され、該基板1上に6H−SiC単結晶としてエピタキシャル成長する。このようにSi融液を用いたエピタキシャル成長を高温熱処理により行なう本成長法は、固相成長のメカニズムによるものと推察されるものであり、熱処理の進行に伴ってSiが過剰の状態を作り、通常のSiC雰囲気中で固相エピタキシャル成長させる場合(以下、従来法と称する)にみられるSiの不足に起因する成長初期段階での歪等の欠陥の発生を低減することが可能である。
【0018】
因みに、6H−SiC単結晶基板1と上部の3C−SiC多結晶板2側の単結晶成長層との界面を鋭色検板付き偏向顕微鏡で観察したところ、従来法の場合は、図3(a)に示すように、6H−SiC単結晶基板1と単結晶成長層1´との間に界面歪みと想定される境界線Lが確認されたのに対して、Si融液5中でエピタキシャル成長させる場合(以下、本発明法と称する)は、図3(b)に示すように、界面歪みと想定される境界線が観察されなかった。さらに、本発明法では、単結晶成長層1´と6H−SiC単結晶基板1との濃淡差が従来法よりも大きく、界面歪みが少なく、かつ、純度の高い単結晶が育成されたことを確認できた。
【0019】
また、6H−SiC単結晶の成長が進むにつれて従来法では、その単結晶成長層1´と上部の3C−SiC多結晶板2の多結晶のまま残った層2´との界面付近に成長を阻害する空隙が発生するが、本発明法では、図4の反射顕微鏡写真による断面図に示すように、単結晶成長層1´と多結晶層2´との界面に厚さ20μm程度のSi層5´が介在されており、このSi層5´と単結晶成長層1´との界面はmmオーダーで平坦である一方、多結晶層2´とSi層5´との界面は多結晶の粒形を反映して荒れた形状を呈している。このことから、3C−SiC多結晶板2側の多結晶層2´からSi層5´中に流れ出してエピタキシャル成長するC原子の流出量が結晶粒の表面エネルギーに比例した量、すなわち、結晶粒形の大きいところで成長速度が遅くなることには相違ないが、本発明法は、C原子の拡散現象が成長を律速するものでなく、多結晶層2´からのC原子の分解流出量が律速しているだけであるから、従来のLPE法に比べれば成長速度は著しく速く、実験値で約400μm/hr.の高速成長が可能であることが確認された。
【0020】
なお、上記実施の形態では、上記SiC単結晶基板1として6H型のものを用いたが、4H型のものを使用してもよい。
【0021】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、Si融液を用いたエピタキシャル成長を高温熱処理により行なうことによって、マイクロパイプを引き継がず閉塞することができるのはもとより、Si過剰の状態を作って、Siの不足に起因して成長初期段階で発生する界面歪等の欠陥を低減することができるとともに、成長層の上端部に発生する空隙も抑制することができ、これらの相乗により、高純度で結晶性に優れた高品質高性能のバルク状の単結晶SiCを既存の高温熱処理炉内で育成することができる。しかも、従来のLPE法でみられるようなC原子の拡散現象による成長の律速でなく、多結晶板からのC原子の分解流出量による成長の律速であるために、従来のLPE法に比べて成長速度を著しく速くすることができ、高品質単結晶SiCの育成効率を非常に高くすることができ、したがって、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)などの既存の半導体材料に比べて高温、高周波、耐電圧、耐環境性に優れパワーデバイス、高周波デバイス用半導体材料として期待されている単結晶SiCの実用化を促進することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る単結晶SiCの育成方法による単結晶SiC育成に用いられる材料となる複合板の断面図である。
【図2】同育成方法に使用する装置の概略構成図である。
【図3】(a)本発明法により育成された単結晶SiCにおけるSiC単結晶基板とSiC多結晶板側の単結晶成長層との界面を鋭色検板付き偏向顕微鏡で観察した時の要部の断面図、(b)は従来法により育成された単結晶SiCにおける界面を鋭色検板付き偏向顕微鏡で観察した時の要部の断面図である。
【図4】単結晶成長層と多結晶層との界面を反射顕微鏡で観察した時の要部の断面図である。
【図5】本発明法と従来のLPE法とによる成長速度の比較を示すグラフである。
【符号の説明】
1 6H−SiC単結晶基板(種結晶)
1´ 単結晶成長層
2 3C−SiC多結晶板
2´ 多結晶層
3 複合板
4 グラファイト製坩堝(グラファイト製容器)
5 Si融液
5´ Si層

Claims (4)

  1. 種結晶となるSiC単結晶基板にSiC多結晶板を重ね合わせ、その重ね合わせ複合板をグラファイト製容器に収容のSi融液中に浸漬した状態で高温熱処理することにより、SiC多結晶板から流れ出すC原子をSi融液層を通してSiC単結晶基板に供給して、このSiC単結晶基板上にSiC単結晶をエピタキシャル成長させることを特徴とする単結晶SiCの育成方法。
  2. 上記重ね合わせ複合板が、SiC単結晶基板を二枚のSiC多結晶板で挟み込み保持されたものである請求項1に記載の単結晶SiCの育成方法。
  3. 上記の熱処理温度が、2000〜2400℃の範囲に設定されている請求項1または2に記載の単結晶SiCの育成方法。
  4. 上記SiC多結晶板として、熱CVDにより作成されたC軸配向の多結晶板を使用する請求項1ないし3のいずれかに記載の単結晶SiCの育成方法。
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