JP3540909B2 - 二軸延伸フイルムの製造方法およびそれに使用するテンター装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、フイルムの製造方法およびそれを使用するテンター装置に関し、詳しくは、テンター装置のチェーンに伸びがあっても、工程が安定し、延伸フイルムの熱収縮率などの品質が安定するフイルムの製造方法およびそれに使用することが出来るテンター装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、二軸配向ポリエステルフイルム等の熱可塑性樹脂フイルムは、通常、先ず、熱可塑性樹脂をシート状に溶融押し出しし、急冷して無定形シートを製造し、次いで、ロール延伸機により縦延伸し、テンター装置にて横延伸し、熱処理して製造され、耳部をスリットして製品ロールに巻き取られ、出荷される。
【0003】
この際、シート又はフイルムの速度は、ライン速度として各処理工程毎に設定される。そして、テンター装置におけるライン速度は、通常、前工程の縦延伸工程の出口速度と等しい速度に設定される。
【0004】
テンター装置は、フイルムの両端を把持する多数のクリップがそれぞれチエーン上に搭載されて構成されている。前記のクリップの数は、ラインの長さにもよるが、一般的には数百個である。チェーンは、ローラーを含むローラーリンクがピンリンクプレートとピンにより順に閉曲線状に連結されてフイルム出口側の駆動スプロケットと入口側の自由スプロケット間の無限循環軌道を形成し、駆動スプロケットの歯がローラーに咬み込む方法により駆動される。
【0005】
この様なチェーンは、長期間の使用によるピンやローラーリンクを構成しているブッシュの摩耗および各リンクプレートの伸長により全体として伸長され、チェーン上に搭載されたクリップ間のピッチ間隔が長くなる。このため、チェーンは、通常、上記の摩耗の状況によりピンやブッシュが交換され、伸び量がある程度以上に大きくなった場合は、チェーン自体が交換される。チェーンの伸びが生じた場合は、通常、バネ、荷重テンションまたはエアーシリンダー等により入口側の自由スプロケットの軸固定台の位置を遠ざけることにより弛みが常時緊張される。
【0006】
ところで、フイルムの製造現場では、フイルムの熱収縮性のトラブル及びフイルムのテンター耳処理工程での走行状態不良が生じる場合がある。本発明者は、斯かるトラブルの状況を調査した結果、その原因が、上記チェーンの伸びによりクリップの走行速度(ライン速度)が設定されたライン速度(設定ライン速度)より速くなっている点にあることを見出した。
【0007】
テンター装置工程におけるライン速度は、チエーンの走行速度を指すが、斯かる速度は、スプロケットの回転速度により制御される。前記の回転速度、伸びが生じていない時点のチェーンの長さと設定ライン速度に基づいて決定される。そのため、チェーンのローラー間の各ピッチの長さの伸びが生じた場合、すなわち、チェーンの長さの伸びた場合の実際のライン速度は、その伸びの長さの割合だけ設定ライン速度より速くなって行くものと推察される。従来、これらの伸びに対応するチェーン速度の補正には対応がとられていない。
【0008】
上記の様に、チェーンの伸びが生じた場合のテンター装置における横延伸工程および熱処理工程のライン速度は、縦延伸工程出口速度と等しく設定されているにも拘らず設定ライン速度より実質的に増速されているため、縦延伸工程の設定ライン速度との間に相対速度を生ずる。その結果、フイルムは、その両工程間で強く緊張されて内部に大きい歪みを含むことになり、延伸後のフイルムの縦方向収縮特性に影響を受けることが判った。
【0009】
また、テンター装置により延伸され熱処理されたフイルムは、通常、引き続いて引取ロールにより引取られ、この工程で両端の耳部などがスリットされつつ巻き取られる。その際、引取ロール速度は設定ライン速度で駆動されてテンター装置出口速度との間に速度差を生じるため、上記の耳処理工程はフイルムに弛みが生じフイルム走行が不安定になり易い。したがって、常時フイルムの弛みに留意し、弛みが生じた場合は手動で速度調節する必要がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、横延伸にテンター装置を使用するフイルム横延伸工程において、チェーンの伸びがあってもライン速度を設定ライン速度に維持して工程および品質(特に縦方向の熱収縮特性)が安定したフイルムの製造方法およびそれに使用することが出来るテンター装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1の要旨は、チェーンを駆動するスプロケットの回転速度によりライン速度が制御されるテンター装置による横延伸を含む二軸延伸フイルムの製造方法において、テンター装置のチェーンの伸びにより生ずるライン速度の速度差を補正するにあたり、入口スプロケットの軸固定台の変位の大きさをチェーンの伸びに換算し、当該チェーンの伸び量に基づき、以下のライン速度(A)に対するライン速度差を算出し、その速度差に応じて出口スプロケットの回転速度を減速することにより、ライン速度の速度差を相殺することを特徴とする二軸延伸フイルムの製造方法に存する。
ライン速度(A):出口スプロケットの回転速度、スプロケットの歯数、および、伸びがない新設時のチェーンのローラー間のピッチ長さの積により算出されるライン速度。
【0012】
そして、本発明の第2の要旨は、チェーンを駆動するスプロケットの回転速度によりライン速度が制御されるフイルムの横延伸に使用されるテンター装置において、出口スプロケットの回転速度、スプロケットの歯数、および、伸びがない新設時のチェーンのローラー間のピッチ長さの積によりライン速度を算出して設定するライン速度設定装置と、入口スプロケットの軸固定台の変位の大きさをチェーンの伸びに換算するチェーンの伸び測定装置と、当該伸び測定装置により測定された伸び量に基づいてチェーンの伸びによる速度差を補正する速度補正装置とを具備し、当該速度補正装置は、ライン速度設定装置によって設定されるライン速度に対し、チェーンの伸び量からライン速度差を算出し、その速度差に応じて出口スプロケットの回転速度を減速することにより、ライン速度の速度差を相殺する様になされていることを特徴とするテンター装置に存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のフイルムの製造方法およびそれに使用することが出来る装置を添付図面を使用して詳細に説明するが、その要旨を超えない限り、以下の図面の例に限定されるものではない。図1は本発明のフイルムの製造方法に使用できるテンター装置の構成の特徴および前後の設備の配置関係の概略説明図である。
【0014】
本発明のフイルムの製造方法は、チェーン(21)を駆動するスプロケット(22又は23)の回転速度によりライン速度が制御されるテンター装置(2)による横延伸を含む二軸延伸フイルムの製造方法において、テンター装置(2)のチェーン(21)の伸びにより生ずるライン速度の速度差を相殺する様に補正することを特徴とする。
【0015】
本発明において延伸して製造されるフイルムとしては、熱可塑性樹脂を使用した二軸延伸フイルムであれば特に制限されない。前記の熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレンを代表とするポリオレフィン、および、ポリアミドが挙げられる。
【0016】
前記の二軸延伸フイルムは、通常、上記の熱可塑性樹脂を溶融混練してシート状に押し出しし、急冷して実質的に無定形シートとした後、ロール延伸機(1)及びテンター装置(2)を使用して、それぞれ縦延伸および横延伸して製造される。この様にして延伸して得られる延伸フイルムの厚さは、通常100μm以下である。
【0017】
上記の二軸延伸フイルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフイルムである場合は、通常、ポリエチレンテレフタレート樹脂を280〜320℃で溶融混練してシート状に押し出しし、急冷して実質的に無定形シートとする。そして、得られた無定形シートを、先ず、ロール延伸機(1)を使用して70〜150℃で縦方向に2〜6倍に延伸し、次いで、テンター装置(2)の延伸ゾーンで80〜180℃で横に2〜6倍に延伸し、さらに、必要により熱処理ゾーンで150〜250℃且つ1〜300秒熱固定処理する。熱固定処理の際、フイルムを0.1〜20%弛緩させる条件が好ましく併用される。
【0018】
本発明のフイルム製造方法におけるシート又はフイルムの速度は、ライン速度として各処理工程毎に設定される。そして、テンター装置(2)におけるライン速度は、通常、前工程の縦延伸工程(1)の終了後の速度と連動して等しく設定される。そして、テンター装置におけるフイルムの走行速度すなわち実際のライン速度は、テンター装置(2)のチェーン(21)の伸びがあっても前記の設定ライン速度と等しくなる様に補正される。
【0019】
チェーン(21)の伸びがあっても実際のライン速度が設定ライン速度と等しくなる様に補正されるテンター装置(2)としては、特に限定されないが、その一例を以下に説明する。斯かるテンター装置(2)は、ライン速度がチェーン(21)を駆動するスプロケット(22又は23)の回転速度により制御され、且つ、ライン速度設定装置(25)とチェーンの伸び測定装置(27)と当該伸び測定装置(27)により測定された伸び量に基づいてチェーンの伸びによる速度差を相殺する様に補正することが出来る速度補正装置(26)とを具備する。
【0020】
上記のテンター装置(2)の本体は、公知のものが使用可能であり、その基本構成には、装置の左右両側の入口部と出口部に設置されたスプロケット(22及び23)間を左右それぞれにチエーン(21)が循環して配置されている。
【0021】
テンター装置(2)の入口部または出口部のスプロケット(22又は23)の内、少なくとも一方、通常、出口スプロケット(23)は、スプロケット駆動装置(24)により回転駆動され、チェーン(21)の各ローラーに咬み込むことによりチェーン(21)を駆動する。以下の説明では、出口スプロケット(23)が回転駆動され、入口スプロケット(22)は自由回転であるものとする。
【0022】
チェーン(21)に伸びが生じた場合の弛みは、入口部の入口スプロケット(22)の軸固定台の位置を荷重テンションにより遠ざけることにより緊張される。テンター装置(2)は、必要に応じて全長を複数のブロックに分割し、各ブロックの雰囲気温度を必要に応じて調節することが出来る。
【0023】
また、両側の各チェーン(21)上には、フイルム把持用の多数のクリップが等間隔に搭載されており、チェーン(21)自体は、横延伸区間において両側のチェーン間の距離が機械的に広げられつつ進行し、その上に搭載されているクリップに把持されているフイルムを拡幅する。
【0024】
テンター装置(2)工程におけるライン速度は、ライン速度設定装置(25)により設定されるライン速度に基づき算出される出口スプロケット(23)の回転速度により決定される。その回転速度の算出は、出口スプロケット(23)の回転速度、スプロケットの歯数、および、使用による伸びがない新設時のチェーン(21)のローラー間のピッチ長さの積がライン速度に等しくなる様に決定される。斯かるライン速度設定装置(25)の設定方法および出口スプロケット(23)の回転を制御する方法は公知の方法を使用することが出来る。
【0025】
また、前記の伸び測定装置(27)は、チェーン(21)の伸び量を測定する装置である。その伸び量の測定方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記の入口スプロケット(22)軸固定台位置のチェーン(21)新設の当初位置からの変位を検知する方法が挙げられる。
【0026】
上記の変位の検知方法としては、特に限定されず、例えば、変位を機械的に目盛り表示するもの、光学式のもの、電磁気的なものでもよい。具体例として、伸び測定装置(27)として差動トランスを上記の入口スプロケット(22)軸固定台に接続する方法を挙げることが出来る。この場合、変位の大きさを起電力として出力することが出来、伸び測定装置(27)においてチェーンの伸びに換算することが出来る。
【0027】
また、速度補正装置(26)は、前記の伸び測定装置(27)からフィードバックされるチェーン(21)の伸び量から次式に基づきライン速度差を算出し、その速度差に応じて出口スプロケット(23)の回転速度を減速して相殺する様に補正する。その結果、ライン速度は設定値通りの速度に維持される。斯かる速度補正装置(26)の機構としては公知のものを使用することが出来る。
【0028】
【数1】
ΔV= V×(ΔL/L)
【0029】
但し、ΔVは伸びによるライン速度差、Vは設定されたライン速度、ΔLはチェーン(21)の伸び量、Lは当初のチェーン(21)の長さを示す。
【0030】
この結果、本発明においては、縦延伸工程(1)出口部のライン速度とテンター装置(2)のライン速度との速度差は生じないため、この区間における延伸は起らず、得られる延伸フイルムは内部歪みが無く、設定条件どおりの縦延伸倍率および横延伸倍率に延伸される。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1
平均粒径1.3μmの無定型シリカ0.2重量%を有するポリエチレンテレフタレートを285℃で溶融押し出しし、30℃の冷却ドラム上にキャストして急冷することにより厚さ173μm無定形シートを得た。得られた無定形シートを先ず、ロール延伸機(1)を使用して縦方向に延伸し、次いで、テンター装置(2)を使用して二軸延伸ポリエステルフイルムを製造した。
【0033】
前記の縦方向の延伸は、ライン速度設定装置(25)によりライン速度を81m/min、引張速度を300m/minに設定し、105℃で縦方向に3.70倍の延伸倍率で行った。
【0034】
使用したテンター装置(2)の両側の各チェーン(21)の新設当初の長さは、左右それぞれ35mであり、チェーンの上にクリップが125mmピッチで280個搭載されている。その後、延べ17万Kmの走行した結果、この延伸時のチェーンの長さは、入口スプロケット(22)軸固定台に接続した差動トランスを使用した伸び測定装置(27)の表示目盛によれば、新設当初から120mm伸びていた。
【0035】
前記の横方向の延伸は、140℃で横方向に延伸倍率3.90倍で行った。その際、上記のテンター装置(2)のライン速度設定装置(25)によりライン速度を300m/minに設定し、伸び測定装置(27)及び速度補正装置(26)を作動させてライン速度を補正した。延伸したフイルを引き続き220℃で2秒間熱処理を行ない、引取ロール(3)を経て両端耳部をスリットしつつ巻取装置(4)において巻き取り、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート二軸延伸フイルムロールを得た。
【0036】
上記の横方向の延伸中のライン速度は、実測によれば、上記の様にチェーン(21)の伸びがあるにも拘らず設定どおり300m/minであった。得られたフイルムの180℃×3分条件で測定した縦方向の熱収縮率は、1.9%であり、商品としての管理限界2.2%以内に入っていた。
【0037】
比較例1
実施例1において、テンター装置(2)の伸び測定装置(27)及び速度補正装置(26)を作動させなかった以外は実施例1と同様にして二軸延伸を行った。横方向の延伸中のライン速度を実測したところ、301m/minであり、ロール延伸機(1)出口におけるフイルム速度とテンター装置(2)延伸工程入口におけるフイルム速度との間に1m/minの速度差があった。得られたフイルムの180℃×3分条件で測定した縦方向の熱収縮率は、速度差が僅か1m/minであったにも拘らず2.3%と大きく、商品としての管理限界2.2%を超えていた。
【0038】
【発明の効果】
以上、説明した本発明によれば、テンター方式を使用するフイルム横延伸工程において、チェーンの伸びがあっても、フイルム走行速度すなわちライン速度を設定ライン速度に維持し得るテンター装置、および、それを使用した品質(特に縦方向の熱収縮特性)が安定したフイルムの製造方法を提供することが可能であり、その結果、フイルムの品質を高い水準に維持する事が出来るため、本発明の工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のフイルムの製造方法に使用できるテンター装置の構成の特徴および前後の設備の配置関係の概略説明図
【符号の説明】
1:縦延伸工程(ロール延伸機)
2:テンター装置
21:チェーン
22:入口スプロケット
23:出口スプロケット
24:スプロケット駆動装置
25:ライン速度設定装置
26:速度補正装置
27:伸び測定装置
3:引取ロール
4:巻取装置
Claims (2)
- チェーンを駆動するスプロケットの回転速度によりライン速度が制御されるテンター装置による横延伸を含む二軸延伸フイルムの製造方法において、テンター装置のチェーンの伸びにより生ずるライン速度の速度差を補正するにあたり、入口スプロケットの軸固定台の変位の大きさをチェーンの伸びに換算し、当該チェーンの伸び量に基づき、以下のライン速度(A)に対するライン速度差を算出し、その速度差に応じて出口スプロケットの回転速度を減速することにより、ライン速度の速度差を相殺することを特徴とする二軸延伸フイルムの製造方法。
ライン速度(A):出口スプロケットの回転速度、スプロケットの歯数、および、伸びがない新設時のチェーンのローラー間のピッチ長さの積により算出されるライン速度。 - チェーンを駆動するスプロケットの回転速度によりライン速度が制御されるフイルムの横延伸に使用されるテンター装置において、出口スプロケットの回転速度、スプロケットの歯数、および、伸びがない新設時のチェーンのローラー間のピッチ長さの積によりライン速度を算出して設定するライン速度設定装置と、入口スプロケットの軸固定台の変位の大きさをチェーンの伸びに換算するチェーンの伸び測定装置と、当該伸び測定装置により測定された伸び量に基づいてチェーンの伸びによる速度差を補正する速度補正装置とを具備し、当該速度補正装置は、ライン速度設定装置によって設定されるライン速度に対し、チェーンの伸び量からライン速度差を算出し、その速度差に応じて出口スプロケットの回転速度を減速することにより、ライン速度の速度差を相殺する様になされていることを特徴とするテンター装置。
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